連鎖律

同義語:chain rule合成関数の微分法

概要

連鎖律(chain rule)とは、合成関数の微分についての規則で、関数 $g$ が点 $c$ で微分可能、関数 $f$ が点 $g(c)$ で微分可能ならば、合成 $f\circ g$ は $c$ で微分可能で $(f\circ g)'(c)=f'(g(c))\,g'(c)$ が成り立つ、という定理である。「外側の導関数を内側の値で評価したもの」と「内側の導関数」の積であり、変化率が掛け算でつながることを表す。逆関数の微分公式や置換積分の公式はこれから導かれる。多変数の写像では、全微分可能性を仮定して、合成の微分が微分(Jacobi 行列)の積 $D(g\circ f)(p)=Dg(f(p))\,Df(p)$ になる。偏微分係数が存在するだけでは多変数の連鎖律は一般には成り立たない。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 実数, 区間, 導関数, 連続写像, 写像の合成

動機と具体例

関数 $h(x)=\sin(x^2)$ は、$x$ を 2 乗してから $\sin$ をとる関数で、$u=x^2$ と $\sin u$ の写像の合成になっている。その導関数は
$$ \frac{d}{dx}\sin(x^2)=\cos(x^2)\cdot2x $$
である。すなわち「外側の関数 $\sin$ の導関数を内側の値 $x^2$ で評価したもの」と「内側の関数 $x^2$ の導関数」の積になる。たとえば $x=\sqrt\pi$ では $2\sqrt\pi\cos\pi=-2\sqrt\pi=-3.5449\ldots$ である。実際に差分商を計算すると、幅 $0.01$ で $\frac{h(\sqrt\pi+0.01)-h(\sqrt\pi)}{0.01}=-3.5541\ldots$、幅 $0.001$ で $-3.5459\ldots$ となり、この値に近づいていく。
変化の速さで言えば次のようになる。$u$ が $x$ の 3 倍の速さで変わり、$y$ が $u$ の 2 倍の速さで変わるなら、$y$ は $x$ の $3\times2=6$ 倍の速さで変わる。変化率が掛け算でつながるというこの規則が連鎖律(chain rule)であり、合成関数の微分法とも呼ばれる。多項式・指数関数・三角関数などを組み合わせた関数の微分は、ほとんどこの規則と和・積の微分法だけで計算できる。また、逆関数の微分、置換積分(微分積分学の基本定理)、多変数の関数の曲線に沿った変化率など、微分積分の多くの公式がこの規則から導かれる。
微分可能性は次の意味で使う。

区間上の関数の微分可能性

$I\subset\mathbb{R}$ を 2 点以上を含む区間、$f\colon I\to\mathbb{R}$ を関数、$c\in I$ とする。極限
$$ f'(c):=\lim_{x\to c,\ x\in I\setminus\{c\}}\frac{f(x)-f(c)}{x-c} $$
が実数として存在するとき、$f$ は $c$ で微分可能であるといい、$f'(c)$ を $c$ での微分係数という($c$ が $I$ の端点なら片側極限である)。$I$ のすべての点で微分可能なとき $f$ は $I$ 上で微分可能であるといい、$c\mapsto f'(c)$ を $f$ の導関数という。

$f$ が $c$ で微分可能ならば $c$ で連続写像の意味で連続である。$x\to c$ のとき $f(x)-f(c)=\frac{f(x)-f(c)}{x-c}\cdot(x-c)\to f'(c)\cdot0=0$ となるからである(Leb Proposition 4.1.6、p. 157)。

1 変数の連鎖律

証明には、微分可能性を「割り算を使わない形」に言い換えておくのが便利である。

差分商を連続関数で表す特徴づけ

$I$ を 2 点以上を含む区間、$f\colon I\to\mathbb{R}$、$c\in I$ とする。$f$ が $c$ で微分可能であるための必要十分条件は、$c$ で連続な関数 $\varphi\colon I\to\mathbb{R}$ で、すべての $x\in I$ について
$$ f(x)-f(c)=\varphi(x)\,(x-c) $$
を満たすものが存在することである。このとき $\varphi(c)=f'(c)$ である。

