正規環

同義語:normal ring

概要

正規環(normal ring)とは、すべての素イデアル $\mathfrak p$ での局所環 $A_{\mathfrak p}$ が整閉整域である可換環であり、極大イデアルでの局所環だけを調べれば足りる。環全体が整域である必要はなく、体の直積 $k\times k$ も正規環であるが、正規環は必ず被約である。正規性は任意の局所化と有限直積で保たれ、整域に対しては商体の中で整閉であることと同値になる。Noether環では有限個の整閉Noether整域の直積であることと同値で、二直線の交わる $k[x,y]/(xy)$ は被約でも正規でなく、Noether性を外すと $\prod_{n\ge1}k$ のように有限個の成分に分解できない正規環もある。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 整域, 局所化, 素イデアル, 整閉整域

局所環で定義する正規性

正規性は、各点の局所環が整閉整域であるという条件である。環全体が整域であることは要求しない。二つの体の直積は正規環だが整域ではない。この違いは、交わらない成分を一つの環で扱う際に欠かせない。逆に、二つの成分が同じ点で交わる環では、その点の局所環が零因子を持つため正規性が失われる。
本記事では単位元を持つ可換環を扱い、整域は零環を含まない規約とする。多項式や級数の例で用いる $k$ は体である。正規性の定義には Noether 性を要求しない。有限成分への分解を述べる際には、Noether 性を明示する。

正規環

環 $A$ が正規環であるとは、任意の素イデアル $\mathfrak p$ に対して局所環 $A_{\mathfrak p}$ が整閉整域であることをいう。零環は素イデアルを持たないので、この定義では正規環である。(StacksNormal §10.37)

整域に対する定義との一致は後半の局所判定から従う。整域の場合には自分の商体内での整閉性と同値である。一般環に対しては、零因子を含む分数を整域の商体と同じように扱うことはできない。

局所的な零の検出と被約性

極大イデアルによる元の検出

任意の環 $A$ と任意の $A$ 加群 $M$ に対し、$v\in M$ がすべての極大イデアル $\mathfrak m$ で $v/1=0$ を満たすなら $v=0$ である。有限生成性は不要である。

$v\ne0$ とすると $\operatorname{Ann}_A(v)$ は真のイデアルなので、これを含む極大イデアル $\mathfrak m$ がある。$v/1=0$ なら、ある $s\notin\mathfrak m$ が $sv=0$ を満たす。しかしそのような $s$ は零化イデアルに属し、$\mathfrak m$ に属するはずである。矛盾する。

正規性の極大局所判定と被約性

正規性はすべての極大イデアルでの局所環が整閉整域であることと同値である。また、正規環は被約である。

極大局所判定の必要性は定義そのものである。逆に $\mathfrak p\subset\mathfrak m$ を選ぶと、$A_{\mathfrak p}$ は整閉整域 $A_{\mathfrak m}$ の局所化である。後半で証明する整閉整域の局所化保存により、これも整閉整域である。
冪零元 $a$ は各 $A_{\mathfrak m}$ で零になる。整域は非零の冪零元を持たないからである。元の検出補題を $M=A$ に適用すれば $a=0$ が従う。

被約であることだけでは正規性は保証されない。後で見る二直線の交点は、その最も簡単な例である。

任意の局所化と有限直積

局所化による保存

正規環 $A$ と任意の積閉集合 $S$ に対して $S^{-1}A$ は正規である。$0\in S$ により局所化が零環になる場合も含む。

零環になる場合は定義から明らかである。それ以外では、局所化の素イデアルは $S$ と交わらない $A$ の素イデアル $\mathfrak p$ に対応し、その点の局所環は $A_{\mathfrak p}$ と同型である。対応を確認すると、$S^{-1}\mathfrak p$ は商が $S^{-1}(A/\mathfrak p)$ という整域になるので素である。一方、局所化の素イデアルを $A$ へ収縮すると $S$ を避け、分数 $a/s$ の所属は分母が単元であることから分子 $a$ の所属と同値となる。したがって拡大と収縮は互いに逆である。さらに両側で $\mathfrak p$ の外の元を反転すると同じ環が得られる。各局所環が整閉整域なので結論が従う。

