Krein–Rutmanの定理

同義語:Krein-Rutmanの定理クレイン・ルトマンの定理Krein–Rutman theorem

概要

Krein–Rutmanの定理(Krein–Rutman theorem)とは、実 Banach 空間の内部が空でない閉凸錐 $P$(全体ではない)について、$P\setminus\{0\}$ を $P$ の内部へ写すコンパクト作用素 $T$ は、$P$ の内部に固有ベクトルをもつ正の固有値 $\mu_0$ をもつという定理である。$P$ の中の固有ベクトルはその正の倍に限られ、$\mu_0$ は幾何的にも代数的にも重複度 $1$ で、ほかの実固有値の絶対値は $\mu_0$ より小さく、$\mu_0$ は実スペクトルの絶対値の最大値に等しい。成分が正の行列についての Perron の定理の無限次元版で、存在は Schauder の不動点定理から、一意性は錐に沿った比較から示される。正の核をもつ積分作用素などに当てはまる。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: コンパクト作用素, Banach空間, Perron–Frobeniusの定理, Brouwerの不動点定理

正の作用素の最大固有値

成分がすべて正の正方行列は、正の固有値 $\rho$ と成分がすべて正の固有ベクトルをもち、$\rho$ はほかの固有値の絶対値より大きく、重複度は $1$ である(Perron の定理。Perron–Frobeniusの定理)。Krein–Rutman の定理(Krein–Rutman theorem)は、これを無限次元の実 Banach空間 の上のコンパクト作用素へ広げる。「成分が正のベクトル」の代わりに内部が空でない閉凸錐 $P$ を考え、「成分が正の行列」の代わりに $P\setminus\{0\}$ を $P$ の内部へ写す コンパクト作用素 を考える。結論は Perron の定理と同じ形で、錐の内部に固有ベクトルをもつ正の固有値 $\mu_0$ があり、錐の中の固有ベクトルはその正の倍だけで、$\mu_0$ は単純で、ほかの実固有値の絶対値は $\mu_0$ より小さい。
正の核をもつ積分作用素はこの形をしており(ex-kr-kernel)、2 階の楕円型作用素のスペクトルの研究にも使われる(Bre11 Comments on Chapter 6 の 6(p. 170))。この記事では、Schauder の不動点定理による存在の証明と、錐に沿った比較による一意性・単純性の証明を与える。
以下 $E$ は実 Banach 空間、$L(E)$ は $E$ 上の有界線形作用素の全体である。

錐と強い正値性

錐と強い正値性

$E$ の閉部分集合 $P$ が閉凸錐であるとは、$0\in P$ で、$x,y\in P$、$a,b\ge0$ なら $ax+by\in P$ となることをいう。$P$ の内部を $\operatorname{Int}P$ と書き、$y-x\in P$ のとき $x\le y$ と書く。$T\in L(E)$ が強い正値であるとは、$T(P\setminus\{0\})\subset\operatorname{Int}P$ となることをいう。

$E=\mathbb R^n$ で $P$ を成分がすべて $0$ 以上のベクトルの全体とすると、$\operatorname{Int}P$ は成分がすべて正のベクトルの全体である。$E=C([0,1])$(実数値、最大値ノルム)で $P$ を $0$ 以上の関数の全体とすると、$\operatorname{Int}P=\{u:\min u>0\}$ である($\min u=m>0$ なら半径 $m$ の球が $P$ に入り、逆に $u$ を中心とする半径 $\delta$ の球が $P$ に入るなら $u-\delta\ge0$)。一方 $1\le p<\infty$ のとき、$L^p(0,1)$ の $0$ 以上の関数の錐は内部が空である。

錐の基本性質

$P$ を閉凸錐で $\operatorname{Int}P\ne\emptyset$、$P\ne E$ とする。

  1. $P+\operatorname{Int}P\subset\operatorname{Int}P$、$t>0$ なら $t\operatorname{Int}P\subset\operatorname{Int}P$ である。
  2. $\operatorname{Int}P\cap(-P)=\emptyset$。特に $0\notin\operatorname{Int}P$ である。
  3. $T$ が強い正値なら $T(P)\subset P$ であり、$P\cap(-P)=\{0\}$ である。

