因数分解の技法と既約性

同義語:factoring techniques and irreducibility

概要

因数分解の技法と既約性(factoring techniques and irreducibility)とは、最低次の文字で整理する・たすきがけ・複 2 次式などの因数分解の技法と、「どこまで分解できるか」が係数に許す範囲(有理数・実数・複素数)で決まることをまとめた話題である。係数がその範囲にあり $a\ne0$ の 2 次式 $ax^2+bx+c$ がその範囲で 1 次式の積に分かれるのは、判別式 $b^2-4ac$ がその範囲の数の 2 乗のときに限る。Gauss の補題により、整数係数の多項式が有理数係数で分解できれば整数係数でも分解できるので、整数係数の 2 次式はたすきがけで見つからなければ有理数の範囲で既約である。$x^4+4$ は実数の根がないのに $(x^2+2x+2)(x^2-2x+2)$ と分かれ、$x^4+1$ は有理数の範囲で既約だが実数の範囲では分かれる。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 展開と因数分解の公式, 剰余の定理と因数定理, 2次方程式の判別式の正体, 有理数, 実数, 複素数

高校での出発点:因数分解の技法

数学 I では、公式に当てはまらない式も、いくつかの技法を組み合わせて因数分解する。公式そのもの($a^2-b^2=(a+b)(a-b)$、$a^3+b^3=(a+b)(a^2-ab+b^2)$ など)がどこから来るかは 展開と因数分解の公式 で扱った。この記事では技法のほうを見る。まず、教科書にある形の計算を並べる。

最低次の文字で整理する

$a^2+ab-3a-2b+2$ を因数分解する。文字 $a$ については 2 次、文字 $b$ については 1 次なので、次数の低い $b$ について整理する。
$$ a^2+ab-3a-2b+2=(a-2)\,b+(a^2-3a+2) $$
$b$ を含まない部分は $a^2-3a+2=(a-1)(a-2)$ と分解できる。すると 2 つの部分に共通の因数 $a-2$ があるので
$$ (a-2)\,b+(a-1)(a-2)=(a-2)(b+a-1)=(a-2)(a+b-1) $$
である。

たすきがけ

$6x^2+x-2$ を $(px+q)(rx+s)$ の形にする。展開すると $pr\,x^2+(ps+qr)\,x+qs$ なので、整数 $p,q,r,s$ で
$$ pr=6,\qquad qs=-2,\qquad ps+qr=1 $$
となるものを探す。$p=2$、$r=3$、$q=-1$、$s=2$ とすると $ps+qr=4-3=1$ となって合う。よって
$$ 6x^2+x-2=(2x-1)(3x+2) $$
である。$pr=6$ と $qs=-2$ の組を並べ、斜めに掛けて足す計算を表の形で書くのが「たすきがけ」である。

2 文字の 2 次式

$x^2+3xy+2y^2+x+3y-2$ を因数分解する。$x$ について整理すると
$$ x^2+(3y+1)\,x+(2y^2+3y-2) $$
である。定数項($x$ を含まない部分)は、たすきがけで $2y^2+3y-2=(2y-1)(y+2)$ と分かれる。2 つの因数の和は $(2y-1)+(y+2)=3y+1$ で、$x$ の係数に一致する。よって
$$ x^2+3xy+2y^2+x+3y-2=\bigl(x+(2y-1)\bigr)\bigl(x+(y+2)\bigr)=(x+2y-1)(x+y+2) $$
である。

複 2 次式

$x^2$ だけで書ける 4 次式を 複 2 次式 という。

  1. $x^4-5x^2+4$:$X=x^2$ とおくと $X^2-5X+4=(X-1)(X-4)$ なので、$(x^2-1)(x^2-4)=(x-1)(x+1)(x-2)(x+2)$ である。
  2. $x^4+3x^2+4$:$X=x^2$ とおいた $X^2+3X+4$ は、判別式が $9-16=-7<0$ で、実数の範囲では 1 次式の積にならない。そこで $x^2$ の項を調整して平方の差を作る。
    $$ x^4+3x^2+4=(x^4+4x^2+4)-x^2=(x^2+2)^2-x^2=(x^2+x+2)(x^2-x+2) $$
    である。
置き換える

$(x^2+x)^2-8(x^2+x)+12$ を因数分解する。$X=x^2+x$ とおくと $X^2-8X+12=(X-2)(X-6)$ なので
$$ (x^2+x-2)(x^2+x-6)=(x+2)(x-1)(x+3)(x-2) $$
である。

技法は使えるようになっても、次のような疑問が残る。

  1. なぜ次数の最も低い文字で整理するとうまくいくのか。→ prop-fti-lowest-degree
  2. $2x^2+3x-1$ でたすきがけがうまくいかないとき、分数を使えば分解できる可能性はないのか。→ thm-fti-quadratic、thm-fti-gauss
  3. 「これ以上は因数分解できない」とは、正確には何を意味するのか。→ def-fti-irreducible
  4. $x^4+4$ は分解できるのに、$x^4+1$ はなぜ分解できないのか。→ prop-fti-germain、prop-fti-x4-plus-1
    この記事では、因数分解が「どこで終わるか」は係数に許す数の範囲(有理数・実数・複素数)で決まることを定義として述べ、2 次式について「分解できる」と「判別式が係数の範囲の数の 2 乗(整数係数なら平方数)」が同じであることを示す(主定理 1)。次に、整数係数の式が分数を使って分解できるなら整数だけで分解できること(Gauss の補題、主定理 2)を示す。これが、たすきがけで見つからなければ有理数の範囲では分解できないことの理由である。
    高校の計算この記事での見方ボックス
    最低次の文字で整理する1 次の文字について分解は「共通因数を探す」ことになるprop-fti-lowest-degree
    たすきがけ2 次式が分解できるのは判別式が係数の範囲の数の 2 乗(整数係数なら平方数)のときthm-fti-quadratic
    整数で探せば十分有理数の範囲で分解できれば整数の範囲で分解できるthm-fti-gauss
    これ以上分解できない係数の範囲を決めたときの既約性def-fti-irreducible
    $x^4+4$ と $x^4+1$根がなくても分解できる 4 次式、有理数の範囲で既約な 4 次式prop-fti-germain、prop-fti-x4-plus-1

