分母の有理化と数の体(rationalizing denominators)とは、分母が $a+b\sqrt2$ の分数に共役 $a-b\sqrt2$ を掛けて分母の根号を消す計算を、$p+q\sqrt2$($p,q$ は有理数)の形の数全体 $\mathbb{Q}(\sqrt2)$ が四則で閉じている(体である)という事実として読み直す見方である。$\sqrt2$ が無理数なので、$p+q\sqrt2$ の表し方はただ 1 通りで、$(p,q)\ne(0,0)$ ならノルム $p^2-2q^2$ は $0$ でなく、逆数は $\frac{p-q\sqrt2}{p^2-2q^2}$ になる。共役は和と積を保ち、ノルムは積を保つ。係数を整数に限ると割り算で閉じず、$\sqrt2$ を $\sqrt[3]2$ に替えると 2 項の形 $p+q\sqrt[3]2$ は積で閉じない。
前提知識: 実数とは何か:無理数の証明, 展開と因数分解の公式
分母に根号を含む分数を、分母に根号を含まない形に直すことを 分母の有理化 という。分母が $a+b\sqrt2$ の形なら、分母と分子に $a-b\sqrt2$ を掛けて、公式 $(x+y)(x-y)=x^2-y^2$ で分母から根号を消す(展開と因数分解の公式)。
1 では $p=0$、$q=\dfrac12$、2 では $p=-1$、$q=1$、3 では $p=4$、$q=\dfrac52$ である($p,q$ は有理数)。
3 つの答えは、どれも $p+q\sqrt2$($p,q$ は有理数)の形をしている。この記事では、この観察を出発点にして次の問いに答える。
| 高校の計算 | この記事での見方 | ボックス |
|---|---|---|
| 分母の有理化 | $p+q\sqrt2$ の形の数の逆数が、また同じ形になる | thm-rd-field |
| 共役 $a-b\sqrt2$ を掛ける | 共役とノルム $a^2-2b^2$ | def-rd-conj-norm |
| 掛けた分母が $0$ にならない | $\sqrt2$ の無理数性 | lem-rd-norm-nonzero |
| 係数を比べる | $p+q\sqrt2$ の表し方がただ 1 通り | thm-rd-field |
| 分母に $\sqrt2$ と $\sqrt3$ | 体をもう 1 段広げる | ex-rd-two-steps |
実数の集まり $F$ が次の 2 つを満たすとき、$F$ は 四則で閉じている という。
大学の数学では、体は実数の集まりに限らず、四則の規則を満たす演算をもつ集まりとして一般に定義する(体)。この記事では実数の集まりだけを考える。
$b,d\ne0$ の分数について $\dfrac ab\pm\dfrac cd=\dfrac{ad\pm bc}{bd}$、$\dfrac ab\cdot\dfrac cd=\dfrac{ac}{bd}$ はまた分数で、$\dfrac cd\ne0$(つまり $c\ne0$)なら $\dfrac ab\mathbin{÷}\dfrac cd=\dfrac{ad}{bc}$ も分数である。
4. 正の有理数全体の集まりは体でない。$0$ を含まず、$1-2=-1$ も入らない。
分母の有理化の答えに現れた数を集めたものに、名前を付ける。
$$
\mathbb{Q}(\sqrt2)=\{p+q\sqrt2\mid p,q\text{ は有理数}\},\qquad \mathbb{Z}[\sqrt2]=\{p+q\sqrt2\mid p,q\text{ は整数}\}
$$
と書く。$\mathbb{Q}(\sqrt2)$ は「$\mathbb{Q}$ に $\sqrt2$ を付け加えた集まり」と読む。
3. 有理数 $p$ は $p+0\cdot\sqrt2$ と書けるので $\mathbb{Q}(\sqrt2)$ に入る。$\sqrt2=0+1\cdot\sqrt2$ も入る。
4. ex-rd-start の 2 により、$\dfrac1{1+\sqrt2}=-1+\sqrt2$ は $\mathbb{Z}[\sqrt2]$ に入る。
