Steenrod代数

同義語:Steenrod algebraスティーンロッド代数

概要

Steenrod代数(Steenrod algebra)とは、$\mathbb{Z}/2$ 係数の Steenrod 平方 $Sq^1,Sq^2,\dots$ を生成元とし Adem 関係式で割った次数付き代数 $\mathcal{A}$ で、すべての空間の $\mathbb{Z}/2$ 係数コホモロジーは $\mathcal{A}$ 加群になる。許容単項式 $Sq^{i_1}\cdots Sq^{i_k}$(各 $i_l\ge2i_{l+1}$)は基底をなし、その独立性は実射影空間の積の上の値で検出できる。Cartan の公式による余積について、次数ごとの双対は多項式環 $\mathbb{F}_2[\xi_1,\xi_2,\dots]$ と同型であり(Milnor)、Serre の定理を使うと $\mathcal{A}$ は懸垂と可換なコホモロジー演算全体の代数と一致する。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: Steenrod平方, Adem関係式, 実射影空間, Künnethの公式

Steenrod平方 $Sq^i$ を合成した作用素は、すべての空間の $\mathbb{Z}/2$ 係数コホモロジーに作用し、その合成の間には Adem関係式 が成り立つ。Steenrod 代数 $\mathcal{A}$ は、$Sq^1,Sq^2,\dots$ を生成元として Adem 関係式で割った次数付き代数である。すべての空間のコホモロジーは $\mathcal{A}$ 上の加群になり、連続写像の引き戻しは $\mathcal{A}$ 加群の準同型になる。
この記事では次を証明する。第一に、許容単項式 $Sq^I$ は $\mathcal{A}$ の基底をなし、平方の合成の間の関係式は Adem 関係式から導かれるものに限る。独立性は実射影空間の積 $(\mathbb{R}P^\infty)^n$ の上の値で示す。第二に、Cartan の公式から余積が定まり、次数ごとの双対 $\mathcal{A}_*$ は多項式環 $\mathbb{F}_2[\xi_1,\xi_2,\dots]$($|\xi_r|=2^r-1$)と同型である(Milnor)。第三に、$K(\mathbb{Z}/2,q)$ のコホモロジーについての Serre の定理を引用して、$\mathcal{A}$ が懸垂と可換な演算(安定な演算)全体の代数と一致し、安定な演算の族としての Steenrod 平方が $Sq^0=1$・Cartan の公式・1 次の類での値で一意に定まることを示す。係数は $\mathbb{F}_2=\mathbb{Z}/2$ に固定する(奇素数 $p$ の版は Hat02 pp. 496–497)。

定義

以下 $H^n(X)=H^n(X;\mathbb{F}_2)$ と書き、$Sq^i$ は Steenrod平方 の定義「cup-$i$ 積による Steenrod 平方」の平方とする。

Steenrod 代数

非可換な変数 $Sq^1,Sq^2,\dots$ が生成する $\mathbb{F}_2$ 上の自由な単位的結合代数を $T$ とし、$Sq^i$ の次数を $i$ として $T$ を次数付き代数とみる。$Sq^0:=1$ とおく。整数 $a,b\ge1$ が $a<2b$ をみたすごとに定まる元
$$ Sq^aSq^b-\sum_{j=0}^{\lfloor a/2\rfloor}\binom{b-j-1}{a-2j}Sq^{a+b-j}Sq^j $$
(二項係数は Adem関係式 の定理「Adem 関係式」と同じ規約で $\bmod2$ にとる)が生成する両側イデアルを $J$ とし、商 $\mathcal{A}:=T/J$ を Steenrod 代数という。$J$ は正の次数の斉次元で生成されるので、$\mathcal{A}=\bigoplus_{d\ge0}\mathcal{A}_d$ は次数付き代数で $\mathcal{A}_0=\mathbb{F}_2$ である。

許容単項式

正の整数の列 $I=(i_1,\dots,i_k)$ について $Sq^I:=Sq^{i_1}Sq^{i_2}\cdots Sq^{i_k}$(右端の $Sq^{i_k}$ が最初に作用する)、$|I|:=i_1+\cdots+i_k$ とおく。すべての $l< k$ で $i_l\ge2i_{l+1}$ のとき、$I$ と $Sq^I$ を許容という。空の列 $\emptyset$ も許容とし、$Sq^\emptyset:=1$、$|\emptyset|:=0$ とする。許容な列の超過を $e(I):=i_1-i_2-\cdots-i_k$ と定める($e(\emptyset):=0$)。許容なら $0\le e(I)\le|I|$ である。

コホモロジーへの作用

Adem関係式 の定理「Adem 関係式」により、$J$ の生成元はすべての空間 $X$ の $H^*(X)=\bigoplus_nH^n(X)$ の上で $0$ として作用する。よって $Sq^i$ を $Sq^i$ に送る準同型 $T\to\operatorname{End}(H^*(X))$ は $\mathcal{A}$ を経由し、$H^*(X)$ は次数付き $\mathcal{A}$ 加群になる。連続写像の引き戻しは $\mathcal{A}$ 加群の準同型である(Steenrod平方 の公理 1)。$\theta\in\mathcal{A}$ の $u\in H^*(X)$ での値を $\theta(u)$ と書く。

