因数分解の技法と既約性(factoring techniques and irreducibility)とは、最低次の文字で整理する・たすきがけ・複 2 次式などの因数分解の技法と、「どこまで分解できるか」が係数に許す範囲(有理数・実数・複素数)で決まることをまとめた話題である。係数がその範囲にあり $a\ne0$ の 2 次式 $ax^2+bx+c$ がその範囲で 1 次式の積に分かれるのは、判別式 $b^2-4ac$ がその範囲の数の 2 乗のときに限る。Gauss の補題により、整数係数の多項式が有理数係数で分解できれば整数係数でも分解できるので、整数係数の 2 次式はたすきがけで見つからなければ有理数の範囲で既約である。$x^4+4$ は実数の根がないのに $(x^2+2x+2)(x^2-2x+2)$ と分かれ、$x^4+1$ は有理数の範囲で既約だが実数の範囲では分かれる。
前提知識: 展開と因数分解の公式, 剰余の定理と因数定理, 2次方程式の判別式の正体, 有理数, 実数, 複素数
数学 I では、公式に当てはまらない式も、いくつかの技法を組み合わせて因数分解する。公式そのもの($a^2-b^2=(a+b)(a-b)$、$a^3+b^3=(a+b)(a^2-ab+b^2)$ など)がどこから来るかは 展開と因数分解の公式 で扱った。この記事では技法のほうを見る。まず、教科書にある形の計算を並べる。
$a^2+ab-3a-2b+2$ を因数分解する。文字 $a$ については 2 次、文字 $b$ については 1 次なので、次数の低い $b$ について整理する。
$$
a^2+ab-3a-2b+2=(a-2)\,b+(a^2-3a+2)
$$
$b$ を含まない部分は $a^2-3a+2=(a-1)(a-2)$ と分解できる。すると 2 つの部分に共通の因数 $a-2$ があるので
$$
(a-2)\,b+(a-1)(a-2)=(a-2)(b+a-1)=(a-2)(a+b-1)
$$
である。
$6x^2+x-2$ を $(px+q)(rx+s)$ の形にする。展開すると $pr\,x^2+(ps+qr)\,x+qs$ なので、整数 $p,q,r,s$ で
$$
pr=6,\qquad qs=-2,\qquad ps+qr=1
$$
となるものを探す。$p=2$、$r=3$、$q=-1$、$s=2$ とすると $ps+qr=4-3=1$ となって合う。よって
$$
6x^2+x-2=(2x-1)(3x+2)
$$
である。$pr=6$ と $qs=-2$ の組を並べ、斜めに掛けて足す計算を表の形で書くのが「たすきがけ」である。
$x^2+3xy+2y^2+x+3y-2$ を因数分解する。$x$ について整理すると
$$
x^2+(3y+1)\,x+(2y^2+3y-2)
$$
である。定数項($x$ を含まない部分)は、たすきがけで $2y^2+3y-2=(2y-1)(y+2)$ と分かれる。2 つの因数の和は $(2y-1)+(y+2)=3y+1$ で、$x$ の係数に一致する。よって
$$
x^2+3xy+2y^2+x+3y-2=\bigl(x+(2y-1)\bigr)\bigl(x+(y+2)\bigr)=(x+2y-1)(x+y+2)
$$
である。
$x^2$ だけで書ける 4 次式を 複 2 次式 という。
$(x^2+x)^2-8(x^2+x)+12$ を因数分解する。$X=x^2+x$ とおくと $X^2-8X+12=(X-2)(X-6)$ なので
$$
(x^2+x-2)(x^2+x-6)=(x+2)(x-1)(x+3)(x-2)
$$
である。
技法は使えるようになっても、次のような疑問が残る。
| 高校の計算 | この記事での見方 | ボックス |
|---|---|---|
| 最低次の文字で整理する | 1 次の文字について分解は「共通因数を探す」ことになる | prop-fti-lowest-degree |
| たすきがけ | 2 次式が分解できるのは判別式が係数の範囲の数の 2 乗(整数係数なら平方数)のとき | thm-fti-quadratic |
