有限正則写像

同義語:finite holomorphic map有限な正則写像

概要

有限正則写像(finite holomorphic map)とは、複素解析空間の間の正則写像で、閉写像であり各点の逆像が有限集合であるもの、言い換えると固有でファイバーが有限なもののことである。分岐被覆 $z\mapsto z^n$、モニックな多項式の零点集合の射影(Weierstrass 写像)、正規化が典型例で、層の順像の茎はファイバーの各点での茎の積になり、順像は完全性とコホモロジーを保つ。点がファイバーの孤立点であることは、局所環が下の局所環上の有限生成加群であることと同値で、連接解析層の順像は連接になる(Grauert の有限写像定理)。スキームの有限射の解析的な対応物である。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 複素解析空間, 閉写像, 層, 連接解析層

複素解析空間の間の正則写像 $f\colon X\to Y$ が有限であるとは、$f$ が閉写像で、各点の逆像が有限集合であることをいう。$z\mapsto z^n$ のような分岐被覆、モニックな多項式の零点集合から係数の空間への射影、閉埋め込み、正規化が典型的な例である。スキームの有限射の解析的な対応物であり、有限正則写像による層の順像は、点 $y$ での茎がファイバーの各点での茎の積になる。このため順像は完全性とコホモロジーを保ち、さらに連接解析層の順像は連接になる(Grauert の有限写像定理)。
局所的には、点 $x$ がファイバー $f^{-1}(f(x))$ の孤立点であることと、$\mathcal{O}_{X,x}$ が有限生成 $\mathcal{O}_{Y,f(x)}$ 加群であることが同値になり、このとき $f$ は $x$ の近くで有限写像に制限できる。
この記事では、順像の茎の分解(thm-fh-stalk)と、Weierstrass 写像の順像が自由加群になること(thm-fh-weierstrass-iso)を証明し、局所的な判定(thm-fh-local)を 解析代数 の Weierstrass の有限性定理から導く。

定義

位相空間はすべて Hausdorff 空間とする。複素解析空間は Hausdorff である(複素解析空間 の定義「複素解析空間と正則写像」)。

有限写像と有限正則写像

$X,Y$ を Hausdorff 空間とする。写像 $f\colon X\to Y$ が閉であるとは、$X$ の任意の閉集合の像が $Y$ の閉集合であることをいう。$f$ が有限(finite)であるとは、$f$ が連続かつ閉で、すべての $y\in Y$ についてファイバー $f^{-1}(y)$ が有限集合(空集合でもよい)であることをいう。複素解析空間の間の正則写像で、連続写像として有限なものを有限正則写像(finite holomorphic map)という。

定義は GR79 第 I 章 §1.1 Definition 1(p. 45)による。有限写像は全射とは限らないが、像は閉集合である。恒等写像は有限であり、有限写像の合成は有限である。$f$ が有限なら、閉集合 $X'\subset X$ への制限 $f|_{X'}$ と、開集合 $V\subset Y$ の逆像への制限 $f^{-1}(V)\to V$ も有限である(GR79 同所)。

ファイバーの近傍

$f\colon X\to Y$ を閉写像、$y\in Y$ とし、$U\subset X$ を $f^{-1}(y)$ を含む開集合とする。このとき $y$ の開近傍 $V$ で $f^{-1}(V)\subset U$ となるものがある。

$X\setminus U$ は閉集合なので $f(X\setminus U)$ は閉集合であり、$V:=Y\setminus f(X\setminus U)$ は開集合である。$f^{-1}(y)\subset U$ なので $y\notin f(X\setminus U)$、すなわち $y\in V$ である。$x\in f^{-1}(V)$ なら $f(x)\notin f(X\setminus U)$ なので $x\in U$ である。$\square$

固有写像による言い換え

$f\colon X\to Y$ を局所コンパクト Hausdorff 空間の間の連続写像とする。$f$ が有限であることと、$f$ が固有写像(コンパクト集合の逆像がコンパクト)でファイバーが有限集合であることは同値である。とくに複素解析空間の間の正則写像では、有限とは「固有でファイバーが有限」と同じである。

