Artin導手

同義語:アルティン導手Artin conductorArtin指標(分岐)導手判別式公式conductor-discriminant formulaHilbertの差積公式

概要

Artin導手(Artin conductor)とは、局所体の有限次 Galois 拡大 $L/K$ の Galois 群 $G$ の表現 $V$(指標 $\chi$)について、分岐群 $G_i$ の不変部分空間の余次元を重み $\lvert G_i\rvert/\lvert G_0\rvert$ で足した数 $f(\chi)$ のことであり、イデアル $\mathfrak{p}_K^{f(\chi)}$ を $\chi$ の導手という。Artin 指標 $a_G$ との内積 $(\chi,a_G)$ に等しく、常に $0$ 以上の整数である。1 次元の指標では $f(\chi)=\varphi_{L/K}(c_\chi)+1$ で、整数性は Hasse–Arf の定理による。判別式の指数は既約指標の導手を次数で重み付けた和に等しい(導手判別式公式)。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: Herbrand関数と上付き番号, Hasse–Arfの定理, 群の表現, 差積と分岐

Artin導手(Artin conductor)とは、局所体の有限次 Galois 拡大 $L/K$ の Galois 群 $G$ の複素表現 $V$(指標 $\chi$)について、分岐群 $G_i$ の不変部分空間の余次元を重み付きで足した数
$$ f(\chi)=\sum_{i\ge0}\frac{\lvert G_i\rvert}{\lvert G_0\rvert}\bigl(\dim V-\dim V^{G_i}\bigr) $$
のことである。イデアル $\mathfrak{p}_K^{f(\chi)}$ を $\chi$ の導手という。$f(\chi)$ は表現 $V$ がどれだけ分岐しているかを測る量で、$V$ に惰性群 $G_0$ が自明に作用する(不分岐な)ときに $0$、$G_0$ は非自明だが $G_1$ が自明に作用する(順分岐な)ときに $\dim V-\dim V^{G_0}$ となり、野性分岐があるとそれより大きくなる。
定義の式からは $f(\chi)$ は有理数にしか見えないが、実際には常に $0$ 以上の整数である(Artin の定理)。1 次元の指標ではこれが Hasse–Arfの定理 の言い換えになり、導手の指数は局所類体論の導手と一致する。さらに、$L/K$ の判別式の指数は、既約指標の Artin 導手を次数を重みにして足したものに等しい(導手判別式公式)。
この記事では、(1) Artin 指標 $a_G$ との内積による表示 $f(\chi)=(\chi,a_G)$、(2) 差積の指数を分岐群で表す Hilbert の公式、(3) 導手判別式公式、(4) 商の Galois 群の指標で導手が変わらないこと、(5) 1 次元の指標について $f(\chi)=\varphi_{L/K}(c_\chi)+1$ とその整数性、を完全に証明する。一般の指標の整数性は Brauer の誘導定理と誘導の公式を引用して導く(Brauer の誘導定理はこの記事では証明しない)。

定義

この記事では $K$ を 局所体、$L/K$ を有限次 Galois 拡大、$G:=\operatorname{Gal}(L/K)$ とし、$f_{L/K}$ を剰余次数、$e_{L/K}$ を分岐指数とする。$G_u$ は下付き番号の分岐群、$i_G$ は $i$ 関数、$\varphi_{L/K}$ は Herbrand 関数で、いずれも Herbrand関数と上付き番号 の定義による。$g_i:=\lvert G_i\rvert$ とおく($g_0=e_{L/K}$)。$s\ne1$ について $s\in G_i\iff i_G(s)\ge i+1$ なので、$i_G(s)$ は $s\in G_i$ となる整数 $i\ge0$ の個数に等しい。
$G$ 上の類関数 $\alpha,\beta$(共役で値が変わらない複素数値関数)の内積を
$$ (\alpha,\beta):=\frac{1}{\lvert G\rvert}\sum_{s\in G}\alpha(s)\overline{\beta(s)} $$
とし、部分群 $H$ について $\alpha(H):=\frac{1}{\lvert H\rvert}\sum_{s\in H}\alpha(s)$ とおく。

