確率論的方法

同義語:確率的方法probabilistic method

概要

確率論的方法(probabilistic method)とは、ある性質をもつ組合せ論的な対象の存在を、対象を無作為に選んだときにその性質をもつ確率が正であることや、確率変数が期待値以上の値をとりうることから示す証明の方法である。悪い事象の確率の和を $1$ 未満に抑える第 1 モーメント法、無作為に選んでから悪い部分を取り除く変更法、分散を使う第 2 モーメント法などがあり、内周と彩色数がともにいくらでも大きいグラフの存在はその代表例である。依存の少ない悪い事象をすべて同時に避ける確率が正であることを示す Lovász の局所補題により、各辺が交わる辺の数が辺の大きさに比べて少ない一様ハイパーグラフは辺が何本あっても 2-彩色可能であることなども示せる。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 有限確率空間, 期待値の線形性と数え上げ, Chebyshevの不等式, 彩色数

確率論的方法は、ある性質をもつ組合せ論的な対象(グラフ、塗り分け、集合族など)が存在することを、対象を無作為に選んだときにその性質をもつ確率が正であることから示す方法である。確率が正なら、その性質をもつ対象が少なくとも 1 つある。具体的な構成を与えずに存在だけを示すので、構成が知られていない対象の存在を示すことができる。
この方法の代表的な初期の例は Erdős による Ramsey 数の下界(Ramseyの定理 の定理「Erdős の下界」)であり、その後組合せ論の基本的な道具になった。この記事では、まず存在を引き出す基本原理(期待値と確率の言い換え)を述べ、次の 3 つを証明する。内周と彩色数がともにいくらでも大きいグラフの存在(主定理 1、変更法)、まれにしか重ならない「悪い事象」をすべて避ける確率が正であることを示す Lovász の局所補題(主定理 2)、そしてランダムグラフが三角形を含むかどうかの境目(第 2 モーメント法)である。

基本原理

以下、確率空間 $(\Omega,\mathcal{F},P)$ で考える。組合せ論では多くの場合 $\Omega$ は有限集合である(有限確率空間)。

存在の原理
  1. 事象 $A$ が $P(A)>0$ を満たすなら、$A$ は空でない。とくに事象 $B_1,\dots,B_m$ が $\sum_iP(B_i)< 1$ を満たすなら、どの $B_i$ にも属さない $\omega\in\Omega$ がある。
  2. 確率変数 $X$ の期待値 $E[X]$ が有限なら、$P(X\ge E[X])>0$ かつ $P(X\le E[X])>0$ である。とくに $X(\omega)\ge E[X]$ となる $\omega$ と、$X(\omega')\le E[X]$ となる $\omega'$ がある。
  3. $X$ が $0$ 以上の整数に値をとるなら $P(X\ge1)\le E[X]$ である。$E[X]>0$、$E[X^2]< \infty$ なら $P(X=0)\le\mathrm{Var}(X)/E[X]^2$ である。

1。 $A=\emptyset$ なら $P(A)=0$ である。後半は $P(\bigcup_iB_i)\le\sum_iP(B_i)< 1$ により、$A:=\Omega\setminus\bigcup_iB_i$ が $P(A)>0$ を満たすことによる。
2。 $\mu:=E[X]$ とし、$P(X\ge\mu)=0$ と仮定する。すると確率 1 で $\mu-X>0$ である。$0$ 以上の確率変数の期待値が $0$ なら確率 1 でその確率変数は $0$ である(Chebyshevの不等式 の定理「Markov の不等式」を $t=1/k$ に使い $k\to\infty$ とする)ので、$E[\mu-X]>0$、すなわち $\mu>\mu$ となって矛盾する。$X$ を $-X$ に替えれば後半を得る。
3。 前半は $\mathbf 1\{X\ge1\}\le X$ の期待値をとればよい。後半は、$X=0$ なら $\lvert X-E[X]\rvert\ge E[X]$ なので、Chebyshevの不等式 の定理「Chebyshev の不等式」による。$\square$

1 は「悪い事象の確率の和が 1 未満なら、どれも起こらない場合がある」という形で使い、第 1 モーメント法(和の評価)とよばれる。2 は「確率変数は平均以上の値をとることがある」という形で使う。期待値は 期待値の線形性と数え上げ の定理により、各部分の確率の和として計算できるので、確率変数自身の分布がわからなくても使える。3 の後半は、平均が大きく分散が相対的に小さければ $X>0$ となる確率が $1$ に近いことを述べ、第 2 モーメント法とよばれる。