有理化で掛けた後の分母は $p^2-2q^2$ の形になる。まず、これが $0$ にならないことを確かめる。ここで $\sqrt2$ が無理数であることを使う(証明は 実数とは何か:無理数の証明)。
$p,q$ を有理数とする。$p^2-2q^2=0$ ならば $p=q=0$ である。
$q\ne0$ と仮定して矛盾を導く。$p^2=2q^2$ の両辺を $q^2$ で割ると $\left(\dfrac pq\right)^2=2$ である。よって $\left\lvert\dfrac pq\right\rvert=\sqrt2$ となる。左辺は有理数どうしの商の絶対値なので有理数であり、$\sqrt2$ が無理数であることに反する。したがって $q=0$ である。このとき $p^2=2q^2=0$ なので $p=0$ である。$\square$
方針:1 は「$\sqrt2$ が有理数でない」ことから出す。2 は、和・差・積を展開で確かめ、逆数は分母の有理化で作る。有理化した分母が $0$ でないことは lem-rd-norm-nonzero による。
段 1(表し方の一意性)。$p+q\sqrt2=p'+q'\sqrt2$ を移項すると $p-p'=(q'-q)\sqrt2$ である。$q'\ne q$ と仮定すると、両辺を $q'-q$ で割って
$$
\sqrt2=\frac{p-p'}{q'-q}
$$
となる。右辺は有理数の差を有理数の差で割ったものなので有理数であり、$\sqrt2$ が無理数であることに反する。よって $q'=q$ である。このとき $p-p'=0\cdot\sqrt2=0$ なので $p=p'$ である。
段 2($0$・$1$ と和・差)。$0=0+0\cdot\sqrt2$、$1=1+0\cdot\sqrt2$ なので、$0$ と $1$ は $\mathbb{Q}(\sqrt2)$ に入る。和と差は
$$
(p+q\sqrt2)\pm(r+s\sqrt2)=(p\pm r)+(q\pm s)\sqrt2
$$
であり、$p\pm r$、$q\pm s$ は有理数なので、$\mathbb{Q}(\sqrt2)$ に入る。
段 3(積)。分配法則で展開し、$(\sqrt2)^2=2$ を使うと
$$
(p+q\sqrt2)(r+s\sqrt2)=pr+ps\sqrt2+qr\sqrt2+qs(\sqrt2)^2=(pr+2qs)+(ps+qr)\sqrt2
$$
である。$pr+2qs$ と $ps+qr$ は有理数なので、積は $\mathbb{Q}(\sqrt2)$ に入る。
段 4(逆数)。$\alpha=p+q\sqrt2\ne0$ とする。$p=q=0$ なら $\alpha=0$ になるので、$p,q$ の少なくとも一方は $0$ でない。lem-rd-norm-nonzero の対偶により $p^2-2q^2\ne0$ である。段 3 の式で $r=p$、$s=-q$ とおくと
$$
(p+q\sqrt2)(p-q\sqrt2)=(p^2-2q^2)+(-pq+qp)\sqrt2=p^2-2q^2
$$
である。両辺を $0$ でない有理数 $p^2-2q^2$ で割ると
$$
(p+q\sqrt2)\cdot\frac{p-q\sqrt2}{p^2-2q^2}=1
$$
となる。よって $\dfrac1\alpha=\dfrac{p-q\sqrt2}{p^2-2q^2}=\dfrac p{p^2-2q^2}-\dfrac q{p^2-2q^2}\sqrt2$ であり、これは $\mathbb{Q}(\sqrt2)$ に入る。
段 5(割り算)。$\beta\ne0$ のとき $\dfrac\alpha\beta=\alpha\cdot\dfrac1\beta$ である。段 4 により $\dfrac1\beta$ は $\mathbb{Q}(\sqrt2)$ に入り、段 3 により積 $\alpha\cdot\dfrac1\beta$ も入る。
以上で、$\mathbb{Q}(\sqrt2)$ が def-rd-field の 2 つの条件を満たすことが示された。$\square$
段 4 は、高校で習う分母の有理化そのものである。lem-rd-norm-nonzero は、この計算で分母が $0$ になる心配がないことを保証している。段 1 が問い 2 への答えで、これがあるから「係数を比べる」計算ができる。
