Cantor関数(Cantor function)とは、Cantor 集合の点の 3 進表示の桁 $2$ を $1$ に読み替えて 2 進小数として読み、取り除いた開区間の上では両端の共通の値をとる $[0,1]$ 上の関数で、悪魔の階段とも呼ばれる。連続で単調非減少で $0$ から $1$ まで増えるのに、ほとんどすべての点で導関数が $0$ であり、絶対連続でない関数では微分積分学の基本定理が成り立たないことがある例になっている。$x$ にこの関数の値を足した写像は測度 $0$ の Cantor 集合を測度 $1$ の集合に写す同相写像であり、選択公理のもとで Borel 集合でない Lebesgue 可測集合を与える。導関数が $\pm\infty$ をとってよいなら、広義の導関数が全点で一致するのに差が定数でない 2 つの連続関数も、この関数を使って作れる。
前提知識: Cantor集合, 単調関数, Lebesgue測度, 導関数
Cantor関数(Cantor function)は、Cantor集合 $C$ の点の 3 進表示の桁 $2$ を $1$ に読み替えて 2 進小数として読み、取り除いた開区間の上では両端の共通の値をとるようにして得られる $[0,1]$ 上の関数である。グラフの形から 悪魔の階段(devil's staircase)とも呼ばれ、Cantor–Lebesgue 関数ともいう。連続で単調非減少で $0$ から $1$ まで増えるのに、ほとんどすべての点で微分係数が $0$ であり、Lebesgue 積分に対する微分積分学の基本定理が、絶対連続性を仮定しないと成り立たない場合があることを示す代表例である。この記事では基本性質のほか、測度を変える同相写像 $x+F(x)$、Borel 集合でない可測集合、広義の導関数が全点で一致するのに差が定数でない 2 つの連続関数を扱う。
記号は Cantor集合 の記事にそろえる。$n\in\mathbb N$ と $a=(a_0,\dots,a_{n-1})\in\{0,2\}^n$ に対し $t_a:=\sum_{k< n}a_k3^{-(k+1)}$、$I_a:=[t_a,\,t_a+3^{-n}]$ とおき、$C_n:=\bigcup_{a\in\{0,2\}^n}I_a$、$C:=\bigcap_nC_n$ とする。$\{0,1\}$ の元の無限列 $s=(s_0,s_1,\dots)$ の全体を $\{0,1\}^{\mathbb N}$ と書き、
$$\varphi(s):=\sum_{k=0}^\infty\frac{2s_k}{3^{k+1}},\qquad \beta(s):=\sum_{k=0}^\infty\frac{s_k}{2^{k+1}}$$
とおく。$\varphi(s)$ は 3 進小数の桁が $2s_k\in\{0,2\}$ の数、$\beta(s)$ は 2 進小数の桁が $s_k$ の数である。Cantor集合 の記事の定理「3進表示による特徴づけ」により、$\varphi$ は $\{0,1\}^{\mathbb N}$ から $C$ への全単射である。またその直前の評価により、$s\ne s'$ で、$s_k\ne s'_k$ となる最小の $k$ について $s_k=0$、$s'_k=1$ ならば $\varphi(s)<\varphi(s')$ である。すなわち $\varphi$ は、列の辞書式順序を実数の大小に写す。
$x\in[0,1]$ に対し
$$F(x):=\sup\bigl\{\beta(s)\bigm| s\in\{0,1\}^{\mathbb N},\ \varphi(s)\le x\bigr\}$$
と定める。$F\colon[0,1]\to[0,1]$ を Cantor 関数、または 悪魔の階段 という。
$\varphi(0,0,\dots)=0\le x$ なので上限をとる集合は空でなく、$0\le\beta\le1$ なので $F(x)\in[0,1]$ である。$C$ の外での値を調べるために、取り除いた開区間に名前をつける。$n\in\mathbb N$ と $r\in\{0,1\}^n$ に対し、$2r:=(2r_0,\dots,2r_{n-1})\in\{0,2\}^n$ として
$$G_r:=\bigl(t_{2r}+3^{-(n+1)},\ t_{2r}+2\cdot3^{-(n+1)}\bigr),\qquad k_r:=\sum_{j< n}r_j2^{n-1-j}$$
