岩澤理論

同義語:Iwasawa theory

概要

岩澤理論(Iwasawa theory)とは、代数体 $K$ の $\mathbb{Z}_p$ 拡大 $K=K_0\subset K_1\subset\cdots$ の各層のイデアル類群の $p$ 部分を、岩澤代数 $\Lambda=\mathbb{Z}_p[\![T]\!]$ 上の 1 つの加群として扱う理論である。$K_n$ の類数を割る $p$ の最大冪 $p^{e_n}$ は、十分大きな $n$ で $e_n=\mu p^n+\lambda n+\nu$ という規則正しい形になる(岩澤の成長公式)。さらに主予想(円分体の場合は Mazur–Wiles の定理)は、この加群の特性多項式が $p$ 進 $L$ 関数と一致することを主張し、類数とゼータ関数の値を結びつける。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: p進整数, 副有限群, 代数体, 類体論, Galois理論

岩澤理論は、代数体 $K$ の上に積み上がる無限の塔 $K=K_0\subset K_1\subset K_2\subset\cdots$ で、各段 $K_n$ の類数の $p$ 部分がどう増えていくかを、1 つのコンパクトな加群の構造として捉える理論である。ここで塔の Galois 群は $p$ 進整数の加法群 $\mathbb{Z}_p$ に同型であり、このような拡大を $\mathbb{Z}_p$ 拡大という。岩澤健吉は 1959 年に、$K_n$ の類数を割り切る $p$ の最大冪 $p^{e_n}$ について、十分大きな $n$ で
$$ e_n=\mu p^n+\lambda n+\nu $$
となる整数 $\lambda,\mu\ge0$、$\nu$ が存在することを示した(Iwa59 Theorem 11, p. 224)。類数という 1 つ 1 つの体では捉えにくい量が、塔全体で見ると規則正しく振る舞うことがこの理論の出発点である。
この記事では、$\mathbb{Z}_p$ 拡大の定義と基本性質(中間体の分類、円分 $\mathbb{Z}_p$ 拡大の構成、分岐が $p$ の上に限られること)、岩澤代数 $\mathbb{Z}_p[\![T]\!]$ と群環の射影極限の同型、そして「$p$ が類数を割らず $p$ の上の素点が 1 つなら塔のすべての段で $p$ が類数を割らない」という岩澤の定理を、記事の中で証明する。成長公式・$\Lambda$ 加群の構造定理・主予想は、主張と所在を述べる。

$\mathbb{Z}_p$ 拡大

以下 $p$ を素数とし、$\mathbb{Z}_p$ を $p$ 進整数環とする。$\mathbb{Z}_p$ は加法群として副有限群であり、$\mathbb{Z}_p=\varprojlim_n\mathbb{Z}/p^n\mathbb{Z}$ である(副有限群 の記事の例「有限群・$p$ 進整数・$\widehat{\mathbb{Z}}$」)。

$\mathbb{Z}_p$ 拡大

体 $K$ の Galois 拡大 $K_\infty/K$ で、Galois 群 $\Gamma:=\operatorname{Gal}(K_\infty/K)$ が位相群として加法群 $\mathbb{Z}_p$ に同型であるものを、$K$ の $\mathbb{Z}_p$ 拡大 という。$\Gamma$ の位相的な生成元(生成する部分群が稠密になる元)$\gamma$ を 1 つ固定する。

岩澤の原論文では $\Gamma$ 拡大と呼ばれていた(Iwa59 p. 183、Gre01 p. 336)。$\mathbb{Z}_p$ で $1$ に対応する元が位相的な生成元である。

中間体の分類

$\mathbb{Z}_p$ 拡大の中間体

(a) $\mathbb{Z}_p$ の閉部分群は $0$ と $p^n\mathbb{Z}_p$($n\ge0$)だけであり、$\mathbb{Z}_p/p^n\mathbb{Z}_p\cong\mathbb{Z}/p^n\mathbb{Z}$ である。
(b) $K_\infty/K$ を $\mathbb{Z}_p$ 拡大とする。各 $n\ge0$ について、$K$ 上の次数が $p^n$ の中間体 $K_n$ がただ 1 つあり、$K_n/K$ は巡回拡大である。$K$ と $K_\infty$ の中間体は $K_n$($n\ge0$)と $K_\infty$ だけであり、$K_0\subset K_1\subset\cdots$、$K_\infty=\bigcup_nK_n$ である。

(a):$H\ne0$ を閉部分群とする。$0$ でない元 $x\in\mathbb{Z}_p$ は $x=p^mu$($u\in\mathbb{Z}_p^\times$)とただ 1 通りに書ける(p進整数 の記事の命題「p進整数の単元判定」と定理「全イデアルの分類」)。$H$ の $0$ でない元のうち $m$ が最小のもの $x=p^nu$ をとる。$\mathbb{Z}$ は $\mathbb{Z}_p$ で稠密で、掛け算は連続なので、$\mathbb{Z}x$ は $\mathbb{Z}_px=p^n\mathbb{Z}_p$ で稠密であり、$H$ は閉だから $p^n\mathbb{Z}_p\subseteq H$ である。逆に $H$ の元は $m\ge n$ なので $H\subseteq p^n\mathbb{Z}_p$ である。よって $H=p^n\mathbb{Z}_p$ である。$\mathbb{Z}_p\to\mathbb{Z}/p^n\mathbb{Z}$ の核は $p^n\mathbb{Z}_p$ なので商は $\mathbb{Z}/p^n\mathbb{Z}$ である。
(b):無限次 Galois 理論により、$K$ と $K_\infty$ の中間体は $\Gamma$ の閉部分群と包含を逆にして 1 対 1 に対応し、閉部分群 $H$ の固定体の $K$ 上の次数は指数 $(\Gamma:H)$ に等しい(Galois群 の記事の注意「無限次のGalois対応」)。(a) により閉部分群は $0$ と $p^n\Gamma$ だけなので、中間体は $K_\infty$ と $K_n:=K_\infty^{p^n\Gamma}$ だけであり、$[K_n:K]=p^n$、$\operatorname{Gal}(K_n/K)\cong\mathbb{Z}/p^n\mathbb{Z}$ は巡回群である。$p^n\Gamma\supset p^{n+1}\Gamma$ から $K_n\subset K_{n+1}$、$\bigcap_np^n\Gamma=0$ から $\bigcup_nK_n=K_\infty$ である。$\square$