| 整数で探せば十分 | 有理数の範囲で分解できれば整数の範囲で分解できる | thm-fti-gauss |
| これ以上分解できない | 係数の範囲を決めたときの既約性 | def-fti-irreducible |
| $x^4+4$ と $x^4+1$ | 根がなくても分解できる 4 次式、有理数の範囲で既約な 4 次式 | prop-fti-germain、prop-fti-x4-plus-1 |
ex-fti-lowest では、$b$ について 1 次の式として整理した。そうすると、分解の相手が「$b$ を含まない式」に限られる。これを命題として述べる。ここでの「$b$ についての次数」は、$b$ 以外の文字を係数とみたときの次数である(多項式 の次数の数え方)。
$P$、$Q$ を文字 $b$ を含まない多項式とし、$P\ne0$ とする。$f=P\,b+Q$($b$ について 1 次)が、2 つの多項式 $g$、$h$ の積 $f=gh$ に書けるとする。このとき $g$、$h$ の一方は $b$ を含まず、それを $g$ とすると、$g$ は $P$ と $Q$ の両方を割り切る。つまり $P=g\,h_1$、$Q=g\,h_0$ となる、$b$ を含まない多項式 $h_1$、$h_0$ がある。
方針:積の次数は次数の和であることを使って、一方の因数が $b$ を含まないことを示し、次に $b$ の係数を比べる。
段 1(一方は $b$ を含まない)。$0$ でない多項式の積の $b$ についての次数は、それぞれの $b$ についての次数の和である(最高次の項どうしの積が消えないため。剰余の定理と因数定理 の命題「積の次数」と同じ理由である)。$f$ の $b$ についての次数は $1$ なので、$g$ と $h$ の次数の和は $1$ である。次数は $0$ 以上の整数なので、一方が $0$、他方が $1$ である。次数 $0$ の方を $g$ とする。$g$ は $b$ を含まない。
段 2(係数を比べる)。$h$ は $b$ について 1 次なので、$b$ を含まない多項式 $h_1$、$h_0$ で $h=h_1\,b+h_0$ と書ける。すると
$$
f=gh=(g\,h_1)\,b+g\,h_0
$$
である。$f=P\,b+Q$ と $b$ の係数どうし、$b$ を含まない部分どうしを比べると(恒等式と未定係数法 の係数比較)、$P=g\,h_1$、$Q=g\,h_0$ である。$\square$
したがって、$b$ について 1 次の式を分解するには、$b$ の係数 $P$ と残り $Q$ の共通因数を探せばよい。ex-fti-lowest では $P=a-2$、$Q=(a-1)(a-2)$ の共通因数 $a-2$ がそれであった。$a$ について整理すると 2 次式になり、候補がずっと多くなる。
$x^2-2$ は、整数や分数の係数では 1 次式の積にならないが、$\sqrt2$ を使えば $(x-\sqrt2)(x+\sqrt2)$ になる。「因数分解できるか」は、係数にどの数を許すかを決めてはじめて意味をもつ。高校の「因数分解せよ」は、ふつう有理数(整数と分数)の範囲を指している。
$K$ を、有理数全体 $\mathbb{Q}$、実数全体 $\mathbb{R}$、複素数全体 $\mathbb{C}$ のどれかとする。係数がすべて $K$ に属する 1 文字 $x$ の多項式を $K$ 係数の多項式 という。
$K$ 係数の多項式 $f$ で次数が $1$ 以上のものが、次数が $1$ 以上の $K$ 係数の多項式 2 つの積に書けるとき、$f$ は $K$ の範囲で可約 であるという。そう書けないとき、$f$ は $K$ の範囲で既約 であるという。「$K$ の範囲で因数分解する」とは、$f$ を $K$ の範囲で既約な多項式の積(と定数)の形に書くことである。
積の次数は次数の和なので、可約な多項式の 2 つの因数の次数は、どちらも $f$ の次数より小さい。したがって 1 次式は、どの範囲でも既約である。