許容単項式の基底

許容単項式で張る

各 $d\ge0$ について、$\mathcal{A}_d$ は $|I|=d$ の許容単項式 $Sq^I$ で張られる。とくに $\mathcal{A}_d$ は有限次元である。

Adem 関係式による書き換え

要点:Adem関係式 の系「許容な合成への書き換え」の帰納法は関係式だけを使うので、$\mathcal{A}$ の中でそのまま通る。

詳しい証明を開く

$\mathcal{A}_d$ は $|I|=d$ の正の整数の列 $I$ の $Sq^I$ で張られ、そのような列は有限個である。Adem関係式 の系「許容な合成への書き換え」の証明は、Adem 関係式で $Sq^{i_l}Sq^{i_{l+1}}$($i_l<2i_{l+1}$)を書き換えると、どの項の列も辞書式順序で大きくなる($j=0$ の項では $Sq^0=1$ を落とす)ことによる帰納法であり、関係式そのものしか使わない。$\mathcal{A}$ では Adem 関係式が等式として成り立つので、同じ議論で $Sq^I$ は $\mathcal{A}$ の中で $|J'|=d$ の許容な $Sq^{J'}$ の和に等しい。$\square$

独立性は具体的な空間で検出する。$n\ge1$ について $P_n:=(\mathbb{R}P^\infty)^n$ とし、$x_s\in H^1(P_n)$ を $s$ 番目の因子の $H^1(\mathbb{R}P^\infty)$ の生成元の引き戻しとする。実射影空間 の定理「$\mathbb{Z}/2$ 係数のコホモロジー環」と Künnethの公式 の定理「コホモロジー環の Künneth の公式」($\mathbb{R}P^\infty$ は各次数のコホモロジーが有限次元の CW 複体)により $H^*(P_n)=\mathbb{F}_2[x_1,\dots,x_n]$ であり、単項式が基底をなす。$w_n:=x_1x_2\cdots x_n\in H^n(P_n)$ とおく。

冪の倍化

$e_1,\dots,e_n\ge0$ について $m=\prod_{s}x_s^{2^{e_s}}$ とし、$k\ge0$ とする。$\sum_{s\in S}2^{e_s}=k$ をみたす部分集合 $S\subset\{1,\dots,n\}$ を走る和として
$$ Sq^k(m)=\sum_{S}\ \prod_{s\in S}x_s^{2^{e_s+1}}\prod_{s\notin S}x_s^{2^{e_s}} $$
が成り立つ。とくに $n=1$ では、$Sq^k(x^{2^e})$ は $k=0$ なら $x^{2^e}$、$k=2^e$ なら $x^{2^{e+1}}$、それ以外なら $0$ である。

全平方の乗法性

要点:$Sq(x_s^{2^e})=x_s^{2^e}+x_s^{2^{e+1}}$ と全平方の乗法性から、積を展開して次数で分ける。

詳しい証明を開く

全平方 $Sq=\sum_kSq^k$ は Cartan の公式により環準同型であり(Steenrod平方 の命題「Cartan の公式」)、Steenrod平方 の命題「1 次と 2 次の類の冪」の (1) と補題「2 の冪の二項係数」から $Sq(x_s^{2^e})=x_s^{2^e}(1+x_s)^{2^e}=x_s^{2^e}+x_s^{2^{e+1}}$ である。よって $Sq(m)=\prod_s\bigl(x_s^{2^{e_s}}+x_s^{2^{e_s+1}}\bigr)$ であり、これを展開して倍にする因子の集合 $S$ ごとに項を分けると、項の次数は $\deg m+\sum_{s\in S}2^{e_s}$ である。次数 $\deg m+k$ の部分が $Sq^k(m)$ である。$\square$

$Sq^I=Sq^{i_1}\cdots Sq^{i_D}$(末尾に $0$ を足して長さを $D$ にそろえてよい。$Sq^0=1$)を $w_n$ に施すと、lem-sa-doubling を右から $D$ 回使って、$Sq^I(w_n)$ は次の倍化の手順についての和になる。手順とは部分集合の列 $(S_D,S_{D-1},\dots,S_1)$ で、段 $j$ の時点で $s$ が倍にされた回数を $c_s(j):=\#\{t>j\mid s\in S_t\}$ とするとき、すべての $j$ で $\sum_{s\in S_j}2^{c_s(j)}=i_j$(段 $j$ の費用)をみたすものである。手順の結果は単項式 $\prod_sx_s^{2^{c_s(0)}}$ で、$Sq^I(w_n)$ における単項式の係数は、その単項式に至る手順の個数の偶奇である。
次に、許容列を数える別の添字を用意する。有限個を除いて $0$ の非負整数の列 $R=(r_1,r_2,\dots)$ の重みを $\|R\|:=\sum_a(2^a-1)r_a$ とし、$I(R)$ を $i_j:=\sum_{a\ge j}2^{a-j}r_a$ の列(末尾の $0$ を除く)とする。$i_j-2i_{j+1}=r_j\ge0$ なので $I(R)$ は許容であり、$|I(R)|=\sum_ar_a(2^{a-1}+\cdots+2+1)=\|R\|$ である。逆に許容列 $I$ から $r_j:=i_j-2i_{j+1}$ とおくと、和 $\sum_{a\ge j}2^{a-j}(i_a-2i_{a+1})$ は打ち消し合って $i_j$ に戻るので、$R\mapsto I(R)$ は重み $d$ の列全体から $|I|=d$ の許容列全体への全単射である。
以下 $d\ge0$ を固定し、$|I|=d$ の許容列を末尾に $0$ を足して長さ $d$ にそろえる。許容列 $I\ne I'$ について、$i_j\ne i'_j$ となる最大の $j$ で $i_j< i'_j$ のとき $I\prec I'$ と書く(右から比べる辞書式順序)。重み $d$ の $R$ と $n\ge d$ について、$\sum_ar_a\le d\le n$ なので、$1\le s\le n$ に整数 $a_s\ge0$ を、各 $a\ge1$ がちょうど $r_a$ 回現れ残りが $0$ になるように割り当てられる。単項式 $m_R:=\prod_sx_s^{2^{a_s}}$ の $\theta(w_n)$ における係数を $f_R(\theta)$ とおく。$f_R$ は線型写像 $\mathcal{A}_d\to\mathbb{F}_2$ である。