差分商を $c$ で埋める

$f$ が $c$ で微分可能なら、$x\ne c$ では $\varphi(x):=\frac{f(x)-f(c)}{x-c}$、$x=c$ では $\varphi(c):=f'(c)$ と定める。等式は $x\ne c$ では定義から、$x=c$ では両辺が $0$ なので成り立ち、$\lim_{x\to c}\varphi(x)=f'(c)=\varphi(c)$ より $\varphi$ は $c$ で連続である。逆に、そのような $\varphi$ があれば、$x\ne c$ で $\frac{f(x)-f(c)}{x-c}=\varphi(x)$ であり、$\varphi$ が $c$ で連続なので $x\to c$ の極限は $\varphi(c)$ として存在する。よって $f$ は $c$ で微分可能で $f'(c)=\varphi(c)$ である。

連鎖律

$I,J$ を 2 点以上を含む区間とし、$g\colon I\to\mathbb{R}$ は $g(I)\subset J$ を満たし点 $c\in I$ で微分可能、$f\colon J\to\mathbb{R}$ は点 $g(c)$ で微分可能とする。このとき合成 $f\circ g\colon I\to\mathbb{R}$ は $c$ で微分可能であり、
$$ (f\circ g)'(c)=f'\bigl(g(c)\bigr)\,g'(c) $$
が成り立つ。特に $g$ が $I$ 上で、$f$ が $J$ 上で微分可能なら、$f\circ g$ は $I$ 上で微分可能で $(f\circ g)'=(f'\circ g)\cdot g'$ である。

2 つの特徴づけを掛け合わせる

$d:=g(c)$ とおく。lem-chain-rule-caratheodory により、$c$ で連続な $\varphi\colon I\to\mathbb{R}$ と $d$ で連続な $\psi\colon J\to\mathbb{R}$ で
$$ g(x)-g(c)=\varphi(x)(x-c)\quad(x\in I),\qquad f(y)-f(d)=\psi(y)(y-d)\quad(y\in J), $$
$\varphi(c)=g'(c)$、$\psi(d)=f'(d)$ を満たすものがある。$x\in I$ なら $g(x)\in J$ なので、第 2 式に $y=g(x)$ を代入し、続けて第 1 式を使うと
$$ f\bigl(g(x)\bigr)-f\bigl(g(c)\bigr)=\psi\bigl(g(x)\bigr)\bigl(g(x)-g(c)\bigr)=\psi\bigl(g(x)\bigr)\,\varphi(x)\,(x-c) $$
となる。$g$ は $c$ で微分可能なので $c$ で連続であり、$\psi$ は $d=g(c)$ で連続なので、合成 $x\mapsto\psi(g(x))$ は $c$ で連続である。したがって積 $\chi(x):=\psi(g(x))\varphi(x)$ は $c$ で連続であり、$f(g(x))-f(g(c))=\chi(x)(x-c)$ がすべての $x\in I$ で成り立つ。lem-chain-rule-caratheodory により $f\circ g$ は $c$ で微分可能で、$(f\circ g)'(c)=\chi(c)=\psi(d)\varphi(c)=f'(g(c))\,g'(c)$ である。

この証明は Leb Proposition 4.1.10(p. 159)と同じ筋である。同書は補助関数を $u,v$ と書き、差分商 $\frac{h(x)-h(c)}{x-c}=u(g(x))v(x)$ の極限をとっている。

