Taylor 多項式 $\sum_{k=0}^n\frac{f^{(k)}(a)}{k!}(x-a)^k$ は、$a$ での $n$ 階までの微分係数が $f$ と一致するただ 1 つの $n$ 次以下の多項式である。$a,x$ を含む区間で $f^{(n+1)}$ が連続なら、誤差(剰余項)は $\frac1{n!}\int_a^x(x-t)^nf^{(n+1)}(t)\,dt$ と書ける。$e^x$、$\sin x$、$\cos x$ はすべての実数で、$\log(1+x)$ は $-1<x\le1$ で Taylor 級数に等しい。$\frac1{1+x^2}$ の $0$ における Taylor 級数は、関数が実数全体で滑らかでも収束半径が $1$ であり、$e^{-1/x^2}$($x=0$ では $0$)は $0$ での微分係数がすべて $0$ なのに $0$ でない。
前提知識: 微分係数と導関数の定義(高校数学), 平均値の定理, 定積分, 部分積分, 級数
高校の数学 III では、微分可能な関数 $f$ と小さい数 $h$ について
$$
f(a+h)\approx f(a)+f'(a)\,h
$$
という1 次の近似式を習う。右辺は、点 $(a,f(a))$ での接線の $x=a+h$ での高さである。
計算例。$\sqrt{1+x}$ に $a=0$、$h=0.02$ で使うと、$(\sqrt{1+x})'=\frac1{2\sqrt{1+x}}$ なので $\sqrt{1.02}\approx1+\frac12\cdot0.02=1.01$ である。実際は $\sqrt{1.02}=1.0099504938\ldots$ で、誤差は $0.0000495\ldots$ である。同じように $\sin0.1\approx0.1$(実際は $0.0998334\ldots$)、$e^{0.1}\approx1.1$(実際は $1.1051709\ldots$)となる。
誤差を見ると、$h=0.02$ で約 $5\times10^{-5}$ で、$h^2=4\times10^{-4}$ の約 $\frac18$ である。$h=0.01$ にすると誤差は約 $1.24\times10^{-5}$ で、$h$ を半分にすると誤差はほぼ $\frac14$ になる。つまり誤差は $h^2$ に比例する大きさである。そこで $h^2$ の項まで足すと近似は良くなる。
$$
e^{h}\approx1+h+\frac{h^2}{2},\qquad \cos h\approx1-\frac{h^2}{2}.
$$
$h=0.1$ では $e^{0.1}\approx1.105$(誤差 $0.00017\ldots$)、$\cos0.1\approx0.995$(実際は $0.9950041\ldots$)である。
ここで次の疑問が生じる。
多項式 $p(x)=c_0+c_1(x-a)+c_2(x-a)^2+\cdots+c_n(x-a)^n$ を $k$ 回微分して $x=a$ を代入すると、$(x-a)^j$ の項は $j=k$ のときだけ $k!\,c_k$ を残し、それ以外は $0$ になる($j< k$ なら微分して消え、$j>k$ なら $(x-a)$ の因子が残る)。したがって
$$
p^{(k)}(a)=k!\,c_k,\qquad c_k=\frac{p^{(k)}(a)}{k!}\qquad(0\le k\le n)
$$
である。$f$ と $a$ での $n$ 階までの微分係数が一致する $n$ 次以下の多項式を求めるには、$c_k=\frac{f^{(k)}(a)}{k!}$ とすればよく、それ以外にない。疑問 1 の答えはこれで、$\frac{h^2}{2}$ の $2$ は $2!$ である。
$I$ を 2 点以上を含む区間、$a\in I$ とし、$f\colon I\to\mathbb{R}$ は $I$ 上で $n$ 回微分可能とする。
$$
P_n(x):=\sum_{k=0}^{n}\frac{f^{(k)}(a)}{k!}(x-a)^k=f(a)+f'(a)(x-a)+\frac{f''(a)}{2!}(x-a)^2+\cdots+\frac{f^{(n)}(a)}{n!}(x-a)^n
$$
を $f$ の $a$ における $n$ 次の Taylor 多項式といい、$R_n(x):=f(x)-P_n(x)$ を剰余項という。$a=0$ のときは Maclaurin 多項式とも呼ぶ。ここで $f^{(k)}$ は $k$ 階の導関数($f^{(0)}=f$)、$0!=1$ である。
