零集合(位相)(zero set)とは、位相空間 $X$ 上の連続関数 $f$ に対する $Z(f)=f^{-1}(0)=\{x\in X\mid f(x)=0\}$ の形の部分集合のことである。測度が $0$ の集合を指す測度論の零集合とは別の概念である。零集合は閉集合であり、$Z(f)=\bigcap_{n\ge1}\{x\mid |f(x)|<1/n\}$ と書けるので $G_\delta$ 集合でもある。逆に閉集合は零集合とは限らず、可算無限集合に補有限位相を入れると、一点集合は閉集合かつ $G_\delta$ 集合でありながら零集合でない。$X$ のすべての閉集合が零集合ならば $X$ は完全正規である。
以下、位相空間 $X$ 上の連続関数とは、$X$ から実数直線 $\mathbb{R}$(通常の位相)への連続写像をいう。連続関数の和・差・積、絶対値 $|f|$、二つの連続関数の各点での最大値 $\max(f,g)$・最小値 $\min(f,g)$、および分母がどの点でも $0$ にならない商は、ふたたび連続関数である(実数の演算の連続性から従う基本事項として用いる)。
位相空間 $X$ 上の連続関数 $f$ に対し
$$Z(f):=f^{-1}(0)=\{x\in X\mid f(x)=0\}$$
とおく。$X$ の部分集合 $A$ が $X$ の零集合(zero set)であるとは、ある連続関数 $f$ が存在して $A=Z(f)$ となることをいう。$X$ の零集合の全体を $\mathcal{Z}(X)$ と書く。
定数関数を取れば、任意の位相空間で $\emptyset=Z(1)$ と $X=Z(0)$ はつねに零集合である。また、値域が $[0,1]$ に含まれる連続関数だけを使っても得られる零集合の全体は変わらない(prop-zero-set-preimage)。
測度論では、測度空間(測度) $(X,\mathfrak{M},\mu)$ の可測集合 $N$ で $\mu(N)=0$ を満たすものを零集合(null set)という。言葉は同じだが、本記事の零集合は位相と連続関数だけで定まる概念であって、測度を用いない。両者の間に一般の包含関係はない。Lebesgue測度を入れた $\mathbb{R}$ で見ると、$\mathbb{Q}$ は可算集合なので測度が $0$ であるが、$\mathbb{Q}$ は閉集合でないので本記事の意味の零集合ではない(prop-zero-set-closed-gdelta)。逆に $f(x)=\max(0,-x)+\max(0,x-1)$ は連続で $Z(f)=[0,1]$ だから $[0,1]$ は本記事の意味の零集合であるが、その Lebesgue 測度は $1$ である。
零集合(zero set)は「連続関数が $0$ になる場所」である。閉集合は開集合の補集合として位相の言葉だけで与えられるが、そのうち一本の実数値連続関数で切り出せるものが零集合である。関数が使えるぶん扱いやすく、$0$ への近さを $1/n$ で測れるのでGδ集合であることが自動的に従う。逆に連続関数が乏しい空間では零集合は閉集合よりずっと少なくなるので、どれだけ多くの閉集合が零集合になるかは、その空間の分離の強さを測る目安になる。
$X=\mathbb{R}$(通常の位相)とする。$Z(\sin)=\{n\pi\mid n\in\mathbb{Z}\}$ であり、$g(x)=x^2-1$ に対し $Z(g)=\{-1,1\}$、$f(x)=\max(0,-x)+\max(0,x-1)$ に対し $Z(f)=[0,1]$ である。より一般に、$\mathbb{R}$ の空でない任意の閉集合 $F$ は、$F$ への距離関数 $d_F(t)=\inf\{|t-s|\mid s\in F\}$ の零集合である(prf-zero-set-preimage の (3) から (1) の議論で $h$ を恒等写像とすればよい)。$\emptyset$ は定数関数 $1$ の零集合である。したがって $\mathbb{R}$ では閉集合と零集合が一致する。