よくある誤った証明とその破綻

次の「証明」がよく見られる。$x\ne c$ について
$$ \frac{f(g(x))-f(g(c))}{x-c}=\frac{f(g(x))-f(g(c))}{g(x)-g(c)}\cdot\frac{g(x)-g(c)}{x-c} $$
と分け、$x\to c$ で右辺の第 1 因子は $f'(g(c))$ に、第 2 因子は $g'(c)$ に近づく、というものである。$c$ の近くで $g(x)\ne g(c)$ が成り立つ場合(たとえば $g'(c)\ne0$ の場合)はこれで正しいが、一般には第 1 因子の分母が $0$ になる点が $c$ のいくらでも近くにあり、式そのものが意味をもたない。
例として $g(x):=x^2\sin(1/x)$($x\ne0$)、$g(0):=0$ を考える。$\left|\frac{g(x)-g(0)}{x-0}\right|=|x\sin(1/x)|\leq|x|$ なので $g'(0)=0$ である。一方、$0$ でない整数 $k$ について $g\bigl(1/(k\pi)\bigr)=0=g(0)$ であり、点 $1/(k\pi)$ は $0$ のいくらでも近くにある。したがって $c=0$ では上の分け方がどの近傍でも使えない。thm-chain-rule の証明では、分母が $0$ になる点でも値の決まっている関数 $\psi$($\psi(d)=f'(d)$)を使うことで、この問題を避けている。実際、$f(y)=y^2$ とすると $(f\circ g)(x)=x^4\sin^2(1/x)$ であり、定理から $(f\circ g)'(0)=f'(0)g'(0)=0$ が正しく得られる。

逆関数の微分

連鎖律を $f(g(y))=y$ に形式的に使うと $f'(g(y))\,g'(y)=1$ となり、逆関数の導関数の公式が出る。ただしこの計算は $g$ が微分可能であることを前提にしているので、微分可能性そのものは別に示す必要がある。lem-chain-rule-caratheodory を使うと両方が同時に得られる。

逆関数の微分公式

$I$ を 2 点以上を含む区間、$f\colon I\to\mathbb{R}$ を連続かつ狭義単調な関数とし、$J:=f(I)$、$g:=f^{-1}\colon J\to I$ をその逆写像とする。$f$ が $x_0\in I$ で微分可能で $f'(x_0)\ne0$ ならば、$g$ は $y_0:=f(x_0)$ で微分可能であり、
$$ g'(y_0)=\frac{1}{f'(x_0)}=\frac{1}{f'\bigl(g(y_0)\bigr)} $$
が成り立つ。

特徴づけの関数を逆数にする

$f$ は連続なので、中間値の定理 により $J$ は区間であり、$f$ が単射なので 2 点以上を含む。狭義単調な関数の逆関数は連続である(Leb Proposition 3.6.6、p. 152)ので、$g$ は $y_0$ で連続である。
lem-chain-rule-caratheodory により、$x_0$ で連続な $\varphi\colon I\to\mathbb{R}$ で $f(x)-f(x_0)=\varphi(x)(x-x_0)$、$\varphi(x_0)=f'(x_0)\ne0$ を満たすものがある。$x\ne x_0$ では $f(x)\ne f(x_0)$(単射)なので $\varphi(x)\ne0$ であり、結局 $\varphi$ はどこでも $0$ にならない。$y\in J$ について $x=g(y)$ を代入すると $y-y_0=\varphi(g(y))\bigl(g(y)-g(y_0)\bigr)$ なので
$$ g(y)-g(y_0)=\frac{1}{\varphi\bigl(g(y)\bigr)}\,(y-y_0)\qquad(y\in J) $$
である。$g$ は $y_0$ で連続、$\varphi$ は $g(y_0)=x_0$ で連続で $0$ にならないので、$y\mapsto1/\varphi(g(y))$ は $y_0$ で連続である。lem-chain-rule-caratheodory により $g$ は $y_0$ で微分可能で、$g'(y_0)=1/\varphi(x_0)=1/f'(x_0)$ である。

同じ主張は Leb Lemma 4.4.1(p. 176)にある(同書は $f(I)$ が区間であることを仮定に置き、$f$ の連続性は仮定していない)。$f'(x_0)\ne0$ は外せない。$f(x)=x^3$ は $\mathbb{R}$ 上で連続かつ狭義単調増加で、$x_0=0$ で微分可能だが $f'(0)=0$ であり、逆関数 $g(y)=\sqrt[3]{y}$ は $y_0=0$ で微分可能でない($y\ne0$ で $\frac{g(y)-g(0)}{y-0}=y^{-2/3}$ は $y\to0$ で有界でない)。

