ピタゴラス数とは $a^2+b^2=c^2$ を満たす正の整数の組 $(a,b,c)$ であり、$\gcd(a,b,c)=1$ のものを原始的という。$b$ が偶数の原始的なピタゴラス数は、互いに素で偶奇の異なる $m>n>0$ により $(m^2-n^2,2mn,m^2+n^2)$ とただ 1 通りに表される。$c$ で割ると単位円の有理点になり、$(-1,0)$ 以外の有理点は、$(-1,0)$ を通る傾き $t\in\mathbb{Q}$ の直線との交点 $\bigl(\frac{1-t^2}{1+t^2},\frac{2t}{1+t^2}\bigr)$ として過不足なく得られる($t=\tan\frac\theta2$ 置換と同じ式)。円 $x^2+y^2=3$ には有理点がなく、$x^4+y^4=z^2$ には正の整数解がない(無限降下法)。
前提知識: 三平方の定理, 互いに素, 素因数分解, 三角関数, 複素数
3 辺の長さがすべて整数の直角三角形として、$(3,4,5)$、$(5,12,13)$、$(8,15,17)$ がよく知られている。三平方の定理 $a^2+b^2=c^2$ の両辺を $c^2$ で割ると $(a/c)^2+(b/c)^2=1$ となるので、これらは単位円 $x^2+y^2=1$ 上の、座標がともに有理数の点 $(\frac35,\frac45)$、$(\frac5{13},\frac{12}{13})$、$(\frac8{17},\frac{15}{17})$ を与える。
積分の計算では $t=\tan\frac\theta2$ とおく置換を習う。$\cos\theta=\cos^2\frac\theta2-\sin^2\frac\theta2$、$\sin\theta=2\sin\frac\theta2\cos\frac\theta2$ を $1=\cos^2\frac\theta2+\sin^2\frac\theta2$ で割り、分子と分母を $\cos^2\frac\theta2$ で割ると
$$
\cos\theta=\frac{1-t^2}{1+t^2},\qquad \sin\theta=\frac{2t}{1+t^2}
$$
である。$t=\frac12$ とおくと $(\cos\theta,\sin\theta)=(\frac35,\frac45)$、$t=\frac23$ とおくと $(\frac5{13},\frac{12}{13})$ となり、ex-ptr-start-triangles の直角三角形が現れる。$t$ が有理数なら右辺は有理数だからである。
そこで次の問いが自然に浮かぶ。
| 高校の計算 | 大学の概念 | ボックス |
|---|---|---|
| 3 辺が整数の直角三角形 | 単位円の有理点 | def-ptr-triple |
| $t=\tan\frac\theta2$ 置換 | 有理点を通る直線の傾きによる媒介変数表示 | thm-ptr-circle |
| 平方数を 4 や 3 で割った余り | 合同式による障害(解がないことの判定) | lem-ptr-parity、ex-ptr-no-point |
| 加法定理(角の足し算) | 絶対値 $1$ の複素数の掛け算、有理点の群 | ex-ptr-gauss-products |
| 素因数分解の指数を見る | 互いに素な数の積が平方なら各々平方 | lem-ptr-square |
ピタゴラス数 $(a,b,c)$ を $d:=\gcd(a,b,c)$ で割った $(a/d,b/d,c/d)$ もピタゴラス数であり、原始的である。したがって、すべてのピタゴラス数は原始的なものの正の整数倍であり、原始的なものを調べれば足りる。
$(6,8,10)$ は $36+64=100$ を満たすピタゴラス数だが、$\gcd(6,8,10)=2$ なので原始的でない。$2$ で割ると原始的な $(3,4,5)$ になり、どちらからも同じ有理点 $(\frac6{10},\frac8{10})=(\frac35,\frac45)$ が得られる。また $(\frac{20}{29},\frac{21}{29})$ は $400+441=841=29^2$ より単位円の有理点であり、原始的なピタゴラス数 $(20,21,29)$ に対応する。