1:$a\in\operatorname{Int}P$ で $B(a,\delta)\subset P$ なら、$p\in P$ について $B(p+a,\delta)=p+B(a,\delta)\subset P$ である。$t>0$ 倍も同様である。2:$a\in\operatorname{Int}P$、$-a\in P$ なら 1 により $0=a+(-a)\in\operatorname{Int}P$ で、ある球 $B(0,\delta)$ が $P$ に入り、正の倍をとって $E=P$ となり矛盾する。3:$T0=0\in P$ である。$z\ne0$ で $z,-z\in P$ なら $Tz\in\operatorname{Int}P$ かつ $-Tz=T(-z)\in P$ となり、2 に反する。$\square$

一意性の証明では、錐の内部の点から錐の外の方向へどこまで進めるかを測る。

錐から出るまでの長さ

$P$ を lem-kr-cone の仮定を満たす閉凸錐とし、$a\in\operatorname{Int}P$、$b\notin P$ とする。$\tau(a,b):=\sup\{t\ge0:a+tb\in P\}$ は $0<\tau(a,b)<\infty$ を満たし、$a+\tau(a,b)\,b\in P$ である。また $a+sb\in\operatorname{Int}P$ なら $s<\tau(a,b)$ である。

$I:=\{t\ge0:a+tb\in P\}$ は $P$ が凸かつ閉なので閉区間で、$a$ が内点なので $0$ の近くを含む。$I$ が有界でなければ、$t\to\infty$ で $b+a/t\in P$ から $b\in P$ となり矛盾する。よって $I=[0,\tau]$、$0<\tau<\infty$ である。$a+sb\in\operatorname{Int}P$ なら、内部は開集合なので小さな $\eta>0$ で $a+(s+\eta)b\in P$ となり、$s+\eta\le\tau$ である。$\square$

存在の証明には Schauderの不動点定理 を次の形で使う。

値域の閉包がコンパクトな写像の不動点

$C$ を Banach 空間の空でない閉凸集合、$F\colon C\to C$ を連続写像とし、$F(C)$ の閉包はコンパクトとする。このとき $F(x)=x$ となる $x\in C$ がある。

証明を開く

$K:=\overline{F(C)}$ はコンパクトで、$C$ が閉なので $K\subset C$ である。$n\ge1$ を固定し、$K$ を覆う有限個の球 $B(f_i,1/n)$($f_i\in K$、$i=1,\dots,m$)をとる。$q_i(x):=\max\{1/n-\|F(x)-f_i\|,0\}$ とおくと $\sum_iq_i(x)>0$ であり、$F_n(x):=\sum_iq_i(x)f_i/\sum_iq_i(x)$ は連続で、$\|F(x)-f_i\|<1/n$ となる $f_i$ の凸結合だから $\|F_n(x)-F(x)\|<1/n$ である。$F_n$ の値は $f_1,\dots,f_m$ の凸包 $C_n\subset C$ に入る。$C_n$ は有限次元の部分空間 $M:=\operatorname{span}\{f_i\}$ のコンパクト凸集合である。$M$ に内積を入れ、$C_n$ を含む閉球 $D$ をとり、$p\colon D\to C_n$ を最近点への射影とする(Hilbert空間 の記事の定理「閉凸集合への最短点の存在と一意性」。$p$ は距離を増やさないので連続である。Bre11 Proposition 5.3(p. 134))。$F_n\circ p\colon D\to C_n\subset D$ は連続で、$D$ は閉球と同相なので、Brouwerの不動点定理 により不動点 $y$ をもつ($M=0$ なら $y=0$)。$y\in C_n$ だから $p(y)=y$、$F_n(y)=y$ である。こうして $x_n\in C$、$\|x_n-F(x_n)\|<1/n$ が得られる。$K$ はコンパクトなので部分列で $F(x_n)\to x\in K\subset C$ となり、$x_n\to x$、連続性から $F(x)=x$ である。$\square$

主定理

Krein–Rutmanの定理

$E$ を実 Banach 空間、$P\subset E$ を閉凸錐で $\operatorname{Int}P\ne\emptyset$、$P\ne E$ とし、$T\in L(E)$ を強い正値なコンパクト作用素とする。