Artin導手

$G$ の有限次元複素表現 $V$ の指標 $\chi$ について
$$ f(\chi):=\sum_{i\ge0}\frac{g_i}{g_0}\bigl(\chi(1)-\chi(G_i)\bigr) $$
を $\chi$ の Artin 導手(の指数)といい、$\mathcal{O}_K$ のイデアル $\mathfrak{f}(\chi):=\mathfrak{p}_K^{f(\chi)}$ を $\chi$ の導手という。十分大きい $i$ で $G_i=1$ なので和は有限和である。

Artin指標

$G$ 上の関数 $a_G$ を
$$ a_G(s):=-f_{L/K}\,i_G(s)\quad(s\ne1),\qquad a_G(1):=f_{L/K}\sum_{s\ne1}i_G(s) $$
で定め、Artin 指標という。

$i_G$ は共役で変わらず、$i_G(s^{-1})=i_G(s)$ なので、$a_G$ は実数値の類関数で $a_G(s^{-1})=a_G(s)$ を満たす。定義から $\sum_{s\in G}a_G(s)=0$ である。$s\notin G_0$ なら $i_G(s)=0$ なので $a_G(s)=0$ である。

不変部分空間の次元

$V$ を $G$ の表現、$\chi$ をその指標、$H$ を部分群とすると $\dim V^H=\chi(H)$ である。

$P:=\frac{1}{\lvert H\rvert}\sum_{h\in H}h$ とおく($V$ の自己準同型)。

詳しい証明を開く

$h'\in H$ について $h'P=P$ なので $P$ の像は $V^H$ に含まれ、$v\in V^H$ なら $Pv=v$ である。よって $P^2=P$ で、$P$ は $V^H$ への射影である。射影の跡は像の次元に等しいので、$\dim V^H=\operatorname{tr}P=\frac{1}{\lvert H\rvert}\sum_{h\in H}\chi(h)=\chi(H)$ である。$\square$

したがって $f(\chi)=\sum_{i\ge0}\frac{g_i}{g_0}\operatorname{codim}V^{G_i}$ であり、各項は $0$ 以上なので $f(\chi)\ge0$、$f(\chi)\in\frac{1}{g_0}\mathbb{Z}$ である。$f(\chi)=0$ であることは $G_0$ が $V$ に自明に作用することと同値である($i=0$ の項が $\operatorname{codim}V^{G_0}$ で、$G_i\subset G_0$ なので $V^{G_0}=V$ なら全部の項が $0$)。

Artin指標による表示

内積による表示

$G$ の指標 $\chi$ について $f(\chi)=(\chi,a_G)$ である。

$a_G$ は実数値で、$\lvert G\rvert=e_{L/K}f_{L/K}=g_0f_{L/K}$ なので
$$ (\chi,a_G)=\frac{1}{g_0f_{L/K}}\Bigl(\chi(1)a_G(1)+\sum_{s\ne1}\chi(s)a_G(s)\Bigr)=\frac{1}{g_0}\sum_{s\ne1}i_G(s)\bigl(\chi(1)-\chi(s)\bigr) $$
である。$s\ne1$ について $i_G(s)$ は $s\in G_i$ となる $i\ge0$ の個数なので、和の順序を入れ替えると
$$ (\chi,a_G)=\frac{1}{g_0}\sum_{i\ge0}\sum_{s\in G_i,\ s\ne1}\bigl(\chi(1)-\chi(s)\bigr)=\frac{1}{g_0}\sum_{i\ge0}\sum_{s\in G_i}\bigl(\chi(1)-\chi(s)\bigr)=\sum_{i\ge0}\frac{g_i}{g_0}\bigl(\chi(1)-\chi(G_i)\bigr) $$
である($s=1$ の項は $0$)。これは $f(\chi)$ である。$\square$

