Selmer群(Selmer group)とは、数体 $K$ 上の楕円曲線 $E$ と整数 $n\ge2$ について、$H^1(K,E[n])$ の元のうち、すべての完備化 $K_v$ の上では $E(K_v)$ の点から来ているものの全体 $\mathrm{Sel}^{(n)}(E/K)$ のことである。$E(K)/nE(K)$ を部分群として含み、その商は Tate–Shafarevich 群の $n$ 捩れ部分であり、局所的な条件だけで決まるので有限回の計算で求められる。そのため Mordell–Weil 群の階数の計算可能な上界を与える。$\mathbb{Q}$ 上で 2 等分点がすべて有理的な曲線の 2-Selmer 群は、平方類の組と 2 次曲面の交わりの局所可解性で具体的に書ける。
前提知識: Galoisコホモロジー, 楕円曲線, Mordell–Weilの定理
楕円曲線 $E$ の有理点の群 $E(\mathbb{Q})$ を求めるとき、最初の関門は $E(\mathbb{Q})/2E(\mathbb{Q})$ を決めることである。Mordell–Weilの定理 の証明では、$E(\mathbb{Q})/2E(\mathbb{Q})$ を平方類の組のなす有限群 $H_D$ に埋め込んだが、$H_D$ は大きすぎて、どの元が実際に有理点から来るかは分からない。Selmer 群は、各素数 $p$ についての $p$ 進数体 $\mathbb{Q}_p$ と実数体 $\mathbb{R}$ の上の条件(局所的な条件)だけで候補を絞った群であり、有限回の計算で求められる。Selmer 群は $E(\mathbb{Q})/2E(\mathbb{Q})$ を含み、その差は Tate–Shafarevich群 の $2$ 捩れ部分で測られる。したがって Selmer 群の位数は階数の計算可能な上界を与え、差が $0$ と分かれば階数が決まる。この記事では、Selmer 群を Galois コホモロジーで定義し、2 等分点がすべて有理的な曲線の 2-Selmer 群を平方類と 2 次曲面の交わりで具体的に書き、例を計算する。
$K$ を代数体、$v$ を $K$ の素点(有限素点とアルキメデス素点)、$K_v$ を $v$ での完備化とする($K=\mathbb{Q}$ では $\mathbb{Q}_v$ は $p$ 進数体 $\mathbb{Q}_p$ か $\mathbb{R}$)。$E$ を $K$ 上の楕円曲線、$n\ge2$ を整数とし、$E[n]:=E(\bar K)[n]$ を $n$ 等分点のなす有限群とする。$H^1(K,M)$ は離散 $G_K$ 加群 $M$ の連続な 1 次 Galoisコホモロジー、$H^1(K,E):=H^1(K,E(\bar K))$ である。$n$ 倍写像 $E(\bar K)\to E(\bar K)$ は全射で、その核が $E[n]$ なので(Mil06 第 IV 章 Lemma 2.1、p.108)、長完全列から Kummer 列
$$
0\to E(K)/nE(K)\xrightarrow{\ \delta\ }H^1(K,E[n])\to H^1(K,E)[n]\to0
$$
が得られる(Tate–Shafarevich群 の節「捩れ群であることと Selmer 群との完全列」)。連結写像 $\delta$ は、$P\in E(K)$ に対して $nQ=P$ となる $Q\in E(\bar K)$ を 1 つ選び、$\sigma\mapsto\sigma(Q)-Q\in E[n]$ の類を対応させる写像である($Q$ の選び方によらない。Mil06 第 IV 章 Proposition 1.5、p.104)。これを Kummer 写像という。各素点 $v$ でも同じ列があり、$G_{K_v}\subset G_K$ への制限と両立する。
$K$ 上の楕円曲線 $E$ と $n\ge2$ について、$E$ の $n$-Selmer 群(Selmer group)とは
$$
\mathrm{Sel}^{(n)}(E/K):=\ker\Bigl(H^1(K,E[n])\to\prod_vH^1(K_v,E)\Bigr)
$$
のことである。ここで右への写像は、制限写像 $H^1(K,E[n])\to H^1(K_v,E[n])$ と $H^1(K_v,E[n])\to H^1(K_v,E)$ の合成で、$v$ は $K$ のすべての素点を走る。
局所的な Kummer 列の完全性により、$H^1(K_v,E[n])\to H^1(K_v,E)$ の核は $\delta_v(E(K_v)/nE(K_v))$ である。したがって
$$
\mathrm{Sel}^{(n)}(E/K)=\bigl\{\xi\in H^1(K,E[n])\ \bigm|\ \text{すべての }v\text{ で }\mathrm{res}_v(\xi)\in\delta_v\bigl(E(K_v)/nE(K_v)\bigr)\bigr\}
