環付き空間

同義語:ringed space環付空間局所環付き空間locally ringed space

概要

環付き空間(ringed space)とは、位相空間 $X$ と $X$ 上の可換環の層 $\mathcal{O}_X$(構造層)の組 $(X,\mathcal{O}_X)$ のことである。射は連続写像 $f\colon X\to Y$ と環の層の射 $f^\sharp\colon\mathcal{O}_Y\to f_*\mathcal{O}_X$ の組である。すべての茎が局所環であるものを局所環付き空間、茎の準同型がすべて局所準同型である射を局所射という。多様体・複素解析空間・スキームはいずれも局所環付き空間である。$\mathcal{O}_X$ 加群の引き戻し $f^*$ は押し出し $f_*$ の左随伴であり、局所射 $\operatorname{Spec}B\to\operatorname{Spec}A$ は環準同型 $A\to B$ と 1 対 1 に対応する。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 位相空間, 層, 可換環, 局所環, 加群, 圏

定義

環付き空間は、位相空間の各開集合に「その上の関数の環」を対応させる層を添えたものである。多様体では関数の環は実際に関数からなるが、スキームや複素解析空間では冪零元を含む環を許すので、「関数の層」ではなく「環の層」を公理として与える。

環付き空間とその射

$X$ を位相空間、$\mathcal{O}_X$ を $X$ 上の可換環の層(各開集合 $U$ に可換環 $\mathcal{O}_X(U)$ を対応させ、制限写像が環準同型であるような層)とする。組 $(X,\mathcal{O}_X)$ を環付き空間(ringed space)といい、$\mathcal{O}_X$ をその構造層(structure sheaf)、$X$ を台空間という。$\mathcal{O}_X(U)$ の元を $U$ 上の切断といい、$\Gamma(U,\mathcal{O}_X)$ とも書く。
環付き空間の射 $(f,f^\sharp)\colon(X,\mathcal{O}_X)\to(Y,\mathcal{O}_Y)$ とは、連続写像 $f\colon X\to Y$ と、$Y$ 上の環の層の射
$$ f^\sharp\colon\mathcal{O}_Y\longrightarrow f_*\mathcal{O}_X $$
の組をいう。ここで $f_*\mathcal{O}_X$ は順像(順像層)、すなわち $Y$ の開集合 $V$ に $\mathcal{O}_X(f^{-1}(V))$ を対応させる $Y$ 上の環の層である。射の合成は $(g,g^\sharp)\circ(f,f^\sharp):=(g\circ f,\ g_*(f^\sharp)\circ g^\sharp)$ で定め、恒等射は $(\mathrm{id}_X,\mathrm{id}_{\mathcal{O}_X})$ とする。環付き空間とその射のなす圏を $\mathbf{RS}$ と書く。射 $(f,f^\sharp)$ が同型であることは、$f$ が同相写像で $f^\sharp$ が層の同型であることと同値である。

順像 $f_*$ と逆像 $f^{-1}$(逆像層)の随伴(随伴関手)$f^{-1}\dashv f_*$(Har77 II 演習 1.18)により、$f^\sharp\colon\mathcal{O}_Y\to f_*\mathcal{O}_X$ を与えることは $X$ 上の環の層の射 $f^\flat\colon f^{-1}\mathcal{O}_Y\to\mathcal{O}_X$ を与えることと同じである。点 $x\in X$ における茎をとると、$(f^{-1}\mathcal{O}_Y)_x=\mathcal{O}_{Y,f(x)}$ なので、環準同型
$$ f^\sharp_x\colon\mathcal{O}_{Y,f(x)}\longrightarrow\mathcal{O}_{X,x} $$
が得られる。具体的には、$f(x)$ の開近傍 $V$ 上の切断 $s\in\mathcal{O}_Y(V)$ の $f(x)$ における芽 $s_{f(x)}$ を、$f^\sharp_V(s)\in\mathcal{O}_X(f^{-1}(V))$ の $x$ における芽に送る写像である($f^\sharp$ が制限と可換なので、芽の代表 $s$ の取り方によらない)。
開集合 $U\subset X$ に対し $(U,\mathcal{O}_X|_U)$ は環付き空間であり(開部分空間)、包含写像 $j\colon U\to X$ と制限写像 $\mathcal{O}_X(V)\to\mathcal{O}_X(V\cap U)$ の組 $(j,j^\sharp)$ は環付き空間の射である。その茎の写像 $j^\sharp_x$ は恒等写像である。

局所環付き空間と局所射

環付き空間 $(X,\mathcal{O}_X)$ が局所環付き空間(locally ringed space)であるとは、すべての点 $x\in X$ で茎 $\mathcal{O}_{X,x}$ が局所環であることをいう。その極大イデアルを $\mathfrak{m}_x$ と書く。
局所環付き空間の間の環付き空間の射 $(f,f^\sharp)\colon(X,\mathcal{O}_X)\to(Y,\mathcal{O}_Y)$ が局所射、または局所環付き空間の射であるとは、すべての $x\in X$ で $f^\sharp_x\colon\mathcal{O}_{Y,f(x)}\to\mathcal{O}_{X,x}$ が局所準同型であること、すなわち
$$ f^\sharp_x(\mathfrak{m}_{f(x)})\subset\mathfrak{m}_x $$
をみたすことをいう。局所環付き空間と局所射のなす圏を $\mathbf{LRS}$ と書く。

局所準同型の合成は局所準同型なので $\mathbf{LRS}$ は $\mathbf{RS}$ の部分圏である(Har77 II §2、Liu02 2.2)。しかし充満部分圏ではない。局所射でない射の例は ex-ringed-space-nonlocal で与える。局所性の条件は次のように言い換えられる。

局所準同型の言い換え

$(A,\mathfrak{m})$、$(B,\mathfrak{n})$ を局所環、$\varphi\colon A\to B$ を環準同型とする。次は同値である。

  1. $\varphi(\mathfrak{m})\subset\mathfrak{n}$。
  2. $\varphi^{-1}(\mathfrak{n})=\mathfrak{m}$。
  3. $a\in A$ について、$\varphi(a)$ が $B$ の単元ならば $a$ は $A$ の単元である。

1 ならば 2:$\varphi^{-1}(\mathfrak{n})$ は $A$ のイデアルで、$1$ を含まず($\varphi(1)=1\notin\mathfrak{n}$)、仮定により $\mathfrak{m}$ を含む。$\mathfrak{m}$ は極大イデアルなので $\varphi^{-1}(\mathfrak{n})=\mathfrak{m}$ である。2 ならば 1 は明らかである。1 と 3 の同値:局所環では単元でない元の全体が極大イデアルに一致するので、1 は「$a\in\mathfrak{m}$ ならば $\varphi(a)\in\mathfrak{n}$」、3 はその対偶「$\varphi(a)\notin\mathfrak{n}$ ならば $a\notin\mathfrak{m}$」である。