原始的なピタゴラス数 $(a,b,c)$ から単位円の第 1 象限($x>0$、$y>0$)の有理点 $(a/c,b/c)$ が得られる。逆に、第 1 象限の有理点 $(x,y)$ について、$x,y$ の分母の最小公倍数を $c$ として $x=a/c$、$y=b/c$ と書くと $a^2+b^2=c^2$ であり、$a,b,c$ に共通の素因数 $p$ があれば $c/p$ も共通の分母になって最小性に反するので、$(a,b,c)$ は原始的である。後で示す lem-ptr-parity により原始的なピタゴラス数では $\gcd(a,c)=\gcd(b,c)=1$ なので、この 2 つの操作は互いに逆である。つまり、原始的なピタゴラス数を求めることは、単位円上の有理点を求めることと同じである。
整数の問題を有理数の問題に置き換えると、次の節で見るように直線を使った幾何が使えるようになる。これが本記事で取り出す構造である。
$(a,b,c)$ が原始的なピタゴラス数ならば、$a,b,c$ のどの 2 つも互いに素であり、$c$ は奇数で、$a,b$ のちょうど一方が偶数である。
素数 $p$ が $a,b$ の両方を割るなら $p\mid a^2+b^2=c^2$ なので $p\mid c$ となり(素数が積を割れば因数のどちらかを割る)、原始性に反する。$p$ が $a,c$ を割るなら $p\mid c^2-a^2=b^2$ から $p\mid b$ となり、同様に矛盾する。$b,c$ についても同じである。
整数の平方を 4 で割った余りは、$(2k)^2=4k^2$、$(2k+1)^2=4(k^2+k)+1$ より $0$ か $1$ である。$a,b$ は互いに素なので、ともに偶数ではない。ともに奇数なら $c^2=a^2+b^2$ を 4 で割った余りが $2$ になり、矛盾する。よって $a,b$ のちょうど一方が偶数であり、$c^2=a^2+b^2$ は奇数なので $c$ は奇数である。$\square$
正の整数 $u,v$ が互いに素で、$uv$ が平方数ならば、$u,v$ はともに平方数である。
$uv=w^2$ とする。素因数分解の一意性により、各素数 $p$ について、$w^2$ の素因数分解における $p$ の指数は偶数である。$u,v$ は共通の素因数をもたないので、$p$ が $u$ を割るなら $p$ は $v$ を割らず、$u$ における $p$ の指数は $uv$ における指数と等しく、偶数である。よって $u$ の素因数分解の指数はすべて偶数であり、$u$ は平方数である。$v$ も同様である。$\square$
$m>n>0$ を、互いに素で偶奇の異なる整数とすると
$$
(a,b,c)=(m^2-n^2,\;2mn,\;m^2+n^2)
$$
は $b$ が偶数の原始的なピタゴラス数である。逆に、$b$ が偶数の原始的なピタゴラス数は、すべてこの形にただ 1 通りに書ける。
まず、この形がピタゴラス数であることを示す。$(m^2-n^2)^2+(2mn)^2=m^4+2m^2n^2+n^4=(m^2+n^2)^2$ であり、$m>n>0$ から 3 数は正である。$m,n$ の偶奇が異なるので $c=m^2+n^2$ は奇数である。素数 $p$ が $a$ と $c$ を割るとすると、$c$ が奇数なので $p$ は奇数であり、$p\mid c+a=2m^2$、$p\mid c-a=2n^2$ から $p\mid m$ かつ $p\mid n$ となって $\gcd(m,n)=1$ に反する。よって $\gcd(a,c)=1$ であり、$(a,b,c)$ は原始的である。
次に、すべてがこの形であることを示す。$(a,b,c)$ を $b$ が偶数の原始的なピタゴラス数とする。lem-ptr-parity により $a,c$ は奇数なので $c+a$、$c-a$ は偶数であり、
$$
\Bigl(\frac b2\Bigr)^2=\frac{c^2-a^2}4=\frac{c+a}2\cdot\frac{c-a}2
$$