$K_n$ を $\mathbb{Z}_p$ 拡大の 第 $n$ 層 という。$\operatorname{Gal}(K_\infty/K_n)=p^n\Gamma$ も $\mathbb{Z}_p$ に同型なので、$K_\infty/K_n$ も $\mathbb{Z}_p$ 拡大である。

円分 $\mathbb{Z}_p$ 拡大

有理数体 $\mathbb{Q}$ には、$1$ の $p$ 冪乗根から作られる $\mathbb{Z}_p$ 拡大がある。まず、$\mathbb{Z}_p^\times$ の中に $\mathbb{Z}_p$ が現れることを思い出す。$n\ge1$ について $U_n:=1+p^n\mathbb{Z}_p$ とおく。
$p$ が奇素数なら、$a\mapsto(1+p)^a$ は位相群の同型 $\mathbb{Z}_p\xrightarrow{\sim}U_1$ に延び、$\mathbb{Z}_p^\times=\mu_{p-1}\times U_1$ である(p進数体 の記事の定理「$1$ に近い単元の群の構造」と系「$\mathbb Q_p^\times$ の構造」、局所体 の記事の系「乗法群の分解」)。ここで $\mu_{p-1}$ は $\mathbb{Z}_p$ の中の $1$ の $(p-1)$ 乗根全体で、位数 $p-1$ の巡回群である。この延長の要点は、$(1+p)^{p^k}=1+p^{k+1}t_k$($t_k\in\mathbb{Z}_p^\times$)という等式である(p進数体 の記事の補題「$p$ 乗で $1$ に 1 桁近づく」とその後の段落)。
$p=2$ では $(1+2)^2=9=1+2^2\cdot2$ で $t_1=2$ が単数でないように、この等式が崩れるので、構成を変える必要がある。Iwa59 §7.7(p. 225)では、$p=2$ の場合に $1$ の $2^{n+2}$ 乗根で生成される体の最大実部分体を第 $n$ 層に使う。以下、とくに断らなければ $p$ は奇素数とする。

円分 $\mathbb{Z}_p$ 拡大

$p$ を奇素数、$\mu_{p^\infty}$ を $1$ の $p$ 冪乗根全体とする。
(a) 各 $\sigma\in\operatorname{Gal}(\mathbb{Q}(\mu_{p^\infty})/\mathbb{Q})$ に、すべての $\zeta\in\mu_{p^\infty}$ について $\sigma(\zeta)=\zeta^{a(\sigma)}$ となる $a(\sigma)\in\mathbb{Z}_p^\times$ を対応させると、同型 $\operatorname{Gal}(\mathbb{Q}(\mu_{p^\infty})/\mathbb{Q})\cong\mathbb{Z}_p^\times$ が得られる($\zeta$ の位数が $p^n$ なら $\zeta^{a}$ は $a\bmod p^n$ で決まる)。
(b) $\mathbb{Q}(\mu_{p^\infty})$ の中で $\mu_{p-1}\subset\mathbb{Z}_p^\times$ に対応する部分群の固定体を $\mathbb{Q}_\infty$ とすると、$\mathbb{Q}_\infty/\mathbb{Q}$ は $\mathbb{Z}_p$ 拡大である。
(c) 任意の代数体 $K$ について、合成体 $K\mathbb{Q}_\infty$ は $K$ の $\mathbb{Z}_p$ 拡大である。

(a):Galois群 の記事の例「円分体の Galois 群」により、$\sigma\mapsto a$($\sigma(\zeta_{p^n})=\zeta_{p^n}^a$)は同型 $\operatorname{Gal}(\mathbb{Q}(\zeta_{p^n})/\mathbb{Q})\cong(\mathbb{Z}/p^n\mathbb{Z})^\times$ である。これらは $n$ について制限と両立するので、射影極限をとって $\operatorname{Gal}(\mathbb{Q}(\mu_{p^\infty})/\mathbb{Q})\cong\varprojlim(\mathbb{Z}/p^n\mathbb{Z})^\times=\mathbb{Z}_p^\times$ である(最後の等号は p進整数 の記事の命題「有限単元群と隣り合う層」の $\mathbb{Z}_p^\times/U_n\cong(\mathbb{Z}/p^n\mathbb{Z})^\times$ から)。
(b):上に引いた分解により $\mathbb{Z}_p^\times/\mu_{p-1}\cong U_1\cong\mathbb{Z}_p$ である。$\mu_{p-1}$ は有限なので閉部分群であり、その固定体 $\mathbb{Q}_\infty$ は Galois 拡大で、$\operatorname{Gal}(\mathbb{Q}_\infty/\mathbb{Q})\cong\mathbb{Z}_p^\times/\mu_{p-1}\cong\mathbb{Z}_p$ である。
(c):$\mathbb{Q}_\infty/\mathbb{Q}$ は Galois 拡大なので、制限写像は同型 $\operatorname{Gal}(K\mathbb{Q}_\infty/K)\cong\operatorname{Gal}(\mathbb{Q}_\infty/K\cap\mathbb{Q}_\infty)$ を与える(制限写像は単射で、像の固定体は $K\cap\mathbb{Q}_\infty$ なので、Galois群 の記事の注意「無限次のGalois対応」により像は $\operatorname{Gal}(\mathbb{Q}_\infty/K\cap\mathbb{Q}_\infty)$ 全体)。$K\cap\mathbb{Q}_\infty$ は $\mathbb{Q}$ の有限次拡大なので、右辺は $\mathbb{Z}_p$ の $0$ でない閉部分群、すなわち prop-iwasawa-intermediate の (a) により $p^m\mathbb{Z}_p\cong\mathbb{Z}_p$ である。$\square$

