アニュラス予想と安定同相定理(annulus conjecture and stable homeomorphism theorem)とは、$\mathbb{R}^n$ の中で入れ子になった 2 つの局所平坦な球面のあいだの閉領域は $S^{n-1}\times[0,1]$ と同相である、という主張(アニュラス定理)と、$\mathbb{R}^n$ の向きを保つ同相写像はどこかの開集合で恒等写像となる同相写像の有限個の合成で書ける、という主張(安定同相定理)の組である。Brown–Gluck により両者は本質的に同値で、Kirby が 1969 年に torus trick で 5 次元以上を、Quinn が 4 次元を証明した。安定同相写像は恒等写像にイソトピックで、鏡映は安定でない。
前提知識: 同相写像, Schoenfliesの定理, 被覆空間, トーラス, 写像度
アニュラス予想(annulus conjecture)は、$\mathbb{R}^n$ の中の入れ子になった 2 つの「きれいな」球面のあいだの領域は、円環 $S^{n-1}\times[0,1]$ と同相である、という主張である。安定同相予想(stable homeomorphism conjecture)は、$\mathbb{R}^n$ の向きを保つ同相写像はすべて、どこかの開集合の上で恒等写像になる同相写像の有限個の合成で書ける、という主張である。Brown と Gluck は 2 つの予想が本質的に同値であることを示し(Kir69 p. 575)、Kirby は 1969 年に、$n\ge5$ でこれらを証明した。現在では、どちらもすべての次元で定理である($n=4$ は Quinn。FNOP pp. 27–28)。
Kirby の証明で導入された torus trick は、$\mathbb{R}^n$ の同相写像の問題を、トーラス $T^n$ の上の PL 構造の問題に帰着する方法で、Kirby–Siebenmann による位相多様体の PL 構造の分類(Kirby–Siebenmann不変量)の出発点となった(Hat13 p. 1)。
この記事では、安定同相写像の全体が正規部分群をなすこと、恒等写像から有界な距離にある同相写像は安定であること、トーラスの同相写像はアフィンな補正のあと有界な同相写像に持ち上がること(Kirby の補題)、安定同相写像は恒等写像にイソトピックで向きを保つことを完全に証明する。アニュラス定理と安定同相定理そのもの、および torus trick の全体は、所在を示して引用する。
$\lvert\cdot\rvert$ は $\mathbb{R}^n$ の Euclid ノルム、$B(r)=\{\lvert x\rvert< r\}$ は開球、$D^n$ は閉単位球、$S^{n-1}=\partial D^n$ とする。$\mathrm{Homeo}(\mathbb{R}^n)$ は $\mathbb{R}^n$ の自己同相写像の群である。同相写像 $h$ を $h^+(\infty)=\infty$ で $S^n=\mathbb{R}^n\cup\{\infty\}$ の同相写像 $h^+$ に延ばし、$\deg h^+=1$ のとき $h$ は向きを保つという(写像度)。
埋め込み $f\colon S^{n-1}\to\mathbb{R}^n$ が局所平坦(locally flat)であるとは、$f(S^{n-1})$ の各点 $y$ が、近傍 $U$ と同相写像 $(U,U\cap f(S^{n-1}))\cong(\mathbb{R}^n,\mathbb{R}^{n-1})$ をもつことをいう。局所平坦な $S^{n-1}$ は、一般化された Schoenflies の定理(Brown)により閉球体を囲む(Kir69 p. 579、FNOP Lemma 4.8 の証明、p. 29。Schoenfliesの定理)。
次の主張を $\mathrm{AC}_n$ と書く:$f,g\colon S^{n-1}\to\mathbb{R}^n$ を交わらない局所平坦な埋め込みで、$f(S^{n-1})$ が $\mathbb{R}^n\setminus g(S^{n-1})$ の有界な成分に含まれるものとする。このとき $f(S^{n-1})$ と $g(S^{n-1})$ で囲まれた閉領域 $A$ は $S^{n-1}\times[0,1]$ と同相である。
$h\in\mathrm{Homeo}(\mathbb{R}^n)$ が安定(stable)であるとは、同相写像 $h_1,\dots,h_r$ と空でない開集合 $U_1,\dots,U_r$ で、$h=h_1\circ\dots\circ h_r$ かつ $h_i\vert_{U_i}=\mathrm{id}_{U_i}$ となるものがあることをいう。次の主張を $\mathrm{SHC}_n$ と書く:$\mathbb{R}^n$ の向きを保つ同相写像はすべて安定である。