と書ける。$u:=\frac{c+a}2$、$v:=\frac{c-a}2$ は正の整数で($c>a$ による)、$u+v=c$、$u-v=a$ である。$u,v$ の公約数は $c$ と $a$ を割るので、$\gcd(a,c)=1$ より $\gcd(u,v)=1$ である。lem-ptr-square により、正の整数 $m,n$ を用いて $u=m^2$、$v=n^2$ と書ける。すると $a=m^2-n^2$、$c=m^2+n^2$ であり、$b^2=4uv=4m^2n^2$ から $b=2mn$ である。$a>0$ より $m>n$、$\gcd(u,v)=1$ より $\gcd(m,n)=1$ であり、$c$ が奇数なので $m,n$ の偶奇は異なる。
最後に一意性を示す。$m^2=\frac{c+a}2$、$n^2=\frac{c-a}2$ なので、正の整数 $m,n$ は $(a,b,c)$ から決まる。$\square$
小さい $(m,n)$ について並べると次のとおりである。
| $(m,n)$ | $(2,1)$ | $(3,2)$ | $(4,1)$ | $(4,3)$ | $(5,2)$ | $(5,4)$ | $(6,1)$ |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| $(a,b,c)$ | $(3,4,5)$ | $(5,12,13)$ | $(15,8,17)$ | $(7,24,25)$ | $(21,20,29)$ | $(9,40,41)$ | $(35,12,37)$ |
$c\le2000$ の範囲で $b$ が偶数の原始的なピタゴラス数を総当たりで数えると 319 組あり、上の公式で作った組の集合と一致する(数値計算による確認)。
写像
$$
t\longmapsto P(t):=\Bigl(\frac{1-t^2}{1+t^2},\;\frac{2t}{1+t^2}\Bigr)
$$
は、有理数全体 $\mathbb{Q}$ から、単位円 $x^2+y^2=1$ の有理点のうち $(-1,0)$ 以外のもの全体への全単射であり、逆写像は $(x,y)\mapsto\frac y{x+1}$ である。ここで $\frac y{x+1}$ は、点 $(-1,0)$ と点 $(x,y)$ を結ぶ直線の傾きである。
$t\in\mathbb{Q}$ なら $P(t)$ の座標は有理数であり、$(1-t^2)^2+(2t)^2=(1+t^2)^2$ より $P(t)$ は単位円上にある。$x$ 座標は $\frac{1-t^2}{1+t^2}=-1+\frac2{1+t^2}>-1$ なので $P(t)\ne(-1,0)$ であり、$\frac y{x+1}=\frac{2t}{1+t^2}\cdot\frac{1+t^2}2=t$ である。
逆に、$(x,y)\ne(-1,0)$ を単位円の有理点とする。$x=-1$ なら $y^2=0$ となるので $x\ne-1$ であり、$t:=\frac y{x+1}$ は有理数である。点 $(x,y)$ は直線 $y=t(x+1)$ 上にあるので、これを $x^2+y^2=1$ に代入した式
$$
x^2+t^2(x+1)^2-1=(x+1)\bigl((1+t^2)x-(1-t^2)\bigr)=0
$$
を満たす。$x\ne-1$ なので $x=\frac{1-t^2}{1+t^2}$、$y=t(x+1)=\frac{2t}{1+t^2}$、すなわち $(x,y)=P(t)$ である。以上で、$t\mapsto P(t)$ と $(x,y)\mapsto\frac y{x+1}$ が互いに逆写像であることが示された。$\square$
$t=\frac34$ とおくと $1+t^2=\frac{25}{16}$ なので $P(\frac34)=\bigl(\frac{7/16}{25/16},\frac{3/2}{25/16}\bigr)=(\frac7{25},\frac{24}{25})$ であり、ピタゴラス数 $(7,24,25)$ が現れる。逆にこの点から傾きを求めると $\frac{24/25}{7/25+1}=\frac{24}{32}=\frac34$ に戻る。
$t\to\pm\infty$ で $P(t)\to(-1,0)$ となる。点 $(-1,0)$ 自身は、そこでの接線(傾き $\infty$ の縦の直線)に対応すると考えればよい。