$\mathbb{Q}_\infty$ を $\mathbb{Q}$ の 円分 $\mathbb{Z}_p$ 拡大、$K\mathbb{Q}_\infty$ を $K$ の円分 $\mathbb{Z}_p$ 拡大という。$\mathbb{Q}$ の $\mathbb{Z}_p$ 拡大は $\mathbb{Q}_\infty$ ただ 1 つである(Iwa59 §7.7, p. 225)。一般の代数体 $K$ では、$K$ のすべての $\mathbb{Z}_p$ 拡大の合成体 $\widetilde K$ について $\operatorname{Gal}(\widetilde K/K)\cong\mathbb{Z}_p^d$、$r_2+1\le d\le[K:\mathbb{Q}]$($r_2$ は複素素点の個数)であり、$d=r_2+1$ と予想されている(Leopoldt 予想の言い換え。Gre01 p. 340–341 の Theorem と説明)。たとえば虚 2 次体では $r_2=1$、$[K:\mathbb{Q}]=2$ なので $d=2$ であり、総実でない体には無限に多くの $\mathbb{Z}_p$ 拡大がある(同 p. 340)。

分岐は $p$ の上だけで起こる

以下、$K$ を代数体、$K_\infty/K$ をその $\mathbb{Z}_p$ 拡大とする。素点の分岐・惰性群・Hilbert 類体について、次の 2 つの事実を使う(この記事では証明しない)。

使う事実

(E1) Hilbert 類体:代数体 $F$ の不分岐アーベル拡大(無限素点も含めてどの素点も分岐しないアーベル拡大)はすべて有限次であり、その合成(Hilbert 類体)の $F$ 上の Galois 群は $F$ のイデアル類群に同型である。とくに、最大の不分岐アーベル $p$ 拡大 $L(F)/F$ の次数は、$F$ の類数を割り切る $p$ の最大冪に等しく、$\operatorname{Gal}(L(F)/F)$ はイデアル類群の $p$ 部分 $A(F)$ に同型である(Iwa59 §6.3, p. 217。大域類体論の帰結である。大域類体論)。(prop-iwasawa-ramification と thm-iwasawa-p-not-dividing で使う。)
(E2) 馴分岐の制約:$F'/F$ を次数が $p$ の冪のアーベル拡大とし、$\mathfrak{q}$ を $p$ の上にない $F$ の素点とする。このとき $\mathfrak{q}$ は $F'/F$ で高々馴分岐であり、その分岐指数は $N(\mathfrak{q})-1$ を割り切る。ここで $N(\mathfrak{q})$ は $\mathfrak{q}$ の剰余体の元の個数である(Gre01 p. 336 で、$\mathbb{Z}_p$ 拡大の層 $F_n/F$ について「よく知られている」として使われている)。$p$ の上にない条件は欠かせない($p$ の上の素点では分岐指数が $p$ の冪になりうる)。(prop-iwasawa-ramification で使う。)

$\mathbb{Z}_p$ 拡大の分岐

$K_\infty/K$ を代数体 $K$ の $\mathbb{Z}_p$ 拡大とする。
(a) 無限素点と、$p$ の上にない有限素点は $K_\infty/K$ で分岐しない。
(b) $p$ の上の素点のうち少なくとも 1 つは $K_\infty/K$ で分岐する。
(c) 分岐する素点 $\mathfrak{p}$ の惰性群は $\Gamma$ の $0$ でない閉部分群 $p^e\Gamma$ であり、$\mathfrak{p}$ は $K_e$ より上では完全分岐する($n\ge e$ について、$K_n$ の $\mathfrak{p}$ の上の素点は $K_\infty/K_n$ で完全分岐する)。