最低次の文字で整理する理由

ex-fti-lowest では、$b$ について 1 次の式として整理した。そうすると、分解の相手が「$b$ を含まない式」に限られる。これを命題として述べる。ここでの「$b$ についての次数」は、$b$ 以外の文字を係数とみたときの次数である(多項式 の次数の数え方)。

1 次の文字についての分解

$P$、$Q$ を文字 $b$ を含まない多項式とし、$P\ne0$ とする。$f=P\,b+Q$($b$ について 1 次)が、2 つの多項式 $g$、$h$ の積 $f=gh$ に書けるとする。このとき $g$、$h$ の一方は $b$ を含まず、それを $g$ とすると、$g$ は $P$ と $Q$ の両方を割り切る。つまり $P=g\,h_1$、$Q=g\,h_0$ となる、$b$ を含まない多項式 $h_1$、$h_0$ がある。

$b$ についての次数を足す

方針:積の次数は次数の和であることを使って、一方の因数が $b$ を含まないことを示し、次に $b$ の係数を比べる。
段 1(一方は $b$ を含まない)。$0$ でない多項式の積の $b$ についての次数は、それぞれの $b$ についての次数の和である(最高次の項どうしの積が消えないため。剰余の定理と因数定理 の命題「積の次数」と同じ理由である)。$f$ の $b$ についての次数は $1$ なので、$g$ と $h$ の次数の和は $1$ である。次数は $0$ 以上の整数なので、一方が $0$、他方が $1$ である。次数 $0$ の方を $g$ とする。$g$ は $b$ を含まない。
段 2(係数を比べる)。$h$ は $b$ について 1 次なので、$b$ を含まない多項式 $h_1$、$h_0$ で $h=h_1\,b+h_0$ と書ける。すると
$$ f=gh=(g\,h_1)\,b+g\,h_0 $$
である。$f=P\,b+Q$ と $b$ の係数どうし、$b$ を含まない部分どうしを比べると(恒等式と未定係数法 の係数比較)、$P=g\,h_1$、$Q=g\,h_0$ である。$\square$

したがって、$b$ について 1 次の式を分解するには、$b$ の係数 $P$ と残り $Q$ の共通因数を探せばよい。ex-fti-lowest では $P=a-2$、$Q=(a-1)(a-2)$ の共通因数 $a-2$ がそれであった。$a$ について整理すると 2 次式になり、候補がずっと多くなる。

共通因数がなければ分解できない
  1. $ab+a+b+1=(a+1)\,b+(a+1)$ は、$P=Q=a+1$ で共通因数 $a+1$ があるので $(a+1)(b+1)$ と分解できる。
  2. $ab+a+b+2=(a+1)\,b+(a+2)$ は、$P=a+1$ と $Q=a+2$ に共通の因数(次数 1 以上の多項式)がない。$a+1$ と $a+2$ はどちらも 1 次式で、1 次式の約数になる 1 次以上の多項式は定数倍を除いて自分自身だけだが、$a+1$ と $a+2$ は定数倍の関係にないからである。prop-fti-lowest-degree により、分解 $ab+a+b+2=gh$ があれば一方の因数 $g$ は $b$ を含まず $P$ と $Q$ の共通因数なので、定数である。よって $ab+a+b+2$ は、次数 1 以上の 2 つの多項式の積には分解できない。

係数の範囲と既約性

$x^2-2$ は、整数や分数の係数では 1 次式の積にならないが、$\sqrt2$ を使えば $(x-\sqrt2)(x+\sqrt2)$ になる。「因数分解できるか」は、係数にどの数を許すかを決めてはじめて意味をもつ。高校の「因数分解せよ」は、ふつう有理数(整数と分数)の範囲を指している。

係数の範囲を決めた既約性

$K$ を、有理数全体 $\mathbb{Q}$、実数全体 $\mathbb{R}$、複素数全体 $\mathbb{C}$ のどれかとする。係数がすべて $K$ に属する 1 文字 $x$ の多項式を $K$ 係数の多項式 という。
$K$ 係数の多項式 $f$ で次数が $1$ 以上のものが、次数が $1$ 以上の $K$ 係数の多項式 2 つの積に書けるとき、$f$ は $K$ の範囲で可約 であるという。そう書けないとき、$f$ は $K$ の範囲で既約 であるという。「$K$ の範囲で因数分解する」とは、$f$ を $K$ の範囲で既約な多項式の積(と定数)の形に書くことである。

積の次数は次数の和なので、可約な多項式の 2 つの因数の次数は、どちらも $f$ の次数より小さい。したがって 1 次式は、どの範囲でも既約である。

同じ式でも範囲によって答えが変わる
  1. $x^2-2$:$\mathbb{Q}$ の範囲で既約(ex-fti-quadratic-check で確かめる)。$\mathbb{R}$ の範囲では $(x-\sqrt2)(x+\sqrt2)$ と分解できる。
  2. $x^2+1$:$\mathbb{R}$ の範囲で既約(実数 $x$ で $x^2+1\ge1>0$ なので実数の根がなく、1 次の因数 $px+q$($p\ne0$)があれば $-\frac qp$ が実数の根になってしまう)。$\mathbb{C}$ の範囲では $(x-i)(x+i)$ と分解できる。
  3. $x^4-4$:$\mathbb{Q}$ の範囲では $(x^2-2)(x^2+2)$、$\mathbb{R}$ の範囲では $(x-\sqrt2)(x+\sqrt2)(x^2+2)$、$\mathbb{C}$ の範囲では $(x-\sqrt2)(x+\sqrt2)(x-\sqrt2\,i)(x+\sqrt2\,i)$ である。