$-\pi<\theta<\pi$ とする。$\tan\frac\theta2$ は、点 $(-1,0)$ と点 $(\cos\theta,\sin\theta)$ を結ぶ直線の傾きに等しく、$P(\tan\frac\theta2)=(\cos\theta,\sin\theta)$ である。したがって、$\cos\theta$ と $\sin\theta$ がともに有理数であることと、$\tan\frac\theta2$ が有理数であることは同値である。除いた点 $(-1,0)$ は $\theta=\pi$ に対応し、そこでは $\tan\frac\theta2$ が定まらない。
$|\frac\theta2|<\frac\pi2$ なので $\cos\frac\theta2>0$ であり、$1+\cos\theta=2\cos^2\frac\theta2\ne0$ である。傾きは
$$
\frac{\sin\theta}{1+\cos\theta}=\frac{2\sin\frac\theta2\cos\frac\theta2}{2\cos^2\frac\theta2}=\tan\frac\theta2
$$
である。点 $(\cos\theta,\sin\theta)$ は $(-1,0)$ でない単位円上の点で、傾き $t=\tan\frac\theta2$ の直線 $y=t(x+1)$ 上にあるので、thm-ptr-circle の証明の後半の計算(そこでは有理性を使っていない)により $(\cos\theta,\sin\theta)=P(t)$ である。$t$ が有理数なら $P(t)$ の座標は有理数であり、逆に $\cos\theta,\sin\theta$ が有理数なら傾き $t$ は有理数である。$\square$
この置換で三角関数の有理式の積分を有理関数の積分に直す方法は 三角関数の有理式の積分 で扱う。
傾きが $\tan\frac\theta2$ になることは、円周角の定理(中心角 $\theta$ に対する円周角は $\frac\theta2$)からも分かる。高校で積分の置換として習う $t=\tan\frac\theta2$ は、単位円上の点を「点 $(-1,0)$ から見た方向」で表す座標であり、thm-ptr-circle はそれを有理数に制限したものにほかならない。
単位円で $(-1,0)$ を出発点にした議論は、有理数係数の 2 次曲線一般で使える。
$f(x,y)$ を有理数係数の 2 次以下の多項式とし、$P_0=(x_0,y_0)$ を曲線 $f=0$ の有理点とする。有理数 $t$ について直線 $y-y_0=t(x-x_0)$ と曲線の交点を考える。$g(s):=f(x_0+s,\,y_0+ts)$ が $s$ の 2 次式であるとき、その 2 つの根は $s=0$ と有理数 $s_1$ であり、$(x_0+s_1,\,y_0+ts_1)$ は曲線の有理点である。
$g(s)$ は有理数係数の $s$ の多項式で、定数項は $g(0)=f(x_0,y_0)=0$ である。$g$ が 2 次式なら $g(s)=\alpha s^2+\beta s$($\alpha,\beta\in\mathbb{Q}$、$\alpha\ne0$)と書けるので、$g(s)=s(\alpha s+\beta)$ の根は $0$ と $s_1=-\beta/\alpha\in\mathbb{Q}$ である。$\square$
有理点 $P_0=(1,0)$ を通る傾き $t=1$ の直線 $y=x-1$ をとる。$g(s)=(1+s)^2-2s^2-1=2s-s^2=s(2-s)$ の根は $0$ と $s_1=2$ なので、新しい有理点 $(3,2)$ が得られる。実際 $9-2\cdot4=1$ である。
したがって、有理数係数の 2 次曲線は、有理点を 1 つもてば、傾き $t$ ごとに有理点が得られる(単位円では thm-ptr-circle のとおり、異なる $t$ は異なる点を与える)。ただし $s_1=0$ となる傾きでは、元の点 $P_0$ に戻るだけである。$P_0$ での接線の傾きがそうであり、$x^2+y^2=0$ や $x^2-2y^2=0$ のように(複素数の範囲で)2 本の直線の積に分解する曲線では、$P_0=(0,0)$ に対して $g(s)=s^2(1+t^2)$、$s^2(1-2t^2)$ となって、どの $t$ でも $s_1=0$ である。実際、この 2 つの曲線の有理点は $(0,0)$ だけである($x^2-2y^2=0$ では $x=\pm\sqrt2\,y$)。出発点がなければこの方法は始まらない。実際に出発点がない例が、後の ex-ptr-no-point である。