逆に掛けて $\sqrt2\,(1+\sqrt2)=\sqrt2+2$ となり、確かに合っている。
$(x+y\sqrt2)^2=3+2\sqrt2$ を満たす有理数 $x,y$ を求める。左辺を展開すると $(x^2+2y^2)+2xy\sqrt2$ である。thm-rd-field の 1(表し方の一意性)により、係数を比べて
$$
x^2+2y^2=3,\qquad 2xy=2
$$
である。2 つ目から $xy=1$ なので $x\ne0$ で、$y=\dfrac1x$ である。これを 1 つ目に代入して両辺に $x^2$ を掛けると $x^4-3x^2+2=0$、つまり $(x^2-1)(x^2-2)=0$ となる。$x$ は有理数なので $x^2=2$ にはならず($\sqrt2$ は無理数)、$x^2=1$、$x=\pm1$、$y=\pm1$(複号同順)である。よって $x+y\sqrt2=\pm(1+\sqrt2)$ である。
とくに $\sqrt{3+2\sqrt2}=1+\sqrt2$ である(両辺とも正なので、正の方をとる)。このように根号の中の根号を外す計算は、次の記事 二重根号 の主題である。
thm-rd-field の 1 により、$\mathbb{Q}(\sqrt2)$ の数は $p+q\sqrt2$ の形にただ 1 通りに書ける。だから、「$\sqrt2$ の前の符号を変える」操作が、数そのものに対してきちんと定まる。
$\alpha=p+q\sqrt2$($p,q$ は有理数)に対し
$$
\alpha'=p-q\sqrt2
$$
を $\alpha$ の 共役 という。また
$$
N(\alpha)=\alpha\alpha'=(p+q\sqrt2)(p-q\sqrt2)=p^2-2q^2
$$
を $\alpha$ の ノルム という。ノルムはいつも有理数である。
3. $\alpha=1+2\sqrt2$:$N(\alpha)=1-8=-7$ である。
4. $\alpha=\sqrt2$:$\alpha'=-\sqrt2$、$N(\alpha)=0-2=-2$ である。
5. 有理数 $\alpha=5$:$\alpha'=5$、$N(\alpha)=25$ である。有理数は共役をとっても変わらない。
有理化の計算は、ノルムを使うと次の 1 行にまとまる。
$$
\frac1{p+q\sqrt2}=\frac{p-q\sqrt2}{\underbrace{(p+q\sqrt2)(p-q\sqrt2)}_{N(\alpha)\,=\,p^2-2q^2\ (\text{有理数})}}
$$
共役 $\alpha'$ を掛けるのは、$\alpha\alpha'$ が根号を含まない数(有理数)になるからである。共役が役に立つ理由は、それだけではない。次の定理のとおり、共役は和と積と両立し、そのためノルムは積を保つ。
$\alpha,\beta$ を $\mathbb{Q}(\sqrt2)$ の数とする。
方針:1 は両辺を $p+q\sqrt2$ の形に展開して比べる。2 は 1 から出る。3 は lem-rd-norm-nonzero から出る。
$\alpha=p+q\sqrt2$、$\beta=r+s\sqrt2$($p,q,r,s$ は有理数)とおく。
段 1(和)。$\alpha+\beta=(p+r)+(q+s)\sqrt2$ なので、共役の定義により $(\alpha+\beta)'=(p+r)-(q+s)\sqrt2$ である。一方 $\alpha'+\beta'=(p-q\sqrt2)+(r-s\sqrt2)=(p+r)-(q+s)\sqrt2$ である。両者は等しい。
段 2(積)。thm-rd-field の積の式により $\alpha\beta=(pr+2qs)+(ps+qr)\sqrt2$ なので
$$
(\alpha\beta)'=(pr+2qs)-(ps+qr)\sqrt2
$$
である。一方、同じ積の式で $q,s$ を $-q,-s$ に替えると
$$
