Steinhausの定理(Steinhaus theorem)とは、実数直線の Lebesgue 可測集合 $A$ が正の測度をもつなら、差の集合 $A-A=\{a-b\mid a,b\in A\}$ がある区間 $(-\delta,\delta)$ を含むという定理である。平行移動が有限測度の集合の測度を連続的に動かすことから示され、測度が正の 2 つの集合の差も区間を含む。可測な加法的関数が一次関数になること、$\mathbb{R}$ と異なる可測な部分群が測度 $0$ になること、Vitali 集合が可測でないことが従う。Cantor 集合のように測度 $0$ でも差の集合が区間になる集合があり、逆は成り立たない。
前提知識: Lebesgue測度, Lebesgue積分
Steinhausの定理(Steinhaus theorem)は、実数直線の Lebesgue測度 について、正の測度をもつ可測集合 $A$ の差の集合 $A-A=\{a-b\mid a,b\in A\}$ が $0$ を内点にもつ、すなわちある $\delta>0$ について区間 $(-\delta,\delta)$ を含むことを述べる。$A$ 自身は区間を含まなくてもよい。たとえば区間を含まない閉集合でも測度が正なら、その差の集合は $0$ のまわりの区間を埋め尽くす。測度が正という量的な仮定から、区間を含むという位相的な結論が出てくるところに、この定理の要点がある。
証明の鍵は、平行移動が測度を連続的に動かすこと、すなわち有限測度の集合 $B$ について、$h\to0$ のとき $B$ と平行移動 $B+h$ の対称差の測度が $0$ に近づくことである。$h$ が小さければ $B$ と $B+h$ は測度の大半を共有するので交わり、交点から $h\in B-B$ が読み取れる。
この定理から、可測な加法的関数が一次関数になること、$\mathbb{R}$ の可測な部分群は $\mathbb{R}$ 自身でなければ測度 $0$ であること、Vitali 集合が可測でないことが従う。なお、関数解析の一様有界性原理を指す Banach–Steinhausの定理 とは別の定理である。
以下、$\lambda$ は $\mathbb{R}$ の Lebesgue 測度、$\lambda^*$ は Lebesgue 外測度とし、「可測」は Lebesgue 可測を意味する。$A,B\subset\mathbb{R}$、$t\in\mathbb{R}$ について
$$
A+t:=\{a+t\mid a\in A\},\qquad A-B:=\{a-b\mid a\in A,\ b\in B\},\qquad A\mathbin{\triangle}B:=(A\setminus B)\cup(B\setminus A)
$$
と書く。$A-A$ を $A$ の差の集合という。$A-A$ は $0$ を含み($A\ne\emptyset$ のとき)、$t\in A-A$ と $-t\in A-A$ は同値である。また $t\in A-A$ と $A\cap(A+t)\ne\emptyset$ は同値である($a=a'+t$ と $t=a-a'$ は同じことである)。
$A\subset\mathbb{R}$ を可測集合で $\lambda(A)>0$ とする($\lambda(A)=\infty$ でもよい)。このとき、ある $\delta>0$ について
$$
(-\delta,\delta)\subset A-A
$$
が成り立つ。
要点:$A$ を有界で測度が正の部分 $B$ に縮め、$h$ が小さいとき $B$ と $B+h$ が交わることを lem-steinhaus-translation から示す。
有界な部分に縮める.すべての $N\ge1$ で $\lambda(A\cap[-N,N])=0$ なら、$A=\bigcup_N(A\cap[-N,N])$ と可算劣加法性から $\lambda(A)=0$ となり仮定に反する。そこで $B:=A\cap[-N,N]$ が $0<\lambda(B)<\infty$ となる $N$ をとる。$B-B\subset A-A$ なので、$B$ について示せばよい。
交わり.lem-steinhaus-translation の前半により、$\delta>0$ を $\lvert h\rvert<\delta$ なら $\lambda((B+h)\mathbin{\triangle}B)<\lambda(B)$ となるようにとれる。このとき後半の等式から
$$2\lambda\bigl(B\cap(B+h)\bigr)=2\lambda(B)-\lambda\bigl((B+h)\mathbin{\triangle}B\bigr)>\lambda(B)>0$$
なので $B\cap(B+h)$ は空でない。その点 $z$ は $z\in B$ かつ $z=b+h$($b\in B$)と書けるので、$h=z-b\in B-B$ である。よって $(-\delta,\delta)\subset B-B\subset A-A$ である。$\square$
証明からは、$\lvert h\rvert<\delta$ のとき $h$ が $B-B$ の元として「たくさんの」書き方をもつこともわかる。実際、$h=z-b$ となる $z$ の集合 $B\cap(B+h)$ は測度が $\lambda(B)/2$ を超える。
結論は「$0$ が $A-A$ の内点である」と言い換えられる。$A-A$ が区間を含むことは、$A$ の点どうしの距離として、$0$ に近いすべての値が実際に現れることを意味する。
$B\subset\mathbb{R}$ を可測集合で $\lambda(B)<\infty$ とする。このとき
$$
\lim_{h\to0}\lambda\bigl((B+h)\mathbin{\triangle}B\bigr)=0
$$
である。さらに、すべての $h$ について
$$
\lambda\bigl((B+h)\mathbin{\triangle}B\bigr)=2\lambda(B)-2\lambda\bigl(B\cap(B+h)\bigr)
$$
が成り立つ。
要点:$B$ を有限個の開区間の和 $U$ で近似する。$U$ が $N$ 個の区間の和なら、$U+h$ と $U$ の対称差の測度は $2N\lvert h\rvert$ 以下である。