thm-ptr-classification は thm-ptr-circle から読み取ることもできる。第 1 象限の点は $0< t<1$ に対応する。$t=\frac nm$($m>n>0$、$\gcd(m,n)=1$)と既約分数で書くと
$$
P\Bigl(\frac nm\Bigr)=\Bigl(\frac{m^2-n^2}{m^2+n^2},\;\frac{2mn}{m^2+n^2}\Bigr)
$$
である。$m,n$ の偶奇が異なるとき、thm-ptr-classification の前半で見たとおり分子と分母は互いに素であり、原始的なピタゴラス数 $(m^2-n^2,2mn,m^2+n^2)$ が得られる。$m,n$ がともに奇数のときは分子も分母も 2 で割れる(ex-ptr-odd-odd)。
$t=\frac13$ では $P(\frac13)=(\frac8{10},\frac6{10})=(\frac45,\frac35)$ となって、$(m,n)=(2,1)$ の組の $a,b$ を入れ替えたものが出てくる。
つまり、$\tan\frac\theta2$ 置換で $t$ に有理数を代入する高校の計算は、原始的なピタゴラス数の分類の公式を $c$ で割ったものであり、「偶奇が異なる」という条件は分数が約分されないための条件である。
実部と虚部がともに整数の複素数 $a+bi$ を Gauss 整数といい、その全体を $\mathbb{Z}[i]$ と書く。$\mathbb{Z}[i]$ は足し算・引き算・掛け算で閉じている。$\alpha=a+bi$ のノルムを $N(\alpha):=\alpha\bar\alpha=a^2+b^2$ と定める。
$\overline{\alpha\beta}=\bar\alpha\bar\beta$ より $N(\alpha\beta)=N(\alpha)N(\beta)$ である。この言葉では
$$
a^2+b^2=c^2\iff N(a+bi)=c^2,\qquad (m+ni)^2=(m^2-n^2)+2mn\,i
$$
なので、thm-ptr-classification は次のように言い換えられる(ここまでは証明済みの事実の言い換えである):$b$ が偶数の原始的なピタゴラス数 $(a,b,c)$ では、$a+bi$ は Gauss 整数の平方 $(m+ni)^2$ であり、$c=N(m+ni)$ である。
この形になる理由は、lem-ptr-square と同じ議論を $\mathbb{Z}[i]$ で行うと見える。$\mathbb{Z}[i]$ でも素因数分解が(掛けて $1$ になる元 $\pm1,\pm i$ の違いを除いて)一意であることが知られている(Gauss整数。本記事では証明しない)。これを認めると、$c^2=(a+bi)(a-bi)$ で、原始的なら $a+bi$ と $a-bi$ は共通の素因数をもたないので、それぞれが $\pm1,\pm i$ 倍を除いて平方になる。整数の世界で「互いに素な 2 数の積が平方なら各々平方」と言ったのと同じ形である。本記事の分類の証明はこの一意性を使っておらず、以上は見通しを与える概略である。
同じ見方で、単位円の有理点は「絶対値 $1$ で実部と虚部が有理数の複素数」である。このような複素数全体を $U(\mathbb{Q})$ と書くと、掛け算と逆数(逆数は共役 $\bar z$)で閉じており、群をなす。掛け算は角の足し算であり(三角関数の加法定理)、有理点どうしを掛けると新しい有理点ができる(ex-ptr-gauss-products)。
$$
\Bigl(\frac{3+4i}5\Bigr)^2=\frac{-7+24i}{25},\qquad \frac{3+4i}5\cdot\frac{5+12i}{13}=\frac{-33+56i}{65}
$$
から、ピタゴラス数 $(7,24,25)$、$(33,56,65)$ が得られる。
さらに thm-ptr-circle の $P(t)$ は
$$
P(t)=\frac{(1+ti)^2}{1+t^2}=\frac{1+ti}{1-ti}