たとえば $p$ を素数とし、$\mathbb{Z}_{(p)}=\{a/b\in\mathbb{Q}\mid p\nmid b\}$ を $p$ での局所化とすると、包含 $\mathbb{Z}_{(p)}\hookrightarrow\mathbb{Q}$ は局所環の間の環準同型だが、極大イデアル $p\mathbb{Z}_{(p)}$ の元 $p$ を $\mathbb{Q}$ の単元に送るので局所準同型ではない。

点における剰余体と接空間

$(X,\mathcal{O}_X)$ を局所環付き空間、$x\in X$ とする。

  1. 体 $\kappa(x):=\mathcal{O}_{X,x}/\mathfrak{m}_x$ を $x$ における剰余体(剰余体)という。$x$ を含む開集合 $U$ 上の切断 $s\in\mathcal{O}_X(U)$ に対し、芽 $s_x$ の $\kappa(x)$ における像を $s(x)$ と書き、$s$ の $x$ における値という。
  2. $\kappa(x)$ 上のベクトル空間 $\mathfrak{m}_x/\mathfrak{m}_x^2$ を $x$ における(Zariski の)余接空間(余接空間)、その双対空間
    $$ T_xX:=\operatorname{Hom}_{\kappa(x)}(\mathfrak{m}_x/\mathfrak{m}_x^2,\ \kappa(x)) $$
    を $x$ における(Zariski の)接空間(接空間)という。

$s(x)\ne0$ であることは $s_x$ が局所環 $\mathcal{O}_{X,x}$ の単元であることと同値であり、これは $x$ のある開近傍 $U'\subset U$ で $s|_{U'}$ が $\mathcal{O}_X(U')$ の単元であることと同値である($s_xt_x=1$ なら $x$ の近傍で $st=1$)。したがって $\{x\in U\mid s(x)\ne0\}$ は開集合である。
局所射 $(f,f^\sharp)\colon X\to Y$ は、$f^\sharp_x(\mathfrak{m}_{f(x)})\subset\mathfrak{m}_x$ により、体の準同型 $\kappa(f(x))\to\kappa(x)$ と $\mathfrak{m}_{f(x)}/\mathfrak{m}_{f(x)}^2\to\mathfrak{m}_x/\mathfrak{m}_x^2$ を誘導する。後者は $\kappa(f(x))\to\kappa(x)$ に関して半線形なので、$\kappa(x)$ 上の線形写像 $\mathfrak{m}_{f(x)}/\mathfrak{m}_{f(x)}^2\otimes_{\kappa(f(x))}\kappa(x)\to\mathfrak{m}_x/\mathfrak{m}_x^2$ を与え、その双対が接空間の写像
$$ df_x\colon T_xX\longrightarrow\operatorname{Hom}_{\kappa(f(x))}(\mathfrak{m}_{f(x)}/\mathfrak{m}_{f(x)}^2,\ \kappa(x)) $$
である。余接空間 $\mathfrak{m}_{f(x)}/\mathfrak{m}_{f(x)}^2$ が有限次元なら(多様体・局所 Noether スキームなど)右辺は $T_{f(x)}Y\otimes_{\kappa(f(x))}\kappa(x)$ に等しい。また切断の値については、$s\in\mathcal{O}_Y(V)$ と $x\in f^{-1}(V)$ に対し $s(f(x))\in\kappa(f(x))$ の像が $(f^\sharp_V s)(x)\in\kappa(x)$ である。局所射でない射ではこれらは定義できない。

環の上の環付き空間

可換環 $k$(多くは体)に対し、$\mathcal{O}_X$ が $k$ 代数の層である環付き空間を $k$ 上の環付き空間、$k$ 代数の層の射を $f^\sharp$ にもつ射を $k$ 上の射という。これは 1 点空間に $k$ を載せた環付き空間 $(\mathrm{pt},k)$ への射を固定することと同じである。複素解析空間は $\mathbb{C}$ 上の局所環付き空間として、多様体は $\mathbb{R}$ 上の局所環付き空間として定義される(ex-ringed-space-manifold)。
零環は極大イデアルをもたないので局所環ではない。したがって局所環付き空間の茎はすべて零環でなく、任意の開集合 $U\ne\emptyset$ で $\mathcal{O}_X(U)\ne0$ である。茎が零環になる点をもつ環付き空間(たとえば構造層がある空でない開集合の上で $0$ になるもの)は局所環付き空間ではない。

直感

環付き空間とは「空間と、その上の関数と呼ぶべきものの一覧」の組である。位相空間の上の連続関数、可微分多様体の上の滑らかな関数、複素多様体の上の正則関数は、いずれも「開集合ごとに環をなし、制限と貼り合わせができる」という層の性質をもち、空間の幾何はどの関数を許すかで決まる。同じ位相空間 $\mathbb{R}^n$ でも、連続関数の層を載せれば位相空間、滑らかな関数の層を載せれば可微分多様体になる。環付き空間の射とは、連続写像 $f$ に加えて「$Y$ 上の関数を $f$ で引き戻す操作」$f^\sharp$ を指定したものである。関数の層では引き戻しは $\varphi\mapsto\varphi\circ f$ しかありえないが、抽象的な環の層ではそうではないので、$f^\sharp$ を構造の一部として与える。局所環付き空間の条件は、各点で「その点で消える関数」が極大イデアルとして意味をもつことを要求し、局所射の条件は「$f(x)$ で消える関数を引き戻せば $x$ で消える」という、関数の引き戻しなら自明な性質を公理として課す。これにより値・剰余体・接空間が定義でき、thm-ringed-space-spec-morphisms のように環の代数と空間の幾何が正確に対応する。