これらは Kir69 p. 575 の定式化である。FNOP Theorem 4.1(p. 27)は、アニュラス定理を「向きを保つ局所平坦な埋め込み $f,g\colon D^n\to\mathbb{R}^n$ で $f(D^n)\subset\operatorname{int}g(D^n)$ なら、$g(D^n)\setminus\operatorname{int}f(D^n)$ は $S^{n-1}\times[0,1]$ と同相」の形で述べる。
$\mathrm{SHC}_n$ なら $\mathrm{AC}_n$ である。また、すべての $k\le n$ について $\mathrm{AC}_k$ なら $\mathrm{SHC}_n$ である。
前半は、安定同相予想からアニュラス予想が従うことを述べる。後半は、$n$ 以下のすべての次元でアニュラス予想が成り立てば $n$ 次元の安定同相予想が成り立つことを述べるので、アニュラス予想を次元ごとに順に確かめれば安定同相予想へ進める。次の定理は、この 2 つの予想が全次元で成り立つことを述べる。
これは Brown–Gluck(Ann. of Math. 79 (1964))の結果で、Kir69 p. 575 がこの形で引用している。前半の導き方は FNOP §4.1(pp. 29–30)に詳しい。この記事では証明しない。
すべての $n\ge0$ について $\mathrm{SHC}_n$ と $\mathrm{AC}_n$ が成り立つ。
この記事では証明しない。所在は次のとおりである。
| 次元 | 証明 | 所在 |
|---|---|---|
| $n\le1$ | ほぼ自明 | FNOP p. 27 |
| $n=2,3$ | $\mathrm{AC}_n$ は Radó、Moise の三角形分割の理論から。$\mathrm{SHC}_n$ はそれと thm-ann-bg から | FNOP p. 27(Radóの定理、Moiseの定理) |
| $n=4$ | Quinn(1982) | FNOP pp. 27–28 |
| $n\ge5$ | Kirby(1969)、torus trick とホモトピートーラスの分類(Wall、Hsiang–Shaneson) | Kir69 pp. 575–576、FNOP p. 28 |
知られている証明はいずれも、アニュラス定理を安定同相定理から導く(FNOP p. 27)。
この定理は、安定同相予想とアニュラス予想がすべての次元で成り立つことを述べる。ただし一つの議論で全次元が証明されるわけではなく、$n\le3$ では三角形分割の理論、$n=4$ では Quinn の結果、$n\ge5$ では torus trick と、次元によって道具が異なる。表のとおり、いずれの場合もアニュラス定理は安定同相定理から導かれる。
1. 恒等写像は $\mathbb{R}^n$ の上で恒等写像なので安定である。安定な写像の合成は、分解を並べれば安定である。$h=h_1\circ\dots\circ h_r$、$h_i\vert_{U_i}=\mathrm{id}$ なら $h^{-1}=h_r^{-1}\circ\dots\circ h_1^{-1}$ で、$h_i(U_i)=U_i$ の上で $h_i^{-1}$ は恒等写像なので、$h^{-1}$ も安定である。$g\in\mathrm{Homeo}(\mathbb{R}^n)$ について $ghg^{-1}=(gh_1g^{-1})\circ\dots\circ(gh_rg^{-1})$ で、$gh_ig^{-1}$ は開集合 $g(U_i)$ の上で恒等写像なので、正規性が従う。
2. $h\vert_U=s\vert_U$($U$ は空でない開集合)とする。$h=(h\circ s^{-1})\circ s$ で、$h\circ s^{-1}$ は空でない開集合 $s(U)$ の上で恒等写像なので安定である。1 により $h$ は安定である。$\square$
2 は Kir69 Proposition 1(p. 577)である。
$h\in\mathrm{Homeo}(\mathbb{R}^n)$ が、ある定数 $M$ について、すべての $x$ で $\lvert h(x)-x\rvert\le M$ をみたすなら、$h$ は安定である。
これは Kir69 Proposition 2(p. 577。Connell の補題として引用されている)である。証明の考え方は、$\mathbb{R}^n$ を開球へ半径方向に縮めると、有界な同相写像が球の外で恒等写像とする延長をもつ、というもので、Hat13 p. 3 が $2$ 次元で説明している。
$R>M$ をとり、$\phi\colon[0,\infty)\to[0,2R)$ を
$$
\phi(r):=\begin{cases}r&(r\le R),\\ 2R-\dfrac{R^2}{r}&(r\ge R)\end{cases}
$$