有限直積

有限個の環 $A_1,\ldots,A_r$ の直積が正規であることと、各 $A_i$ が正規であることは同値である。空の直積は零環とする。

直積の標準冪等元を $e_i$ とする。素イデアル $P$ に対し、$e_ie_j=0$ と $\sum e_i=1$ より、ちょうど一つの $e_i$ だけが $P$ の外にある。局所化するとその $e_i$ は $1$ になり、他の成分は零になる。この局所環は対応する $A_i$ の素局所環である。逆に各成分の素イデアルから直積の素イデアルを作れるので、全局所環を検査する条件は各成分の条件と一致する。零成分は素イデアルを持たず、検査に寄与しない。

Noether 環における有限成分分解

正規 Noether 環の成分分解

Noether 環 $A$ が正規であることと、有限個の整閉 Noether 整域の直積であることは同値である。零環は空の直積に対応する。

まず Noether 環の極小素イデアルが有限個であることを確認する。非零の有限加群の非零元の零化イデアルから極大のものを選ぶと、それは素イデアルである。実際、$abv=0$ かつ $bv\ne0$ なら $\operatorname{Ann}(v)\subset\operatorname{Ann}(bv)$ であり、極大性により等しいので $av=0$ となる。これを逐次商に適用して、環 $A$ の部分加群を増やしていくと、Noether 性により有限回で終わる。こうして因子が $A/\mathfrak p_i$ である有限の素イデアル濾過を得る。
局所化は完全列を保存するので、この濾過から $\operatorname{Spec}A=\bigcup_iV(\mathfrak p_i)$ が従う。有限集合のうち包含関係で極小の $\mathfrak p_i$ は、環の極小素イデアルである。もしその下に別の素イデアルがあれば、その素イデアルもある $\mathfrak p_j$ を含み、極小性と矛盾する。したがって極小素イデアルは有限個であり、すべての素イデアルはそのいずれかを含む。
素イデアル全体の交叉は冪零根基に等しい。これには Noether 性も不要である。非冪零元 $a$ に対し、その冪を避けるイデアルを Zorn の補題で極大化する。得られるイデアル $J$ について $uv\in J$ かつ $u,v\notin J$ なら、$J+(u)$ と $J+(v)$ はそれぞれ $a$ の冪を含む。二つの式を掛けると $J$ 自身が $a$ の冪を含むので矛盾する。よって $J$ は素であり $a$ を避ける。すべての素イデアルが極小素を含むので、極小素の交叉も冪零根基に等しい。
いま $A$ が正規とし、その極小素を $\mathfrak p_1,\ldots,\mathfrak p_r$ とする。異なる二つが同じ素イデアル $\mathfrak q$ に含まれることはない。そうであれば、その二つを局所化した素イデアルはいずれも $A_{\mathfrak q}$ の極小素になる。局所化の素対応により極小性は保たれ、しかも収縮は元の $\mathfrak p_i$ に戻る。ところが $A_{\mathfrak q}$ は整域で、極小素は $(0)$ 一つしかない。矛盾する。したがって $\mathfrak p_i+\mathfrak p_j=A$ である。
中国剰余写像 $A\to\prod_i A/\mathfrak p_i$ は全射である。具体的には、各 $j\ne i$ について $1=a_{ij}+b_{ij}$、$a_{ij}\in\mathfrak p_i$、$b_{ij}\in\mathfrak p_j$ を選び、$e_i=\prod_{j\ne i}b_{ij}$ と置く。これは第 $i$ 成分で $1$、他の成分で $0$ なので任意の剰余の組を持ち上げられる。核は極小素の交叉であり、被約性から零である。各因子は Noether 整域で、有限直積の定理から正規、すなわち後半の局所判定によって整閉である。
逆に整閉整域の各素局所環は整閉整域なので、各因子は正規である。有限直積の定理により直積も正規である。