要点:固有なら閉、逆はファイバーの近傍を lem-fh-nbhd で底の近傍に広げてコンパクト性を移す。

詳細

固有写像は閉写像である(固有写像 の系「固有写像は閉写像」)。逆に $f$ を有限とし、$K\subset Y$ をコンパクト集合、$\{U_i\}$ を $f^{-1}(K)$ の開被覆とする。各 $y\in K$ について有限集合 $f^{-1}(y)$ は有限個の $U_i$ で覆われ、その和 $U_y$ に lem-fh-nbhd を使うと、$y$ の開近傍 $V_y$ で $f^{-1}(V_y)\subset U_y$ となるものがある。有限個の $V_y$ が $K$ を覆うので、対応する有限個の $U_i$ が $f^{-1}(K)$ を覆う。よって $f^{-1}(K)$ はコンパクトである。複素解析空間は局所コンパクトである(局所模型は $\mathbb{C}^n$ の開集合の閉集合。GR79 第 A 章 §3.4、p. 18)。$\square$

順像の茎

$X$ 上の層 $\mathcal{F}$ の順像(直像)$f_*\mathcal{F}$ は、$Y$ の開集合 $V$ に $\mathcal{F}(f^{-1}(V))$ を対応させる層である。$f$ が正則写像で $\mathcal{F}$ が $\mathcal{O}_X$ 加群なら、$h\in\mathcal{O}_Y(V)$ を $f^\sharp(h)\in\mathcal{O}_X(f^{-1}(V))$ として掛けることで $f_*\mathcal{F}$ は $\mathcal{O}_Y$ 加群になる。同様に、各 $x\in f^{-1}(y)$ について $\mathcal{F}_x$ は $f^\sharp\colon\mathcal{O}_{Y,y}\to\mathcal{O}_{X,x}$ を通して $\mathcal{O}_{Y,y}$ 加群になる。

順像の茎はファイバーの茎の積

$f\colon X\to Y$ を有限写像、$\mathcal{F}$ を $X$ 上のアーベル群の層、$y\in Y$ とし、$f^{-1}(y)=\{x_1,\dots,x_t\}$($t\ge0$、相異なる点)とする。$y$ の近傍 $V$ 上の切断 $s\in\mathcal{F}(f^{-1}(V))$ の $y$ での芽に、組 $(s_{x_1},\dots,s_{x_t})$ を対応させる写像
$$ \Phi_y\colon(f_*\mathcal{F})_y\longrightarrow\prod_{i=1}^t\mathcal{F}_{x_i} $$
は群の同型である($t=0$ のとき右辺は $0$)。$f$ が正則写像で $\mathcal{F}$ が $\mathcal{O}_X$ 加群なら、$\Phi_y$ は $\mathcal{O}_{Y,y}$ 加群の同型である。

$f^{-1}(V)$ は各 $x_i$ の近傍なので $s_{x_i}$ は定まり、芽が等しい切断は $y$ のより小さい近傍の逆像で一致するので、$\Phi_y$ は well-defined な準同型である。
単射。芽 $\sigma$ の代表 $s\in\mathcal{F}(f^{-1}(V))$ について $s_{x_i}=0$(すべての $i$)とする。$x_i$ の開近傍 $U_i\subset f^{-1}(V)$ で $s|_{U_i}=0$ となるものをとる。$U:=\bigcup_iU_i$ は $f^{-1}(y)$ を含む開集合なので、lem-fh-nbhd により $y$ の開近傍 $V'\subset V$ で $f^{-1}(V')\subset U$ となるものがある。$s|_{f^{-1}(V')}=0$ なので $\sigma=0$ である。$t=0$ のときは $U=\emptyset$ で、$f^{-1}(V')=\emptyset$ となり $(f_*\mathcal{F})_y=0$ である。
全射。$(\tau_1,\dots,\tau_t)\in\prod_i\mathcal{F}_{x_i}$ を与える。$X$ は Hausdorff なので、互いに交わらない開近傍 $U_i\ni x_i$ と、$\tau_i$ を代表する $s_i\in\mathcal{F}(U_i)$ がとれる。層の貼り合わせにより、$U:=\bigsqcup_iU_i$ 上の切断 $s$ で $s|_{U_i}=s_i$ となるものがある。lem-fh-nbhd により $y$ の開近傍 $V$ で $f^{-1}(V)\subset U$ となるものがあり、$s|_{f^{-1}(V)}$ の芽は $(\tau_1,\dots,\tau_t)$ に写る。
加群の構造。$h\in\mathcal{O}_Y(V)$ と $s\in\mathcal{F}(f^{-1}(V))$ について $(f^\sharp(h)s)_{x_i}=f^\sharp(h)_{x_i}s_{x_i}$ であり、$f^\sharp(h)_{x_i}$ は $h_y$ の $f^\sharp\colon\mathcal{O}_{Y,y}\to\mathcal{O}_{X,x_i}$ による像なので、$\Phi_y$ は $\mathcal{O}_{Y,y}$ 線形である。$\square$