  1. $x_0\in\operatorname{Int}P$ と $\mu_0>0$ で $Tx_0=\mu_0x_0$ となるものがある。
  2. $x\in P\setminus\{0\}$、$\mu\in\mathbb R$、$Tx=\mu x$ なら、$\mu=\mu_0$ かつ $x=mx_0$($m>0$)である。
  3. $\mu_0$ と異なる実数の固有値 $\mu$ はすべて $|\mu|<\mu_0$ を満たす。
  4. すべての $k\ge1$ について $\ker(T-\mu_0I)^k=\mathbb Rx_0$ である(幾何的重複度も代数的重複度も $1$)。
  5. $\mu_0=\max\{|\lambda|:\lambda\in\sigma(T)\}$ である。ここで $\sigma(T)$ は $\lambda I-T$ が有界な逆をもたない実数 $\lambda$ の全体である。

存在の証明

固有ベクトルの存在

$u\in\operatorname{Int}P$ を固定する。
(a) $r>0$ で $Tu-ru\in P$ となるものがある。実際 $u\ne0$(lem-kr-cone の 2)なので $Tu\in\operatorname{Int}P$ であり、$Tu$ を中心とする小さな球が $P$ に入る。
(b) $x\in P$、$\lambda\in\mathbb R$ が $T(x+u)=\lambda x$ を満たすなら $\lambda\ge r$ である。lem-kr-cone の 3 から $Tx\in P$ なので $\lambda x=Tx+Tu\ge Tu\ge ru$ である。$\lambda\le0$ なら $-\lambda x\in P$ と足して $-ru\in P$ となり、lem-kr-cone の 2 に反するので $\lambda>0$ である。$x\ge cu$($c\ge0$)なら、$T$ が $\le$ を保つことから $\lambda x=Tx+Tu\ge cTu\ge cru$ で、$x\ge(cr/\lambda)u$ となる。$c=r/\lambda$ から始めて繰り返すと、すべての $n$ で $x\ge(r/\lambda)^nu$、すなわち $(\lambda/r)^nx-u\in P$ である。$\lambda< r$ なら $n\to\infty$ で $-u\in P$ となり矛盾するので、$\lambda\ge r$ である。
(c) $0<\varepsilon\le1$ について $\varepsilon u\in\operatorname{Int}P$ で $T(\varepsilon u)-r\varepsilon u\in P$ なので、(b) は $u$ を $\varepsilon u$ に替えても同じ $r$ で成り立つ。$x\in P$ なら $x+\varepsilon u\in\operatorname{Int}P$ だから $x+\varepsilon u\ne0$ であり、
$$ F_\varepsilon(x):=T\Bigl(\frac{x+\varepsilon u}{\|x+\varepsilon u\|}\Bigr)\qquad(x\in P) $$
は $P$ から $P$ への連続写像で、値は $T(B_E)$ に入るので値域の閉包はコンパクトである。lem-kr-schauder により $F_\varepsilon(x_\varepsilon)=x_\varepsilon$ となる $x_\varepsilon\in P$ があり、$\lambda_\varepsilon:=\|x_\varepsilon+\varepsilon u\|$ とおくと $T(x_\varepsilon+\varepsilon u)=\lambda_\varepsilon x_\varepsilon$、(b) により $\lambda_\varepsilon\ge r$ である。
(d) $\|x_\varepsilon\|=\|T(x_\varepsilon+\varepsilon u)\|/\lambda_\varepsilon\le\|T\|$ なので $r\le\lambda_\varepsilon\le\|T\|+\|u\|$ である。$\varepsilon_n\to0$ を、$\lambda_{\varepsilon_n}\to\mu_0\in[r,\|T\|+\|u\|]$ かつ $T(x_{\varepsilon_n}+\varepsilon_nu)\to y$ となるようにとる(後者は $T$ のコンパクト性による)。すると $x_{\varepsilon_n}=T(x_{\varepsilon_n}+\varepsilon_nu)/\lambda_{\varepsilon_n}\to x_0:=y/\mu_0\in P$ であり、$\|x_0\|=\lim\lambda_{\varepsilon_n}=\mu_0>0$ である。極限をとって $Tx_0=\mu_0x_0$ を得る。$x_0\ne0$ なので $x_0=\mu_0^{-1}Tx_0\in\operatorname{Int}P$ である。$\square$