例と反例

位相空間と連続関数の層

位相空間 $X$ に対し、開集合 $U$ に $U$ 上の実数値連続関数の環 $\mathcal{C}_X(U):=C(U,\mathbb{R})$ を対応させると、連続性は局所的な性質なので $\mathcal{C}_X$ は $X$ 上の $\mathbb{R}$ 代数の層である。$(X,\mathcal{C}_X)$ は局所環付き空間である。実際、点 $x$ における評価 $\mathrm{ev}_x\colon\mathcal{C}_{X,x}\to\mathbb{R}$、$g\mapsto g(x)$ は全射な環準同型なので、その核 $\mathfrak{m}_x=\{g\mid g(x)=0\}$ は極大イデアルである。さらに $g(x)\ne0$ なら、連続性により $x$ のある開近傍 $V$ で $g\ne0$ であり、$1/g\in C(V,\mathbb{R})$ が $g$ の逆元の芽を与える。よって $\mathfrak{m}_x$ の外の元はすべて単元で、$\mathcal{C}_{X,x}$ は $\mathfrak{m}_x$ を極大イデアルとする局所環である。剰余体は $\kappa(x)=\mathbb{R}$ で、切断の値 $s(x)$ は関数としての値に一致する。
連続写像 $f\colon X\to Y$ に対し、$f^\sharp_V(\varphi):=\varphi\circ f|_{f^{-1}(V)}$ とおけば $(f,f^\sharp)$ は局所射である($\varphi(f(x))=0$ なら $(\varphi\circ f)(x)=0$)。逆に $\mathbb{R}$ 上の局所射 $(X,\mathcal{C}_X)\to(Y,\mathcal{C}_Y)$ はすべてこの形である(prop-ringed-space-function-pullback)。
この空間の接空間はすべて $0$ である。実際、$g\in\mathfrak{m}_x$ に対し $h_1:=\operatorname{sgn}(g)\sqrt{|g|}$、$h_2:=\sqrt{|g|}$ は連続で $x$ で $0$ になり、$g=h_1h_2\in\mathfrak{m}_x^2$ である。よって $\mathfrak{m}_x=\mathfrak{m}_x^2$、$T_xX=0$ となる。接空間は台空間ではなく構造層で決まる。

可微分多様体の構造層

$\mathbb{R}^n$ の開集合 $U$ に $C^\infty$ 級関数(滑らかな関数)の環 $C^\infty(U)$ を対応させる層 $\mathcal{C}^\infty_{\mathbb{R}^n}$ を考える。$n$ 次元の可微分多様体とは、Hausdorff(Hausdorff空間)で第2可算公理をみたす位相空間 $M$ と $\mathbb{R}$ 代数の層 $\mathcal{C}^\infty_M$ の組で、各点が $(\mathbb{R}^n,\mathcal{C}^\infty_{\mathbb{R}^n})$ の開部分空間と($\mathbb{R}$ 上の環付き空間として)同型な開近傍をもつものである。これは座標近傍系による通常の定義と同値であり(Lee12 第 1 章の定義から $\mathcal{C}^\infty_M$ を作れば局所同型になり、逆に局所同型を与える開集合が座標近傍になる)、ex-ringed-space-continuous と同じ議論で局所環付き空間である。$\mathbb{R}$ 上の局所射 $(M,\mathcal{C}^\infty_M)\to(N,\mathcal{C}^\infty_N)$ は prop-ringed-space-function-pullback により $\varphi\mapsto\varphi\circ f$ の形の射であり、座標関数の引き戻しが $C^\infty$ 級であることから $f$ は $C^\infty$ 級写像である。逆に $C^\infty$ 級写像は局所射を与える。したがって可微分多様体の圏は $\mathbb{R}$ 上の局所環付き空間の圏の充満部分圏である。
$x\in M$ における Zariski 接空間は通常の接空間と一致する。$\mathfrak{m}_x$ の元 $g$ に対し、Hadamardの補題(積分形の Taylor の公式から従う。Lee12 付録 C)により、局所座標 $x_1,\dots,x_n$ で $x$ を原点とすれば $g=\sum_ix_ig_i$($g_i$ は $C^\infty$ 級の芽)と書ける。よって $\mathfrak{m}_x$ は $x_1,\dots,x_n$ で生成され、$\mathfrak{m}_x/\mathfrak{m}_x^2$ はそれらの類で張られる。これらは線形独立である。実際、$x$ における偏微分 $\partial/\partial x_i$ は $\mathfrak{m}_x^2$ 上で $0$ になる $\mathfrak{m}_x$ 上の線形形式で、$x_j$ の類を $\delta_{ij}$ に送る。したがって $\dim_{\mathbb{R}}T_xM=n$ である。さらに、点 $x$ における導分 $D\colon\mathcal{C}^\infty_{M,x}\to\mathbb{R}$($D(gh)=g(x)D(h)+h(x)D(g)$)は定数と $\mathfrak{m}_x^2$ を消すので $\mathfrak{m}_x/\mathfrak{m}_x^2$ 上の線形形式を定め、逆に線形形式 $\ell$ から $D(g):=\ell(g-g(x))$ が導分になるので、$T_xM$ は導分のなす通常の接空間と同型である。

複素多様体と複素解析空間

複素多様体 $M$ に正則関数の層 $\mathcal{O}_M$ を載せた $(M,\mathcal{O}_M)$ は $\mathbb{C}$ 上の局所環付き空間であり、$\mathbb{C}$ 上の局所射は正則写像に他ならない(prop-ringed-space-function-pullback と、座標関数の引き戻しが正則なら写像が正則であることによる)。茎 $\mathcal{O}_{M,x}$ は $n$ 変数の収束冪級数環 $\mathbb{C}\{z_1,\dots,z_n\}$ と同型で、剰余体は $\mathbb{C}$ である。
複素解析空間は、$\mathbb{C}^n$ の開集合 $U$ 上の正則関数 $f_1,\dots,f_r$ の共通零点集合 $V$ に層 $(\mathcal{O}_U/(f_1,\dots,f_r))|_V$ を載せた局所模型と局所的に同型な $\mathbb{C}$ 上の局所環付き空間である。構造層は冪零元をもちうるので関数の層ではない。たとえば 1 点に環 $\mathbb{C}[t]/(t^2)$ を載せた空間は複素解析空間($U=\mathbb{C}$、$f_1=z^2$ の局所模型)だが、その切断 $t$ はすべての点で値 $0$ をとる非零の切断である。このような空間の間の射は $f$ だけでは決まらず、$f^\sharp$ が本質的な情報をもつ。