例と反例

一次式や冪との合成

$n$ を正の整数とすると、$\frac{d}{dx}(ax+b)^n=n(ax+b)^{n-1}\cdot a$ である。たとえば $\frac{d}{dx}(3x+1)^5=15(3x+1)^4$ である。展開してから微分しても同じ結果になるが、連鎖律を使えば展開は要らない。同様に $\frac{d}{dx}\sqrt{1+x^2}=\frac{1}{2\sqrt{1+x^2}}\cdot2x=\frac{x}{\sqrt{1+x^2}}$ である(外側の $\sqrt u$ は $u>0$ で微分可能で導関数は $\frac1{2\sqrt u}$)。

対数関数と一般の冪

指数関数 $\exp\colon\mathbb{R}\to(0,\infty)$ は連続、狭義単調増加、全射で、$\exp'=\exp$ を満たす(これらは既知とする。指数関数。Leb §5.4 で積分から定義して示されている)。$\exp'(x)=\exp(x)>0$ なので、cor-chain-rule-inverse により逆関数 $\log\colon(0,\infty)\to\mathbb{R}$ は各点で微分可能で、
$$ (\log)'(y)=\frac{1}{\exp(\log y)}=\frac1y\qquad(y>0) $$
である。実数 $r$ について $x>0$ で $x^r:=\exp(r\log x)$ と定めると、thm-chain-rule により
$$ \frac{d}{dx}x^r=\exp(r\log x)\cdot\frac rx=r\,x^{r-1} $$
となる。また $\frac{d}{dx}e^{-x^2}=-2x\,e^{-x^2}$、$\frac{d}{dx}\sin^2x=2\sin x\cos x$、$\frac{d}{dx}\sin(x^2)=2x\cos(x^2)$ である。最後の 2 つのように、合成の順序が違えば導関数も違う。

反例:外側の関数が微分可能でない場合

$f(y)=|y|$ は $y=0$ で微分可能でない。$g(x)=x$ とすると $(f\circ g)(x)=|x|$ は $x=0$ で微分可能でないが、$g(x)=x^2$ とすると $(f\circ g)(x)=x^2$ は $x=0$ で微分可能である。したがって「$f$ が $g(c)$ で微分可能」という仮定を外すと、$f\circ g$ が $c$ で微分可能かどうかは定理からは何も言えず、場合によって両方が起こる。thm-chain-rule は微分可能性の十分条件であり、必要条件ではない。

反例:内側の関数が微分可能でない場合

$f(y)=y^2$、$g(x)=|x|$ とすると、$g$ は $x=0$ で微分可能でないが、$(f\circ g)(x)=|x|^2=x^2$ は $x=0$ で微分可能で導関数は $0$ である。この場合、公式の右辺 $f'(g(0))\,g'(0)$ は $g'(0)$ が存在しないので意味をもたない。「$g$ が $c$ で微分可能」という仮定を外すと、合成が微分可能であっても公式で計算することはできない。一方 $f(y)=y+1$ とすれば $(f\circ g)(x)=|x|+1$ は $x=0$ で微分可能でない。

2 回微分可能な関数どうしについては、連鎖律と積の微分法(Leb Proposition 4.1.8、p. 158)を組み合わせて
$$ (f\circ g)''=(f''\circ g)\,(g')^2+(f'\circ g)\,g'' $$
が得られる。また $(f\circ g)'=(f'\circ g)\cdot g'$ から、導関数が連続な関数どうしの合成は、導関数が連続である。

多変数の連鎖律

複数の変数の関数では、微分係数の役割を線形写像(行列)が担い、連鎖律は「合成の微分は微分の合成(行列の積)」という形になる。以下、$\mathbb{R}^n$ の元を列ベクトルとみなし、$\|x\|$ は Euclid のノルム $\bigl(\sum_ix_i^2\bigr)^{1/2}$ とする。$m\times n$ の行列 $A=(a_{ij})$ について、各行に Cauchy–Schwarz の不等式(内積 の記事)を使うと
$$ \|Ah\|\leq C_A\|h\|,\qquad C_A:=\Bigl(\sum_{i,j}a_{ij}^2\Bigr)^{1/2} $$
が成り立つ。

全微分可能性

$U\subset\mathbb{R}^n$ を開集合、$f\colon U\to\mathbb{R}^m$ を写像、$p\in U$ とする。$m\times n$ 行列 $A$ で
$$ \lim_{h\to0}\frac{\|f(p+h)-f(p)-Ah\|}{\|h\|}=0 $$
を満たすものが存在するとき、$f$ は $p$ で(全)微分可能であるといい、$A$ を $Df(p)$ と書いて $p$ での $f$ の微分(導関数)という。