$\mathbb{Q}\subset\mathbb{R}\subset\mathbb{C}$ なので、狭い範囲で可約な式は広い範囲でも可約である。逆に、広い範囲で既約な式は狭い範囲でも既約である。範囲を広げると、分解はより細かくなりうる。

主定理 1:2 次式はいつ分解できるか

2 次式が 1 次式の積に分かれるかどうかは、判別式 $D=b^2-4ac$ だけで決まる。判別式が何を表すかは 2次方程式の判別式の正体 で扱った($D=a^2(\alpha-\beta)^2$)。ここでは係数の範囲との関係を見る。

2 次式の分解と判別式

$K$ を $\mathbb{Q}$、$\mathbb{R}$、$\mathbb{C}$ のどれかとし、$a,b,c$ は $K$ に属し $a\ne0$ とする。2 次式 $f(x)=ax^2+bx+c$ の判別式を $D=b^2-4ac$ とする。次の 2 つは同値である。

  1. $f$ は $K$ の範囲で可約である($K$ 係数の 1 次式 2 つの積に書ける)。
  2. $d^2=D$ となる $d$ が $K$ の中にある。
    とくに次が成り立つ。
  • $K=\mathbb{Q}$ のとき、$f$ が可約であることと、$D$ がある有理数の 2 乗であることは同値である。
  • $K=\mathbb{R}$ のとき、$f$ が可約であることと、$D\ge0$ であることは同値である。
  • $K=\mathbb{C}$ のとき、$f$ はいつも可約である。
展開して判別式を平方の形にする

方針:1 ならば 2 は、分解を展開して係数を比べ、$D$ を $K$ の数の 2 乗の形に書き直す。2 ならば 1 は、平方完成してから平方の差の公式を使う。
段 1(1 ならば 2)。$f=(px+q)(rx+s)$、$p,q,r,s$ は $K$ に属するとする。右辺を展開すると $pr\,x^2+(ps+qr)\,x+qs$ なので、係数を比べて
$$ a=pr,\qquad b=ps+qr,\qquad c=qs $$
である。これを $D$ に代入すると
$$ D=(ps+qr)^2-4\,pr\,qs=p^2s^2+2psqr+q^2r^2-4psqr=p^2s^2-2psqr+q^2r^2=(ps-qr)^2 $$
となる。$d=ps-qr$ とおくと、$d$ は $K$ の数の積と差なので $K$ に属し、$d^2=D$ である。
段 2(2 ならば 1)。$d^2=D$、$d$ は $K$ に属するとする。平方完成すると
$$ ax^2+bx+c=a\left\{\left(x+\frac b{2a}\right)^2-\frac{b^2-4ac}{4a^2}\right\}=a\left\{\left(x+\frac b{2a}\right)^2-\left(\frac d{2a}\right)^2\right\} $$
である。平方の差の公式 $A^2-B^2=(A+B)(A-B)$ を使うと
$$ ax^2+bx+c=a\left(x+\frac{b+d}{2a}\right)\left(x+\frac{b-d}{2a}\right) $$
となる。$\frac{b+d}{2a}$ と $\frac{b-d}{2a}$ は $K$ の数の和・差・商なので $K$ に属する。よって $f$ は $K$ 係数の 1 次式 $a\bigl(x+\frac{b+d}{2a}\bigr)$ と $x+\frac{b-d}{2a}$ の積である。
段 3(3 つの場合)。$K=\mathbb{Q}$ のときは、2 がそのまま「$D$ はある有理数の 2 乗」である。$K=\mathbb{R}$ のときは、実数の 2 乗は $0$ 以上なので、$d^2=D$ となる実数 $d$ があるのは $D\ge0$ のとき($d=\sqrt D$)であり、そのときに限る。$K=\mathbb{C}$ のときは、どの複素数も、ある複素数の 2 乗である(複素数と方程式:代数学の基本定理 の命題「複素数の $k$ 乗根」で $k=2$ としたもの。証明はそちらにある)。よっていつも 2 が成り立つ。$\square$

高校の問題は整数係数が多い。そのとき「$D$ がある有理数の 2 乗」は「$D$ がある整数の 2 乗(平方数)」と同じになる。

整数が有理数の 2 乗なら整数の 2 乗

整数 $D$ がある有理数の 2 乗ならば、$D$ はある整数の 2 乗である。

有理数の根の候補を使う

$D=0$ なら $D=0^2$ である。$D\ne0$ とし、$D=r^2$、$r$ は有理数とする。$r$ を既約分数 $\frac st$($s,t$ は整数、$t>0$、$s$ と $t$ は互いに素)で表す。$r$ は整数係数の 2 次式 $x^2-D$ の根である。この多項式の最高次の係数は $1$、定数項は $-D\ne0$ なので、剰余の定理と因数定理 の命題「有理数の根の候補」により、分母 $t$ は最高次の係数 $1$ を割り切る。$t>0$ なので $t=1$ であり、$r=s$ は整数である。$\square$