上の計算から、$P_n$ は $P_n^{(k)}(a)=f^{(k)}(a)$($0\le k\le n$)を満たすただ 1 つの $n$ 次以下の多項式である。$n=1$ の $P_1(x)=f(a)+f'(a)(x-a)$ は接線そのものであり、高校の 1 次の近似式は $f(a+h)\approx P_1(a+h)$ にあたる。
代表的な関数の $0$ における Taylor 多項式は、導関数を順に計算すれば得られる。
| $f(x)$ | $f^{(k)}(0)$ | $P_n(x)$ の形 |
|---|---|---|
| $e^x$ | すべて $1$ | $1+x+\frac{x^2}{2!}+\cdots+\frac{x^n}{n!}$ |
| $\sin x$ | $0,1,0,-1$ の繰り返し | $x-\frac{x^3}{3!}+\frac{x^5}{5!}-\cdots$ |
| $\cos x$ | $1,0,-1,0$ の繰り返し | $1-\frac{x^2}{2!}+\frac{x^4}{4!}-\cdots$ |
| $\log(1+x)$ | $f^{(k)}(0)=(-1)^{k-1}(k-1)!$($k\ge1$)、$f(0)=0$ | $x-\frac{x^2}{2}+\frac{x^3}{3}-\cdots+(-1)^{n-1}\frac{x^n}{n}$ |
$\log(1+x)$ の行は、$f'(x)=(1+x)^{-1}$ を繰り返し微分して $f^{(k)}(x)=(-1)^{k-1}(k-1)!\,(1+x)^{-k}$($k\ge1$)となることから分かる($k$ についての帰納法)。$\frac{(k-1)!}{k!}=\frac1k$ なので係数は $\frac{(-1)^{k-1}}{k}$ である。$\sin x$ では偶数次の係数が $0$ なので、たとえば $P_3=P_4=x-\frac{x^3}{6}$ である。
以下、関数 $f$ が区間 $I$ 上で $C^{m}$ 級であるとは、$f$ が $I$ 上で $m$ 回微分可能で、$f^{(m)}$ が $I$ 上で連続であることをいう。端点では片側の微分係数を考える。
$I$ を区間、$a,x\in I$、$n\ge0$ とし、$f$ は $I$ 上で $C^{n+1}$ 級とする。このとき
$$
f(x)=\sum_{k=0}^{n}\frac{f^{(k)}(a)}{k!}(x-a)^k+\frac1{n!}\int_a^x(x-t)^n f^{(n+1)}(t)\,dt
$$
が成り立つ。すなわち $R_n(x)=\dfrac1{n!}\displaystyle\int_a^x(x-t)^nf^{(n+1)}(t)\,dt$ である。
$n$ についての帰納法で示す。$x$ を固定する($x< a$ のときも、積分の向きの約束 $\int_a^x=-\int_x^a$ のもとで以下の計算はそのまま成り立つ)。
$n=0$ では、主張は $f(x)=f(a)+\int_a^xf'(t)\,dt$ であり、$f'$ が連続なので微分積分学の基本定理そのものである。
$n$ で主張が成り立つとし、$f$ を $C^{n+2}$ 級とする。$f$ は $C^{n+1}$ 級でもあるので $n$ の場合の式が使える。その剰余項の積分を、$t$ の関数 $u(t):=f^{(n+1)}(t)$、$v(t):=-\frac{(x-t)^{n+1}}{n+1}$($v'(t)=(x-t)^n$)について部分積分すると
$$
\int_a^x(x-t)^nf^{(n+1)}(t)\,dt=\Bigl[-\frac{(x-t)^{n+1}}{n+1}f^{(n+1)}(t)\Bigr]_{t=a}^{t=x}+\int_a^x\frac{(x-t)^{n+1}}{n+1}f^{(n+2)}(t)\,dt
$$
である。右辺の第 1 項は、$t=x$ で $0$ なので $\frac{(x-a)^{n+1}}{n+1}f^{(n+1)}(a)$ に等しい。両辺を $n!$ で割ると
$$
\frac1{n!}\int_a^x(x-t)^nf^{(n+1)}(t)\,dt=\frac{f^{(n+1)}(a)}{(n+1)!}(x-a)^{n+1}+\frac1{(n+1)!}\int_a^x(x-t)^{n+1}f^{(n+2)}(t)\,dt
$$
となり、これを $n$ の場合の式に代入すると $n+1$ の場合の式を得る。$\square$
証明で繰り返す部分積分の使い方は 部分積分の使い方 で扱う。
積分の変数を $t=a+s(x-a)$($0\le s\le1$)と置き換えると、$x-t=(1-s)(x-a)$、$dt=(x-a)\,ds$ なので