$\mathbb{Q}\subset\mathbb{R}\subset\mathbb{C}$ なので、狭い範囲で可約な式は広い範囲でも可約である。逆に、広い範囲で既約な式は狭い範囲でも既約である。範囲を広げると、分解はより細かくなりうる。
2 次式が 1 次式の積に分かれるかどうかは、判別式 $D=b^2-4ac$ だけで決まる。判別式が何を表すかは 2次方程式の判別式の正体 で扱った($D=a^2(\alpha-\beta)^2$)。ここでは係数の範囲との関係を見る。
$K$ を $\mathbb{Q}$、$\mathbb{R}$、$\mathbb{C}$ のどれかとし、$a,b,c$ は $K$ に属し $a\ne0$ とする。2 次式 $f(x)=ax^2+bx+c$ の判別式を $D=b^2-4ac$ とする。次の 2 つは同値である。
方針:1 ならば 2 は、分解を展開して係数を比べ、$D$ を $K$ の数の 2 乗の形に書き直す。2 ならば 1 は、平方完成してから平方の差の公式を使う。
段 1(1 ならば 2)。$f=(px+q)(rx+s)$、$p,q,r,s$ は $K$ に属するとする。右辺を展開すると $pr\,x^2+(ps+qr)\,x+qs$ なので、係数を比べて
$$
a=pr,\qquad b=ps+qr,\qquad c=qs
$$
である。これを $D$ に代入すると
$$
D=(ps+qr)^2-4\,pr\,qs=p^2s^2+2psqr+q^2r^2-4psqr=p^2s^2-2psqr+q^2r^2=(ps-qr)^2
$$
となる。$d=ps-qr$ とおくと、$d$ は $K$ の数の積と差なので $K$ に属し、$d^2=D$ である。
段 2(2 ならば 1)。$d^2=D$、$d$ は $K$ に属するとする。平方完成すると
$$
ax^2+bx+c=a\left\{\left(x+\frac b{2a}\right)^2-\frac{b^2-4ac}{4a^2}\right\}=a\left\{\left(x+\frac b{2a}\right)^2-\left(\frac d{2a}\right)^2\right\}
$$
である。平方の差の公式 $A^2-B^2=(A+B)(A-B)$ を使うと
$$
ax^2+bx+c=a\left(x+\frac{b+d}{2a}\right)\left(x+\frac{b-d}{2a}\right)
$$
となる。$\frac{b+d}{2a}$ と $\frac{b-d}{2a}$ は $K$ の数の和・差・商なので $K$ に属する。よって $f$ は $K$ 係数の 1 次式 $a\bigl(x+\frac{b+d}{2a}\bigr)$ と $x+\frac{b-d}{2a}$ の積である。
段 3(3 つの場合)。$K=\mathbb{Q}$ のときは、2 がそのまま「$D$ はある有理数の 2 乗」である。$K=\mathbb{R}$ のときは、実数の 2 乗は $0$ 以上なので、$d^2=D$ となる実数 $d$ があるのは $D\ge0$ のとき($d=\sqrt D$)であり、そのときに限る。$K=\mathbb{C}$ のときは、どの複素数も、ある複素数の 2 乗である(複素数と方程式:代数学の基本定理 の命題「複素数の $k$ 乗根」で $k=2$ としたもの。証明はそちらにある)。よっていつも 2 が成り立つ。$\square$
高校の問題は整数係数が多い。そのとき「$D$ がある有理数の 2 乗」は「$D$ がある整数の 2 乗(平方数)」と同じになる。
整数 $D$ がある有理数の 2 乗ならば、$D$ はある整数の 2 乗である。
$D=0$ なら $D=0^2$ である。$D\ne0$ とし、$D=r^2$、$r$ は有理数とする。$r$ を既約分数 $\frac st$($s,t$ は整数、$t>0$、$s$ と $t$ は互いに素)で表す。$r$ は整数係数の 2 次式 $x^2-D$ の根である。この多項式の最高次の係数は $1$、定数項は $-D\ne0$ なので、剰余の定理と因数定理 の命題「有理数の根の候補」により、分母 $t$ は最高次の係数 $1$ を割り切る。$t>0$ なので $t=1$ であり、$r=s$ は整数である。$\square$