$$
と言い換えられる。すなわち Selmer 群は「すべての完備化の上では点から来ている類」の全体である。記号は Tate–Shafarevich群 の定義「Selmer 群」(アーベル多様体 $A$ に対する $\mathrm{Sel}^{(n)}(A/K)$)に合わせた。Mil06 第 IV 章 §2(p.109)では $S^{(n)}(E/\mathbb{Q})$ と書く。
大域と局所の Kummer 列の関係を図式で書くと次のとおりである(縦の写像は制限、$\prod$ はすべての素点にわたる)。
$$
\xymatrix{
0 \ar[r] & E(K)/nE(K) \ar[r]^-{\delta} \ar[d] & H^1(K,E[n]) \ar[r] \ar[d]^{\mathrm{res}} & H^1(K,E)[n] \ar[r] \ar[d] & 0 \\
0 \ar[r] & \prod_v E(K_v)/nE(K_v) \ar[r]^-{\prod\delta_v} & \prod_v H^1(K_v,E[n]) \ar[r] & \prod_v H^1(K_v,E)[n] \ar[r] & 0
}
$$
図式が可換であるとは、$\mathrm{res}_v\circ\delta=\delta_v\circ(E(K)/nE(K)\to E(K_v)/nE(K_v))$ と、右の四角形の同様の等式が成り立つことである。$\mathrm{Sel}^{(n)}(E/K)$ は、中央の縦の写像で下の行の左の項の像に入る元の全体であり、$Ш(E/K)[n]$ は右の縦の写像の核である。
アーベル群の完全列
$$
0\to E(K)/nE(K)\xrightarrow{\ \delta\ }\mathrm{Sel}^{(n)}(E/K)\to Ш(E/K)[n]\to0
$$
がある。ここで $Ш(E/K)$ は $E$ の Tate–Shafarevich群 である。
証明は Tate–Shafarevich群 の定理「Selmer 群と Tate–Shafarevich 群の完全列」(一般のアーベル多様体 $A$ について、上の図式の追跡で示している)で $A=E$ としたものである(Mil06 第 IV 章 (23)、p.110 も同じ)。また $\mathrm{Sel}^{(n)}(E/K)$ は有限群である(Tate–Shafarevich群 の定理「Selmer 群の有限性」、Mil06 第 IV 章 Theorem 3.1、p.110)。この記事では、$K=\mathbb{Q}$、$n=2$ で 2 等分点がすべて有理的な場合に、有限性を具体的な形で証明する(thm-sel-concrete)。
この完全列から、$E(K)/nE(K)$ は有限であり(弱 Mordell–Weil の定理)、Selmer 群の位数が $E(K)/nE(K)$ の位数の上界を与える。$H^1(K,E[n])$ 自体は一般に無限群なので(ex-sel-no-local)、局所的な条件が有限性の源である。
以下、$K$ は標数 $0$ の体($\mathbb{Q}$、$\mathbb{Q}_p$、$\mathbb{R}$ など)、$\bar K$ はその代数閉包、$G_K=\operatorname{Gal}(\bar K/K)$ とする(絶対Galois群)。$\mu_2=\{\pm1\}$ には $G_K$ が自明に作用するので、$H^1(K,\mu_2)$ は連続準同型 $G_K\to\mu_2$ の群である(Galoisコホモロジー の例「自明な作用の1次コホモロジー」)。
$d\in K^\times$ に対し、$\sqrt d\in\bar K$ を 1 つ選んで
$$
\chi_d(\sigma):=\frac{\sigma(\sqrt d)}{\sqrt d}\in\mu_2\qquad(\sigma\in G_K)
$$
とおく。$\chi_d$ は $\sqrt d$ の選び方によらない連続準同型であり、$d\mapsto\chi_d$ は同型
$$
K^\times/K^{\times2}\xrightarrow{\ \sim\ }H^1(K,\mu_2)=\operatorname{Hom}_{\mathrm{cont}}(G_K,\mu_2)
$$
を与える。$K\subset L$ が標数 $0$ の体の拡大で $\bar K\subset\bar L$ とするとき、この同型は自然な写像 $K^\times/K^{\times2}\to L^\times/L^{\times2}$ と制限写像 $H^1(K,\mu_2)\to H^1(L,\mu_2)$ を対応させる。