とおく。$\phi$ は連続な狭義単調増加の全単射で、$\rho(x):=\phi(\lvert x\rvert)\,x/\lvert x\rvert$($\rho(0)=0$)は $\mathbb{R}^n$ から開球 $B(2R)$ への同相写像であり、$B(R)$ の上で恒等写像である。
段 1:球の外へ恒等写像で延ばす。 $H:=\rho\circ h\circ\rho^{-1}$ を $B(2R)$ の上で、$H:=\mathrm{id}$ を $\mathbb{R}^n\setminus B(2R)$ の上で定める。$H$ は全単射で、開集合 $B(2R)$ と $\mathbb{R}^n\setminus\overline{B(2R)}$ の上で連続である。$\lvert y_0\rvert=2R$ となる点 $y_0$ での連続性を示す。$y\in B(2R)$ が $y_0$ に近づくと、$x:=\rho^{-1}(y)$ は $\lvert x\rvert\to\infty$ をみたす。$a:=h(x)$ とおくと $\lvert a-x\rvert\le M$ である。$\lvert x\rvert,\lvert a\rvert\ge R$ のとき
$$
\lvert\rho(a)-\rho(x)\rvert\le\lvert\phi(\lvert a\rvert)-\phi(\lvert x\rvert)\rvert+\phi(\lvert x\rvert)\Bigl\lvert\frac{a}{\lvert a\rvert}-\frac{x}{\lvert x\rvert}\Bigr\rvert\le\frac{R^2M}{\lvert a\rvert\lvert x\rvert}+\frac{4RM}{\lvert a\rvert}
$$
である。ここで $\lvert\phi(s)-\phi(t)\rvert=R^2\lvert s-t\rvert/(st)$ と $\bigl\lvert a/\lvert a\rvert-x/\lvert x\rvert\bigr\rvert\le2\lvert a-x\rvert/\lvert a\rvert$ を使った。$\lvert a\rvert\ge\lvert x\rvert-M\to\infty$ なので右辺は $0$ に近づき、$\lvert H(y)-y\rvert=\lvert\rho(a)-\rho(x)\rvert\to0$、すなわち $H(y)\to y_0=H(y_0)$ である。外側からは $H=\mathrm{id}$ なので、$H$ は $y_0$ で連続である。$h^{-1}$ も $\lvert h^{-1}(z)-z\rvert\le M$ をみたすので、同じ議論で $H^{-1}$ も連続である。よって $H$ は同相写像で、空でない開集合 $\mathbb{R}^n\setminus\overline{B(2R)}$ の上で恒等写像なので、安定である。
段 2:$h$ と $H$ は開集合の上で一致する。 $U:=B(R)\cap h^{-1}(B(R))$ は開集合で、$\lvert h(0)\rvert\le M< R$ なので $0\in U$ である。$x\in U$ では $\rho^{-1}(x)=x$、$h(x)\in B(R)$ なので $\rho(h(x))=h(x)$ であり、$H(x)=h(x)$ となる。prop-ann-group の 2 により $h$ は安定である。$\square$
$h(x_1,x_2):=(x_1+\sin x_2,\ x_2)$ は $\mathbb{R}^2$ の同相写像(逆写像は $(y_1-\sin y_2,\,y_2)$)で、$\lvert h(x)-x\rvert=\lvert\sin x_2\rvert\le1$ なので prop-ann-bounded により安定である。一方 $h$ は $\sin x_2\ne0$ となる点、すなわち稠密な開集合の上で点を動かすので、どんな空でない開集合の上でも恒等写像でない。安定であることは「どこかで恒等写像」より真に広い。
$\mathbb{R}^n$ の同相写像 $h$ が恒等写像にイソトピックであるとは、連続写像 $F\colon\mathbb{R}^n\times[0,1]\to\mathbb{R}^n$ で、各 $F_t:=F(\cdot,t)$ が同相写像、$F_0=\mathrm{id}$、$F_1=h$ となるものがあることをいう。
1. 平行移動 $T$ で共役をとり($T^{-1}hT$ のイソトピー $F_t$ があれば $TF_tT^{-1}$ が $h$ のイソトピーである)、$h$ が $B(\delta)$ の上で恒等写像であるとしてよい。$t\in(0,1]$ について $F_t(x):=h(tx)/t$、$F_0:=\mathrm{id}$ とおく。$F_t$ は $h$ を相似拡大で共役にしたものなので同相写像で、$F_1=h$ である。$\lvert x\rvert< \delta/t$ なら $tx\in B(\delta)$ で $F_t(x)=x$ である。$(0,1]$ の上での連続性は明らかで、$(x_0,0)$ の近くでは、$\lvert x\rvert< \lvert x_0\rvert+1$、$t< \delta/(\lvert x_0\rvert+1)$ なら $F_t(x)=x=F_0(x)$ なので連続である。これは Alexander の手法である(FNOP Lemma 4.4、p. 28、Hat13 p. 3)。