$$
と書ける。$t=\frac nm$ なら $P(t)=\frac{(m+ni)^2}{m^2+n^2}$ であり、分類の公式の $(m+ni)^2$ がそのまま現れる。$(-1,0)$ も $-1=\frac{i}{-i}$ と書けるので、$U(\mathbb{Q})$ の元はすべて $w/\bar w$($w$ は実部・虚部が有理数の $0$ でない複素数)の形である。
| 外した仮定 | 崩れる主張 | ボックス |
|---|---|---|
| 曲線が有理点を 1 つもつ | 直線で有理点が次々に得られる(実数の点が無数にあっても出発点の有理点がない) | ex-ptr-no-point |
| $m,n$ の偶奇が異なる/$\gcd(m,n)=1$ | 公式の与える組が原始的である | ex-ptr-parity-needed |
| 曲線が 2 次 | 有理点を通る有理数の傾きの直線が、もう 1 つの有理点を与える | ex-ptr-cubic |
円 $x^2+y^2=3$ は実数の点を無数にもつが、有理点を 1 つももたない。したがって「有理数係数の 2 次曲線で、実数の点が無数にある」から「有理点がある」は導けず、prop-ptr-conic-line の方法は出発点がないため使えない。
実際、有理点 $(x,y)$ があったとする。共通の分母 $r>0$ で $x=p/r$、$y=q/r$($p,q,r$ は整数)と書き、公約数で割って $\gcd(p,q,r)=1$ としてよい。すると $p^2+q^2=3r^2$ である。整数の平方を 3 で割った余りは $0$ か $1$ なので($(3k\pm1)^2=3(3k^2\pm2k)+1$)、$p^2+q^2$ が 3 で割り切れるのは $p,q$ がともに 3 の倍数のときに限る。このとき $9\mid p^2+q^2=3r^2$ から $3\mid r^2$、よって $3\mid r$ となり、$\gcd(p,q,r)=1$ に反する。
$(m,n)=(3,1)$ は互いに素だが偶奇が同じで、$(m^2-n^2,2mn,m^2+n^2)=(8,6,10)$ は原始的でない(すべて偶数)。$(m,n)=(4,2)$ は偶奇が異なるが互いに素でなく、$(12,16,20)$ は 4 で割れる。どちらもピタゴラス数ではあるが、thm-ptr-classification の「原始的」という結論が破れる。thm-ptr-classification の条件は、公式が原始的なものをちょうど 1 回ずつ与えるための条件である。
3 次曲線 $x^3+y^3=1$ は有理点 $(1,0)$ をもつ。傾き $-2$ の直線 $y=-2(x-1)$ を代入すると
$$
x^3-8(x-1)^3-1=-(x-1)(7x^2-17x+7)
$$
となり、残りの交点の $x$ 座標は $\frac{17\pm\sqrt{93}}{14}$ で有理数でない。3 次曲線と直線の交点の $x$ 座標は 3 次方程式の根なので、1 つが有理数でも残りの 2 つは有理数とは限らない(2 次方程式なら、一方の根が有理数なら他方も有理数である)。prop-ptr-conic-line の「2 次」という仮定を外すと、「有理点を通る有理数の傾きの直線は、もう 1 つの有理点を与える」という結論が破れる。
ex-ptr-cubic のとおり、次数が 3 以上になると直線の方法はそのままでは使えない。$x^n+y^n=z^n$($n\ge3$)に正の整数解がないという主張を Fermat の最終定理という(rem-ptr-flt-general)。$n=4$ の場合は、原始的なピタゴラス数の分類(thm-ptr-classification)を 2 回使う無限降下法で証明できる。無限降下法とは、解があると仮定して「もっと小さい正の整数の解」を作り、正の整数の無限の減少列は存在しない(正の整数の集合の空でない部分集合には最小元がある)ことから矛盾を導く方法である。
$x^4+y^4=z^2$ を満たす正の整数 $x,y,z$ は存在しない。
正の整数解があると仮定し、そのうち $z$ が最小のものを $(x,y,z)$ とする。