要点:$\sigma(\sqrt d)=\pm\sqrt d$ なので $\chi_d$ は $\mu_2$ に値をとる準同型で、$\chi_d=1$ は $\sqrt d\in K$ と同値である。逆に $0$ でない連続準同型の核の固定体は 2 次拡大 $K(\sqrt d)$ で、その準同型は $\chi_d$ に一致する。
$\sigma(\sqrt d)^2=\sigma(d)=d$ だから $\sigma(\sqrt d)=\pm\sqrt d$ で、$\chi_d(\sigma)\in\mu_2$ である。$\sqrt d$ を $-\sqrt d$ に替えても比は変わらない。$\chi_d(\sigma\tau)=\frac{\sigma(\tau(\sqrt d))}{\sqrt d}=\frac{\sigma(\chi_d(\tau)\sqrt d)}{\sqrt d}=\chi_d(\tau)\chi_d(\sigma)$ なので準同型であり、$\chi_d$ は $K(\sqrt d)$ を固定する開部分群の上で $1$ なので連続である。$\sqrt{dd'}$ として $\sqrt d\sqrt{d'}$ をとれば $\chi_{dd'}=\chi_d\chi_{d'}$ となり、$d\mapsto\chi_d$ は準同型である。
核:$\chi_d=1$ は $\sqrt d$ が $G_K$ のすべての元で固定されること、すなわち $\sqrt d\in K$(Galois 理論で $G_K$ の固定体は $K$)と同値で、これは $d\in K^{\times2}$ を意味する。全射:$\chi\ne1$ を連続準同型とすると、$\ker\chi$ は指数 $2$ の開部分群で、その固定体 $L$ は $K$ の 2 次拡大である(Galois群 の Galois 対応)。標数が $2$ でないので $L=K(\sqrt d)$ と書け、$\chi_d$ と $\chi$ はともに核が $\ker\chi$ の $\mu_2$ への全射準同型だから一致する。最後の主張は、$\sqrt d\in\bar K\subset\bar L$ を $L$ の側でも使えば、$G_L\to G_K$ への制限で $\chi_d$ がそのまま $L$ 上の $\chi_d$ になることから従う。$\square$
この同型は、Galoisコホモロジー の命題「1の $n$ 乗根の係数のコホモロジー」の $n=2$ の場合を、指標の形で具体的に書いたものである(Mil06 第 IV 章 Example 1.8 (b)、p.106–107)。$K=\mathbb{Q}$ では $\mathbb{Q}^\times/\mathbb{Q}^{\times2}$ は $-1$ と素数の類で生成される無限群であり、$K=\mathbb{R}$ では $\mathbb{R}^\times/\mathbb{R}^{\times2}=\{\pm1\}$ である。
以下、$e_1,e_2,e_3\in K$ を相異なる元とし、
$$
E\colon y^2=(x-e_1)(x-e_2)(x-e_3),\qquad T_i=(e_i,0)
$$
とする。$E[2]=\{O,T_1,T_2,T_3\}$ の元はすべて $K$ 有理的なので、$G_K$ は $E[2]$ に自明に作用する。Mordell–Weilの定理 の定義「平方類への写像 $\varphi$」の $\varphi_K\colon E(K)\to(K^\times/K^{\times2})^3$ と、その像が入る群
$$
H(K):=\{(d_1,d_2,d_3)\in(K^\times/K^{\times2})^3\mid d_1d_2d_3=1\}
$$
を使う。$E[2]$ を符号の組と同一視する同型
$$
\iota\colon E[2]\xrightarrow{\ \sim\ }\mu_2^{3,1}:=\{(\varepsilon_1,\varepsilon_2,\varepsilon_3)\in\mu_2^3\mid\varepsilon_1\varepsilon_2\varepsilon_3=1\},\qquad T_1\mapsto(1,-1,-1),\ T_2\mapsto(-1,1,-1),\ T_3\mapsto(-1,-1,1)
$$
を固定する($T_1+T_2=T_3$ と $(1,-1,-1)(-1,1,-1)=(-1,-1,1)$ が対応するので群の同型である)。prop-sel-kummer を成分ごとに使うと
$$
H^1(K,E[2])\xrightarrow[\ \iota_*\ ]{\sim}H^1(K,\mu_2^{3,1})=\{(\chi_1,\chi_2,\chi_3)\mid\chi_1\chi_2\chi_3=1\}\cong H(K)
$$
