Wallis積分からStirlingの公式へ

同義語:Wallis integrals and Stirling's formula

概要

Wallis積分からStirlingの公式へは、Wallis 積分 $I_n=\int_0^{\pi/2}\sin^nx\,dx$ を扱う高校生向けの 5 本の記事の案内である。①「Wallis積分(高校数学)」は漸化式 $I_n=\frac{n-1}nI_{n-2}$($n\ge2$)と $nI_nI_{n-1}=\frac\pi2$、②「Wallisの公式(高校数学)」は $I_n\sim\sqrt{\pi/(2n)}$ と Wallis の積、③「Gauss積分(高校数学)」は $\int_0^\infty e^{-x^2}dx=\frac{\sqrt\pi}2$、④「階乗の大きさの見積もり」は $n!\sim\sqrt{2\pi n}(n/e)^n$ と誤差、⑤「Wallis積分とガンマ関数」は漸化式を $\Gamma(s+1)=s\Gamma(s)$ の特別な場合として示す。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 定積分, 部分積分, 階乗

Wallis 積分とは

高校の積分では、$\sin^2x$ や $\sin^3x$ の積分を倍角の公式などで計算する。指数を文字 $n$ のまま扱い、部分積分で指数を下げていくと、円周率 $\pi$ を無限積で表す公式、$e^{-x^2}$ の積分の値、階乗の大きさを表す Stirling の公式が、順に得られる。この記事は、その道のりを 5 本の記事に分けて案内する入口である。ここでは定義と例だけを述べ、証明はそれぞれの記事で行う。

Wallis 積分の定義

$n=0,1,2,\dots$ について
$$ I_n:=\int_0^{\pi/2}\sin^nx\,dx $$
とおき、これを Wallis 積分とよぶ。

最初のいくつかの値

$I_0=\int_0^{\pi/2}1\,dx=\frac\pi2$、$I_1=\bigl[-\cos x\bigr]_0^{\pi/2}=1$ である。部分積分で指数を 2 つ下げると、$n\ge2$ で漸化式
$$ I_n=\frac{n-1}{n}\,I_{n-2} $$
が成り立つ(Wallis積分(高校数学))。これを使うと
$$ I_2=\frac12\cdot\frac\pi2=\frac\pi4,\qquad I_3=\frac23\cdot1=\frac23,\qquad I_4=\frac34\cdot\frac\pi4=\frac{3\pi}{16},\qquad I_5=\frac45\cdot\frac23=\frac8{15} $$
である。$I_2=\frac\pi4$ は、$\sin^2x=\frac{1-\cos2x}2$ を使う高校の計算の答えと一致する。指数が偶数なら $\pi$ の有理数倍、奇数なら有理数になる。

隣どうしを掛けると $\frac{\pi}{2}$

$2\,I_2I_1=2\cdot\frac\pi4\cdot1=\frac\pi2$、$3\,I_3I_2=3\cdot\frac23\cdot\frac\pi4=\frac\pi2$、$4\,I_4I_3=4\cdot\frac{3\pi}{16}\cdot\frac23=\frac\pi2$ である。偶数番目と奇数番目は形が違うが、隣どうしを掛けて番号を掛けると、いつも $\frac\pi2$ になる。

$n$ が大きいときの大きさ

$\sqrt n\,I_n$ を計算すると、$n=10$ で $1.2224\ldots$、$n=100$ で $1.25018\ldots$、$n=1000$ で $1.253000\ldots$ であり、$\sqrt{\frac\pi2}=1.25331\ldots$ に近づく。つまり $n$ が大きいとき、$I_n$ はおよそ $\sqrt{\frac\pi{2n}}$ である。

階乗の近似

$10!=3628800$ に対して、$\sqrt{2\pi\cdot10}\,(10/e)^{10}=3598695.6\ldots$ であり、比は $1.0083\ldots$ である。この近似式 $\sqrt{2\pi n}\,(n/e)^n$ に現れる $\pi$ は、Wallis 積分の $I_0=\frac\pi2$ から来ている。

高校の計算と大学の概念

5 本の記事で扱う高校の計算と、その背後にある大学の概念の対応は次のとおりである。

高校の計算大学の概念記事
部分積分で指数を 2 つ下げる漸化式ガンマ関数の関数等式 $\Gamma(s+1)=s\Gamma(s)$Wallis積分(高校数学)、Wallis積分とガンマ関数
偶数番目は $\pi$ の有理数倍、奇数番目は有理数$\Gamma$ の半整数での値 $\Gamma(\frac12)=\sqrt\pi$ と整数での値 $\Gamma(n+1)=n!$Wallis積分とガンマ関数
階乗の比で書いた $I_n$ の大きさを、はさみうちの原理で見積もる漸近的に等しい(比が $1$ に近づく)Wallisの公式(高校数学)
置換積分 $x=\sin\theta$、$x=\tan\theta$広義積分と尺度の変換Gauss積分(高校数学)
階乗の計算Stirling の公式と誤差の評価階乗の大きさの見積もり
硬貨を $2n$ 回投げて表がちょうど $n$ 回出る確率中央の二項係数の大きさ $\binom{2n}n\sim\frac{4^n}{\sqrt{\pi n}}$Wallisの公式(高校数学)

