積分の漸化式(reduction formula)とは、自然数 $n$ を含む積分の列 $I_n$ で、$I_n$ を $I_{n-1}$ や $I_{n-2}$ で表す式である。立て方は主に 3 つあり、微分で次数が下がる因子を選んで部分積分する($n\ge1$ で $\int_0^1x^ne^xdx=e-n\int_0^1x^{n-1}e^xdx$)、$\tan^2x=\frac1{\cos^2x}-1$ などで $I_n+I_{n-2}$ を計算する、$I_n$ を $I_{n+1}$ で表してから解く、である。評価や極限にも使え、$\int_0^{\pi/4}\tan^nx\,dx$ の漸化式と単調性から $\frac\pi4=1-\frac13+\frac15-\cdots$ が従う。上の $x^ne^x$ の漸化式は数値計算の誤差を $n$ 倍するので逆向きに使う。
$\int_0^1x^3e^x\,dx$ なら部分積分を 3 回すれば求まる。では $\int_0^1x^{20}e^x\,dx$ はどうか。20 回の部分積分を書き下すのは現実的でない。こういうときは、自然数 $n$ を含む積分の列 $I_n$ を考え、$I_n$ を $I_{n-1}$ や $I_{n-2}$ で表す式(積分の漸化式)を作る。漸化式と最初の値 $I_0$ が分かれば、あとは数列の計算で $I_n$ がすべて決まる。
漸化式には、値を求める以外の使い道もある。$I_n$ の大きさを評価したり、$n\to\infty$ での振る舞いを調べたりできる。本記事では、漸化式の立て方を 3 つの型に分け、例ごとに、何に目をつけ、どう試し、どこで詰まり、どう直すかを見る。
以下では、閉区間上の連続関数は積分でき、積分は線形で、$f\le g$ なら $\int_a^bf\le\int_a^bg$(積分の単調性)であることを前提とし、微分積分学の基本定理を次の形で使う(Leb26 Theorem 5.3.1):$G$ が $[a,b]$ で微分可能で $G'$ が連続なら、$\int_a^bG'(x)\,dx=G(b)-G(a)$ である。微分可能で導関数が連続な関数を $C^1$ 級という。$\log$ は自然対数である。
$F,G$ が $[a,b]$ で $C^1$ 級ならば
$$
\int_a^bF(x)\,G'(x)\,dx=\bigl[F(x)G(x)\bigr]_a^b-\int_a^bF'(x)\,G(x)\,dx
$$
である。
$(FG)'=F'G+FG'$ は連続なので、基本定理により $\int_a^b(F'G+FG')\,dx=\bigl[FG\bigr]_a^b$ である。移項すればよい。$\square$
漸化式の立て方は、次の 3 つの型にまとめられる。
$I_n:=\int_0^1x^ne^x\,dx$($n\ge0$)について、漸化式 $I_n=e-nI_{n-1}$($n\ge1$)を示し、$I_3=6-2e$ を求めよ。また $\frac1{n+1}\le I_n\le\frac e{n+1}$ を示せ。
$x^n$ は微分すると次数が 1 下がり、$e^x$ は積分しても変わらない。候補は (a) $n$ 回部分積分して原始関数を書き下す、(b) 1 回だけ部分積分して漸化式にする(型 A)、である。
(a) $n=3$ なら $\int x^3e^x\,dx=e^x(x^3-3x^2+6x-6)$ となり、$I_3=e(1-3+6-6)-(-6)=6-2e$ である。一般の $n$ でも $\int x^ne^x\,dx=e^x\sum_{k=0}^n(-1)^k\frac{n!}{(n-k)!}x^{n-k}$ と書けるが、$n=20$ で 21 項の和を扱うのは重い。
(b) $F=x^n$、$G=e^x$ として thm-ired-parts を使うと、$n\ge1$ で
$$
I_n=\bigl[x^ne^x\bigr]_0^1-n\int_0^1x^{n-1}e^x\,dx=e-nI_{n-1}
$$