となる(最後の同型は $(d_1,d_2,d_3)\mapsto(\chi_{d_1},\chi_{d_2},\chi_{d_3})$ で、$\chi_{d_1}\chi_{d_2}\chi_{d_3}=\chi_{d_1d_2d_3}$ が $1$ であることと $d_1d_2d_3=1$ が同値)。以下この合成で $H^1(K,E[2])=H(K)$ と同一視する。
上の同一視のもとで、Kummer 写像 $\delta\colon E(K)/2E(K)\to H^1(K,E[2])=H(K)$ は $\varphi_K$ に等しい。
要点:$2Q=P$ となる $Q$ として Mordell–Weilの定理 の補題「半分の点の公式」の $Q_s$($s_i^2=x_0-e_i$)をとる。$\sigma\in G_K$ は $s_i$ を $\chi_{d_i}(\sigma)s_i$ に変えるので $\sigma(Q_s)=Q_{\sigma(s)}$ となり、同じ補題の後半から $\sigma(Q)-Q=\iota^{-1}(\chi_{d_1}(\sigma),\chi_{d_2}(\sigma),\chi_{d_3}(\sigma))$ が出る。$P=T_i$ のときは $s_i=0$ とし、第 $i$ 成分の符号を他の 2 つの積で補う。
$\delta(O)=0$、$\varphi(O)=(1,1,1)$ である。$P=(x_0,y_0)\ne O$ とする。
$P\ne T_1,T_2,T_3$ のとき、$d_i:=x_0-e_i\ne0$ とし、$s_i\in\bar K$ を $s_i^2=d_i$、$s_1s_2s_3=y_0$ となるようにとる($(s_1s_2s_3)^2=y_0^2$ なので $s_1$ の符号で調整できる)。Mordell–Weilの定理 の補題「半分の点の公式」を体 $\bar K$ で使うと、$Q:=Q_s\in E(\bar K)$ は $2Q=P$ を満たす。$Q_s$ の座標は $s_1,s_2,s_3$ の $K$ 係数の多項式なので、$\sigma\in G_K$ について $\sigma(Q_s)=Q_{\sigma(s)}$ であり、$\sigma(s_i)=\chi_{d_i}(\sigma)s_i$ である。$\sigma(s_1s_2s_3)=s_1s_2s_3$ から $\varepsilon:=(\chi_{d_1}(\sigma),\chi_{d_2}(\sigma),\chi_{d_3}(\sigma))\in\mu_2^{3,1}$ で、同じ補題の後半により $$\sigma(Q)-Q=Q_{(\varepsilon_1s_1,\varepsilon_2s_2,\varepsilon_3s_3)}-Q_s=\iota^{-1}(\varepsilon)$$ である($\varepsilon=(1,1,1)$ なら $O$、$(1,-1,-1)$ なら $T_1$、など)。よって $\iota_*\delta(P)=(\chi_{d_1},\chi_{d_2},\chi_{d_3})$ で、これは $(d_1,d_2,d_3)=\varphi(P)$ に対応する。
$P=T_1$ のとき、$d_2:=e_1-e_2$、$d_3:=e_1-e_3$ とし、$s_1=0$、$s_2^2=d_2$、$s_3^2=d_3$ ととる($s_1s_2s_3=0=y_0$)。上と同じく $\sigma(Q_s)=Q_{(0,\chi_{d_2}(\sigma)s_2,\chi_{d_3}(\sigma)s_3)}$ であり、第 1 成分の符号を $\varepsilon_1:=\chi_{d_2}(\sigma)\chi_{d_3}(\sigma)$ とおけば $(0,\ldots)=(\varepsilon_1\cdot0,\ldots)$ と書けるので、補題の後半から $\sigma(Q)-Q=\iota^{-1}(\chi_{d_2d_3}(\sigma),\chi_{d_2}(\sigma),\chi_{d_3}(\sigma))$ である。これは $\bigl(d_2d_3,d_2,d_3\bigr)=\bigl((e_1-e_2)(e_1-e_3),e_1-e_2,e_1-e_3\bigr)=\varphi(T_1)$ に対応する。$T_2,T_3$ も同じである。$\square$
この定理により、Mordell–Weilの定理 で初等的に定めた $\varphi$ が、Galois コホモロジーの Kummer 写像の具体形であることが分かる。とくに $\varphi_K$ が準同型で核が $2E(K)$ であることは、Kummer 列の完全性からも従う。