$X=\mathbb{N}$(ここでは $\mathbb{N}=\{0,1,2,\ldots\}$ とする)に、$\emptyset$ と、補集合が有限であるような部分集合の全体を開集合とする位相(補有限位相、cofinite topology)を入れる。これが位相であることは次による。$\emptyset$ と $X$ は定義から開集合である。開集合の族 $\{U_i\}_{i\in I}$($I=\emptyset$ の場合も含む)の合併については、族の元がすべて $\emptyset$ ならば合併も $\emptyset$ であって開集合であり、そうでなければ空でない元 $U_{i_0}$ を一つ取ると、合併の補集合 $\bigcap_{i\in I}(X\setminus U_i)$ は有限集合 $X\setminus U_{i_0}$ の部分集合なので有限であり、やはり合併は開集合である。二つの開集合の交叉は、いずれかが空なら $\emptyset$ であり、ともに空でなければ補集合が二つの有限集合の合併なので、やはり開集合である。閉集合はちょうど $X$ 自身と有限集合であり、とくに一点集合 $\{0\}$ は閉集合である。さらに
$$\{0\}=\bigcap_{n\ge1}(X\setminus\{n\})$$
であって各 $X\setminus\{n\}$ は開集合だから、$\{0\}$ は $G_\delta$ 集合でもある。
一方、この $X$ 上の連続関数はすべて定数である。実際 $f(a)\neq f(b)$ となる $a,b\in X$ があったとすると、$\mathbb{R}$ の相異なる二点は交わらない開集合で分離できるので、$f(a)\in V$、$f(b)\in W$、$V\cap W=\emptyset$ なる開集合 $V,W$ が取れ、$f^{-1}(V)$ と $f^{-1}(W)$ は交わらない空でない開集合になる。ところが補有限位相では、空でない開集合 $U_1,U_2$ が $U_1\cap U_2=\emptyset$ を満たすとすると $X=(X\setminus U_1)\cup(X\setminus U_2)$ は二つの有限集合の合併として有限になり、$X$ が無限集合であることに反する。よって $f$ は定数であり、$Z(f)$ は $\emptyset$ か $X$ のいずれかに限る。したがって $\{0\}$ は零集合ではない。
満たす性質 $P$ は「閉集合であり、かつ $G_\delta$ 集合である」、満たさない性質 $Q$ は「零集合である」であって、含意 $P\Rightarrow Q$ は一般の位相空間では成り立たない。破れる原因は分離の弱さである。この空間はT1空間である(一点集合は有限なので閉集合である)が、上で見たように空でない二つの開集合はつねに交わるので、Hausdorff空間でも正規空間でもない($\{0\}$ と $\{1\}$ は交わらない閉集合であるのに、開集合で分離できない)。$P\Rightarrow Q$ が成り立つ十分条件は $X$ が完全正規であることであり(prop-zero-set-perfectly-normal の逆向き。補足節を見よ)、距離空間もこれをみたす。なお台集合を任意の無限集合に取り替えても「閉集合だが零集合でない」ことは同じ議論で成り立つ。$\{0\}$ が $G_\delta$ 集合であることには、台集合が可算であることを使った。
位相空間 $X$ の零集合は閉集合である。さらに $X$ 上の連続関数 $f$ に対し
$$Z(f)=\bigcap_{n\ge1}\{x\in X\mid |f(x)|<1/n\}$$
が成り立ち、右辺の各項は開集合であるから、零集合は$G_\delta$ 集合($G_\delta$ set、可算個の開集合の共通部分として書ける集合)でもある。
一点集合 $\{0\}$ は $\mathbb{R}$ の閉集合であり $f$ は連続なので、$Z(f)=f^{-1}(\{0\})$ は閉集合である。