とおく。$G_r$ は $I_{2r}$ の中央の $3$ 分の $1$ の開区間、すなわち構成の第 $n+1$ 段階で取り除く開区間であり、$k_r$ は 2 進表示が $r_0r_1\cdots r_{n-1}$ の整数である。区間 $I_a$ の左右の順は $a$ の辞書式順序と一致するので、$G_r$ は第 $n+1$ 段階で取り除く $2^n$ 個の開区間のうち左から $k_r+1$ 番目である。
要点:$C$ に属さない点は、最初に取り除かれた段階の中央の開区間に入る。
1. Cantor集合 の記事の補題「構成に現れる区間の入れ子」の 1 により $I_{2r}\setminus(I_{2r0}\cup I_{2r2})=G_r$ であり、同じ補題の 2 により $I_{2r}$ は $C_n$ を作るほかの区間と交わらないので、$G_r\cap C_{n+1}=\emptyset$、したがって $G_r\cap C=\emptyset$ である。逆に $x\in[0,1]\setminus C$ なら、$x\notin C_{m}$ となる最小の $m\ge1$ があり、$n:=m-1$ について $x\in I_{2r}$ となる $r\in\{0,1\}^n$ がある。$x\notin I_{2r0}\cup I_{2r2}$ なので $x\in G_r$ である。同じ $n$ の異なる $r,r'$ では $I_{2r}\cap I_{2r'}=\emptyset$ なので $G_r\cap G_{r'}=\emptyset$ であり、$n< n'$ なら $G_{r'}\subset I_{2r'}\subset C_{n'}\subset C_{n+1}$ と $G_r\cap C_{n+1}=\emptyset$ から $G_r\cap G_{r'}=\emptyset$ である。
2. $\varphi(r,0,1,1,\dots)=t_{2r}+\sum_{j\ge n+1}2\cdot3^{-(j+1)}=t_{2r}+3^{-(n+1)}$、$\varphi(r,1,0,0,\dots)=t_{2r}+2\cdot3^{-(n+1)}$ である。$\varphi$ の値はすべて $C$ に属する。$\square$
第 3 段階までの値は次のとおりである(thm-cantor-function-basic の 3)。
| 取り除いた開区間 | $\bigl(\frac13,\frac23\bigr)$ | $\bigl(\frac19,\frac29\bigr)$ | $\bigl(\frac79,\frac89\bigr)$ | $\bigl(\frac1{27},\frac2{27}\bigr)$ | $\bigl(\frac7{27},\frac8{27}\bigr)$ | $\bigl(\frac{19}{27},\frac{20}{27}\bigr)$ | $\bigl(\frac{25}{27},\frac{26}{27}\bigr)$ |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| $F$ の値 | $\frac12$ | $\frac14$ | $\frac34$ | $\frac18$ | $\frac38$ | $\frac58$ | $\frac78$ |
段階が進むごとに、各区間の中央に両隣の中間の高さの水平な段ができ、段の長さの合計は $1$ になる。
まず次を示す。$s\ne s'$ で、$s_k\ne s'_k$ となる最小の $k$ について $s_k=0$、$s'_k=1$ ならば
$$\beta(s')-\beta(s)=\frac1{2^{k+1}}+\sum_{j>k}\frac{s'_j-s_j}{2^{j+1}}\ \ge\ \frac1{2^{k+1}}-\sum_{j>k}\frac1{2^{j+1}}=0$$
であり(以下これを ($\ast$) と呼ぶ)、等号が成り立つのは、すべての $j>k$ について $s_j=1$、$s'_j=0$ のとき、かつそのときに限る(各項 $\frac{s'_j-s_j}{2^{j+1}}$ が下界 $-\frac1{2^{j+1}}$ に等しいときに限るからである)。
