連結空間 (connected space) とは、位相空間論において「空間が二つの交わらない空でない開集合に分割できない」という性質を持つ空間を指す。これは直感的には空間が「ひと塊」であることを定式化したものであるが、道で結べることを意味する「弧状連結性」とは異なる概念であり、より弱い条件である。解析学における中間値の定理の一般化や、空間の大域的な構造を理解する上で基礎となる重要な概念である。
位相空間 $X$ では、指定された開集合の族を使って連結性を定義する。閉集合とは、その $X$ における補集合が開集合である部分集合である。
連結性の定義は、逆説的ではあるが「分割できるか否か(非連結性)」を通して定義されるのが一般的である。
位相空間 $X$ が非連結(disconnected)であるとは、以下の条件を満たす $X$ の開集合 $A, B$ が存在することをいう。
この定義では空集合と一点空間も連結である。本記事はこの流儀を採用する。連結空間に非空条件を課す文献もあり、たとえば Stacks26 定義5.7.1は空空間を除くので、引用時にはこの差を区別する。
定義をより直接的な表現に書き換えると以下のようになる。
連結性の概念を直感的に理解するために、最も基本的な空間である実数直線 $\mathbb{R}$ を考える。
$\mathbb{R}$ の部分集合において、連結性は「区間」という概念と完全に一致する。
$\mathbb{R}$ の部分集合 $A$ が連結であるための必要十分条件は、$A$ が区間であることである。
ここで区間とは、$a,b\in A$ と $a< t< b$ から $t\in A$ が従う部分集合、すなわち順序凸な部分集合をいう。一点集合と空集合もこの条件を満たす。
この事実は、解析学における中間値の定理の幾何学的な本質を表している。
「連結な空間 $X$ から $\mathbb{R}$ への連続写像による像 $f(X)$ は連結である(=区間である)」という事実は、中間値の定理を一般化した形である。
初学者が陥りやすい誤解として、「連結性」と「弧状連結性(道で結べること)」の混同がある。
一般に以下の包含関係が成り立つ。
$$\text{弧状連結} \implies \text{連結}$$
しかし、逆は必ずしも成立しない。ここが位相幾何学における微細かつ重要なポイントである。
| 概念 | 何を要求するか | 関係 |
|---|---|---|
| 連結 | 非空な二つの開集合に分離できない | 弧状連結より弱い条件 |
| 弧状連結 | 任意の二点を連続な道で結べる | 連結性を導くが、逆は一般に成立しない |
「つながっている(分離できない)」が「道を通って移動できる」ことを保証しない代表的な例として、位相幾何学者の正弦曲線 (Topologist's sine curve) が挙げられる。
これは平面 $\mathbb{R}^2$ 上の部分集合で、以下の和集合で定義される。
$$S = \left\{ \left( x, \sin \frac{1}{x} \right) \;\middle|\; 0 < x \le 1 \right\} \cup \{ (0, y) \mid -1 \le y \le 1 \}$$
この空間は連結であるが、$x>0$ の部分(グラフ)と $y$ 軸上の区間を連続的な道で結ぶことはできないため、弧状連結ではない。
連結性は、離散空間への連続写像を用いても簡潔に定義できる。これは証明において非常に有用な特徴づけである。
位相空間 $X$ が連結であるための必要十分条件は、任意の連続写像 $f\colon X\to\{0,1\}$ の像が高々一点になることである。$X\ne\emptyset$ の場合は、$f$ が定値写像になると言い換えられる。
ここで $\{0,1\}$ には、すべての部分集合を開集合とする離散位相を入れる。
$f$ の像が二点を含めば、$f^{-1}(\{0\})$ と $f^{-1}(\{1\})$ は交わらない非空の開集合で、その和は $X$ になる。したがって $X$ が連結なら像は高々一点である。
逆に、$X=A\cup B$ が非空の互いに交わらない開集合への分割なら、$A$ 上で $0$、$B$ 上で $1$ を取る写像を作る。この写像の各部分集合の逆像は $\emptyset,A,B,X$ のいずれかで開集合だから連続であり、像は二点になる。これが逆向きの対偶である。