判別式で判定する
  1. $6x^2+x-2$:$D=1+48=49=7^2$ で平方数なので、有理数の範囲で可約である。ex-fti-tasuki の $(2x-1)(3x+2)$ がその分解である。
  2. $3x^2-5x-2$:$D=25+24=49=7^2$。prf-thm-fti-quadratic の段 2 の式で $a=3$、$b=-5$、$d=7$ とすると $3\bigl(x+\frac{2}{6}\bigr)\bigl(x-\frac{12}{6}\bigr)=3\bigl(x+\frac13\bigr)(x-2)=(3x+1)(x-2)$ である。
  3. $2x^2+3x-1$:$D=9+8=17$ は平方数でない($4^2=16<17<25=5^2$)。lem-fti-square により 17 は有理数の 2 乗でもないので、有理数の範囲で既約である。$D>0$ なので実数の範囲では可約で、$2\Bigl(x-\frac{-3+\sqrt{17}}4\Bigr)\Bigl(x-\frac{-3-\sqrt{17}}4\Bigr)$ となる。
  4. $x^2-2$:$D=8$ は平方数でない($2^2<8<3^2$)ので、有理数の範囲で既約である。これは $\sqrt2$ が無理数であることと同じ内容である(実数とは何か:無理数の証明)。
  5. $x^2+x+1$:$D=-3<0$ なので実数の範囲で既約である。複素数の範囲では、$d=\sqrt3\,i$ として $(x-\omega)(x-\omega^2)$($\omega=\frac{-1+\sqrt3\,i}2$)と分解できる。

図 1 は、3 つの場合をグラフで見たものである。$D$ が平方数なら $x$ 軸と有理数の点で交わり、$D>0$ でも平方数でなければ無理数の点で交わり、$D<0$ なら交わらない。1 次の因数 $px+q$ があることと、その根 $-\frac qp$ が $K$ の中にあることは同じなので、2 次式では「$K$ の中に根があるか」と「$K$ の範囲で可約か」が一致する。
3 つの 2 次関数のグラフ。左は !FORMULA[301][1095317890][0] で !FORMULA[302][38352][0] 軸と有理数の点で交わり、中央は !FORMULA[303][1095314945][0] で無理数の点で交わり、右は !FORMULA[304][1095310977][0] で交わらないことを見る図。 3 つの 2 次関数のグラフ。左は $D=49$ で $x$ 軸と有理数の点で交わり、中央は $D=17$ で無理数の点で交わり、右は $D=-3$ で交わらないことを見る図。

主定理 2:整数で探せば十分(Gauss の補題)

たすきがけでは、$p,q,r,s$ を整数の範囲で探した。分数を許せば見つかる分解を、見落としていないだろうか。次の定理は、その心配がないことを保証する。

原始的な多項式

整数係数の多項式で、係数全体に共通の素因数がないもの(係数の 最大公約数 が $1$ のもの)を 原始的 な多項式という。

原始的かどうか
  1. $6x^2+x-2$ は原始的である(係数 $6,1,-2$ の最大公約数は $1$)。係数に $1$ があれば、それだけで原始的である。
  2. $4x^2+6x-2$ は原始的でない(係数はすべて $2$ で割り切れる)。$2(2x^2+3x-1)$ と、整数と原始的な多項式の積に書ける。
  3. $x+\frac23=\frac13(3x+2)$ のように、有理数係数の多項式は、有理数と原始的な多項式の積に書ける(分母の最小公倍数を掛けて整数係数にし、係数の最大公約数で割る)。
原始的な多項式の積は原始的

$g$、$h$ が原始的な多項式ならば、積 $gh$ も原始的である。

最初に割り切れない係数を見る

方針:$gh$ のすべての係数を割り切る素数 $p$ があると仮定して、矛盾を導く(背理法)。
段 1(記号)。$g=a_0+a_1x+\dots+a_mx^m$、$h=b_0+b_1x+\dots+b_nx^n$ とする。$g$ は原始的なので、$p$ で割り切れない係数がある。そのうち添字が最小のものを $a_k$ とする。つまり $a_0,\dots,a_{k-1}$ は $p$ で割り切れ、$a_k$ は割り切れない。同じように、$b_0,\dots,b_{l-1}$ は $p$ で割り切れ、$b_l$ は割り切れないとする。
段 2($x^{k+l}$ の係数)。$gh$ の $x^{k+l}$ の係数は、$i+j=k+l$ となるすべての組の積 $a_ib_j$ の和である。
$$ c_{k+l}=\sum_{i+j=k+l}a_ib_j=a_kb_l+\sum_{\substack{i+j=k+l\\ i< k}}a_ib_j+\sum_{\substack{i+j=k+l\\ i>k}}a_ib_j $$
2 つ目の和では $i< k$ なので $a_i$ が $p$ で割り切れる。3 つ目の和では $i>k$ なので $j=k+l-i< l$ となり、$b_j$ が $p$ で割り切れる。よって、2 つ目と 3 つ目の和は $p$ で割り切れる。
段 3(矛盾)。仮定により $c_{k+l}$ は $p$ で割り切れるので、段 2 から $a_kb_l=c_{k+l}-(\text{2 つ目と 3 つ目の和})$ も $p$ で割り切れる。素数 $p$ が積 $a_kb_l$ を割り切るなら、$a_k$ か $b_l$ の少なくとも一方を割り切る(素因数分解の一意性 から出る性質)。これは $a_k$、$b_l$ の選び方に反する。よって、$gh$ のすべての係数を割り切る素数はなく、$gh$ は原始的である。$\square$

積の係数で確かめる

$g=2x^2+3x+4$、$h=6x+5$ はどちらも原始的である($g$ は $2,3,4$、$h$ は $6,5$)。積は $gh=12x^3+28x^2+39x+20$ で、係数 $12,28,39,20$ の最大公約数は $1$ である。prf-lem-fti-primitive-product の記号で $p=2$ の場合を追う。$g=4+3x+2x^2$ なので $a_0=4$、$a_1=3$ で、最初に $2$ で割り切れない係数は $a_1=3$($k=1$)である。$h=5+6x$ では $b_0=5$($l=0$)である。$x^{k+l}=x^1$ の係数は
$$ a_0b_1+a_1b_0=4\cdot6+3\cdot5=24+15=39 $$
で、$24$ は偶数、$a_kb_l=15$ は奇数なので、和 $39$ は奇数である。証明の段 2・段 3 のとおりである。