1 により、$F$ は Cantor集合 の記事の命題「Cantor関数の構成」の関数 $\overline F$ と同じものである。4 と $F(1)-F(0)=1$ から、
$$\int_0^1F'(x)\,dx=0\ne1=F(1)-F(0)$$
である。満たす性質:連続、単調、ほとんどすべての点で微分可能。満たさない性質:絶対連続性。破る含意:「連続でほとんどすべての点で微分可能な関数 $f$ は $\int_a^bf'=f(b)-f(a)$ を満たす」は成り立たない。絶対連続な関数でほとんどすべての点で導関数が $0$ のものは定数である(絶対連続関数 の系「導関数が0なら定数・部分積分」の 1)ので、$F$ は絶対連続でない。
$F$ は単射でない。同じ値をとる点の集まりは、次のように取り除いた開区間の閉包か 1 点である。
$(0,1)$ に属する 2 進有理数は、$n\in\mathbb N$ と $0\le k< 2^n$ によりただ 1 通りに $\frac{2k+1}{2^{n+1}}$ と書ける。$y\in[0,1]$ とする。
要点:逆像は閉区間 $[p,q]$ で、両端は $C$ に属する。$p< q$ なら、($\ast$) の等号の条件から $p,q$ は同じ $G_r$ の両端になる。
$F$ は連続な全射で単調なので、$F^{-1}(y)$ は空でない閉区間 $[p,q]$ である。$p\notin C$ なら、$p$ を含む開区間 $G_r$ の上で $F$ は定数なので、$p$ より左に値 $y$ の点があり、$p$ の最小性に反する。よって $p\in C$ であり、同様に $q\in C$ である。
$p< q$ とし、$p=\varphi(s)$、$q=\varphi(s')$ と書く。$s_m\ne s'_m$ となる最小の $m$ について $s_m=0$、$s'_m=1$ であり($\varphi$ は辞書式順序を保つ)、thm-cantor-function-basic の 1 により $\beta(s)=\beta(s')$ なので、($\ast$) の等号の条件から $s=(r,0,1,1,\dots)$、$s'=(r,1,0,0,\dots)$($r\in\{0,1\}^m$)である。lem-cantor-function-gaps の 2 により $p,q$ は $G_r$ の両端であり、$[p,q]=\overline{G_r}$、$y=\frac{2k_r+1}{2^{m+1}}$ である。$p=q$ なら $F^{-1}(y)$ は $C$ の 1 点である。逆に 1 の形の $y$ について、$k$ の $n$ 桁の 2 進表示を $r$ とすれば $k_r=k$ であり、thm-cantor-function-basic の 3 から $F^{-1}(y)\supset\overline{G_r}$ である。前半により $F^{-1}(y)$ は $\overline{G_r}$ に等しい。2 進有理数の表し方の一意性は、$y\cdot2^{n+1}$ が奇数となる $n$ がただ 1 つであることによる。$C$ への制限については、$\overline{G_r}\cap C$ が $G_r$ の両端の 2 点であることによる。$\square$
$\frac14\in C$ は、どの段階の区間の端点でもなく、$\frac14=\varphi(0,1,0,1,\dots)$ である(Cantor集合 の記事の例「端点でない点:$1/4$ と $3/4$」)。thm-cantor-function-basic の 1 により
$$F\Bigl(\frac14\Bigr)=\beta(0,1,0,1,\dots)=\sum_{j=1}^\infty\frac1{4^j}=\frac13$$
であり、同様に $F(\frac34)=\frac23$ である。取り除いた開区間の上の値はすべて 2 進有理数 $\frac{2k+1}{2^{n+1}}$ だが、$C$ の点での値は、点が有理数であっても 2 進有理数とは限らない。
$F(\mathbb Q\cap[0,1])=\mathbb Q\cap[0,1]$ である。
要点:有理数の 0/2 の 3 進表示と 2 進表示は、先頭の桁を落とす操作でとりうる値が有限個しかないので、いずれ周期的になる。
