Gaussの補題(多項式)

同義語:Gauss's lemma (polynomials)

概要

Gaussの補題(多項式)(Gauss's lemma for polynomials)とは、一意分解整域 $A$ 上の多項式について、係数の最大公約元である内容が積について乗法的であり、とくに原始多項式の積が原始多項式であるという主張である。この帰結として、$A$ 係数の多項式が商体 $K$ 上で分解するなら、因子を $K^\times$ の元で調整して $A$ 係数の分解に戻せ、次数 $1$ 以上の多項式が $A[X]$ で既約であることは、原始多項式で $K$ 上既約であることと同値になる。さらに $A[X]$ も一意分解整域であり、$\mathbb{Z}[X_1,\dots,X_n]$ や体上の多変数多項式環の一意分解性、有理根の判定法、Eisenstein の判定法の基礎になる。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 一意分解整域, 多項式環, 商体

何を述べる補題か

整数係数の多項式が有理数係数の多項式の積に分解できるなら、整数係数の多項式の積にも分解できる。たとえば $6X^2+X-2=(3X+2)(2X-1)$ は、$\mathbb{Q}$ 上で $\left(X+\tfrac23\right)\cdot 6\left(X-\tfrac12\right)$ と書いても、分母を払えば $\mathbb{Z}$ 上の分解に戻る。この「分母を払える」ことの正確な形が Gauss の補題(Gauss's lemma)である。鍵は、係数の最大公約元(内容)が積について掛け算になる、という一点にある。

問い答え
内容は積でどう変わるか単元倍を除いて $c(PQ)=c(P)c(Q)$。とくに原始多項式の積は原始多項式(thm-gauss-lemma-polynomial の 1)
商体上の分解は係数環上の分解に戻せるか戻せる。因子を $K^\times$ の元で調整すれば係数が $A$ に入る(同 2)
$A[X]$ の既約元はどれか$A$ の既約元と、$K$ 上既約な原始多項式(同 3 と thm-gauss-lemma-ufd)
$A[X]$ は一意分解整域か$A$ が一意分解整域なら $A[X]$ も、$A[X_1,\dots,X_n]$ もそうである(thm-gauss-lemma-ufd)

同じ名前の別の命題がある。平方剰余の相互法則 の補題「Gaussの補題」は、Legendre 記号を剰余の符号の個数で表す整数論の補題であり、Riemann 幾何の測地線についての Gauss の補題もある。この記事の題の括弧はそれらと区別するためのものである。
以下、$A$ を一意分解整域、$K$ をその商体とする。$A$ の互いに同伴でない素元の代表系 $\mathcal{P}$ を 1 つ固定する($A=\mathbb{Z}$ なら正の素数全体)。一意分解整域 の命題「一意分解整域における最大公約元」により、$0$ でない $a\in A$ は $a=u\prod_{p\in\mathcal{P}}p^{v_p(a)}$($u\in A^\times$)とただ一通りに書ける。$v_p(a/b):=v_p(a)-v_p(b)$ とおけば、$v_p$ は $K^\times$ から $\mathbb{Z}$ への準同型に一意に延び、$0$ でない $a\in K$ について $a\in A$ と「すべての $p$ で $v_p(a)\ge0$」は同値である。記号は 多項式環 の節「Gauss の補題と一意分解整域上の多項式環」にそろえ、変数を $X$ と書く。

定義

内容と原始多項式

$0$ でない $P(X)=a_nX^n+\cdots+a_0\in K[X]$ に対し
$$ c(P):=\prod_{p\in\mathcal{P}}p^{\min\{v_p(a_i)\,\mid\,a_i\neq0\}}\in K^\times $$
を $P$ の内容(content)という(右辺は有限個を除いて指数が $0$ の積である)。$P\in A[X]$ で $c(P)$ が単元のとき、すなわち係数全体の最大公約元が $1$ のとき、$P$ を原始多項式(primitive polynomial)という。

$c(P)$ は代表系 $\mathcal{P}$ の選び方によって単元倍だけ変わるので、以下の等式は「単元倍を除いて」の意味で述べ、記号 $\doteq$ で表す。$P\in A[X]$ なら $c(P)\in A$ は係数の最大公約元である。

内容の基本性質

$0$ でない $P\in K[X]$ と $b\in K^\times$ について次が成り立つ。

  1. $c(bP)\doteq b\,c(P)$。
  2. $P_1:=c(P)^{-1}P$ は原始多項式である。したがって $P=c(P)P_1$ と書ける。
  3. $c(P)\in A$ であることと $P\in A[X]$ であることは同値である。
  4. $P=bQ$ で $Q$ が原始多項式なら $b\doteq c(P)$ である。