2. $h=h_1\circ\dots\circ h_r$ で各 $h_i$ が開集合の上で恒等写像なら、1 のイソトピー $F^{(i)}$ をとって $F_t:=F^{(1)}_t\circ\dots\circ F^{(r)}_t$ とおけばよい。
3. 1 のイソトピーは $S^n$ のホモトピー $F_t^+$ に延びる。実際、$h$ は $B(\delta)$ をそれ自身の上へ写すので $\lvert y\rvert\ge\delta$ なら $\lvert h(y)\rvert\ge\delta$ であり、$\lvert F_t(x)\rvert\ge\min(\lvert x\rvert,\delta/t)$ となる。$t\ge t_0>0$ の範囲では $h$ が固有写像であることから、$t$ が $0$ に近い範囲ではこの不等式から、$\lvert x\rvert\to\infty$ のとき $\lvert F_t(x)\rvert\to\infty$ が $t$ について一様に成り立ち、$F^+$ は $\infty$ で連続である。ホモトピックな写像の写像度は等しい(Hat02 §2.2 の性質 (c)、p. 134)ので $\deg h^+=\deg\mathrm{id}=1$ である。安定な写像についても、2 と同じく合成して同じ結論を得る。鏡映 $r$ の延長 $r^+$ は $S^n$ の鏡映なので $\deg r^+=-1$ であり(同 (e))、$r$ は安定でない。$\square$
2 は Kir69 p. 576 で使われている事実である。逆に、恒等写像にイソトピックな同相写像は安定である(Kir69 Theorem 2 の系、p. 576。この記事では証明しない)。したがって、安定同相写像の群は $\mathrm{Homeo}(\mathbb{R}^n)$ の恒等写像の連結成分であり、安定同相定理は「向きを保つ同相写像の群 $\mathrm{Homeo}^+(\mathbb{R}^n)$ は連結」と言い換えられる。
$e\colon\mathbb{R}^n\to T^n=\mathbb{R}^n/\mathbb{Z}^n$ を普遍被覆写像、$t_0:=e(0)$ とする。$A\in GL(n,\mathbb{Z})$ は $A\mathbb{Z}^n=\mathbb{Z}^n$ をみたすので、$x\mapsto Ax$ は $T^n$ の微分同相写像 $L_A$ を誘導し、$L_A(t_0)=t_0$、$(L_A)_*=A$($\pi_1(T^n,t_0)=\mathbb{Z}^n$ の上で)である。
$T^n$ の任意の同相写像 $h$ に対し、$v\in\mathbb{R}^n$ と $A\in GL(n,\mathbb{Z})$ があって、アフィンな微分同相写像 $a:=L_A\circ\tau_v$($\tau_v$ は $e(v)$ による平行移動)について、$a\circ h$ は $\mathbb{R}^n$ の同相写像 $\hat g$ に持ち上がり、$\sup_x\lvert\hat g(x)-x\rvert< \infty$ となる。とくに $\hat g$ は安定である。
$h(t_0)=e(w)$ となる $w$ をとり $v:=-w$ とおくと、$k:=\tau_v\circ h$ は $t_0$ を固定する。$k_*\colon\pi_1(T^n,t_0)\to\pi_1(T^n,t_0)$ は $\mathbb{Z}^n$ の自己同型なので、ある $B\in GL(n,\mathbb{Z})$ で表される。$A:=B^{-1}$ とおくと、$g:=L_A\circ k=a\circ h$ は $t_0$ を固定し、$g_*=AB=\mathrm{id}$ である。
$\mathbb{R}^n$ は単連結なので、$g\circ e$ は $\hat g(0)=0$ となる連続写像 $\hat g\colon\mathbb{R}^n\to\mathbb{R}^n$($e\circ\hat g=g\circ e$)に持ち上がる。$g^{-1}$ についても同様の持ち上げ $\widehat{g^{-1}}$ があり、$\hat g\circ\widehat{g^{-1}}$ と $\widehat{g^{-1}}\circ\hat g$ は恒等写像の持ち上げで $0$ を固定するので、持ち上げの一意性により恒等写像である。よって $\hat g$ は同相写像である。
