Lie環(Lie algebra)とは、体 $K$ 上のベクトル空間 $\mathfrak{g}$ に、双線形で $[x,x]=0$ と Jacobi 恒等式 $[x,{[y,z]}]+[y,{[z,x]}]+[z,{[x,y]}]=0$ を満たす括弧積 $[\cdot,\cdot]$ を与えたものである。行列の交換子 $XY-YX$、空間ベクトルの外積、ベクトル場の Lie 括弧が代表例であり、Jacobi 恒等式は $\operatorname{ad}x=[x,\cdot]$ が括弧積の導分であることと同値である。Lie 群の単位元の近くの構造を記録し、群の交換子 $e^{tX}e^{tY}e^{-tX}e^{-tY}$ の $I$ からのずれの最初の項 $t^2[X,Y]$ を与える。
空間ベクトルの外積 $\vec a\times\vec b$ は、$\vec a$ と $\vec b$ のどちらについても 1 次式(双線形)で、$\vec a\times\vec a=\vec0$ を満たす。しかし結合法則は成り立たない。たとえば $(\vec e_1\times\vec e_1)\times\vec e_2=\vec0$ だが、$\vec e_1\times(\vec e_1\times\vec e_2)=\vec e_1\times\vec e_3=-\vec e_2$ である。その代わりに成り立つのが Jacobi 恒等式
$$
\vec a\times(\vec b\times\vec c)+\vec b\times(\vec c\times\vec a)+\vec c\times(\vec a\times\vec b)=\vec0
$$
である(三角形の垂心 の定理「外積のJacobi恒等式」。三角形の 3 本の垂線が 1 点で交わることの背後にもこの恒等式がある)。
正方行列の積は一般に可換でなく、そのずれを交換子 $[X,Y]:=XY-YX$ で測る。交換子もまた双線形で $[X,X]=O$ を満たし、同じ Jacobi 恒等式を満たす。さらに、行列の指数関数で作った「回して、回して、逆に回して、逆に回す」操作 $e^{tX}e^{tY}e^{-tX}e^{-tY}$ は、$t$ が小さいとき $I+t^2[X,Y]$ で近似される(prop-lie-group-commutator)。交換子は、連続的な対称性(Lie群)の非可換性を無限小の段階で表したものである。
外積と交換子に共通するこの 3 つの規則(双線形、$[x,x]=0$、Jacobi 恒等式)だけを取り出した代数的な構造が Lie 環である。この記事では次の問いに答える。
| 身近な例 | この記事の言葉 |
|---|---|
| 外積 $\vec a\times\vec b$ | Lie 環 $(\mathbb{R}^3,\times)$、$\mathfrak{so}(3)$ と同型 |
| 行列の交換子 $XY-YX$ | $\mathfrak{gl}_n(K)$ の括弧積 |
| $\vec a\times\vec a=\vec0$ | 交代性 $[x,x]=0$ |
| 積の微分 $(fg)'=f'g+fg'$ | 導分、$\operatorname{ad}x$ が導分であること(Jacobi 恒等式) |
以下、$K$ は体とする。
$K$ 上のベクトル空間 $\mathfrak{g}$ と双線形写像 $[\cdot,\cdot]\colon\mathfrak{g}\times\mathfrak{g}\to\mathfrak{g}$ の組で、すべての $x,y,z\in\mathfrak{g}$ について
(R1) $[x,x]=0$(交代性)
(R2) $[x,{[y,z]}]+[y,{[z,x]}]+[z,{[x,y]}]=0$(Jacobi 恒等式)
を満たすものを、$K$ 上の Lie 環(Lie algebra)という。$[\cdot,\cdot]$ を括弧積(Lie 括弧)という。Lie 代数ともいう。
$K=\mathbb{R}$ の場合、これは Lie群 の定義「Lie 環」、Bianchi分類 の注意「本記事で用いるLie環の定義の想起」と同じものである。Lie 環は一般に結合的でも可換でもない「積」をもつ代数であり、$[x,y]$ を $xy$ と書かないのはそのためである。
交代性 (i) から、すべての $x,y$ について反対称性 $[x,y]=-[y,x]$ が従う。実際、$0=[x+y,x+y]=[x,x]+[x,y]+[y,x]+[y,y]=[x,y]+[y,x]$ である。逆に反対称性から $2[x,x]=0$ が従うので、$K$ の標数が $2$ でなければ (i) は反対称性と同値である。標数 $2$ では同値でない(ex-lie-char2)。反対称性のもとで Jacobi 恒等式は
$$
[x,{[y,z]}]=[{[x,y]},z]+[y,{[x,z]}]
$$
と書き直せる(第 2 項と第 3 項を反対称性で移項する)。Nic26 Definition 2.2.38 は $K=\mathbb{R},\mathbb{C}$ の上で、反対称性と「右からの括弧 $a\mapsto[a,x]$ が導分であること」で Lie 環を定義しており、標数が $0$ なのでこの記事の定義と一致する。
群や環と同じように、構造を保つ写像と部分構造を定める。
$\mathfrak{g}$、$\mathfrak{g}'$ を $K$ 上の Lie 環とする。