$$
R_n(x)=\frac{(x-a)^{n+1}}{n!}\int_0^1(1-s)^n\,f^{(n+1)}\bigl(a+s(x-a)\bigr)\,ds
$$
となる。この形では $x$ と $a$ の大小を気にしなくてよく、重み $(1-s)^n$ はつねに $0$ 以上である。
$I$ を区間、$a,x\in I$、$n\ge0$ とし、$f$ は $I$ 上で $C^{n+1}$ 級とする。このとき、$a$ と $x$ を両端とする閉区間の中の点 $c$ で
$$
f(x)=\sum_{k=0}^{n}\frac{f^{(k)}(a)}{k!}(x-a)^k+\frac{f^{(n+1)}(c)}{(n+1)!}(x-a)^{n+1}
$$
を満たすものがある。
$x=a$ なら両辺とも $f(a)$ なので、$x\ne a$ とする。$g(s):=f^{(n+1)}\bigl(a+s(x-a)\bigr)$ は $[0,1]$ 上で連続なので、最小値 $m=g(s_1)$ と最大値 $M=g(s_2)$ をとる。$(1-s)^n\ge0$ なので $m(1-s)^n\le(1-s)^ng(s)\le M(1-s)^n$ であり、$\int_0^1(1-s)^n\,ds=\frac1{n+1}$ だから
$$
m\le K:=(n+1)\int_0^1(1-s)^ng(s)\,ds\le M
$$
である。中間値の定理により、$s_1$ と $s_2$ を両端とする閉区間の中に $g(s_*)=K$ となる $s_*$ がある。$c:=a+s_*(x-a)$ は $a$ と $x$ を両端とする閉区間の点で、剰余項の $s$ による表示から
$$
R_n(x)=\frac{(x-a)^{n+1}}{n!}\cdot\frac{K}{n+1}=\frac{f^{(n+1)}(c)}{(n+1)!}(x-a)^{n+1}
$$
である。$\square$
$n=0$ の場合は $f(x)=f(a)+f'(c)(x-a)$ で、平均値の定理(ただし $f'$ の連続性を仮定した形)である。Taylor の定理は平均値の定理の高階版である。$f$ が $n+1$ 回微分可能というだけで $f^{(n+1)}$ の連続性を仮定しなくても、$c$ を $a$ と $x$ の間(両端を除く)にとれることが、Rolleの定理を繰り返し使って証明できる(Taylorの定理の記事、Leb26 Theorem 4.3.2、p. 172)。本記事では、高校の積分の知識で追える上の証明を採った。
thm-tap-lagrange の仮定のもとで、$a$ と $x$ を両端とする閉区間上で $|f^{(n+1)}|\le M$ ならば
$$
|R_n(x)|\le\frac{M}{(n+1)!}|x-a|^{n+1}
$$
である。
thm-tap-lagrange の $c$ はその閉区間の点なので $|f^{(n+1)}(c)|\le M$ である。$\square$
これが疑問 2 の答えである。誤差は「だいたい $h^{n+1}$」なのではなく、$n+1$ 階の導関数の大きさ $M$ を使って確実に $\frac{M}{(n+1)!}|h|^{n+1}$ 以下と保証される($h=x-a$)。分母の $(n+1)!$ のおかげで、次数を上げると誤差の上限は急速に小さくなることが多い。
接線近似の誤差。$f(x)=\sqrt{1+x}$、$a=0$、$n=1$ とすると $f''(x)=-\frac14(1+x)^{-3/2}$ である。$0\le c\le0.02$ で $-\frac14\le f''(c)<0$ なので、thm-tap-lagrange により
$$
\sqrt{1.02}-1.01=R_1(0.02)=\frac{f''(c)}{2}(0.02)^2\in\Bigl[-\frac{(0.02)^2}{8},\,0\Bigr)=[-0.00005,\,0)
$$
である。つまり $\sqrt{1.02}$ は $1.01$ より小さく、差は $0.00005$ 以下である(実際の差は $0.0000495\ldots$)。接線近似が「上に外れる」のは $f''<0$(グラフが上に凸)だからであり、剰余項の符号が近似の向きを教える。
高校で証明する不等式。数学 III では、$x\ge0$ について
$$
e^x\ge1+x,\qquad \cos x\ge1-\frac{x^2}{2},\qquad \sin x\ge x-\frac{x^3}{6}
$$