である。$I_0=e-1$ から $I_1=1$、$I_2=e-2$、$I_3=e-3(e-2)=6-2e$ となる。評価は、$0\le x\le1$ で $x^n\le x^ne^x\le ex^n$ を積分すれば $\frac1{n+1}\le I_n\le\frac e{n+1}$ である。
ここに落とし穴がある。漸化式を使って $e\approx2.718$ で $I_n$ を順に計算してみる。小数第 3 位で丸めると
$$
I_1\approx1.000,\ I_2\approx0.718,\ I_3\approx0.564,\ I_4\approx0.462,\ I_5\approx0.408,\ I_6\approx0.270,\ I_7\approx0.828,\ I_8\approx-3.906
$$
となる。$I_8$ が負になったが、上の評価から $0.111<\frac19\le I_8\le\frac e9<0.303$ のはずである。正しい値は $I_8=0.2744\ldots$ である。どこで壊れたのか。
$e$ の近似の誤差を $\delta$ として、計算値と真の値の差を $d_n$ とおくと、$d_0=\delta$、$d_n=\delta-nd_{n-1}$ である。1 段ごとに誤差が $-n$ 倍されるので、これを解くと $d_n=(-1)^nn!\,\delta\sum_{j=0}^n\frac{(-1)^j}{j!}$ となり、$|d_n|$ はおよそ $\frac{n!}e|\delta|$ である。$\delta\approx-2.8\times10^{-4}$、$8!=40320$ なので、$I_8$ の誤差が $4$ 程度になるのは当然である。倍精度の浮動小数点数(相対誤差 $10^{-16}$ 程度)で計算しても、$18!\approx6\times10^{15}$ なので $I_{18}$ あたりで符号が狂う。
直し方は、漸化式を逆向きに使うことである。$I_{n-1}=\frac{e-I_n}n$ なら、1 段ごとに誤差は $\frac1n$ 倍になる。たとえば $I_{30}$ を $0$ と置き(真の値との差は評価より $\frac e{31}<0.1$ 以下)、逆向きに $I_{20}$ まで戻ると、誤差は $\frac{0.1}{30\cdot29\cdots21}<10^{-14}$ 以下に縮む。実際にこれで $I_{20}=0.12380383076\ldots$ が得られる。
部分積分で次数が下がるのは、$x^n$ が「微分すると簡単になる」因子で、$e^x$ が「積分しても複雑にならない」因子だからである。漸化式は値を求める式であると同時に、誤差がどう伝わるかを決める式でもある。この漸化式では、係数 $n$ が掛かる向きに計算すると誤差が増え、割る向きなら減る。評価 $\frac1{n+1}\le I_n\le\frac e{n+1}$ は、計算結果の検査にも使える。
$J_n:=\int_1^e(\log x)^n\,dx$ について、漸化式 $J_n=e-nJ_{n-1}$($n\ge1$)を示し、$J_3$ を求めよ。答は $J_3=6-2e$ である。
$(\log x)^n$ は微分すると $\frac{n(\log x)^{n-1}}x$ となり、$\log$ の次数が 1 下がる。他に因子がないように見える。候補は (a) $(\log x)^n$ を $G'$ にする、(b) $(\log x)^n$ を $F$ にし、$G'=1$ とする、(c) $t=\log x$ と置換する、である。
(a) $G'=(\log x)^n$ とするには $(\log x)^n$ の原始関数 $G$ が要るが、それこそ求めたいものである。この選び方は堂々巡りになる。
そこで (b)、「掛かっていない因子 $1$」を $G'$ と見る。$F=(\log x)^n$、$G=x$ として thm-ired-parts を使うと、$F'G=n(\log x)^{n-1}$ となって $x$ が打ち消され、
$$
J_n=\bigl[x(\log x)^n\bigr]_1^e-n\int_1^e(\log x)^{n-1}\,dx=e-nJ_{n-1}
$$
である。$J_0=e-1$ から $J_1=1$、$J_2=e-2$、$J_3=6-2e$ となる。
