Radon–Nikodym性(Radon–Nikodym property)とは、Banach 空間 $E$ の性質で、任意の有限測度空間 $(\Omega,\Sigma,\mu)$ 上の有界変動で $\mu$ に絶対連続なベクトル測度 $\nu\colon\Sigma\to E$ が、Bochner 可積分な密度 $g$ によって $\nu(A)=\int_Ag\,d\mu$ と表せることをいう。可分な双対空間と反射的な Banach 空間はこの性質をもち、有限次元の空間、Hilbert 空間、$\ell^1$ が例になる。一方 $c_0$、$L^1[0,1]$、$\ell^\infty$ はもたない。$E$ がこの性質をもてば、測度が σ-有限なら密度は存在して a.e. で一意だが、σ-有限でなければ $E=\mathbb R$ でも存在しないことがある。
前提知識: Bochner積分, Radon–Nikodymの定理, 反射的Banach空間, Pettisの可測性定理
Radon–Nikodymの定理 は、測度 $\mu$ に絶対連続な有限測度 $\nu$ が、密度 $h$ によって $\nu(A)=\int_Ah\,d\mu$ と書けることを述べる。同じ問いは、値が Banach 空間 $E$ の元であるような測度(ベクトル測度)についても立てられる。ベクトル測度 $\nu$ が有界変動で $\mu$ に絶対連続なとき、$E$ に値をとる密度 $g$ があって $\nu(A)=\int_Ag\,d\mu$(Bochner積分)と書けるか、という問いである。
答えは $E$ による。どんな有限測度空間 $(\Omega,\Sigma,\mu)$ についても、有界変動で $\mu$ に絶対連続などんなベクトル測度にも密度が存在するとき、$E$ は Radon–Nikodym性(Radon–Nikodym property)をもつという。これは測度の性質ではなく、Banach 空間 $E$ の性質である。有限次元の空間、Hilbert 空間、$1< p<\infty$ の $L^p$ 空間はこの性質をもつ。一方、$0$ に収束する数列の空間 $c_0$ や $L^1[0,1]$ はもたない。
この記事では、まず有界な場合への帰着を示す。次に、可分な双対空間がこの性質をもつこと、反射的な Banach 空間がこの性質をもつこと(主定理)を証明する。そのあと $c_0$ と $L^1[0,1]$ で密度が存在しない例をつくり、測度の σ-有限性・有界変動性・絶対連続性が外せないことを確かめる。
以下、$E$ は実 Banach 空間、$E^*$ はその連続双対空間とする。$(\Omega,\Sigma)$ は可測空間で、有限個の互いに交わらない $A_1,\dots,A_m\in\Sigma$ で和が $A$ になるものを $A$ の 有限分割 という。
要点:1 は分割をつなぎ合わせ、また細かくすることで可算加法性を示す。2 は単関数では等号が分割から直接見え、一般の $g$ は近似で移る。
1:$\|\nu(A)\|\le|\nu|(A)$ は分割 $\{A\}$ をとればよい。$A=\bigsqcup_kB_k$ とする。各 $k\le n$ について $B_k$ の有限分割をとり、残りの $\bigcup_{k>n}B_k$ を 1 つの集合として加えると $A$ の有限分割になるので、$\sum_{k\le n}|\nu|(B_k)\le|\nu|(A)$ を得る(各分割の和を上限に近づける)。逆に $A$ の有限分割 $(A_j)$ について、$\nu(A_j)=\sum_k\nu(A_j\cap B_k)$ と三角不等式から $\sum_j\|\nu(A_j)\|\le\sum_k\sum_j\|\nu(A_j\cap B_k)\|\le\sum_k|\nu|(B_k)$ である。よって $|\nu|$ は可算加法的である。$\mu(A)=0$ なら $A$ の可測な部分集合はすべて $\mu$-零集合で $\nu$ の値が $0$ なので、$|\nu|(A)=0$ である。
2:$\|\int_Ag\|\le\int_A\|g\|$(Bochner積分 の記事の定理「Bochner積分の存在と基本性質」の 2)から、$\mu(A)=0$ なら $\nu_g(A)=0$ であり、互いに交わらない $A_k$ について $\|\nu_g(\bigcup_kA_k)-\sum_{k\le n}\nu_g(A_k)\|\le\int_{\bigcup_{k>n}A_k}\|g\|\to0$ である。同じ不等式を分割の各集合に当てると $|\nu_g|(A)\le\int_A\|g\|$ を得る。逆向きの不等式を示す。可積分な単関数 $s=\sum_iv_i1_{C_i}$ については、分割 $\{A\cap C_i\}$ と $A\setminus\bigcup_iC_i$ をとれば $\sum_i\|v_i\|\mu(A\cap C_i)=\int_A\|s\|$ なので $|\nu_s|(A)\ge\int_A\|s\|$ である。$g$ の近似列 $s_n$ をとると、変動の定義から $|\nu_g|(A)\ge|\nu_{s_n}|(A)-|\nu_{g-s_n}|(A)\ge\int_A\|s_n\|-\int_A\|g-s_n\|\to\int_A\|g\|$ である。$\square$