この分解では成分は交わらない。単に被約環の極小素で割って積を作るだけでは、元の環と同型になるとは限らない。正規性が各成分の互いの素性を保証することが重要である。

非 Noether 環と反例

無限直積 $A=\prod_{n\ge1}k$ は正規だが Noether ではない。任意の $a=(a_n)$ に対して、$a_n\ne0$ の位置では $b_n=a_n^{-1}$、それ以外では $b_n=0$ と置くと $a=a^2b$ となる。この関係は局所化の任意の元にも引き継がれる。局所環で非単元 $z$ が $z=z^2w$ を満たすなら、$1-zw$ は単元なので $z=0$ である。したがって各素局所環は体となり、$A$ は正規である。
有限台の列全体は $A$ のイデアルである。有限個の有限台列から生成したイデアルの元は、その台の有限合併の外で必ず零になる。すべての標準冪等元を含むことはできないので、このイデアルは有限生成でなく、$A$ は Noether でない。また、有限個の整域の直積には相互直交する非零冪等元が成分数を超えて存在しないため、この例は有限成分分解では表せない。
$k\times k$ は正規だが零因子を持つ。$k[\varepsilon]/(\varepsilon^2)$ は唯一の素局所環に非零の冪零元があるので正規でない。正規環 $k[t]$ の商 $k[t]/(t^2)$ がこの環であることから、正規性は任意の商に保存されない。
$k[x,y]/(xy)$ は被約である。実際、$k[x]\times k[y]$ への写像 $f\mapsto(f(x,0),f(0,y))$ は単射である。単項式を整理すれば核は $(xy)$ と分かる。しかし原点の極大イデアルで局所化しても $x,y$ はともに非零であり、その積は零である。例えば $x$ が零になるなら原点で非零の分母 $s$ が $sx\in(xy)$ を満たすが、$y=0$ と置くと定数項非零の多項式と $x$ の積が零となり矛盾する。よってこの局所環は整域でなく、環は正規でない。

Serre 条件との関係

Noether 環には、低い高さの局所環の正則性を表す $R_1$ と、各局所環の深さを制御する $S_2$ による正規性の判定がある。正確には、$R_1$ は高さが高々 $1$ のすべての素局所環が正則であること、$S_2$ は各 $A_{\mathfrak p}$ の深さが $\min(2,\dim A_{\mathfrak p})$ 以上であることをいう。Noether 環が正規であることは $R_1$ と $S_2$ の両方を満たすことと同値である。この深さによる判定の証明は Serre条件 で扱う。ここで証明した有限成分分解と局所化保存は、その判定を使わずに得られている。

整域の整閉性を支える分数計算

整拡大の有限性との関係は StacksIntegral の主題でもある。以下では、上の証明で必要だった整元の有限性、整閉性の局所化保存、極大局所判定を分数の式から証明する。整域に限った商体の計算を、零因子のある環へそのまま移さないようにする。

定義:整元と整閉性

$A$ を整域、$K=\operatorname{Frac}(A)$ を商体とする。$x\in K$ が $A$ 上整であるとは、ある $n\ge1$ と $a_0,\ldots,a_{n-1}\in A$ を用いて
$$ x^n+a_{n-1}x^{n-1}+\cdots+a_1x+a_0=0 $$
と書けることをいう。最高次係数が $1$ である点が肝心である。任意の分数 $x=a/b$ は $bT-a=0$ という方程式を満たすが、その最高次係数 $b$ は一般に単元でないため、これだけでは $x$ が整とはいえない。

商体内での整閉性

整域 $A$ が整閉整域であるとは、商体 $K=\operatorname{Frac}(A)$ の元で $A$ 上整なものがすべて $A$ に属することをいう。同じことを「$A$ は自分の商体の中で整閉である」ともいう。商体 $K$ の中で $A$ 上整な元全体がなす部分環を $A$ の整閉包と書くと、整閉性は整閉包が $A$ 自身に等しいという条件である。