漸化式も初期値も例 1 とまったく同じである。実際、(c) の置換 $x=e^t$($dx=e^t\,dt$)で $J_n=\int_0^1t^ne^t\,dt=I_n$ となる。つまり $\log$ の積分は、置換で指数関数の積分に直る。$(\log x)^n$ のように「原始関数が分からない因子しかない」ときは、見えない因子 $1$ を $G'$ にする。$\int\log x\,dx=x\log x-x$ もこの形である。
$S_n:=\int_0^{\pi/2}\sin^nx\,dx$ について、漸化式 $nS_n=(n-1)S_{n-2}$($n\ge2$)を示し、$S_5$ と $S_6$ を求めよ。答は $S_5=\frac8{15}$、$S_6=\frac{5\pi}{32}$ である。
$\sin$ の累乗である。奇数乗なら 1 つの $\sin x$ を $-(\cos x)'$ として取り出せる。候補は (a) 奇数乗は $u=\cos x$ と置換する、(b) 偶数乗は半角の公式 $\sin^2x=\frac{1-\cos2x}2$ で次数を下げる、(c) 漸化式を作る(型 A)、である。
(a) $n=5$ なら $\sin^5x=(1-\cos^2x)^2\sin x$ なので、$u=\cos x$ で $S_5=\int_0^1(1-u^2)^2\,du=1-\frac23+\frac15=\frac8{15}$ である。ところが $n=6$ では $\sin x$ が 1 つ余らず、この置換は使えない。(b) $\sin^6x=\frac18(1-\cos2x)^3$ を展開すると $\cos^22x$ と $\cos^32x$ が現れ、$\cos^22x$ にはまた半角の公式、$\cos^32x$ には (a) の置換が要る。$n$ が大きくなると場合分けが増える。
そこで (c)、$\sin^nx=\sin^{n-1}x\cdot\sin x$ とし、$F=\sin^{n-1}x$、$G=-\cos x$ として thm-ired-parts を使う。$n\ge2$ なら $F(0)=0$、$G(\frac\pi2)=0$ なので境界の項は $0$ であり、$\cos^2x=1-\sin^2x$ から
$$
S_n=(n-1)\int_0^{\pi/2}\sin^{n-2}x\cos^2x\,dx=(n-1)(S_{n-2}-S_n)
$$
となる。移項して $nS_n=(n-1)S_{n-2}$ を得る。$S_0=\frac\pi2$、$S_1=1$ から
$$
S_5=\frac45\cdot\frac23\cdot1=\frac8{15},\qquad S_6=\frac56\cdot\frac34\cdot\frac12\cdot\frac\pi2=\frac{5\pi}{32}
$$
である。
漸化式を使うと、奇数乗と偶数乗の区別は初期値 $S_1=1$ と $S_0=\frac\pi2$ の違いだけになる。このため奇数乗の値は有理数、偶数乗の値は $\pi$ の有理数倍になる。不定積分でも同じ計算で $\int\sin^nx\,dx=-\frac{\sin^{n-1}x\cos x}n+\frac{n-1}n\int\sin^{n-2}x\,dx$ が得られる。この漸化式から $n\to\infty$ での $S_n$ の振る舞いを調べると円周率の積表示(Wallisの公式(高校数学))に至るが、本記事では立ち入らない。
$T_n:=\int_0^{\pi/4}\tan^nx\,dx$ について、$T_n+T_{n-2}=\frac1{n-1}$($n\ge2$)を示せ。さらに、これを使って
$$
\frac\pi4=1-\frac13+\frac15-\frac17+\cdots,\qquad \log2=1-\frac12+\frac13-\frac14+\cdots
$$
を示せ。