アフィンスキームの構成

可換環 $A$ に対し、素イデアル全体の集合 $X=\operatorname{Spec}A$ に、$V(\mathfrak{a}):=\{\mathfrak{p}\mid\mathfrak{p}\supset\mathfrak{a}\}$ を閉集合とする Zariski位相を入れる。$g\in A$ に対し $D(g):=X\setminus V(g)=\{\mathfrak{p}\mid g\notin\mathfrak{p}\}$ は開集合で、これらは開基をなす。構造層 $\mathcal{O}_X$ は次のように定める(Har77 II §2)。開集合 $U$ に対し $\mathcal{O}_X(U)$ を、写像 $s\colon U\to\coprod_{\mathfrak{p}\in U}A_{\mathfrak{p}}$($A_{\mathfrak{p}}$ は $\mathfrak{p}$ での局所化)で、各 $\mathfrak{p}\in U$ について $s(\mathfrak{p})\in A_{\mathfrak{p}}$ であり、かつ $\mathfrak{p}$ の開近傍 $W\subset U$ と $a,g\in A$ で「すべての $\mathfrak{q}\in W$ について $g\notin\mathfrak{q}$ かつ $s(\mathfrak{q})=a/g$」となるものが存在するもの(局所的に分数で書ける写像)の全体とする。各点ごとの演算で $\mathcal{O}_X(U)$ は環になり、条件が局所的なので $\mathcal{O}_X$ は環の層である。$(X,\mathcal{O}_X)$ を $A$ のアフィンスキーム(アフィンスキーム)といい、やはり $\operatorname{Spec}A$ と書く。
基本的な事実として、$\Gamma(D(g),\mathcal{O}_X)\cong A_g$、とくに $\Gamma(X,\mathcal{O}_X)\cong A$ である(Har77 II.2.2。本記事では証明しない)。茎は prop-ringed-space-spec-stalk により $\mathcal{O}_{X,\mathfrak{p}}\cong A_{\mathfrak{p}}$ で局所環なので、$\operatorname{Spec}A$ は局所環付き空間である。剰余体は $\kappa(\mathfrak{p})=A_{\mathfrak{p}}/\mathfrak{p}A_{\mathfrak{p}}$、すなわち整域 $A/\mathfrak{p}$ の商体であり、$a\in A=\Gamma(X,\mathcal{O}_X)$ の値 $a(\mathfrak{p})$ は $a$ の $\kappa(\mathfrak{p})$ における像である。たとえば $A=k[t]$($k$ は代数閉体)では、閉点 $\mathfrak{p}=(t-c)$ で $\kappa(\mathfrak{p})=k$、$a(\mathfrak{p})=a(c)$ は多項式の値であり、生成点 $(0)$ では $\kappa((0))=k(t)$ である。接空間の例として、$A=k[x,y]/(y^2-x^3)$ の原点 $\mathfrak{m}=(x,y)$ では $\mathfrak{m}/\mathfrak{m}^2$ が $x,y$ の類で張られ、関係式 $y^2-x^3$ は $\mathfrak{m}^2$ に入るので $\dim T_{\mathfrak{m}}=2$ となり、曲線の次元 $1$ より大きい(尖点が特異点であることの表れ)。
スキームとは、各点がアフィンスキームと同型な開近傍をもつ局所環付き空間であり、スキームの射とは局所環付き空間の射である。局所射を要求する理由は thm-ringed-space-spec-morphisms と ex-ringed-space-nonlocal で明らかになる。

アフィンスキームの茎

$A$ を可換環、$X=\operatorname{Spec}A$、$\mathfrak{p}\in X$ とする。$\mathcal{O}_{X,\mathfrak{p}}\to A_{\mathfrak{p}}$、$(U,s)\mapsto s(\mathfrak{p})$ は環の同型である。

$s\in\mathcal{O}_X(U)$ と $s'\in\mathcal{O}_X(U')$ が $\mathfrak{p}$ で同じ芽をもつなら、$\mathfrak{p}$ のある開近傍で $s=s'$ なので $s(\mathfrak{p})=s'(\mathfrak{p})$ である。よって写像は芽の代表の取り方によらず定まり、各点ごとの演算で定義した環構造から環準同型である。
全射性:$A_{\mathfrak{p}}$ の任意の元は $a/g$($a,g\in A$、$g\notin\mathfrak{p}$)と書ける。開集合 $D(g)\ni\mathfrak{p}$ 上で $\mathfrak{q}\mapsto a/g\in A_{\mathfrak{q}}$ と定めた写像 $s$ は $\mathcal{O}_X(D(g))$ の元であり、$s(\mathfrak{p})=a/g$ である。
単射性:$s\in\mathcal{O}_X(U)$、$t\in\mathcal{O}_X(U')$ が $s(\mathfrak{p})=t(\mathfrak{p})$ をみたすとする。定義により、$\mathfrak{p}$ の開近傍 $W\subset U\cap U'$ と $a,g,b,h\in A$ で、すべての $\mathfrak{q}\in W$ について $g,h\notin\mathfrak{q}$、$s(\mathfrak{q})=a/g$、$t(\mathfrak{q})=b/h$ となるものがある。$A_{\mathfrak{p}}$ で $a/g=b/h$ なので、局所化の定義により $c\in A\setminus\mathfrak{p}$ で $c(ah-bg)=0$ となるものがある。すると開集合 $W':=W\cap D(c)\ni\mathfrak{p}$ の各点 $\mathfrak{q}$ で $c\notin\mathfrak{q}$ なので、$A_{\mathfrak{q}}$ において $a/g=b/h$、すなわち $s(\mathfrak{q})=t(\mathfrak{q})$ である。よって $s|_{W'}=t|_{W'}$ となり、$s$ と $t$ は $\mathfrak{p}$ で同じ芽をもつ。