評価の三角性

$n\ge d$ とし、$R$ を重み $d$ の列、$I$ を $|I|=d$ の許容列とする。$f_R(Sq^I)\ne0$ なら $I(R)\preceq I$ であり、$f_R(Sq^{I(R)})=1$ である。

倍化の手順を右から比べる

$i_j(R)$ を $I(R)$ の第 $j$ 成分とし、段 $j$ で $S^R_j:=\{s\mid a_s\ge j\}$ を倍にする手順を $\mathcal{P}_R$ とする。$a_s\ge1$ なら $2^{a_s}-1\le d$ なので $a_s\le d$ であり、$\mathcal{P}_R$ では $s$ は段 $a_s,a_s-1,\dots,1$ で倍にされるので結果は $m_R$ であり、段 $j$ の時点で $a_s\ge j$ の $s$ は $a_s-j$ 回倍にされているので、段 $j$ の費用は $\sum_{a\ge j}r_a2^{a-j}=i_j(R)$ である。
$m_R$ に至る手順 $(S_d,\dots,S_1)$ が、ある $j$ より上のすべての段 $t>j$ で $S_t=S^R_t$ をみたすとする。$a_s\ge j$ の $s$ は段 $j$ の時点で $a_s-j$ 回倍にされており、残りの $j$ 段(段 $j,\dots,1$)でさらに $j$ 回倍にされなければ指数 $2^{a_s}$ に届かないので、$s\in S_j$ である。$a_s< j$ の $s$ はまだ倍にされておらず、$s\in S_j$ なら費用に $2^0=1$ を加える。よって $S_j\supseteq S^R_j$ であり、段 $j$ の費用は $i_j(R)+\#(S_j\setminus S^R_j)$ で、$S_j=S^R_j$ のときに限り $i_j(R)$ に等しい。
$Sq^I$ の手順で $m_R$ に至るものがあれば、$S_j\ne S^R_j$ となる最大の $j$ をとると、$t>j$ では $i_t=i_t(R)$、段 $j$ では $i_j>i_j(R)$ なので $I(R)\prec I$ である。そのような $j$ がなければ手順は $\mathcal{P}_R$ で $I=I(R)$ である。よって $f_R(Sq^I)\ne0$ なら $I(R)\preceq I$ であり、$I=I(R)$ のとき $m_R$ に至る手順は $\mathcal{P}_R$ だけなので $f_R(Sq^{I(R)})=1$ である。$\square$

許容単項式の基底
  1. 各 $d\ge0$ について、$|I|=d$ の許容単項式 $Sq^I$ 全体は $\mathcal{A}_d$ の基底である。
  2. $n\ge d$ なら、$\theta\mapsto\theta(w_n)$ は単射な線型写像 $\mathcal{A}_d\to H^{n+d}(P_n)$ である。
三角行列による独立性

$n\ge d$ とし、$|I|=d$ の許容列についての和 $\sum_Ic_ISq^I(w_n)$($c_I\in\mathbb{F}_2$)が $0$ で、$c_I$ のどれかが $0$ でないとする。$c_I\ne0$ となる $I$ のうち $\prec$ について最大のものを $I_0$ とし、$I(R_0)=I_0$ となる $R_0$ をとる。$f_{R_0}$ を施すと $\sum_Ic_If_{R_0}(Sq^I)=0$ である。$c_I\ne0$ なら $I\preceq I_0$、$f_{R_0}(Sq^I)\ne0$ なら lem-sa-triangular により $I_0\preceq I$ なので、和に残るのは $I=I_0$ の項 $c_{I_0}f_{R_0}(Sq^{I_0})=c_{I_0}$ だけであり、$c_{I_0}=0$ となって矛盾する。よって $Sq^I(w_n)$($|I|=d$、$I$ は許容)は 1 次独立である。
とくに許容単項式 $Sq^I$ は $\mathcal{A}_d$ の中で 1 次独立で、lem-sa-span と合わせて基底である。これが 1 である。$\theta\in\mathcal{A}_d$ を基底で $\theta=\sum_Ic_ISq^I$ と書くと、$\theta(w_n)=0$ なら上の議論ですべての $c_I$ が $0$ なので、2 が成り立つ。$\square$