$\tan$ の累乗である。$\tan x$ の導関数は $\frac1{\cos^2x}=1+\tan^2x$ で、$\tan^2x$ が「導関数」と「定数」に分かれる。候補は (a) 例 3 と同じく $\tan^nx=\tan^{n-1}x\cdot\tan x$ として部分積分する、(b) $\tan^2x=\frac1{\cos^2x}-1$ で分ける(型 B)、である。
(a) $\tan x$ の原始関数は $-\log\cos x$ なので、$F=\tan^{n-1}x$、$G=-\log\cos x$ とすると
$$
T_n=\bigl[-\tan^{n-1}x\log\cos x\bigr]_0^{\pi/4}+(n-1)\int_0^{\pi/4}\frac{\tan^{n-2}x}{\cos^2x}\log\cos x\,dx
$$
となる。右辺の積分には $\log\cos x$ が残り、$T_{n-2}$ の形に戻らない。$\tan x$ は積分すると $\log$ が現れて複雑になる因子なので、$G'$ に選ぶのは誤りだった。
そこで (b)、$\tan^nx=\tan^{n-2}x\bigl(\frac1{\cos^2x}-1\bigr)$ とすると、$n\ge2$ で
$$
T_n=\int_0^{\pi/4}\tan^{n-2}x\cdot\frac{dx}{\cos^2x}-T_{n-2}=\Bigl[\frac{\tan^{n-1}x}{n-1}\Bigr]_0^{\pi/4}-T_{n-2}=\frac1{n-1}-T_{n-2}
$$
である(1 つ目の積分は $u=\tan x$ の置換、あるいは $\bigl(\frac{\tan^{n-1}x}{n-1}\bigr)'=\frac{\tan^{n-2}x}{\cos^2x}$ から)。部分積分は使っていない。
初期値は $T_0=\frac\pi4$、$T_1=\bigl[-\log\cos x\bigr]_0^{\pi/4}=\frac12\log2$ である。$a_m:=(-1)^mT_{2m}$ とおくと漸化式は $a_m=a_{m-1}+\frac{(-1)^m}{2m-1}$ となるので、
$$
T_{2m}=(-1)^m\Bigl(\frac\pi4-\sum_{k=1}^m\frac{(-1)^{k-1}}{2k-1}\Bigr),\qquad T_{2m+1}=(-1)^m\Bigl(\frac12\log2-\sum_{k=1}^m\frac{(-1)^{k-1}}{2k}\Bigr)
$$
を得る(奇数番目も同様)。
次に $T_n\to0$ を示す。$0\le x\le\frac\pi4$ では $0\le\tan x\le1$ なので $\tan^{n+2}x\le\tan^nx$、よって $T_{n+2}\le T_n$ である。これと漸化式から $2T_{n+2}\le T_n+T_{n+2}=\frac1{n+1}$、すなわち $0\le T_{n+2}\le\frac1{2(n+1)}$ である。したがって上の 2 式の括弧の中は $m\to\infty$ で $0$ に近づき、
$$
\frac\pi4=\sum_{k=1}^\infty\frac{(-1)^{k-1}}{2k-1},\qquad \frac12\log2=\sum_{k=1}^\infty\frac{(-1)^{k-1}}{2k}
$$
である。2 つ目を 2 倍すれば $\log2=1-\frac12+\frac13-\cdots$ である。
部分積分が効かなかったのは、$\tan x$ を積分すると $\log$ が出るからである。代わりに「$\tan^2x$ は導関数 $\frac1{\cos^2x}$ と定数の差」という恒等式を使うと、$T_n$ と $T_{n-2}$ の和が直接計算できた。この型の漸化式は、$I_n$ そのものではなく $I_n+I_{n-2}$ や $I_n-I_{n-1}$ が簡単になる形を探す。さらに、単調性 $T_{n+2}\le T_n$ と組み合わせると、漸化式から極限や級数の和が引き出せる。
$K_n:=\int_0^1\frac{dx}{(1+x^2)^n}$($n\ge1$)について、漸化式
$$
K_{n+1}=\frac{2^{-n}+(2n-1)K_n}{2n}
$$