(1) $\gcd(x,y)=1$ である。素数 $p$ が $x,y$ を割るなら $p^4\mid z^2$ なので $p^2\mid z$ であり、$(x/p,\,y/p,\,z/p^2)$ は $z$ より小さい解となって最小性に反する。
(2) 1 回目の分類。$(x^2)^2+(y^2)^2=z^2$ であり、$\gcd(x^2,y^2)=1$ なので $(x^2,y^2,z)$ は原始的なピタゴラス数である。lem-ptr-parity により $x^2,y^2$ の一方だけが偶数なので、入れ替えて $y$ が偶数、$x$ が奇数としてよい。thm-ptr-classification により、互いに素で偶奇の異なる $m>n>0$ を用いて
$$
x^2=m^2-n^2,\qquad y^2=2mn,\qquad z=m^2+n^2
$$
と書ける。
(3) 2 回目の分類。$x^2+n^2=m^2$ であり、$\gcd(m,n)=1$ なので $(x,n,m)$ は原始的なピタゴラス数である($x,n,m$ の公約数は $m,n$ を割る)。$x$ は奇数なので、lem-ptr-parity により $n$ が偶数、$m$ が奇数である。thm-ptr-classification により、互いに素な $r>s>0$ を用いて
$$
x=r^2-s^2,\qquad n=2rs,\qquad m=r^2+s^2
$$
と書ける。
(4) 平方数を取り出す。$y$ は偶数で、$y^2=2mn=4mrs$ より $\bigl(\frac y2\bigr)^2=m\cdot rs$ である。$m=r^2+s^2$ と $r$ の公約数は $s^2$ を割るので、$\gcd(r,s)=1$ より $\gcd(m,r)=1$ であり、同様に $\gcd(m,s)=1$、したがって $\gcd(m,rs)=1$ である。lem-ptr-square により $m$ と $rs$ は平方数であり、もう一度 lem-ptr-square を使って $r,s$ も平方数である。$r=u^2$、$s=v^2$、$m=w^2$($u,v,w$ は正の整数)とおくと
$$
u^4+v^4=r^2+s^2=m=w^2
$$
である。
(5) 降下。$(u,v,w)$ は正の整数解であり、$n>0$ なので $w\le w^2=m\le m^2< m^2+n^2=z$ である。これは $z$ の最小性に反する。$\square$
$n$ が 4 の倍数ならば、$x^n+y^n=z^n$ を満たす正の整数 $x,y,z$ は存在しない。特に、曲線 $x^4+y^4=1$ の有理点は $(\pm1,0)$、$(0,\pm1)$ の 4 点だけである。
$n=4k$ として正の整数解があれば、$(x^k)^4+(y^k)^4=(z^{2k})^2$ となり、thm-ptr-fermat-four に反する。$x^4+y^4=1$ の有理点 $(x,y)$ で $xy\ne0$ のものがあれば、共通の分母 $r>0$ で $x=p/r$、$y=q/r$ と書いて $|p|^4+|q|^4=r^4$ となり、$n=4$ の場合に反する。$xy=0$ なら $(\pm1,0)$、$(0,\pm1)$ である。$\square$
「$n\ge3$ なら $x^n+y^n=z^n$ を満たす正の整数 $x,y,z$ は存在しない」という主張を Fermat の最終定理という。$n\ge3$ は 4 の倍数か、奇素数 $p$ の倍数である。$n=pk$ のときの解 $(x,y,z)$ から指数 $p$ の解 $(x^k,y^k,z^k)$ が得られるので、cor-ptr-flt-four と合わせると、奇素数の指数だけを扱えばよい。$n=3$ や、正則素数と呼ばれる素数の指数などの場合が個別に示されたのち、一般の場合は、楕円曲線とモジュラー形式の理論を用いて Wiles が証明した(Wil95。その一部は Taylor との共著 TaW95 による)。本記事ではこれらを証明しない。本記事の分類定理と thm-ptr-fermat-four の証明は、Cla25 第 2 章(§1、定理 2.2、系 2.4)や Cri24 §3.4 と同じ筋道であり、単位円の有理点の扱いは Cri24 §15.1 にもある。
無限降下法が正しい理由は 数学的帰納法と整列性 で扱う。