素点 $v$ の惰性群 $I_v\subseteq\Gamma$ は閉部分群である。$\Gamma$ は可換なので $I_v$ は $v$ の上の素点の選び方によらない。
(a):無限素点の分解群は位数 $1$ か $2$ の部分群だが、$\Gamma\cong\mathbb{Z}_p$ には $0$ 以外の有限部分群がない($\mathbb{Z}_p$ は整域で、$mx=0$、$m\ne0$ なら $x=0$)ので自明であり、無限素点は分岐しない。次に $v$ を $p$ の上にない有限素点とし、$I_v\ne0$ と仮定する。prop-iwasawa-intermediate の (a) により $I_v=p^m\Gamma$ と書ける。$K_m$ の $v$ の上の素点 $\mathfrak{q}$ をとる。$n>m$ について $K_n/K_m$ の Galois 群は $p^m\Gamma/p^n\Gamma$ で、$\mathfrak{q}$ の惰性群は $I_v$ の像 $p^m\Gamma/p^n\Gamma$ 全体なので、$\mathfrak{q}$ の分岐指数は $p^{n-m}$ である。(E2) を $F=K_m$、$F'=K_n$ に使うと $p^{n-m}\mid N(\mathfrak{q})-1$ がすべての $n>m$ で成り立つが、$N(\mathfrak{q})-1$ は固定された正の整数なので矛盾である。よって $I_v=0$ である。
(b):どの素点も分岐しなければ、各 $K_n/K$ は次数 $p^n$ の不分岐アーベル拡大であり、(E1) によりその次数は $K$ の類数で抑えられる。$n$ はいくらでも大きくとれるので矛盾である。(a) と合わせて、分岐する素点は $p$ の上にある。
(c):$I_{\mathfrak{p}}\ne0$ なので (a) の議論と同様に $I_{\mathfrak{p}}=p^e\Gamma$ である。$n\ge e$ なら $K_\infty/K_n$ の Galois 群は $p^n\Gamma\subseteq I_{\mathfrak{p}}$ で、$K_n$ の $\mathfrak{p}$ の上の素点の惰性群は $p^n\Gamma\cap I_{\mathfrak{p}}=p^n\Gamma$ 全体なので、完全分岐する。$\square$

$K=\mathbb{Q}$ の円分 $\mathbb{Z}_p$ 拡大では $p$ ただ 1 つが分岐し、しかも $\mathbb{Q}$ から完全分岐する(下の ex-iwasawa-q)。

岩澤代数

岩澤理論の主役は、$\Gamma$ が作用するコンパクトな $\mathbb{Z}_p$ 加群である。それらは形式的冪級数環 $\mathbb{Z}_p[\![T]\!]$ 上の加群とみなせる。

岩澤代数

$\Lambda:=\mathbb{Z}_p[\![T]\!]$($\mathbb{Z}_p$ 係数の形式的冪級数環)を 岩澤代数 という。$\Gamma_n:=\Gamma/p^n\Gamma$(位数 $p^n$ の巡回群)の群環を $\mathbb{Z}_p[\Gamma_n]$ と書き、自然な全射 $\mathbb{Z}_p[\Gamma_{n+1}]\to\mathbb{Z}_p[\Gamma_n]$ による射影極限を $\mathbb{Z}_p[\![\Gamma]\!]:=\varprojlim_n\mathbb{Z}_p[\Gamma_n]$ と書く。

$\mathbb{Z}_p$ 係数の多項式 $F(T)=T^d+a_{d-1}T^{d-1}+\dots+a_0$ で、$a_0,\dots,a_{d-1}$ がすべて $p\mathbb{Z}_p$ に属するものを distinguished 多項式 という。$\Lambda$ は極大イデアル $(p,T)$ をもつ 2 次元の完備な正則局所環で、一意分解整域である(Gre01 p. 338、Ser60 no. 6, p. 89)。$\Lambda$ の高さ $1$ の素イデアルは $(p)$ と、既約な distinguished 多項式で生成されるイデアルである(Gre01 p. 338)。

$\Lambda$ と群環の射影極限

$T\mapsto(\gamma_n-1)_n$($\gamma_n$ は $\gamma$ の $\Gamma_n$ での像)で定まる連続な環同型
$$ \Lambda=\mathbb{Z}_p[\![T]\!]\xrightarrow{\ \sim\ }\mathbb{Z}_p[\![\Gamma]\!] $$
がある。ここで $\Lambda$ には係数ごとの位相($\prod\mathbb{Z}_p$ としての積位相)を入れる。

要点:各段 $A_n:=\mathbb{Z}_p[\Gamma_n]$ で $t:=\gamma_n-1$ は $t^{p^n}\in pA_n$ を満たすので、冪級数に $t$ を代入できる。こうして得た $\varepsilon_n\colon\Lambda\to A_n$ は全射で両立し、単射性は法 $p$ で最低次の項を見れば分かり、全射性はコンパクト性から出る。

詳しい証明を開く

段 1(代入)。$A_n$ は $\mathbb{Z}_p$ 上階数 $p^n$ の自由加群で、$p$ 進位相で完備である。$p\mid\binom{p^n}{k}$($0< k< p^n$)なので $t^{p^n}=(\gamma_n-1)^{p^n}\equiv\gamma_n^{p^n}-1=0\pmod{pA_n}$ であり、$t^{kp^n}\in p^kA_n$ である。よって $f=\sum_ja_jT^j\in\Lambda$ について $\sum_ja_jt^j$ は $A_n$ で収束する。その和を $\varepsilon_n(f)$ とおく。$a_j\in p^k\mathbb{Z}_p$($j< kp^n$)なら $\varepsilon_n(f)\in p^kA_n$ なので、$\varepsilon_n$ は積位相について連続である。$\varepsilon_n$ は多項式の上では環準同型であり、多項式は $\Lambda$ で稠密で、$\Lambda$ と $A_n$ の積は連続なので、$\varepsilon_n$ は環準同型である。$\gamma_n=1+t$ は $A_n$ を $\mathbb{Z}_p$ 代数として生成するので $\varepsilon_n$ は全射であり、$\gamma_{n+1}\mapsto\gamma_n$ なので $\varepsilon_n$ は $n$ について両立する。こうして連続な環準同型 $\varepsilon\colon\Lambda\to\varprojlim A_n$ を得る。

