三角関数の公式の導き方と確かめ方は、2 倍角・半角・3 倍角・積和・和積・合成などの公式を語呂合わせで覚える代わりに、余弦と正弦の加法定理の 2 本から導き、導いた式を確かめるための 4 本の記事への案内である。加法定理から2倍角・半角・3倍角の公式を導くでは加法定理の距離による証明と 1 つの角の倍数の公式を、加法定理から積和・和積・合成・正接の公式を導くでは 2 つの角を組み合わせる公式を、回転と複素数で三角関数の公式を導くでは回転の合成と $(\cos\theta+i\sin\theta)^n$ の展開を、三角関数の公式を確かめる方法では特別な角が見逃す誤りと、$\cos\theta=\frac45$、$\sin\theta=\frac35$ の角を代入する検算、確かめが証明になる条件を扱う。
$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}}
\newcommand{N}[0]{\mathbb{N}}
\newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}}
\newcommand{R}[0]{\mathbb{R}}
\newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}}
$$
前提知識: 三角関数, 弧度法, 単位円
高校の三角関数には、2 倍角・半角・3 倍角・積和・和積・合成など、たくさんの公式がある。語呂合わせで覚えると、符号や $\sin$ と $\cos$ を取り違えやすい。この記事は、覚える公式を加法定理の 2 本に減らし、残りはその場で導き、導いた式を確かめる ための 4 本の記事への案内である。定義と加法定理を短く述べたあと、公式と記事の対応を表にし、どの順番で何を読めばよいかを示す。
出発点:単位円と加法定理
単位円による余弦と正弦
座標平面の原点を中心とする半径 $1$ の円(単位円)の上で、点 $(1,0)$ から円に沿って向きをつけて長さ $\theta$ だけ進んだ点($\theta\ge0$ なら反時計回り、$\theta<0$ なら時計回り)を $P(\theta)$ とし、その座標を $P(\theta)=(\cos\theta,\sin\theta)$ と書く。$\cos\theta\ne0$ のとき $\tan\theta:=\frac{\sin\theta}{\cos\theta}$ とする。
単位円上の点の例
- $\theta=\frac\pi6$($30^\circ$):$P(\frac\pi6)=\left(\frac{\sqrt3}2,\frac12\right)$。
- $\theta=\frac{2\pi}3$($120^\circ$):$P(\frac{2\pi}3)=\left(-\frac12,\frac{\sqrt3}2\right)$。
- 辺の比が $3:4:5$ の直角三角形で、長さ $4$ と $5$ の辺がはさむ角 $\theta_0$:$P(\theta_0)=\left(\frac45,\frac35\right)$。$\left(\frac45\right)^2+\left(\frac35\right)^2=1$ である。この角は、公式を確かめるときに活躍する。
余弦と正弦の加法定理
すべての実数 $\alpha,\beta$ について
$$
\cos(\alpha+\beta)=\cos\alpha\cos\beta-\sin\alpha\sin\beta,\qquad
\sin(\alpha+\beta)=\sin\alpha\cos\beta+\cos\alpha\sin\beta
$$
が成り立つ。$\beta$ を $-\beta$ に置き換えると、差 $\alpha-\beta$ の式も得られる。
加法定理の証明の所在
この記事では加法定理を証明しない。証明は連作の 2 本の記事に、別々の方法で書いてある。
加法定理から 2 倍角の公式が出る
加法定理で $\beta=\alpha=\theta$ とすると
$$
\sin2\theta=2\sin\theta\cos\theta,\qquad \cos2\theta=\cos^2\theta-\sin^2\theta
$$
が出る。$\theta=\theta_0$($\cos\theta_0=\frac45$、$\sin\theta_0=\frac35$)では $\sin2\theta_0=\frac{24}{25}$、$\cos2\theta_0=\frac{16-9}{25}=\frac7{25}$ となり、$7^2+24^2=25^2$ というピタゴラス数も現れる。
公式の地図
図1:連作の地図。単位円の定義から 2 つの道(①② 加法定理、③ 回転と複素数)で公式を導き、④ で確かめる