方法使う原理例
第 1 モーメント法prop-pm-principle の 1・3 前半Ramsey 数の下界、prop-pm-hypergraph-first
期待値法prop-pm-principle の 2辺の半分以上を横切る分割、独立数の下界
変更法無作為に選んでから、少数の悪い部分を取り除くthm-pm-girth
局所補題依存の少ない悪い事象を同時に避けるthm-pm-lll、thm-pm-hypergraph-lll
第 2 モーメント法prop-pm-principle の 3 後半prop-pm-triangle

基本原理の使い方の例

既存の記事にある確率論的な証明
  • Ramsey 数:$K_n$ の辺を独立に確率 $\frac12$ で赤青に塗ると、単色の $K_k$ の個数の期待値は $\binom nk2^{1-\binom k2}$ である。これが $1$ 未満なら単色の $K_k$ のない塗り分けがあり、$k\ge3$ で $R(k,k)>2^{k/2}$ が出る(Ramseyの定理 の定理「Erdős の下界」。そこでは同じ議論を個数の数え上げで書いている)。
  • 辺の半分以上を横切る分割:各頂点を独立に確率 $\frac12$ で 2 組に分けると、各辺が組をまたぐ確率は $\frac12$ なので、またぐ辺の本数の期待値は $m/2$ であり、$m/2$ 本以上をまたぐ分割がある(離散数学 の定理「辺の半分以上を横切る分割」)。
  • 独立数:頂点を無作為な順に並べ、隣接するどの頂点よりも前にある頂点を集めると独立集合になり、その大きさの期待値は $\sum_v\frac1{d(v)+1}$ である(Turánの定理 の命題「次数による独立集合の下界」)。
  • 交差数:平面に描いたグラフの頂点を無作為に残すと、辺の本数の多いグラフはたくさん交差しなければならないことが示せる(交差数補題)。

$k\ge2$ とする。有限集合 $V$ の $k$ 元部分集合の族 $\mathcal{E}$ を、$V$ 上の $k$-一様ハイパーグラフといい、$\mathcal{E}$ の元を辺という。$V$ の各点に 2 色のどちらかを塗り、どの辺も単色にならないようにできるとき、2-彩色可能という($k=2$ なら通常のグラフの 2-彩色である)。

辺の少ないハイパーグラフの 2-彩色

辺が $2^{k-1}$ 本未満の $k$-一様ハイパーグラフは 2-彩色可能である。

各点の色を独立に確率 $\frac12$ ずつで決める($2^{\lvert V\rvert}$ 通りの塗り方が等確率の有限確率空間)。辺 $e$ が単色になる事象 $B_e$ の確率は、$e$ の $k$ 点がすべて赤かすべて青なので $2\cdot2^{-k}=2^{1-k}$ である。$\sum_eP(B_e)=\lvert\mathcal E\rvert2^{1-k}< 1$ なので、prop-pm-principle の 1 により、どの辺も単色でない塗り方がある。$\square$

辺の本数に制限のない場合でも、各辺が少数の辺としか交わらなければ 2-彩色可能であることを、主定理 2 の応用として示す(thm-pm-hypergraph-lll)。

ランダムグラフ

$n\ge1$、$0\le p\le1$ とする。頂点集合 $\{1,\dots,n\}$ の上の単純グラフ全体に、辺の本数が $e(G)$ のグラフ $G$ の確率を $p^{e(G)}(1-p)^{\binom n2-e(G)}$ とする確率を与えた有限確率空間を $G(n,p)$ と書き、これに従うグラフをランダムグラフという。$\binom n2$ 個の頂点の対のそれぞれが、独立に確率 $p$ で辺になると考えたものである。とくに、指定した $r$ 本の辺がすべて含まれる確率は $p^r$ である。

主定理 1:内周と彩色数がともに大きいグラフ

グラフの内周は閉路の長さの最小値(閉路がなければ $\infty$)である(閉路 の定義「閉路・内周・森」)。内周が大きいグラフは、各頂点の近くでは木のように見える。木は 2 色で塗れるので、内周の大きいグラフは少ない色で塗れそうに見えるが、そうではない。