Stacks Project はこの定義を「normal domain」の定義として採用している(StacksNormal Definition 10.37.1)。日本語では整閉整域と正規整域が同義に使われる。さらに一般の環に対しても「正規環」という語が使われるが、零因子を持つ環まで含む定義は各素イデアルでの局所環を用いる。したがって、非整域の環にそのまま「商体の中で整閉」という本記事の定義を当てはめることはできない。
「$A$ は $L$ の中で整閉」と言う場合、$L$ は $A$ を含む別の体であり得る。例えば $\mathbb Z$ は $\mathbb Q$ の中では整閉だが、$\mathbb C$ の中で $\mathbb Z$ 上整な元は整数だけではない。$\sqrt2$ は $T^2-2=0$ を満たすからである。整閉整域という語に含まれる標準の体は、明記しない限り自分の商体である。この約束を外して「どんな体の中でも整元を持たない」と読んではならない。

最初の例と反例

$\mathbb Z$ が整閉であることは初等的に示せる。有理数 $a/b$ を既約分数として、モニック方程式に代入して $b^n$ を払うと $b\mid a^n$ となる。$a,b$ が互いに素なら $b$ は単元、つまり $b=\pm1$ である。よって有理数で整数係数のモニック多項式を満たすものは整数に限る。この議論は一意分解整域へそのまま拡張できる。
体 $k$ は自分自身が商体だから整閉である。$k[T]$ は一変数多項式環で、Euclid 環したがって一意分解整域なので整閉である。多変数多項式環 $k[T_1,\ldots,T_n]$ も一意分解整域であり、整閉である。整閉性の証明で Noether 性が常に必要なわけではない。一意分解整域ならば、有限生成でない例でも同じ分母の議論が使える。
一方、$A=k[t^2,t^3]\subset k[t]$ は整閉でない。$t$ は $t^3/t^2$ として $\operatorname{Frac}(A)$ に入り、$t^2\in A$ なので $T^2-t^2=0$ を満たす。しかし $A$ の元を $t$ の多項式として書くと、現れる指数は $0,2,3,4,\ldots$ であり、$t$ の係数は常に $0$ である。ゆえに $t\notin A$。この一つの元だけで整閉性の失敗が証明される。$A\simeq k[x,y]/(y^2-x^3)$ は尖点曲線の座標環で、$k[t]$ へ広げる操作はその曲線の正規化を表す。
整数環に近い反例として $A=\mathbb Z[\sqrt5]$ を取る。その商体 $\mathbb Q(\sqrt5)$ の元 $u=(1+\sqrt5)/2$ は $u^2-u-1=0$ を満たすから $A$ 上整である。しかし $u=a+b\sqrt5$($a,b\in\mathbb Z$)と書けないので $u\notin A$。ここでモニック方程式の係数は整数、したがって $A$ の元でもある。この例は「整数を付け加えて作った環」であっても、その商体内の整元をすべて含むとは限らないことを示す。

整閉と非整閉の対照

$\mathbb Z$、任意の体、一意分解整域は整閉である。$k[t^2,t^3]$ と $\mathbb Z[\sqrt5]$ は整閉でない。後者二つの反例では、元の環にない商体の元を一つ示し、その元がモニック方程式を満たすことまで確認している。

一意分解整域は整閉

一意分解整域(UFD)では、既約分数の分母がモニック方程式から消えてしまう。この証明は $\mathbb Z$ の場合と同じ骨格だが、「素数」を環の既約元に置き換える。