この式により $f$ は類関数全体に線形に延び、$f(\chi+\chi')=f(\chi)+f(\chi')$ である。Ser79 Chapter VI, §2 は逆に $f(\chi):=(\chi,a_G)$ を定義とし、Corollary 1 と Corollary 1′(pp. 100–101)で def-art-conductor の式を導いている。CF67 Chapter VI(Serre), §4.3(p. 158)は def-art-conductor を定義とし、Proposition 3 で内積の式を述べている。

差積と導手判別式公式

$\mathfrak{D}_{L/K}$ を差積、$\mathfrak{d}_{L/K}$ を判別式($\mathcal{O}_L$ の $\mathcal{O}_K$ 上の基底の判別式が生成する $\mathcal{O}_K$ のイデアル)とする。$\mathfrak{d}_{L/K}=N_{L/K}(\mathfrak{D}_{L/K})$ であり(Ser79 Chapter III, §3, Proposition 6, p. 50)、$N_{L/K}(\mathfrak{p}_L)=\mathfrak{p}_K^{f_{L/K}}$ なので $v_K(\mathfrak{d}_{L/K})=f_{L/K}\,v_L(\mathfrak{D}_{L/K})$ である。

Hilbertの差積公式

$$ v_L(\mathfrak{D}_{L/K})=\sum_{s\ne1}i_G(s)=\sum_{i\ge0}(g_i-1) $$
である。したがって $a_G(1)=v_K(\mathfrak{d}_{L/K})$ である。

$\mathcal{O}_L=\mathcal{O}_K[x]$ となる $x$ をとり(Herbrand関数と上付き番号 の補題「1つの生成元による判定」)、$h$ を $x$ の $K$ 上の最小多項式とする。差積と分岐 の記事の定理「単項生成の場合の差積」により $\mathfrak{D}_{L/K}=h'(x)\mathcal{O}_L$ である。$h(X)=\prod_{s\in G}(X-s(x))$ なので $h'(x)=\prod_{s\ne1}(x-s(x))$ であり、
$$ v_L(\mathfrak{D}_{L/K})=\sum_{s\ne1}v_L(s(x)-x)=\sum_{s\ne1}i_G(s) $$
である。$i_G(s)$ は $s\in G_i$ となる $i\ge0$ の個数なので、和の順序を入れ替えて $\sum_{s\ne1}i_G(s)=\sum_{i\ge0}\#(G_i\setminus\{1\})=\sum_{i\ge0}(g_i-1)$ である。最後に $a_G(1)=f_{L/K}v_L(\mathfrak{D}_{L/K})=v_K(\mathfrak{d}_{L/K})$ である。$\square$

$G_1=1$(順分岐)なら $v_L(\mathfrak{D}_{L/K})=e_{L/K}-1$ で、$G_1\ne1$ なら $e_{L/K}$ 以上になる。これは 差積と分岐 の記事の定理「局所体の差積の指数」と合う。公式は Ser79 Chapter IV, §1, Proposition 4(p. 64)と CF67 Chapter I(Fröhlich), §9, Proposition 4(p. 36)にある。

導手判別式公式

$\chi$ が $G$ の既約指標全体を動くとき
$$ v_K(\mathfrak{d}_{L/K})=\sum_{\chi}\chi(1)\,f(\chi) $$
である。とくに $G$ がアーベル群なら $v_K(\mathfrak{d}_{L/K})=\sum_\chi f(\chi)$ である。