$\varphi_K$ の像に入るかどうかは、ある曲線が $K$ 点をもつかどうかで判定できる。$d=(d_1,d_2,d_3)$ を $K^\times$ の元の組で $d_1d_2d_3\in K^{\times2}$ となるものとし、射影空間 $\mathbb{P}^3$(座標 $z_1,z_2,z_3,w$)の中の 2 つの 2 次曲面の交わり
$$
C_d\colon\quad d_1z_1^2-d_2z_2^2=(e_2-e_1)w^2,\qquad d_1z_1^2-d_3z_3^2=(e_3-e_1)w^2
$$
を考える。$w=1$ の部分は連立方程式 $x-e_i=d_iz_i^2$($i=1,2,3$)で $x$ を消去したものである。$d_i$ を平方倍しても $z_i$ の取り替えで同型な曲線になるので、「$C_d$ が $K$ 点をもつか」は平方類の組 $d\in H(K)$ だけで決まる。
$d\in H(K)$ について、$d\in\varphi_K(E(K))$ であることと $C_d(K)\ne\emptyset$ は同値である。
要点:$d=\varphi(P)$ なら $x(P)-e_i=d_iz_i^2$ を解いて $C_d$ の点が得られ($P=O$ は $w=0$ の点、$P=T_i$ は $z_i=0$ の点に対応する)、逆に $C_d$ の点 $(z_1:z_2:z_3:1)$ からは $x=e_1+d_1z_1^2$ を $x$ 座標とする $E(K)$ の点が得られる。
$d=\varphi(P)$ とする。$P=O$ なら $d=(1,1,1)$ で、代表を $1$ にとれば $(1:1:1:0)\in C_d(K)$ である。$P=(x,y)$、$x\ne e_i$ なら、$x-e_i=d_it_i^2$($t_i\in K^\times$)と書けて $(t_1:t_2:t_3:1)\in C_d(K)$ である。$P=T_1$ なら $d_2\equiv e_1-e_2$、$d_3\equiv e_1-e_3$ なので $d_2t_2^2=e_1-e_2$、$d_3t_3^2=e_1-e_3$ となる $t_2,t_3$ があり、$(0:t_2:t_3:1)\in C_d(K)$ である($T_2,T_3$ も同じ)。
逆に $(z_1:z_2:z_3:w)\in C_d(K)$ とする。$w=0$ なら $d_1z_1^2=d_2z_2^2=d_3z_3^2$ で、$z_i$ のどれかが $0$ なら全部 $0$ になるので、すべて $0$ でない。よって $d_1\equiv d_2\equiv d_3$ で、$d_1d_2d_3=1$ から $d_1^3\equiv d_1\equiv1$、すなわち $d=(1,1,1)=\varphi(O)$ である。$w\ne0$ なら $w=1$ としてよく、$x:=e_1+d_1z_1^2$ とおくと $x-e_i=d_iz_i^2$($i=1,2,3$)で、$(x-e_1)(x-e_2)(x-e_3)=d_1d_2d_3(z_1z_2z_3)^2$ は $K$ の平方だから、$P=(x,y)\in E(K)$ となる $y$ がある。$z_1z_2z_3\ne0$ なら $\varphi(P)=d$ である。$z_1=0$ なら $x=e_1$、$P=T_1$ で、$z_2,z_3\ne0$ であり($e_i$ は相異なる)、$\varphi_1(T_1)=(e_1-e_2)(e_1-e_3)=d_2d_3(z_2z_3)^2\equiv d_2d_3\equiv d_1$、$\varphi_2(T_1)=e_1-e_2=d_2z_2^2\equiv d_2$、$\varphi_3(T_1)\equiv d_3$ なので $\varphi(T_1)=d$ である。$\square$
$C_d$ は、$E$ の 2 倍写像による「降下」で現れる曲線で、2 次曲面の交わりとして具体的に書けることがこの方法の利点である。
ここからは $K=\mathbb{Q}$、$e_1,e_2,e_3$ を相異なる整数とし、Mordell–Weilの定理 と同じく $D:=(e_1-e_2)(e_2-e_3)(e_3-e_1)$、$G_D:=\langle-1,\ p\ (p\mid D)\rangle\subset\mathbb{Q}^\times/\mathbb{Q}^{\times2}$、$H_D:=\{d\in G_D^3\mid d_1d_2d_3=1\}$ とおく。$\mathbb{Q}$ の代数閉包を各 $\mathbb{Q}_v$ の代数閉包に埋め込んでおく。
$H^1(\mathbb{Q},E[2])=H(\mathbb{Q})$ の同一視のもとで
$$
\mathrm{Sel}^{(2)}(E/\mathbb{Q})=\bigl\{d\in H(\mathbb{Q})\ \bigm|\ \text{すべての素数 }p\text{ と }v=\infty\text{ で }C_d(\mathbb{Q}_v)\ne\emptyset\bigr\}