内周と彩色数がともに大きいグラフ

整数 $g\ge3$、$k\ge1$ について、内周が $g$ より大きく、彩色数が $k$ より大きい有限単純グラフが存在する。

これは Erdős の定理であり、KT17 Theorem 11.7(p. 234)にある。いくらでも大きな彩色数をもつ三角形のない(内周 $4$ 以上の)グラフは構成的にも作れる(彩色数 の注意「三角形を含まないグラフの彩色数」)。主定理 1 は、内周の下限をいくら大きくしても、彩色数がいくらでも大きいグラフがあることを述べる。

$\theta:=\frac1{2g}$ とし、$n$ を大きくとって $p:=n^{\theta-1}$、ランダムグラフ $G\sim G(n,p)$ を考える。
段 1(短い閉路は少ない)。 長さ $i$ の閉路は、異なる $i$ 個の頂点の並び $(v_1,\dots,v_i)$ を、巡回と向きの反転で同一視したもの($2i$ 個の並びが同じ閉路を表す)なので、$K_n$ の中に $n(n-1)\cdots(n-i+1)/(2i)\le n^i/(2i)$ 個ある。それぞれが $G$ に含まれる確率は $p^i$ である。長さ $g$ 以下の閉路の個数を $Y$ とすると、期待値の線形性により
$$ E[Y]\le\sum_{i=3}^g\frac{(np)^i}{2i}\le\sum_{i=3}^gn^{\theta i}\le g\,n^{\theta g}=g\sqrt n $$
である($np=n^\theta\ge1$)。Chebyshevの不等式 の定理「Markov の不等式」により $P(Y\ge n/2)\le2E[Y]/n\le2g/\sqrt n$ である。
段 2(大きな独立集合はない)。 $a:=\lceil3\ln n/p\rceil$ とする。$a\le n$ のとき、ある $a$ 元集合が独立集合になる確率は $(1-p)^{\binom a2}\le e^{-pa(a-1)/2}$ なので
$$ P(\alpha(G)\ge a)\le\binom na(1-p)^{\binom a2}\le\bigl(ne^{-p(a-1)/2}\bigr)^a $$
である。$p(a-1)\ge3\ln n-p\ge3\ln n-1$ なので $ne^{-p(a-1)/2}\le e^{1/2}n^{-1/2}$ であり、$n\ge3$ でこれは $1$ 未満なので、右辺は $e^{1/2}n^{-1/2}$ 以下である。$a>n$ なら左辺は $0$ である。
段 3(悪い部分を取り除く)。 段 1・2 の上界の和は $n\to\infty$ で $0$ に近づくので、$n$ が十分大きければ $P(Y\ge n/2)+P(\alpha(G)\ge a)< 1$ であり、prop-pm-principle の 1 により、$Y< n/2$ かつ $\alpha(G)< a$ となるグラフ $G$ がある。$G$ の長さ $g$ 以下の閉路のそれぞれから頂点を 1 つずつ選んで取り除いたグラフを $H$ とする。$H$ の頂点は $n/2$ 個より多い。$H$ の閉路は $G$ の閉路であり、長さ $g$ 以下の閉路はすべて頂点を失っているので、$H$ の内周は $g$ より大きい。$H$ の独立集合は $G$ の独立集合なので $\alpha(H)\le\alpha(G)< a$ である。彩色数 の命題「彩色数の基本評価」により
$$ \chi(H)\ge\frac{\lvert V(H)\rvert}{\alpha(H)}>\frac{n/2}a\ge\frac{n}{2(3n^{1-\theta}\ln n+1)} $$
である($a\le3\ln n/p+1$)。右辺は $n^\theta/\ln n$ の程度で $\infty$ に発散するので、$n$ を十分大きくとれば $k$ より大きい。$\square$

この証明は、まず無作為に選んでから「悪い部分」(短い閉路)を少し取り除いて性質を完成させる変更法の典型である。短い閉路のないグラフを直接無作為に選ぼうとすると、短い閉路が 1 つもない確率は小さすぎて扱いにくいが、短い閉路が頂点数の半分未満である確率は高い。

主定理 2:Lovász の局所補題

第 1 モーメント法では、悪い事象 $A_1,\dots,A_m$ の確率の和が $1$ 未満であることが要った。悪い事象が互いに独立なら、各 $P(A_i)< 1$ だけで $P(\bigcap_i\overline{A_i})=\prod_i(1-P(A_i))>0$ である($\overline{A}$ は補事象)。局所補題は、この 2 つの極端のあいだで、各事象が少数の事象とだけ関係している場合を扱う。