ある $m$ と $p\ge1$ について $j\ge m$ ならつねに $s_{j+p}=s_j$ となる列を、いずれ周期的な列という。このとき $\beta(s)=\sum_{j< m}\frac{s_j}{2^{j+1}}+\frac{1}{1-2^{-p}}\sum_{m\le j< m+p}\frac{s_j}{2^{j+1}}$ は有理数であり、同様に $\varphi(s)$ も有理数である。
$x\in\mathbb Q\cap[0,1]$ とする。$x\notin C$ なら thm-cantor-function-basic の 3 により $F(x)$ は 2 進有理数である。$x\in C$ なら $x=\varphi(s)$ と書け、$x=p/q$($p,q$ は整数、$q\ge1$)とする。$s$ の最初の $k$ 項を落とした列を $\sigma^ks:=(s_k,s_{k+1},\dots)$ とすると $\varphi(\sigma^ks)=3^kx-\sum_{j< k}2s_j3^{k-1-j}$ であり、これは $[0,1]$ に属し、分母 $q$ の分数で書ける。そのような値は $q+1$ 個しかないので、$k< l$ で $\varphi(\sigma^ks)=\varphi(\sigma^ls)$ となるものがあり、$\varphi$ の単射性から $\sigma^ks=\sigma^ls$ である。よって $s$ はいずれ周期的で、$F(x)=\beta(s)$ は有理数である。
逆に $u\in\mathbb Q\cap[0,1)$、$u=p/q$ とし、$u_k:=2^ku-\lfloor2^ku\rfloor\in[0,1)$ とおく。thm-cantor-function-basic の 1 の証明の $s_k$ は $s_k=\lfloor2u_k\rfloor$ を満たし、$u_{k+1}=2u_k-s_k$ である。$u_k$ は分母 $q$ の分数で書けるので値は $q$ 個以下であり、ある $k< l$ で $u_k=u_l$ となる。以後 $u_j$ と $s_j$ は周期 $l-k$ で繰り返すので、$s$ はいずれ周期的であり、$x:=\varphi(s)$ は有理数で $F(x)=\beta(s)=u$ である。$u=1$ には $x=1$ が対応する。$\square$
thm-cantor-function-basic の 4 は $C$ の外の点だけを扱う。$C$ の点ではどうなるかは次の命題で決まる。
$x\in C$、$n\in\mathbb N$ ならば、$0< |y-x|\le3^{-n}$ かつ
$$\frac{F(y)-F(x)}{y-x}\ \ge\ \frac12\Bigl(\frac32\Bigr)^n$$
となる $y\in[0,1]$ がある。したがって $F$ は $C$ のどの点でも(有限の微分係数をもつ意味で)微分可能でなく、$F$ が微分可能な点の集合はちょうど $[0,1]\setminus C$ である。
要点:$x$ を含む $C_n$ の区間(長さ $3^{-n}$)の上で $F$ は $2^{-n}$ だけ増えるので、その区間のどちらかの端点で差分商が $2^{-n-1}/3^{-n}$ 以上になる。
$x\in C\subset C_n$ なので、$x\in I_{2r}$ となる $r\in\{0,1\}^n$ がある。$I_{2r}$ の両端は $t_{2r}=\varphi(r,0,0,\dots)$ と $t_{2r}+3^{-n}=\varphi(r,1,1,\dots)$ であり、thm-cantor-function-basic の 1 により、そこでの $F$ の値は $\beta(r)$ と $\beta(r)+2^{-n}$ である。$F(x)$ はこの 2 つの値の間にあるので、どちらかの端点 $e$ について $|F(e)-F(x)|\ge2^{-n-1}$ であり、とくに $e\ne x$、$|e-x|\le3^{-n}$ である。$F$ は単調なので差分商は $0$ 以上で、$\frac{F(e)-F(x)}{e-x}=\frac{|F(e)-F(x)|}{|e-x|}\ge\frac{2^{-n-1}}{3^{-n}}$ である。$y:=e$ とすればよい。$F$ が $x$ で微分可能なら、$x$ の近くで差分商は有界でなければならないが、$n\to\infty$ でこの下界は限りなく大きくなる。$\square$