この定義は Leb2 Definition 8.3.1(p. 35)と同じである(同書は $A$ を線形写像として書く)。$n=m=1$ では $1\times1$ 行列 $A=(f'(p))$ として def-chain-rule-derivative に一致する。$f$ が $p$ で微分可能なら、$r(h):=f(p+h)-f(p)-Ah$ とおくと $\|f(p+h)-f(p)\|\leq\|r(h)\|+C_A\|h\|\to0$ なので、$f$ は $p$ で連続である。

微分の行列成分と偏微分係数

$f=(f_1,\dots,f_m)\colon U\to\mathbb{R}^m$ が $p$ で微分可能ならば、各成分 $f_i$ の $p$ での偏微分係数 $\frac{\partial f_i}{\partial x_j}(p)$ がすべて存在し、$Df(p)$ の $(i,j)$ 成分に等しい。

座標軸方向に近づける

$A=Df(p)$、$e_j$ を第 $j$ 標準基底ベクトルとし、実数 $t\ne0$ について $h=te_j$ とおく($|t|$ が小さければ $p+te_j\in U$)。$\|h\|=|t|$ なので、定義から
$$ \left\|\frac{f(p+te_j)-f(p)}{t}-Ae_j\right\|=\frac{\|f(p+te_j)-f(p)-A(te_j)\|}{|t|}\to0\qquad(t\to0) $$
である。第 $i$ 成分をみると $\frac{f_i(p+te_j)-f_i(p)}{t}\to(Ae_j)_i=a_{ij}$ であり、これは $\frac{\partial f_i}{\partial x_j}(p)=a_{ij}$ ということである。

この行列 $\bigl(\frac{\partial f_i}{\partial x_j}(p)\bigr)$ を $f$ の $p$ での Jacobi行列 という(Leb2 Proposition 8.3.9、p. 39)。

多変数の連鎖律

$U\subset\mathbb{R}^n$、$V\subset\mathbb{R}^m$ を開集合とし、$f\colon U\to\mathbb{R}^m$ は $f(U)\subset V$ を満たし $p\in U$ で微分可能、$g\colon V\to\mathbb{R}^\ell$ は $q:=f(p)$ で微分可能とする。このとき $g\circ f\colon U\to\mathbb{R}^\ell$ は $p$ で微分可能であり、
$$ D(g\circ f)(p)=Dg(q)\,Df(p) $$
(右辺は $\ell\times m$ 行列と $m\times n$ 行列の積)が成り立つ。

2 つの剰余を評価する

$A:=Df(p)$、$B:=Dg(q)$ とし、$r(h):=f(p+h)-f(p)-Ah$、$s(k):=g(q+k)-g(q)-Bk$ とおく。$\sigma(k):=\|s(k)\|/\|k\|$($k\ne0$)、$\sigma(0):=0$ と定めると、$g$ が $q$ で微分可能なので $\sigma(k)\to0=\sigma(0)$($k\to0$)であり、すべての $k$ で $\|s(k)\|=\sigma(k)\|k\|$ が成り立つ。
$h\ne0$、$p+h\in U$ として $k(h):=f(p+h)-f(p)=Ah+r(h)$ とおくと、$f(p+h)=q+k(h)$ なので
$$ g\bigl(f(p+h)\bigr)-g\bigl(f(p)\bigr)-BAh=Bk(h)+s\bigl(k(h)\bigr)-BAh=Br(h)+s\bigl(k(h)\bigr) $$
である。$\|k(h)\|\leq\|r(h)\|+C_A\|h\|$ だから
$$ \frac{\|g(f(p+h))-g(f(p))-BAh\|}{\|h\|}\leq C_B\frac{\|r(h)\|}{\|h\|}+\sigma\bigl(k(h)\bigr)\left(\frac{\|r(h)\|}{\|h\|}+C_A\right) $$
となる。$h\to0$ のとき $\|r(h)\|/\|h\|\to0$ であり、$f$ は $p$ で連続なので $k(h)\to0$、したがって $\sigma(k(h))\to0$ である。右辺は $0$ に近づき、$g\circ f$ は $p$ で微分可能で $D(g\circ f)(p)=BA$ である。