依存グラフ

事象 $A_1,\dots,A_m$ と、頂点集合 $\{1,\dots,m\}$ の上のグラフ $D$ を考え、$i$ に隣接する頂点の集合を $\Gamma(i)$ とする。各 $i$ と、$\Gamma(i)\cup\{i\}$ と交わらないすべての集合 $S\subset\{1,\dots,m\}$ について
$$ P\Bigl(A_i\cap\bigcap_{j\in S}\overline{A_j}\Bigr)=P(A_i)\,P\Bigl(\bigcap_{j\in S}\overline{A_j}\Bigr) $$
が成り立つとき、$D$ を $A_1,\dots,A_m$ の依存グラフという。

$A_i$ が事象の族 $\{A_j\mid j\notin\Gamma(i)\cup\{i\}\}$ から生成される $\sigma$-代数と独立なら、この条件は満たされる。対ごとに独立なだけでは足りない(反例の表の 1 行目)。

Lovász の局所補題

$D$ を事象 $A_1,\dots,A_m$ の依存グラフとし、実数 $x_1,\dots,x_m\in[0,1)$ がすべての $i$ について
$$ P(A_i)\le x_i\prod_{j\in\Gamma(i)}(1-x_j) $$
を満たすとする。このとき
$$ P\Bigl(\bigcap_{i=1}^m\overline{A_i}\Bigr)\ge\prod_{i=1}^m(1-x_i)>0 $$
である。

主張。 $S\subset\{1,\dots,m\}$、$i\notin S$ で、$P(\bigcap_{j\in S}\overline{A_j})>0$ なら
$$ P\Bigl(A_i\Bigm|\bigcap_{j\in S}\overline{A_j}\Bigr)\le x_i $$
である($S=\emptyset$ のとき共通部分は $\Omega$)。
$\lvert S\rvert$ についての帰納法で示す。$S_1:=S\cap\Gamma(i)$、$S_2:=S\setminus S_1$ とおき、$C_T:=\bigcap_{j\in T}\overline{A_j}$ と書く。$S_2$ は $\Gamma(i)\cup\{i\}$ と交わらないので、依存グラフの条件により $P(A_i\cap C_{S_2})=P(A_i)P(C_{S_2})$ である。$C_S\subset C_{S_2}$ なので $P(C_{S_2})>0$ である。
$S_1=\emptyset$ なら $S=S_2$ で、$P(A_i\mid C_S)=P(A_i)\le x_i$ である($x_i$ に掛かる積は $1$ 以下)。$S_1=\{j_1,\dots,j_r\}$($r\ge1$)とする。$C_S=C_{S_1}\cap C_{S_2}$ なので
$$ P(A_i\mid C_S)=\frac{P(A_i\cap C_{S_1}\cap C_{S_2})}{P(C_S)}=\frac{P(A_i\cap C_{S_1}\mid C_{S_2})}{P(C_{S_1}\mid C_{S_2})} $$
である。分子は $P(A_i\mid C_{S_2})=P(A_i)\le x_i\prod_{j\in\Gamma(i)}(1-x_j)$ 以下である。分母は
$$ P(C_{S_1}\mid C_{S_2})=\prod_{l=1}^r\Bigl(1-P\bigl(A_{j_l}\bigm|C_{S_2\cup\{j_1,\dots,j_{l-1}\}}\bigr)\Bigr) $$
と書ける(条件の事象はどれも $C_S$ を含むので確率は正)。$S_2\cup\{j_1,\dots,j_{l-1}\}$ は $j_l$ を含まず、要素の個数は $\lvert S\rvert$ より小さいので、帰納法の仮定により各因子は $1-x_{j_l}$ 以上である。$\{j_1,\dots,j_r\}\subset\Gamma(i)$ で $0< 1-x_j\le1$ なので、分母は $\prod_{j\in\Gamma(i)}(1-x_j)$ 以上である。よって $P(A_i\mid C_S)\le x_i$ である。
結論。 $i=1,\dots,m$ について順に、$P(C_{\{1,\dots,i\}})=P(C_{\{1,\dots,i-1\}})\bigl(1-P(A_i\mid C_{\{1,\dots,i-1\}})\bigr)\ge P(C_{\{1,\dots,i-1\}})(1-x_i)$ である($P(C_{\{1,\dots,i-1\}})>0$ は帰納的にわかるので条件付き確率が定まり、主張が使える)。掛け合わせて結論を得る。$\square$