平方の合成の間の関係式

$T$ の元 $\theta$ がすべての空間の $H^*(-)$ の上で $0$ として作用するなら、$\theta\in J$ である。すなわち、Steenrod 平方の合成の有限和がすべての空間で $0$ になるのは、それが Adem 関係式から導かれる場合に限る。

斉次成分ごとの評価

要点:斉次成分ごとに $w_n$($n$ は次数以上)で評価して thm-sa-basis の 2 を使う。

詳しい証明を開く

$\theta$ を斉次成分 $\theta_d\in T_d$ に分ける。$\theta(w_n)$ の次数 $n+d$ の成分は $\theta_d(w_n)$ なので、各 $\theta_d$ も $w_n$ の上で $0$ である。$n\ge d$ ととれば、$\theta_d$ の $\mathcal{A}_d$ での像は thm-sa-basis の 2 により $0$、すなわち $\theta_d\in J$ である。$\square$

次数 3 の評価

次数 $3$ の許容列は $(3)$ と $(2,1)$ で、重み $3$ の列は $R=(3)$($I(R)=(3)$)と $R=(0,1)$($I(R)=(2,1)$)である。右から比べると $(3)\prec(2,1)$ である。$n=3$、$w_3=x_1x_2x_3$ とすると、$m_{(3)}=x_1^2x_2^2x_3^2$、$m_{(0,1)}=x_1^4x_2x_3$ であり、
$$ Sq^3(w_3)=x_1^2x_2^2x_3^2,\qquad Sq^2Sq^1(w_3)=x_1^4x_2x_3+x_1x_2^4x_3+x_1x_2x_3^4+x_1^2x_2^2x_3^2 $$
である。よって $f_{(3)}(Sq^3)=1$、$f_{(3)}(Sq^2Sq^1)=1$、$f_{(0,1)}(Sq^3)=0$、$f_{(0,1)}(Sq^2Sq^1)=1$ で、行列は対角成分が $1$ の上三角行列である。

確かめ

$Sq^3(w_3)=w_3^2$(Steenrod平方 の公理 5)。lem-sa-doubling により $Sq^1(w_3)=x_1^2x_2x_3+x_1x_2^2x_3+x_1x_2x_3^2$ で、たとえば $Sq^2(x_1^2x_2x_3)$ は $x_1$ を倍にする項(費用 $2$)$x_1^4x_2x_3$ と $x_2,x_3$ を倍にする項(費用 $1+1$)$x_1^2x_2^2x_3^2$ の和である。3 つの項を足すと $x_1^2x_2^2x_3^2$ は 3 回現れて $1$ 回分が残る。

安定な演算

コホモロジー作用素(Steenrod平方 の定義「コホモロジー作用素」)のうち、懸垂と可換な族を考える。空でない空間 $X$ と $q\ge1$ について、$\sigma\colon H^q(X)=\tilde H^q(X)\to\tilde H^{q+1}(SX)=H^{q+1}(SX)$ を Steenrod平方 の注意「懸垂同型」の同型とする。

安定な演算

整数 $d\ge0$ を固定する。各 $q\ge1$ についてコホモロジー作用素 $\theta_q\colon H^q(-)\to H^{q+d}(-)$ が与えられ、空でないすべての空間 $X$ と $x\in H^q(X)$ について $\theta_{q+1}(\sigma x)=\sigma\,\theta_q(x)$ が成り立つとき、族 $\theta=(\theta_q)_{q\ge1}$ を次数 $d$ の安定な演算という。加法的であることは仮定しない。

$\theta\in\mathcal{A}_d$ の作用は次数 $d$ の安定な演算である(Steenrod平方 の系「懸垂同型との可換性」)。次数 $d$ の安定な演算は値ごとの和で $\mathbb{F}_2$ 上のベクトル空間をなし、安定な演算の合成は安定な演算である。

Serre の定理と作用素の表現

$q\ge1$ とし、CW 複体の Eilenberg–MacLane 空間 $K(\mathbb{Z}/2,q)$(Eilenberg–MacLane空間)と $H^q(K(\mathbb{Z}/2,q))\cong\mathbb{Z}/2$ の生成元 $\iota_q$ をとる。次の 2 つを使う(どちらもこの記事では証明しない)。

  1. $H^*(K(\mathbb{Z}/2,q))$ は、$e(I)< q$ の許容列 $I$ についての $Sq^I\iota_q$ を変数とする多項式環である(Serre。Hat04 Theorem 1.32, p. 53、証明は pp. 53–58。その証明は平方について自然性、Steenrod平方 の命題「連結準同型との可換性」、公理 5・6 だけを使うので、Steenrod平方 の定義「cup-$i$ 積による Steenrod 平方」の平方について成り立つ)。
  2. コホモロジー作用素 $H^q(-)\to H^{q+d}(-)$ は $\iota_q$ での値で決まり、$H^{q+d}(K(\mathbb{Z}/2,q))$ の元と 1 対 1 に対応する(コホモロジー演算 の定理「演算の分類」とその系)。
安定な演算の分類

$d\ge0$ とする。$\theta\in\mathcal{A}_d$ にその作用を対応させる写像は、$\mathcal{A}_d$ から次数 $d$ の安定な演算全体への線型同型である。とくに安定な演算はすべて加法的であり、$\mathcal{A}$ は合成について安定な演算全体の代数と同型である。