GR79 第 I 章 §1.2 Theorem 3(p. 46)と §1.5(p. 48)に同じ主張と証明がある。

順像の完全性とコホモロジー

$f\colon X\to Y$ を有限写像とする。

  1. $X$ 上のアーベル群の層の完全列 $\mathcal{F}'\to\mathcal{F}\to\mathcal{F}''$ に対し、$f_*\mathcal{F}'\to f_*\mathcal{F}\to f_*\mathcal{F}''$ は完全である。
  2. $X$ 上のアーベル群の層 $\mathcal{F}$ と $q\ge0$ について、$H^q(X,\mathcal{F})\cong H^q(Y,f_*\mathcal{F})$ である。

1:層の射 $\varphi\colon\mathcal{F}'\to\mathcal{F}$ について、$\Phi_y\circ(f_*\varphi)_y=\bigl(\prod_i\varphi_{x_i}\bigr)\circ\Phi'_y$ が成り立つ(両辺とも切断 $s$ の芽を $(\varphi(s)_{x_i})_i$ に写す)。thm-fh-stalk により、$y$ での茎の列は $\prod_i\mathcal{F}'_{x_i}\to\prod_i\mathcal{F}_{x_i}\to\prod_i\mathcal{F}''_{x_i}$ と同型であり、これは完全列の有限個の積なので完全である。層の列の完全性は茎ごとに判定できる。
2:

脆弱分解を順像で写す

$\mathcal{F}\to\mathcal{G}^0\to\mathcal{G}^1\to\cdots$ を脆弱層による分解とする。脆弱層の順像は脆弱であり(脆弱層 の命題「制限・順像・直積と flasque 性」)、1 により $f_*\mathcal{F}\to f_*\mathcal{G}^\bullet$ も完全なので、$f_*\mathcal{G}^\bullet$ は $f_*\mathcal{F}$ の脆弱分解である。$\Gamma(Y,f_*\mathcal{G}^q)=\Gamma(X,\mathcal{G}^q)$ で、微分も一致するので、脆弱層 の系「flasque 分解によるコホモロジーの計算」により両辺のコホモロジーは同じ複体のコホモロジーとして一致する(GR79 第 I 章 §1.4 Theorem 5、p. 47)。$\square$

Weierstrass 写像

有限正則写像の基本の例は、モニックな多項式の零点集合を係数の空間へ射影する写像である。$B\subset\mathbb{C}^n$ を領域とし、
$$ \omega(w,z)=w^b+a_1(z)w^{b-1}+\cdots+a_b(z)\qquad(a_j\in\mathcal{O}(B),\ b\ge1) $$
とする。$A:=\{(w,z)\in\mathbb{C}\times B\mid\omega(w,z)=0\}$ に局所模型の構造層 $\mathcal{O}_A:=(\mathcal{O}/\omega\mathcal{O})|_A$ を載せ($\mathcal{O}$ は $\mathbb{C}\times B$ の構造層)、射影 $\pi\colon A\to B$、$(w,z)\mapsto z$ を $\omega$ の Weierstrass 写像とよぶ。