正則表現の指標 $r_G$($r_G(1)=\lvert G\rvert$、$s\ne1$ で $r_G(s)=0$)は $r_G=\sum_\chi\chi(1)\chi$ と既約指標に分解する。実際、既約指標は類関数全体の正規直交基底をなす(EGH11 Theorem 3.5, p. 34 と Theorem 3.8, p. 37)ので $r_G=\sum_\chi(r_G,\chi)\chi$ であり、$(r_G,\chi)=\frac{1}{\lvert G\rvert}r_G(1)\overline{\chi(1)}=\chi(1)$ である。thm-art-inner-product と $f$ の線形性により
$$ \sum_\chi\chi(1)f(\chi)=f(r_G)=(r_G,a_G)=\frac{1}{\lvert G\rvert}\,r_G(1)\,a_G(1)=a_G(1) $$
であり、thm-art-hilbert により $a_G(1)=v_K(\mathfrak{d}_{L/K})$ である。$G$ がアーベル群なら既約指標はすべて 1 次元である(群の表現 の系「可換群の既約表現は 1 次元」)。$\square$

この公式は Ser79 Chapter VI, §3, Corollary 2(p. 104、数体の大域的な形)と CF67 Chapter VI(Serre), §4.4(pp. 159–160)にあり、Artin と Hasse の「Führerdiskriminantenproduktformel」と呼ばれる。局所体の形は、各素点での等式を掛け合わせる前の段階にあたる。

商と1次元の指標

$H$ を $G$ の正規部分群、$K':=L^H$ とする。$G/H=\operatorname{Gal}(K'/K)$ の指標 $\chi$ は、射影 $G\to G/H$ と合成して $G$ の指標 $\chi'$ とみなせる。

商での導手

$f(\chi)$ を $K'/K$ について、$f(\chi')$ を $L/K$ について計算すると $f(\chi)=f(\chi')$ である。

要点:$a_G$ を $H$ の剰余類ごとに平均すると $a_{G/H}$ になる。これは Herbrand関数と上付き番号 の命題「商のi関数」の言い換えである。

詳しい証明を開く

$\sigma\in G/H$ について $a^\natural(\sigma):=\frac{1}{\lvert H\rvert}\sum_{s\mapsto\sigma}a_G(s)$ とおく。$\sigma\ne1$ なら $\sigma$ に移る $s$ はすべて $1$ でないので、商の $i$ 関数の公式 $\sum_{s\mapsto\sigma}i_G(s)=e_{L/K'}\,i_{G/H}(\sigma)$ により

$a^\natural(\sigma)=-\dfrac{f_{L/K}\,e_{L/K'}}{\lvert H\rvert}\,i_{G/H}(\sigma)=-f_{K'/K}\,i_{G/H}(\sigma)=a_{G/H}(\sigma)$

である($\lvert H\rvert=e_{L/K'}f_{L/K'}$、$f_{L/K}=f_{L/K'}f_{K'/K}$)。$a^\natural$ も $a_{G/H}$ も総和が $0$ なので $\sigma=1$ での値も一致し、$a^\natural=a_{G/H}$ である。よって

$f(\chi')=\dfrac{1}{\lvert G\rvert}\sum_{s\in G}\chi(\bar s)a_G(s)=\dfrac{1}{\lvert G/H\rvert}\sum_{\sigma\in G/H}\chi(\sigma)a^\natural(\sigma)=(\chi,a_{G/H})=f(\chi)$

である($\bar s$ は $s$ の像)。$\square$

1 次元の指標 $\chi$ について、$\chi$ が $G_{c}$ 上で自明でない最大の整数 $c$ を $c_\chi$ とおく($\chi$ が $G_0$ 上で自明なら $c_\chi:=-1$)。

1次元の指標の導手

$\chi$ を $G$ の 1 次元の指標とすると
$$ f(\chi)=\varphi_{L/K}(c_\chi)+1 $$
であり、これは $0$ 以上の整数である。