Eilenberg–MacLane 空間での値と懸垂

単射性:$\theta\in\mathcal{A}_d$ の作用が $0$ なら、$n:=\max(d,1)$ として $\theta(w_n)=0$ なので、thm-sa-basis の 2 により $\theta=0$ である。
全射性:$\varphi=(\varphi_q)$ を次数 $d$ の安定な演算とする。$q>d$ のとき、rem-sa-serre の 1 の変数はどれも次数が $q$ 以上なので、2 つ以上の変数の積は次数 $2q$ 以上であり、次数 $q+d<2q$ の部分は変数 $Sq^I\iota_q$($|I|=d$)で張られ、それらは 1 次独立である。許容列は $e(I)\le|I|=d< q$ をみたすので、$|I|=d$ の許容列はすべて現れる。よって $\varphi_q(\iota_q)=\sum_Ia_I(q)Sq^I\iota_q$ となる $a_I(q)\in\mathbb{F}_2$ がただ 1 組あり、rem-sa-serre の 2 により、$H^q$ の上で $\varphi_q=\sum_Ia_I(q)Sq^I$ である。
安定性から係数 $a_I(q)$ は $q>d$ によらず、$\theta:=\sum_Ia_ISq^I\in\mathcal{A}_d$ について $q>d$ で $\varphi_q=\theta$ となる。$q\le d$ の類は懸垂を繰り返して $q>d$ に移せば、$\varphi$ は $\theta$ の作用に等しい。

係数がそろうことと低い次数の確かめを開く

$X=K(\mathbb{Z}/2,q)$、$x=\iota_q$ に安定性を使う。$\sigma$ は $Sq^I$ と可換なので$$\sigma\sum_Ia_I(q)Sq^I\iota_q=\varphi_{q+1}(\sigma\iota_q)=\sum_Ia_I(q+1)Sq^I(\sigma\iota_q)=\sigma\sum_Ia_I(q+1)Sq^I\iota_q$$であり、$\sigma$ は単射なので $\sum_I(a_I(q)+a_I(q+1))Sq^I\iota_q=0$、変数の 1 次独立性から $a_I(q)=a_I(q+1)$ である。$1\le q\le d$ と空でない $X$、$x\in H^q(X)$ については、$q+k>d$ となる $k$ をとると、$\sigma^k$ は $\varphi$ と $\theta$ の両方と可換なので $\sigma^k\varphi_q(x)=\varphi_{q+k}(\sigma^kx)=\theta(\sigma^kx)=\sigma^k\theta(x)$ であり、$\sigma^k$ は単射なので $\varphi_q(x)=\theta(x)$ である。$X$ が空なら両辺とも $0$ である。


$\theta$ の作用は加法的なので、安定な演算はすべて加法的である。$\theta\mapsto$(作用)は合成を合成に送るので、最後の主張も従う。$\square$

Hat02 p. 500 は同じ事実を $K(\mathbb{Z}/2,n)$ のコホモロジーの極限として述べている。

公理による一意性

各 $i\ge0$ について次数 $i$ の安定な演算 $P^i=(P^i_q)_{q\ge1}$ が与えられ、次をみたすとする。

  1. $P^0$ は恒等写像である。
  2. Cartan の公式:正の次数の類 $\alpha,\beta$ と $k\ge0$ について $P^k(\alpha\smile\beta)=\sum_{j=0}^kP^j\alpha\smile P^{k-j}\beta$。
  3. 1 次の類 $x$ について $P^1x=x^2$ であり、$i\ge2$ なら $P^ix=0$ である。
    このとき、すべての $i\ge0$ と $q\ge1$ について $P^i_q=Sq^i$ である。
実射影空間の積での比較

要点:差 $P^i+Sq^i$ は安定な演算なので $\mathcal{A}_i$ の元の作用であり、Cartan の公式から $w_n$ の上で $0$ になる。

詳しい証明を開く

$Sq^i$ も 1〜3 をみたす(Steenrod平方 の公理 3・5・6)。$i\ge1$ を固定し、$D_q:=P^i_q+Sq^i$(値ごとの和)とおくと、$D=(D_q)$ は次数 $i$ の安定な演算で、thm-sa-stable により、ある $\theta\in\mathcal{A}_i$ の作用に等しい。$n\ge i$ とすると、2 を繰り返し使って $P^i(w_n)=\sum_{j_1+\cdots+j_n=i}P^{j_1}(x_1)\cdots P^{j_n}(x_n)$ であり、$Sq^i(w_n)$ も同じ式で書ける。1 と 3 により $P^j(x_s)=Sq^j(x_s)$ なので $P^i(w_n)=Sq^i(w_n)$、すなわち $\theta(w_n)=0$ である。thm-sa-basis の 2 により $\theta=0$、よって $P^i_q=Sq^i$ である。$i=0$ では 1 による。$\square$