$$
が成り立つ。さらに $\mathrm{Sel}^{(2)}(E/\mathbb{Q})\subset H_D$ であり、とくに $\mathrm{Sel}^{(2)}(E/\mathbb{Q})$ は位数 $2^{2s+2}$ 以下の有限群である($s$ は $D$ の素因数の個数)。
Selmer 群の言い換え(def-sel の直後)により、$\xi\in\mathrm{Sel}^{(2)}(E/\mathbb{Q})$ はすべての $v$ で $\mathrm{res}_v(\xi)\in\delta_v(E(\mathbb{Q}_v))$ となることと同値である。thm-sel-kummer-phi を $K=\mathbb{Q}$ と $K=\mathbb{Q}_v$ で使い、prop-sel-kummer の最後の主張により $\mathrm{res}_v$ が自然な写像 $H(\mathbb{Q})\to H(\mathbb{Q}_v)$ に対応することを使うと、条件は「$d$ の $H(\mathbb{Q}_v)$ での像が $\varphi_{\mathbb{Q}_v}(E(\mathbb{Q}_v))$ に入る」となり、lem-sel-quadrics により $C_d(\mathbb{Q}_v)\ne\emptyset$ と同値である。
有限性:$d\in\mathrm{Sel}^{(2)}(E/\mathbb{Q})$ と $D$ を割らない素数 $p$ をとる。上により $d\equiv\varphi_{\mathbb{Q}_p}(P)$($\mathbb{Q}_p^{\times2}$ を法として)となる $P\in E(\mathbb{Q}_p)$ がある。Mordell–Weilの定理 の命題「像は $D$ の素因数で書ける」の付値の議論は、$x\in\mathbb{Q}_p$ でも($e_i\in\mathbb{Z}\subset\mathbb{Z}_p$ で $p\nmid e_i-e_j$ なので)そのまま成り立ち、$\operatorname{ord}_p\varphi_i(P)$ は偶数である。$\mathbb{Q}_p^{\times2}$ の元の付値は偶数なので $\operatorname{ord}_p(d_i)$ も偶数である。これがすべての $p\nmid D$ について成り立つので $d_i\in G_D$、すなわち $d\in H_D$ である。$H_D$ の位数は $2^{2s+2}$ である(同命題)。$\square$
$p\nmid D$ で $\operatorname{ord}_p(d_i)$ が偶数であることは、2 次体 $\mathbb{Q}(\sqrt{d_i})$ が $D$ を割らない奇素数で分岐しないことにあたる。つまり Selmer 群の元は「$E$ の悪い素数の外で不分岐」な類である。これが有限性の源で、一般の代数体と一般の $n$ でも同じ形の議論(悪い素数の外で不分岐な類の有限性)で rem-sel-exact-source の有限性が示される(Mil06 第 IV 章 Proposition 3.6 と特別な場合の有限性の証明、p.112–113)。
lem-sel-quadrics と合わせると、Selmer 群の元のうち $E(\mathbb{Q})/2E(\mathbb{Q})$ から来ないもの($Ш(E/\mathbb{Q})[2]$ の $0$ でない元に写るもの)は、すべての $\mathbb{Q}_v$ の上では点をもつのに $\mathbb{Q}$ 点をもたない曲線 $C_d$ に対応する。
実際に上界を計算するには、$H_D$ の各元 $d$ について、$v=\infty$ と $D$ を割る素数 $p$ で $C_d(\mathbb{Q}_v)$ が空かどうかを調べ、空になる $d$ を除けばよい。除かれずに残った元の集合は $\mathrm{Sel}^{(2)}(E/\mathbb{Q})$ を含む(ほかの素数の条件で候補がさらに減るかどうかは、上界としては調べなくてよい)。$C_d(\mathbb{Q}_p)$ が空であることは、次の原理で有限の計算に帰着する。$C_d$ の $\mathbb{Q}_p$ 点は、座標をスケールして $\mathbb{Z}_p$ に入り少なくとも 1 つが単元であるようにできるので、$p^k$ を法として「どれかが $p$ で割れない」解をもつ。したがって、ある $k$ で $p^k$ を法とするそのような解がなければ、$C_d(\mathbb{Q}_p)=\emptyset$ である。
$E$ の階数を $r$ とすると
$$