これは KT17 Lemma 16.14(pp. 326–328)である。各事象の確率と依存の数がそろっているときは、次の形が使いやすい。

局所補題の対称な形

事象 $A_1,\dots,A_m$ の依存グラフで各頂点の次数が $d$ 以下であり、すべての $i$ で $P(A_i)\le p$、かつ $e\,p\,(d+1)\le1$ なら、$P(\bigcap_i\overline{A_i})>0$ である($e$ は自然対数の底)。

$d=0$ なら $\Gamma(i)$ はどれも空なので、$x_i:=P(A_i)\le p\le\frac1e< 1$ とおけば thm-pm-lll の仮定が成り立つ。以下 $d\ge1$ とし、すべての $i$ で $x_i:=\frac1{d+1}$ とおく。$(1+\frac1d)^d\le e$ なので $(1-\frac1{d+1})^d=(1+\frac1d)^{-d}\ge\frac1e$ であり、
$$ x_i\prod_{j\in\Gamma(i)}(1-x_j)\ge\frac1{d+1}\Bigl(1-\frac1{d+1}\Bigr)^d\ge\frac1{e(d+1)}\ge p\ge P(A_i) $$
である。$x_i< 1$ なので thm-pm-lll が使える。$\square$

KT17 Lemma 16.15(p. 328)は $d\ge1$ の場合を $e\,p\,(d+1)< 1$ の形で述べている。

応用:ハイパーグラフの 2-彩色

交わりの少ないハイパーグラフの 2-彩色

$k\ge2$ とし、$k$-一様ハイパーグラフの各辺が、自分以外の高々 $d$ 本の辺と交わるとする。$e(d+1)\le2^{k-1}$ なら、このハイパーグラフは 2-彩色可能である。

prop-pm-hypergraph-first の証明と同じく各点の色を独立に確率 $\frac12$ ずつで決め、辺 $f$ が単色になる事象を $A_f$ とする。$P(A_f)=2^{1-k}$ である。辺を頂点とし、交わる 2 辺を結んだグラフ $D$ が依存グラフであることを示す。$A_f$ は $f$ の点の色だけで決まり、$f$ と交わらない辺 $f'$ の事象 $A_{f'}$ は $f$ の外の点の色だけで決まる。各点の色は独立なので、$f$ の点の色の組と $f$ の外の点の色の組は独立であり、$A_f$ はそれらの $A_{f'}$ の補事象の任意の共通部分と独立である。$D$ の次数は $d$ 以下で、$e\cdot2^{1-k}(d+1)\le1$ なので、cor-pm-lll-symmetric により、どの辺も単色でない塗り方が正の確率で、したがって少なくとも 1 つ存在する。$\square$

たとえば $k=10$ なら、各辺が他の $187$ 本以下の辺としか交わらなければ($e\cdot188\approx511.0\le512$)、辺が何本あっても 2-彩色可能である。prop-pm-hypergraph-first は辺が $512$ 本未満の場合しか扱えない。局所補題は存在を示すだけで、確率 $\prod_i(1-x_i)$ は事象の数について指数関数的に小さくなりうるので、無作為に塗るだけでは実際の塗り方を効率よく見つけられるとは限らない。

第 2 モーメント法:三角形の現れる境目

ランダムグラフの三角形

各 $n$ について $p=p(n)\in[0,1]$ を与え、$G_n\sim G(n,p)$ とする。

  1. $np\to0$ なら $P(G_n\text{ が三角形を含む})\to0$ である。
  2. $np\to\infty$ なら $P(G_n\text{ が三角形を含む})\to1$ である。

要点:三角形の個数 $X$ の平均は $\binom n3p^3$ で、分散は辺を共有する三角形の対からしか生じない。

詳しい証明を開く

3 頂点の集合 $T$ ごとに、$T$ が三角形になる指示確率変数を $X_T$ とし、$X:=\sum_TX_T$ とおく。$E[X]=\binom n3p^3$ である。