安定性を仮定しない特徴づけは MS74 §8(pp. 90–91)に述べられている(この記事では証明しない)。

双対 Steenrod 代数

Cartan の公式による余積

代数準同型 $\Delta\colon\mathcal{A}\to\mathcal{A}\otimes\mathcal{A}$ で $\Delta(Sq^k)=\sum_{i+j=k}Sq^i\otimes Sq^j$ をみたすものがただ 1 つある。$\Delta\theta=\sum\theta'\otimes\theta''$ と書くと、すべての空間 $X,Y$ と $u\in H^*(X)$、$v\in H^*(Y)$ について
$$ \theta(u\times v)=\sum\theta'(u)\times\theta''(v)\qquad(\ast) $$
が成り立つ($\times$ は Künnethの公式 の定義「コホモロジーのクロス積」)。$\Delta$ は余結合的かつ余可換で、次数 $0$ の成分への射影 $\varepsilon\colon\mathcal{A}\to\mathcal{A}_0=\mathbb{F}_2$ を余単位にもつ。

実射影空間の積で Adem 関係式を検出する

要点:自由代数 $T$ の上で余積の候補 $D$ を定めると、$(\ast)$ は生成元ではクロス積の Cartan の公式であり、積で保たれる。$J$ の元 $\rho$ では左辺が $0$ になるので、thm-sa-basis の 2 と Künneth の公式から $D\rho=0$ が従う。

詳しい証明を開く

$\mathcal{A}$ は $Sq^k$ で生成されるので一意性は明らかである。$T$ は自由代数なので、$Sq^k$ を $\sum_{i+j=k}Sq^i\otimes Sq^j$ に送る代数準同型 $D\colon T\to\mathcal{A}\otimes\mathcal{A}$ がある(係数が $\mathbb{F}_2$ なので積の符号は現れない)。$\theta\in T$ について $D\theta=\sum\theta'\otimes\theta''$ と書いて $(\ast)$ を考える。生成元 $Sq^k$ では $(\ast)$ はクロス積の Cartan の公式(Steenrod平方 の命題「Cartan の公式」の直後の段落)である。$\theta,\phi$ で $(\ast)$ が成り立てば$$\theta\phi(u\times v)=\theta\Bigl(\sum\phi'(u)\times\phi''(v)\Bigr)=\sum\theta'\phi'(u)\times\theta''\phi''(v)$$であり、$D(\theta\phi)=D(\theta)D(\phi)$ なので $\theta\phi$ でも成り立つ。和についても成り立つので、$(\ast)$ はすべての $\theta\in T$ で成り立つ。

$\rho\in J$ を次数 $d$ の斉次元とし、$X=Y=P_d$、$u=v=w_d$ とする($d\ge2$)。$\rho$ はすべての空間で $0$ として作用するので $0=\rho(u\times v)=\sum\rho'(w_d)\times\rho''(w_d)$ である。$D\rho$ の $\mathcal{A}_p\otimes\mathcal{A}_{d-p}$ 成分は、写像 $\theta'\otimes\theta''\mapsto\theta'(w_d)\times\theta''(w_d)$ で $H^{d+p}(P_d)\otimes H^{2d-p}(P_d)$ の像に移る。この写像は thm-sa-basis の 2 による単射 $\mathcal{A}_p\to H^{d+p}(P_d)$ と $\mathcal{A}_{d-p}\to H^{2d-p}(P_d)$ のテンソル積(体上なので単射)と、Künnethの公式 の定理「コホモロジー環の Künneth の公式」の同型との合成なので単射であり、$p$ ごとに像の次数の組が異なる。よって $D\rho=0$ である。$D$ は代数準同型なので $J$ 全体を $0$ に送り、$\mathcal{A}$ 上の代数準同型 $\Delta$ を誘導する。

$(\Delta\otimes1)\Delta$ と $(1\otimes\Delta)\Delta$ はともに代数準同型で、$Sq^k$ をどちらも $\sum_{a+b+c=k}Sq^a\otimes Sq^b\otimes Sq^c$ に送るので等しい。2 つの因子の入れ替え $\tau$ は $\mathcal{A}\otimes\mathcal{A}$ の代数自己同型で、$\tau\Delta$ と $\Delta$ は $Sq^k$ で一致するので等しい。$(\varepsilon\otimes1)\Delta$ と $(1\otimes\varepsilon)\Delta$ も $Sq^k$ を $Sq^k$ に送る代数準同型なので恒等写像である。$\square$

双対 Steenrod 代数

$\mathcal{A}_*:=\bigoplus_{d\ge0}\mathcal{A}_d^*$($\mathcal{A}_d^*:=\mathrm{Hom}_{\mathbb{F}_2}(\mathcal{A}_d,\mathbb{F}_2)$)とし、$f\in\mathcal{A}_p^*$、$g\in\mathcal{A}_q^*$ の積 $fg\in\mathcal{A}_{p+q}^*$ を、$\theta\in\mathcal{A}_{p+q}$ の $\Delta\theta$ の $\mathcal{A}_p\otimes\mathcal{A}_q$ 成分を $\sum\theta'\otimes\theta''$ として $(fg)(\theta):=\sum f(\theta')g(\theta'')$ で定める。$\Delta$ の余結合性・余可換性・余単位により、$\mathcal{A}_*$ は $\varepsilon$ を単位とする可換な結合代数であり、これを双対 Steenrod 代数という。$r\ge1$ について $\xi_r\in\mathcal{A}^*_{2^r-1}$ を、$x\in H^1(\mathbb{R}P^\infty)$ を生成元として、$\theta(x)$ における $x^{2^r}$ の係数と定める。$\xi_0:=\varepsilon$ とおく。

lem-sa-doubling の $n=1$ の場合から、$\theta\in\mathcal{A}$ について $\theta(x)=\sum_{r\ge0}\xi_r(\theta)x^{2^r}$ である($\theta$ は斉次でなくてもよく、$\xi_r$ は次数 $2^r-1$ 以外の成分で $0$ とする)。