2 から、密度が存在するためには $\nu$ が有界変動で $\nu\ll\mu$ であることが必要である。Radon–Nikodym 性は、この必要条件が十分条件でもあることを求める。
Banach 空間 $E$ が Radon–Nikodym性 をもつとは、次が成り立つことをいう。任意の有限測度空間 $(\Omega,\Sigma,\mu)$ と、$\nu\ll\mu$ をみたす有界変動のベクトル測度 $\nu\colon\Sigma\to E$ について、$g\in L^1(\mu;E)$ で
$$
\nu(A)=\int_Ag\,d\mu\qquad(A\in\Sigma)
$$
となるものが存在する。この $g$ を $\nu$ の $\mu$ に関する 密度 といい、$d\nu/d\mu$ と書く。
$(\Omega,\Sigma,\mu)$ を σ-有限な測度空間とする。
要点:$g$ は零集合を除いて可分な部分空間に値をとるので、可算個の汎関数で値を検出できる。実数値の密度は一意なので、各汎関数との合成は a.e. で決まる。
2 を示す(1 は $F=\{0\}$ の場合を $g-g'$ に当てたもの)。Pettisの可測性定理 の定理「Pettisの可測性定理」により、零集合の外で $g$ は可分な閉部分空間 $G$ に値をとる。$G$ の可算な稠密部分集合 $\{w_j\}$ をとる。$w_j\notin F$ なら、Hahn–Banachの定理 の系「閉部分空間の外の点を検出する汎関数」により、$\ell_j|_F=0$、$\|\ell_j\|=1$、$\ell_j(w_j)=d(w_j,F)$ となる $\ell_j\in E^*$ をとる($d(\cdot,F)$ は $F$ までの距離)。$w_j\in F$ なら $\ell_j=0$ とする。$v\in G$ と $w_j\to v$ となる部分列について、$|\ell_j(v)|\ge d(w_j,F)-\|v-w_j\|\ge d(v,F)-2\|v-w_j\|$ なので、$\sup_j|\ell_j(v)|\ge d(v,F)$ である。各 $j$ について $\int_A\ell_j\circ g\,d\mu=\ell_j\bigl(\int_Ag\bigr)=0$ がすべての $A$ で成り立つ。実数値の可積分関数 $\varphi=\ell_j\circ g$ について、$A=\{\varphi>0\}\cap\Omega_k$($\Omega_k$ は測度有限)とおくと $\int_A\varphi=0$ から $\mu(A)=0$ となるので、a.e. で $\varphi\le0$、同様に $\varphi\ge0$ である。可算個の例外集合を合わせると、a.e. で $d(g,F)\le\sup_j|\ell_j\circ g|=0$、すなわち $g\in F$ である。
閉部分空間 $F$ について:$F$ に値をとる $\nu$ を $E$ に値をとるとみなして $E$ での密度 $g$ をとると、2 により a.e. で $g\in F$ であり、零集合の上で $0$ に取り替えれば $F$ での密度になる($F$ に値をとる近似単関数は Pettisの可測性定理 の命題「可算なノルム決定族による判定」からとれる)。線形同相写像 $T\colon E\to H$ については、$H$ に値をとる $\nu$ に $T^{-1}\circ\nu$ の密度 $g$ をとれば、$Tg$ が $\nu$ の密度である(Bochner積分 の記事の定理「Bochner積分の存在と基本性質」の 3)。$\square$
密度を作るときは、$\|\nu(A)\|\le\mu(A)$ がすべての $A$ で成り立つ場合だけを考えれば足りる。このとき密度は $\|g\|\le1$ をみたすはずである。
Banach 空間 $E$ について、次を仮定する。任意の有限測度空間 $(\Omega,\Sigma,\lambda)$ と、すべての $A$ で $\|\nu(A)\|\le\lambda(A)$ をみたすベクトル測度 $\nu\colon\Sigma\to E$ について、$\|g\|\le1$(a.e.)をみたす $g\in L^1(\lambda;E)$ で $\nu(A)=\int_Ag\,d\lambda$ となるものがある。このとき $E$ は Radon–Nikodym 性をもつ。