次に $U_n:=f^{-1}((-1/n,1/n))=\{x\in X\mid |f(x)|<1/n\}$ とおく。$(-1/n,1/n)$ は $\mathbb{R}$ の開集合で $f$ は連続だから $U_n$ は開集合である。$f(x)=0$ ならすべての $n\ge1$ について $|f(x)|=0<1/n$ なので $Z(f)\subset\bigcap_{n\ge1}U_n$ である。逆に $x\in\bigcap_{n\ge1}U_n$ とすると、すべての $n\ge1$ について $0\le|f(x)|<1/n$ である。ここで $|f(x)|>0$ と仮定すると、$\mathbb{R}$ の Archimedes 性より $1/n<|f(x)|$ となる $n\ge1$ が存在して矛盾する。よって $|f(x)|=0$、すなわち $f(x)=0$ であり、$\bigcap_{n\ge1}U_n\subset Z(f)$ である。$\square$
これは コゼロ集合 の記事の命題(コゼロ集合は開 $F_\sigma$ 集合である)の補集合版である。
位相空間 $X$ の部分集合 $A$ について、次の三条件は同値である。
$X$ を位相空間、$f$、$g$ を $X$ 上の連続関数とする。このとき
$$Z(f)\cup Z(g)=Z(fg),\qquad Z(f)\cap Z(g)=Z(|f|+|g|)$$
が成り立つ。とくに、二つの零集合の合併と共通部分はふたたび零集合であり、有限個についても同様である。
$fg$ と $|f|+|g|$ はいずれも連続関数である。$\mathbb{R}$ には零因子がないので、$f(x)g(x)=0$ であることと「$f(x)=0$ または $g(x)=0$」であることとは同値である。よって $Z(fg)=Z(f)\cup Z(g)$ である。また $|f(x)|\ge0$ かつ $|g(x)|\ge0$ なので、$|f(x)|+|g(x)|=0$ であることと「$f(x)=0$ かつ $g(x)=0$」であることとは同値である。よって $Z(|f|+|g|)=Z(f)\cap Z(g)$ である。有限個の場合は、この二つの等式を繰り返し用いればよい。$\square$
これは コゼロ集合 の記事の命題(コゼロ集合は束をなす)の補集合版である。
位相空間 $X$ のすべての閉集合が零集合であるとする。このとき $X$ は正規(normal、交わらない二つの閉集合に対し、それぞれを含む交わらない二つの開集合が存在する)であり、かつ $X$ のすべての閉集合は $G_\delta$ 集合である。すなわち $X$ は完全正規空間(perfectly normal space、正規であって、すべての閉集合が $G_\delta$ 集合であるような空間。分離公理 $T_1$ は仮定しない)である。
$A$、$B$ を交わらない閉集合とする。仮定より $A=Z(f)$、$B=Z(g)$ となる連続関数 $f$、$g$ が取れる。$|f|+|g|$ は連続であり、どの点でも $0$ にならない。実際、$|f(x)|+|g(x)|=0$ となる点 $x$ があれば $f(x)=g(x)=0$、すなわち $x\in A\cap B=\emptyset$ となって矛盾する。そこで
$$h:=\frac{|f|}{|f|+|g|}$$
とおくと、$h$ は分母が消えない商なので連続で、$0\le h\le1$ である。$A$ 上では $f=0$ なので $h=0$ であり、$B$ 上では $g=0$ なので分母は $|f|$ に等しく、それは $0$ でないから $h=1$ である。$U:=h^{-1}((-\infty,1/2))$、$V:=h^{-1}((1/2,\infty))$ とおくと、$U$ と $V$ は開集合で、$A\subset U$、$B\subset V$、$U\cap V=\emptyset$ である。よって $X$ は正規である。
$X$ のすべての閉集合が $G_\delta$ 集合であることは、閉集合が零集合であるという仮定と prop-zero-set-closed-gdelta から従う。$\square$
定義から、$A$ が $X$ のコゼロ集合(cozero set、ある連続関数 $f$ について $A=\{x\in X\mid f(x)\neq0\}$ と書ける集合)であることと、補集合 $X\setminus A$ が零集合であることとは同値である。この対応のもとでの双対的な性質は コゼロ集合 が扱う。次の三つは同記事が命題として述べているので、本記事では再掲せず、証明も持たない。
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