一意分解整域の整閉性

一意分解整域 $A$ は整閉整域である。特に主イデアル整域と体上の多項式環は整閉である。

分母に残る既約因子の矛盾

$K=\operatorname{Frac}(A)$ の元 $x=a/b$ が $A$ 上整とする。$a,b\in A$、$b\ne0$ とし、共通の既約因子をすべて消しておく。あるモニック方程式 $x^n+c_{n-1}x^{n-1}+\cdots+c_0=0$ を $b^n$ 倍すると
$$ a^n=-c_{n-1}a^{n-1}b-\cdots-c_1ab^{n-1}-c_0b^n $$
となる。右辺の各項は $b$ で割り切れるため、$b\mid a^n$ である。もし $b$ が単元でなければ、$b$ の既約因子 $p$ を一つ取れる。一意分解整域では既約元は素元なので $p\mid a^n$ から $p\mid a$ が従う。これは $a,b$ が共通の既約因子を持たないことに反する。したがって $b$ は単元で、$x=a/b\in A$ である。$\square$

逆は成り立たない。整閉整域は一意分解整域より広い概念である。例えば Dedekind 整域は整閉だが、非主イデアルを持つ場合には一意分解整域ではない。この違いは、素因子の元への分解とイデアルの分解を区別する数論・代数幾何で重要になる。ここでの証明は「UFD なら整閉」という十分条件を与えたのであり、整閉性から元の一意分解を導いたわけではない。

局所化で整閉性は保たれる

整閉性を局所的に調べるため、積閉集合 $S\subset A$ で局所化する。$0\notin S$ と仮定すれば $S^{-1}A$ は整域で、商体は $K$ と同一視できる。この $0\notin S$ は省けない。$0\in S$ なら局所化は零環になり、そもそも整域ではない。

整閉整域の局所化

$A$ を整閉整域、$S\subset A$ を $0\notin S$ を満たす積閉集合とする。このとき $S^{-1}A$ も整閉整域である。

モニック方程式の分母を払う

$x\in K$ が $S^{-1}A$ 上整とする。ある $n\ge1$ と $c_i\in S^{-1}A$ について $x^n+c_{n-1}x^{n-1}+\cdots+c_0=0$ である。有限個の係数の分母を同時に払えるので、ある $s\in S$ を選んで $sc_i\in A$ とできる。$y=sx$ と置き、元の方程式を $s^n$ 倍すると
$$ y^n+(sc_{n-1})y^{n-1}+(s^2c_{n-2})y^{n-2}+\cdots+s^nc_0=0 $$
を得る。各係数 $s^{n-i}c_i$ は $A$ に入る。実際、$sc_i\in A$ で $n-i\ge1$ だからである。よって $y$ は $A$ 上整である。$A$ が整閉なので $y\in A$、したがって $x=y/s\in S^{-1}A$ となる。$\square$

この結果により、素イデアル $\mathfrak p$ に対する $A_{\mathfrak p}$ と、極大イデアル $\mathfrak m$ に対する $A_{\mathfrak m}$ は、$A$ が整閉ならいずれも整閉である。元 $f\ne0$ の冪を逆にする $A_f$ も同様である。ただし逆向きには「すべての局所化」ではなく、どの局所化を検査すればよいかを指定する必要がある。次の命題は極大イデアルで十分であることを示す。

極大イデアルでの局所判定

環 $A$ の性質を点ごとの局所環で調べられることは、スキーム上で整閉性を使う理由の一つである。ここでは整域の商体 $K$ の中の等式
$$ A=\bigcap_{\mathfrak m\in\operatorname{Max}A} A_{\mathfrak m} $$
を証明し、それを整閉性に適用する。右辺の共通部分はすべて同じ体 $K$ の中で取る。環が整域であることにより $A\to A_{\mathfrak m}\to K$ を単射として扱える。

極大局所化の共通部分

整域 $A$ とその商体 $K$ について、$K$ の部分環として $A=\bigcap_{\mathfrak m\in\operatorname{Max}A} A_{\mathfrak m}$ が成り立つ。