1 次元の指標 $\chi$ は準同型なので、部分群 $G_i$ 上で自明なら $\chi(G_i)=1$、自明でなければ $\chi(G_i)=0$ である(自明でない準同型の値の和は $0$)。$i\le c_\chi$ なら $G_i\supset G_{c_\chi}$ 上で $\chi$ は自明でなく、$i>c_\chi$ なら自明なので
$$ f(\chi)=\sum_{i=0}^{c_\chi}\frac{g_i}{g_0}=\varphi_{L/K}(c_\chi)+1 $$
である($c_\chi\ge0$ のとき Herbrand関数と上付き番号 の定義「Herbrand関数」の式による。$c_\chi=-1$ なら両辺とも $0$)。
整数であることを示す。$H:=\ker\chi$、$K':=L^H$ とすると $G/H$ は巡回群で、$\chi$ は $G/H$ の単射な指標 $\bar\chi$ から来る。prop-art-quotient と前段を $K'/K$ に使うと $f(\chi)=f(\bar\chi)=\varphi_{K'/K}(c')+1$ で、$c'$ は $\bar\chi$ が $(G/H)_{c'}$ 上で自明でない最大の整数である。$\bar\chi$ は単射なので、$(G/H)_{c'}\ne1$、$(G/H)_{c'+1}=1$ である。$c'\ge0$ なら $c'$ は下付き番号の飛びで、$G/H$ はアーベル群なので Hasse–Arfの定理(局所体では同記事の定理「局所体でのHasse–Arfの定理」)により $\varphi_{K'/K}(c')$ は整数である。$\square$

Herbrand関数と上付き番号 の定理「Herbrandの定理」を使うと、$c'=\varphi_{L/K'}(c_\chi)$ であり、推移律から前段の 2 つの式が一致することも確かめられる(Ser79 Chapter VI, §2, Proposition 5 と Corollary, p. 102)。上付き番号で言えば、$f(\chi)$ は $\chi$ が $G^v$ 上で自明でない最大の $v$ に $1$ を足したものである。局所類体論では、1 次元の指標 $\chi$ の核の固定体 $L_\chi$ について、$f(\chi)$ は $U_K^{(n)}\subset N_{L_\chi/K}(L_\chi^\times)$ となる最小の $n$($L_\chi/K$ の導手の指数)に等しい(CF67 Chapter VI(Serre), §4.2, Propositions 1–2, pp. 157–158)。大域体ではこれが 射類体と導手 の導手の局所成分にあたる。

Artinの定理

$G$ の任意の指標 $\chi$ について $f(\chi)$ は $0$ 以上の整数である。したがって $a_G$ は $G$ のある表現の指標である。

Artinの定理の導き方

次の 2 つを引用して導く(どちらもこの記事では証明しない)。以下は完全な証明ではなく、引用による導き方である。

  • Brauerの誘導定理:$G$ の指標は、部分群 $H_j$ の 1 次元の指標 $\psi_j$ から誘導した指標 $\psi_j^*$ の整数係数の 1 次結合 $\chi=\sum_jn_j\psi_j^*$ で書ける。主張は Ser79 Chapter VI, §1(p. 99)と Neu99 Chapter VII, Theorem (10.3)(p. 522)にある。
  • 誘導の公式:部分群 $H$ と $K':=L^H$、$H$ の指標 $\psi$ について $f(\psi^*)=v_K(\mathfrak{d}_{K'/K})\,\psi(1)+f_{K'/K}\,f(\psi)$(右辺の $f(\psi)$ は $L/K'$ について計算する。Ser79 Chapter VI, §2, Proposition 4 の Corollary, pp. 101–102)。
    $f$ は線形なので $f(\chi)=\sum_jn_j\bigl(v_K(\mathfrak{d}_{K_j'/K})\psi_j(1)+f_{K_j'/K}f(\psi_j)\bigr)$ で、thm-art-one-dim を $L/K_j'$ に使うと $f(\psi_j)$ は整数である。よって $f(\chi)$ は整数で、lem-art-invariants の後の注意により $0$ 以上である。既約指標は類関数全体の正規直交基底をなす(EGH11 Theorem 3.5, p. 34 と Theorem 3.8, p. 37)ので $a_G=\sum_\chi(a_G,\chi)\chi$ であり、$(a_G,\chi)=\overline{(\chi,a_G)}=f(\chi)$ から係数は $0$ 以上の整数である。