Weierstrass 写像は有限

$\pi\colon A\to B$ は全射な有限正則写像であり、各ファイバーは高々 $b$ 点からなる。

要点:根は係数で一様に抑えられるので、底の収束列の上の根の列は収束部分列をもつ。

詳細

$\pi^{-1}(z)$ は $\omega(\cdot,z)$ の根の集合なので、代数学の基本定理 により空でなく、高々 $b$ 点である。閉写像であることを示す。$c$ が $\omega(\cdot,z)$ の根で $|c|>1$ なら、$c^b=-\sum_ja_j(z)c^{b-j}$ を $|c|^{b-1}$ で割って $|c|\le\sum_j|a_j(z)|\,|c|^{1-j}\le\sum_j|a_j(z)|$ となるので、つねに $|c|\le\max\{1,\sum_{j=1}^b|a_j(z)|\}$ である。$M\subset A$ を閉集合とし、$y\in B$ を $\pi(M)$ の点列 $y_\nu=\pi(c_\nu,y_\nu)$($(c_\nu,y_\nu)\in M$)の極限とする。$a_j(y_\nu)\to a_j(y)$ なので $a_j(y_\nu)$ は有界であり、上の評価から $(c_\nu)$ は有界である。部分列をとって $c_\nu\to c$ とすると、$\omega$ の連続性から $(c,y)\in A$ であり、$M$ は $A$ の閉集合なので $(c,y)\in M$、すなわち $y\in\pi(M)$ である。$B$ は距離空間なので、これで $\pi(M)$ は閉集合である(GR79 第 I 章 §2.1 Theorem 1、p. 49)。$\square$

Weierstrass 同型

$\pi\colon A\to B$ を $\omega$ の Weierstrass 写像とする。$B$ の開集合 $U$ 上の $(r_0,\dots,r_{b-1})\in\mathcal{O}_B(U)^b$ に、多項式 $\sum_jr_jw^j$ の $\mathcal{O}_A(\pi^{-1}(U))$ での類を対応させる $\mathcal{O}_B$ 加群の射
$$ T\colon\mathcal{O}_B^{\,b}\longrightarrow\pi_*\mathcal{O}_A $$
は同型である。とくに $\pi_*\mathcal{O}_A$ は階数 $b$ の自由 $\mathcal{O}_B$ 加群であり、$A$ 上の任意の連接解析層 $\mathcal{F}$ について $\pi_*\mathcal{F}$ は連接解析層である。

$T$ が制限と両立する $\mathcal{O}_B$ 線形な射であることは明らかなので、各点 $z\in B$ で茎の写像 $T_z$ が全単射であることを示せばよい。$\pi^{-1}(z)=\{x_1,\dots,x_t\}$、$x_i=(w_i,z)$ とする。thm-fh-stalk により $(\pi_*\mathcal{O}_A)_z\cong\prod_i\mathcal{O}_{A,x_i}=\prod_i\mathcal{O}_{x_i}/\omega\mathcal{O}_{x_i}$ であり($\mathcal{O}_{x_i}$ は $\mathbb{C}\times B$ の $x_i$ での正則関数の芽の環)、この同一視のもとで $T_z$ は
$$ \mathcal{O}_{B,z}^{\,b}\longrightarrow\prod_{i=1}^t\mathcal{O}_{x_i}/\omega\mathcal{O}_{x_i},\qquad(r_j)\longmapsto\Bigl(\textstyle\sum_jr_jw^j\bmod\omega\Bigr)_i $$
である。$z$ を原点に平行移動すると $\omega(w,z)$ は Weierstrassの割り算定理 の定理「いくつかの点での割り算」の仮定をみたす($\omega(\cdot,z)$ の相異なる根が $w_1,\dots,w_t$)。全射:$f_i\in\mathcal{O}_{x_i}$ を与えると、同定理により $f_i=q_i\omega+r$(各 $x_i$ の近くで)となる次数 $b$ 未満の多項式 $r=\sum_jr_jw^j$ があり、$T_z(r_j)=(f_i\bmod\omega)_i$ である。単射:$T_z(r_j)=0$ なら $r=q_i\omega$(各 $x_i$ の近くで)となる $q_i$ があり、$0=(-q_i)\omega+r$ と $0=0\cdot\omega+0$ はどちらも $0$ の割り算なので、同定理の一意性により $r=0$ である。