分母を払える元のイデアル

左辺が右辺に含まれることは明らかである。逆に $x\in K$ がすべての $A_{\mathfrak m}$ に入るとする。$I=\{a\in A:ax\in A\}$ と置くと $I$ は $A$ のイデアルである。$x\in A_{\mathfrak m}$ だから、各極大イデアル $\mathfrak m$ に対し、ある $s\in A\setminus\mathfrak m$ で $sx\in A$ となる。よって $s\in I\setminus\mathfrak m$ であり、$I$ はどの極大イデアルにも含まれない。真のイデアルはある極大イデアルに含まれるので $I=A$。したがって $1\in I$、つまり $x\in A$ である。$\square$

整閉性の局所判定

整域 $A$ について、次の条件は同値である。

  1. $A$ は整閉整域である。
  2. すべての素イデアル $\mathfrak p$ について $A_{\mathfrak p}$ は整閉整域である。
  3. すべての極大イデアル $\mathfrak m$ について $A_{\mathfrak m}$ は整閉整域である。
整閉性の局所判定

1 から 2 は局所化の定理を $S=A\setminus\mathfrak p$ に適用して従い、2 から 3 は極大イデアルも素イデアルであることから従う。3 を仮定し、$x\in K$ が $A$ 上整だとする。整方程式の係数は各 $A_{\mathfrak m}$ にも入るので、$x$ は各 $A_{\mathfrak m}$ 上整である。仮定から $x\in A_{\mathfrak m}$ がすべての極大イデアルについて成り立つ。直前の補題より $x\in A$。よって $A$ は整閉である。$\square$

この証明には Noether 性を仮定していない。整閉性の局所性は任意の整域で成立する。一方、「一点の局所環だけが整閉なら環全体が整閉」とは言えない。すべての極大イデアルを検査するという全称条件が不可欠である。

整閉包と正規化

整元の演算と整性の推移性

体 $L$ の部分環 $A$ に対し、$L$ 内の $A$ 上整な元全体は部分環である。また、$A\subset B\subset L$ が整拡大で $z\in L$ が $B$ 上整なら、$z$ は $A$ 上整である。

モニック方程式を満たす $u$ に対し、$A[u]$ はその方程式の次数未満の冪で生成される有限 $A$ 加群である。有限個の整元 $u_1,\ldots,u_r$ を順に加えれば、各段の有限生成系の積により $A[u_1,\ldots,u_r]$ は有限 $A$ 加群となる。
逆に、$1$ を含む有限 $A$ 加群 $V\subset L$ が元 $w\in L$ による乗法で保たれるとする。生成系 $v_1,\ldots,v_s$ を選び $wv_i=\sum_jc_{ij}v_j$ と書く。行列 $wI-C$ に余因子行列を掛けると、モニック多項式 $F(T)=\det(TI-C)\in A[T]$ に対して $F(w)v_i=0$ となる。生成系の線形結合として $1\in V$ を使えば $F(w)=0$ となり、$w$ は整元である。この議論は $V$ が自由であることを必要としない。
二つの整元 $u,v$ に対して有限加群 $A[u,v]$ は $u+v$、$uv$、$-u$ の乗法で保たれるから、これらも整元である。$0,1$ は最初から整であり、部分環性が従う。推移性については、$z$ のモニック方程式に現れる有限個の係数 $b_i\in B$ を取り、有限 $A$ 加群 $C=A[b_i]$ を作る。$C[z]$ は有限 $C$ 加群で、従って有限 $A$ 加群である。$z$ による乗法で保たれ $1$ を含むので上の行列式の議論を適用できる。