を示し、$K_2,K_3$ を求めよ。答は $K_2=\frac14+\frac\pi8$、$K_3=\frac14+\frac{3\pi}{32}$ である。
分母が $1+x^2$ の累乗で、分子は $1$ である。$1+x^2$ は実数の範囲ではこれ以上因数分解できない。$K_1=\frac\pi4$ である。候補は (a) 部分分数分解、(b) 型 A のように何かを微分して $n$ を下げる、(c) 逆に $n$ を上げる部分積分をして、それを解く(型 C)、である。
(a) 分母の因子は $1+x^2$ しかなく、$\frac1{(1+x^2)^n}$ はすでに部分分数の形である。分解では何も進まない。(b) 被積分関数は 1 つの因子しかない。例 2 のように $G'=1$、$F=(1+x^2)^{-n}$ とすると、$F'=-2nx(1+x^2)^{-n-1}$ で、$n$ は上がってしまう。
上がってしまうならそれを受け入れる((c))。(b) の計算を続けると
$$
K_n=\Bigl[\frac x{(1+x^2)^n}\Bigr]_0^1+2n\int_0^1\frac{x^2}{(1+x^2)^{n+1}}\,dx
$$
である。ここで $\frac{x^2}{(1+x^2)^{n+1}}=\frac{(1+x^2)-1}{(1+x^2)^{n+1}}=\frac1{(1+x^2)^n}-\frac1{(1+x^2)^{n+1}}$ なので、$K_n=2^{-n}+2n(K_n-K_{n+1})$ である。これを $K_{n+1}$ について解けば主張の漸化式を得る。$n=1$ で $K_2=\frac{\frac12+\frac\pi4}2=\frac14+\frac\pi8$、$n=2$ で $K_3=\frac{\frac14+3K_2}4=\frac14+\frac{3\pi}{32}$ である。
部分積分は「$n$ を下げる」ためだけの道具ではない。$I_n$ を $I_{n+1}$ で表す式が得られれば、それを $I_{n+1}$ について解くだけで下げる漸化式になる。$x=\tan\theta$ と置換すると $K_n=\int_0^{\pi/4}\cos^{2n-2}\theta\,d\theta$ となり、例 3 と同じ型の漸化式(ただし境界の項が $0$ にならない)でも求められる。どちらの道でも $\pi$ は $K_1$ から、有理数は境界の項 $2^{-n}$ から入る。
0 以上の整数 $m,n$ について $B(m,n):=\int_0^1x^m(1-x)^n\,dx$ とおく(この記事だけの記号。標準のベータ関数では $B(m+1,n+1)$)。$B(m,n)=\frac{m!\,n!}{(m+n+1)!}$ を示せ。また、これから恒等式
$$
\sum_{k=0}^n\frac{(-1)^k}{m+k+1}\binom nk=\frac{m!\,n!}{(m+n+1)!}
$$
を導け。
2 つの因子 $x^m$ と $(1-x)^n$ があり、どちらも微分で次数が下がり、積分で次数が上がる。候補は (a) $(1-x)^n$ を二項定理で展開して項別に積分する、(b) 一方を微分し他方を積分する部分積分で、添字を 1 つずつ動かす、である。
(a) 展開すると $B(m,n)=\sum_{k=0}^n(-1)^k\binom nk\int_0^1x^{m+k}\,dx=\sum_{k=0}^n\frac{(-1)^k}{m+k+1}\binom nk$ となる。正しいが、符号が交互の和のままで、きれいな形が見えない。たとえば $m=2$、$n=3$ では $\frac13-\frac34+\frac35-\frac16=\frac1{60}$ で、計算してはじめて簡単な分数になることが分かる。
(b) $n\ge1$ で $F=(1-x)^n$、$G=\frac{x^{m+1}}{m+1}$ として thm-ired-parts を使う。境界の項は $x=0$ でも $x=1$ でも $0$ なので
$$
B(m,n)=\frac n{m+1}\int_0^1x^{m+1}(1-x)^{n-1}\,dx=\frac n{m+1}B(m+1,n-1)