図 1 は、3 つの場合をグラフで見たものである。$D$ が平方数なら $x$ 軸と有理数の点で交わり、$D>0$ でも平方数でなければ無理数の点で交わり、$D<0$ なら交わらない。1 次の因数 $px+q$ があることと、その根 $-\frac qp$ が $K$ の中にあることは同じなので、2 次式では「$K$ の中に根があるか」と「$K$ の範囲で可約か」が一致する。
3 つの 2 次関数のグラフ。左は $D=49$ で $x$ 軸と有理数の点で交わり、中央は $D=17$ で無理数の点で交わり、右は $D=-3$ で交わらないことを見る図。
たすきがけでは、$p,q,r,s$ を整数の範囲で探した。分数を許せば見つかる分解を、見落としていないだろうか。次の定理は、その心配がないことを保証する。
整数係数の多項式で、係数全体に共通の素因数がないもの(係数の 最大公約数 が $1$ のもの)を 原始的 な多項式という。
$g$、$h$ が原始的な多項式ならば、積 $gh$ も原始的である。
方針:$gh$ のすべての係数を割り切る素数 $p$ があると仮定して、矛盾を導く(背理法)。
段 1(記号)。$g=a_0+a_1x+\dots+a_mx^m$、$h=b_0+b_1x+\dots+b_nx^n$ とする。$g$ は原始的なので、$p$ で割り切れない係数がある。そのうち添字が最小のものを $a_k$ とする。つまり $a_0,\dots,a_{k-1}$ は $p$ で割り切れ、$a_k$ は割り切れない。同じように、$b_0,\dots,b_{l-1}$ は $p$ で割り切れ、$b_l$ は割り切れないとする。
段 2($x^{k+l}$ の係数)。$gh$ の $x^{k+l}$ の係数は、$i+j=k+l$ となるすべての組の積 $a_ib_j$ の和である。
$$
c_{k+l}=\sum_{i+j=k+l}a_ib_j=a_kb_l+\sum_{\substack{i+j=k+l\\ i< k}}a_ib_j+\sum_{\substack{i+j=k+l\\ i>k}}a_ib_j
$$
2 つ目の和では $i< k$ なので $a_i$ が $p$ で割り切れる。3 つ目の和では $i>k$ なので $j=k+l-i< l$ となり、$b_j$ が $p$ で割り切れる。よって、2 つ目と 3 つ目の和は $p$ で割り切れる。
段 3(矛盾)。仮定により $c_{k+l}$ は $p$ で割り切れるので、段 2 から $a_kb_l=c_{k+l}-(\text{2 つ目と 3 つ目の和})$ も $p$ で割り切れる。素数 $p$ が積 $a_kb_l$ を割り切るなら、$a_k$ か $b_l$ の少なくとも一方を割り切る(素因数分解の一意性 から出る性質)。これは $a_k$、$b_l$ の選び方に反する。よって、$gh$ のすべての係数を割り切る素数はなく、$gh$ は原始的である。$\square$
$g=2x^2+3x+4$、$h=6x+5$ はどちらも原始的である($g$ は $2,3,4$、$h$ は $6,5$)。積は $gh=12x^3+28x^2+39x+20$ で、係数 $12,28,39,20$ の最大公約数は $1$ である。prf-lem-fti-primitive-product の記号で $p=2$ の場合を追う。$g=4+3x+2x^2$ なので $a_0=4$、$a_1=3$ で、最初に $2$ で割り切れない係数は $a_1=3$($k=1$)である。$h=5+6x$ では $b_0=5$($l=0$)である。$x^{k+l}=x^1$ の係数は
$$
a_0b_1+a_1b_0=4\cdot6+3\cdot5=24+15=39
$$
で、$24$ は偶数、$a_kb_l=15$ は奇数なので、和 $39$ は奇数である。証明の段 2・段 3 のとおりである。