(R1) 線形写像 $\varphi\colon\mathfrak{g}\to\mathfrak{g}'$ が、すべての $x,y$ について $\varphi([x,y])=[\varphi(x),\varphi(y)]$ を満たすとき Lie 環の準同型という。全単射な準同型を同型という(逆写像も準同型になる)。
(R2) 線形部分空間 $\mathfrak{h}\subset\mathfrak{g}$ が $[\mathfrak{h},\mathfrak{h}]\subset\mathfrak{h}$ を満たすとき部分 Lie 環という。ここで $[A,B]$ は $\{[a,b]\mid a\in A,\ b\in B\}$ の張る部分空間である。
(R3) 線形部分空間 $\mathfrak{i}\subset\mathfrak{g}$ が $[\mathfrak{g},\mathfrak{i}]\subset\mathfrak{i}$ を満たすときイデアルという。反対称性から $[\mathfrak{i},\mathfrak{g}]=[\mathfrak{g},\mathfrak{i}]$ なので、左右の区別はない。
(R4) $\mathfrak{z}(\mathfrak{g}):=\{x\in\mathfrak{g}\mid$ すべての $y$ について $[x,y]=0\}$ を中心という。括弧積がつねに $0$ である Lie 環を可換という。$[\mathfrak{g},\mathfrak{g}]$ を導来環という。
$x\in\mathfrak{g}$ に対し、線形写像 $\operatorname{ad}x\colon\mathfrak{g}\to\mathfrak{g}$ を $(\operatorname{ad}x)(y):=[x,y]$ で定める。$\mathfrak{g}$ の線形変換 $D$ が、すべての $y,z$ について
$$
D([y,z])=[D(y),z]+[y,D(z)]
$$
を満たすとき、$D$ を $\mathfrak{g}$ の導分という。導分の全体を $\operatorname{Der}(\mathfrak{g})$ と書く。
導分の条件は、積の微分の公式 $(fg)'=f'g+fg'$(Leibniz 則)と同じ形をしている。環の導分は 導分 で扱われている。
Lie 環のいちばん基本的な例は、結合的な積の交換子から得られる。
$A$ を $K$ 上の結合代数($K$ 上のベクトル空間で、双線形かつ結合的な積をもつもの)とする。$[a,b]:=ab-ba$ とおくと、$(A,[\cdot,\cdot])$ は Lie 環である。とくに、$K$ 上のベクトル空間 $V$ の線形変換の全体 $\operatorname{End}_K(V)$ と、$n$ 次正方行列の全体 $M_n(K)$ は交換子について Lie 環であり、それぞれ $\mathfrak{gl}(V)$、$\mathfrak{gl}_n(K)$ と書く。
双線形性は積の双線形性から、$[a,a]=aa-aa=0$ は明らかである。Jacobi 恒等式は、展開すると
$$
[a,{[b,c]}]=abc-acb-bca+cba
$$
であり、$a\to b\to c\to a$ と文字を巡回させた 2 つの式
$$
[b,{[c,a]}]=bca-bac-cab+acb,\qquad [c,{[a,b]}]=cab-cba-abc+bac
$$
と足すと、12 個の項が 2 つずつ打ち消し合って $0$ になる(結合法則を使って括弧を外した)。$\square$
Nic26 Example 2.2.39 も、$\operatorname{End}(E)$ が交換子について Lie 環であることを例に挙げている。$\mathfrak{gl}_n(K)$ の中の部分 Lie 環が、行列の Lie 環の代表的な例である。
次はどれも $\mathfrak{gl}_n(K)$ の部分 Lie 環である。
(1) $\mathfrak{sl}_n(K):=\{X\mid\operatorname{tr}X=0\}$。$\operatorname{tr}(XY)=\operatorname{tr}(YX)$ なので、任意の $X,Y\in\mathfrak{gl}_n(K)$ について $\operatorname{tr}[X,Y]=0$ である。したがって $[\mathfrak{gl}_n,\mathfrak{gl}_n]\subset\mathfrak{sl}_n$ であり、$\mathfrak{sl}_n$ は $\mathfrak{gl}_n$ のイデアルでもある。
(2) $\mathfrak{so}_n(K):=\{X\mid X^{\mathsf T}=-X\}$(交代行列)。$X^{\mathsf T}=-X$、$Y^{\mathsf T}=-Y$ なら $[X,Y]^{\mathsf T}=Y^{\mathsf T}X^{\mathsf T}-X^{\mathsf T}Y^{\mathsf T}=YX-XY=-[X,Y]$ である。$K=\mathbb{R}$ のとき $\mathfrak{so}(n)$ と書く。
(3) 上三角行列の全体 $\mathfrak{b}_n$ と、対角成分も $0$ の上三角行列(狭義上三角行列)の全体 $\mathfrak{n}_n$。上三角行列の積は上三角行列で、その対角成分は対角成分どうしの積なので、$X,Y\in\mathfrak{b}_n$ なら $[X,Y]$ の対角成分は $x_{ii}y_{ii}-y_{ii}x_{ii}=0$ である。したがって $[\mathfrak{b}_n,\mathfrak{b}_n]\subset\mathfrak{n}_n$ であり、とくに $\mathfrak{n}_n$ も部分 Lie 環である。