$\mu$ を有限測度、$\nu$ を $\nu\ll\mu$ をみたす有界変動のベクトル測度とする。$\lambda:=|\nu|$ は有限な測度で $\|\nu(A)\|\le\lambda(A)$ なので(prop-rnp-variation の 1)、仮定から $\|g'\|\le1$ の $g'\in L^1(\lambda;E)$ で $\nu(A)=\int_Ag'\,d\lambda$ となるものがある。また $\lambda\ll\mu$ なので、Radon–Nikodymの定理 の定理「Radon–Nikodymの定理」により、$h\in L^1(\mu)$、$h\ge0$ で $\lambda(A)=\int_Ah\,d\mu$ となるものがある。$g'$ は $\lambda$-零集合の上で $0$ に取り替えて、すべての点で $\|g'\|\le1$ としておく。
要点:$g:=hg'$ が求める密度である。$hg'$ の強可測性は単関数の近似から、等式 $\int_Ag\,d\mu=\int_Ag'\,d\lambda$ は単関数で確かめて優収束定理で移す。
$g:=hg'$ が $\nu$ の $\mu$ に関する密度であることを示す。$g'$ を近似する単関数 $s_n$ を、$\lambda$-零集合 $N$ の外で $s_n\to g'$、$\|s_n\|\le2$ となるようにとる(Bochner積分 の記事の定理「Bochnerの判定法」)。$\int_Nh\,d\mu=\lambda(N)=0$ なので、$\mu$-a.e. で $h=0$ が $N$ の上で成り立つ。よって $\mu$-a.e. で $hs_n\to hg'$ である。$hs_n$ は強可測なので(Bochner積分 の記事の命題「強可測関数の基本性質」の 1)、$hg'$ も強可測であり、$\|hg'\|\le h$ から $g\in L^1(\mu;E)$ である。
単関数 $s=\sum_iv_i1_{C_i}$ については、$v_ih1_{A\cap C_i}$ の Bochner 積分が $v_i\int_{A\cap C_i}h\,d\mu=v_i\lambda(A\cap C_i)$ なので、$\int_Ahs\,d\mu=\int_As\,d\lambda$ である。この等式で $s=s_n$ とし、両辺に優収束定理(Bochner積分 の記事の定理「優収束定理(Bochner積分)」。左辺の優関数は $2h$、右辺は定数 $2$)を当てて $n\to\infty$ とすると、$\int_Ag\,d\mu=\int_Ag'\,d\lambda=\nu(A)$ を得る。$\square$
最初の例は、可分な双対空間である。密度の値を、汎関数ごとに実数値の密度を作って組み立てる。
Banach 空間 $Y$ の双対空間 $Y^*$ が可分ならば、$Y^*$ は Radon–Nikodym 性をもつ。さらに、有限測度 $\mu$ とすべての $A$ で $\|\nu(A)\|\le\mu(A)$ をみたすベクトル測度 $\nu\colon\Sigma\to Y^*$ について、密度 $g$ は $\|g\|\le1$ をみたすようにとれる。
lem-rnp-reduction により、後半を示せばよい。$Y^*$ が可分なので $Y$ も可分である(Bre11 Theorem 3.26、p. 73)。$Y$ の可算な稠密部分集合の有理係数の有限一次結合の全体を $D$ とする。$D$ は可算で、$Y$ で稠密な $\mathbb Q$-線形部分空間である。
汎関数ごとの密度。 $y\in D$、$y\ne0$ について、$\nu_y(A):=\nu(A)(y)$ は実数値で可算加法的であり、$|\nu_y(A)|\le\|y\|\mu(A)$ をみたす。よって $\rho_\pm:=\frac12(\|y\|\mu\pm\nu_y)$ は測度で、$\rho_\pm\le\|y\|\mu$ である。Radon–Nikodymの定理 の補題「上から抑えられた測度の密度」を $\kappa=\|y\|\mu$ に当てて $\rho_\pm=b_\pm\kappa$($0\le b_\pm\le1$)とし、$\varphi_y:=\|y\|(b_+-b_-)$ とおくと、
$$
\nu(A)(y)=\int_A\varphi_y\,d\mu,\qquad|\varphi_y|\le\|y\|
$$
である。$\varphi_0:=0$ とおく。有界な実数値関数で、すべての $A$ 上の積分が等しいものは a.e. で等しい($A=\{\varphi>\varphi'\}$ をとる)。したがって、$y,y'\in D$、$q,q'\in\mathbb Q$ について a.e. で $\varphi_{qy+q'y'}=q\varphi_y+q'\varphi_{y'}$ である。