半径 1 の円の周上に 1975 個の点を、どの 2 点の間の距離も有理数となるようにとることができるかどうかを、証明をつけて判定せよ。
出典:国際数学オリンピック(1975 年)第 5 問 Oly75。筆者による和訳。答は「できる」である。
$\cos\theta=\frac35$、$\sin\theta=\frac45$ となる角 $\theta$($\tan\frac\theta2=\frac12$)をとり、単位円上の点 $P_k:=(\cos2k\theta,\sin2k\theta)$($k=0,1,\dots,1974$)を考える。角 $\alpha,\beta$ の 2 点の距離の 2 乗は
$$
(\cos\alpha-\cos\beta)^2+(\sin\alpha-\sin\beta)^2=2-2\cos(\alpha-\beta)=4\sin^2\frac{\alpha-\beta}2
$$
なので、$P_j$ と $P_k$ の距離は $2\,|\sin(j-k)\theta|$ である。加法定理から
$$
\cos(n+1)\theta=\frac{3\cos n\theta-4\sin n\theta}5,\qquad \sin(n+1)\theta=\frac{4\cos n\theta+3\sin n\theta}5
$$
であり、帰納法により $\cos n\theta=\frac{a_n}{5^n}$、$\sin n\theta=\frac{b_n}{5^n}$ と書ける。ここで整数 $a_n,b_n$ は $(a_1,b_1)=(3,4)$、$a_{n+1}=3a_n-4b_n$、$b_{n+1}=4a_n+3b_n$ で定まる。よって距離はすべて有理数である。
残るのは 1975 個の点が相異なることである。$a_n,b_n$ を 5 で割った余りを見ると、$(a_n,b_n)$ の余りが $(3,4)$ なら $a_{n+1}\equiv9-16=-7\equiv3$、$b_{n+1}\equiv12+12=24\equiv4$ なので、すべての $n\ge1$ で余りは $(3,4)$ である。特に $b_n\ne0$、すなわち $n\ge1$ で $\sin n\theta\ne0$ であり、$j\ne k$ なら $P_j$ と $P_k$ の距離 $2|\sin(j-k)\theta|$ は $0$ でない。したがって条件を満たす 1975 個の点がとれる。同じ議論で、何個の点でもとれる。$\square$
単位円の点を絶対値 $1$ の複素数とみる。「Gauss 整数による見方」の節の群 $U(\mathbb{Q})$ の元 $u,v$ について、$|u|=|v|=1$ から $\frac vu=\overline{\bigl(\frac uv\bigr)}$ なので、$w:=\frac uv\in U(\mathbb{Q})$ とおくと
$$
|u^2-v^2|=|uv|\cdot\Bigl|\frac uv-\frac vu\Bigr|=|w-\bar w|=2\,|\operatorname{Im}w|
$$
であり、これは有理数である。つまり、$U(\mathbb{Q})$ の元の 2 乗 全体は、どの 2 点の距離も有理数という性質をもつ。$u^2=v^2$ となるのは $v=\pm u$ のときに限り、thm-ptr-circle により $U(\mathbb{Q})$ は無限集合なので、2 乗全体も無限集合である。これで「半径 1 の円周上に、どの 2 点の距離も有理数である点を無数にとれる」ことが一度に分かる。高校の解法の $P_k$ は $u=\bigl(\frac{3+4i}5\bigr)^k$ の 2 乗であり、そこで必要だった 5 で割った余りの計算は、$\frac{3+4i}5$ を何乗しても $1$ に戻らないことを確かめる作業にあたる。群の見方では、互いに $\pm1$ 倍でない有理点(たとえば $\operatorname{Im}u>0$ の有理点。thm-ptr-circle の $t>0$ から無数にある)を 1975 個選ぶだけで済むので、この確認が要らない。距離の式に「半角」の正弦が現れるので、角を 2 倍した点(2 乗)をとるのが要点である。
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