一意性と単純性の証明

一意性・単純性・スペクトル半径

2:$Tx\in\operatorname{Int}P$ なので $\mu x\in\operatorname{Int}P$、よって $\mu\ne0$ である。$\mu<0$ なら $-x\in\operatorname{Int}P$ と $x\in P$ が lem-kr-cone の 2 に反するので、$\mu>0$ かつ $x=\mu^{-1}Tx\in\operatorname{Int}P$ である。$x$ が $x_0$ の正の倍でないとする。$-x\notin P$ なので $\tau:=\tau(x_0,-x)$(lem-kr-tau)がとれ、$z:=x_0-\tau x\in P$ は $0$ でない($0$ なら $x=x_0/\tau$)。よって
$$ Tz=\mu_0x_0-\tau\mu x\in\operatorname{Int}P,\qquad\text{すなわち}\qquad x_0-\frac{\tau\mu}{\mu_0}x\in\operatorname{Int}P $$
であり、lem-kr-tau から $\tau\mu/\mu_0<\tau$、つまり $\mu<\mu_0$ である。$x$ と $x_0$ の役割を入れ替えると($x\in\operatorname{Int}P$ なので同じ議論ができる)$\mu_0<\mu$ となって矛盾する。よって $x=mx_0$ で、$x\in P\setminus\{0\}$ と lem-kr-cone の 2 から $m>0$、$\mu=\mu_0$ である。
3:$Tx=\mu x$、$x\ne0$、$\mu\ne\mu_0$ とする。$x\in P$ または $-x\in P$ なら 2 により $\mu=\mu_0$ となるので、$x\notin P$ かつ $-x\notin P$ である。$\mu=0$ なら明らかなので $\mu\ne0$ とする。$\tau_+:=\tau(x_0,x)$、$\tau_-:=\tau(x_0,-x)$ とおき、$z_\pm:=x_0\pm\tau_\pm x\in P$ を考える。$z_\pm\ne0$ である($0$ なら $\mp x$ が $x_0$ の正の倍になり $P$ に入る)。

  • $\mu>0$ なら $Tz_+=\mu_0\bigl(x_0+\tfrac{\tau_+\mu}{\mu_0}x\bigr)\in\operatorname{Int}P$ から $\tau_+\mu/\mu_0<\tau_+$、すなわち $\mu<\mu_0$ である。
  • $\mu<0$ なら $Tz_+=\mu_0\bigl(x_0-\tfrac{\tau_+|\mu|}{\mu_0}x\bigr)\in\operatorname{Int}P$ から $\tau_+|\mu|/\mu_0<\tau_-$、同様に $Tz_-$ から $\tau_-|\mu|/\mu_0<\tau_+$ である。掛け合わせて $|\mu|^2<\mu_0^2$ を得る。
    4:$Tx=\mu_0x$、$x\ne0$ とする。$x\notin P$ かつ $-x\notin P$ なら、3 の証明($\mu=\mu_0>0$ の場合)から $\mu_0<\mu_0$ となって矛盾する。よって $x$ か $-x$ が $P$ に入り、2 から $x\in\mathbb Rx_0$ である。つまり $\ker(T-\mu_0I)=\mathbb Rx_0$ である。次に $(T-\mu_0I)^2x=0$ とすると $(T-\mu_0I)x=cx_0$ である。$c\ne0$ と仮定し、$x$ を $x/c$ に替えて $c=1$ とする。$t$ を大きくとると $w:=x+tx_0=t(x_0+x/t)\in\operatorname{Int}P$ であり、$Tw=\mu_0w+x_0$ である。$s:=\sup\{s'\ge0:x_0-s'w\in P\}$ は lem-kr-tau により $0< s<\infty$ で、$y:=x_0-sw\in P$ である。$y=0$ なら $Tx_0=sTw=s(\mu_0w+x_0)=(\mu_0+s)x_0$ となり $s>0$ に反する。$y\ne0$ なので
    $$ Ty=\mu_0x_0-s(\mu_0w+x_0)=(\mu_0-s)x_0-\mu_0sw\in\operatorname{Int}P . $$
    $\mu_0-s\le0$ ならこの元は $-P$ に入り lem-kr-cone の 2 に反する。$\mu_0>s$ なら $x_0-\tfrac{\mu_0s}{\mu_0-s}w\in\operatorname{Int}P$ で、$\tfrac{\mu_0s}{\mu_0-s}>s$ が $s$ の定義に反する。よって $c=0$、$\ker(T-\mu_0I)^2=\mathbb Rx_0$ である。$k\ge3$ で $(T-\mu_0I)^kx=0$ なら、$(T-\mu_0I)^{k-2}x\in\ker(T-\mu_0I)^2=\ker(T-\mu_0I)$ なので $(T-\mu_0I)^{k-1}x=0$ となり、帰納法で結論を得る。
    5:コンパクト作用素 の記事の定理「コンパクト作用素のスペクトル」(実数の場合)により $\sigma(T)\setminus\{0\}$ は固有値からなるので、3 により $|\lambda|\le\mu_0$ で、$\mu_0\in\sigma(T)$ である。$\square$