のような不等式を、差を $g(x)$ とおいて「$g$ を何回か微分し、導関数の符号から順に $g''\ge0$、$g'\ge0$、$g\ge0$ と戻る」方法で示す。これは積分形の剰余項を 1 段ずつ計算していることにほかならない。たとえば $\sin$ の $0$ における $2$ 次の Taylor 多項式は $x$ で、$\sin'''=-\cos$ なので thm-tap-integral から
$$
\sin x-x=\frac12\int_0^x(x-t)^2(-\cos t)\,dt
$$
である。$\frac12\int_0^x(x-t)^2\,dt=\frac{x^3}{6}$ を加えると
$$
\sin x-\Bigl(x-\frac{x^3}{6}\Bigr)=\frac12\int_0^x(x-t)^2\,(1-\cos t)\,dt\ \ge0\qquad(x\ge0)
$$
となる(被積分関数が $0$ 以上)。同様に $\cos x-\bigl(1-\frac{x^2}2\bigr)=\int_0^x(x-t)(1-\cos t)\,dt\ge0$($x\ge0$。$\cos$ は偶関数なので $x<0$ でも成り立つ)、$e^x-(1+x)=\int_0^x(x-t)e^t\,dt\ge0$($x<0$ でも、向きを反転すると $\int_x^0(t-x)e^t\,dt\ge0$)である。Lagrange の形では $\sin x-\bigl(x-\frac{x^3}6\bigr)=\frac{\sin c}{24}x^4$($n=3$)となり、$0< x\le\pi$ なら $0\le c\le x$ より $\sin c\ge0$ で符号が決まるが、$x>\pi$ では $c$ の位置によって符号が決まらない。積分の形なら、すべての $x\ge0$ で被積分関数の符号だけで一度に判定できる。剰余項の形は、目的に応じて使い分ける。
$n=0$ の場合 $\sin x-x=\int_0^x(\cos t-1)\,dt\le0$ から $\sin x\le x$($x\ge0$)も分かる。$x=0.1$ では、これと上の不等式から $0.1-\frac{0.001}{6}\le\sin0.1\le0.1$、すなわち接線近似 $\sin0.1\approx0.1$ の誤差は $0.000166\ldots$ 以下と保証される(実際の誤差は $0.00016658\ldots$)。
$\arctan x$ の級数と誤差を使って円周率を計算する例は Machinの公式 で扱う。
$f$ が $a$ を含む区間 $I$ 上で何回でも微分可能($C^\infty$ 級)なら、級数
$$
\sum_{k=0}^{\infty}\frac{f^{(k)}(a)}{k!}(x-a)^k
$$
を考えることができる。これを $f$ の $a$ における Taylor 級数という。その第 $n$ 部分和は $P_n(x)$ なので、Taylor 級数が点 $x$ で $f(x)$ に収束することは、$R_n(x)\to0$($n\to\infty$)と同値である。疑問 3 は、剰余項が $0$ に近づくかどうかという問題になる。Taylor 級数が $f(x)$ に収束するとき、「$f$ は $x$ で Taylor 展開できる」という。
任意の実数 $x$ について $\displaystyle\lim_{n\to\infty}\frac{|x|^n}{n!}=0$ である。
$b_n:=\frac{|x|^n}{n!}$ とおき、$N\ge2|x|$ となる正の整数 $N$ をとる。$n\ge N$ なら $\frac{b_{n+1}}{b_n}=\frac{|x|}{n+1}\le\frac12$ なので、$0\le b_n\le b_N\bigl(\frac12\bigr)^{n-N}$ であり、はさみうちにより $b_n\to0$ である。$\square$
すべての実数 $x$ について
$$
e^x=\sum_{k=0}^{\infty}\frac{x^k}{k!},\qquad \sin x=\sum_{k=0}^{\infty}\frac{(-1)^k}{(2k+1)!}x^{2k+1},\qquad \cos x=\sum_{k=0}^{\infty}\frac{(-1)^k}{(2k)!}x^{2k}
$$
が成り立つ。
$0$ と $x$ を両端とする閉区間上で、$e^x$ のすべての導関数は $e^t\le e^{|x|}$ で押さえられ、$\sin x$ と $\cos x$ のすべての導関数は $\pm\sin$ か $\pm\cos$ なので絶対値 $1$ 以下である。cor-tap-bound により、それぞれ