Gauss の補題(整数係数の場合)

整数係数の多項式 $f$ が、次数 $1$ 以上の有理数係数の多項式 $g$、$h$ の積 $f=gh$ に書けるとする。このとき $0$ でない有理数 $\lambda$ があって、$\lambda g$ と $\frac1\lambda h$ はどちらも整数係数である。とくに $f=(\lambda g)\bigl(\frac1\lambda h\bigr)$ は、次数がそれぞれ $g$、$h$ と同じ整数係数の多項式の積である。

分母を集めて 1 つの数にする

方針:$g$、$h$ を「有理数 × 原始的な多項式」に書き、残った有理数の分母が $1$ であることを lem-fti-primitive-product で示す。
段 1(原始的な多項式を取り出す)。$g$ の係数の分母の公倍数である正の整数 $m$ をとると、$mg$ は整数係数である。$mg$ の係数の最大公約数を $k$($k>0$)とし、$g_0=\frac{mg}k$ とおくと、$g_0$ は整数係数で原始的であり、$g=\frac km\,g_0$ である。同じように $h=\beta\,h_0$($\beta$ は正の有理数、$h_0$ は原始的)と書く。$\alpha=\frac km$ とおく。
段 2(有理数を 1 つにまとめる)。$f=gh=\alpha\beta\,g_0h_0$ である。正の有理数 $\alpha\beta$ を既約分数 $\frac uv$($u,v$ は互いに素な正の整数)で表すと、両辺に $v$ を掛けて
$$ v\,f=u\,g_0h_0 $$
である。
段 3($v=1$ を示す)。$v>1$ と仮定し、$v$ の素因数を 1 つとって $p$ とする。左辺 $vf$ の係数はすべて $p$ で割り切れるので、右辺 $u\,g_0h_0$ の係数もすべて $p$ で割り切れる。$u$ と $v$ は互いに素なので $p$ は $u$ を割り切らない。素数 $p$ が積 $u\cdot c$($c$ は $g_0h_0$ の係数)を割り切り、$u$ を割り切らないので、$p$ は $c$ を割り切る。よって $g_0h_0$ の係数はすべて $p$ で割り切れる。一方、lem-fti-primitive-product により $g_0h_0$ は原始的である。これは矛盾なので、$v=1$、つまり $\alpha\beta=u$ は整数である。
段 4($\lambda$ を決める)。$\lambda=\frac u\alpha$ とおく。$\lambda g=\frac u\alpha\cdot\alpha g_0=u\,g_0$ は整数係数である。$\frac1\lambda h=\frac\alpha u\cdot\beta h_0=\frac{\alpha\beta}u\,h_0=h_0$ も整数係数である。$\square$

分数の分解から整数の分解へ

$6x^2+x-2=\bigl(x+\frac23\bigr)(6x-3)$ は、分数を使った分解である(展開すると $6x^2-3x+4x-2$)。prf-thm-fti-gauss の段 1 で、$g=x+\frac23=\frac13(3x+2)$($\alpha=\frac13$、$g_0=3x+2$)、$h=6x-3=3(2x-1)$($\beta=3$、$h_0=2x-1$)である。$\alpha\beta=1$ なので $u=1$、$\lambda=\frac u\alpha=3$ で、
$$ \lambda g=3x+2,\qquad\frac1\lambda h=2x-1 $$
となり、整数係数の分解 $(3x+2)(2x-1)$ が得られる。ex-fti-tasuki の答えと同じである。

Gauss の補題と主定理 1 を合わせると、整数係数の 2 次式について、たすきがけで探す意味がはっきりする。

たすきがけで十分である

$a,b,c$ を整数、$a\ne0$ とし、$D=b^2-4ac$ とする。次の 3 つは同値である。

  1. $ax^2+bx+c$ は有理数の範囲で可約である。
  2. $D$ は平方数(ある整数の 2 乗)である。
  3. 整数 $p,q,r,s$ で $ax^2+bx+c=(px+q)(rx+s)$ となるものがある。
3 つの結果をつなぐ

1 と 2:thm-fti-quadratic により、1 は「$D$ がある有理数の 2 乗」と同値である。lem-fti-square により、整数 $D$ についてこれは 2 と同値である(逆に整数の 2 乗は有理数の 2 乗でもある)。
1 ならば 3:1 の分解の 2 つの因数は有理数係数の 1 次式である。thm-fti-gauss により、それぞれを $\lambda$ 倍、$\frac1\lambda$ 倍して整数係数の 1 次式にできる。それを $px+q$、$rx+s$ とすればよい。
3 ならば 1:$p,q,r,s$ は有理数でもあり、$pr=a\ne0$ より $p\ne0$、$r\ne0$ なので、どちらの因数も次数 $1$ である。$\square$

$c\ne0$ のとき、3 の $p,q,r,s$ は $pr=a$、$qs=c$ を満たすので、$p$ は $a$ の約数、$q$ は $c$ の約数である。約数は有限個なので、たすきがけの候補も有限個であり、全部を調べれば分解があるかないかが必ず分かる。