段 2(単射)。$f\ne0$ とし、係数の $p$ 進付値の最小値を $\mu$ として $f=p^\mu g$ と書くと、$g$ の係数の少なくとも 1 つは単元である。$g$ を法 $p$ で還元した $\bar g\in\mathbb{F}_p[\![T]\!]$ の最低次の次数を $d$ とする。$A_n/pA_n=\mathbb{F}_p[x]/(x^{p^n}-1)=\mathbb{F}_p[x]/((x-1)^{p^n})=\mathbb{F}_p[t]/(t^{p^n})$ であり、$\varepsilon_n(g)$ の法 $p$ の像は $\bar g(t)\bmod t^{p^n}$ である。$p^n>d$ ならこれは $0$ でないので $\varepsilon_n(g)\notin pA_n$ であり、$A_n$ は $\mathbb{Z}_p$ 上捩れがないので $\varepsilon_n(f)=p^\mu\varepsilon_n(g)\ne0$ である。

段 3(全射)。$(a_n)_n\in\varprojlim A_n$ とする。$S_n:=\varepsilon_n^{-1}(a_n)$ は空でない閉集合で、両立性から $S_{n+1}\subseteq S_n$ である。$\Lambda\cong\prod_{j\ge0}\mathbb{Z}_p$ は Tychonoff の定理によりコンパクトなので $\bigcap_nS_n\ne\emptyset$ であり、その元 $f$ は $\varepsilon(f)=(a_n)$ を満たす。連続な全単射がコンパクト空間から Hausdorff 空間への写像なので、$\varepsilon$ は同相でもある。$\square$

この同型で $\gamma$ は $1+T$ に対応する(Gre01 p. 338。同じ同型は Ser60 no. 6 の Lemme 3(p. 89)にあり、そこでは $\gamma$ に $1-T$ を対応させている)。$\omega_n:=(1+T)^{p^n}-1$ とおくと、$\Lambda/\omega_n\Lambda\cong\mathbb{Z}_p[\Gamma_n]$ である(Gre01 p. 339)。有限 $p$ 群で $\mathbb{Z}_p[\Gamma_n]$ 加群の構造が両立するものの射影極限 $X$ は、$T$ を $\gamma-1$ として作用させることで位相的な $\Lambda$ 加群になる(Ser60 no. 6, p. 89、Gre01 p. 337)。

類群の塔

$K_\infty/K$ を $\mathbb{Z}_p$ 拡大とし、$A_n$ を $K_n$ のイデアル類群の $p$ 部分、$p^{e_n}:=|A_n|$ とする。$L_n:=L(K_n)$ を $K_n$ の最大不分岐アーベル $p$ 拡大とすると、(E1) により $\operatorname{Gal}(L_n/K_n)\cong A_n$ である。$L_\infty:=\bigcup_nL_n$ とおき、
$$ X:=\operatorname{Gal}(L_\infty/K_\infty) $$
を 岩澤加群 という。$X$ は有限アーベル $p$ 群の射影極限としてコンパクトな $\mathbb{Z}_p$ 加群であり、$\Gamma$ が内部自己同型で作用するので $\Lambda$ 加群になる(Gre01 p. 335–337)。

$p$ が類数を割らない場合

次の定理は、塔の底の情報だけで塔全体の類数の $p$ 部分が決まる、最も基本的な場合である。

$p$ が類数を割らないときの岩澤の定理

$K$ を代数体、$p$ を素数とし、次の 2 条件を仮定する。
(i) $K$ の類数は $p$ で割り切れない。
(ii) $K$ の $p$ の上の素点はただ 1 つ $\mathfrak{p}$ である。
このとき $K$ の任意の $\mathbb{Z}_p$ 拡大 $K_\infty/K$ について、$\mathfrak{p}$ は $K_\infty/K$ で完全分岐し、すべての $n\ge0$ で $K_n$ の類数は $p$ で割り切れない。とくに $X=0$ であり、$\lambda=\mu=\nu=0$ である。

主張は Gre01 Proposition 2.1(p. 339)で、そこでは岩澤の論文 Iwa59 に由来すると述べられている。以下の証明は有限の段 $K_n$ ごとに群論で閉じるように組み直したものである。