\alpha'\beta'=(p-q\sqrt2)(r-s\sqrt2)=\bigl(pr+2(-q)(-s)\bigr)+\bigl(p(-s)+(-q)r\bigr)\sqrt2=(pr+2qs)-(ps+qr)\sqrt2
$$
である。両者は等しい。
段 3(ノルムの積)。ノルムの定義と段 2 により
$$
N(\alpha\beta)=(\alpha\beta)(\alpha\beta)'=\alpha\beta\,\alpha'\beta'=(\alpha\alpha')(\beta\beta')=N(\alpha)N(\beta)
$$
である。途中で、掛け算の順序を入れ替えてよいこと(交換法則・結合法則)を使った。
段 4(逆数)。$\alpha\ne0$ なら $p,q$ の少なくとも一方は $0$ でないので、lem-rd-norm-nonzero により $N(\alpha)=p^2-2q^2\ne0$ である。$\alpha\cdot\dfrac{\alpha'}{N(\alpha)}=\dfrac{\alpha\alpha'}{N(\alpha)}=\dfrac{N(\alpha)}{N(\alpha)}=1$ なので、$\dfrac1\alpha=\dfrac{\alpha'}{N(\alpha)}$ である。$\square$
もし展開を誤って $1+3\sqrt2$ と書いていたら、ノルムは $1-18=-17$ となり、$-7$ と合わないので誤りに気づける。
実際 $9-8=1$、$49-50=-1$、$289-288=1$ である。
ex-rd-norm-check の 2 で得た数を、$p+q\sqrt2$ を平面の点 $(p,q)$ に対応させて描いたのが図 1 である。$(1+\sqrt2)^n$ に対応する点は、双曲線 $p^2-2q^2=1$ と $p^2-2q^2=-1$ の上に交互に並ぶ。これらは整数の組 $(p,q)$ で $p^2-2q^2=\pm1$ を満たすもの、つまり Pell 方程式の解である(Pell方程式)。
p + q√2 を平面の点 (p, q) で表した図。1、1+√2、(1+√2)² などの点が、ノルムが 1 の双曲線 p² − 2q² = 1(青)とノルムが −1 の双曲線 p² − 2q² = −1(赤)の上に交互に並ぶ
ノルムが $\pm1$ の数は、$\mathbb{Z}[\sqrt2]$ の中で割り算ができるという特別な性質をもつ。
$\alpha$ を $\mathbb{Z}[\sqrt2]$ の $0$ でない数とする。$\dfrac1\alpha$ が $\mathbb{Z}[\sqrt2]$ に入るのは、$N(\alpha)=1$ または $N(\alpha)=-1$ のときであり、そのときに限る。
要点:$\mathbb{Z}[\sqrt2]$ の数のノルムは整数なので、$N(\alpha)N(\beta)=1$ となるのは $N(\alpha)=\pm1$ のときだけである。逆に $N(\alpha)=\pm1$ なら $\dfrac1\alpha=\pm\alpha'$ である。
$\alpha=p+q\sqrt2$($p,q$ は整数)とおく。$N(\alpha)=p^2-2q^2$ は整数である。
段 1(逆数が入るならノルムは $\pm1$)。$\beta=\dfrac1\alpha$ が $\mathbb{Z}[\sqrt2]$ に入るとする。$\alpha\beta=1$ なので、thm-rd-norm の 2 により $N(\alpha)N(\beta)=N(1)=1$ である。$N(\alpha)$ と $N(\beta)$ はどちらも整数で、積が $1$ なので、どちらも $1$ か、どちらも $-1$ である。
段 2(ノルムが $\pm1$ なら逆数が入る)。$N(\alpha)=\pm1$ なら、thm-rd-norm の 3 により $\dfrac1\alpha=\dfrac{\alpha'}{\pm1}=\pm(p-q\sqrt2)$(複号同順)であり、係数は整数なので $\mathbb{Z}[\sqrt2]$ に入る。$\square$