$F$ は連続だが、その連続の度合いは次のように測れる。
$\alpha:=\log2/\log3$ とおく。すべての $x,y\in[0,1]$ について
$$|F(x)-F(y)|\le4|x-y|^{\alpha}$$
である。とくに $F$ は一様連続である。一方、$F(3^{-n})=2^{-n}$ なので、$F$ はどんな定数でも Lipschitz 連続でない。
要点:長さ $3^{-n}$ 未満の区間は $C_n$ の区間と高々 2 個しか交わらず、$F$ は $C_n$ の各区間の上で $2^{-n}$ だけ増え、その外では増えない。
$3^{\alpha}=2$ である。$x< y$ とする。$y-x\ge\frac13$ なら $|F(y)-F(x)|\le1\le4\cdot3^{-\alpha}\le4(y-x)^{\alpha}$ である。$y-x<\frac13$ なら $3^{-(n+1)}\le y-x< 3^{-n}$ となる $n\ge1$ をとる。$C_n$ の $2^n$ 個の区間を左から $J_1,\dots,J_{2^n}$、$J_i=[l_i,u_i]$ とする。prop-cantor-function-nondifferentiable の証明と同じく $F(u_i)-F(l_i)=2^{-n}$ である。隣り合う区間の間の開区間 $(u_i,l_{i+1})$ は $C$ と交わらないので、その各点 $z$ で $F(z)$ の定義の上限をとる集合は $F(u_i)$ のものと同じであり、$F$ は $[u_i,l_{i+1})$ 上で定数、連続性から $[u_i,l_{i+1}]$ 上で定数である。よって $F(y)-F(x)$ は、$[x,y]$ と交わる各 $J_i$ の上での $F$ の増加の和以下であり、それぞれ $2^{-n}$ 以下である。$[x,y]$ が 3 個の $J_i$ と交わると、真ん中の 1 個(長さ $3^{-n}$)を含んで $y-x\ge3^{-n}$ となるので、交わるのは高々 2 個である。したがって $F(y)-F(x)\le2\cdot2^{-n}=2\,(3^{-n})^{\alpha}\le2\,(3(y-x))^{\alpha}=4(y-x)^{\alpha}$ である。$F(3^{-n})=F(\varphi(0,\dots,0,1,1,\dots))$($0$ が $n$ 個)$=2^{-n}$ であり、$F(3^{-n})-F(0)=(3/2)^n\cdot3^{-n}$ なので、Lipschitz 定数はとれない。$\square$
指数 $\alpha=\log2/\log3$ は $C$ の Hausdorff次元 に等しい(Cantor集合 の記事の注意「次元と完全集合定理」)。$C_n$ の長さ $3^{-n}$ の各区間の上で $F$ がちょうど $2^{-n}$ だけ増えることが、この指数に表れている。
$F$ に恒等写像を足すと、狭義単調増加な連続関数が得られる。この関数は、取り除いた開区間を同じ長さの開区間に平行移動するが、Cantor 集合を測度 $1$ の集合に引き伸ばす。
$\psi(x):=x+F(x)$($x\in[0,1]$)とおく。
要点:$\psi$ は取り除いた開区間を同じ長さの開区間に平行移動するので、$[0,2]$ のうち $\psi(C)$ の外の部分の測度は $[0,1]\setminus C$ の測度 $1$ に等しく、残りの測度 $1$ が $\psi(C)$ に乗る。
1. $x< y$ なら $\psi(y)-\psi(x)=(y-x)+(F(y)-F(x))\ge y-x>0$ なので、$\psi$ は狭義単調増加で連続である。$\psi(0)=0$、$\psi(1)=2$ なので、中間値の定理 により $\psi([0,1])=[0,2]$ であり、$\psi$ は全単射である。$u=\psi(x)$、$v=\psi(y)$ とすると、上の不等式から $|\psi^{-1}(u)-\psi^{-1}(v)|=|x-y|\le|u-v|$ なので、$\psi^{-1}$ は連続である。