次の表は、高校で習う公式を連作の各記事がどう導き、どう確かめているかをまとめたものである(各欄は、その記事での導き方・確かめ方の要約で、ボックスの題そのものではない)。
| 公式 | ① 2 倍角・半角・3 倍角 | ② 積和・和積・合成・正接 | ③ 回転と複素数から | ④ 確かめ方 |
| 加法定理 | 距離による証明 | ① の結果を出発点にする | 回転の合成による証明 | 3:4:5 と 5:12:13 の角で値を比べる |
| 2 倍角 | 同じ角を入れる | (扱わない) | $(\cos\theta+i\sin\theta)^2$ の展開 | 特別な角・3:4:5 の角・微分 |
| 半角・次数下げ | 2 倍角の式を解く | (扱わない) | $\cos\theta=\frac{z+z^{-1}}2$ の累乗 | 周期、3:4:5 の角の半角($\cos^2\frac{\theta_0}2=\frac9{10}$) |
| 3 倍角・$n$ 倍角 | $3\theta=2\theta+\theta$ | (扱わない) | 行列の累乗・二項定理 | 特別な角の見逃し、対称性、係数の和、4 点での証明 |
| 積和・和積 | (扱わない) | 2 式を足す・引く、角の置き換え | $z$ と $z^{-1}$ の積(積和)、2 つの複素数の和の因数分解(和積) | 2 つの角 $\alpha=\beta$ の見逃し |
| 合成 | (扱わない) | 加法定理を逆に読む(グラフを重ねた図、角の決め方の反例つき) | (扱わない) | (扱わない) |
| 正接 | (扱わない) | 分母・分子を $\cos$ で割る(定義域の注意つき。$\tan2\theta$ と $t=\tan\frac\theta2$ による式は ① の 2 倍角の公式も使う) | (扱わない) | $t=\tan\frac{\theta_0}2=\frac13$ で $t$ による式を確かめる |
3 倍角の公式を 3 通りに出して確かめる
$c=\cos\theta$、$s=\sin\theta$ とする。
- ① の方法(加法定理を 2 回):$\cos3\theta=\cos2\theta\cos\theta-\sin2\theta\sin\theta=(2c^2-1)c-2s^2c=2c^3-c-2(1-c^2)c=4c^3-3c$。
- ③ の方法(複素数の 3 乗):$(c+is)^3=c^3+3ic^2s-3cs^2-is^3$ の実部から $\cos3\theta=c^3-3cs^2=c^3-3c(1-c^2)=4c^3-3c$。
- ④ の方法(値から係数を決める):$\cos3\theta$ が $c$ の 3 次以下の多項式で書けることは、① や ③ の方法から分かっている(係数までは知らなくてよい)。そこで $\cos3\theta=ac^3+bc^2+dc+e$ とおき(恒等式と未定係数法 の未定係数法)、$\theta=\frac\pi2,0,\pi,\frac\pi3$($c=0,1,-1,\frac12$)を入れると $e=0$、$a+b+d=1$、$-a+b-d=-1$、$\frac a8+\frac b4+\frac d2=-1$ となり、$a=4$、$b=0$、$d=-3$ が出る。$c$ の 4 つの値は相異なるので、この 4 つの値をとる 3 次以下の多項式はただ 1 つであり(三角関数の公式を確かめる方法 の「主定理 1:多項式は有限個の値で決まる」)、係数はこの 1 通りに決まる。
どの方法でも $\cos3\theta=4\cos^3\theta-3\cos\theta$ になる。ただし ④ の方法は、$\cos3\theta$ が $c$ の多項式で書けるという事実を ① や ③ から借りている。確かめると、$\theta=\frac\pi3$ では $\cos\pi=-1$ と $\frac12-\frac32=-1$、$\theta=\theta_0$ では $\cos3\theta_0=\frac7{25}\cdot\frac45-\frac{24}{25}\cdot\frac35=-\frac{44}{125}$ と $4\cdot\frac{64}{125}-\frac{12}5=-\frac{44}{125}$ で、どちらも一致する。
4 つの記事と読む順番
はじめて学ぶときは ① → ② → ③ → ④ の順に読むとよい。① と ② は続けて読む 1 組の記事である。③ と ④ は、① と ② を読んだ後ならどちらからでも読める。