反例:局所射でない環付き空間の射

$p$ を素数、$R:=\mathbb{Z}_{(p)}$、$K$ を $\mathbb{Q}$ を含む体とする。$Y:=\operatorname{Spec}R$ は生成点 $\eta=(0)$ と閉点 $\mathfrak{s}=pR$ の 2 点からなり、開集合は $\emptyset$、$\{\eta\}$、$Y$ で、$\mathcal{O}_Y(Y)=R$、$\mathcal{O}_Y(\{\eta\})=R_{(0)}=\mathbb{Q}$ である。$X:=\operatorname{Spec}K$ は 1 点 $\xi$ からなり $\mathcal{O}_X(X)=K$ である。
$K$ は標数 $0$ なので、$R$ から $K$ への環準同型は $\mathbb{Z}\to K$ を局所化に延ばした包含 $\varphi\colon R\hookrightarrow K$ の 1 個だけである。$\varphi$ が thm-ringed-space-spec-morphisms により定める局所射は、$\xi$ を $K$ の素イデアル $(0)$ の逆像 $\varphi^{-1}((0))=(0)=\eta$、すなわち生成点に送る射である。これに対し、次の射 $(f,f^\sharp)$ を考える。$f(\xi):=\mathfrak{s}$(閉点へ送る)とし、$f^\sharp\colon\mathcal{O}_Y\to f_*\mathcal{O}_X$ を、$Y$ 上では包含 $R\hookrightarrow K=(f_*\mathcal{O}_X)(Y)$、$\{\eta\}$ 上では唯一の写像 $\mathbb{Q}\to(f_*\mathcal{O}_X)(\{\eta\})=\mathcal{O}_X(f^{-1}(\{\eta\}))=\mathcal{O}_X(\emptyset)=0$ とする。制限写像との両立は、$R\to\mathbb{Q}\to0$ と $R\to K\to0$ がともに零写像であることから明らかである。よって $(f,f^\sharp)$ は環付き空間の射である。
しかし $(f,f^\sharp)$ は局所射ではない。$\mathfrak{s}$ を含む開集合は $Y$ だけなので $\mathcal{O}_{Y,\mathfrak{s}}=R$ であり、茎の写像 $f^\sharp_\xi\colon R\to\mathcal{O}_{X,\xi}=K$ は包含である。これは $\mathfrak{m}_{\mathfrak{s}}=pR$ の元 $p$ を $K$ の単元に送るので $f^\sharp_\xi(\mathfrak{m}_{\mathfrak{s}})\not\subset\mathfrak{m}_\xi=0$ である(lem-ringed-space-local-hom の 2 でいえば $(f^\sharp_\xi)^{-1}(0)=0\ne pR$)。この射が満たす性質は環付き空間の射の公理(連続写像と環の層の射の組)、満たさない性質は局所性であり、破る含意は「$\operatorname{Spec}K\to\operatorname{Spec}R$ の射は環準同型 $R\to K$ と 1 対 1 に対応する」という thm-ringed-space-spec-morphisms の結論を $\mathbf{RS}$ に拡げたものである。実際、環準同型 $R\to K$ は $\varphi$ の 1 個しかないが、$\mathbf{RS}$ には上の射と局所射 $\operatorname{Spec}\varphi$ の少なくとも 2 個の射がある。切断の値も保たれない。$p\in\mathcal{O}_Y(Y)$ は $\mathfrak{s}$ で値 $0$ をとるのに、引き戻し $f^\sharp_Y(p)=p\in K$ は $\xi$ で値 $p\ne0$ をとる。
一般に、$X=\operatorname{Spec}K$ から局所環付き空間 $Y$ への局所射を与えることは、点 $y\in Y$ と体の準同型 $\kappa(y)\to K$ を与えることと同値である($Y$ がスキームの場合が Har77 II 演習 2.7。証明は一般の局所環付き空間でも同じ)。上の例では、$\xi$ を閉点 $\mathfrak{s}$ に送る局所射は $\kappa(\mathfrak{s})=\mathbb{F}_p\to K$ が存在しないので 1 個もない。

性質

構造層上の加群と引き戻し

$(X,\mathcal{O}_X)$ を環付き空間とする。$\mathcal{O}_X$ 加群($\mathcal{O}_X$ 加群層)とは、アーベル群の層 $\mathcal{F}$ で、各開集合 $U$ について $\mathcal{F}(U)$ に $\mathcal{O}_X(U)$ 加群の構造が与えられ、制限写像が $\mathcal{O}_X(U)\to\mathcal{O}_X(U')$ と両立するものをいう。$\mathcal{O}_X$ 加群の射とは、各 $\mathcal{F}(U)\to\mathcal{G}(U)$ が $\mathcal{O}_X(U)$ 線形な層の射をいう。$\mathcal{O}_X$ 加群 $\mathcal{F},\mathcal{G}$ のテンソル積 $\mathcal{F}\otimes_{\mathcal{O}_X}\mathcal{G}$ は、前層 $U\mapsto\mathcal{F}(U)\otimes_{\mathcal{O}_X(U)}\mathcal{G}(U)$ の層化である。
$(f,f^\sharp)\colon(X,\mathcal{O}_X)\to(Y,\mathcal{O}_Y)$ を環付き空間の射とする。

  1. $\mathcal{O}_X$ 加群 $\mathcal{F}$ の押し出し(順像)$f_*\mathcal{F}$ は、$V\mapsto\mathcal{F}(f^{-1}(V))$ が $f_*\mathcal{O}_X$ 加群であることと $f^\sharp\colon\mathcal{O}_Y\to f_*\mathcal{O}_X$ により、$\mathcal{O}_Y$ 加群である。
  2. $\mathcal{O}_Y$ 加群 $\mathcal{G}$ の引き戻し(加群層の引き戻し)は
    $$ f^*\mathcal{G}:=f^{-1}\mathcal{G}\otimes_{f^{-1}\mathcal{O}_Y}\mathcal{O}_X $$
    で定める。ここで $\mathcal{O}_X$ は $f^\flat\colon f^{-1}\mathcal{O}_Y\to\mathcal{O}_X$ により $f^{-1}\mathcal{O}_Y$ 代数の層とみる。$f^*\mathcal{G}$ は $\mathcal{O}_X$ 加群で、$f^*\mathcal{O}_Y=\mathcal{O}_X$ である。

茎は逆像とテンソル積と可換なので $(f^*\mathcal{G})_x=\mathcal{G}_{f(x)}\otimes_{\mathcal{O}_{Y,f(x)}}\mathcal{O}_{X,x}$ である。以下の証明では、逆像の構成と層化の普遍性(Har77 II §1)を用いる。すなわち $f^{-1}\mathcal{G}$ は前層 $f_p^{-1}\mathcal{G}\colon U\mapsto\varinjlim_{V\supset f(U)}\mathcal{G}(V)$(帰納極限は $f(U)$ を含む開集合 $V$ 全体にわたる)の層化であり、$f^\flat$ は $f_p^{-1}\mathcal{O}_Y(U)\ni[a]\mapsto f^\sharp_V(a)|_U$($a\in\mathcal{O}_Y(V)$)の層化である。前層 $P$ の層化 $P^+$ について、層 $\mathcal{F}$ への層の射 $P^+\to\mathcal{F}$ は前層の射 $P\to\mathcal{F}$ と 1 対 1 に対応する。さらに $P$ が環の前層 $\mathcal{A}$ 上の加群の前層なら、$P^+\to\mathcal{F}$ が $\mathcal{A}^+$ 線形であることと $P\to\mathcal{F}$ が $\mathcal{A}$ 線形であることは同値である。実際、$\mathcal{F}$ が層なので線形性の等式は各点の茎で確かめればよく、$P\to P^+$ と $\mathcal{A}\to\mathcal{A}^+$ は茎の同型を誘導する。

係数拡大の随伴

$\mathcal{A}\to\mathcal{B}$ を位相空間 $X$ 上の環の層の射、$\mathcal{M}$ を $\mathcal{A}$ 加群、$\mathcal{N}$ を $\mathcal{B}$ 加群とする。$\mathcal{N}$ を $\mathcal{A}$ 加群とみなすとき、自然な全単射
$$ \operatorname{Hom}_{\mathcal{B}}(\mathcal{M}\otimes_{\mathcal{A}}\mathcal{B},\mathcal{N})\cong\operatorname{Hom}_{\mathcal{A}}(\mathcal{M},\mathcal{N}) $$
がある。