段 1(完全分岐)。prop-iwasawa-ramification により、分岐する素点は $p$ の上にあり少なくとも 1 つあるので、(ii) からそれは $\mathfrak{p}$ だけである。その惰性群を $p^e\Gamma$ とする。$K_e/K$ では $\mathfrak{p}$ の惰性群は $p^e\Gamma$ の $\Gamma/p^e\Gamma$ での像、すなわち自明であり、他の素点(無限素点を含む)も分岐しないので、$K_e/K$ は次数 $p^e$ の不分岐アーベル $p$ 拡大である。(E1) によりその次数は $K$ の類数の $p$ 部分を割るので、(i) から $e=0$ である。よって $\mathfrak{p}$ は $K_\infty/K$ で完全分岐する。
段 2(群の構造)。$n$ を固定し、$L_n$ を $K_n$ の最大不分岐アーベル $p$ 拡大とする。$L_n$ の $K$ 上の共役も $K_n$ の不分岐アーベル $p$ 拡大なので $L_n$ に含まれ、$L_n/K$ は Galois 拡大である。$G:=\operatorname{Gal}(L_n/K)$、$Y:=\operatorname{Gal}(L_n/K_n)\cong A_n$ とおくと、$Y$ は $G$ の可換な正規部分群で、$G/Y\cong\operatorname{Gal}(K_n/K)$ は位数 $p^n$ の巡回群である。$L_n$ の $\mathfrak{p}$ の上の素点 $\mathfrak{P}$ の惰性群を $I\subseteq G$ とする。$L_n/K_n$ は不分岐なので $I\cap Y=1$ であり、段 1 により $\mathfrak{p}$ は $K_n/K$ で完全分岐するので、$I$ の $G/Y$ への像は全体である。よって $G=Y\cdot I$、$Y\cap I=1$ である。$I$ の元 $\sigma$ で $G/Y$ の生成元に写るものをとると、$G$ は $Y$ と $\sigma$ で生成される。
段 3(交換子群)。$Y$ を加法的に書き、$\sigma$ の $Y$ への作用 $y\mapsto\sigma y\sigma^{-1}$ を $\sigma\cdot y$ と書く。$(\sigma-1)Y:=\{\sigma\cdot y-y\mid y\in Y\}$ は $\sigma$ で保たれる $Y$ の部分群なので $G$ の正規部分群であり、$G/(\sigma-1)Y$ では生成元 $Y$ と $\sigma$ が可換になるのでアーベル群である。よって交換子群 $[G,G]$ は $(\sigma-1)Y$ に含まれる。逆に $\sigma y\sigma^{-1}y^{-1}$ は交換子なので、$[G,G]=(\sigma-1)Y$ である。
段 4(底の体への帰着)。$H$ を $(\sigma-1)Y$ と $I$ で生成される $G$ の部分群とし、$E:=L_n^H$ とおく。$H\supseteq[G,G]$ なので $H$ は正規部分群で $E/K$ はアーベル拡大である。$\mathfrak{p}$ の上の素点の惰性群は $I$ の共役で、$H$ は正規なのでそれらも $H$ に含まれ、$\mathfrak{p}$ は $E/K$ で分岐しない。$\mathfrak{p}$ 以外の素点は $K_n/K$(prop-iwasawa-ramification)でも $L_n/K_n$ でも分岐しないので $E/K$ で分岐しない。よって $E/K$ は不分岐アーベル $p$ 拡大であり、(E1) と (i) から $E=K$、すなわち $H=G$ である。
段 5($Y=0$)。$y\in Y$ を $y=z\tau$($z\in(\sigma-1)Y$、$\tau\in I$)と書くと、$\tau=z^{-1}y\in Y\cap I=1$ なので $Y=(\sigma-1)Y$ である。$\sigma^{p^n}\in Y$ で $Y$ は可換なので、$\sigma^{p^n}$ は $Y$ に自明に作用する。$\operatorname{End}(Y)$ の中で二項展開すると、$0< k< p^n$ について $p\mid\binom{p^n}{k}$ なので
$$ (\sigma-1)^{p^n}\equiv\sigma^{p^n}-1=0\pmod{p\operatorname{End}(Y)} $$
であり、$Y=(\sigma-1)^{p^n}Y\subseteq pY$ となる。有限 $p$ 群 $Y$ で $Y=pY$ なら $Y=p^kY$ がすべての $k$ で成り立ち、$p^kY=0$($k$ が大きいとき)なので $Y=0$ である。よって $A_n\cong Y=0$、すなわち $K_n$ の類数は $p$ で割り切れない。
最後に、すべての $n$ で $L_n=K_n$ なので $L_\infty=K_\infty$、$X=0$ であり、$e_n=0$ から $\lambda=\mu=\nu=0$ である。$\square$

段 3〜5 は、「$\Lambda$ 加群 $X$ について $X/TX=0$ なら $X=0$」という中山の補題の形の議論(Ser60 no. 4 の Exemple, p. 88。そこでは $X/\omega_0X\cong A_0=0$ から $X=\omega_0X$、$\omega_0$ は $\Lambda$ の極大イデアルに属するので $X=0$ と結論する)を、有限の段で直接確かめたものにあたる。

一般の場合:成長公式と構造定理

一般には $A_n$ は $0$ にならず、$n$ とともに増えうる。その増え方を決めるのが次の 2 つの定理である。この記事では証明しない。

岩澤の成長公式

$K$ を代数体、$K_\infty/K$ を $\mathbb{Z}_p$ 拡大とし、$p^{e_n}$ を $K_n$ の類数を割り切る $p$ の最大冪とする。整数 $\lambda\ge0$、$\mu\ge0$、$\nu$ と $n_0$ が存在して、$n\ge n_0$ について
$$ e_n=\mu p^n+\lambda n+\nu $$
が成り立つ。

成長公式の所在

Iwa59 Theorem 11(p. 224。記号は $l=\lambda$、$m=\mu$、$c=\nu$)。Ser60 Théorème 2(p. 83、円分体の塔の場合)と Théorème 6(p. 88)、Gre01 p. 335 の Theorem にも同じ主張がある。$\lambda,\mu,\nu$ を $K_\infty/K$ の 岩澤不変量 という。

$\Lambda$ 加群の構造定理

$X$ を有限生成な捩れ $\Lambda$ 加群とする。核と余核が有限な $\Lambda$ 準同型
$$ X\longrightarrow\bigoplus_{i=1}^{s}\Lambda/(p^{m_i})\ \oplus\ \bigoplus_{j=1}^{t}\Lambda/\bigl(f_j(T)^{n_j}\bigr) $$
が存在する。ここで $m_i,n_j\ge1$、$f_j$ は既約な distinguished 多項式であり、右辺は $X$ から並べ方を除いて一意に決まる。