$K=\mathbb{R}$ で、$\mathfrak{gl}_n$、$\mathfrak{sl}_n$、$\mathfrak{so}(n)$ はそれぞれ Lie 群 $GL_n(\mathbb{R})$、$SL_n(\mathbb{R})$、$SO(n)$ の Lie 環である(Lie群 の定理「古典群は行列 Lie 群である」)。
基底 $x,y,z$ をもつ 3 次元のベクトル空間に、$[x,y]=z$、$[x,z]=[y,z]=0$(と交代性・双線形性)で括弧積を定めたものを Heisenberg Lie 環 $\mathfrak{h}_3$ という。$x=E_{12}$、$y=E_{23}$、$z=E_{13}$($E_{ij}$ は $(i,j)$ 成分だけが $1$ の行列)とおくと、$\mathfrak{n}_3$(3 次の狭義上三角行列)の中でこの関係が成り立つので($E_{12}E_{23}=E_{13}$、ほかの積は $0$)、$\mathfrak{h}_3\cong\mathfrak{n}_3$ であり、Jacobi 恒等式は prop-lie-commutator から従う。中心と導来環はどちらも $Kz$ である。$K=\mathbb{R}$ では、Lie群 の例「Heisenberg 群」の Lie 環である。
滑らかな多様体 $M$ 上の滑らかなベクトル場 $X,Y$ に対し、関数 $f$ に $X(Yf)-Y(Xf)$ を対応させる作用はまたベクトル場になる(ベクトル場 の定義「ベクトル場のLie括弧」と命題「Lie括弧はベクトル場である」)。これを $[X,Y]$ と書くと、$M$ 上のベクトル場の全体は $\mathbb{R}$ 上の(無限次元の)Lie 環になる。ベクトル場は関数の環 $C^\infty(M)$ の導分と対応し(ベクトル場 の定理「ベクトル場と導分の対応」)、Lie 括弧はその対応のもとで線形写像 $C^\infty(M)\to C^\infty(M)$ としての交換子である。したがってベクトル場の全体は結合代数 $\operatorname{End}_{\mathbb{R}}(C^\infty(M))$ の、交換子で閉じた部分空間であり、prop-lie-commutator から交代性と Jacobi 恒等式が従う。$[X,Y]$ は $Y$ の $X$ 方向の Lie 微分 $\mathcal{L}_XY$ に等しい(Lie微分 の命題「ベクトル場の Lie 微分は Lie 括弧」)。
$K$ 上の多元環 $R$ の $K$ 線形な導分の全体 $\operatorname{Der}_K(R)$ は、交換子 $[D,D']=D\circ D'-D'\circ D$ について Lie 環である(導分 の命題「導分の交換子とLie環の構造」)。合成 $D\circ D'$ は一般に導分でないが、交換子は導分になる。同じことは Lie 環 $\mathfrak{g}$ 自身の導分についても成り立ち、$\operatorname{Der}(\mathfrak{g})$ は $\mathfrak{gl}(\mathfrak{g})$ の部分 Lie 環である(次の cor-lie-ad-hom の証明の中で確かめる)。
Jacobi 恒等式は 3 つの項の和という形では意味が見えにくい。次の命題は、それが「$\operatorname{ad}x$ が積の微分の規則を満たす」ことと同じであると述べる。
$\mathfrak{g}$ を $K$ 上のベクトル空間、$[\cdot,\cdot]$ を交代的な双線形写像とする。次は同値である。
(R1) Jacobi 恒等式が成り立つ($\mathfrak{g}$ は Lie 環である)。
(R2) すべての $x\in\mathfrak{g}$ について、$\operatorname{ad}x$ は導分である:$[x,{[y,z]}]=[{[x,y]},z]+[y,{[x,z]}]$。
(R3) すべての $x,y\in\mathfrak{g}$ について $\operatorname{ad}[x,y]=\operatorname{ad}x\circ\operatorname{ad}y-\operatorname{ad}y\circ\operatorname{ad}x$ である。
(i)⇔(ii):rem-lie-alternating のとおり、反対称性のもとで Jacobi 恒等式の第 2 項と第 3 項を移項すると $[x,{[y,z]}]=-[y,{[z,x]}]-[z,{[x,y]}]=[y,{[x,z]}]+[{[x,y]},z]$ となり、これは (ii) の式である。逆も同じ変形を戻せばよい。
(ii)⇔(iii):$z$ に作用させると、(iii) の左辺は $[{[x,y]},z]$、右辺は $[x,{[y,z]}]-[y,{[x,z]}]$ である。両者が等しいことは (ii) の式そのものである。$\square$