連接性の証明

$\mathcal{F}$ を $A$ 上の連接解析層、$z\in B$ とする。各 $x_i$ の開近傍 $U_i$ 上に完全列 $\mathcal{O}_{U_i}^{\,q}\to\mathcal{O}_{U_i}^{\,p}\to\mathcal{F}|_{U_i}\to0$ をとる($p,q$ は $i$ によらないとしてよい。足りない分は $\mathcal{O}\xrightarrow{\mathrm{id}}\mathcal{O}$ を両方に足す)。$U_i$ は互いに交わらないとし、lem-fh-nbhd で $z$ の開近傍 $V$ を $\pi^{-1}(V)\subset\bigsqcup_iU_i$ となるようにとる。$\pi^{-1}(V)\to V$ も Weierstrass 写像の制限として有限なので、cor-fh-exact の 1 により $(\pi_*\mathcal{O}_A)^q|_V\to(\pi_*\mathcal{O}_A)^p|_V\to\pi_*\mathcal{F}|_V\to0$ は完全である。$\pi_*\mathcal{O}_A\cong\mathcal{O}_B^{\,b}$ なので $\pi_*\mathcal{F}|_V$ は $\mathcal{O}_V^{\,bq}\to\mathcal{O}_V^{\,bp}$ の余核であり、連接解析層 の命題「連接解析層の基本性質」の 3 により連接である。$\square$

GR79 第 I 章 §2.3 Theorem 3(p. 51)、§2.4 Theorem 4(pp. 51–52)に同じ主張がある。連接性の部分では $\mathcal{O}_B$ の連接性(岡の連接定理)が本質的に使われる。

局所的な判定

ファイバーの孤立点と有限性

$f\colon X\to Y$ を複素解析空間の正則写像、$x\in X$、$y:=f(x)$ とする。次の 1–3 は同値である。

  1. $x$ は $f^{-1}(y)$ の孤立点である。
  2. $\dim_{\mathbb{C}}\mathcal{O}_{X,x}/\mathfrak{m}_y\mathcal{O}_{X,x}< \infty$ である($\mathfrak{m}_y\mathcal{O}_{X,x}$ は $f^\sharp(\mathfrak{m}_y)$ が生成するイデアル)。
  3. $\mathcal{O}_{X,x}$ は $f^\sharp$ を通して有限生成 $\mathcal{O}_{Y,y}$ 加群である。
    さらに、これらは次の 4 と同値である。
  4. $x$ の開近傍 $U$ と $y$ の開近傍 $V$ で $f(U)\subset V$ となるものがあって、$f|_U\colon U\to V$ は有限である。

2 ⇔ 3。$\mathcal{O}_{X,x}$ と $\mathcal{O}_{Y,y}$ は解析代数であり(解析代数 の例「解析代数の例」)、$f^\sharp$ は解析代数の射なので、解析代数 の系「有限な射の判定」そのものである。
1 ⇔ 2。$x$ の近くで $X$ を局所模型 $V(g_1,\dots,g_r)\subset D\subset\mathbb{C}^N$($x=0$)とし、$y$ の近くで $Y$ を $\mathbb{C}^M$ の局所模型($y=0$)とする。座標関数 $v_1,\dots,v_M$ の像は $\mathfrak{m}_y$ を生成し、$h_j:=f^\sharp(v_j)$ は $0$ の近くで正則な関数(の $X$ への制限)で $h_j(0)=0$ である。ファイバーは $x$ の近くで集合として $\{u\mid g(u)=0,\ h(u)=0\}$ であり、
$$ \mathcal{O}_{X,x}/\mathfrak{m}_y\mathcal{O}_{X,x}=\mathbb{C}\{u\}/K,\qquad K:=(g_1,\dots,g_r,h_1,\dots,h_M) $$
である。$x$ が孤立点なら、$K$ の零点集合の $0$ での芽は $\{0\}$ であり、$\{0\}$ の上で消える芽の全体は極大イデアル $\mathfrak{m}=(u_1,\dots,u_N)$ なので、Rückertの零点定理 により $\sqrt K=\mathfrak{m}$ である。$\mathfrak{m}$ は有限生成なので $\mathfrak{m}^k\subset K$ となる $k$ があり、$\mathbb{C}\{u\}/K$ は有限次元の $\mathbb{C}\{u\}/\mathfrak{m}^k$ の商である。逆に $\mathbb{C}\{u\}/K$ が有限次元なら、その極大イデアルは冪零であり(解析代数 の命題「有限次元の局所 $\mathbb{C}$ 代数は解析代数」の証明)、$u_i^k\in K$ となる $k$ がある。すると $0$ の近くの $K$ の零点では $u_i^k=0$、すなわち $u=0$ なので、$x$ は孤立点である。
4 ⇒ 1。$f|_U$ のファイバー $f^{-1}(y)\cap U$ は有限集合で、$U$ は開集合なので $x$ は $f^{-1}(y)$ の孤立点である。
1 ⇒ 4 は GR79 第 I 章 §3.2 Corollary(p. 54)による。この記事では証明しない。$\square$