構造定理の所在と不変量

Ser60 Théorème 7(p. 91)、Gre01 p. 337–338 の Theorem。核と余核が有限な準同型を 擬同型 という。$\mu(X):=\sum_im_i$、$\lambda(X):=\sum_jn_j\deg f_j$ とおき、$f_X(T):=\prod_ip^{m_i}\prod_jf_j(T)^{n_j}$ を $X$ の 特性多項式 という(Gre01 p. 338)。岩澤加群 $X=\operatorname{Gal}(L_\infty/K_\infty)$ は有限生成な捩れ $\Lambda$ 加群であり(Ser60 Théorème 5, p. 88)、その $\lambda(X),\mu(X)$ が成長公式の $\lambda,\mu$ に一致する(Gre01 p. 338–339)。

成長公式は、$X$ の構造から $A_n$ を取り出す公式に由来する。$K$ の $p$ の上の素点がただ 1 つで $K_\infty/K$ で完全分岐するとき、
$$ A_n\cong X/\omega_nX\qquad(n\ge0) $$
である(Gre01 (1), p. 337。Ser60 no. 4 の Exemple, p. 88)。たとえば $X=\Lambda/(p^m)$ なら $X/\omega_nX\cong(\mathbb{Z}/p^m\mathbb{Z})[\Gamma_n]$ の位数は $p^{mp^n}$ であり、$p^n$ の係数 $\mu$ はこのような成分から生じる。$X=\Lambda/(f)$($f$ は次数 $d$ の distinguished 多項式)なら $X$ は階数 $d$ の自由 $\mathbb{Z}_p$ 加群であり(Ser60 p. 91 の (b)、Gre01 p. 338)、$n$ の係数 $\lambda$ はこのような成分から生じる。

例

有理数体の円分 $\mathbb{Z}_p$ 拡大

$K=\mathbb{Q}$ とし、$p$ を奇素数とする。$\mathbb{Q}$ の類数は $1$ で、$p$ の上の素点は $p$ ただ 1 つなので、thm-iwasawa-p-not-dividing により、$p$ は $\mathbb{Q}_\infty/\mathbb{Q}$ で完全分岐し、すべての層 $\mathbb{Q}_n$(次数 $p^n$ の巡回体)の類数は $p$ で割り切れない。よって $\lambda=\mu=\nu=0$ である。この結論は Iwa59 §7.7(p. 225)にも述べられている。

正則素数と円分体

$p$ を奇素数、$K=\mathbb{Q}(\zeta_p)$ とし、$K_\infty=\mathbb{Q}(\mu_{p^\infty})$ とする。thm-iwasawa-cyclotomic により $\operatorname{Gal}(K_\infty/K)\cong U_1\cong\mathbb{Z}_p$ で、第 $n$ 層は $K_n=\mathbb{Q}(\zeta_{p^{n+1}})$ である。$p$ が 正則素数、すなわち $p$ が $\mathbb{Q}(\zeta_p)$ の類数を割らないとする。$\mathbb{Q}(\zeta_p)$ の $p$ の上の素点はただ 1 つである(円分体 の記事の定理「円分体における素数の分解」で $n=p$、$m=1$ の場合)。よって thm-iwasawa-p-not-dividing により、すべての $n$ で $\mathbb{Q}(\zeta_{p^{n+1}})$ の類数は $p$ で割り切れない。これは Ser60 Théorème 1(p. 83、岩澤による)であり、Gre01 p. 342 も同じ結論を述べている。

非正則素数 $37$

$p=37$ は $\mathbb{Q}(\zeta_{37})$ の類数を割る(非正則素数)。この場合、上と同じ円分 $\mathbb{Z}_{37}$ 拡大について $\mu=0$、$\lambda=1$ であることを岩澤が示した。$p=59,67$ でも同じである(Gre01 p. 346)。したがって十分大きな $n$ で $e_n=n+\nu$ となり、$\mathbb{Q}(\zeta_{37^{n+1}})$ の類数を割る $37$ の冪は $n$ とともに限りなく大きくなる。

反例

ここでは、thm-iwasawa-p-not-dividing の 2 つの仮定と、成長公式の前提($X$ が捩れ加群であること)が、どれも外せないことを確かめる。

外す条件反例成り立たなくなること
(i) $p$ が類数を割らない$K=\mathbb{Q}(\zeta_{37})$、$p=37$ の円分 $\mathbb{Z}_{37}$ 拡大すべての層で類数が $p$ で割り切れない($\lambda=1$)
(ii) $p$ の上の素点が 1 つ$K=\mathbb{Q}(i)$、$p=5$ の円分 $\mathbb{Z}_5$ 拡大すべての層で類数が $p$ で割り切れない($\lambda\ge1$)
$X$ が捩れ $\Lambda$ 加群$X=\Lambda$$X/\omega_nX$ が有限群になること

1 行目は ex-iwasawa-37 である。$\mathbb{Q}(\zeta_{37})$ は (ii) を満たす(ex-iwasawa-regular と同じ理由)ので、(i) だけを外した反例になっている。

反例:$p$ の上の素点が 2 つある場合

$K=\mathbb{Q}(i)$、$p=5$ とする。$K$ の類数は $1$ なので (i) は満たすが、$5=(2+i)(2-i)$ と分解するので (ii) を満たさない。$K$ の円分 $\mathbb{Z}_5$ 拡大 $K_\infty=K\mathbb{Q}_\infty$ で、層の類数を割る $5$ の冪は限りなく大きくなる(鍵になる不等式 $\lambda\ge1$ は Gre01 Proposition 2.2 による。この記事では証明しない)。