読む順番

5 本の記事の読む順番。矢印の先の記事は、矢印の根もとの記事の結果を使う 5 本の記事の読む順番。矢印の先の記事は、矢印の根もとの記事の結果を使う

  1. Wallis積分(高校数学):部分積分で漸化式 $I_n=\frac{n-1}nI_{n-2}$ を証明し、$I_n$ の値を階乗で表す。隣り合う 2 項の積が $\frac\pi2$ で一定になること、$I_n$ が減少することも示す。
  2. Wallisの公式(高校数学):積の保存と単調性から、$I_n$ が $\sqrt{\frac\pi{2n}}$ と漸近的に等しいことを示し、Wallis の積 $\frac21\cdot\frac23\cdot\frac43\cdot\frac45\cdots=\frac\pi2$ と中央の二項係数の大きさを導く。単調性がないと結論が崩れる反例も見る。
  3. Gauss積分(高校数学):原始関数が初等関数で書けない $e^{-x^2}$ について、$e^{-nx^2}$ を 2 つの関数で挟んで Wallis 積分に直し、$\int_0^\infty e^{-x^2}dx=\frac{\sqrt\pi}2$ を証明する。
  4. 階乗の大きさの見積もり:$\log n!$ の補正項の差を積分で評価して極限の存在を示し、その定数を Wallis の公式で決めて、$1<\frac{n!}{\sqrt{2\pi n}(n/e)^n}< e^{1/(12n)}$ を証明する。
  5. Wallis積分とガンマ関数:ガンマ関数の基本的な性質を証明し、Wallis 積分を $\frac{\sqrt\pi}2\Gamma(\frac{n+1}2)/\Gamma(\frac n2+1)$ と書いて、高校の計算がガンマ関数の性質の特別な場合であることを見る。
    2 本目を読んだあとは、3 本目と 4 本目のどちらから読んでもよい。5 本目は 3 本目の Gauss 積分を使う。

どの疑問にどの記事が答えるか

疑問答える記事
$\int_0^{\pi/2}\sin^{10}x\,dx$ を楽に計算するにはWallis積分(高校数学)
$\pi$ を掛け算だけで表せるかWallisの公式(高校数学)
硬貨を 200 回投げて表がちょうど 100 回出る確率はどのくらいかWallisの公式(高校数学)
原始関数が求まらないのに、$e^{-x^2}$ の積分の値が分かるのはなぜかGauss積分(高校数学)
$100!$ はおよそどのくらいか。誤差はどのくらいか階乗の大きさの見積もり
$(\frac12)!$ に意味はあるかWallis積分とガンマ関数

最後の疑問には、$\Gamma(\frac32)=\frac{\sqrt\pi}2$ が「$(\frac12)!$」の自然な意味を与える、と答えられる(5 本目)。

使うときの注意

5 本の記事には、条件を外すと結論が崩れる箇所がいくつかある。それぞれの記事で反例として詳しく調べているものを、数値でまとめておく。

条件を外すと崩れる計算
  • 漸化式 $I_n=\frac{n-1}nI_{n-2}$ は $n\ge2$ でだけ使える。$n=1$ では右辺に現れる $I_{-1}=\int_0^{\pi/2}\frac{dx}{\sin x}$ が有限の値をもたないので、漸化式はそもそも意味をもたない。証明の部分積分($f(x)=\sin^{n-1}x$、$g(x)=-\cos x$ とおく)をたどると、$n=1$ では境界の項が $0$ ではなく $1$ になる($I_1=1$ はこの境界の項そのもの)。また、$n=1$ では $f(x)=\sin^0x=1$ は定数なので $f'=0$ であり、残りの項 $\int_0^{\pi/2}f'g\,dx$ は $0$ である(Wallis積分(高校数学))。
  • $I_n\sim\sqrt{\frac\pi{2n}}$ の証明では、積の保存 $nI_nI_{n-1}=\frac\pi2$ に加えて、単調性 $I_n< I_{n-1}$ を使う。$a_0=a_1=1$ から同じ漸化式で作った数列は積の保存を満たすが単調でなく、隣り合う項の比 $\frac{a_{2m}}{a_{2m+1}}$ は $1$ ではなく $\frac2\pi=0.6366\ldots$ に近づく(Wallisの公式(高校数学))。
  • $n!$ を $(n/e)^n$ だけで近似すると足りない。比 $\frac{n!}{(n/e)^n}$ は $n=10$ で $7.99\ldots$ であり、$\sqrt{2\pi n}$($n=10$ で $7.92\ldots$)の程度で大きくなっていく(階乗の大きさの見積もり)。
  • 「漸近的に等しい」は比が $1$ に近づくという意味で、差が小さくなるという意味ではない。$10!=3628800$ と $\sqrt{20\pi}\,(10/e)^{10}=3598695.6\ldots$ の差は約 $3.0\times10^4$ あり、この差は $n$ とともに大きくなる(階乗の大きさの見積もり)。

さらに先へ

  • 円周率を無限積で表す Wallis の積は、J. Wallis が 1656 年の『Arithmetica Infinitorum(無限算術)』で示した(AAR99 第 1 章)。
  • Stirling は 1730 年の『Methodus Differentialis』で $\sqrt{2\pi}$ を含む形の公式を示し、de Moivre はそれ以前に定数を決めずに同じ近似を得ていた(GS06 第 3.1 節の歴史の注)。
  • 硬貨投げの確率 $\binom{2n}n\big/4^n\sim\frac1{\sqrt{\pi n}}$ は、二項分布が正規分布で近似されることの最も簡単な場合である(二項分布から正規分布へ)。
  • ガンマ関数は複素数にまで広げられ、$n$ 次元の球の体積 $\frac{\pi^{n/2}}{\Gamma(\frac n2+1)}$ などにも現れる(Γ関数)。
  • 大学での扱い:5 本の記事は高校生向けに、高校の積分で追える範囲を扱う。大学数学の用語としての Wallis 積分、Wallis の公式、Gauss 積分、Stirling の公式、ガンマ関数は、大学向けの記事 Wallis積分、Wallisの公式、Gauss積分、Stirlingの公式、Γ関数 で扱う。

関連項目

参考文献

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