(ii) は「$\operatorname{ad}x$ で微分すると、括弧積の中の各項を順に微分したものの和になる」ということである。(iii) は、$\operatorname{ad}\colon\mathfrak{g}\to\mathfrak{gl}(\mathfrak{g})$ が Lie 環の準同型であることを表している(右からの括弧 $B_x\colon a\mapsto[a,x]$ は $B_x=-\operatorname{ad}x$ なので、$[B_x,B_y]=-B_{[x,y]}$ となる。$B_x$ が導分であることは Nic26 Proposition 2.2.40 の (c) にある)。
$\mathfrak{g}$ を Lie 環とする。
(R1) $\operatorname{Der}(\mathfrak{g})$ は $\mathfrak{gl}(\mathfrak{g})$ の部分 Lie 環である。
(R2) $\operatorname{ad}\colon\mathfrak{g}\to\operatorname{Der}(\mathfrak{g})$ は Lie 環の準同型であり、その核は中心 $\mathfrak{z}(\mathfrak{g})$ である。
(R3) 像 $\operatorname{ad}\mathfrak{g}$(内部導分の全体)は $\operatorname{Der}(\mathfrak{g})$ のイデアルであり、$D\in\operatorname{Der}(\mathfrak{g})$ について $[D,\operatorname{ad}x]=\operatorname{ad}(Dx)$ である。
要点:(i) は $DD'$ と $D'D$ を展開して引く計算、(ii) は prop-lie-ad、(iii) は導分の定義を $[x,y]$ に使う計算である。
(i):$D,D'\in\operatorname{Der}(\mathfrak{g})$ とすると、$DD'[y,z]=D\bigl([D'y,z]+[y,D'z]\bigr)=[DD'y,z]+[D'y,Dz]+[Dy,D'z]+[y,DD'z]$ である。$D$ と $D'$ を入れ替えて引くと、中の 2 項は打ち消し合い、$[D,D'][y,z]=[{[D,D']y},z]+[y,{[D,D']z}]$ となる。
(ii):prop-lie-ad の (ii) から $\operatorname{ad}x$ は導分であり、(iii) から準同型である。$\operatorname{ad}x=0$ はすべての $y$ で $[x,y]=0$ ということなので、核は中心である。
(iii):$D$ が導分なら $D[x,y]=[Dx,y]+[x,Dy]$ なので、$\bigl(D\circ\operatorname{ad}x-\operatorname{ad}x\circ D\bigr)(y)=D[x,y]-[x,Dy]=[Dx,y]=\operatorname{ad}(Dx)(y)$ である。$\square$
準同型 $\operatorname{ad}\colon\mathfrak{g}\to\mathfrak{gl}(\mathfrak{g})$ を $\mathfrak{g}$ の随伴表現という。一般に、Lie 環の準同型 $\mathfrak{g}\to\mathfrak{gl}(V)$ を $\mathfrak{g}$ の $V$ 上の表現といい、Lie 環を線形代数で調べる基本の道具になる。
$\mathfrak{g}$ を Lie 環とする。
(R1) Lie 環の準同型 $\varphi\colon\mathfrak{g}\to\mathfrak{g}'$ の核 $\ker\varphi$ はイデアルであり、像 $\varphi(\mathfrak{g})$ は部分 Lie 環である。
(R2) $\mathfrak{i}$ がイデアルなら、商ベクトル空間 $\mathfrak{g}/\mathfrak{i}$ 上に $[x+\mathfrak{i},y+\mathfrak{i}]:=[x,y]+\mathfrak{i}$ が矛盾なく定まり、$\mathfrak{g}/\mathfrak{i}$ は Lie 環になる。射影 $\mathfrak{g}\to\mathfrak{g}/\mathfrak{i}$ は準同型である。
(R3) 準同型 $\varphi$ は Lie 環の同型 $\mathfrak{g}/\ker\varphi\cong\varphi(\mathfrak{g})$ を引き起こす。
(R4) 導来環 $[\mathfrak{g},\mathfrak{g}]$ はイデアルである。イデアル $\mathfrak{i}$ について、$\mathfrak{g}/\mathfrak{i}$ が可換であることと $[\mathfrak{g},\mathfrak{g}]\subset\mathfrak{i}$ であることは同値である。
要点:どれも群や環の場合と同じ議論である。要となるのは (ii) の、括弧積が代表元の選び方によらないこと:$x-x',y-y'\in\mathfrak{i}$ なら $[x,y]-[x',y']=[x-x',y]+[x',y-y']\in\mathfrak{i}$ である。
(i):$\varphi(x)=0$ なら $\varphi([y,x])=[\varphi(y),0]=0$ である。像については $[\varphi(x),\varphi(y)]=\varphi([x,y])$ から従う。
(ii):要点の計算から括弧積は代表元の選び方によらない。双線形性・交代性・Jacobi 恒等式は $\mathfrak{g}$ での等式を射影すれば得られる。射影が準同型であることは定義そのものである。