たすきがけで見つからない例

$2x^2+3x-1$ で、$pr=2$、$qs=-1$ となる整数の組を調べる。2 つの因数の順番を入れ替えても、両方の因数の符号をまとめて入れ替えても同じ分解なので、$p=1$、$r=2$ としてよい($p=2$、$r=1$ の場合は順番の入れ替えで、$p,r$ が負の場合は符号の入れ替えで、この場合に戻る)。$(q,s)=(1,-1)$ なら $(x+1)(2x-1)=2x^2+x-1$、$(q,s)=(-1,1)$ なら $(x-1)(2x+1)=2x^2-x-1$ で、どちらも $x$ の係数が $3$ にならない。cor-fti-tasuki により、有理数の範囲でも分解できない。これは ex-fti-quadratic-check の 3 で $D=17$ が平方数でないことから得た結論と一致する。

4 次式:根がなくても分解できる

2 次式では、「$K$ の中に根がない」と「$K$ の範囲で既約」は同じだった(thm-fti-quadratic の後の説明)。3 次式でも同じだが、4 次式では違ってくる。

2 次式・3 次式の既約性と根

$K$ を $\mathbb{Q}$、$\mathbb{R}$、$\mathbb{C}$ のどれかとし、$f$ を次数 $2$ または $3$ の $K$ 係数の多項式とする。$f$ が $K$ の範囲で可約であることと、$f$ が $K$ の中に根をもつことは同値である。

次数の分け方を数える

段 1(可約ならば根がある)。$f=gh$、$g,h$ の次数は $1$ 以上とする。次数の和は $2$ または $3$ なので、分け方は $1+1$、$1+2$、$2+1$ のどれかであり、どの場合も一方は 1 次式である。それを $px+q$($p\ne0$、$p,q$ は $K$ に属する)とすると、$x=-\frac qp$ は $K$ に属し、$f\bigl(-\frac qp\bigr)=0$ である。
段 2(根があれば可約)。$\alpha$ が $K$ に属し $f(\alpha)=0$ とする。剰余の定理と因数定理 の因数定理により、$f=(x-\alpha)\,g$ と書ける。$g$ は $f$ を $x-\alpha$ で割った商で、割り算の計算は係数の和・差・積・商だけで進むので、$g$ も $K$ 係数である。$g$ の次数は $f$ の次数より $1$ 小さいので $1$ 以上である。よって $f$ は $K$ の範囲で可約である。$\square$

3 次式の既約性を根で調べる
  1. $x^3-3x-1$:有理数の根があれば、剰余の定理と因数定理 の命題「有理数の根の候補」により $\pm1$ のどちらかである。$1-3-1=-3$、$-1+3-1=1$ でどちらも根でないので、有理数の範囲で既約である。
  2. $x^3-2$:有理数の根の候補は $\pm1,\pm2$ で、値は $-1$、$-3$、$6$、$-10$ なので根はない。有理数の範囲で既約である。実数の範囲では根 $\sqrt[3]2$ があるので $(x-\sqrt[3]2)(x^2+\sqrt[3]2\,x+\sqrt[3]4)$ と分解できる(展開と因数分解の公式 の $a^3-b^3$ の公式)。

4 次式は $2+2$ に分かれることがあり、そのときは根がなくても可約になる。

Sophie Germain の恒等式

$$ a^4+4b^4=(a^2+2ab+2b^2)(a^2-2ab+2b^2) $$
とくに $x^4+4=(x^2+2x+2)(x^2-2x+2)$ である。

平方の差を作る

$a^4+4b^4$ に $4a^2b^2$ を足して引く。
$$ a^4+4b^4=(a^4+4a^2b^2+4b^4)-4a^2b^2=(a^2+2b^2)^2-(2ab)^2 $$
である。平方の差の公式により、これは $(a^2+2b^2+2ab)(a^2+2b^2-2ab)$ に等しい。$b=1$、$a=x$ とすると 2 つ目の式になる。$\square$

$x^4+4$ は実数 $x$ で $x^4+4\ge4>0$ なので実数の根をもたない。それでも、有理数の範囲で 2 つの 2 次式の積に分かれる。4 次式では「根がない」から「既約」を結論できない。

2 以上の整数 $n$ で $n^4+4$ は素数でない

$n$ を正の整数とする。prop-fti-germain で $a=n$、$b=1$ とすると、$n^4+4=(n^2+2n+2)(n^2-2n+2)$ である。

  1. $n=3$:$81+4=85$、因数は $9+6+2=17$ と $9-6+2=5$ で、$85=17\times5$ である。
  2. $n=5$:$625+4=629$、因数は $37$ と $17$ で、$629=37\times17$ である。
  3. $n=1$:$1+4=5$、因数は $5$ と $1$ である。小さい方の因数 $n^2-2n+2=(n-1)^2+1$ は $n=1$ のときだけ $1$ になり、$n\ge2$ では $2$ 以上である。大きい方の因数はそれより大きい。よって $2$ 以上の整数 $n$ では、$n^4+4$ は $2$ 以上の 2 つの整数の積で、素数ではない。
$x^4+1$ の分解は範囲で変わる
  1. $x^4+1$ は有理数の範囲で既約である。
  2. 実数の範囲では $x^4+1=(x^2+\sqrt2\,x+1)(x^2-\sqrt2\,x+1)$ と分解でき、2 つの 2 次式は実数の範囲で既約である。
  3. 複素数の範囲では、$x^4+1$ は 4 つの 1 次式 $x-\frac{1+i}{\sqrt2}$、$x-\frac{1-i}{\sqrt2}$、$x-\frac{-1+i}{\sqrt2}$、$x-\frac{-1-i}{\sqrt2}$ の積である。
2 次式どうしの積を仮定して係数を比べる