Brauer の誘導定理を使わずに言えるのは、1 次元の指標の整数性(thm-art-one-dim)と、lem-art-invariants の後の注意による $g_0f(\chi)\in\mathbb{Z}_{\ge0}$ までである。この定理は Artin による(Ser79 Chapter VI, §2, Theorem 1 と Theorem 1′(p. 99)、証明は p. 102、Neu99 Chapter VII, Theorem (11.4)(p. 531、同じ筋道)、CF67 Chapter VI(Serre), §4.3, Theorem 2, p. 159)。$a_G$ を指標にもつ表現を Artin 表現という。

例

円分拡大とDirichlet指標

$K=\mathbb{Q}_p$、$L=\mathbb{Q}_p(\zeta_{p^n})$、$G\cong(\mathbb{Z}/p^n\mathbb{Z})^\times$ とする。$G$ の 1 次元の指標 $\chi$ は法 $p^n$ の Dirichlet指標 とみなせる。$\chi$ の Dirichlet 指標としての導手が $p^m$($0\le m\le n$)なら、$f(\chi)=m$ である。導手判別式公式から
$$ v_p(\mathfrak{d}_{L/\mathbb{Q}_p})=\sum_{m=1}^{n}m\cdot N_m=p^{n-1}(pn-n-1) $$
である。ここで $N_m$ は導手がちょうど $p^m$ の指標の個数である。
たとえば $n=1$ では $p-2$ 個の自明でない指標がすべて $f=1$ で、$v_p(\mathfrak{d})=p-2$ となる。

計算を開く

Herbrand関数と上付き番号 の例「円分拡大」により $G_0=G$、$G_u=G(n)^k$($p^{k-1}\le u\le p^k-1$)で、$\varphi(p^k-1)=k$ である。導手が $p^m$($m\ge1$)とは、$\chi$ が $G(n)^m$ 上で自明で $G(n)^{m-1}$ 上で自明でないことである。よって $c_\chi=p^{m-1}-1$ で、thm-art-one-dim により $f(\chi)=\varphi(p^{m-1}-1)+1=m$ である。$m=0$ なら $\chi$ は自明で $f=0$ である。

$N_1=p-2$、$m\ge2$ では $N_m=\varphi(p^m)-\varphi(p^{m-1})=(p-1)^2p^{m-2}$($\varphi$ は Euler 関数)である。$\sum_{m=1}^nmN_m=p^{n-1}(pn-n-1)$ は $n$ についての帰納法で確かめられる($n=1$ で $p-2$、$n$ から $n+1$ で増える分は $(n+1)(p-1)^2p^{n-1}$ で、$p^n((n+1)p-n-2)-p^{n-1}(pn-n-1)$ に等しい)。Hilbert の差積公式からも $\sum_{i\ge0}(g_i-1)=(p-1)p^{n-1}-1+\sum_{j=1}^{n}(p^j-p^{j-1})(p^{n-j}-1)$ として同じ値が出る。

$S_3$ 拡大

$K=\mathbb{Q}_3$、$L=\mathbb{Q}_3(\zeta_3,\sqrt[3]{2})$、$G\cong S_3$ とする。Herbrand関数と上付き番号 の例「上付き番号の飛びが整数でない例」により $G_0=S_3$、$G_1=A_3$、$G_2=1$ で、$f_{L/K}=1$ である。既約指標は自明な指標 $1$、符号 $\varepsilon$、2 次元の既約表現の指標 $\rho$ で、
$$ f(1)=0,\qquad f(\varepsilon)=1,\qquad f(\rho)=2+\tfrac12\cdot2=3 $$
である。導手判別式公式は $v_3(\mathfrak{d}_{L/\mathbb{Q}_3})=0+1+2\cdot3=7$ を与え、Hilbert の差積公式 $v_L(\mathfrak{D}_{L/K})=(6-1)+(3-1)=7$ と一致する。
$\varepsilon$ は $A_3$ 上で自明なので $\operatorname{codim}V^{G_1}=0$、$\rho$ は $A_3$ に制限すると自明でない 2 つの 1 次元表現の和なので $V^{G_1}=0$ である。