2. thm-cantor-function-basic の 3 により $F$ は $G_r$ 上で定数 $\frac{2k_r+1}{2^{n+1}}$ なので、$\psi$ はそこで平行移動である。$\psi$ は全単射なので $\psi([0,1]\setminus C)=[0,2]\setminus\psi(C)$ であり、lem-cantor-function-gaps の 1 から後半が従う。
3. $\psi(C)$ はコンパクト集合 $C$ の連続像なのでコンパクトであり、閉集合なので可測である。$G_r$ は可算個で、その長さの和は $\lambda([0,1]\setminus C)=1-\lambda(C)=1$ である。2 と測度の可算加法性により $\lambda([0,2]\setminus\psi(C))=\sum\lambda(\psi(G_r))=\sum\lambda(G_r)=1$ であり、$\lambda(\psi(C))=2-1=1$ である。$\square$
Lipschitz 写像は零集合を零集合に写す(零集合を覆う区間の長さの和が $\varepsilon$ 未満なら、Lipschitz 定数 $L$ の写像による像は長さの和が $L\varepsilon$ 未満の区間で覆える)ので、$\psi$ は Lipschitz でない。満たす性質:$\psi$ は同相写像。満たさない性質:零集合を零集合に写すこと。破る含意:「同相写像は Lebesgue 測度 $0$ の集合を測度 $0$ の集合に写す」は成り立たない。
Borel 集合でない Lebesgue 可測集合があることは、Lebesgue測度 の記事の命題「Borel集合でないLebesgue可測集合」で濃度の比較により示されている。$\psi$ を使うと、そのような集合をもっと直接に作れる。
選択公理を仮定する。prop-cantor-function-psi の 3 により $\lambda(\psi(C))=1>0$ なので、Lebesgue 可測でない部分集合 $D\subset\psi(C)$ がある(Vitali集合 の系「正の測度の集合は非可測な部分集合をもつ」)。$E:=\psi^{-1}(D)$ とおく。
要点:$E$ は零集合 $C$ の部分集合なので可測である。$E$ が Borel 集合なら、同相写像 $\psi$ による像 $D$ も Borel 集合で可測になってしまう。
1. $E\subset C$ で $C$ は外測度 $0$ なので、$E$ も外測度 $0$ であり、外測度 $0$ の集合は Lebesgue 可測である(Lebesgue測度 の定理「Carathéodoryの定理」)。
2. $E$ が $\mathbb R$ の Borel 集合だとする。$E\subset[0,1]$ なので、$E$ は部分空間 $[0,1]$ の Borel 集合でもある(Borel集合 の命題「部分空間のBorel集合」)。同相写像は Borel 集合を Borel 集合に写す(Borel集合 の定理「連続写像とBorel集合」の 2)ので、$D=\psi(E)$ は部分空間 $[0,2]$ の Borel 集合であり、$[0,2]$ は $\mathbb R$ の Borel 集合なので、同じ命題により $D$ は $\mathbb R$ の Borel 集合である。Borel 集合は Lebesgue 可測である(Lebesgue測度 の命題「区間とBorel集合の可測性・不変性」の 1)から、$D$ が可測でないことに反する。
3. は 1 と $D$ の取り方による。$\square$
$D$ を選ぶところで選択公理を使うが、この例は、零集合の部分集合は可測でも同相写像で写すと可測性が失われうる、という仕組みを見せている。$E$ は零集合だが Borel 集合でないので、$F_\sigma$ 集合(F_σ-集合)でもない。
$f\colon[0,1]\to\mathbb R$ と $c\in[0,1]$ について、
$$\lim_{x\to c,\ x\in[0,1]\setminus\{c\}}\frac{f(x)-f(c)}{x-c}=+\infty$$
のとき $f'(c)=+\infty$ と書き、$-\infty$ についても同様に定める($c$ が端点なら片側極限)。微分係数が実数として存在するか $\pm\infty$ であるとき、$f$ は $c$ で 広義の微分係数 をもつという。