2^{r+2}=\#\bigl(E(\mathbb{Q})/2E(\mathbb{Q})\bigr)\le\#\mathrm{Sel}^{(2)}(E/\mathbb{Q}),\qquad\text{すなわち}\qquad r\le\dim_{\mathbb{F}_2}\mathrm{Sel}^{(2)}(E/\mathbb{Q})-2
$$
であり、等号は $Ш(E/\mathbb{Q})[2]=0$ のときに限って成り立つ。
thm-sel-exact により $E(\mathbb{Q})/2E(\mathbb{Q})$ は $\mathrm{Sel}^{(2)}(E/\mathbb{Q})$ の部分群で、商は $Ш(E/\mathbb{Q})[2]$ である。$\#(E(\mathbb{Q})/2E(\mathbb{Q}))=2^{r+2}$ は Mordell–Weilの定理 の系「2-降下による階数の上界」である。Selmer 群は $\mathbb{F}_2$ 上のベクトル空間(すべての元の位数が $2$ 以下)なので、位数は $2$ の冪である。$\square$
$(e_1,e_2,e_3)=(-1,0,1)$、$D=2$ で、$H_D$ は $\{\pm1,\pm2\}$ の組 $16$ 個である。thm-sel-concrete により $d\in\mathrm{Sel}^{(2)}(E/\mathbb{Q})$ は、ある $P_\infty\in E(\mathbb{R})$ と $P_2\in E(\mathbb{Q}_2)$ について $d\equiv\varphi_{\mathbb{R}}(P_\infty)$、$d\equiv\varphi_{\mathbb{Q}_2}(P_2)$ を満たす。Mordell–Weilの定理 の例「$y^2=x^3-x$ の階数は $0$」の 2 つの制約は、実数の点と 2 進数の点に対してもそのまま成り立つ(符号の議論は $x\in\mathbb{R}$ で、2 進付値の議論は $x\in\mathbb{Q}_2$ で同じであり、$O$ と $T_i$ の像も制約を満たす)。平方類の符号は $\mathbb{R}^{\times2}$ を法として、$\operatorname{ord}_2$ の偶奇は $\mathbb{Q}_2^{\times2}$ を法として変わらないので、$d_1>0$、$\operatorname{ord}_2(d_2)$ は偶数、$d_2$ と $d_3$ は同符号となり、候補は
$$
(1,1,1),\quad(1,-1,-1),\quad(2,1,2),\quad(2,-1,-2)
$$
の 4 つに限られる。これらは $O,T_2,T_3,T_1$ の像なので $\mathrm{Sel}^{(2)}(E/\mathbb{Q})=\varphi(E(\mathbb{Q}))$ は位数 $4$ である。thm-sel-exact から $Ш(E/\mathbb{Q})[2]=0$、cor-sel-rank から $r=0$ が従う。
$E_n\colon y^2=x^3-n^2x$、$(e_1,e_2,e_3)=(-n,0,n)$ とする(合同数)。$n=5$ では $D=2\cdot5^3$、$n=6$ では $D=2^4\cdot3^3$ で、どちらも $s=2$、$\#H_D=64$ である。無限位数の点 $P$ として $n=5$ では $(-4,6)$、$n=6$ では $(-3,9)$ をとる(面積 $5$、$6$ の直角三角形に対応する点。合同数 の定理「直角三角形と曲線の点の対応」)。候補を局所的な条件で絞ると、次の表の 8 個だけが残る。
| 点 | $n=5$ での $\varphi$ | $n=6$ での $\varphi$ |
|---|---|---|
| $O$ | $(1,1,1)$ | $(1,1,1)$ |
| $T_1$ | $(2,-5,-10)$ | $(2,-6,-3)$ |
| $T_2$ | $(5,-1,-5)$ | $(6,-1,-6)$ |
| $T_3$ | $(10,5,2)$ | $(3,6,2)$ |
| $P$ | $(1,-1,-1)$ | $(3,-3,-1)$ |
| $P+T_1$ | $(2,5,10)$ | $(6,2,3)$ |
| $P+T_2$ | $(5,1,5)$ | $(2,3,6)$ |
| $P+T_3$ | $(10,-5,-2)$ | $(1,-2,-2)$ |