判別式を別に計算して確かめる

$K':=\mathbb{Q}_3(\sqrt[3]{2})$ の整数環は $\mathbb{Z}_3[\alpha+1]$($\alpha=\sqrt[3]{2}$、Eisenstein 多項式 $y^3-3y^2+3y-3$ の根)なので、$v_3(\mathfrak{d}_{K'/\mathbb{Q}_3})=v_3(\operatorname{disc}(x^3-2))=v_3(-108)=3$ である。$L/K'$ は順分岐な 2 次拡大なので $v_L(\mathfrak{D}_{L/K'})=1$、$v_{K'}(\mathfrak{d}_{L/K'})=1$ である。判別式の推移律 $\mathfrak{d}_{L/\mathbb{Q}_3}=\mathfrak{d}_{K'/\mathbb{Q}_3}^{[L:K']}N_{K'/\mathbb{Q}_3}(\mathfrak{d}_{L/K'})$(Ser79 Chapter III, §4, Proposition 8, p. 51)から $v_3(\mathfrak{d}_{L/\mathbb{Q}_3})=2\cdot3+1=7$ である。

$\mathbb{Q}_2(i)/\mathbb{Q}_2$

$G=G_0=G_1$ は位数 $2$、$G_2=1$ である(Hasse–Arfの定理 の例「定理が当てはまる例」)。自明でない指標 $\chi$ について $f(\chi)=1+1=2$ で、$v_2(\mathfrak{d})=2$($\mathbb{Z}_2[i]$ の判別式は $-4$)と導手判別式公式が合う。これは法 $4$ の Dirichlet 指標の導手 $4=2^2$ に対応する。

反例

外す条件反例成り立たなくなること
$\chi$ が 1 次元ex-art-s3 の 2 次元の既約指標 $\rho$$f(\chi)=\varphi_{L/K}(c_\chi)+1$(左辺 $3$、右辺 $\tfrac32$)
順分岐($G_1=1$)ex-art-q2i の自明でない指標$f(\chi)\le\chi(1)$(左辺 $2$)
$H=G$(誘導しない)ex-art-s3 で $H=A_3$、$\psi=1_H$$f(\psi^*)=f(\psi)$(左辺 $1$、右辺 $0$)
反例の確認

1 行目:$\rho$ は $G_1=A_3$ 上で自明でなく $G_2=1$ なので $c_\rho=1$ で、$\varphi_{L/K}(1)+1=\frac12+1=\frac32$ だが $f(\rho)=3$ である。prf-art-one-dim で「$\chi(G_i)$ は $0$ か $1$」を使ったところが、$\rho(G_0)=\rho(G_1)=0$ でも $\rho(1)=2$ なので崩れる。なお既約指標 $\chi$(表現 $V$)について、$G_i$ が $V$ に自明でなく作用する最大の $i$ を $c_\chi$ とおく($G_0$ が自明に作用するなら $c_\chi:=-1$。1 次元なら thm-art-one-dim の前の定義と同じ)と、$f(\chi)=\chi(1)\bigl(1+\varphi_{L/K}(c_\chi)\bigr)$ である。実際、$G_i$ は $G$ の正規部分群なので $V^{G_i}$ は $G$ で安定であり、$V$ が既約なので $V^{G_i}$ は $0$ か $V$ である。よって $\operatorname{codim}V^{G_i}$ は $i\le c_\chi$ で $\chi(1)$、$i>c_\chi$ で $0$ で、$f(\chi)=\chi(1)\sum_{i=0}^{c_\chi}g_i/g_0$ となる(Ser79 Chapter VI, §2, Exercise 2, p. 103 はこれを演習としている)。$\rho$ では $c_\rho=1$ で $2\cdot\frac32=3$ である。
2 行目:順分岐なら $f(\chi)=\operatorname{codim}V^{G_0}\le\chi(1)$ である(和が $i=0$ の項だけになる)。$\mathbb{Q}_2(i)$ では $i=1$ の項 $1$ が加わり、$f(\chi)=2>1$ である。
3 行目:$\psi^*=1+\varepsilon$ なので $f(\psi^*)=0+1=1$ である。$L/K'$($K'=\mathbb{Q}_3(\zeta_3)$)で $\psi=1_H$ は自明な指標なので $f(\psi)=0$ である。誘導の公式では $v_3(\mathfrak{d}_{K'/\mathbb{Q}_3})\psi(1)=1$ が加わる。