整数係数の多項式 $f$ が、次数 $1$ 以上の有理数係数の多項式 $g$、$h$ の積 $f=gh$ に書けるとする。このとき $0$ でない有理数 $\lambda$ があって、$\lambda g$ と $\frac1\lambda h$ はどちらも整数係数である。とくに $f=(\lambda g)\bigl(\frac1\lambda h\bigr)$ は、次数がそれぞれ $g$、$h$ と同じ整数係数の多項式の積である。
方針:$g$、$h$ を「有理数 × 原始的な多項式」に書き、残った有理数の分母が $1$ であることを lem-fti-primitive-product で示す。
段 1(原始的な多項式を取り出す)。$g$ の係数の分母の公倍数である正の整数 $m$ をとると、$mg$ は整数係数である。$mg$ の係数の最大公約数を $k$($k>0$)とし、$g_0=\frac{mg}k$ とおくと、$g_0$ は整数係数で原始的であり、$g=\frac km\,g_0$ である。同じように $h=\beta\,h_0$($\beta$ は正の有理数、$h_0$ は原始的)と書く。$\alpha=\frac km$ とおく。
段 2(有理数を 1 つにまとめる)。$f=gh=\alpha\beta\,g_0h_0$ である。正の有理数 $\alpha\beta$ を既約分数 $\frac uv$($u,v$ は互いに素な正の整数)で表すと、両辺に $v$ を掛けて
$$
v\,f=u\,g_0h_0
$$
である。
段 3($v=1$ を示す)。$v>1$ と仮定し、$v$ の素因数を 1 つとって $p$ とする。左辺 $vf$ の係数はすべて $p$ で割り切れるので、右辺 $u\,g_0h_0$ の係数もすべて $p$ で割り切れる。$u$ と $v$ は互いに素なので $p$ は $u$ を割り切らない。素数 $p$ が積 $u\cdot c$($c$ は $g_0h_0$ の係数)を割り切り、$u$ を割り切らないので、$p$ は $c$ を割り切る。よって $g_0h_0$ の係数はすべて $p$ で割り切れる。一方、lem-fti-primitive-product により $g_0h_0$ は原始的である。これは矛盾なので、$v=1$、つまり $\alpha\beta=u$ は整数である。
段 4($\lambda$ を決める)。$\lambda=\frac u\alpha$ とおく。$\lambda g=\frac u\alpha\cdot\alpha g_0=u\,g_0$ は整数係数である。$\frac1\lambda h=\frac\alpha u\cdot\beta h_0=\frac{\alpha\beta}u\,h_0=h_0$ も整数係数である。$\square$
$6x^2+x-2=\bigl(x+\frac23\bigr)(6x-3)$ は、分数を使った分解である(展開すると $6x^2-3x+4x-2$)。prf-thm-fti-gauss の段 1 で、$g=x+\frac23=\frac13(3x+2)$($\alpha=\frac13$、$g_0=3x+2$)、$h=6x-3=3(2x-1)$($\beta=3$、$h_0=2x-1$)である。$\alpha\beta=1$ なので $u=1$、$\lambda=\frac u\alpha=3$ で、
$$
\lambda g=3x+2,\qquad\frac1\lambda h=2x-1
$$
となり、整数係数の分解 $(3x+2)(2x-1)$ が得られる。ex-fti-tasuki の答えと同じである。
Gauss の補題と主定理 1 を合わせると、整数係数の 2 次式について、たすきがけで探す意味がはっきりする。
$a,b,c$ を整数、$a\ne0$ とし、$D=b^2-4ac$ とする。次の 3 つは同値である。
1 と 2:thm-fti-quadratic により、1 は「$D$ がある有理数の 2 乗」と同値である。lem-fti-square により、整数 $D$ についてこれは 2 と同値である(逆に整数の 2 乗は有理数の 2 乗でもある)。