この言明は Leb2 Theorem 8.3.7(p. 38)であり、証明も同じ筋である(同書は $k=0$ の場合を分けて扱い、ここでは $\sigma(0)=0$ と置いてまとめた)。

成分による表示と曲線に沿った微分

thm-chain-rule-several の仮定のもとで、$y=f(x)$ と書くと
$$ \frac{\partial(g\circ f)_i}{\partial x_j}(p)=\sum_{k=1}^{m}\frac{\partial g_i}{\partial y_k}(q)\,\frac{\partial f_k}{\partial x_j}(p) $$
である。特に $n=\ell=1$ の場合、開区間上の曲線 $\gamma=(\gamma_1,\dots,\gamma_m)$ が $t$ で微分可能で、実数値関数 $g$ が $\gamma(t)$ で微分可能なら
$$ \frac{d}{dt}g\bigl(\gamma(t)\bigr)=\sum_{k=1}^{m}\frac{\partial g}{\partial y_k}\bigl(\gamma(t)\bigr)\,\gamma_k'(t) $$
となる。

行列の積の成分

thm-chain-rule-several の等式の両辺の $(i,j)$ 成分を比べ、prop-chain-rule-jacobian で各行列の成分を偏微分係数に書き換えればよい。曲線の場合は $1\times m$ 行列と $m\times1$ 行列の積である。

曲線に沿った形は、微分形式 の線積分や 可微分多様体 上の接ベクトルの計算で繰り返し使われる。たとえば極座標 $x=r\cos\theta$、$y=r\sin\theta$ で $F(r,\theta):=g(r\cos\theta,r\sin\theta)$ とおくと、$g$ が微分可能なら $\frac{\partial F}{\partial r}=\cos\theta\,\frac{\partial g}{\partial x}+\sin\theta\,\frac{\partial g}{\partial y}$ である。

反例:偏微分係数だけがある場合

$g(x,y):=\frac{x^2y}{x^2+y^2}$($(x,y)\ne(0,0)$)、$g(0,0):=0$ とする。$g(x,0)=0$、$g(0,y)=0$ なので原点での偏微分係数はともに $0$ である。曲線 $\gamma(t)=(t,t)$ に沿うと $g(\gamma(t))=\frac{t^3}{2t^2}=\frac t2$($t\ne0$)、$g(\gamma(0))=0$ なので $\frac{d}{dt}g(\gamma(t))\big|_{t=0}=\frac12$ である。一方 cor-chain-rule-components の右辺は $0\cdot1+0\cdot1=0$ である。$g$ は原点で全微分可能であるという性質を満たさない(もし満たせば、cor-chain-rule-components により両者は一致するはずである)。したがって多変数の連鎖律は、偏微分係数が存在するだけでは成り立たず、全微分可能性の仮定が要る。

補足

置換積分との関係

連鎖律を積分の側から読んだものが置換積分の公式
$$ \int_a^bf\bigl(g(x)\bigr)\,g'(x)\,dx=\int_{g(a)}^{g(b)}f(u)\,du $$
である($g$ は $[a,b]$ 上で導関数が連続、$f$ は $g([a,b])$ を含む区間上で連続)。$F(y):=\int_{g(a)}^yf(u)\,du$ とおくと $F'=f$ なので、thm-chain-rule により $(F\circ g)'=(f\circ g)\,g'$ となり、両辺を積分すれば得られる。証明の詳細は 微分積分学の基本定理 の記事で述べる(Leb Theorem 5.3.5、p. 204)。

逆関数定理への発展

cor-chain-rule-inverse の多変数版が 逆関数定理 である。$D f(p)$ が可逆な行列なら、$f$ は $p$ の近くで微分可能な逆写像をもち、その微分は $Df(p)^{-1}$ である。後半の公式は、$f^{-1}\circ f=\mathrm{id}$ に thm-chain-rule-several を使えば、逆写像の微分可能性を認めたうえで直ちに得られる。

関連項目

参考文献

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