1 ⇒ 4 の証明は、$X$ を $\mathbb{C}^N\times Y$ に埋め込み、座標を 1 つずつ Weierstrass 写像で落としていく射影定理(GR79 第 I 章 §3.1 Theorem 1、p. 52)による。有限正則写像 $f$ と $y\in Y$ について、ファイバーの各点は孤立点なので、$(f_*\mathcal{O}_X)_y\cong\prod_i\mathcal{O}_{X,x_i}$(thm-fh-stalk)は有限生成 $\mathcal{O}_{Y,y}$ 加群である。

Grauert の有限写像定理

Grauert の有限写像定理

$f\colon X\to Y$ を有限正則写像、$\mathcal{F}$ を $X$ 上の連接解析層とする。このとき $f_*\mathcal{F}$ は $Y$ 上の連接解析層である。

所在と証明の筋

GR79 第 I 章 §3.3 Theorem 3(pp. 54–55)による。この記事では証明しない。証明は、まず $x$ の近くで thm-fh-local の 4 の局所的な形(連接層の台に制限した写像が有限で、順像が連接)を射影定理で示し、Weierstrass 写像の場合は thm-fh-weierstrass-iso に帰着する。最後に、ファイバーの各点の交わらない近傍 $U_i$ について $f_*\mathcal{F}|_V=\bigoplus_i(f|_{U_i\cap f^{-1}(V)})_*\mathcal{F}$ と分け、有限直和の連接性を使う。複素解析空間 の定理「Grauert の直像定理」(固有な正則写像の高次順像の連接性)の、$q=0$ で $f$ が有限な場合にあたる。

有限正則写像の像

$f\colon X\to Y$ を有限正則写像、$\mathcal{F}$ を $X$ 上の連接解析層とする。$\operatorname{Supp}f_*\mathcal{F}=f(\operatorname{Supp}\mathcal{F})$ であり、これは $Y$ の解析的部分集合である。とくに $f(X)$ は $Y$ の解析的部分集合である。

thm-fh-stalk により $(f_*\mathcal{F})_y\cong\prod_{x\in f^{-1}(y)}\mathcal{F}_x$ なので、$(f_*\mathcal{F})_y\neq0$ はある $x\in f^{-1}(y)$ で $\mathcal{F}_x\neq0$ となることと同値であり、$\operatorname{Supp}f_*\mathcal{F}=f(\operatorname{Supp}\mathcal{F})$ である。thm-fh-grauert により $f_*\mathcal{F}$ は連接なので、その台は解析的部分集合である(連接解析層 の定理「台とファイバーの次元の解析性」)。$\mathcal{F}=\mathcal{O}_X$ とすれば $\operatorname{Supp}\mathcal{O}_X=X$ である。$\square$

例

有限正則写像の例
  1. 冪写像:$f\colon\mathbb{C}\to\mathbb{C}$、$w\mapsto w^n$ は $\omega=w^n-z$ の Weierstrass 写像と同一視できる($A=\{w^n=z\}$ は $w$ を座標として $\mathbb{C}$ と同型)。thm-fh-weierstrass-iso により $f_*\mathcal{O}_{\mathbb{C}}$ は $1,w,\dots,w^{n-1}$ を基底とする階数 $n$ の自由 $\mathcal{O}_{\mathbb{C}}$ 加群である。$z\neq0$ での茎は $n$ 個の点での茎の積、$z=0$ での茎は $\mathbb{C}\{w\}=\bigoplus_{j< n}\mathbb{C}\{w^n\}w^j$ である。
  2. 閉埋め込み:閉解析的部分空間の包含は単射な閉写像なので有限である。
  3. 尖点の正規化:$\nu\colon\mathbb{C}\to C=V(z^2-w^3)$、$t\mapsto(t^3,t^2)$ は同相写像なので有限である(複素解析空間の特異点 の例「尖点」)。$(\nu_*\mathcal{O}_{\mathbb{C}})_0=\mathbb{C}\{t\}$ は $\mathcal{O}_{C,0}$ 加群として $1,t$ で生成され(解析代数 の例「有限な射と有限でない射」)、1 個の元では生成されない($\mathbb{C}\{t\}/\mathfrak{m}_{C,0}\mathbb{C}\{t\}$ が 2 次元)。原点以外では $\nu$ は双正則(逆写像 $(z,w)\mapsto z/w$ が $w\neq0$ で正則)なので、$\nu_*\mathcal{O}_{\mathbb{C}}$ の茎は $\mathcal{O}_C$ の茎と同型である。よって $\nu_*\mathcal{O}_{\mathbb{C}}$ は連接だが原点で局所自由でない(局所自由なら階数は $1$ で、原点の茎も 1 個の元で生成されるはずである)。