位相空間の操作において、連結性がどのように振る舞うか(保存されるか)を理解することは重要である。
以下はこの節の結論の一覧である。条件と合わせて読み、理由や具体例は続く各項目を参照する。
| 操作 | 条件 | 結論 |
|---|---|---|
| 写像による像 | 定義域が連結で、写像が連続 | 像も連結 |
| 部分空間を取る | 元の空間が連結 | 連結とは限らない |
| 共通部分を取る | 各集合が連結 | 連結とは限らない |
| 和集合を取る | 各集合が連結で、全体の共通部分が非空 | 和集合も連結 |
| 直積を取る | 各因子が連結で、積位相を使う | 無限直積も連結 |
連結性は連続写像によって保存される「位相的性質」の代表格である。
$X$ を連結空間、$f: X \to Y$ を連続写像とすると、像 $f(X)$ も($Y$ の部分空間として)連結である。
$f(X)$ が互いに交わらない非空の相対開集合 $U,V$ に分かれると仮定する。連続性から $f^{-1}(U),f^{-1}(V)$ は開集合であり、$U,V$ が像の部分集合であることから両逆像とも非空である。これらは $X$ の非連結な分割を与えて矛盾する。$X=\emptyset$ の場合も、像は空集合なので本記事の流儀で連結である。
非連結性を示すには、$X$ から少なくとも二点を持つ離散空間への全射連続写像を構成すればよい。離散空間の一点とその補集合の逆像が、$X$ の非空な開分割になる。一点空間への写像ではこの判定はできない。たとえば一点空間から自身への恒等写像は全射連続だが、その空間は連結である。
連結空間の族 $\{X_\lambda\}_{\lambda \in \Lambda}$ に対し、その直積空間 $\prod_{\lambda \in \Lambda} X_\lambda$ は連結である。
この定理は無限個の直積にも積位相(Tychonoff位相)を入れて適用できる。例えばHilbert立方体 $[0,1]^{\mathbb N}$ は、各因子が区間なので連結である。
二点空間への写像による判定は
「連続写像による判定」
、連続像の定理は
「連結性の保存」
を参照。
非連結な空間であっても、その空間は「極大な連結部分集合」の集まりに分解できる。
素数 $p$ に対し、非零有理数 $a$ の分子・分母に現れる $p$ の指数の差を $v_p(a)$ とし、$|a|_p=p^{-v_p(a)}$、$|0|_p=0$ と置く。この絶対値は $|a+b|_p\leq\max(|a|_p,|b|_p)$ を満たす。$p$ 進数体 $\mathbb Q_p$ は、距離 $d_p(a,b)=|a-b|_p$ に関する有理Cauchy列を、その差が $0$ に収束する列同士で同一視して作る完備な体である。絶対値は $|[(a_n)]|_p=\lim_n|a_n|_p$ と延長でき、強三角不等式も保たれる。定義と構成について MathlibPadicNorm、MathlibPadicNumbers を参照。
距離 $d$ が $d(x,z)\leq\max(d(x,y),d(y,z))$ を満たすとき、これを超距離という。超距離空間では各開球 $B(x,r)=\{w:d(x,w)< r\}$($r>0$)は閉集合でもあり、その空間は完全不連結である。
$z\notin B(x,r)$ なら $B(z,r)$ は $B(x,r)$ と交わらない。共通点 $w$ があれば $d(x,z)\leq\max(d(x,w),d(w,z))< r$ となって矛盾するからである。従って $B(x,r)$ の補集合は開集合であり、球は開閉集合である。
異なる二点 $x,y$ には $r=d(x,y)$ と取ると、この開閉球は $x$ を含み $y$ を含まない。二点を含む部分集合は球との交わりとその補集合に非空な相対開分割を持つので、連結ではない。よって連結成分は一点に限られる。
$\mathbb Q_p$ にもこの命題を適用できるが、$p^n\ne0$ なのに $d_p(p^n,0)=p^{-n}\to0$ である。したがって $\{0\}$ は開集合ではなく、$\mathbb Q_p$ は離散空間ではない。完全不連結は、各点が孤立しているという意味ではない。 また、Cauchy列の収束を保証する「完備」と、空間の分離に関する「完全不連結」は別の性質である。
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