各点での組み立て。 これらの関係は可算個なので、零集合 $N$ をとって、$\omega\notin N$ ではすべての関係と $|\varphi_y(\omega)|\le\|y\|$ が成り立つようにできる。$\omega\notin N$ を固定すると、$y\mapsto\varphi_y(\omega)$ は $D$ 上の $\mathbb Q$-線形写像で、$|\varphi_y(\omega)-\varphi_{y'}(\omega)|\le\|y-y'\|$ をみたす。よって $Y$ 上の連続な線形汎関数に一意に延長でき、そのノルムは $1$ 以下である。これを $g(\omega)\in Y^*$ とする。$\omega\in N$ では $g(\omega):=0$ とする。
強可測性と積分。 $D$ の元で単位球に入るものの全体 $D_1$ は単位球で稠密であり($\|y\|\le1$ なら $(1-\varepsilon)y$ を $D$ の元で誤差 $\varepsilon$ 未満に近似すればよい)、$y\in D_1$ について $\omega\mapsto g(\omega)(y)=1_{\Omega\setminus N}\varphi_y$ は可測である。Pettisの可測性定理 の系「双対空間に値をとる関数」により、$g$ は強可測である。$\|g\|\le1$ で $\mu$ は有限なので $g\in L^1(\mu;Y^*)$ であり、$y$ での評価 $Y^*\to\mathbb R$ は有界線形なので、Bochner積分 の記事の定理「Bochner積分の存在と基本性質」の 3 により
$$
\Bigl(\int_Ag\,d\mu\Bigr)(y)=\int_Ag(\omega)(y)\,d\mu=\int_A\varphi_y\,d\mu=\nu(A)(y)\qquad(y\in D)
$$
である。両端は $y$ について連続で $D$ は $Y$ で稠密なので、$\int_Ag\,d\mu=\nu(A)$ である。$\square$
連続な延長の部分を補っておく。
$\psi\colon D\to\mathbb R$ を $\mathbb Q$-線形で $|\psi(y)|\le\|y\|$ とする。$|\psi(y)-\psi(y')|=|\psi(y-y')|\le\|y-y'\|$ なので $\psi$ は一様連続であり、稠密な $D$ から $Y$ への連続な延長 $\bar\psi$ がただ一つある。和と有理数倍は極限で保たれるので $\bar\psi$ は加法的で $\mathbb Q$-斉次である。実数 $t$ には有理数 $q_n\to t$ をとると $\bar\psi(ty)=\lim\bar\psi(q_ny)=\lim q_n\bar\psi(y)=t\bar\psi(y)$ となる。$|\bar\psi(y)|\le\|y\|$ も極限で保たれる。
次の空間は Radon–Nikodym 性をもつ。
2:$F$ を可分な反射的空間とすると、$F^*$ も可分で反射的である(Bre11 Corollary 3.27、pp. 73–74)。評価写像 $J\colon F\to F^{**}=(F^*)^*$ は等長な線形全単射なので、thm-rnp-separable-dual と prop-rnp-unique の 2 の後半から $F$ は Radon–Nikodym 性をもつ。1:有限次元の空間は可分で反射的である(反射的Banach空間 の例「有限次元のノルム空間」)。3:$\ell^1$ は $c_0$ の双対空間と等長同型であり(弱スター位相 の節「列で見える差:$c_0$ と $\ell^1$」)、可分である(可分空間 の例「有限個の成分を除いて $0$ である有理数列」)。$\square$
$E=\mathbb R$ の場合は、有限な符号付き測度の Radon–Nikodym の定理にあたる。$\ell^1$ は反射的でないので、Radon–Nikodym 性は反射性より弱い性質である。
可分でない反射的な空間では、ベクトル測度の値が可分な部分空間に収まるかどうかが最初から分からない。そこで、有限分割による平均で $\nu$ を近似し、近似が可分な部分空間の中で収束することを使う。
有限測度 $\mu$ と有限分割 $P$ について、$\mu(C)>0$ となる $C\in P$ での平均値をとる関数と、それが定めるベクトル測度を
$$
g_P:=\sum_{C\in P,\ \mu(C)>0}\frac{\nu(C)}{\mu(C)}1_C,\qquad\nu_P(A):=\int_Ag_P\,d\mu
$$
とおく。$\|\nu(A)\|\le\mu(A)$ なら $\|g_P\|\le1$ であり、$\mu(C)=0$ の $C$ では $\nu(C)=0$ なので、$\nu_P(C)=\nu(C)$($C\in P$)である。分割 $P'$ の各集合が $P$ のどれかの集合に含まれるとき、$P'$ は $P$ の細分であるという。
$E$ を反射的、$\mu$ を有限測度、$\nu\colon\Sigma\to E$ をすべての $A$ で $\|\nu(A)\|\le\mu(A)$ をみたすベクトル測度とする。$P_1,P_2,\dots$ を、$P_{n+1}$ が $P_n$ の細分であるような有限分割の列とすると、$(g_{P_n})$ は $L^1(\mu;E)$ の Cauchy 列である。