$m\in\mathbb{Z}^n$ について、$0$ から $m$ への線分を $e$ で写した閉路は $m\in\pi_1(T^n,t_0)$ を表し、$g_*m=m$ なので、その $g$ による像の持ち上げは $0$ から $m$ へ至る。すなわち $\hat g(m)=m$ である。写像 $x\mapsto\hat g(x+m)$ と $x\mapsto\hat g(x)+m$ はどちらも $g\circ e$ の持ち上げ($e(x+m)=e(x)$ だから)で、$x=0$ で一致するので、持ち上げの一意性により等しい。したがって $x\mapsto\hat g(x)-x$ は $\mathbb{Z}^n$ 周期の連続写像で、コンパクト集合 $[0,1]^n$ の上の値で上から抑えられ、有界である。最後の主張は prop-ann-bounded による。$\square$
これは Kir69 の Lemma(p. 578「$T^n$ の同相写像はすべて安定である」)の核心部分で、Kirby は $SL(n,\mathbb{Z})$ の元を基本行列の積として微分同相写像で実現している(同 Proposition 4、p. 577)。$\hat g$ は $a\circ h$ の局所的な表示なので、$T^n$ の座標近傍で見ると $a\circ h$ は局所的に安定な同相写像の制限であり、Kirby の意味で「$T^n$ の安定な同相写像」である。
Kirby は、$\mathbb{R}^n$ の任意の同相写像 $g$ を、この補題が使える $T^n$ の同相写像に変換した。証明の骨格は次のとおりである(Kir69 Theorem 1 の証明、pp. 578–579)。
| 段 | 内容 | この記事での扱い |
|---|---|---|
| 1 | 穴あきトーラス $T^n\setminus D^n$ から $\mathbb{R}^n$ への滑らかなはめ込み $\alpha$ をとる(接束が自明なので Hirsch の定理により存在) | 引用(Kir69 Proposition 3、p. 577) |
| 2 | $g\circ\alpha$ で $T^n\setminus D^n$ に新しい滑らかな構造を引き戻し、$n\ge6$ でその端に境界(PL $(n-1)$ 球面になる)を足して球体でふさぎ、ホモトピートーラス $\tau^n$ と、$T^n\setminus2D^n$ で恒等写像となる同相写像 $f\colon T^n\to\tau^n$ を作る | 引用(同 pp. 578–579) |
| 3 | $\tau^n$ が $T^n$ と PL 同相なら($\mathrm{HT}_n$)、PL 同相写像 $h\colon T^n\to\tau^n$ について $h^{-1}f$ は prop-ann-torus により安定で、$f$ も安定。$f$ は $T^n\setminus2D^n$ で恒等写像なので $g$ は安定 | 引用(同 p. 579。prop-ann-torus と prop-ann-group の 2 を使う) |
| 4 | $\mathrm{HT}_n$ そのものは $n\ge5$ で成り立たないが、$\tau^n$ の $2^n$ 重被覆は $T^n$ と PL 同相で(Wall、Hsiang–Shaneson)、被覆に持ち上げても安定性は変わらないので、$n\ge5$ で $\mathrm{SHC}_n$ が従う($n=5$ は Wall の結果を併用) | 引用(同 pp. 575–576) |
段 4 の $\mathrm{HT}_n$ の否定は、偽トーラスの存在、すなわち 基本予想 の否定そのものである(Kir69 p. 576 の追記)。Kirby と Siebenmann は同じ図式を $B^k\times T^{n-k}$ に広げて「ハンドルをまっすぐにする問題」を調べ、$\pi_3(\mathrm{TOP}/\mathrm{PL})\cong\mathbb{Z}/2$ だけが障害であることを示した(KS77 Annex 2、pp. 301–305。Kirby–Siebenmann不変量)。$2$ 次元では同じ方法で曲面の滑らかな構造の存在と一意性が得られる(Hat13 Theorem A・B、p. 2)。
FNOP §4.1(pp. 29–30)は、Brown–Gluck の議論を次の順に整理している(この記事では証明しない)。
$\rho_0,\rho_1\colon S^{n-1}\to(0,\infty)$ を連続関数で $\rho_0< \rho_1$ とし、$K_i:=\{ru\mid u\in S^{n-1},\ 0\le r\le\rho_i(u)\}$ とする。$\partial K_i=\{\rho_i(u)u\}$ は局所平坦な球面で($ru\mapsto r\rho_i(u)u$ は $\mathbb{R}^n$ の同相写像で、単位球面を $\partial K_i$ へ写す)、$K_1\setminus\operatorname{int}K_0$ は