要点:すべて指数 $v_p$ の最小値の計算である。

詳しい証明を開く

1:$bP$ の係数は $ba_i$ で、$v_p(ba_i)=v_p(b)+v_p(a_i)$ なので、最小値は $v_p(b)+\min_iv_p(a_i)$ になる。よって $c(bP)$ と $b\,c(P)$ は、各 $p$ での指数がそろい、単元倍を除いて一致する。

2:1 により $c(P_1)\doteq c(P)^{-1}c(P)=1$ である。$c(P_1)$ の指数がすべて $0$ なので、$P_1$ の係数 $a_i$ はすべての $p$ で $v_p(a_i)\ge0$、すなわち $A$ に属する。よって $P_1\in A[X]$ で、内容が単元である。

3:$c(P)\in A$ は「すべての $p$ で $\min_iv_p(a_i)\ge0$」と同値であり、それは「すべての係数が $A$ に属する」と同値である。

4:1 により $c(P)\doteq b\,c(Q)\doteq b$ である。$\square$

主定理

Gaussの補題(多項式)

$A$ を一意分解整域、$K$ をその商体とする。

  1. (内容の乗法性)$0$ でない $P,Q\in K[X]$ について $c(PQ)\doteq c(P)c(Q)$ である。とくに $A[X]$ の原始多項式の積は原始多項式である。
  2. (分解の引き戻し)$0$ でない $P\in A[X]$ が $K[X]$ で $P=GH$($G,H\in K[X]$)と分解するなら、$\lambda\in K^\times$ を選んで $\lambda G\in A[X]$、$\lambda^{-1}H\in A[X]$ とできる。とくに $P$ は $A[X]$ において、次数が $\deg G$ と $\deg H$ の 2 つの多項式の積になる。
  3. (既約性の比較)次数 $1$ 以上の $P\in A[X]$ について、$P$ が $A[X]$ の既約元であることと、$P$ が原始多項式で $K[X]$ において既約であることは同値である。

1:lem-gauss-lemma-content-basic の 2 により $P=c(P)P_1$、$Q=c(Q)Q_1$($P_1,Q_1$ は原始多項式)と書くと、$PQ=c(P)c(Q)\,P_1Q_1$ である。同補題の 1 により、$P_1Q_1$ が原始多項式であることを示せばよい。
$P_1Q_1\in A[X]$ なので、その内容は $A$ の元である。これが単元でないとすると、それを割り切る素元 $p\in\mathcal{P}$ がある。$p$ は $P_1Q_1$ のすべての係数を割り切る。環の準同型 $\pi\colon A[X]\to(A/pA)[X]$(係数を $A/pA$ に送る)を考えると $\pi(P_1)\pi(Q_1)=\pi(P_1Q_1)=0$ である。$p$ は素元なので $A/pA$ は整域であり、整域上の多項式環 $(A/pA)[X]$ も整域である(多項式環 の命題「次数の公式と整域性」)。よって $\pi(P_1)=0$ または $\pi(Q_1)=0$、すなわち $p$ が $P_1$ か $Q_1$ のすべての係数を割り切る。これは $P_1,Q_1$ が原始多項式であることに反する。
2:$P\neq0$ なので $G,H\neq0$ である。$G=c(G)G_1$、$H=c(H)H_1$($G_1,H_1$ は原始多項式)と書くと $P=c(G)c(H)\,G_1H_1$ で、1 により $G_1H_1$ は原始多項式である。lem-gauss-lemma-content-basic の 4 により $c(G)c(H)\doteq c(P)$ であり、$P\in A[X]$ なので同補題の 3 により $c(P)\in A$、したがって $c(G)c(H)\in A$ である。$\lambda:=c(H)$ とおくと
$$ \lambda G=c(G)c(H)\,G_1\in A[X],\qquad \lambda^{-1}H=H_1\in A[X] $$
であり、$(\lambda G)(\lambda^{-1}H)=P$ である。$\lambda\neq0$ なので次数は変わらない。
3:$P$ が $A[X]$ の既約元で $\deg P\ge1$ とする。$P=c(P)P_1$ で $\deg P_1=\deg P\ge1$ なので $P_1$ は単元でなく、既約性から $c(P)$ は $A$ の単元である。すなわち $P$ は原始多項式である。$P$ が $K[X]$ で $P=GH$($\deg G,\deg H\ge1$)と分解したとすると、2 により $P$ は $A[X]$ で次数 $\deg G\ge1$ と $\deg H\ge1$ の多項式の積になる。次数 $1$ 以上の多項式は $A[X]$ の単元でない($A[X]$ の単元は $A$ の単元である。多項式環 の命題「次数の公式と整域性」)ので、既約性に反する。
逆に $P$ が原始多項式で $K[X]$ において既約とし、$P=GH$($G,H\in A[X]$)とする。$K[X]$ での既約性により $G,H$ の一方、たとえば $G$ は $K[X]$ の単元、すなわち $0$ でない定数 $g\in A$ である。$g$ は $P=gH$ の係数すべてを割り切るので $g\mid c(P)$ であり、$P$ が原始多項式なので $g$ は $A$ の単元である。よって $P$ は $A[X]$ の既約元である。$\square$