$$
|R_n(x)|\le e^{|x|}\frac{|x|^{n+1}}{(n+1)!},\qquad |R_n(x)|\le\frac{|x|^{n+1}}{(n+1)!}
$$
であり、lem-tap-factorial から $R_n(x)\to0$ である。Taylor 多項式の形は上の表のとおりである。$\square$
この 3 つの関数では、どの $x$ でも剰余項が $0$ に近づく。鍵は、$n$ が増えても $n+1$ 階の導関数が同じ定数で押さえられ、分母の $(n+1)!$ が勝つことである。
$-1< x\le1$ ならば
$$
\log(1+x)=\sum_{k=1}^{\infty}\frac{(-1)^{k-1}}{k}x^k=x-\frac{x^2}2+\frac{x^3}3-\frac{x^4}4+\cdots
$$
が成り立つ。$|x|>1$ ではこの級数は発散する。
$t\ne-1$ について、等比数列の和の公式から
$$
\frac1{1+t}=1-t+t^2-\cdots+(-t)^{n-1}+\frac{(-t)^n}{1+t}
$$
である(右辺の最初の $n$ 項の和は $\frac{1-(-t)^n}{1+t}$)。$-1< x$ として両辺を $0$ から $x$ まで積分すると
$$
\log(1+x)=\sum_{k=1}^{n}\frac{(-1)^{k-1}}{k}x^k+(-1)^n\int_0^x\frac{t^n}{1+t}\,dt
$$
となる。右辺の和は上の表の $P_n(x)$ なので、最後の項が剰余項 $R_n(x)$ である。
$0\le x\le1$ のとき、$0\le t\le x$ で $0\le\frac{t^n}{1+t}\le t^n$ なので $|R_n(x)|\le\int_0^xt^n\,dt=\frac{x^{n+1}}{n+1}\le\frac1{n+1}\to0$ である。$-1< x<0$ のとき、$x\le t\le0$ で $1+t\ge1+x>0$ なので $|R_n(x)|\le\frac1{1+x}\int_x^0|t|^n\,dt=\frac{|x|^{n+1}}{(n+1)(1+x)}\to0$ である。
$|x|>1$ のとき、$d:=|x|-1>0$ とおくと、二項定理から $|x|^k=(1+d)^k\ge\frac{k(k-1)}{2}d^2$ なので $\frac{|x|^k}{k}\ge\frac{(k-1)d^2}{2}\to\infty$ である。級数の項が $0$ に近づかないので、級数は発散する(収束する級数 $\sum c_k$ では $c_k=S_k-S_{k-1}\to0$ である。$S_k$ は部分和)。$\square$
$x=1$ を代入すると
$$
\log2=1-\frac12+\frac13-\frac14+\cdots
$$
を得る。$\log(1+x)$ 自体は $x>-1$ のすべてで定義された $C^\infty$ 級の関数なのに、$0$ における Taylor 級数は $(-1,1]$ でしか関数を表さない。$x=2$ では $P_1(2)=2$、$P_2(2)=0$、$P_3(2)=2.67$、$P_4(2)=-1.33$、$P_5(2)=5.07$、$P_{10}(2)=-64.8$ と振れ幅が広がり、$\log3=1.0986\ldots$ から離れていく。次数を上げれば近似が良くなるとは限らない。
証明で Lagrange の形を使わなかったのには理由がある。$-1< x<0$ で Lagrange の形を使うと、$|R_n(x)|=\frac{|x|^{n+1}}{(n+1)(1+c)^{n+1}}$($x\le c\le0$)で、$c$ の位置が分からないので $1+c\ge1+x$ で押さえるしかなく、評価は $\frac1{n+1}\bigl(\frac{|x|}{1+x}\bigr)^{n+1}$ になる。これは $|x|\le1+x$、すなわち $x\ge-\frac12$ のときしか $0$ に近づかない($x=-\frac12$ では $\frac{|x|}{1+x}=1$ で、評価は分母の $n+1$ のおかげで $\frac1{n+1}\to0$ となる)。たとえば $x=-0.8$、$n=10$ では、この評価は $381300.36\ldots$ という役に立たない値だが、積分の形による評価は $0.039\ldots$ で、実際の誤差は $0.0306\ldots$ である。