- 加法定理から2倍角・半角・3倍角の公式を導く:単位円の対称性から基本の関係を示し、加法定理を 2 点間の距離で証明する。そこから「2 つの角を等しくする」「2 乗について解く」「分けて代入する」の 3 つの操作で、1 つの角 $\theta$ から $2\theta$、$\frac\theta2$、$3\theta$ の値を出す 2 倍角・半角(次数下げ)・3 倍角の公式を 1 本ずつ導く。
- 加法定理から積和・和積・合成・正接の公式を導く:2 つの角 $\alpha,\beta$ を別々のまま使い、加法定理の 2 式を足す・引く、角を置き換える、右辺から左辺へ読む、割る、の 4 つの操作で、積和・和積・合成・正接の公式を導く($\tan2\theta$ と $t=\tan\frac\theta2$ による式だけは、① の 2 倍角の公式も使う)。合成で角を正接だけから決めると符号を誤る反例も調べる。国際数学オリンピック(1963 年)第 5 問 $\cos\frac\pi7-\cos\frac{2\pi}7+\cos\frac{3\pi}7=\frac12$(Oly63)を積和の公式で解く。
- 回転と複素数で三角関数の公式を導く:回転が 1 次変換であることから回転の式を証明し、回転を 2 回することから加法定理を出す。行列の累乗や $(\cos\theta+i\sin\theta)^n$ の展開で $n$ 倍角の公式をまとめて作り、逆に $\cos\theta=\frac{z+z^{-1}}2$ から積和や $\cos^3\theta$ の次数下げを出し、2 つの複素数の和をくくって和積の公式を出す。
- 三角関数の公式を確かめる方法:特別な角・3:4:5 の角・対称性・係数の和・小さい角の近似・微分で公式を確かめ、どの方法がどの誤りを見逃すかを調べる。特別な角では見逃す $\sin$ と $\cos$ の取り違えや符号の誤りが、$\cos\theta=\frac45$、$\sin\theta=\frac35$ の角なら 1 回の代入で見つかる。両辺が多項式と分かっていれば有限個の値で、導関数が等しければ 1 点で、確かめが証明になることも示す。
どの疑問にどの記事が答えるか
| 疑問 | 答える記事 |
| 加法定理はなぜ成り立つか | ①(距離)、③(回転) |
| 公式を忘れたとき、どう作り直すか | ①・②(1 本ずつ)、③(まとめて) |
| $\cos5\theta$ のような高い倍角をどう出すか | ③ |
| $\cos^2\theta$ や積 $\cos\alpha\cos\beta$ を和に直すには | ①(次数下げ)・②(積和)、③($z$ による方法) |
| $\cos^3\theta$ などの 3 乗以上の累乗を和に直すには | ③($z$ による方法) |
| $a\sin\theta+b\cos\theta$ の最大値・最小値は | ②(合成) |
| 思い出した式が正しいかをどう確かめるか | ④ |
| $30^\circ$ や $45^\circ$ で確かめて合えば安心か(答:安心できない) | ④ |
| 確かめただけで証明になるのはいつか | ④ |
さらに先へ
- $\cos n\theta$ を $\cos\theta$ の多項式で表したものは Chebyshev多項式 と呼ばれ、近似や数論で使われる。
- $\cos\theta+i\sin\theta$ を $e^{i\theta}$ と書く理由は 複素数の掛け算は回転と拡大 で、三角関数そのものを厳密に定義する方法は 三角関数はどう定義するか で扱う。
- 倍角の値から出てくる $(7,24,25)$ のようなものも含めて、ピタゴラス数の全体は ピタゴラス数と円の有理点 で分類される。
- ② の $t=\tan\frac\theta2$ による式は、$\sin\theta$ と $\cos\theta$ の有理式を $t$ の有理式に直す置換積分に使われる(三角関数の有理式の積分)。
- ② の積和の公式で $\cos mx\cos nx$ を和に直すと、$\int_{-\pi}^{\pi}\cos mx\cos nx\,dx$ が計算でき、三角関数の直交性が示せる(三角関数の直交性(高校数学))。大学ではこれが 関数の内積 と Fourier 級数の出発点になる。
関連項目
- 前提: 三角関数, 弧度法, 単位円
- 前に読む: なし(この連作の入口)
- 次に読む: 加法定理から2倍角・半角・3倍角の公式を導く
- 同じ連作: 加法定理から積和・和積・合成・正接の公式を導く, 回転と複素数で三角関数の公式を導く, 三角関数の公式を確かめる方法
- 関連(高校数学): Chebyshev多項式, 三角関数の直交性(高校数学), 三角関数の有理式の積分, 恒等式と未定係数法
- 比較: 回転・鏡映と行列の群, 複素数の掛け算は回転と拡大, 三角関数はどう定義するか
- 発展: 関数の内積, 1の冪根