1 ならば 3:1 の分解の 2 つの因数は有理数係数の 1 次式である。thm-fti-gauss により、それぞれを $\lambda$ 倍、$\frac1\lambda$ 倍して整数係数の 1 次式にできる。それを $px+q$、$rx+s$ とすればよい。
3 ならば 1:$p,q,r,s$ は有理数でもあり、$pr=a\ne0$ より $p\ne0$、$r\ne0$ なので、どちらの因数も次数 $1$ である。$\square$
$c\ne0$ のとき、3 の $p,q,r,s$ は $pr=a$、$qs=c$ を満たすので、$p$ は $a$ の約数、$q$ は $c$ の約数である。約数は有限個なので、たすきがけの候補も有限個であり、全部を調べれば分解があるかないかが必ず分かる。
$2x^2+3x-1$ で、$pr=2$、$qs=-1$ となる整数の組を調べる。2 つの因数の順番を入れ替えても、両方の因数の符号をまとめて入れ替えても同じ分解なので、$p=1$、$r=2$ としてよい($p=2$、$r=1$ の場合は順番の入れ替えで、$p,r$ が負の場合は符号の入れ替えで、この場合に戻る)。$(q,s)=(1,-1)$ なら $(x+1)(2x-1)=2x^2+x-1$、$(q,s)=(-1,1)$ なら $(x-1)(2x+1)=2x^2-x-1$ で、どちらも $x$ の係数が $3$ にならない。cor-fti-tasuki により、有理数の範囲でも分解できない。これは ex-fti-quadratic-check の 3 で $D=17$ が平方数でないことから得た結論と一致する。
2 次式では、「$K$ の中に根がない」と「$K$ の範囲で既約」は同じだった(thm-fti-quadratic の後の説明)。3 次式でも同じだが、4 次式では違ってくる。
$K$ を $\mathbb{Q}$、$\mathbb{R}$、$\mathbb{C}$ のどれかとし、$f$ を次数 $2$ または $3$ の $K$ 係数の多項式とする。$f$ が $K$ の範囲で可約であることと、$f$ が $K$ の中に根をもつことは同値である。
段 1(可約ならば根がある)。$f=gh$、$g,h$ の次数は $1$ 以上とする。次数の和は $2$ または $3$ なので、分け方は $1+1$、$1+2$、$2+1$ のどれかであり、どの場合も一方は 1 次式である。それを $px+q$($p\ne0$、$p,q$ は $K$ に属する)とすると、$x=-\frac qp$ は $K$ に属し、$f\bigl(-\frac qp\bigr)=0$ である。
段 2(根があれば可約)。$\alpha$ が $K$ に属し $f(\alpha)=0$ とする。剰余の定理と因数定理 の因数定理により、$f=(x-\alpha)\,g$ と書ける。$g$ は $f$ を $x-\alpha$ で割った商で、割り算の計算は係数の和・差・積・商だけで進むので、$g$ も $K$ 係数である。$g$ の次数は $f$ の次数より $1$ 小さいので $1$ 以上である。よって $f$ は $K$ の範囲で可約である。$\square$
4 次式は $2+2$ に分かれることがあり、そのときは根がなくても可約になる。
$$
a^4+4b^4=(a^2+2ab+2b^2)(a^2-2ab+2b^2)
$$
とくに $x^4+4=(x^2+2x+2)(x^2-2x+2)$ である。
$a^4+4b^4$ に $4a^2b^2$ を足して引く。
$$
a^4+4b^4=(a^4+4a^2b^2+4b^4)-4a^2b^2=(a^2+2b^2)^2-(2ab)^2
$$
である。平方の差の公式により、これは $(a^2+2b^2+2ab)(a^2+2b^2-2ab)$ に等しい。$b=1$、$a=x$ とすると 2 つ目の式になる。$\square$