$P\colon U\mapsto\mathcal{M}(U)\otimes_{\mathcal{A}(U)}\mathcal{B}(U)$ を $\mathcal{B}$ 加群の前層とすると、$\mathcal{M}\otimes_{\mathcal{A}}\mathcal{B}=P^+$ であり、上に述べた層化の普遍性により $\operatorname{Hom}_{\mathcal{B}}(P^+,\mathcal{N})$ は $\mathcal{B}$ 線形な前層の射 $P\to\mathcal{N}$ の全体と一致する。それは、各 $U$ について $\mathcal{B}(U)$ 線形写像 $\mathcal{M}(U)\otimes_{\mathcal{A}(U)}\mathcal{B}(U)\to\mathcal{N}(U)$ を制限と両立するように与えることである。環上の加群の通常のテンソル積の普遍性により、$\mathcal{B}(U)$ 線形写像 $\mathcal{M}(U)\otimes_{\mathcal{A}(U)}\mathcal{B}(U)\to\mathcal{N}(U)$ は $\mathcal{A}(U)$ 線形写像 $\mathcal{M}(U)\to\mathcal{N}(U)$($m$ を $m\otimes1$ の像に送る)と 1 対 1 に対応し、この対応は $U$ について自然なので、制限との両立は両側で同じ条件である。よって $\mathcal{B}$ 線形な前層の射 $P\to\mathcal{N}$ は $\mathcal{A}$ 線形な層の射 $\mathcal{M}\to\mathcal{N}$ と 1 対 1 に対応する。

引き戻しと押し出しの随伴

$(f,f^\sharp)\colon(X,\mathcal{O}_X)\to(Y,\mathcal{O}_Y)$ を環付き空間の射、$\mathcal{F}$ を $\mathcal{O}_X$ 加群、$\mathcal{G}$ を $\mathcal{O}_Y$ 加群とする。$\mathcal{F}$ と $\mathcal{G}$ について自然な全単射
$$ \operatorname{Hom}_{\mathcal{O}_X}(f^*\mathcal{G},\mathcal{F})\cong\operatorname{Hom}_{\mathcal{O}_Y}(\mathcal{G},f_*\mathcal{F}) $$
がある。すなわち $f^*$ は $f_*$ の左随伴関手である。

lem-ringed-space-scalar-extension を $\mathcal{A}=f^{-1}\mathcal{O}_Y$、$\mathcal{B}=\mathcal{O}_X$、$\mathcal{M}=f^{-1}\mathcal{G}$ に適用すると $\operatorname{Hom}_{\mathcal{O}_X}(f^*\mathcal{G},\mathcal{F})\cong\operatorname{Hom}_{f^{-1}\mathcal{O}_Y}(f^{-1}\mathcal{G},\mathcal{F})$ である。残るのは
$$ \operatorname{Hom}_{f^{-1}\mathcal{O}_Y}(f^{-1}\mathcal{G},\mathcal{F})\cong\operatorname{Hom}_{\mathcal{O}_Y}(\mathcal{G},f_*\mathcal{F}) $$
である。層化の普遍性により、左辺は $f_p^{-1}\mathcal{O}_Y$ 線形な前層の射 $\Phi\colon f_p^{-1}\mathcal{G}\to\mathcal{F}$ の全体である。まず線形性を忘れて前層の射 $\Phi$ を調べる。帰納極限の普遍性により、$\Phi_U\colon\varinjlim_{V\supset f(U)}\mathcal{G}(V)\to\mathcal{F}(U)$ を与えることは、$f(U)\subset V$ なる各 $V$ について写像 $\Phi_{U,V}\colon\mathcal{G}(V)\to\mathcal{F}(U)$ を $V'\subset V$ の制限と両立するように与えることであり、$\Phi$ が前層の射であることは $U'\subset U$ について $\Phi_{U',V}=\mathrm{res}^{U}_{U'}\circ\Phi_{U,V}$ が成り立つことである。このような族 $(\Phi_{U,V})$ に対し $\psi_V:=\Phi_{f^{-1}(V),V}\colon\mathcal{G}(V)\to\mathcal{F}(f^{-1}(V))=(f_*\mathcal{F})(V)$ とおくと $\psi$ は前層の射 $\mathcal{G}\to f_*\mathcal{F}$ であり、逆に前層の射 $\psi\colon\mathcal{G}\to f_*\mathcal{F}$ に対し、$U\subset f^{-1}(V)$ に注意して $\Phi_{U,V}:=\mathrm{res}^{f^{-1}(V)}_U\circ\psi_V$ とおけば上の両立条件をみたす族が得られる。族 $(\Phi_{U,V})$ は $\Phi_{f^{-1}(V),V}$ の制限として復元されるので、2 つの構成は互いに逆である。これが随伴 $f^{-1}\dashv f_*$ の全単射である。
次に線形性を比べる。帰納極限の添字集合が有向集合なので、$f_p^{-1}\mathcal{O}_Y(U)$ と $f_p^{-1}\mathcal{G}(U)$ の元は共通の $V\supset f(U)$ 上の $a\in\mathcal{O}_Y(V)$、$s\in\mathcal{G}(V)$ の類 $[a]$、$[s]$ として表せる。$\Phi$ が $f_p^{-1}\mathcal{O}_Y$ 線形であるとは、$\Phi_U([a][s])=[a]\cdot\Phi_U([s])$、すなわち $f^\flat$ の定義により
$$ \Phi_{U,V}(as)=f^\sharp_V(a)|_U\cdot\Phi_{U,V}(s) $$
がすべての $U$、$V\supset f(U)$、$a$、$s$ について成り立つことである。$U=f^{-1}(V)$ ととればこれは $\psi_V(as)=f^\sharp_V(a)\,\psi_V(s)$ であり、逆にこの等式を $U$ に制限すれば一般の $U$ の等式が従う。そして $\psi_V(as)=f^\sharp_V(a)\psi_V(s)$ は、$f^\sharp$ で定めた $f_*\mathcal{F}$ の $\mathcal{O}_Y$ 加群構造に関して $\psi$ が $\mathcal{O}_Y$ 線形であることに他ならない。構成はすべて $\mathcal{F}$、$\mathcal{G}$ の射との合成と両立するので、この全単射は自然である。