理由を開く

$\mathfrak{p}$ を $5$ の上の $K$ の素点とし、$\mathfrak{P}$ を $K_n$ の $\mathfrak{p}$ の上の素点とする。$\mathfrak{p}$ の $5$ 上の分岐指数は $1$ なので $e(\mathfrak{P}/\mathfrak{p})=e(\mathfrak{P}/5)$ であり、これは $\mathfrak{P}\cap\mathbb{Q}_n$ の $5$ 上の分岐指数 $5^n$(ex-iwasawa-q により完全分岐)以上である。よって $5$ の上の 2 つの素点はどちらも $K_\infty/K$ で分岐する。$5$ は $K$ で完全分解しているので、Gre01 Proposition 2.2(p. 339。$p$ が $F/\mathbb{Q}$ で完全分解し、$p$ の上のすべての素点が $F_\infty/F$ で分岐するなら $\lambda\ge r_2$)により $\lambda\ge r_2=1$ である(この命題はこの記事では証明しない)。成長公式から $e_n\ge n+\nu$($n$ が大きいとき)となる。

反例:捩れでない $\Lambda$ 加群

$X=\Lambda$ は捩れ加群でない($\Lambda$ は整域)。$X/\omega_nX\cong\mathbb{Z}_p[\Gamma_n]$ は階数 $p^n$ の自由 $\mathbb{Z}_p$ 加群で、有限群ではない。したがって「$|X/\omega_nX|=p^{e_n}$」の形の成長公式は意味をもたない。岩澤加群が捩れ加群であること(Ser60 Théorème 5)は、各 $A_n$ が有限であることから導かれる。Ser60 Théorème 8 の証明(p. 92)もこの場合を最初に除外している。

主予想と $p$ 進 $L$ 関数

岩澤理論のもう 1 つの柱は、岩澤加群の特性多項式が解析的な対象と一致するという主予想である。$p$ を奇素数とし、$F=\mathbb{Q}(\zeta_p)$、$F_\infty=\mathbb{Q}(\mu_{p^\infty})$ とする。$\Delta:=\operatorname{Gal}(F/\mathbb{Q})\cong(\mathbb{Z}/p\mathbb{Z})^\times$ は $X$ に作用し、Teichmüller 指標 $\omega\colon\Delta\to\mathbb{Z}_p^\times$($\mu_p$ への作用を与える指標)の冪ごとに $X=\bigoplus_{k=0}^{p-2}X^{\omega^k}$ と分解する(Gre01 p. 344)。

久保田–Leopoldt の $p$ 進 $L$ 関数

偶数 $j$ に対し、連続関数 $L_p(s,\omega^j)\colon\mathbb{Z}_p\to\mathbb{Q}_p$($j\equiv0\pmod{p-1}$ のときは $s=1$ に極をもつ)で、$m\equiv j\pmod{p-1}$ を満たすすべての整数 $m\ge1$ について
$$ L_p(1-m,\omega^j)=(1-p^{m-1})\,\zeta(1-m) $$
を満たすものがただ 1 つある。ここで $\zeta$ は Riemann ゼータ関数で、$\zeta(1-m)=-B_m/m$($B_m$ は Bernoulli 数)である。

存在と一意性の所在

主張と所在は Gre01 p. 355 である(この記事では証明しない)。

岩澤は、$i+j\equiv1\pmod{p-1}$、$2\le j\le p-3$ のとき $L_p(s,\omega^j)=g_i(\kappa(\gamma_0)^s-1)$ となる冪級数 $g_i(T)\in\Lambda$ が存在することを示した(Gre01 Theorem 4.3, p. 355。$\kappa\colon\Gamma\to1+p\mathbb{Z}_p$ は $\mu_{p^\infty}$ への作用を与える同型、$\gamma_0$ は $\Gamma$ の位相的生成元)。

岩澤主予想(円分体の場合)

奇数 $i$、$3\le i\le p-2$ について、$X^{\omega^i}$ の特性多項式 $f_i(T)$ と上の $g_i(T)$ は $\Lambda$ の同じイデアルを生成する:$(f_i(T))=(g_i(T))$。

これは Gre01 Conjecture 4.4(p. 356)の形である($i$ の範囲は同 Proposition 4.2・Theorem 4.3 に合わせた)。岩澤は両辺の $\lambda$ 不変量・$\mu$ 不変量の $i$ についての和が等しいことを示しており(同 Proposition 4.2, p. 354)、したがって全ての $i$ で $g_i\mid f_i$ が言えれば等号が従う。この整除性を 1981 年に Mazur と Wiles が証明し、主予想は定理になった(Gre01 p. 355)。$\mu$ については、$F/\mathbb{Q}$ がアーベル拡大で $F_\infty/F$ が円分 $\mathbb{Z}_p$ 拡大なら $\mu=0$ であることを Ferrero と Washington が証明した(Gre01 Theorem 3.3, p. 349。一般の代数体の円分 $\mathbb{Z}_p$ 拡大で $\mu=0$ という岩澤の予想は同 Conjecture 3.2, p. 348)。総実代数体の円分 $\mathbb{Z}_p$ 拡大で $\lambda=\mu=0$ とする Greenberg の予想(同 Conjecture 3.4, p. 350)は未解決である。

関連項目

参考文献

[2]
Jean-Pierre Serre, Classes des corps cyclotomiques (d'après K. Iwasawa), Séminaire Bourbaki, 1960, Théorèmes 1, 2 (p. 83); no. 4 Exemple, Théorèmes 5, 6 (p. 88); no. 6 Lemme 3 (p. 89); Théorème 7 (p. 91); Théorème 8 (p. 92)

Mathpediaは寄付と、参考文献の書籍リンク(Amazonアソシエイト)の紹介料で運営されています。 支援について / 寄付する