(iii):ベクトル空間の準同型定理から、$x+\ker\varphi\mapsto\varphi(x)$ は線形同型 $\mathfrak{g}/\ker\varphi\to\varphi(\mathfrak{g})$ であり、$\varphi$ が括弧積を保つのでこの写像も保つ。
(iv):$[\mathfrak{g},{[\mathfrak{g},\mathfrak{g}]}]\subset[\mathfrak{g},\mathfrak{g}]$ は定義から明らかである。$\mathfrak{g}/\mathfrak{i}$ が可換であることは、すべての $x,y$ で $[x,y]\in\mathfrak{i}$ となることと同じである。$\square$
Lie 環 $\mathfrak{g}\ne0$ が、$0$ と $\mathfrak{g}$ のほかにイデアルをもたず、可換でないとき、単純であるという。単純 Lie 環は、群論の単純群に相当する基本単位である。
1 次元の Lie 環は、基底を $x$ とすると $[ax,bx]=ab[x,x]=0$ なので、すべて可換である。2 次元では非可換なものがちょうど 1 つ現れる。
体 $K$ 上の 2 次元の Lie 環は、次のどちらか一方にだけ同型である。
(R1) 可換な Lie 環 $K^2$(括弧積が $0$)。
(R2) 基底 $x,y$ で $[x,y]=y$ となるもの。
$\mathfrak{g}$ を 2 次元の Lie 環、$a,b$ を基底とする。双線形性と交代性から、$[\alpha a+\beta b,\gamma a+\delta b]=(\alpha\delta-\beta\gamma)[a,b]$ なので、導来環 $[\mathfrak{g},\mathfrak{g}]$ は $[a,b]$ の張る空間である。$[a,b]=0$ なら $\mathfrak{g}$ は可換で (i) である。
$[a,b]\ne0$ とし、$y:=[a,b]$ とおく。$y$ と 1 次独立な $x'\in\mathfrak{g}$ をとると、$x',y$ は基底であり、$[x',y]\in[\mathfrak{g},\mathfrak{g}]=Ky$ なので $[x',y]=cy$($c\in K$)と書ける。$c=0$ なら基底の間の括弧積がすべて $0$ になり、$[\mathfrak{g},\mathfrak{g}]=0$ となって $y\ne0$ に反する。よって $c\ne0$ であり、$x:=c^{-1}x'$ とおくと $[x,y]=y$ である。これで $\mathfrak{g}$ は (ii) に同型である。
(i) と (ii) は同型でない。同型写像は導来環を導来環に移すが、(i) の導来環は $0$ 次元、(ii) の導来環は $Ky$ で 1 次元だからである。$\square$
(ii) は、$x=E_{11}$、$y=E_{12}$ とおくと $\mathfrak{gl}_2(K)$ の中に実現できる($[E_{11},E_{12}]=E_{12}$)。$K=\mathbb{R}$ では、直線のアフィン変換 $t\mapsto\alpha t+\beta$($\alpha>0$)を表す行列 $\begin{pmatrix}\alpha&\beta\\0&1\end{pmatrix}$ の群の、単位行列での接空間($E_{11}$、$E_{12}$ の張る空間)にあたる。3 次元の実 Lie 環の分類は Bianchi分類 の定理「3次元実Lie環の分類(Bianchi, Ellis–MacCallum)」にある。
$\mathfrak{sl}_2(K)$ の基底
$$
h=\begin{pmatrix}1&0\\0&-1\end{pmatrix},\qquad e=\begin{pmatrix}0&1\\0&0\end{pmatrix},\qquad f=\begin{pmatrix}0&0\\1&0\end{pmatrix}
$$
を考える。
(i):行列の積を計算すると $he=e$、$eh=-e$、$hf=-f$、$fh=f$、$ef=E_{11}$、$fe=E_{22}$ なので、$[h,e]=2e$、$[h,f]=-2f$、$[e,f]=E_{11}-E_{22}=h$ である。
(ii):(i) から $e=\frac12[h,e]$、$f=-\frac12[h,f]$、$h=[e,f]$ なので $[\mathfrak{sl}_2,\mathfrak{sl}_2]=\mathfrak{sl}_2$ であり、とくに可換でない。単純性は、$0$ でないイデアルの元に $\operatorname{ad}e$ や $\operatorname{ad}f$ を 2 回作用させると $e$、$f$、$h$ のどれかがイデアルに入り、そこから全体が出ることによる。
$\mathfrak{i}\ne0$ をイデアルとし、$0\ne v=\alpha e+\beta h+\gamma f\in\mathfrak{i}$ をとる。(i) と反対称性から $[e,h]=-2e$、$[e,f]=h$ なので
$$[e,v]=-2\beta e+\gamma h,\qquad [e,{[e,v]}]=-2\gamma e$$
