パラコンパクト空間

同義語:paracompact space

概要

パラコンパクト空間(paracompact space)とは、位相空間論において、コンパクト空間の条件を緩めて一般化した概念の一つである。1944年にJean Dieudonnéによって導入された。定義は「任意の開被覆が、局所有限な開細分を持つ」ことである。この性質は、空間全体で定義された関数を構成するための「1の分割」が存在することを保証するため、微分幾何学や多様体論において、局所的な座標系での議論を空間全体へ拡張する際に決定的な役割を果たす。

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定義

位相空間 $X$パラコンパクトであるとは、$X$Hausdorff空間であり、かつ以下の条件を満たすことをいう。

パラコンパクト性

$X$ の任意の開被覆 $\mathcal{U}$ に対して、$\mathcal{U}$局所有限開細分 $\mathcal{V}$ が存在する。

※ 文脈によってはHausdorff性を仮定しない場合もあるが、通常(Bourbakiなど)はHausdorff性を条件に含める。

用語の定義

  1. 細分 (refinement):
    被覆 $\mathcal{V}$ が被覆 $\mathcal{U}$ の細分であるとは、$\mathcal{V}$ の任意の元 $V$ に対し、ある $U \in \mathcal{U}$ が存在して $V \subset U$ となることをいう。
  2. 局所有限 (locally finite):
    集合族 $\mathcal{V}$ が局所有限であるとは、空間の任意の点 $x$ に対し、ある近傍 $W$ が存在して、$W$ と交わる $\mathcal{V}$ の元が有限個しかないことをいう。

重要性:1の分割

パラコンパクト性が数学(特に幾何学解析学)で重要視される最大の理由は、以下の定理による。

1の分割の存在定理

パラコンパクト・Hausdorff空間 $X$ の任意の開被覆 $\mathcal{U}$ に対して、$\mathcal{U}$ に付随する1の分割が存在する。

これにより、多様体上で局所的に定義された関数(Riemann計量や微分形式など)を、滑らかに繋ぎ合わせて大域的な関数を作ることが可能になる。

性質

パラコンパクト空間 $X$ は、位相空間として以下の振る舞いを見せる。

  • 正規性:
    $X$ がHausdorff空間ならば、それは正規空間 ($T_4$) である。
    (すなわち、任意の互いに交わらない閉集合は、互いに交わらない開集合で分離できる)
  • 遺伝性(部分空間):
    $X$閉集合(閉部分空間)はパラコンパクトである。
    (注:一般の部分空間については必ずしも成り立たない)
  • 直積:
    パラコンパクト性は直積操作について閉じていない。すなわち、$X, Y$ がパラコンパクトであっても、その直積空間 $X \times Y$ がパラコンパクトであるとは限らない。
    • 反例:Sorgenfrey直線 $\mathbb{R}_L$ はパラコンパクトだが、$\mathbb{R}_L \times \mathbb{R}_L$ はパラコンパクトではない。
    • 例外:$Y$コンパクト空間であれば、$X \times Y$ はパラコンパクトとなる。

包含関係と具体例

以下の空間クラスは、パラコンパクト空間の重要な例(十分条件)である。

  • コンパクト空間:
    定義より、有限部分被覆(有限個なので当然局所有限)を持つため、パラコンパクトである。
  • 距離空間:
    任意の距離空間はパラコンパクトである(Stoneの定理)。これにより、距離空間に対して成り立つ多くの性質がパラコンパクト空間にも拡張される。
  • 多様体:
    通常の定義(Hausdorffかつ第二可算公理を満たす)における多様体はパラコンパクトである。
    (より一般に、連結な多様体において、パラコンパクト性は第二可算公理と同値になる)
  • CW複体:
    任意のCW複体はパラコンパクトである。

反例

  • 長い直線 (Long line):
    局所コンパクトかつ正規であるが、パラコンパクトではない(第二可算公理を満たさない多様体のような空間)。
  • Sorgenfrey平面:
    前述の通り、パラコンパクト空間の直積がパラコンパクトにならない例。

関連項目