Taylor 級数のように $\sum_{k=0}^\infty c_k(x-a)^k$ の形をした級数を、$a$ を中心とする冪級数という。以下 $a=0$ として述べる($x-a$ を $x$ と書き直せばよい)。
冪級数 $\sum c_kx^k$ が点 $x_0\ne0$ で収束するならば、$|x|<|x_0|$ を満たすすべての $x$ で絶対収束する。
$\sum c_kx_0^k$ が収束するので $c_kx_0^k\to0$ であり、特にある $B$ について $|c_kx_0^k|\le B$(すべての $k$)である。$r:=|x|/|x_0|<1$ とおくと $|c_kx^k|=|c_kx_0^k|\,r^k\le Br^k$ であり、$\sum Br^k$ は収束するので、比較判定法により $\sum|c_kx^k|$ は収束する。$\square$
冪級数 $\sum_{k=0}^\infty c_kx^k$ について、
$$
\rho:=\sup\Bigl\{|x|\ \Bigm|\ \sum c_kx^k\text{ が収束する}\Bigr\}\qquad(0\le\rho\le\infty)
$$
を収束半径という(集合が上に有界でないときは $\rho=\infty$)。
lem-tap-abel により、$|x|<\rho$ なら級数は絶対収束する($|x|<|x_0|$ となる収束点 $x_0$ が上限の定義からとれる)。$|x|>\rho$ なら上限の定義から発散する。つまり収束する範囲は、中心から半径 $\rho$ の区間(端点は別に調べる)である。$|x|=\rho$ の端点では、収束することも発散することもある。
すべての $k$ で $c_k\ne0$ とし、$\bigl|\frac{c_{k+1}}{c_k}\bigr|\to L$($0\le L\le\infty$)とする。このとき収束半径は $\rho=\frac1L$ である($\frac10=\infty$、$\frac1\infty=0$ と読む)。
$x\ne0$ を固定すると、$\bigl|\frac{c_{k+1}x^{k+1}}{c_kx^k}\bigr|\to L|x|$ である。$L|x|<1$ なら、$L|x|< r<1$ となる $r$ と、$k\ge N$ で比が $r$ 未満になる $N$ をとると、$|c_kx^k|\le|c_Nx^N|\,r^{k-N}$($k\ge N$)なので、比較判定法により級数は絶対収束する。$L|x|>1$ なら、$k\ge N$ で比が $1$ より大きくなる $N$ があり、$|c_kx^k|\ge|c_Nx^N|>0$ なので項が $0$ に近づかず、級数は発散する。したがって $|x|<\frac1L$ では収束し、$|x|>\frac1L$ では発散するので、$\rho=\frac1L$ である。$\square$
$e^x$ の係数 $c_k=\frac1{k!}$ では $\frac{c_{k+1}}{c_k}=\frac1{k+1}\to0$ なので $\rho=\infty$、$\log(1+x)$ の係数 $c_k=\frac{(-1)^{k-1}}k$ では $\bigl|\frac{c_{k+1}}{c_k}\bigr|=\frac k{k+1}\to1$ なので $\rho=1$ である。後者で端点 $x=1$ は収束し(thm-tap-log)、$x=-1$ は $-\bigl(1+\frac12+\frac13+\cdots\bigr)$ となって発散する(調和級数)。
冪級数の和 $g(x):=\sum c_kx^k$ は $|x|<\rho$ で何回でも微分でき、項別に微分してよい($g'(x)=\sum kc_kx^{k-1}$ で、収束半径は変わらない)。したがって $g^{(k)}(0)=k!\,c_k$ であり、収束半径が正の冪級数は、$|x|<\rho$ でその和の Taylor 級数である。この項別微分の定理は本記事では証明しない(Leb26 Corollary 6.2.13、p. 242)。
$\sin0.1$:$P_3=P_4=x-\frac{x^3}6$ なので、$n=4$ として cor-tap-bound($M=1$)を使うと、$|\sin0.1-(0.1-\frac{0.001}6)|\le\frac{0.1^5}{5!}=8.33\ldots\times10^{-8}$ である。$0.1-\frac{0.001}6=0.0998333\ldots$ で、実際の $\sin0.1=0.09983341664\ldots$ との差は $8.331\ldots\times10^{-8}$ である。偶数次の係数が $0$ であることを使って $n$ を 1 つ上げたので、評価は 3 次の項を足しただけで $10^{-7}$ の精度になる。