$A$ の商体 $K$ にある $A$ 上整な元をすべて加えた環を $\overline A$ と書く。これは $A$ の整閉包であり、常に整閉整域になる。その商体は $A\subset\overline A\subset K$ により $K$ である。理由は、$x\in K$ が $\overline A$ 上整なら、$\overline A$ の各元が $A$ 上整であることと直前に証明した整性の推移性から $x$ も $A$ 上整になるので、定義により $x\in\overline A$ だからである(StacksIntegral §10.36、StacksNormal Lemma 10.37.2)。また $\overline A$ は $K$ の中の $A$ 上整な元をすべて含む最小の部分環であり、$A=\overline A$ が整閉性の言い換えになる。
尖点の例 $A=k[t^2,t^3]$ では $\overline A=k[t]$ である。$t$ が $A$ 上整であるため $k[t]=A[t]\subset\overline A$。逆に $k[t]$ は一意分解整域ゆえ整閉で、$\operatorname{Frac}(A)=k(t)$ である。$A$ 上整な $k(t)$ の元は $k[t]$ 上も整だから $k[t]$ に入る。よって等号が成り立つ。この例では整閉包は有限 $A$ 加群でもある。実際 $t^2\in A$ だから $k[t]=A+At$ と書ける。
ただし一般の整域で整閉包が有限加群になるとは限らない。有限性を使う定理では、環の有限型性や優良性など追加の仮定が必要である。また「$A$ が整閉」と「任意の拡大体における $A$ の整閉包が $A$」は違う。後者は $\mathbb Z\subset\mathbb Q(\sqrt2)$ でも破れる。正規化を幾何学的に用いる際は、まず自分の商体の中の整閉包で構成しているのか、より大きな関数体の中で整閉包を取っているのかを明記する。
スキーム $X$ が正規であるとは、各点 $x$ の局所環 $\mathcal O_{X,x}$ が整閉整域であることをいう。整なアフィンスキーム $X=\operatorname{Spec}A$ については、上の局所判定により $X$ が正規であることと $A$ が整閉整域であることは同値になる。局所環の条件を採用するのは、スキームの開部分へ制限しても定義が保たれ、局所化と貼り合わせに対応するからである。整閉包から作る射については 正規化 に譲る。

似た語・境界条件

整閉整域は整域であることを要求する。零因子を持つ環では商体が通常の意味では定義されず、全非零因子を逆にした全商環など別の環を考える必要がある。「正規環」は局所環で定義すれば非整域を含むが、整閉整域と無条件に同義ではない。例えば体二つの直積は Stacks Project の意味では正規環だが、整域ではないので整閉整域とは呼ばない。この区別は既約でないスキームを扱うときに効く。
また局所化で $0$ を逆にすると零環になる。したがって「整閉整域の任意の積閉集合による局所化も整閉整域」という言い方は、$0\notin S$ を忘れると偽である。スキーム上の標準開集合を考える場合、零環のスペクトルは空集合として扱えるが、整域の性質を零環へそのまま引き継いではいけない。分母の集合がどの元を含むかを確認することが先決である。
一意分解整域、主イデアル整域、離散付値環は整閉である。逆方向は成立しない。特に $1$ 次元 Noether 局所整域であれば、整閉性は離散付値環であることと同値になる(StacksDVR Lemma 10.119.7)。しかし Noether 性を外した $1$ 次元の正規局所整域に同じ結論をそのまま適用できない。整閉性だけから「すべてのイデアルが主イデアル」や「元が一意分解する」ことを引き出すこともできない。
判断の実務では、まず環が整域かを確認する。次に商体内の候補 $x$ がモニック方程式を満たすかを調べる。一つ見つかれば非整閉性は決まる。整閉性を示すには、一意分解性を使うか、極大局所環をすべて調べるか、既に整閉と分かる環の共通部分として表す方法がある。後者では共通部分を同じ体の中で取る必要がある。この流れを守ると、尖点、数体の整数環、正規スキームの例を同じ定義から比較できる。

参照箇所

  • StacksIntegral §10.36 は整元・整閉包の定義と整性の基本性質を扱う。モニック方程式と整閉包の説明に用いた。
  • StacksNormal §10.37 Definition 10.37.1 は整閉整域と正規整域の同義性、Lemmas 10.37.5, 10.37.10 は局所化と局所判定、Definition 10.37.11 は一般の正規環を扱う。
  • StacksDVR Lemma 10.119.7 は $1$ 次元 Noether 局所正規整域と離散付値環の同値条件を述べる。

関連項目

参考文献

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