区間 $I$ 上のすべての点で有限の微分係数 $f'=g'$ をもつ 2 つの関数は定数の差しかない(平均値の定理 の記事の系「導関数が0なら定数」)。微分係数が $\pm\infty$ をとってよいとすると、これは成り立たない。そのための関数を次に作る。
$x\in[0,1]$ と $C$ との距離を $d(x):=\inf\{|x-c|\mid c\in C\}$ とし、$n\ge1$ について
$$w_n(t):=\max\{0,\ 1-3^nd(t)\},\qquad H_n(x):=\int_0^xw_n(t)\,dt,\qquad H:=\sum_{n=1}^\infty H_n$$
とおく。$w_n$ は $C$ の上で $1$、$C$ から $3^{-n}$ 以上離れた点で $0$ の、$0$ と $1$ の間の値をとる関数である。
三角不等式から $|d(t)-d(s)|\le|t-s|$ なので、$w_n$ は連続で $0\le w_n\le1$ であり、$C$ の上で $w_n=1$ である。
$f:=2F+H$、$g:=F+H$ とおく。$f$ と $g$ は $[0,1]$ 上で連続であり、$[0,1]$ のすべての点で広義の微分係数をもち、それらは一致する。一方 $f-g=F$ は定数でない。
$F$ の階段の値 $\frac{2k+1}{2^{n+1}}$ は、開区間を取り除く段階と、その段階での左からの順番だけで決まる。同じ値の処方は、取り除く長さを変えた Cantor 型の集合にも使える。次の集合 $K$ では、残る集合の測度が正であるため、導関数がほとんどすべての点で $0$ になることはない。
Cantor集合 の記事の例「反例:測度が正の疎な閉集合」の集合 $K$ を使う。$[0,1]$ から始め、第 $n$ 段階($n\ge1$)では残っている $2^{n-1}$ 個の閉区間それぞれから中央の長さ $4^{-n}$ の開区間を取り除き、残りの共通部分を $K$ とする。$K$ は内部が空の閉集合で、$\lambda(K)=\frac12$ である。
$g(x):=2\lambda(K\cap[0,x])$($x\in[0,1]$)とおく。
要点:段階 $n$ の後に残る $2^n$ 個の閉区間は同じ長さをもち、その後の操作も同じなので、各区間に含まれる $K$ の部分は互いに平行移動で重なり、測度 $\lambda(K)/2^n$ を等分にもつ。
1. $x< y$ なら $g(y)-g(x)=2\lambda(K\cap(x,y])\in[0,2(y-x)]$ である。$g(0)=2\lambda(K\cap\{0\})=0$、$g(1)=2\lambda(K)=1$ である。
2. 第 $n$ 段階の後に残る閉区間は、どれも同じ長さ $\ell_n$ をもつ(各段で、同じ長さの区間から同じ長さの中央部分を取り除くから)。そのうちの 1 つ $J=[c,c+\ell_n]$ の中で、第 $n+1$ 段階以降に残る区間は、$[0,\ell_n]$ から同じ操作で残る区間を $c$ だけ平行移動したものである(段数についての帰納法)。よって $K\cap J$ は $c$ によらない 1 つの集合の平行移動であり、Lebesgue測度 の平行移動不変性から、$2^n$ 個の $J$ について $\lambda(K\cap J)$ は等しい。これらの $J$ は互いに交わらず $K$ を覆うので、$\lambda(K\cap J)=\lambda(K)/2^n$ である。第 $n$ 段階で第 $n-1$ 段階の $k+1$ 番目の区間 $J'$ から取り除いた開区間 $(u,v)$ の点 $x$ については、$K\cap[0,x]$ は、左の $k$ 個の区間に含まれる $K$ の部分と、$J'$ の左側の子区間に含まれる $K$ の部分の和である。よって $\lambda(K\cap[0,x])=k\cdot\frac{\lambda(K)}{2^{n-1}}+\frac{\lambda(K)}{2^n}=\frac{(2k+1)\lambda(K)}{2^{n}}$ であり、$g(x)=\frac{2k+1}{2^n}$ である。連続性から閉区間 $[u,v]$ の上でも同じ値である。取り除いた開区間の和 $[0,1]\setminus K$ は、$K$ の内部が空なので $[0,1]$ で稠密であり、稠密な集合の上で一致する 2 つの連続関数は一致するので、処方を満たす連続関数は $g$ だけである。