絞り方は次のとおりである。$v=\infty$ では、$x-e_i$ の符号の組は $(+,+,+)$ か $(+,-,-)$ なので $d_1>0$ でなければならず、候補は $32$ 個になる。$v=2$ では、$C_d$ が $32$ を法として「どれかが奇数」の解をもつかを 32 個すべてについて調べると(有限の計算)、残るのは表の 8 個である($n=5$ では $8$ を法とする計算で足りる)。$n=5$ では $v=5$ の条件($25$ を法とする計算)、$n=6$ では $v=3$ の条件($9$ を法とする計算)だけでも同じ 8 個に絞られる。表の 8 個はすべて $E_n(\mathbb{Q})$ の点の像なので、$\mathrm{Sel}^{(2)}(E_n/\mathbb{Q})=\varphi(E_n(\mathbb{Q}))$ は位数 $8$ であり、$Ш(E_n/\mathbb{Q})[2]=0$、$r=1$ である。$P$ の像は 2 等分点の像と異なるので $r\ge1$ は Mordell–Weilの定理 の例「合同数の曲線 $y^2=x^3-36x$」でも見たが、$r\le1$ は Selmer 群の計算で初めて分かる。
$n=5$、$d=(2,1,2)$ は符号の条件を満たす($d_1d_2d_3=4$ は平方)。$C_d$ は $2z_1^2-z_2^2=5w^2$、$z_1^2-z_3^2=5w^2$ である。$\mathbb{Z}_2$ の解 $(z_1,z_2,z_3,w)$ で、どれかが単元であるものがあったとする。1 つ目の式を $2$ を法として見ると $z_2\equiv w$ である。$w$ が奇数なら $z_2$ も奇数で、$2z_1^2=z_2^2+5w^2\equiv1+5=6\pmod8$ から $z_1^2\equiv3\pmod4$ となり、平方数は $4$ を法として $0,1$ なので矛盾である。$w$ が偶数なら $z_2$ も偶数で、$2z_1^2=z_2^2+5w^2\equiv0\pmod4$ から $z_1$ は偶数、さらに $z_3^2=z_1^2-5w^2\equiv0\pmod4$ から $z_3$ も偶数となり、すべて偶数で矛盾である。よって $C_{(2,1,2)}(\mathbb{Q}_2)=\emptyset$ で、$(2,1,2)$ は Selmer 群に入らない。ほかの候補も同じ型の計算で除かれる。
2 等分点がすべて有理的な $E$ では、$H^1(\mathbb{Q},E[2])\cong H(\mathbb{Q})$ は、相異なる素数 $p$ についての元 $(p,p,1)$ をすべて含むので無限群である(Mil06 第 IV 章 §2、p.109)。$H^1(\mathbb{Q},E[2])$ は「$E(\mathbb{Q})/2E(\mathbb{Q})$ を含む群」という性質は満たすが「有限」という性質は満たさず、Selmer 群の定義の局所的な条件を外すと、$E(\mathbb{Q})/2E(\mathbb{Q})$ の位数の上界は得られない。
| 条件や推測 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| 局所的な条件を外す | $H^1(\mathbb{Q},E[2])$(ex-sel-no-local) | 有限群である |
| Selmer 群は $E(\mathbb{Q})/2E(\mathbb{Q})$ に等しい | Lind–Reichardt の曲線の Jacobi 多様体 $y^2=x^3+17x$ | $Ш(E/\mathbb{Q})[2]=0$、Selmer 群の位数から階数が決まる |
| 局所的に点があれば大域的に点がある | Tate–Shafarevich群 の例「Lind–Reichardt の曲線」、楕円曲線 の例「反例:有理点をもたない種数 $1$ の曲線」 | Hasse 原理 |
2 行目・3 行目:Tate–Shafarevich群 の例「Lind–Reichardt の曲線」によれば、$2y^2=x^4-17$ は $\mathbb{R}$ とすべての $\mathbb{Q}_p$ で点をもつが $\mathbb{Q}$ 点をもたず、楕円曲線 $E\colon y^2=x^3+17x$ の $Ш(E/\mathbb{Q})$ の位数 $2$ の元を表す。$Ш(E/\mathbb{Q})[2]\ne0$ なので、thm-sel-exact により $\mathrm{Sel}^{(2)}(E/\mathbb{Q})$ は $E(\mathbb{Q})/2E(\mathbb{Q})$ より真に大きく、cor-sel-rank の不等式は等号にならない。この場合、Selmer 群の位数だけでは階数が決まらない。この $E$ の 2 等分点で有理的なものは $(0,0)$ だけなので、thm-sel-concrete の形はそのままでは使えない。楕円曲線 の例「反例:有理点をもたない種数 $1$ の曲線」の Selmer の 3 次曲線も、局所的には点をもつが有理点をもたない曲線で、$3$-Selmer 群の側で同じ現象を示す(Tate–Shafarevich群 の例「Selmer の 3 次曲線」)。
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