方針:有理数の範囲での分解を、次数の分け方($1+3$ と $2+2$)で場合分けして否定する。$2+2$ の場合は係数比較の連立方程式を解く。その解が 2 の実数の分解を与える。
段 1(1 次の因数はない)。実数 $x$ で $x^4+1\ge1>0$ なので、$x^4+1$ は実数の根をもたない。1 次の因数があれば根があることになる(prf-prop-fti-low-degree の段 1)ので、1 次の因数はない。よって分解があれば $2+2$ の形である。
段 2(係数比較)。$x^4+1=gh$、$g,h$ は有理数係数の 2 次式とする。最高次の係数の積は $1$ なので、$g$ の最高次の係数を $e$ とすると $h$ の最高次の係数は $\frac1e$ である。$g$ を $\frac1e$ 倍、$h$ を $e$ 倍しても積は変わらないので、$g=x^2+px+q$、$h=x^2+rx+s$($p,q,r,s$ は有理数)としてよい。展開すると
$$ gh=x^4+(p+r)\,x^3+(q+s+pr)\,x^2+(ps+qr)\,x+qs $$
なので、$x^4+1$ と係数を比べて
$$ p+r=0,\qquad q+s+pr=0,\qquad ps+qr=0,\qquad qs=1 $$
である。
段 3(連立方程式を解く)。1 つ目から $r=-p$ である。3 つ目に代入すると $ps-pq=p(s-q)=0$ なので、$p=0$ または $s=q$ である。

  • $p=0$ のとき:$r=0$ で、2 つ目は $q+s=0$、つまり $s=-q$ である。4 つ目に代入すると $-q^2=1$ となるが、有理数(実数)$q$ で $q^2\ge0$ なのでありえない。
  • $s=q$ のとき:4 つ目は $q^2=1$ なので $q=1$ または $q=-1$ である。2 つ目は $2q-p^2=0$、つまり $p^2=2q$ である。$q=-1$ なら $p^2=-2$ でありえない。$q=1$ なら $p^2=2$ である。
    段 4(1 の結論)。段 3 から、有理数の解があるとすれば $p^2=2$ となる有理数 $p$ が必要だが、$\sqrt2$ は無理数なのでそのような $p$ はない(実数とは何か:無理数の証明)。よって $x^4+1$ は有理数の範囲で既約である。
    段 5(2 の分解)。段 2・段 3 の計算は実数の $p,q,r,s$ でもそのまま成り立つ。実数では $q=s=1$、$p=\sqrt2$、$r=-\sqrt2$ が 4 つの式をすべて満たすので、$x^4+1=(x^2+\sqrt2\,x+1)(x^2-\sqrt2\,x+1)$ である。2 つの 2 次式の判別式はどちらも $2-4=-2<0$ なので、thm-fti-quadratic により実数の範囲で既約である。
    段 6(3 の分解)。$\zeta=\frac{1+i}{\sqrt2}$ とすると $\zeta^2=\frac{1+2i+i^2}2=i$、$\zeta^4=i^2=-1$ なので、$\zeta$ は $x^4+1$ の根である。同じ計算で $\frac{\pm1\pm i}{\sqrt2}$ の 4 つがすべて根であることが分かる($\bigl(\frac{\pm1\pm i}{\sqrt2}\bigr)^2=\pm i$ で、どれも 2 乗すると $-1$)。4 つは互いに異なるので、因数定理を 4 回使って、$x^4+1$ はこの 4 つの 1 次式の積になる(最高次の係数はどちらも $1$)。$\square$

図 2 は、$x^4+1$ と 2 つの因数のグラフである。3 つとも $x$ 軸と交わらない。実数の根がないことと、実数の範囲で分解できないことは、4 次式では別のことである。
!FORMULA[677][1609852600][0](実線)と、その実数の範囲での因数 !FORMULA[678][1167998305][0](破線)のグラフ。3 つとも !FORMULA[679][38352][0] 軸と交わらないのに、!FORMULA[680][1114295252][0] は 2 つの 2 次式の積であることを見る図。 $y=x^4+1$(実線)と、その実数の範囲での因数 $y=x^2\pm\sqrt2\,x+1$(破線)のグラフ。3 つとも $x$ 軸と交わらないのに、$x^4+1$ は 2 つの 2 次式の積であることを見る図。

高校数学で解く・大学数学で見る:既約分解の一意性

高校数学では、因数分解は「できるところまで分ける」計算である。そのとき、分け方の順番を変えても最後の形は同じになるだろうか。展開と因数分解の公式 の例では、$x^6-1$ を 2 通りの道筋で分解して、同じ答え $(x-1)(x+1)(x^2+x+1)(x^2-x+1)$ にたどり着いた。

2 通りの道筋が同じ答えになる

$x^6-1$ を有理数の範囲で因数分解する。

  1. $(x^3)^2-1=(x^3-1)(x^3+1)=(x-1)(x^2+x+1)(x+1)(x^2-x+1)$
  2. $(x^2)^3-1=(x^2-1)(x^4+x^2+1)=(x-1)(x+1)(x^4+x^2+1)$ とし、$x^4+x^2+1=(x^2+1)^2-x^2=(x^2+x+1)(x^2-x+1)$ と分ける。
    $x^2+x+1$ と $x^2-x+1$ の判別式はどちらも $-3<0$ なので、thm-fti-quadratic により有理数の範囲で(実数の範囲でも)既約である。1 次式も既約なので、どちらの道筋でも既約な式の積 $(x-1)(x+1)(x^2+x+1)(x^2-x+1)$ で止まり、しかも同じ積になった。

これは偶然ではない。整数の 素因数分解の一意性 と同じ形の定理が、多項式でも成り立つ。

多項式の既約分解の一意性

$K$ を $\mathbb{Q}$、$\mathbb{R}$、$\mathbb{C}$ のどれかとする。次数が $1$ 以上の $K$ 係数の多項式 $f$ は、$0$ でない定数 $c$ と、最高次の係数が $1$ で $K$ の範囲で既約な多項式 $p_1,\dots,p_k$ を使って
$$ f=c\,p_1p_2\cdots p_k $$
と書ける。この書き方は、$p_1,\dots,p_k$ の並べ方を除いてただ 1 通りである。