係数と ξ の単項式

$n\ge1$、$a_1,\dots,a_n\ge0$、$\theta\in\mathcal{A}$ について、$\theta(w_n)$ における $\prod_sx_s^{2^{a_s}}$ の係数は $(\xi_{a_1}\xi_{a_2}\cdots\xi_{a_n})(\theta)$ に等しい。とくに重み $d$ の $R$ について $f_R=\prod_a\xi_a^{r_a}$ である。

変数の個数についての帰納法

要点:$w_n=w_{n-1}\times x$ に余積の式 $(\ast)$ を使い、帰納法で係数を $\xi$ の積の値に書き換える。

詳しい証明を開く

$n$ についての帰納法による。$n=1$ は直前の式である。$P_n=P_{n-1}\times\mathbb{R}P^\infty$ で $w_n=w_{n-1}\times x$ なので、prop-sa-coproduct の $(\ast)$ から $\theta(w_n)=\sum\theta'(w_{n-1})\times\theta''(x)$ である。$\theta''(x)=\sum_k\xi_k(\theta'')x^{2^k}$ と帰納法の仮定から、$\prod_{s< n}x_s^{2^{a_s}}\times x^{2^{a_n}}$ の係数は $\sum(\xi_{a_1}\cdots\xi_{a_{n-1}})(\theta')\,\xi_{a_n}(\theta'')=(\xi_{a_1}\cdots\xi_{a_{n-1}}\xi_{a_n})(\theta)$ である(積の定義。クロス積は単項式を単項式に送る)。$f_R$ では $a_s=0$ の因子は $\xi_0=\varepsilon$ で単位なので $f_R=\prod_a\xi_a^{r_a}$ である。$\square$

双対の多項式環構造
  1. 次数 $|t_r|=2^r-1$ の変数の多項式環からの代数準同型 $\mathbb{F}_2[t_1,t_2,\dots]\to\mathcal{A}_*$、$t_r\mapsto\xi_r$ は同型である。
  2. 許容列 $I$ について、$\xi_r(Sq^I)=1$ となるのは $I=I_r:=(2^{r-1},2^{r-2},\dots,2,1)$ のときに限り、ほかの許容列では $0$ である。すなわち $\xi_r$ は許容単項式の基底の双対基底のうち $Sq^{I_r}$ に対応する元である。
三角行列の双対

1:次数 $d$ の単項式 $\prod_at_a^{r_a}$ は重み $d$ の列 $R$ と 1 対 1 に対応し、その像は lem-sa-xi-monomial により $f_R$ である。$n\ge d$ をとると、lem-sa-triangular により、$R$ を $I(R)$ の順 $\prec$ に並べた行列 $\bigl(f_R(Sq^I)\bigr)$ は対角成分が $1$ の三角行列である。三角行列は $\mathbb{F}_2$ 上で可逆で、thm-sa-basis により $Sq^I$ は $\mathcal{A}_d$ の基底なので、$f_R$(重み $d$ の $R$ 全体)は $\mathcal{A}_d^*$ の基底である。よって準同型は各次数で全単射である。
2:lem-sa-doubling の $n=1$ の場合から、正の許容列 $I=(i_1,\dots,i_k)$ について $Sq^I(x)\ne0$ となるのは、右から $i_k=1$、$i_{k-1}=2$、…、$i_1=2^{k-1}$ と選ぶときに限り、そのとき $Sq^I(x)=x^{2^k}$ である。また $Sq^\emptyset(x)=x$ である。よって $\xi_r(Sq^I)=1$ は $I=I_r$ のときに限る。$\square$

$\xi_r$ 以外の単項式は一般に許容単項式の双対基底の元ではない。たとえば ex-sa-degree-three で $\xi_1^3=f_{(3)}$ は $Sq^3$ と $Sq^2Sq^1$ の両方で $1$ になる。$\mathcal{A}_d$ の基底のうち $\xi$ の単項式の双対基底になるものは Milnor 基底と呼ばれる。
$\mathcal{A}$ の積の双対として $\mathcal{A}_*$ には余積 $\phi$ が入る:$\phi(f)$ は $\theta\otimes\theta'\mapsto f(\theta\theta')$ である。これは $\phi(\xi_k)=\sum_{i=0}^k\xi_{k-i}^{2^i}\otimes\xi_i$ で与えられる(Milnor。Rav04 Theorem 3.1.1, p. 59)。$k=2$ の項 $\xi_1^2\otimes\xi_1$ は $\xi_2(Sq^2Sq^1)=1$ に対応する。