たとえば $N(1+\sqrt2)=-1$ なので $\dfrac1{1+\sqrt2}=-(1-\sqrt2)=\sqrt2-1$ であり、ex-rd-start の 2 と一致する。一方 $N(1+2\sqrt2)=-7$ なので、$\dfrac1{1+2\sqrt2}$ は $\mathbb{Z}[\sqrt2]$ に入らない。整数の世界で割り算ができる条件を調べる点で、これは 合同式の割り算と逆元 の「$a$ と $n$ が互いに素なら $a$ は逆元をもつ」と同じ種類の問いである。
どんな数の集まりでも四則で閉じるわけではない。$\mathbb{Q}(\sqrt2)$ と似た集まりを並べて比べる。
| 集まり | 和・差 | 積 | $0$ 以外での割り算 | 体か | 確かめるボックス |
|---|---|---|---|---|---|
| $\mathbb{Q}$ | 閉じる | 閉じる | 閉じる | 体 | ex-rd-closed |
| $\mathbb{Z}[\sqrt2]=\{p+q\sqrt2\mid p,q\in\mathbb{Z}\}$ | 閉じる | 閉じる | 閉じない | 体でない | ex-rd-cx-integer |
| $\mathbb{Q}(\sqrt2)=\{p+q\sqrt2\mid p,q\in\mathbb{Q}\}$ | 閉じる | 閉じる | 閉じる | 体 | thm-rd-field |
| $\{p+q\sqrt[3]2\mid p,q\in\mathbb{Q}\}$ | 閉じる | 閉じない | — | 体でない | ex-rd-cuberoot |
| $\{p+q\sqrt[3]2+r\sqrt[3]4\mid p,q,r\in\mathbb{Q}\}$ | 閉じる | 閉じる | 閉じる | 体 | ex-rd-cuberoot(例のみ) |
書けたとして矛盾を導く。$\sqrt[3]4=p+q\sqrt[3]2$ の両辺に $\sqrt[3]2$ を掛けると、$\sqrt[3]4\cdot\sqrt[3]2=\sqrt[3]8=2$ なので $$2=p\sqrt[3]2+q\sqrt[3]4=p\sqrt[3]2+q(p+q\sqrt[3]2)=pq+(p+q^2)\sqrt[3]2$$ となる。$p+q^2\ne0$ なら $\sqrt[3]2=\dfrac{2-pq}{p+q^2}$ は有理数になるが、$\sqrt[3]2$ は無理数である($1<\sqrt[3]2<2$ で、整数の 3 乗根は整数か無理数である。実数とは何か:無理数の証明)。よって $p=-q^2$ であり、$pq=2$ に代入すると $-q^3=2$、$q=-\sqrt[3]2$ となって、$q$ が有理数であることに反する。
分母の有理化に使う因数が、$\sqrt2$ のときの共役 1 つではなく 2 次の式 $1-\sqrt[3]2+\sqrt[3]4$ になっている。
分母に $\sqrt2$ と $\sqrt3$ が両方あるときは、有理化を 2 回行う。その準備として、$\sqrt3$ が $\mathbb{Q}(\sqrt2)$ に入らないことを確かめる。
$\sqrt3=p+q\sqrt2$($p,q$ は有理数)と書けたとして矛盾を導く。両辺を 2 乗すると
$$
3=(p^2+2q^2)+2pq\sqrt2
$$
である。thm-rd-field の 1 で係数を比べると、$p^2+2q^2=3$ かつ $2pq=0$ である。
体 $F$ と、$F$ に入る正の数 $d$ で $\sqrt d$ が $F$ に入らないものをとると、thm-rd-field と thm-rd-norm と同じ証明で
$$
F(\sqrt d)=\{\alpha+\beta\sqrt d\mid \alpha,\beta\in F\}
$$
は体になり、共役 $\alpha-\beta\sqrt d$ とノルム $\alpha^2-d\beta^2$($F$ に入る)が使える。$F=\mathbb{Q}(\sqrt2)$、$d=3$ とすると、ex-rd-sqrt3 により条件が満たされる。この一般の形は 定規とコンパスによる作図 で、作図できる数を調べるのに使われる。