要点:$\bigcup_nP_n$ が生成する σ-代数 $\Sigma_0$ の上では、$\nu$ の値は可分な反射的空間 $F$ に入る。cor-rnp-separable-examples により $\Sigma_0$ 上の密度 $g$ があり、$g_{P_n}$ は $g$ を $P_n$ の各集合で平均したものになる。平均をとる操作は $L^1$ ノルムを増やさず、$\Sigma_0$-可測な単関数は十分大きい $n$ の $P_n$ で決まる単関数で近似できるので、$g_{P_n}\to g$ となる。
値の部分空間: $\mathcal A:=\bigcup_n\sigma(P_n)$ は集合代数で($\sigma(P_n)$ は $P_n$ の集合の和の全体で、$n$ について増加する)、$\Sigma_0:=\sigma(\mathcal A)$ とおく。$\{\nu(C):C\in\bigcup_nP_n\}$ は可算なので、それが張る閉部分空間 $F$ は可分である。$\mathcal L:=\{A\in\Sigma_0:\nu(A)\in F\}$ は $\mathcal A$ を含み、補集合($\nu(\Omega\setminus A)=\nu(\Omega)-\nu(A)$)と互いに交わらない可算和(ノルム収束する級数の和は閉集合 $F$ に入る)で閉じている。Dynkinのπ-λ定理 の定理「Dynkinのπ-λ定理」により $\mathcal L=\Sigma_0$ である。
$\Sigma_0$ 上の密度: $F$ は反射的空間の閉部分空間なので反射的であり(反射的Banach空間 の定理「閉部分空間の反射性」)、可分である。cor-rnp-separable-examples の 2 と thm-rnp-separable-dual の後半(評価写像 $J$ で移したもの)を測度空間 $(\Omega,\Sigma_0,\mu)$ と $\nu|_{\Sigma_0}$ に当てると、$\Sigma_0$-強可測な $g$ で $\|g\|\le1$、$\nu(A)=\int_Ag\,d\mu$($A\in\Sigma_0$)となるものがある。$C\in P_n$ について $\int_Cg\,d\mu=\nu(C)$ なので、$\mu(C)>0$ となる $C$ の上で $g_{P_n}=\frac{1}{\mu(C)}\int_Cg\,d\mu$ である。
平均の操作: $f\in L^1(\mu;E)$ に $\mathcal E_nf:=\sum_{C\in P_n,\mu(C)>0}\frac1{\mu(C)}\bigl(\int_Cf\,d\mu\bigr)1_C$ を対応させると、$\|\mathcal E_nf\|_1=\sum_C\|\int_Cf\|\le\|f\|_1$ であり、$\mathcal E_ng=g_{P_n}$ である。$\sigma(P_m)$ の集合の上の単関数 $s$ は、$n\ge m$ で $\mathcal E_ns=s$(a.e.)をみたす。
近似: $\mathcal G:=\{A\in\Sigma_0:\text{任意の }\varepsilon>0\text{ に }B\in\mathcal A,\ \mu(A\triangle B)<\varepsilon\text{ がある}\}$ は $\mathcal A$ を含む。補集合で閉じており、互いに交わらない $A_k\in\mathcal G$ について、$\mu(\bigcup_{k>K}A_k)<\varepsilon/2$ となる $K$ をとり、$k\le K$ の各 $A_k$ を誤差 $\varepsilon/(2K)$ で近似すれば $\bigcup_kA_k\in\mathcal G$ となる。π-λ 定理により $\mathcal G=\Sigma_0$ である。$g$ は $\Sigma_0$-可測な単関数 $\sum_iv_i1_{A_i}$ で $L^1$ 近似でき(Bochner積分 の記事の定理「ベクトル値 $L^p$ 空間の完備性」)、各 $A_i$ を $\mathcal A$ の集合 $B_i$ で取り替えた誤差は $\sum_i\|v_i\|\mu(A_i\triangle B_i)$ 以下である。よって任意の $\varepsilon>0$ に、ある $m$ と $\sigma(P_m)$ 上の単関数 $s$ で $\|g-s\|_1<\varepsilon$ となるものがある。$n\ge m$ なら $\|g_{P_n}-g\|_1\le\|\mathcal E_n(g-s)\|_1+\|s-g\|_1<2\varepsilon$ である。$\square$
反射的な Banach 空間は Radon–Nikodym 性をもつ。