$e$:$x=1$、$n=10$ とすると、$0\le c\le1$ で $e^c\le e<3$($e<3$ は $k\ge1$ で $k!\ge2^{k-1}$ から $e<1+\sum_{k\ge1}2^{-(k-1)}=3$)なので、$0< e-\sum_{k=0}^{10}\frac1{k!}<\frac3{11!}=7.5\ldots\times10^{-8}$ である。部分和は $2.718281801\ldots$ で、実際の差は $2.73\ldots\times10^{-8}$ である。
$\log2=1-\frac12+\frac13-\cdots$ は収束が遅い。thm-tap-log の証明から、$n$ 項までの和の誤差は $\frac1{n+1}$ 以下であり、実際に $n=1000$ でも誤差は $0.0004997\ldots$ ある。
そこで、$|x|<1$ で thm-tap-log を $x$ と $-x$ に使って差をとると、偶数次の項が消えて
$$
\log\frac{1+x}{1-x}=2\Bigl(x+\frac{x^3}3+\frac{x^5}5+\cdots\Bigr)
$$
となる。$\frac{1+x}{1-x}=2$ となる $x=\frac13$ を代入すると
$$
\log2=2\Bigl(\frac13+\frac1{81}+\frac1{1215}+\frac1{15309}+\cdots\Bigr)
$$
である。$m$ 項で打ち切った誤差は $2\sum_{k\ge m}\frac{x^{2k+1}}{2k+1}\le\frac{2x^{2m+1}}{(2m+1)}\sum_{j\ge0}x^{2j}=\frac{2x^{2m+1}}{(2m+1)(1-x^2)}$ 以下で、$m=4$ では $1.27\ldots\times10^{-5}$ 以下である。実際、4 項の和は $0.6931347\ldots$、$\log2=0.6931471\ldots$ で、差は $1.24\ldots\times10^{-5}$ である。収束半径の端から離れた内側の点で使うほど、級数は速く収束する($x=1$ は収束半径の端、$x=\frac13$ は内側)。
$f(x)=\frac1{1+x^2}$ は $\mathbb{R}$ 全体で $C^\infty$ 級である。$|x|<1$ では等比級数の和として $f(x)=\sum_{k=0}^\infty(-1)^kx^{2k}$ であり、収束半径が正の冪級数はその和の Taylor 級数なので、これが $f$ の $0$ における Taylor 級数である。この級数は $|x|\ge1$ では項が $0$ に近づかず発散し、収束半径は $1$ である。$f$ は「$\mathbb{R}$ 全体で何回でも微分できる」という性質を満たすが、「$0$ における Taylor 級数が $\mathbb{R}$ 全体で $f$ を表す」という性質を満たさない。$e^x$ や $\sin x$ のように、$0$ を中心とする Taylor 級数が $\mathbb{R}$ 全体で関数を表すのは、恵まれた場合である。
実数の範囲では何の異常もない点 $x=\pm1$ で収束が止まる理由は、$x$ を複素数 $z$ に広げると見える。$1+z^2=0$ となる $z=\pm i$ で関数は定義できず、この 2 点は $0$ から距離 $1$ にある。「収束半径は、中心から最も近い、関数を正則に延ばせない点までの距離に等しい」ことが複素解析で証明される(本記事では証明しない。Ahl79 Chapter 4 §3.1、Chapter 5 §1.2。Taylor展開(複素解析))。
最後に、疑問 3 に対する最も強い否定の答えを示す。
$$
\varphi(x):=\begin{cases}e^{-1/x^2}&(x\ne0)\\ 0&(x=0)\end{cases}
$$
と定めると、$\varphi$ は $\mathbb{R}$ 上で $C^\infty$ 級であり、すべての $k\ge0$ で $\varphi^{(k)}(0)=0$ である。
段階 1:任意の整数 $m\ge0$ について $\displaystyle\lim_{x\to0}|x|^{-m}e^{-1/x^2}=0$ である。$u:=\frac1{x^2}$ とおくと $|x|^{-m}e^{-1/x^2}=u^{m/2}e^{-u}$ で、$x\to0$ のとき $u\to+\infty$ である。$j>\frac m2$ となる整数 $j$ をとる。$u>0$ では thm-tap-exp-sin-cos の級数の項がすべて正なので $e^u\ge\frac{u^j}{j!}$ であり、$0< u^{m/2}e^{-u}\le j!\,u^{m/2-j}\to0$ である。