thm-rd-field と thm-rd-norm の証明を読み返すと、使ったのは次の 2 つだけである。1 つは係数の有理数全体 $\mathbb{Q}$ が体であること、もう 1 つは $2$ は $\mathbb{Q}$ に入るが $\sqrt2$ は $\mathbb{Q}$ に入らないことである。だから、$\mathbb{Q}$ を体 $F$ に、$2$ を $d$ に替えても、証明はそのまま通る。
$\dfrac1{1+\sqrt2+\sqrt3}$ を有理化する。
段 1($\sqrt3$ を消す)。分母を $\alpha+\sqrt3$($\alpha=1+\sqrt2$ は $\mathbb{Q}(\sqrt2)$ の数)とみて、$\mathbb{Q}(\sqrt2)$ の上での共役 $\alpha-\sqrt3$ を掛ける。
$$
(\alpha+\sqrt3)(\alpha-\sqrt3)=\alpha^2-3=(3+2\sqrt2)-3=2\sqrt2
$$
なので、$\dfrac1{1+\sqrt2+\sqrt3}=\dfrac{1+\sqrt2-\sqrt3}{2\sqrt2}$ である。分母はまだ $\mathbb{Q}(\sqrt2)$ の数だが、$\sqrt3$ は消えた。
段 2($\sqrt2$ を消す)。分母と分子に $\sqrt2$ を掛けると
$$
\frac{(1+\sqrt2-\sqrt3)\sqrt2}{2\sqrt2\cdot\sqrt2}=\frac{\sqrt2+2-\sqrt6}4
$$
である。
左辺 $\dfrac1{1+1.41421\cdots+1.73205\cdots}=0.24118\cdots$、右辺 $\dfrac{1.41421\cdots+2-2.44949\cdots}4=0.24118\cdots$ で一致する。
ex-rd-two-steps の計算は、体を 2 段に広げた中で行っている。$\sqrt2$ を先に付け加えても、$\sqrt3$ を先に付け加えても、行き着く体は同じで、どちらの数も $a+b\sqrt2+c\sqrt3+d\sqrt6$($a,b,c,d$ は有理数)の形になる。実際 $\mathbb{Q}(\sqrt2)(\sqrt3)$ の数は、$\mathbb{Q}(\sqrt2)$ の数 $p+q\sqrt2$、$r+s\sqrt2$($p,q,r,s$ は有理数)を使って $(p+q\sqrt2)+(r+s\sqrt2)\sqrt3=p+q\sqrt2+r\sqrt3+s\sqrt6$ と書ける。$\sqrt2$ と $\sqrt3$ の役割を入れ替えても同じ形になる。
含む・含まれるの関係を図式で書くと次のとおりで、矢印はどれも「矢印の根元の体が矢印の先の体に含まれる」ことを表す。
$$
\xymatrix{
& \mathbb{Q}(\sqrt2)(\sqrt3) & \\
\mathbb{Q}(\sqrt2) \ar[ur] & & \mathbb{Q}(\sqrt3) \ar[ul] \\
& \mathbb{Q} \ar[ul] \ar[ur] &
}
$$
式で書けば $\mathbb{Q}\subset\mathbb{Q}(\sqrt2)\subset\mathbb{Q}(\sqrt2)(\sqrt3)$ かつ $\mathbb{Q}\subset\mathbb{Q}(\sqrt3)\subset\mathbb{Q}(\sqrt3)(\sqrt2)$ で、$\mathbb{Q}(\sqrt2)(\sqrt3)=\mathbb{Q}(\sqrt3)(\sqrt2)$ である。
thm-rd-field の仮定や、使った事実を外すと何が崩れるかを並べる。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| 係数が有理数(整数に限る) | $\mathbb{Z}[\sqrt2]$ の数 $1+2\sqrt2$ | 逆数が同じ集まりに入る(割り算で閉じる) |
| 付け加える数が無理数($\sqrt4=2$ に替える) | $2-\sqrt4$、$3=1+\sqrt4$ | 有理化した分母が $0$ でない、表し方がただ 1 通り、共役がただ 1 つに決まる |