lem-rnp-reduction により、有限測度 $\mu$ とすべての $A$ で $\|\nu(A)\|\le\mu(A)$ をみたす $\nu$ について、$\|g\|\le1$ の密度を作ればよい。
段 1:分割による近似の誤差。 $\delta:=\inf_P|\nu-\nu_P|(\Omega)$($P$ は有限分割全体を動く)とおく。$\delta>0$ と仮定して矛盾を導く。$P_1:=\{\Omega\}$ とし、$P_n$ まで作ったとする。$|\nu-\nu_{P_n}|(\Omega)\ge\delta$ なので、有限分割 $R_n$ で $\sum_{A\in R_n}\|(\nu-\nu_{P_n})(A)\|>\delta/2$ となるものがある。$P_{n+1}$ を $P_n$ と $R_n$ の共通の細分 $\{C\cap A\}$ とする。$C'\in P_{n+1}$ が $C\in P_n$ に含まれ、$\mu(C')>0$ なら、$C'$ の上で $g_{P_{n+1}}-g_{P_n}=\frac{\nu(C')}{\mu(C')}-\frac{\nu(C)}{\mu(C)}$ は定数で、$\nu_{P_n}(C')=\frac{\mu(C')}{\mu(C)}\nu(C)$ である。$\mu(C')=0$ なら $\nu(C')=\nu_{P_n}(C')=0$ である。よって
$$
\|g_{P_{n+1}}-g_{P_n}\|_1=\sum_{C'\in P_{n+1}}\|(\nu-\nu_{P_n})(C')\|\ge\sum_{A\in R_n}\|(\nu-\nu_{P_n})(A)\|>\frac\delta2
$$
となる(不等号は、各 $A\in R_n$ が $P_{n+1}$ の集合の和であることと三角不等式による)。これは lem-rnp-martingale に反する。したがって $\delta=0$ である。
段 2:密度の構成。 有限分割 $Q_j$ を $|\nu-\nu_{Q_j}|(\Omega)<1/j$ となるようにとる。prop-rnp-variation の 2 と、変動の三角不等式 $|\alpha+\beta|(\Omega)\le|\alpha|(\Omega)+|\beta|(\Omega)$ から
$$
\|g_{Q_j}-g_{Q_k}\|_1=|\nu_{Q_j}-\nu_{Q_k}|(\Omega)\le\frac1j+\frac1k
$$
であり、$(g_{Q_j})$ は $L^1(\mu;E)$ の Cauchy 列である。Bochner積分 の記事の定理「ベクトル値 $L^p$ 空間の完備性」により、極限 $g$ がある。部分列は a.e. で $g$ に収束するので $\|g\|\le1$(a.e.)であり、すべての $A$ について
$$
\Bigl\|\nu(A)-\int_Ag\,d\mu\Bigr\|\le\|(\nu-\nu_{Q_j})(A)\|+\|g_{Q_j}-g\|_1\le\frac1j+\|g_{Q_j}-g\|_1\to0
$$
となる。$\square$
反射性を使ったのは lem-rnp-martingale だけで、それも可分な部分空間 $F$ が可分な双対空間になることを通してである。
Hilbert 空間、$1< p<\infty$ の $L^p$ 空間と $\ell^p$ 空間は Radon–Nikodym 性をもつ。
これらは反射的である(反射的Banach空間 の命題「Hilbert 空間は反射的」と例「$1< p<\infty$ の $L^p$ 空間」。$L^p$ は σ-有限な測度空間の上で考える)。thm-rnp-reflexive から従う。$\square$
$c_0$ を $0$ に収束する実数列の空間(上限ノルム)とし、$[0,1)$ 上の Lebesgue 測度 $\mu$ を考える。$r_n(t):=(-1)^{\lfloor2^nt\rfloor}$($n\ge1$)とおき、
$$
\nu(A):=\Bigl(\int_Ar_n\,dt\Bigr)_{n\ge1}
$$
と定める。このとき $\nu$ は $c_0$ に値をとる有界変動のベクトル測度で、$\nu\ll\mu$ であるが、$\mu$ に関する密度をもたない。
正規直交性。 $n< m$ とする。長さ $2^{-n}$ の各区間 $[k2^{-n},(k+1)2^{-n})$ の上で $r_n$ は定数であり、$r_m$ はその区間を等分した $2^{m-n}$ 個(偶数個)の小区間の上で $1,-1$ を交互にとるので、$\int r_nr_m\,dt=0$ である。$r_n^2=1$ なので、$(r_n)$ は $L^2[0,1)$ の正規直交系である。