であり、同様に $[f,{[f,v]}]=-2\alpha f$ である。$\gamma\ne0$ なら $e\in\mathfrak{i}$($2\gamma\ne0$ で割れる)、$\alpha\ne0$ なら $f\in\mathfrak{i}$、$\alpha=\gamma=0$ なら $v=\beta h$($\beta\ne0$)で $h\in\mathfrak{i}$ である。$e\in\mathfrak{i}$ なら $h=[e,f]\in\mathfrak{i}$、$f\in\mathfrak{i}$ なら $h=[e,f]\in\mathfrak{i}$ であり、$h\in\mathfrak{i}$ なら $e=\frac12[h,e]$、$f=-\frac12[h,f]$ も $\mathfrak{i}$ に属する。どの場合も $\mathfrak{i}=\mathfrak{sl}_2$ である。$\square$
$\operatorname{ad}h$ は $e$、$h$、$f$ をそれぞれ $2$ 倍、$0$ 倍、$-2$ 倍する。この「$\operatorname{ad}h$ の固有値」による分解は、半単純 Lie 環を調べるときのルート(ルート系)のいちばん簡単な場合である。標数 $2$ では (ii) が崩れる(ex-lie-sl2-char2)。
$\vec a\in\mathbb{R}^3$ に対し、$L_{\vec a}\vec v:=\vec a\times\vec v$ で定まる行列を
$$
L_{\vec a}=\begin{pmatrix}0&-a_3&a_2\\a_3&0&-a_1\\-a_2&a_1&0\end{pmatrix}
$$
とする(外積の成分表示から直接読める)。
(i):外積は双線形で、$\vec a\times\vec a=\vec0$ である。Jacobi 恒等式は 三角形の垂心 の定理「外積のJacobi恒等式」である。
(ii):$L_{\vec a}$ は交代行列で、$\vec a\mapsto L_{\vec a}$ は線形な単射である。3 次の交代行列は対角線より上の 3 つの成分で決まるので $\dim\mathfrak{so}(3)=3$ であり、この写像は全単射である。任意の $\vec v$ について、Jacobi 恒等式(rem-lie-alternating の書き直しの形)から
$$
[L_{\vec a},L_{\vec b}]\vec v=\vec a\times(\vec b\times\vec v)-\vec b\times(\vec a\times\vec v)=(\vec a\times\vec b)\times\vec v=L_{\vec a\times\vec b}\vec v
$$
である。$\square$
標準基底の像 $L_{\vec e_1}=E_{32}-E_{23}$、$L_{\vec e_2}=E_{13}-E_{31}$、$L_{\vec e_3}=E_{21}-E_{12}$ は、Lie群 の記事で $x$ 軸・$y$ 軸・$z$ 軸のまわりの無限小回転 $L_1,L_2,L_3$ と呼んだものであり、$[L_1,L_2]=L_3$ などの関係は $\vec e_1\times\vec e_2=\vec e_3$ などにあたる。
$\mathfrak{sl}_2(\mathbb{R})$ と $\mathfrak{so}(3)$ はどちらも 3 次元の実 Lie 環で、導来環が全体に一致する($\mathfrak{so}(3)$ では $\vec e_1\times\vec e_2=\vec e_3$ などから)。しかし同型ではない。
$\mathfrak{sl}_2(\mathbb{R})$ と $\mathfrak{so}(3)$ は、実 Lie 環として同型でない。
同型 $\varphi\colon\mathfrak{sl}_2(\mathbb{R})\to\mathfrak{so}(3)$ があったとすると、$\varphi\circ\operatorname{ad}h=\operatorname{ad}\varphi(h)\circ\varphi$ なので($\varphi([h,v])=[\varphi(h),\varphi(v)]$)、$\operatorname{ad}\varphi(h)$ は $\operatorname{ad}h$ と同じ固有値 $2$ をもつ:$\varphi(e)\ne0$ について $\operatorname{ad}\varphi(h)(\varphi(e))=\varphi([h,e])=2\varphi(e)$ である。一方、prop-lie-so3 により $\mathfrak{so}(3)$ を $(\mathbb{R}^3,\times)$ とみると、$\operatorname{ad}\vec a$ は $\vec v\mapsto\vec a\times\vec v$ である。$\vec a\times\vec v=\lambda\vec v$($\lambda\in\mathbb{R}$、$\vec v\ne\vec0$)なら、$\vec a\times\vec v$ は $\vec v$ と直交するので $\lambda\lvert\vec v\rvert^2=\vec v\cdot(\vec a\times\vec v)=0$、すなわち $\lambda=0$ である。よって $\operatorname{ad}$ が $0$ でない実数の固有値をもつ元は $\mathfrak{so}(3)$ にない。これは矛盾である。$\square$
係数を $\mathbb{C}$ に広げた $\mathfrak{so}_3(\mathbb{C})$(複素の交代行列)では、$H:=2iL_3$、$E:=L_1+iL_2$、$F:=-L_1+iL_2$ とおくと