1。 $E[X]\le(np)^3/6\to0$ なので、prop-pm-principle の 3 の前半により $P(X\ge1)\to0$。

2。 $\mathrm{Var}(X)=\sum_T\mathrm{Var}(X_T)+\sum_{T\ne T'}\mathrm{Cov}(X_T,X_{T'})$ である。$\mathrm{Var}(X_T)\le E[X_T]$ なので第 1 項は $E[X]$ 以下である。$T$ と $T'$ が共有する頂点が 1 個以下なら共通の辺がなく、$X_T,X_{T'}$ は互いに素な辺の集合で決まるので独立で、共分散は $0$ である。2 個の頂点を共有するなら、合わせて $5$ 本の辺が要るので $\mathrm{Cov}\le E[X_TX_{T'}]=p^5$ である。そのような順序対 $(T,T')$ は $\binom n3\cdot3(n-3)\le n^4/2$ 個なので $\mathrm{Var}(X)\le E[X]+n^4p^5/2$ である。$n\ge6$ では $\binom n3\ge n^3/12$ なので、prop-pm-principle の 3 の後半により$$P(X=0)\le\frac1{E[X]}+\frac{n^4p^5/2}{\binom n3^2p^6}\le\frac{12}{(np)^3}+\frac{72}{n\cdot np}\to0$$である。$\square$

1 と 2 から、$p=1/n$ の程度が三角形の現れる境目である。1 は期待値だけで済むが、2 は期待値が大きいだけでは足りず、分散の評価が要る。

反例:条件を外したとき

外す条件反例成り立たなくなること
def-pm-dependency の独立性を、対ごとの独立に弱める$q\ge3$ を素数とし、$\mathbb{F}_q^2$ の一様分布に従う点が原点を通る $q+1$ 本の直線のそれぞれに乗る事象 $A_1,\dots,A_{q+1}$どの 2 つも独立で $P(A_i)=1/q$、依存グラフを辺なし($d=0$)とすると $e\,p\,(d+1)=e/q\le1$ だが、$P(\bigcap_i\overline{A_i})=0$
cor-pm-lll-symmetric の $e\,p\,(d+1)\le1$$\{1,\dots,m\}$ の一様分布に従う $X$ と、$A_i:=\{X=i\}$(依存グラフは完全グラフ、$p=1/m$、$d=m-1$)$e\,p\,(d+1)=e>1$ で、$P(\bigcap_i\overline{A_i})=0$
thm-pm-hypergraph-lll の $e(d+1)\le2^{k-1}$Fano 平面:7 点と、7 本の 3 点の直線(どの 2 点もちょうど 1 本の直線に乗り、どの 2 直線もちょうど 1 点で交わる)からなる 3-一様ハイパーグラフ$d=6$ で $7e>4$。2-彩色可能でない
反例の確かめ

1 行目。 直線 $\{(x,ax)\mid x\in\mathbb{F}_q\}$($a\in\mathbb{F}_q$)と $\{(0,y)\mid y\in\mathbb{F}_q\}$ はどれも $q$ 点を含み、どの 2 本も原点だけで交わるので $P(A_i\cap A_j)=1/q^2=P(A_i)P(A_j)$ である。点 $(x,y)$ は $x\ne0$ なら傾き $y/x$ の直線に、$x=0$ なら最後の直線に乗るので、$\bigcup_iA_i$ は全体である。したがって $A_i$ はほかの事象全体からなる族とは独立でない(たとえば $A_1$ は $\bigcap_{j\ne1}\overline{A_j}$ を含むので、$P(A_1\cap\bigcap_{j\ne1}\overline{A_j})=P(\bigcap_{j\ne1}\overline{A_j})=(q-1)/q^2$ は $P(A_1)P(\bigcap_{j\ne1}\overline{A_j})=(q-1)/q^3$ と異なる)。
3 行目。 2 色で塗ったとして、多い方の色の点の集合を $R$ とすると $\lvert R\rvert\ge4$ である。単色の直線がないとする。$R$ の 2 点を通る直線は $R$ の点をちょうど 2 個含み、$R$ の点の対ごとに異なる。$\lvert R\rvert\ge5$ なら、そのような直線が $\binom52=10>7$ 本必要で矛盾する。$\lvert R\rvert=4$ なら、そのような直線は $6$ 本である。各点はちょうど 3 本の直線に乗るので、直線と $R$ の共通部分の大きさの総和は $3\cdot4=12$ であり、6 本で $12$ に達するので、残りの 1 本は $R$ と交わらず、もう一方の色だけからなる。これは単色の直線である。

補足

確率論的方法の広がり
  • 確率論的方法の証明の多くは、有限確率空間の上の数え上げに書き直せる(ex-pm-classics の Ramsey 数のように)。確率の言葉を使う利点は、期待値の線形性・独立性・条件付き確率といった道具をそのまま使えることにある。
  • 確率論的方法は対象の存在を示すが、それを見つける手順は与えない。一方 Monte Carlo法 は、乱数を使って量を数値として見積もる方法であり、乱数を使う目的が異なる。

関連項目

参考文献

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