証明の出典と整数との対応

この記事では thm-fti-unique を証明しない。$K$ 係数の多項式でも余りのある割り算ができ(剰余の定理と因数定理 の割り算の定理)、そこから整数と同じ互除法の議論で一意性が示される。Mil22 1.6(p. 10)は、割り算ができることから $K$ 係数の多項式全体が一意分解整域であることを述べている(証明はそこには書かれていない)。大学では、この性質をもつ数の体系を 一意分解整域 という。整数と多項式の対応は次のとおりである。

整数$K$ 係数の多項式
素数$K$ の範囲で既約な多項式
$\pm1$(掛けても素因数分解が変わらない数)$0$ でない定数
余りのある割り算、互除法多項式の割り算、多項式の互除法
素数 $p$ が $ab$ を割り切れば $a$ か $b$ を割り切る既約な $p$ が $gh$ を割り切れば $g$ か $h$ を割り切る

どの多項式が既約かは $K$ で大きく違う。$\mathbb{C}$ では既約な多項式は 1 次式だけである(代数学の基本定理。複素数と方程式:代数学の基本定理 の系「1 次式への分解」)。$\mathbb{R}$ では、1 次式と判別式が負の 2 次式だけである(同じ記事の定理「実数係数の多項式の分解」)。$\mathbb{Q}$ では、どの次数にも既約な多項式がある。たとえば $x^n-2$ はどの $n\ge1$ でも有理数の範囲で既約である(Eisenstein の判定法による。Mil22 1.16、p. 12。この記事では証明しない)。

thm-fti-gauss も大学の言葉で言い直せる。整数係数の多項式全体(多項式環 $\mathbb{Z}[x]$)でも、素因数分解と同じ一意性が成り立つ。その証明の中心が Gauss の補題である(Mil22 1.13、p. 12 は、この記事の thm-fti-gauss と同じ主張「$\mathbb{Z}[X]$ の多項式が $\mathbb{Q}[X]$ で自明でない分解をもてば $\mathbb{Z}[X]$ でももつ」を示している)。

例と反例

命題が成り立つための前提を外すと、結論が崩れる。

外した前提崩れる主張ボックス
係数の範囲を決める「既約かどうか」の答えが 1 つに決まるex-fti-ranges
次数が 2 か 3根がなければ既約prop-fti-germain、prop-fti-x4-plus-1 の 2
$b$ について 1 次分解すると一方の因数は $b$ を含まないex-fti-degree-two
$p$ が素数原始的な多項式の積は原始的ex-fti-composite
$f$ が整数係数有理数の範囲の分解から整数係数の分解が作れるex-fti-not-integer
反例:$b$ について 2 次なら両方の因数が $b$ を含みうる

$b^2-a^2=(b-a)(b+a)$ は、$b$ について 2 次の式である。2 つの因数 $b-a$、$b+a$ はどちらも $b$ を含む。prop-fti-lowest-degree の証明の段 1 では、次数の和が $1$ であることから一方の次数が $0$ だと結論した。次数の和が $2$ なら $1+1$ と分かれることができ、この結論は成り立たない。最低次の文字で整理するのは、この分け方の可能性をできるだけ減らすためである。

反例:素数でない数では積の性質が崩れる

lem-fti-primitive-product の「素数 $p$」を $4$ に替えた主張「係数がすべては $4$ で割り切れない多項式どうしの積は、係数がすべては $4$ で割り切れない」は成り立たない。$g=h=2x+2$ とすると、$g$ の係数 $2,2$ はどちらも $4$ で割り切れないが、
$$ gh=(2x+2)^2=4x^2+8x+4 $$
の係数 $4,8,4$ はすべて $4$ で割り切れる。証明の段 3 で使った「$p$ が積 $a_kb_l$ を割り切れば $a_k$ か $b_l$ を割り切る」が、$4$ が $2\times2$ を割り切るのにどちらの $2$ も割り切らないことで崩れている。

反例:整数係数でない式

$x^2-\frac14=\bigl(x-\frac12\bigr)\bigl(x+\frac12\bigr)$ は有理数の範囲で可約である。しかし、整数係数の多項式どうしの積は整数係数なので、$x^2-\frac14$ を整数係数の多項式の積に書くことはできない。thm-fti-gauss は $f$ が整数係数であることを仮定している。なお、$4$ 倍した $4x^2-1=(2x-1)(2x+1)$ は整数係数の分解をもつ。

さらに先へ

  • Eisenstein の判定法(Eisensteinの判定法):整数係数の多項式で、最高次以外の係数がすべて素数 $p$ で割り切れ、最高次の係数は $p$ で割り切れず、定数項が $p^2$ で割り切れなければ、有理数の範囲で既約である。$x^n-2$ は $p=2$ で条件を満たす。証明は lem-fti-primitive-product と同じく「最初に割り切れない係数」を見る議論でできる(Mil22 1.16)。
  • $x^4+1$ は有理数の範囲で既約だが、係数を素数 $p$ で割った余りで考えると、どの素数 $p$ についても可約になる。この例は 既約多項式 の記事にある。
  • 整数係数の多項式が整数係数の多項式の積に分解できないこと(thm-fti-gauss により、有理数の範囲で既約であることと同じ)を示す数学オリンピックの問題(国際数学オリンピック(1993 年)第 1 問)を、複素数と方程式:代数学の基本定理 で扱っている(根の積の絶対値を使う解法)。
  • 実数の範囲での既約分解(1 次式と判別式が負の 2 次式)は、有理関数の積分 の部分分数分解の出発点である。

関連項目

参考文献

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