$x^4+4$ は実数 $x$ で $x^4+4\ge4>0$ なので実数の根をもたない。それでも、有理数の範囲で 2 つの 2 次式の積に分かれる。4 次式では「根がない」から「既約」を結論できない。
$n$ を正の整数とする。prop-fti-germain で $a=n$、$b=1$ とすると、$n^4+4=(n^2+2n+2)(n^2-2n+2)$ である。
方針:有理数の範囲での分解を、次数の分け方($1+3$ と $2+2$)で場合分けして否定する。$2+2$ の場合は係数比較の連立方程式を解く。その解が 2 の実数の分解を与える。
段 1(1 次の因数はない)。実数 $x$ で $x^4+1\ge1>0$ なので、$x^4+1$ は実数の根をもたない。1 次の因数があれば根があることになる(prf-prop-fti-low-degree の段 1)ので、1 次の因数はない。よって分解があれば $2+2$ の形である。
段 2(係数比較)。$x^4+1=gh$、$g,h$ は有理数係数の 2 次式とする。最高次の係数の積は $1$ なので、$g$ の最高次の係数を $e$ とすると $h$ の最高次の係数は $\frac1e$ である。$g$ を $\frac1e$ 倍、$h$ を $e$ 倍しても積は変わらないので、$g=x^2+px+q$、$h=x^2+rx+s$($p,q,r,s$ は有理数)としてよい。展開すると
$$
gh=x^4+(p+r)\,x^3+(q+s+pr)\,x^2+(ps+qr)\,x+qs
$$
なので、$x^4+1$ と係数を比べて
$$
p+r=0,\qquad q+s+pr=0,\qquad ps+qr=0,\qquad qs=1
$$
である。
段 3(連立方程式を解く)。1 つ目から $r=-p$ である。3 つ目に代入すると $ps-pq=p(s-q)=0$ なので、$p=0$ または $s=q$ である。
図 2 は、$x^4+1$ と 2 つの因数のグラフである。3 つとも $x$ 軸と交わらない。実数の根がないことと、実数の範囲で分解できないことは、4 次式では別のことである。
$y=x^4+1$(実線)と、その実数の範囲での因数 $y=x^2\pm\sqrt2\,x+1$(破線)のグラフ。3 つとも $x$ 軸と交わらないのに、$x^4+1$ は 2 つの 2 次式の積であることを見る図。
高校数学では、因数分解は「できるところまで分ける」計算である。そのとき、分け方の順番を変えても最後の形は同じになるだろうか。展開と因数分解の公式 の例では、$x^6-1$ を 2 通りの道筋で分解して、同じ答え $(x-1)(x+1)(x^2+x+1)(x^2-x+1)$ にたどり着いた。
$x^6-1$ を有理数の範囲で因数分解する。
これは偶然ではない。整数の 素因数分解の一意性 と同じ形の定理が、多項式でも成り立つ。
$K$ を $\mathbb{Q}$、$\mathbb{R}$、$\mathbb{C}$ のどれかとする。次数が $1$ 以上の $K$ 係数の多項式 $f$ は、$0$ でない定数 $c$ と、最高次の係数が $1$ で $K$ の範囲で既約な多項式 $p_1,\dots,p_k$ を使って
$$
f=c\,p_1p_2\cdots p_k
$$
と書ける。この書き方は、$p_1,\dots,p_k$ の並べ方を除いてただ 1 通りである。
この記事では thm-fti-unique を証明しない。$K$ 係数の多項式でも余りのある割り算ができ(剰余の定理と因数定理 の割り算の定理)、そこから整数と同じ互除法の議論で一意性が示される。Mil22 1.6(p. 10)は、割り算ができることから $K$ 係数の多項式全体が一意分解整域であることを述べている(証明はそこには書かれていない)。大学では、この性質をもつ数の体系を 一意分解整域 という。整数と多項式の対応は次のとおりである。
| 整数 | $K$ 係数の多項式 |
|---|---|
| 素数 | $K$ の範囲で既約な多項式 |
| $\pm1$(掛けても素因数分解が変わらない数) | $0$ でない定数 |