2 は DF04 §9.3 の Proposition 5(Gauss' Lemma、p. 303)に、3 のうち原始多項式についての同値は同 Corollary 6(p. 304)にあたり、thm-gauss-lemma-ufd の 2・3 は同 Theorem 7・Corollary 8(pp. 304–305)にあたる。1 の証明は「素元で割った剰余環上の多項式環が整域である」ことだけを使い、DF04 の Proposition 5 の証明も同じ考え方で分母を素元ごとに払っている。係数を直接比べる証明(最初に $p$ で割れない係数の番号を取り、積の係数を調べる)は 多項式環 の定理「Gauss の補題(内容の乗法性)」にある。高校数学の範囲での整数係数の場合は 因数分解の技法と既約性 の定理「Gauss の補題(整数係数の場合)」が扱っている。

一意分解整域上の多項式環

$A$ を一意分解整域、$K$ をその商体とする。

  1. $A$ の素元は $A[X]$ の素元である。$K[X]$ で既約な原始多項式も $A[X]$ の素元である。
  2. $A[X]$ は一意分解整域である。その素元(=既約元)は、単元倍を除いて、$A$ の素元と $K[X]$ で既約な原始多項式とで尽くされる。
  3. したがって $A[X_1,\dots,X_n]$ も一意分解整域である。とくに $\mathbb{Z}[X_1,\dots,X_n]$ と、体 $k$ 上の $k[X_1,\dots,X_n]$ は一意分解整域である。

1:$p$ が $A$ の素元なら $A[X]/pA[X]\cong(A/pA)[X]$ は整域なので、$pA[X]$ は素イデアルであり、$p$ は $A[X]$ の素元である。
次に $P$ を $K[X]$ で既約な原始多項式とし、$G,H\in A[X]$ について $P\mid GH$($A[X]$ で)とする。既約多項式 の命題「体上の多項式環における既約性の言い換え」により $K[X]$ の既約元は素元なので、$P$ は $K[X]$ で $G$ か $H$ を割り切る。$G=PS$($S\in K[X]$)としてよい。$G=0$ なら $P\mid G$ は明らかなので $G\neq0$ とする。thm-gauss-lemma-polynomial の 1 により $c(G)\doteq c(P)c(S)\doteq c(S)$ であり、$c(G)\in A$ なので $c(S)\in A$、lem-gauss-lemma-content-basic の 3 により $S\in A[X]$ である。よって $P$ は $A[X]$ で $G$ を割り切る。$P$ は次数 $1$ 以上なので $0$ でも単元でもなく、$A[X]$ の素元である。
2:$0$ でも単元でもない $F\in A[X]$ が、1 の素元の有限個の積に書けることを示す。そうすれば 一意分解整域 の定理「一意分解整域の特徴づけ」(3 ⇒ 1)により $A[X]$ は一意分解整域である。$F=c(F)F_1$($F_1$ は原始多項式)と書く。$c(F)\in A$ は、単元でなければ $A$ の素元の積である。$\deg F_1=0$ なら $F_1$ は $A$ の単元なので、$F$ は単元倍を除いて $c(F)$ の素元分解に一致する。$\deg F_1\ge1$ なら、$K[X]$ は一意分解整域なので(多項式環 の定理「体上の一意分解」) $F_1=G_1\cdots G_r$($G_i$ は $K[X]$ の既約元)と書ける。thm-gauss-lemma-polynomial の 2 を $r-1$ 回使い、$K^\times$ の元を掛け替えて $F_1=H_1\cdots H_r$($H_i\in A[X]$、$H_i$ は $G_i$ の $K^\times$ 倍)とできる。$F_1$ が原始多項式なので、1 の乗法性により各 $H_i$ も原始多項式であり($c(H_1)\cdots c(H_r)\doteq1$ で各 $c(H_i)\in A$)、$K[X]$ で既約である。よって $F$ は 1 の素元の積である。
逆に $A[X]$ の素元 $F$ をとる。素元は既約元なので、次数 $0$ なら $A$ の既約元、すなわち $A$ の素元である。次数 $1$ 以上なら thm-gauss-lemma-polynomial の 3 により $K[X]$ で既約な原始多項式である。
3:$A[X_1,\dots,X_n]=A[X_1,\dots,X_{n-1}][X_n]$ なので、2 を $n$ 回使えばよい。体は一意分解整域であり、$\mathbb{Z}$ も一意分解整域である。$\square$