| 付け加える数が平方根($\sqrt[3]2$ に替え、2 項のまま) | $\sqrt[3]2\cdot\sqrt[3]2=\sqrt[3]4$ | 積で閉じる |
3 行目の確認は ex-rd-cuberoot の 1 で済ませた。1 行目と 2 行目を確かめる。
$1+2\sqrt2$ は $\mathbb{Z}[\sqrt2]$ に入る。その逆数は ex-rd-inverse の 2 により $-\dfrac17+\dfrac27\sqrt2$ である。thm-rd-field の 1 により、この数を $p+q\sqrt2$($p,q$ は有理数)と書く方法はこれしかなく、$p=-\dfrac17$ は整数でない。よって逆数は $\mathbb{Z}[\sqrt2]$ に入らない。
$N(1+2\sqrt2)=-7$ が $\pm1$ でないことから、prop-rd-units によっても同じ結論が出る。
$\sqrt2$ の代わりに $\sqrt4$ を付け加えて、$p+q\sqrt4$($p,q$ は有理数)の形の数を考える。$\sqrt4=2$ は有理数である。
「$\sqrt4$ の前の符号を変える」と、$3=3+0\cdot\sqrt4$ からは $3$、$3=1+1\cdot\sqrt4$ からは $1-\sqrt4=-1$ が出てくる。同じ数 $3$ の「共役」が 2 通りになる。
thm-rd-field と thm-rd-norm は、大学の代数学の言葉では次のように言える。
体が別の体に含まれている関係を 体の拡大 といい、$\mathbb{Q}\subset\mathbb{Q}(\sqrt2)$ の 次数(拡大次数)は $2$ である。thm-rd-field の 1 は、$1$ と $\sqrt2$ が $\mathbb{Q}(\sqrt2)$ の「基底」であることを言っている(体の拡大)。
thm-rd-field の 1 は、$\mathbb{Q}(\sqrt2)$ のどの数も $p\cdot1+q\cdot\sqrt2$ とただ 1 通りに書けること、つまり $1$ と $\sqrt2$ が $\mathbb{Q}(\sqrt2)$ を $\mathbb{Q}$ 上のベクトル空間とみたときの基底になることを言っている。基底の個数 $2$ を、この拡大の 次数 という(拡大次数)。ex-rd-cuberoot の体では $1,\sqrt[3]2,\sqrt[3]4$ が基底になり、次数は $3$ である(Mil22 Corollary 1.39 の証明)。2 段の拡大 $\mathbb{Q}\subset\mathbb{Q}(\sqrt2)\subset\mathbb{Q}(\sqrt2)(\sqrt3)$ の次数は $2\times2=4$ で、ex-rd-two-steps の後に見た 4 つの数 $1,\sqrt2,\sqrt3,\sqrt6$ がその基底になる。次数が段ごとの次数の積になることは、この記事では証明しない(Mil22 Proposition 1.20)。
共役をとる写像 $\sigma(\alpha)=\alpha'$ は、和と積を保つ 1 対 1 の対応(自己同型、自己同型)であり、体の拡大をその自己同型で調べるのが Galois理論 である。
共役をとる写像 $\sigma(\alpha)=\alpha'$ は、thm-rd-norm の 1 により和と積を保ち、有理数を動かさず、2 回続けると元に戻る($(\alpha')'=\alpha$)。体からそれ自身への、和と積を保つ 1 対 1 の対応を 自己同型 という(自己同型)。$\mathbb{Q}(\sqrt2)$ の自己同型 $\tau$ で有理数を動かさないものは、恒等写像と $\sigma$ の 2 つしかない。$\tau$ は積を保つので $\tau(\sqrt2)^2=\tau(2)=2$、つまり $\tau(\sqrt2)=\pm\sqrt2$ であり、$\tau(p+q\sqrt2)=p+q\,\tau(\sqrt2)$ は $\tau(\sqrt2)$ の値で決まるからである。