$$
\Phi\colon S^{n-1}\times[0,1]\to K_1\setminus\operatorname{int}K_0,\qquad(u,s)\mapsto\bigl((1-s)\rho_0(u)+s\rho_1(u)\bigr)u
$$
により $S^{n-1}\times[0,1]$ と同相である。実際 $\Phi$ は連続な全単射(極座標 $x=\lvert x\rvert\cdot x/\lvert x\rvert$ の一意性による)で、コンパクト空間から Hausdorff 空間への写像なので同相写像である。とくに中心の異なる 2 つの球 $\overline{B(1)}\subset B(3)+p$($\lvert p\rvert< 2$)は、$0$ を中心とする星形なので、このあいだの領域は円環である。アニュラス定理は、この具体的な状況を局所平坦な球面の一般の場合に広げたものである。
$n=2$ では、どの Jordan 曲線も局所平坦である。平面の Schoenfliesの定理 により、Jordan 曲線は平面の同相写像で円周に写るからである。$\mathrm{AC}_2$ は「入れ子の 2 つの Jordan 曲線のあいだの領域は円環と同相」という主張になり、Radó の理論から従う(FNOP p. 27)。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| 局所平坦 | Alexander の角付き球面と、それを囲む大きな球面 | 2 つの球面のあいだの領域は $S^2\times[0,1]$ と同相 |
| 向きを保つ | 鏡映 $r$ | 同相写像は安定 |
| 有界 | 鏡映 $r$ | prop-ann-bounded の結論(安定) |
| $g_*=\mathrm{id}$ に補正する | $T^2$ の線形写像 $L_A$、$A=\begin{pmatrix}1&1\\0&1\end{pmatrix}$ | 持ち上げが恒等写像から有界な距離にある |
$S\subset\mathbb{R}^3$ を Alexander の角付き球面とする。$S$ は閉球体 $B$ の境界で、$\mathbb{R}^3\setminus S$ の非有界な成分は単連結でない(Hat02 Example 2B.2、pp. 170–172)。$B$ を内部に含む大きな球面 $\Sigma$ をとり、$S$ と $\Sigma$ のあいだの閉領域を $A$ とする。$A$ が $S^2\times[0,1]$($S$ が $S^2\times\{0\}$ に対応)と同相なら、$\mathbb{R}^3\setminus B=(A\setminus S)\cup(\Sigma\text{ の外側の閉領域})$ は $S^2\times(0,1]$ と $S^2\times[1,\infty)$ を $S^2\times\{1\}$ で貼ったもの(貼り合わせは $S^2$ の同相写像 $\varphi$ で与えられるが、外側を $\varphi\times\mathrm{id}$ で取り替えればよい)、すなわち $S^2\times(0,\infty)$ と同相で単連結になり、矛盾する。破れる条件は「局所平坦」で、thm-ann-main により $S$ は局所平坦でないことも分かる。
鏡映 $r$ は $\mathbb{R}^n$ の同相写像だが、prop-ann-isotopy の 3 により安定でない。$\mathrm{SHC}_n$ が「向きを保つ」同相写像に限っているのはこのためである。また $\lvert r(x)-x\rvert=2\lvert x_1\rvert$ は有界でないので、prop-ann-bounded の「有界」という仮定を外すと結論が成り立たないことも、同じ $r$ が示す。
$A=\begin{pmatrix}1&1\\0&1\end{pmatrix}\in GL(2,\mathbb{Z})$ の定める $L_A\colon T^2\to T^2$ は $t_0$ を固定するが、$(L_A)_*=A\ne\mathrm{id}$ である。$0$ を固定する持ち上げは $x\mapsto Ax$ で、$\lvert Ax-x\rvert=\lvert x_2\rvert$ は有界でない。prop-ann-torus の証明では、$g_*=\mathrm{id}$ から $\hat g(x+m)=\hat g(x)+m$ を導き、有界性を得ていた。$L_A$ に $L_{A^{-1}}$ を合成して補正すれば持ち上げは恒等写像になる。なお $x\mapsto Ax$ 自身は、行列式が正の線形写像なので恒等写像にイソトピックであり、安定である(Kir69 Theorem 2 の系、p. 576)。
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