| 余りのある割り算、互除法 | 多項式の割り算、多項式の互除法 |
| 素数 $p$ が $ab$ を割り切れば $a$ か $b$ を割り切る | 既約な $p$ が $gh$ を割り切れば $g$ か $h$ を割り切る |
どの多項式が既約かは $K$ で大きく違う。$\mathbb{C}$ では既約な多項式は 1 次式だけである(代数学の基本定理。複素数と方程式:代数学の基本定理 の系「1 次式への分解」)。$\mathbb{R}$ では、1 次式と判別式が負の 2 次式だけである(同じ記事の定理「実数係数の多項式の分解」)。$\mathbb{Q}$ では、どの次数にも既約な多項式がある。たとえば $x^n-2$ はどの $n\ge1$ でも有理数の範囲で既約である(Eisenstein の判定法による。Mil22 1.16、p. 12。この記事では証明しない)。
thm-fti-gauss も大学の言葉で言い直せる。整数係数の多項式全体(多項式環 $\mathbb{Z}[x]$)でも、素因数分解と同じ一意性が成り立つ。その証明の中心が Gauss の補題である(Mil22 1.13、p. 12 は、この記事の thm-fti-gauss と同じ主張「$\mathbb{Z}[X]$ の多項式が $\mathbb{Q}[X]$ で自明でない分解をもてば $\mathbb{Z}[X]$ でももつ」を示している)。
命題が成り立つための前提を外すと、結論が崩れる。
| 外した前提 | 崩れる主張 | ボックス |
|---|---|---|
| 係数の範囲を決める | 「既約かどうか」の答えが 1 つに決まる | ex-fti-ranges |
| 次数が 2 か 3 | 根がなければ既約 | prop-fti-germain、prop-fti-x4-plus-1 の 2 |
| $b$ について 1 次 | 分解すると一方の因数は $b$ を含まない | ex-fti-degree-two |
| $p$ が素数 | 原始的な多項式の積は原始的 | ex-fti-composite |
| $f$ が整数係数 | 有理数の範囲の分解から整数係数の分解が作れる | ex-fti-not-integer |
$b^2-a^2=(b-a)(b+a)$ は、$b$ について 2 次の式である。2 つの因数 $b-a$、$b+a$ はどちらも $b$ を含む。prop-fti-lowest-degree の証明の段 1 では、次数の和が $1$ であることから一方の次数が $0$ だと結論した。次数の和が $2$ なら $1+1$ と分かれることができ、この結論は成り立たない。最低次の文字で整理するのは、この分け方の可能性をできるだけ減らすためである。
lem-fti-primitive-product の「素数 $p$」を $4$ に替えた主張「係数がすべては $4$ で割り切れない多項式どうしの積は、係数がすべては $4$ で割り切れない」は成り立たない。$g=h=2x+2$ とすると、$g$ の係数 $2,2$ はどちらも $4$ で割り切れないが、
$$
gh=(2x+2)^2=4x^2+8x+4
$$
の係数 $4,8,4$ はすべて $4$ で割り切れる。証明の段 3 で使った「$p$ が積 $a_kb_l$ を割り切れば $a_k$ か $b_l$ を割り切る」が、$4$ が $2\times2$ を割り切るのにどちらの $2$ も割り切らないことで崩れている。
$x^2-\frac14=\bigl(x-\frac12\bigr)\bigl(x+\frac12\bigr)$ は有理数の範囲で可約である。しかし、整数係数の多項式どうしの積は整数係数なので、$x^2-\frac14$ を整数係数の多項式の積に書くことはできない。thm-fti-gauss は $f$ が整数係数であることを仮定している。なお、$4$ 倍した $4x^2-1=(2x-1)(2x+1)$ は整数係数の分解をもつ。
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