余積の公式の証明を開く

$\theta,\theta'\in\mathcal{A}$ について、$\phi(\xi_k)(\theta\otimes\theta')=\xi_k(\theta\theta')$ は $\theta(\theta'(x))$ における $x^{2^k}$ の係数で、$\theta'(x)=\sum_i\xi_i(\theta')x^{2^i}$ である。よって、$\theta(x^{2^i})$ における $x^{2^k}$ の係数が $\xi_{k-i}^{2^i}(\theta)$($i>k$ なら $0$)であることを示せばよい。$N:=2^i$ とし、対角写像 $\mathrm{diag}\colon\mathbb{R}P^\infty\to P_N$ を考えると、$\mathrm{diag}^*x_s=x$、$\mathrm{diag}^*w_N=x^N$ である。$\theta(w_N)$ は $\prod_sx_s^{2^{a_s}}$($a_s\ge0$)の形の単項式の和であり(倍化の手順)、lem-sa-xi-monomial によりその係数は $(\xi_{a_1}\cdots\xi_{a_N})(\theta)$ である。$\mathrm{diag}^*$ を施すと、$\theta(x^N)$ における $x^{2^k}$ の係数は、$\sum_s2^{a_s}=2^k$ をみたす列 $(a_1,\dots,a_N)$ すべてについての $\xi_{a_1}\cdots\xi_{a_N}$ の和を $\theta$ で評価したものである。$\xi_{a_1}\cdots\xi_{a_N}$ の次数は $\sum_s2^{a_s}-N$ なので、この和は可換な $\mathcal{A}_*$ における $(\xi_0+\xi_1+\cdots+\xi_k)^N$ の次数 $2^k-N$ の成分である。標数 $2$ で $N=2^i$ なので $(\xi_0+\cdots+\xi_k)^N=\xi_0^N+\cdots+\xi_k^N$ であり、$\xi_a^N$ の次数 $2^{a+i}-2^i$ が $2^k-2^i$ になるのは $a=k-i$ のときだけである。$\square$

低い次数の基底

次数 $d\le7$ の許容単項式と、$\mathcal{A}_d^*$ の $\xi$ の単項式($I(R)$ の対応で並べる)は次のとおりである。

$d$許容単項式$\xi$ の単項式
$0$$1$$1$
$1$$Sq^1$$\xi_1$
$2$$Sq^2$$\xi_1^2$
$3$$Sq^3$, $Sq^2Sq^1$$\xi_1^3$, $\xi_2$
$4$$Sq^4$, $Sq^3Sq^1$$\xi_1^4$, $\xi_1\xi_2$
$5$$Sq^5$, $Sq^4Sq^1$$\xi_1^5$, $\xi_1^2\xi_2$
$6$$Sq^6$, $Sq^5Sq^1$, $Sq^4Sq^2$$\xi_1^6$, $\xi_1^3\xi_2$, $\xi_2^2$
$7$$Sq^7$, $Sq^6Sq^1$, $Sq^5Sq^2$, $Sq^4Sq^2Sq^1$$\xi_1^7$, $\xi_1^4\xi_2$, $\xi_1\xi_2^2$, $\xi_3$

たとえば $Sq^2Sq^2$ は許容でなく、Adem 関係式により $\mathcal{A}$ の中で $Sq^3Sq^1$ に等しい。

確かめ

許容列 $I$ と $R$ の対応は $r_j=i_j-2i_{j+1}$ である。たとえば $(5,2)$ では $r_1=1$、$r_2=2$ で $\xi_1\xi_2^2$、$(4,2,1)$ では $r_3=1$ で $\xi_3$ である。重みは $\xi_1^4\xi_2$ で $4+3=7$ のように数える。各行の個数は、和が $d$ の許容列の個数と、$\sum_a(2^a-1)r_a=d$ の解の個数が一致することを示す。

条件を外した反例

外す条件反例成り立たなくなること
thm-sa-basis の 1 の許容($i_l\ge2i_{l+1}$)$Sq^2Sq^2$ と $Sq^3Sq^1$1 次独立性:$\mathcal{A}$ の中で等しい
thm-sa-basis の 2 の $n\ge d$$d=2$、$n=1$、$\theta=Sq^2$単射性:$Sq^2(x_1)=0$ だが $Sq^2\ne0$
thm-sa-stable の安定性1 つの作用素 $H^1(-)\to H^3(-)$、$x\mapsto x^3$$\mathcal{A}_2$ の元の作用でない(加法的でない)
prop-sa-uniqueness の 3 の $P^1x=x^2$$P^0=\mathrm{id}$、$i\ge1$ なら $P^i=0$一意性:1・2 と 3 の残りをみたすが $Sq$ と異なる
確かめ

1 行目:Adem関係式 の例「低い次数の関係式」の 2。2 行目:$x_1$ は 1 次なので Steenrod平方 の公理 5 により $Sq^2x_1=0$。$Sq^2$ は thm-sa-basis の 1 の基底の元なので $0$ でない。3 行目:$\mathcal{A}_2$ は $Sq^2$ で張られ、1 次の類 $x$ では $Sq^2x=0$ だが、$\mathbb{R}P^\infty$ の生成元で $x^3\ne0$。また $P_2$ で $(x_1+x_2)^3=x_1^3+x_1^2x_2+x_1x_2^2+x_2^3\ne x_1^3+x_2^3$。4 行目:$P$ の全体は $\alpha\mapsto\alpha$ で環準同型なので Cartan の公式をみたし、$0$ は懸垂と可換、1 次の類 $x$ で $P^ix=0$($i\ge2$)をみたす。$P^1x=0\ne x^2$($\mathbb{R}P^\infty$)。

関連項目

参考文献

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