$\nu$ はベクトル測度。 Hilbert空間 の命題「Besselの不等式と正規直交系の級数」の 1 を $1_A$ に当てると、$\sum_n\bigl(\int_Ar_n\bigr)^2\le\|1_A\|_2^2=\mu(A)$ なので $\int_Ar_n\to0$、すなわち $\nu(A)\in c_0$ である。$|\int_Ar_n|\le\mu(A)$ なので $\|\nu(A)\|_\infty\le\mu(A)$ である。$\nu$ は有限加法的なので、互いに交わらない $A_k$ について $\|\nu(\bigcup_kA_k)-\sum_{k\le K}\nu(A_k)\|_\infty\le\mu(\bigcup_{k>K}A_k)\to0$ となり、$\nu$ は可算加法的である。分割の各集合で $\|\nu(A_j)\|\le\mu(A_j)$ なので $|\nu|(\Omega)\le1$ であり、$\nu\ll\mu$ である。
密度はない。 $g\in L^1(\mu;c_0)$ が密度だとする。第 $n$ 座標 $x\mapsto x_n$ は $c_0$ 上の有界線形汎関数なので、すべての $A$ で $\int_Ag(t)_n\,dt=\int_Ar_n\,dt$ であり、a.e. で $g(t)_n=r_n(t)$ である。可算個の $n$ の例外集合を合わせると、a.e. の $t$ ですべての $n$ について $|g(t)_n|=1$ となり、$g(t)\in c_0$ に反する。$\square$
$[0,1]$ 上の Lebesgue 測度 $\mu$ について、$\nu(A):=1_A\in L^1[0,1]$ とおく。$\|\nu(A)\|_1=\mu(A)$ なので、ex-rnp-c0 と同じ理由で $\nu$ は有界変動のベクトル測度で $\nu\ll\mu$ であるが、密度をもたない。
$g\in L^1(\mu;L^1[0,1])$ が密度だとする。端点が有理数の区間 $I\subset[0,1]$ について、$\varphi_I(u):=\int_Iu(s)\,ds$ は $L^1[0,1]$ 上の有界線形汎関数で、$\varphi_I(\nu(A))=\mu(A\cap I)=\int_A1_I(t)\,dt$ である。一方 $\varphi_I(\nu(A))=\int_A\varphi_I(g(t))\,dt$ なので、a.e. の $t$ で $\varphi_I(g(t))=1_I(t)$ である。$I$ は可算個なので、零集合 $N$ の外ではすべての $I$ についてこれが成り立つ。$t\in(0,1)\setminus N$ をとり、端点が有理数で $t$ を内部に含み、長さが $0$ に近づく区間 $I_k$ をとると、$\int_{I_k}g(t)(s)\,ds=1$ である。しかし $g(t)\in L^1[0,1]$ なので、優収束定理により $\int_{I_k}|g(t)(s)|\,ds\to0$ となり、矛盾する。$\square$
prop-rnp-unique の 2 により、$c_0$ と等長同型な閉部分空間を含む空間、たとえば有界数列の空間 $\ell^\infty$ も Radon–Nikodym 性をもたない。$c_0$・$L^1[0,1]$ は反射的でない(反射的Banach空間 の例「$c_0$・$\ell^1$・$L^1[0,1]$ は反射的でない」)。$\ell^\infty$ も、反射的でない $c_0$ を閉部分空間として含むので反射的でない(同じ記事の定理「閉部分空間の反射性」)。一方 $\ell^1$ は反射的でないが Radon–Nikodym 性をもつ(cor-rnp-separable-examples)。
$E$ が Radon–Nikodym 性をもち、$(\Omega,\Sigma,\mu)$ が σ-有限で、$\nu\colon\Sigma\to E$ が $\nu\ll\mu$ をみたす有界変動のベクトル測度なら、$\nu(A)=\int_Ag\,d\mu$ となる $g\in L^1(\mu;E)$ が a.e. の違いを除いてただ一つある。
要点:$\Omega$ を測度有限の集合に分け、各部分の密度を足し合わせる。和の $L^1$ ノルムは $|\nu|(\Omega)$ で抑えられる。
$\Omega=\bigsqcup_kD_k$、$\mu(D_k)<\infty$ と分ける。$\nu_k(A):=\nu(A\cap D_k)$ は $D_k$ 上の有界変動のベクトル測度で、$\mu|_{D_k}$ に絶対連続なので、密度 $g_k$ がある。$D_k$ の外で $g_k=0$ とおき、$g:=\sum_kg_k$(各点では高々 1 項)とする。$g$ は部分和の各点極限なので強可測であり、prop-rnp-variation の 2 から $\int\|g\|\,d\mu=\sum_k|\nu_k|(D_k)=\sum_k|\nu|(D_k)=|\nu|(\Omega)<\infty$ である。$A\in\Sigma$ について $\nu(A)=\sum_k\nu(A\cap D_k)=\sum_k\int_{A\cap D_k}g\,d\mu$ であり、右辺は Bochner積分 の記事の定理「優収束定理(Bochner積分)」(優関数 $\|g\|$)により $\int_Ag\,d\mu$ に等しい。一意性は prop-rnp-unique の 1 による。$\square$