$$
である。$n$ を 1 下げるたびに $m$ が 1 上がり、$m+n$ は一定である。$n$ 回繰り返すと
$$
B(m,n)=\frac{n}{m+1}\cdot\frac{n-1}{m+2}\cdots\frac1{m+n}\,B(m+n,0)=\frac{n!\,m!}{(m+n)!}\cdot\frac1{m+n+1}
$$
となる($B(m+n,0)=\frac1{m+n+1}$)。(a) と比べれば恒等式を得る。$m=2$、$n=3$ では $\frac{2!\,3!}{6!}=\frac1{60}$ である。
添字が 2 つあるときは、「和 $m+n$ を保って一方を他方へ移す」漸化式を作ると、最後は添字が 1 つの簡単な積分に行き着く。直接展開と漸化式の 2 通りで同じ積分を計算すると、組合せの恒等式が副産物として得られる。
例 3 の漸化式 $nS_n=(n-1)S_{n-2}$ を $n=1$ に使うと $S_1=0\cdot S_{-1}$ となり、「$S_1=0$」と結論したくなる。しかし $S_1=\int_0^{\pi/2}\sin x\,dx=1$ である。
誤りは 2 か所ある。第一に、$S_{-1}=\int_0^{\pi/2}\frac{dx}{\sin x}$ は $x=0$ の近くで被積分関数が有界でなく、閉区間上の積分として存在しない(広義積分としても、$0< x\le\frac\pi2$ で $\sin x\le x$ より $\int_\varepsilon^{\pi/2}\frac{dx}{\sin x}\ge\log\frac\pi2-\log\varepsilon\to\infty$ で発散する)。第二に、漸化式の導出で境界の項 $\bigl[-\sin^{n-1}x\cos x\bigr]_0^{\pi/2}$ が $0$ になったのは $n\ge2$ のときだけで、$n=1$ では $\sin^0x=1$ なので境界の項は $1$ である。
この反例は「部分積分で得た漸化式は、すべての $n$ で成り立つ」という含意を破る。漸化式を使うときは、(i) 導出で消した境界の項が本当に $0$ か、(ii) 途中に現れる積分がすべて存在するか、を $n$ の範囲ごとに確かめる必要がある。
表の各行は、括弧内の例で確かめた形をもとにまとめたものである。例で扱っていない形($x^n\sin x$、$x^m(\log x)^n$ など)は同じ手を試す候補として挙げたもので、本記事では計算していない。
| 被積分関数の形 | 最初に試す手 | 駄目なら次の手 |
|---|---|---|
| 多項式 $x^n$ × $e^x$、$\sin x$、$\cos x$ | $x^n$ を微分する部分積分(型 A、例 1) | 数値計算では漸化式を逆向きに使う |
| $(\log x)^n$、$x^m(\log x)^n$ | 見えない因子 $1$ や $x^m$ を $G'$ にする(例 2) | $x=e^t$ で指数関数の積分に直す |
| $\sin^nx$、$\cos^nx$ | $\sin^{n-1}x\cdot\sin x$ と分けて部分積分し、$\cos^2=1-\sin^2$(例 3) | 奇数乗なら $u=\cos x$ の置換 |
| $\tan^nx$ | $\tan^2x=\frac1{\cos^2x}-1$ で差をとる(型 B、例 4) | $u=\tan x$ で有理関数に直す |
| $\frac1{(x^2+a^2)^n}$ | $G'=1$ で部分積分し、$n+1$ について解く(型 C、例 5) | $x=a\tan\theta$ で $\cos^{2n-2}$ に直す |
| $x^m(1-x)^n$ など添字が 2 つ | 和を保って添字を移す(例 6) | 二項展開して項別に積分 |
| 漸化式を小さい $n$ に使う | 境界の項と積分の存在を確かめる(ex-ired-boundary) | 初期値を直接計算する |
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