$$
[H,E]=2E,\qquad [H,F]=-2F,\qquad [E,F]=H
$$
が成り立つ。
$[L_3,L_1]=L_2$、$[L_3,L_2]=-L_1$ から $[L_3,L_1\pm iL_2]=L_2\mp iL_1=\mp i(L_1\pm iL_2)$ なので、$[H,L_1\pm iL_2]=2i\cdot(\mp i)(L_1\pm iL_2)=\pm2(L_1\pm iL_2)$ である。また $[L_1+iL_2,L_1-iL_2]=-i[L_1,L_2]+i[L_2,L_1]=-2iL_3$ なので、$[E,F]=-[L_1+iL_2,L_1-iL_2]=2iL_3=H$ である。
ここでは $K=\mathbb{R}$ または $\mathbb{C}$ とし、$M_n(K)$ の行列の指数関数を使う(行列の指数関数)。$\operatorname{ad}X\colon M_n(K)\to M_n(K)$ は $n^2$ 次元のベクトル空間の線形変換なので、その指数関数 $e^{t\operatorname{ad}X}$ も(基底をとって $n^2$ 次の行列とみて)定まる。
$X,Y\in M_n(K)$、$t\in\mathbb{R}$ について
$$
e^{tX}Ye^{-tX}=e^{t\operatorname{ad}X}(Y)=Y+t[X,Y]+\frac{t^2}{2!}[X,{[X,Y]}]+\cdots
$$
である。とくに $\dfrac{d}{dt}\Big|_{t=0}e^{tX}Ye^{-tX}=[X,Y]$ である。
$F(t):=e^{tX}Ye^{-tX}$ とおく。行列の指数関数 の定理「指数関数の微分と $x'=Ax$ の解」の (i) と積の微分法から
$$
F'(t)=Xe^{tX}Ye^{-tX}-e^{tX}Ye^{-tX}X=XF(t)-F(t)X=(\operatorname{ad}X)(F(t))
$$
であり、$F(0)=Y$ である。$M_n(K)$ を $K^{n^2}$ とみると、$F$ は定数係数の線形微分方程式 $F'=(\operatorname{ad}X)F$ の解なので、同じ定理の (ii) から $F(t)=e^{t\operatorname{ad}X}(Y)$ である。級数の形は $(\operatorname{ad}X)^k(Y)=[X,{[X,\dots,{[X,Y]}\cdots]}]$ から従う。$\square$
Lie群 の命題「Lie 環は交換子で閉じている」は、行列 Lie 群 $G$ の Lie 環 $\mathfrak{g}$ について、$e^{tX}Ye^{-tX}\in\mathfrak{g}$ を $t=0$ で微分して $[X,Y]\in\mathfrak{g}$ を示している。この命題の最後の式がその計算である。次の命題は、交換子が群の交換子の近似であることを示す。
$X,Y\in M_n(K)$ について、$\lvert t\rvert\le1$ で
$$
e^{tX}e^{tY}e^{-tX}e^{-tY}=I+t^2[X,Y]+R(t),\qquad\|R(t)\|\le C\lvert t\rvert^3
$$
となる定数 $C$($X,Y$ によるが $t$ によらない)がある。ここで $\|\cdot\|$ は作用素ノルムである。
要点:4 つの因子をそれぞれ 2 次の項まで展開して掛ける。$t^1$ の係数は $X+Y-X-Y=0$、$t^2$ の係数は $XY-YX$ になる。
$A\in M_n(K)$ について $e^{A}=I+A+\frac12A^2+S(A)$ とおくと、行列の指数関数 の命題「収束と大きさの評価」の証明と同じ評価($k\ge3$ の項に $k!\ge6\,(k-3)!$ を使う)で $\|S(A)\|\le\frac16\|A\|^3e^{\|A\|}$ である。$a:=\max\{\|X\|,\|Y\|\}$ とすると、$\lvert t\rvert\le1$ で 4 つの因子 $e^{\pm tX}$、$e^{\pm tY}$ はそれぞれ $Q_i(t)+S_i(t)$($Q_i$ は $t$ の 2 次以下の行列係数の多項式、$\|S_i(t)\|\le\frac16a^3e^{a}\lvert t\rvert^3$)と書ける。4 つの積を展開すると、$S_i$ を 1 つ以上含む項と、$Q_i$ だけの積のうち $t$ の 3 次以上の項は、どれもノルムが $\lvert t\rvert^3$ の定数倍で抑えられる($\lvert t\rvert\le1$ なので $\lvert t\rvert^k\le\lvert t\rvert^3$、$k\ge3$)。残るのは $Q_i$ だけの積の 2 次以下の部分である。
1 次の部分は $tX+tY-tX-tY=0$ である。2 次の部分は、各因子の 2 次の項の和 $\frac{t^2}2(X^2+Y^2+X^2+Y^2)$ と、2 つの因子の 1 次の項の積の和 $t^2\bigl(XY-X^2-XY-YX-Y^2+XY\bigr)$ を足したもので、$t^2(XY-YX)$ になる。$\square$
$[X,Y]=O$ なら $e^{tX}$ と $e^{tY}$ は可換である(行列の指数関数 の定理「可換な行列の指数法則」から $e^{tX}e^{tY}=e^{t(X+Y)}=e^{tY}e^{tX}$)。逆に群の交換子が $I$ からずれる最初の項が括弧積である。このように、Lie 環は Lie 群の単位元の近くの構造を 1 次の情報として記録している。ただし Lie 環が同型でも Lie 群が同型とは限らない(Lie群 の例「反例:Lie 環が同じでも群は違う」)。