3. $g(x)=\int_0^x2\cdot1_K\,d\lambda$ であり、$2\cdot1_K$ は可積分なので、絶対連続関数 の定理「絶対連続関数と不定積分」により $g$ は絶対連続で、ほとんどすべての点で $g'=2\cdot1_K$ である。$\lambda(K)=\frac12>0$ なので、$g'=2$ となる点の集合は測度正である。$\square$
$g$ も $F$ と同じく取り除いた開区間の上で定数なので、そこでは微分係数 $0$ をもつ。しかし取り除いた開区間の長さの和は $1-\lambda(K)=\frac12$ しかなく、残りの半分($K$)のほとんどすべての点で $g'=2$ である。$g$ では微分積分学の基本定理 $g(1)-g(0)=\int_0^1g'$ が成り立つ。thm-cantor-function-basic の 4 で $F'=0$ がほとんどすべての点で成り立つのは、$F$ が階段状であることだけでなく、$\lambda(C)=0$ であることによる。
| 性質 | $F$ で | 理由 |
|---|---|---|
| 連続、単調非減少、$F([0,1])=[0,1]$ | 成り立つ | thm-cantor-function-basic の 2 |
| 狭義単調増加 | 成り立たない | 取り除いた開区間の上で定数(thm-cantor-function-basic の 3) |
| 指数 $\log2/\log3$ の Hölder 連続、一様連続 | 成り立つ | prop-cantor-function-holder |
| Lipschitz 連続 | 成り立たない | $F(3^{-n})=2^{-n}$(prop-cantor-function-holder) |
| 有界変動(全変動は $1$) | 成り立つ | 単調関数の全変動は両端の値の差(有界変動関数 の命題「基本性質」の 4) |
| ほとんどすべての点で $F'=0$ | 成り立つ | thm-cantor-function-basic の 4 |
| $C$ の点で(有限の微分係数の意味で)微分可能 | どの点でも成り立たない | prop-cantor-function-nondifferentiable |
| 絶対連続 | 成り立たない | 絶対連続で $F'=0$ がほとんどすべての点で成り立てば定数(絶対連続関数 の系「導関数が0なら定数・部分積分」の 1) |
| $\int_0^1F'=F(1)-F(0)$ | 成り立たない | 左辺は $0$、右辺は $1$ |
| 有理数を有理数に写し、$F(\mathbb Q\cap[0,1])=\mathbb Q\cap[0,1]$ | 成り立つ | prop-cantor-function-rational |
| $C$ の有理点での値が 2 進有理数 | 成り立つとは限らない | $F(\frac14)=\frac13$(ex-cantor-function-quarter) |
| $x+F(x)$ が零集合を零集合に写す | 成り立たない | prop-cantor-function-psi の 3 |
$C$ から $[0,1]$ への写像と、同じ値をとる点が取り除いた開区間の両端であることは GO03 Chapter 8, Example 14(pp. 95–96)、$[0,1]$ への延長、取り除いた開区間の上の値、ほとんどすべての点で $F'=0$ であること、測度が正の Cantor 型集合に対する同じ値の処方は Example 15(pp. 96–98)にある。$x+F(x)$ が測度 $0$ の集合を測度正の集合に写すことと、それによる Borel 集合でない可測集合は Examples 16–17(p. 98)にある。差が定数でないのに広義の微分係数が全点で一致する 2 つの連続関数があることは Example 18(pp. 98–99)で扱われている。この記事の $H$ は $C$ までの距離を使う構成であり、thm-cantor-function-infinite-derivative と ex-cantor-function-same-derivative の証明はこの構成による。
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