thm-rnp-reflexive と prop-rnp-sigma-finite の仮定を 1 つずつ外す。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| $E$ が反射的 | $E=c_0$、ex-rnp-c0 の $\nu$ | 有界変動で $\nu\ll\mu$ なのに密度がない |
| $E$ が反射的 | $E=L^1[0,1]$、$\nu(A)=1_A$ | 有界変動で $\nu\ll\mu$ なのに密度がない |
| $\mu$ が σ-有限 | $E=\mathbb R$、$\Omega$ は 1 点 $p$、$\mu(\{p\})=\infty$、$\nu(\{p\})=1$ | 密度 $g$ は $\int\lvert g\rvert\,d\mu<\infty$ から $g(p)=0$ となり、$\nu(\{p\})=1$ を表せない |
| $\nu$ が有界変動 | $E=\ell^2$、$[0,1)$ 上の Lebesgue 測度、$\nu(A)=\bigl(\int_Ar_n\,dt\bigr)_n$ | $\nu\ll\mu$ のベクトル測度だが、変動が無限大なので密度がない |
| $\nu\ll\mu$ | $E=\mathbb R$、$[0,1]$ 上の Lebesgue 測度 $\mu$、$\nu=\delta_0$ | $\nu(\{0\})=1$ だが密度の積分は $\{0\}$ の上で $0$ |
各行は左の列の条件だけを外している。
1・2 行目:ex-rnp-c0 と ex-rnp-l1 で確かめた。$c_0$ と $L^1[0,1]$ は反射的でない。測度は有限である。
3 行目:$\mu(A)=0$ となるのは $A=\emptyset$ だけなので $\nu\ll\mu$ であり、$|\nu|(\Omega)=1$ である。$\mathbb R$ は Radon–Nikodym 性をもつ(cor-rnp-separable-examples)。$g\in L^1(\mu)$ なら $\lvert g(p)\rvert\cdot\infty<\infty$ から $g(p)=0$ で、$\int g\,d\mu=0\ne1$ である。
4 行目:$\ell^2$ は Hilbert 空間で反射的である。Bessel の不等式から $\|\nu(A)\|_2\le\mu(A)^{1/2}$ なので $\nu(A)\in\ell^2$ であり、ex-rnp-c0 と同じ議論で $\nu$ は可算加法的で $\nu\ll\mu$ である。$[0,1)$ を長さ $2^{-m}$ の $2^m$ 個の区間 $J$ に分けると、$n\le m$ で $r_n$ は $J$ の上で定数 $\pm1$ なので $\|\nu(J)\|_2^2\ge m\,4^{-m}$、すなわち $\|\nu(J)\|_2\ge\sqrt m\,2^{-m}$ である。$2^m$ 個の和は $\sqrt m$ 以上なので $|\nu|(\Omega)=\infty$ である。密度 $g$ があれば prop-rnp-variation の 2 から $|\nu|(\Omega)=\int\|g\|<\infty$ となり矛盾する。
5 行目:$\nu$ は有限で、$\mu(\{0\})=0$ だが $\nu(\{0\})=1$ なので $\nu\ll\mu$ でない。密度 $g$ があれば $\int_{\{0\}}g\,d\mu=0$ である。
$E$ が反射的なら $E^*$ も反射的なので(反射的Banach空間 の定理「双対空間の反射性」)、thm-rnp-reflexive により $E^*$ は Radon–Nikodym 性をもつ。Bochner積分 の記事では、$L^{p'}(\Omega;E^*)$ の元が Hölder の不等式によって $L^p(\Omega;E)$ 上の有界線形汎関数を定めることを示している。
Bre11 は第 3 章で、双対空間が可分なら元の空間も可分であること(Theorem 3.26、p. 73)と、可分かつ反射的であることが双対空間に移ること(Corollary 3.27、pp. 73–74)を証明している。この記事の主定理の証明で他の記事・文献から引くのは、この 2 つと、Radon–Nikodymの定理 の補題「上から抑えられた測度の密度」と定理「Radon–Nikodymの定理」、Dynkinのπ-λ定理、反射的Banach空間 の定理「閉部分空間の反射性」、Bochner積分 と Pettisの可測性定理 の基本事項である。
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