補足

  • Swan 導手. $f(\chi)$ から順分岐の部分 $\chi(1)-\chi(G_0)$ を引いた $\operatorname{sw}(\chi):=\sum_{i\ge1}\frac{g_i}{g_0}\operatorname{codim}V^{G_i}$ を Swan導手 という。$G_1$ は $p$ 群なので野性分岐の部分だけを測る量で、$L/K$ が順分岐であることとすべての $\chi$ で $\operatorname{sw}(\chi)=0$ であることは同値である。
  • 大域的な導手. 数体の Galois 拡大 $L/K$ の指標 $\chi$ について、各素イデアル $\mathfrak{p}$ で分解群に制限した局所的な導手の指数 $f(\chi,\mathfrak{p})$ を使い $\mathfrak{f}(\chi):=\prod_{\mathfrak{p}}\mathfrak{p}^{f(\chi,\mathfrak{p})}$ とおく。不分岐な $\mathfrak{p}$ では $f(\chi,\mathfrak{p})=0$ なので有限積である。このとき $\mathfrak{d}_{L/K}=\prod_\chi\mathfrak{f}(\chi)^{\chi(1)}$ が成り立つ(Ser79 Chapter VI, §3, Proposition 6 と Corollaries 1–2, p. 104)。$\mathfrak{f}(\chi)$ のノルムと判別式から作る数は、Artin L 関数の関数等式に現れる(同 p. 105)。
  • Artin 表現の実現. $a_G$ は複素表現の指標だが、有理数体や $\mathbb{Q}_p$($p$ は剰余体の標数)の上で実現できない例がある(CF67 Chapter VI(Serre), §4.5, p. 160)。

関連項目

参考文献

[1]
Jean-Pierre Serre (translated by Marvin Jay Greenberg), Local Fields, Springer, Graduate Texts in Mathematics 67, 1979, Chapter III: §3, Proposition 6 (p. 50); §4, Proposition 8 (p. 51); Chapter IV, §1, Proposition 4 (p. 64); Chapter VI: §1 (pp. 97–99, Brauer's theorem p. 99); §2: Theorems 1 and 1′ (p. 99), Propositions 1–2 and Corollary 1 (p. 100), Corollaries 1′ and 2, Propositions 3–4 (p. 101), Corollary to Proposition 4, Proposition 5 and Corollary, proof of Theorems 1 and 1′ (p. 102), Exercise 2 (p. 103); §3: Proposition 6 and Corollaries 1–2 (p. 104), p. 105
[2]
J. W. S. Cassels, A. Fröhlich (eds.), Algebraic Number Theory, Academic Press, 1967, Chapter I(A. Fröhlich, Local Fields), §9, Proposition 4(p. 36);Chapter VI(J.-P. Serre, Local Class Field Theory), §4.2 Propositions 1–2(pp. 157–158)、§4.3 Propositions 3–4 と Theorem 2(pp. 158–159)、§4.4(pp. 159–160)、§4.5 Theorem 3(p. 160)
[4]
Jürgen Neukirch (translated by Norbert Schappacher), Algebraic Number Theory, Springer, Grundlehren der mathematischen Wissenschaften 322, 1999, Chapter VII: Theorem (10.3)(Brauer の定理の主張、p. 522)、§11(Artin 導手、pp. 530–533)

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