2 は、錐の中の固有ベクトルが正規化を除いて一つしかないことを述べており、正値な固有関数を求めればそれが最大固有値に属すると分かる。3 で扱うのは実数の固有値だけであり、$T$ を複素化した作用素の複素固有値については、この記事では扱わない。

例

成分が正の行列

$E=\mathbb R^n$、$P$ を成分が $0$ 以上のベクトルの全体とし、$A=(a_{ij})$ を成分がすべて正の行列とする。$x\in P\setminus\{0\}$ なら $(Ax)_i=\sum_ja_{ij}x_j>0$ なので $A$ は強い正値で、有限次元なのでコンパクトである。thm-kr-main から、成分が正の固有ベクトルをもつ固有値 $\mu_0>0$ があり、単純で、ほかの実固有値の絶対値は $\mu_0$ より小さい。複素固有値まで含めた主張と、既約な非負行列への拡張は Perron–Frobeniusの定理 の記事が扱う。

正の核をもつ積分作用素

$E=C([0,1])$(実数値)、$P$ を $0$ 以上の関数の全体とし、$k$ を $[0,1]^2$ 上の正の連続関数として $(Tu)(x):=\int_0^1k(x,y)u(y)\,dy$ とおく。$T$ はコンパクトであり(コンパクト作用素 の記事の例「連続な核の積分作用素と Volterra 作用素」)、$u\in P\setminus\{0\}$ なら $Tu(x)\ge(\min k)\int_0^1u>0$ なので $Tu\in\operatorname{Int}P$ である。よって $T$ は最小値が正の固有関数 $\varphi_0$ と単純な固有値 $\mu_0>0$ をもち、$0$ 以上の固有関数は $\varphi_0$ の正の倍に限る。
具体的に $k(x,y)=1+xy$ とすると、$T$ の像は $1$ と $x$ の張る 2 次元空間で、$T1=1+\tfrac12x$、$Tx=\tfrac12+\tfrac13x$ である。この基底での行列 $\begin{pmatrix}1&1/2\\1/2&1/3\end{pmatrix}$ の固有値は $(4\pm\sqrt{13})/6$ で、$0$ でない固有値はこの 2 つである。$\mu_0=(4+\sqrt{13})/6\approx1.27$ の固有関数は $1+\tfrac{\sqrt{13}-2}3x>0$、もう一方 $(4-\sqrt{13})/6\approx0.066$ の固有関数は $1-\tfrac{\sqrt{13}+2}3x$ で符号を変える。

仮定を外すと成り立たなくなること

外す条件反例成り立たなくなること
強い正値性($T(P)\subset P$ に弱める)$C([0,1])$ 上の Volterra 作用素 $Vu(x)=\int_0^xu$、$P$ は $0$ 以上の関数固有値が一つもなく、1 が成り立たない
強い正値性(同上)$\mathbb R^2$、$P$ は第 1 象限、$T=I$固有値 $1$ の固有空間が 2 次元で、$P$ の中の固有ベクトル $e_1,e_2$ は互いの正の倍でない(2・4 が崩れる)
$P\ne E$$\mathbb R^2$、$P=\mathbb R^2$、$T$ は $90^\circ$ の回転実固有値がなく、1 が成り立たない
$T$ のコンパクト性$C([0,1])$、$Tu=mu+\tfrac14\bigl(\int_0^1u\bigr)\cdot1$、$m(x)=2-\sqrt{1-x}$強い正値だが実固有値がなく、1 が成り立たない
反例の確かめ
確かめを開く