段階 2:$x\ne0$ で $\varphi^{(k)}(x)=p_k\bigl(\frac1x\bigr)e^{-1/x^2}$ となる多項式 $p_k$ がある。$p_0=1$ であり、$p_k$ があれば、合成関数と積の微分により
$$
\frac{d}{dx}\Bigl(p_k\bigl(\tfrac1x\bigr)e^{-1/x^2}\Bigr)=\Bigl(-\frac1{x^2}p_k'\bigl(\tfrac1x\bigr)+\frac2{x^3}p_k\bigl(\tfrac1x\bigr)\Bigr)e^{-1/x^2}
$$
なので、$p_{k+1}(u):=-u^2p_k'(u)+2u^3p_k(u)$ とすればよい(たとえば $p_1(u)=2u^3$、$p_2(u)=4u^6-6u^4$)。
段階 3:$\varphi^{(k)}(0)=0$ を $k$ についての帰納法で示す。$k=0$ は定義である。$\varphi^{(k)}(0)=0$ とすると、$x\ne0$ で
$$
\frac{\varphi^{(k)}(x)-\varphi^{(k)}(0)}{x-0}=\frac1x\,p_k\bigl(\tfrac1x\bigr)e^{-1/x^2}
$$
であり、右辺は $x^{-m}e^{-1/x^2}$($m\ge0$)の定数倍の有限和なので、段階 1 により $x\to0$ で $0$ に近づく。よって $\varphi^{(k)}$ は $0$ で微分可能で $\varphi^{(k+1)}(0)=0$ である。$x\ne0$ での微分可能性は段階 2 の式から分かる。したがって $\varphi$ は何回でも微分でき、各導関数は微分可能なので連続である。$\square$
prop-tap-flat の $\varphi$ の $0$ における Taylor 級数は、係数がすべて $0$ なので、すべての $x$ で $0$ に収束する(収束半径は $\infty$)。しかし $x\ne0$ では $\varphi(x)>0$ である($\varphi(1)=0.3678\ldots$、$\varphi(0.5)=0.0183\ldots$。$0$ の近くでは $\varphi(0.1)=3.7\ldots\times10^{-44}$ と極端に平らである)。剰余項は $R_n(x)=\varphi(x)$ で、$n$ によらず $0$ に近づかない。
$\varphi$ は「$C^\infty$ 級で、Taylor 級数がすべての点で収束する」という性質を満たすが、「$0$ の近くで Taylor 級数の和が関数に一致する」という性質を満たさない。したがって「何回でも微分できれば Taylor 展開できる」という含意は成り立たない。$\varphi$ と定数関数 $0$ は $0$ でのすべての微分係数が一致するので、$1$ 点での微分係数を全部知っても、関数は決まらない。
cor-tap-bound の側から見ると、$0$ と $x$ の間での $|\varphi^{(n+1)}|$ の最大値 $M_{n+1}$ が $n$ とともに急激に大きくなり、$\frac{M_{n+1}}{(n+1)!}|x|^{n+1}$ が $0$ に近づかない(近づくなら $R_n(x)\to0$ となってしまう)。thm-tap-exp-sin-cos で効いた「導関数が同じ定数で押さえられる」という条件が崩れている。
$\varphi$ の $x>0$ の部分だけを使った関数 $\psi(x):=e^{-1/x}$($x>0$)、$\psi(x):=0$($x\le0$)も同じ理由で $C^\infty$ 級である(Leb26 Exercise 5.4.11、p. 213)。これを組み合わせると、ある区間の外では $0$ で、なめらかに立ち上がる関数が作れる。多項式や $e^x$、$\sin x$ のように、どの点を中心とする Taylor 級数も $\mathbb{R}$ 全体で関数を表す関数では、ある区間で $0$ ならその区間の点での微分係数がすべて $0$ なので、関数は $\mathbb{R}$ 全体で $0$ になってしまう。こうした関数では「なめらかなスイッチ」は作れない。
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