例

有理根の判定

$P=a_nX^n+\cdots+a_0\in A[X]$($a_n\neq0$)が $K$ に根 $r/s$ をもつとする。ここで $r,s\in A$、$s\neq0$ で、$r$ と $s$ の最大公約元は $1$ とする。このとき $s\mid a_n$ かつ $r\mid a_0$ である。
実際、多項式環 の系「剰余定理と因数定理」により $P$ は $K[X]$ で $X-r/s$ で割り切れ、したがって $sX-r$ で割り切れる。$P=(sX-r)S$($S\in K[X]$)と書く。$sX-r$ は係数の最大公約元が $1$ なので原始多項式であり、thm-gauss-lemma-polynomial の 1 により $c(S)\doteq c(P)\in A$、よって $S\in A[X]$ である(lem-gauss-lemma-content-basic の 3)。$S=b_{n-1}X^{n-1}+\cdots+b_0$ とおいて最高次と定数項を比べると $a_n=sb_{n-1}$、$a_0=-rb_0$ である。$A=\mathbb{Z}$ のとき、これは整数係数の多項式の有理数の根の分母が最高次係数を、分子が定数項を割り切るという判定法である。

$X^4+1$ は $\mathbb{Q}$ 上既約

$P=X^4+1\in\mathbb{Z}[X]$ はモニックなので原始多項式である。$\mathbb{Q}$ 上の分解があれば、thm-gauss-lemma-polynomial の 2 により $\mathbb{Z}[X]$ で同じ次数の分解があり、最高次係数の積が $1$ なので、両方の因子の最高次係数を $1$ にそろえられる(必要なら両方を $-1$ 倍する)。

  • 1 次の因子があれば $P$ は整数の根をもち、その根は $\pm1$ のどちらかである(ex-gauss-lemma-rational-root)。しかし $P(\pm1)=2\neq0$。
  • $P=(X^2+aX+b)(X^2+cX+d)$($a,b,c,d\in\mathbb{Z}$)とすると、係数を比べて $a+c=0$、$b+d+ac=0$、$ad+bc=0$、$bd=1$ である。$bd=1$ から $b=d=\pm1$ で、$c=-a$ を代入すると $a^2=b+d=\pm2$ となり、整数 $a$ は存在しない。
    よって $X^4+1$ は $\mathbb{Z}[X]$ でも $\mathbb{Q}[X]$ でも既約である。一方、$X^4+1$ は $\mathbb{R}$ 上では $(X^2+\sqrt2X+1)(X^2-\sqrt2X+1)$ と分解する。分解の可否は係数の範囲で決まり、Gauss の補題は $\mathbb{Z}$ と $\mathbb{Q}$ の間だけを結ぶ。
2 変数の多項式 $Y^2-X^3$

$k$ を体とし、$k[X,Y]=A[Y]$($A=k[X]$、$K=k(X)$)とみる。$P=Y^2-X^3$ は $Y$ についてモニックなので $A[Y]$ の原始多項式である。$K[Y]$ で可約なら 1 次の因子をもち、$K$ に $Y^2=X^3$ の解がある。しかし $K$ の $0$ でない元の $X$ についての次数(分子の次数から分母の次数を引いたもの)は 2 乗すると偶数になり、$X^3$ の次数 $3$ にはならない。よって $P$ は $K[Y]$ で既約であり、thm-gauss-lemma-polynomial の 3 により $k[X,Y]$ の既約元、thm-gauss-lemma-ufd により素元である。したがって $k[X,Y]/(Y^2-X^3)$ は整域である。