1 行目:$V$ はコンパクトで $V(P)\subset P$ だが、$Vu(0)=0$ なので $Vu\notin\operatorname{Int}P$ である。$Vu=\mu u$、$\mu\ne0$ なら $u=\mu^{-1}Vu$ は $C^1$ 級で $u'=u/\mu$、$u(0)=0$ から $u=0$ であり、$Vu=0$ なら微分して $u=0$ である。2 行目:$T=I$ は $Te_1=e_1\notin\operatorname{Int}P$ なので強い正値でない。3 行目:$P=E$ なら $\operatorname{Int}P=E$ で強い正値の条件は自明に満たされるが、回転 $(x,y)\mapsto(-y,x)$ は実固有値をもたない。

4 行目:$m$ は $[0,1]$ で $1$ から $2$ へ狭義に増加する。$u\in P\setminus\{0\}$ なら $m\ge1$ から $Tu\ge\tfrac14\int u>0$ なので強い正値である。互いに台の交わらない連続関数 $0\le u_n\le1$、$\max u_n=1$ をとると $\int u_n\to0$ で、$n\ne l$ なら $\|Tu_n-Tu_l\|\ge1-\tfrac14\int(u_n+u_l)$ なので $(Tu_n)$ は収束する部分列をもたず、$T$ はコンパクトでない。$Tu=\lambda u$ は $c:=\tfrac14\int u$ として $(\lambda-m(x))u(x)=c$ と同値である。$\lambda\in[1,2]$ なら $m(x_\lambda)=\lambda$ の点で $c=0$ となり、$u$ は $x_\lambda$ 以外で $0$、連続性で $u=0$ である。$\lambda>2$ なら $\lambda-m(x)>\sqrt{1-x}$ なので $u=c/(\lambda-m)$ を積分して $c=c\cdot\tfrac14\int_0^1\frac{dx}{\lambda-m(x)}$、右辺の係数は $\tfrac14\int_0^1(1-x)^{-1/2}dx=\tfrac12$ 未満なので $c=0$、$u=0$ である。$\lambda<1$ なら $\lambda-m<0$ なので同じ式の係数は負で、やはり $c=0$、$u=0$ である。$\square$

1 行目と 2 行目は、強い正値性が「錐の境界の固有ベクトル」を締め出す役割をもつことを示している。4 行目では、強い正値性があってもコンパクト性がないと、固有値そのものが現れない。

文献

文献

定理の主張は Bre11 の Comments on Chapter 6 の 6、Theorem 6.13(p. 170)にあり、証明は同 Problem 41(pp. 499–501)が小問に分けて導く。存在の証明(prf-kr-existence)はその A 部の筋に従い、一意性と $|\mu|<\mu_0$ の証明(prf-kr-uniqueness の 2・3)は同 B 部の比較の方法を lem-kr-tau の形で述べたものである。代数的重複度が $1$ であること(4)の証明は、同 B 部の小問 5 のヒント(Problem 36 の利用)とは異なり、錐に沿った同じ比較による。Schauder の不動点定理(lem-kr-schauder)の有限階近似は同 Chapter 6 の Remark 1 の後半(pp. 158–159)の構成である。

関連項目

参考文献

[1]
Haim Brezis, Functional Analysis, Sobolev Spaces and Partial Differential Equations, Universitext, Springer, 2011, Comments on Chapter 6 の 6、Theorem 6.13(p. 170、定理の主張)、Problem 41(pp. 499–501、証明を導く小問)、Chapter 6 Remark 1 の後半(pp. 158–159、連続写像の有限階近似)、Proposition 5.3(p. 134、閉凸集合への射影は距離を増やさない)

Mathpediaは寄付と、参考文献の書籍リンク(Amazonアソシエイト)の紹介料で運営されています。 支援について / 寄付する