反例

外す条件反例成り立たなくなること
閉写像であること開円板 $D=\{\lvert z\rvert<1\}$ の包含 $j\colon D\to\mathbb{C}$$(j_*\mathcal{O}_D)_1\neq0$ だが $j^{-1}(1)=\emptyset$(thm-fh-stalk)。$j_*\mathcal{O}_D$ は連接でない(thm-fh-grauert)
ファイバーが有限であること$\mathbb{C}$ から 1 点への写像$f_*\mathcal{O}_{\mathbb{C}}=\mathcal{O}(\mathbb{C})$ は無限次元で連接でない(thm-fh-grauert)
$x$ がファイバーの孤立点であること$X=V(xy)\subset\mathbb{C}^2$ から $\mathbb{C}$ への $(x,y)\mapsto x$、原点$\mathcal{O}_{X,0}$ は有限生成 $\mathbb{C}\{x\}$ 加群でなく、原点の近傍への制限はどれも有限でない(thm-fh-local)
反例の確かめ

1 行目:$j$ は連続な単射でファイバーは有限だが、$D$ は閉集合なのに像 $D$ は $\mathbb{C}$ の閉集合でない。点 $1$ の近傍 $V$ について $j_*\mathcal{O}_D(V)=\mathcal{O}(D\cap V)$ は定数関数 $1$ を含み $0$ でないので、$(j_*\mathcal{O}_D)_1\neq0$ である。同様に $\operatorname{Supp}j_*\mathcal{O}_D=\overline D$(閉円板)であり、連結な $\mathbb{C}$ の真の解析的部分集合は離散なので(複素解析空間 の命題「1 次元の空間の解析的部分集合」)、$\overline D$ は解析的部分集合でない。よって $j_*\mathcal{O}_D$ は連接でない(連接層の台は解析的部分集合)。
2 行目:1 点への写像は連続で閉であり、ファイバー $\mathbb{C}$ だけが無限である。1 点(構造層 $\mathbb{C}$)の上の連接層は有限次元のベクトル空間だが、$\mathcal{O}(\mathbb{C})$ は多項式全体を含むので無限次元である。
3 行目:$f^{-1}(0)=\{(0,y)\}$ は $y$ 軸全体で、原点は孤立点でない。$\mathcal{O}_{X,0}/x\mathcal{O}_{X,0}=\mathbb{C}\{x,y\}/(xy,x)\cong\mathbb{C}\{y\}$ は無限次元である。原点の近傍 $U$ はどれも $y$ 軸の小さな区間を含むので、$f|_U$ の $0$ の上のファイバーは無限集合である。

補足

  • スキームの有限射との対応:スキームの有限射も閉写像でファイバーが有限であり(同記事の命題「閉集合の像」「ファイバーの点数は有限」)、構造層の順像が有限生成になる。解析的な定義が「閉でファイバーが有限」という位相的な条件だけで済むのは、thm-fh-local と thm-fh-grauert により順像の有限性が自動的に従うからである。
  • Stein 空間との関係:Stein 空間の理論では、コンパクト集合を $\mathbb{C}^m$ の閉直方体の積(ブロック)に有限正則写像で写す「解析的ブロック」を使い、Cartanの定理A・B をブロックの場合(同書第 III 章)から有限写像で移す(GR79 序論 p. XX、第 IV 章)。そこでは cor-fh-exact の 2 が使われる。

関連項目

参考文献

[1]
Hans Grauert, Reinhold Remmert, Theory of Stein Spaces, Springer, 1979, 第 A 章 §3.4(p. 18)、第 I 章 §1(pp. 45–48、有限写像と順像)、§2(pp. 48–52、Weierstrass 写像と Weierstrass 同型)、§3(pp. 52–55、射影定理・局所の場合・有限写像定理)、序論(Introduction、p. XX)

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