反例:条件を外すと

外す条件反例成り立たなくなること
$A$ が一意分解整域$A=\mathbb{Z}[\sqrt{-5}]$、$P=2X+(1+\sqrt{-5})$、$Q=2X+(1-\sqrt{-5})$$P$、$Q$ はどちらも係数の公約元が単元だけなのに、$PQ=4X^2+4X+6$ の係数はすべて $2$ で割り切れる(内容の乗法性)
$A$ が一意分解整域$A=\mathbb{Z}[\sqrt{-3}]$、$P=X^2+X+1$$P$ はモニックで $A[X]$ の既約元だが、$K=\mathbb{Q}(\sqrt{-3})$ 上では $(X-\omega)(X-\bar\omega)$、$\omega=\frac{-1+\sqrt{-3}}{2}$ と分解する(既約性の比較)
$P$ が原始多項式$A=\mathbb{Z}$、$P=2X+2$$P$ は $\mathbb{Q}[X]$ で既約だが、$\mathbb{Z}[X]$ では単元でない 2 つの元の積 $2\cdot(X+1)$ である

各行は左の列の条件だけを外している。

確かめを開く

1 行目:ノルム $N(a+b\sqrt{-5})=a^2+5b^2$ は乗法的で、単元は $\pm1$ だけである(一意分解整域 の例「反例:分解は存在するが一意でない整域」)。$2$ と $1+\sqrt{-5}$ の公約元 $d$ について $N(d)$ は $N(2)=4$ と $N(1+\sqrt{-5})=6$ を割り切るので $N(d)\in\{1,2\}$ であり、$a^2+5b^2=2$ は整数解をもたないので $N(d)=1$、$d=\pm1$ である。$Q$ についても同じである。$PQ=4X^2+2\{(1-\sqrt{-5})+(1+\sqrt{-5})\}X+(1+5)=4X^2+4X+6$ で、$2$ は単元でない。$A$ は一意分解整域でないので、内容(係数の最大公約元)がそもそも定まらない場合がある。この例の $A$ は整閉な整域(Dedekind整域)であり、整閉性だけでは乗法性は回復しない。

2 行目:$N(a+b\sqrt{-3})=a^2+3b^2$ により $A$ の単元は $\pm1$ だけである。$P=GH$ で $G,H$ が単元でないとする。一方が定数 $g\in A$ なら $g$ は最高次係数 $1$ を割り切るので単元で、矛盾する。よって $G,H$ は 1 次で、最高次係数の積が $1$ なので $G=\pm(X-\alpha)$($\alpha\in A$)としてよく、$\alpha$ は $P$ の根である。$P$ の複素数の根は $\omega,\bar\omega$ で、$a+b\sqrt{-3}$($a,b\in\mathbb{Z}$)の形でない(実部が $-\frac12$)。よって $P$ は $A[X]$ の既約元である。$\omega\in\mathbb{Q}(\sqrt{-3})=K$ なので $K[X]$ では分解する。

3 行目:1 次式は体上で既約である。$2$ は $\mathbb{Z}[X]$ の単元でなく($\mathbb{Z}[X]$ の単元は $\pm1$)、$X+1$ も単元でない。

使われる場面

  • Eisenstein の判定法:素元 $p$ が最高次以外の係数を割り切り、最高次係数を割り切らず、$p^2$ が定数項を割り切らないなら $K$ 上既約、という判定法は、この記事の 2 で $A[X]$ の分解に帰着し、$p$ で割った剰余環で係数を比べて証明される(既約多項式 の定理「Eisenstein の判定法」)。
  • 整数環の元の最小多項式:代数的整数 の最小多項式が $\mathbb{Z}[X]$ に入ることは、モニックな多項式に 2 を当てると得られる。
  • 多変数の多項式環:$k[X_1,\dots,X_n]$ が一意分解整域であることから、その既約元の生成する単項イデアルは素イデアルであり、超曲面 の既約性を多項式の既約性で判定できる。
  • 一意分解整域でない整域でも、整閉な整域なら「モニックな多項式の $K$ 上のモニックな因子は $A$ 係数」は成り立つ(因子の根は $A$ 上整だから)。上の表の 2 行目の $\mathbb{Z}[\sqrt{-3}]$ は整閉でないので、これも成り立たない。

関連項目

参考文献

[1]
David S. Dummit and Richard M. Foote, Abstract Algebra, John Wiley & Sons, 2004, §9.3 Proposition 5(Gauss' Lemma)・Corollary 6・Theorem 7・Corollary 8(pp. 303–305)

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