関数の層の間の局所射は引き戻し

$k$ を体とする。$X$ 上の $k$ 値関数の層の部分 $k$ 代数層 $\mathcal{O}_X$(切断は $k$ 値関数、制限は関数の制限、定数関数を含む)で、各点 $x$ において $g(x)\ne0$ なる芽 $g\in\mathcal{O}_{X,x}$ がすべて単元であるものを考える。このとき $\mathcal{O}_{X,x}$ は $\mathfrak{m}_x=\{g\mid g(x)=0\}$ を極大イデアルとする局所環で、$\kappa(x)=k$ である(ex-ringed-space-continuous と同じ議論)。$(Y,\mathcal{O}_Y)$ も同様とし、$(f,f^\sharp)\colon X\to Y$ を $k$ 上の局所射とする。このとき $Y$ の任意の開集合 $V$ と $\varphi\in\mathcal{O}_Y(V)$ に対し
$$ f^\sharp_V(\varphi)=\varphi\circ f|_{f^{-1}(V)} $$
である。したがって $k$ 上の局所射 $X\to Y$ は、「すべての $V$ と $\varphi\in\mathcal{O}_Y(V)$ について $\varphi\circ f\in\mathcal{O}_X(f^{-1}(V))$」をみたす連続写像 $f$ と 1 対 1 に対応する。

$x\in f^{-1}(V)$ をとり、$c:=\varphi(f(x))\in k$ とおく。定数関数 $c$ は $\mathcal{O}_Y(V)$ の元なので $\varphi-c\in\mathcal{O}_Y(V)$ であり、その $f(x)$ における芽は値 $0$ をとるから $\mathfrak{m}_{f(x)}$ に属する。$f^\sharp_x$ が局所準同型なので $f^\sharp_x((\varphi-c)_{f(x)})\in\mathfrak{m}_x$、すなわち $f^\sharp_V(\varphi-c)$ は $x$ で値 $0$ をとる。$f^\sharp$ は $k$ 代数の射なので $f^\sharp_V(c)=c$ であり、$f^\sharp_V(\varphi)(x)=c=\varphi(f(x))$ を得る。$x$ は任意なので、関数として $f^\sharp_V(\varphi)=\varphi\circ f|_{f^{-1}(V)}$ である。後半は、$f^\sharp$ が $f$ から一意に定まること、および $\varphi\mapsto\varphi\circ f$ が条件のもとで $k$ 代数の層の射で局所的($\varphi(f(x))=0$ なら $(\varphi\circ f)(x)=0$)であることから従う。

アフィンスキームの射と環準同型

可換環 $A,B$ に対し、環準同型 $\varphi\colon A\to B$ に局所射 $\operatorname{Spec}\varphi\colon\operatorname{Spec}B\to\operatorname{Spec}A$ を対応させる写像は全単射
$$ \operatorname{Hom}_{\mathbf{Ring}}(A,B)\cong\operatorname{Hom}_{\mathbf{LRS}}(\operatorname{Spec}B,\operatorname{Spec}A) $$
を与える。逆写像は $(f,f^\sharp)$ に大域切断の写像 $f^\sharp_{\operatorname{Spec}A}\colon A=\Gamma(\operatorname{Spec}A,\mathcal{O})\to\Gamma(\operatorname{Spec}B,\mathcal{O})=B$ を対応させる。とくに $\operatorname{Spec}$ は可換環の圏から $\mathbf{LRS}$ への充満忠実関手(反変)である。

以下 $\Gamma(D(g),\mathcal{O})\cong A_g$、とくに $\Gamma(\operatorname{Spec}A,\mathcal{O})\cong A$($a\in A$ は切断 $\mathfrak{p}\mapsto a/1$ に対応する)と、prop-ringed-space-spec-stalk の同型 $\mathcal{O}_{\mathfrak{p}}\cong A_{\mathfrak{p}}$(芽を点での値に送る)を用いる。
構成:$\varphi\colon A\to B$ に対し $f(\mathfrak{q}):=\varphi^{-1}(\mathfrak{q})$ とおく。$\varphi^{-1}(\mathfrak{q})$ は素イデアルであり、$a\notin\varphi^{-1}(\mathfrak{q})$ と $\varphi(a)\notin\mathfrak{q}$ が同値なので $f^{-1}(D(a))=D(\varphi(a))$ となり、$f$ は連続である。$\mathfrak{q}\in\operatorname{Spec}B$、$\mathfrak{p}:=\varphi^{-1}(\mathfrak{q})$ に対し、$g\notin\mathfrak{p}$ なら $\varphi(g)\notin\mathfrak{q}$ なので、$\varphi_{\mathfrak{q}}\colon A_{\mathfrak{p}}\to B_{\mathfrak{q}}$、$a/g\mapsto\varphi(a)/\varphi(g)$ が定まる。$a\in\mathfrak{p}$ なら $\varphi(a)\in\mathfrak{q}$ なので $\varphi_{\mathfrak{q}}(\mathfrak{p}A_{\mathfrak{p}})\subset\mathfrak{q}B_{\mathfrak{q}}$、すなわち $\varphi_{\mathfrak{q}}$ は局所準同型である。開集合 $V\subset\operatorname{Spec}A$ と $s\in\mathcal{O}(V)$ に対し、$f^{-1}(V)$ 上の写像 $f^\sharp_V(s)\colon\mathfrak{q}\mapsto\varphi_{\mathfrak{q}}(s(f(\mathfrak{q})))\in B_{\mathfrak{q}}$ を考える。$s$ が $W\subset V$ 上で $a/g$ と書けていれば $f^\sharp_V(s)$ は $f^{-1}(W)$ 上で $\varphi(a)/\varphi(g)$ と書けるので、$f^\sharp_V(s)\in\mathcal{O}(f^{-1}(V))$ である。$f^\sharp$ は各点ごとの演算から環の層の射 $\mathcal{O}_{\operatorname{Spec}A}\to f_*\mathcal{O}_{\operatorname{Spec}B}$ であり、その茎の写像 $f^\sharp_{\mathfrak{q}}$ は、芽を値に送る同型のもとで $s(\mathfrak{p})\mapsto\varphi_{\mathfrak{q}}(s(\mathfrak{p}))$、すなわち $\varphi_{\mathfrak{q}}$ である。よって $\operatorname{Spec}\varphi:=(f,f^\sharp)$ は局所射である。大域切断では、$a\in A$ に対応する切断 $\mathfrak{p}\mapsto a/1$ が $\mathfrak{q}\mapsto\varphi(a)/1$ に送られるので $f^\sharp_{\operatorname{Spec}A}=\varphi$ であり、$\varphi$ が $\operatorname{Spec}\varphi$ から復元されるので $\varphi\mapsto\operatorname{Spec}\varphi$ は単射である。
全射性:局所射 $(f,f^\sharp)\colon\operatorname{Spec}B\to\operatorname{Spec}A$ をとり、$\varphi:=f^\sharp_{\operatorname{Spec}A}\colon A\to B$ とおいて $(f,f^\sharp)=\operatorname{Spec}\varphi$ を示す。$\mathfrak{q}\in\operatorname{Spec}B$、$\mathfrak{p}:=f(\mathfrak{q})$ とする。大域切断 $a\in A$ の $\mathfrak{p}$ における芽は $a/1\in A_{\mathfrak{p}}$ に対応し、$f^\sharp_{\mathfrak{q}}$ はそれを $\varphi(a)$ の $\mathfrak{q}$ における芽 $\varphi(a)/1$ に送る。したがって $f^\sharp_{\mathfrak{q}}\colon A_{\mathfrak{p}}\to B_{\mathfrak{q}}$ と $\varphi$ は局所化の写像 $A\to A_{\mathfrak{p}}$、$B\to B_{\mathfrak{q}}$ を通して両立する。$f^\sharp_{\mathfrak{q}}$ は局所準同型なので lem-ringed-space-local-hom の 2 により $(f^\sharp_{\mathfrak{q}})^{-1}(\mathfrak{q}B_{\mathfrak{q}})=\mathfrak{p}A_{\mathfrak{p}}$ であり、素イデアルの局所化の性質から $A\to A_{\mathfrak{p}}$ による $\mathfrak{p}A_{\mathfrak{p}}$ の逆像は $\mathfrak{p}$、$B\to B_{\mathfrak{q}}$ による $\mathfrak{q}B_{\mathfrak{q}}$ の逆像は $\mathfrak{q}$ である。両立性から $\varphi^{-1}(\mathfrak{q})=\mathfrak{p}=f(\mathfrak{q})$ となり、$f$ は $\operatorname{Spec}\varphi$ の連続写像に一致する。次に、$f^\sharp_{\mathfrak{q}}$ と $\varphi_{\mathfrak{q}}$ はともに $A_{\mathfrak{p}}\to B_{\mathfrak{q}}$ の環準同型で $A$ の像の上で一致し、$A_{\mathfrak{p}}$ の任意の元は $a/g=(a/1)(g/1)^{-1}$ と書けるので、$f^\sharp_{\mathfrak{q}}=\varphi_{\mathfrak{q}}$ である。最後に、$s\in\mathcal{O}(V)$ に対し $f^\sharp_V(s)$ と $(\operatorname{Spec}\varphi)^\sharp_V(s)$ はともに $f^{-1}(V)$ 上の切断で、各点 $\mathfrak{q}$ における芽がそれぞれ $f^\sharp_{\mathfrak{q}}(s_{\mathfrak{p}})$、$\varphi_{\mathfrak{q}}(s_{\mathfrak{p}})$ で一致する。層の切断は各点の芽で決まるので $f^\sharp=(\operatorname{Spec}\varphi)^\sharp$ である。