| 外す条件・誤った期待 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| Jacobi 恒等式 | $[e_1,e_2]=e_2$、$[e_2,e_3]=e_1$、$[e_3,e_1]=0$ の 3 次元の交代的な積 | Lie 環であること($\operatorname{ad}$ が導分であること) |
| 「括弧積は結合的」 | $\mathfrak{sl}_2$ の $e,f$、外積の $\vec e_1,\vec e_2$ | 結合法則 |
| 交代性 $[x,x]=0$(反対称性だけにする) | 標数 $2$ の $\mathbb{F}_2^2$ 上の $[x,y]=x_2y_2e_1$ | Lie 環であること |
| 標数が $2$ でないこと | $\mathfrak{sl}_2(\mathbb{F}_2)$ | $\mathfrak{sl}_2$ の単純性 |
| 「Lie 環が同型なら Lie 群も同型」 | $\mathbb{R}$ と $S^1$、$SU(2)$ と $SO(3)$ | Lie 環から群が決まること |
最後の行は Lie群 の例「反例:Lie 環が同じでも群は違う」で証明されている。ほかの 4 つを確かめる。
$\mathbb{R}^3$ の基底 $e_1,e_2,e_3$ について $[e_1,e_2]=e_2$、$[e_2,e_3]=e_1$、$[e_3,e_1]=0$ と定め、$[e_i,e_i]=0$ と反対称性・双線形性で全体に広げる。この積は双線形で交代的である(係数で書くと $[x,x]$ の各項が $[e_i,e_j]+[e_j,e_i]=0$ で打ち消し合う)。しかし
$$
[e_1,{[e_2,e_3]}]+[e_2,{[e_3,e_1]}]+[e_3,{[e_1,e_2]}]=[e_1,e_1]+[e_2,0]+[e_3,e_2]=-e_1\ne0
$$
なので Jacobi 恒等式が成り立たない。prop-lie-ad の言い方では、$\operatorname{ad}e_3$ が導分でない:$\operatorname{ad}e_3([e_1,e_2])=[e_3,e_2]=-e_1$ だが、$[{[e_3,e_1]},e_2]+[e_1,{[e_3,e_2]}]=0+[e_1,-e_1]=0$ である。満たす性質は「双線形・交代的」、満たさない性質は「Jacobi 恒等式」であり、Lie 環の定義の条件 (ii) を破る。
$\mathfrak{sl}_2$ で $[{[e,f]},f]=[h,f]=-2f$ だが $[e,{[f,f]}]=[e,0]=0$ なので、標数が $2$ でなければ $[{[e,f]},f]\ne[e,{[f,f]}]$ である。外積でも、導入のとおり $(\vec e_1\times\vec e_1)\times\vec e_2=\vec0\ne-\vec e_2=\vec e_1\times(\vec e_1\times\vec e_2)$ である。Lie 環では結合法則の代わりに Jacobi 恒等式が成り立つ。可換な Lie 環ではどちらの側も $0$ なので結合法則が成り立つが、それは括弧積がすべて $0$ だからである。
$K=\mathbb{F}_2$(2 元体)、$\mathfrak{g}=\mathbb{F}_2^2$ とし、$x=(x_1,x_2)$、$y=(y_1,y_2)$ について $[x,y]:=x_2y_2e_1$($e_1=(1,0)$)と定める。これは双線形で、$[x,y]=[y,x]$ であり、標数 $2$ では $[y,x]=-[y,x]$ なので反対称性 $[x,y]=-[y,x]$ を満たす。括弧積の値はつねに $e_1$ の倍数で、$[z,e_1]=z_2\cdot0\cdot e_1=0$ なので、2 重の括弧積 $[x,{[y,z]}]$ はすべて $0$ であり、Jacobi 恒等式も成り立つ。しかし $e_2=(0,1)$ について $[e_2,e_2]=e_1\ne0$ である。満たす性質は「双線形・反対称・Jacobi 恒等式」、満たさない性質は「交代性」であり、def-lie-algebra の条件 (i) を破る。Lie 環の定義を反対称性でなく $[x,x]=0$ で書くのはこのためである(rem-lie-alternating)。
$K$ の標数が $2$ なら、prop-lie-sl2 の (i) は $[h,e]=2e=0$、$[h,f]=-2f=0$、$[e,f]=h$ となる。したがって $h$ はすべての基底と可換で、中心に属し、$Kh$ は $0$ でも全体でもないイデアルである。また導来環は $[\mathfrak{sl}_2,\mathfrak{sl}_2]=Kh\ne\mathfrak{sl}_2$ である。満たす性質は「$\mathfrak{sl}_2(K)$ は非可換な 3 次元の Lie 環」、満たさない性質は「単純」であり、prop-lie-sl2 の (ii) の仮定「標数が $2$ でない」が落とせないことを示す。
Lie 環は、代数・幾何・物理の多くの場面に現れる。
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