$p+q\sqrt2$ を点 $(p,q)$ で表すと、$\alpha=a+b\sqrt2$ を掛ける写像は 1 次変換になり、その行列式がノルム $N(\alpha)=a^2-2b^2$ である。そのため $\alpha$ を掛けると図形の面積は $\lvert N(\alpha)\rvert$ 倍になる(図 2 は $\alpha=1+\sqrt2$ の場合で、$N(\alpha)=-1$ なので面積は変わらない)。
thm-rd-field の積の式により $$(p+q\sqrt2)(a+b\sqrt2)=(ap+2bq)+(bp+aq)\sqrt2$$ なので、この写像は行列 $\begin{pmatrix}a&2b\\ b&a\end{pmatrix}$ による 1 次変換 $(p,q)\mapsto(ap+2bq,\ bp+aq)$ である。その行列式は $a^2-2b^2=N(\alpha)$ である。行列式の絶対値は面積の拡大率なので(1次変換と行列式:面積の拡大率)、$\alpha$ を掛けると図形の面積は $\lvert N(\alpha)\rvert$ 倍になる。
$\alpha=1+\sqrt2$ では行列は $\begin{pmatrix}1&2\\ 1&1\end{pmatrix}$、行列式は $-1$ で、面積は変わらず、向き(裏表)が反転する。
2 つの数を続けて掛けることは 1 次変換の合成で、合成の行列式は行列式の積なので、ここからも thm-rd-norm の 2 が読み取れる。
1+√2 を掛ける写像で、点 (p, q) を表す p + q√2 を動かした図。1 辺 1 の正方形(青)が、頂点 (0,0)、(1,1)、(3,2)、(2,1) の平行四辺形(赤)に移り、面積はどちらも 1 である
$\mathbb{Q}(\sqrt2)$ の計算は、有理数係数の多項式を $x^2-2$ で割った余りの計算と同じである。
$p+q\sqrt2$ に 1 次式 $p+qx$ を対応させる。積 $(1+\sqrt2)(3-\sqrt2)=1+2\sqrt2$ に対応するのは、$(1+x)(3-x)=3+2x-x^2$ を $x^2-2$ で割った余りである。$3+2x-x^2=-(x^2-2)+(1+2x)$ なので余りは $1+2x$ で、$1+2\sqrt2$ に対応する(剰余の定理と因数定理 の割り算の考え方)。$\sqrt2$ は $x^2-2=0$ の解なので、$x^2$ を $2$ に置き換えることと、$x^2-2$ で割った余りをとることが同じになる。大学では、この対応を「$\mathbb{Q}(\sqrt2)$ は多項式環を $x^2-2$ で割った剰余環 $\mathbb{Q}[x]/(x^2-2)$ と同型である」と言う(Mil22 1.25、pp. 18–19、剰余環)。$x^2-2$ が有理数の範囲で因数分解できないこと($\sqrt2$ が無理数であること)が、剰余環が体になる理由である。
1. $N(5+3\sqrt2)=25-18=7$ なので、thm-rd-norm の 3 により $\dfrac1{5+3\sqrt2}=\dfrac{5-3\sqrt2}7=\dfrac57-\dfrac37\sqrt2$ である。
2. $N(7+5\sqrt2)=49-50=-1$ なので、prop-rd-units により逆数は $\mathbb{Z}[\sqrt2]$ に入り、$\dfrac1{7+5\sqrt2}=\dfrac{7-5\sqrt2}{-1}=-7+5\sqrt2$ である。確かめると $(7+5\sqrt2)(-7+5\sqrt2)=-49+35\sqrt2-35\sqrt2+50=1$ である。
3. $\alpha=1+\sqrt2$ とおくと分母は $\alpha-\sqrt3$ で、$(\alpha-\sqrt3)(\alpha+\sqrt3)=\alpha^2-3=2\sqrt2$ である。よって $\dfrac1{1+\sqrt2-\sqrt3}=\dfrac{1+\sqrt2+\sqrt3}{2\sqrt2}=\dfrac{\sqrt2+2+\sqrt6}4$ である。数値では左辺・右辺とも $1.46593\cdots$ である。
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