局所環付き空間からアフィンスキームへの射

より一般に、任意の局所環付き空間 $X$ と可換環 $A$ について、$\operatorname{Hom}_{\mathbf{LRS}}(X,\operatorname{Spec}A)\cong\operatorname{Hom}_{\mathbf{Ring}}(A,\Gamma(X,\mathcal{O}_X))$ が成り立つ(EGA1 I 1.7.3、スキームの場合は Har77 II 演習 2.4。本記事では証明しない)。証明は、$X$ の点 $x$ を $\Gamma(X,\mathcal{O}_X)\to\mathcal{O}_{X,x}\to\kappa(x)$ の核の $A$ への逆像に送る写像を作り、thm-ringed-space-spec-morphisms と同じ議論を各点で行う。ex-ringed-space-nonlocal が示すように、この対応は $\mathbf{RS}$ では成り立たない。この対応により $\operatorname{Spec}A$ は $\mathbf{LRS}$ の中で「$A$ を大域切断にもつ空間のうち普遍的なもの」として特徴づけられ、スキームの理論で局所射を要請する理由はここにある。

貼り合わせと環付きトポス

環付き空間の族 $(X_i,\mathcal{O}_{X_i})$ と開部分空間の同型 $\varphi_{ij}\colon(U_{ij},\mathcal{O}_{X_i}|_{U_{ij}})\to(U_{ji},\mathcal{O}_{X_j}|_{U_{ji}})$ がコサイクル条件 $\varphi_{ij}(U_{ij}\cap U_{ik})=U_{ji}\cap U_{jk}$、$\varphi_{jk}\circ\varphi_{ij}=\varphi_{ik}$($U_{ij}\cap U_{ik}$ 上)をみたせば、位相空間と層の貼り合わせにより、各 $X_i$ を開部分空間としてもつ環付き空間 $X$ が同型を除いて一意に定まる(Har77 II 演習 2.12)。$X_i$ が局所環付き空間なら $X$ もそうである。スキーム・多様体・複素解析空間はいずれもこの方法で局所模型から作られる。
環付き空間の定義は位相空間を景、層を景上の層に置き換えてそのまま通用する。トポス $T$ と $T$ の中の可換環の対象 $\mathcal{O}$ の組 $(T,\mathcal{O})$ を環付きトポスといい、$\mathcal{O}$ 加群、射 $(u,u^\sharp)$、引き戻し $u^*\mathcal{M}=u^{-1}\mathcal{M}\otimes_{u^{-1}\mathcal{O}'}\mathcal{O}$ と随伴 $u^*\dashv u_*$ は本記事と同じ形で定義・証明される。エタール景上の構造層をもつ環付きトポスや、結晶コホモロジーで用いる無限小景の環付きトポスがその例である。

関連項目

参考文献

[1]
Robin Hartshorne, Algebraic Geometry, Springer, 1977, II §1(層・順像・逆像、演習 1.18)、II §2(環付き空間・局所環付き空間・$\operatorname{Spec}A$、命題 2.2・2.3、演習 2.4・2.7・2.12)、II §5($\mathcal{O}_X$ 加群と $f^*$・$f_*$)
[2]
Alexander Grothendieck, Jean Dieudonné, Éléments de géométrie algébrique I : Le langage des schémas, Publications Mathématiques de l'IHÉS 4, pp. 5–228, 1960, Chapitre 0 §4(環付き空間と $\mathcal{O}_X$ 加群)、Chapitre I §1.6–1.7(アフィンスキームの射、局所環付き空間からアフィンスキームへの射、1.7.3)
[3]
Qing Liu, Algebraic Geometry and Arithmetic Curves, Oxford University Press, 2002, §2.2(環付き位相空間・局所環付き空間)、§2.3(スキーム)
[4]
John M. Lee, Introduction to Smooth Manifolds, Springer, 2012, 第 1 章(滑らかな多様体)、第 3 章(接ベクトルと導分)、付録 C(Taylor の定理)

Mathpediaは寄付と、参考文献の書籍リンク(Amazonアソシエイト)の紹介料で運営されています。 支援について / 寄付する