後半の等式.平行移動で測度は変わらない(Lebesgue測度 の命題「単調性と平行移動・拡大」の 2 と命題「区間とBorel集合の可測性・不変性」)ので、$B+h$ も可測で $\lambda(B+h)=\lambda(B)<\infty$ である。$(B+h)\mathbin{\triangle}B$ は互いに交わらない $(B+h)\setminus B$ と $B\setminus(B+h)$ の和であり、測度が有限なので $\lambda((B+h)\setminus B)=\lambda(B+h)-\lambda(B\cap(B+h))$、$\lambda(B\setminus(B+h))=\lambda(B)-\lambda(B\cap(B+h))$ である。足して等式を得る。
区間の有限和での評価.開区間 $I=(a,b)$ と $h\in\mathbb{R}$ について、$(I+h)\setminus I$ と $I\setminus(I+h)$ はどちらも長さ $\min(\lvert h\rvert,b-a)$ 以下の区間なので、$\lambda((I+h)\mathbin{\triangle}I)\le2\lvert h\rvert$ である。$U=I_1\cup\dots\cup I_N$ なら $(U+h)\mathbin{\triangle}U\subset\bigcup_{k}((I_k+h)\mathbin{\triangle}I_k)$ なので $\lambda((U+h)\mathbin{\triangle}U)\le2N\lvert h\rvert$ である。
近似.$\varepsilon>0$ をとる。Lebesgue測度 の命題「Lebesgue可測集合の特徴づけ」の 4 により、開集合 $V\supset B$ で $\lambda(V\setminus B)\le\varepsilon$ となるものがある。$V$ は互いに交わらない可算個の開区間 $J_1,J_2,\dots$ の和であり、$\lambda(V)\le\lambda(B)+\varepsilon<\infty$ なので $\sum_k\lambda(J_k)<\infty$ である。$N$ を $\sum_{k>N}\lambda(J_k)\le\varepsilon$ ととり、$U:=J_1\cup\dots\cup J_N$ とおくと、$B\mathbin{\triangle}U\subset(V\setminus B)\cup(V\setminus U)$ なので $\lambda(B\mathbin{\triangle}U)\le2\varepsilon$ である。平行移動しても対称差の測度は変わらないので $\lambda((B+h)\mathbin{\triangle}(U+h))\le2\varepsilon$ でもある。対称差の三角不等式 $X\mathbin{\triangle}Z\subset(X\mathbin{\triangle}Y)\cup(Y\mathbin{\triangle}Z)$ を 2 回使って$$\lambda((B+h)\mathbin{\triangle}B)\le\lambda((B+h)\mathbin{\triangle}(U+h))+\lambda((U+h)\mathbin{\triangle}U)+\lambda(U\mathbin{\triangle}B)\le4\varepsilon+2N\lvert h\rvert.$$ $\lvert h\rvert\le\varepsilon/N$ なら右辺は $6\varepsilon$ 以下である。$\varepsilon$ は任意なので前半が従う。$\square$
$1_B$ を $B$ の指示関数とすると $\lvert1_{B+h}-1_B\rvert=1_{(B+h)\triangle B}$ なので、補題の前半は $\int_{\mathbb{R}}\lvert1_B(x-h)-1_B(x)\rvert\,dx\to0$、すなわち指示関数の平行移動が $L^1$ ノルムで連続であることと同じである(Lp空間)。
同じ考え方で、異なる 2 つの集合の差も区間を含むことがわかる。ただし $0$ のまわりとは限らない。
$A,B\subset\mathbb{R}$ を可測集合で $\lambda(A)>0$、$\lambda(B)>0$ とする。このとき $A-B$ は空でない開区間を含む。
要点:$\varphi(h):=\lambda(A\cap(B+h))$ は連続で、その積分は $\lambda(A)\lambda(B)>0$ である。よって $\varphi$ は 0 でない値をとり、その近くの区間で正であり、$\varphi(h)>0$ なら $h\in A-B$ である。
縮小.prf-steinhaus-main と同じく、$A,B$ を有界で測度が正の部分に取り替えてよい。さらに Lebesgue測度 の命題「Lebesgue可測集合の特徴づけ」の 3 により、測度が同じ Borel 部分集合に取り替えてよい。部分集合に取り替えても $A-B$ は小さくなるだけなので、以下 $A,B$ は有界な Borel 集合で $0<\lambda(A),\lambda(B)<\infty$ とする。
連続性.$\varphi(h):=\lambda(A\cap(B+h))$ とおく。$A\cap(B+h)$ と $A\cap(B+h')$ の対称差は $(B+h)\mathbin{\triangle}(B+h')=((B+(h-h'))\mathbin{\triangle}B)+h'$ に含まれるので、$\lvert\varphi(h)-\varphi(h')\rvert\le\lambda((B+(h-h'))\mathbin{\triangle}B)$ であり、lem-steinhaus-translation により $\varphi$ は連続である。
積分.$(x,h)\mapsto(x,x-h)$ は $\mathbb{R}^2$ の連続写像なので、$1_A(x)1_B(x-h)$ は $\mathbb{R}^2$ 上の非負 Borel 関数である。Fubiniの定理 の定理「Tonelliの定理」により積分の順序を交換でき、平行移動不変性を使うと$$\int_{\mathbb{R}}\varphi(h)\,dh=\int_{\mathbb{R}}\int_{\mathbb{R}}1_A(x)1_B(x-h)\,dh\,dx=\int_{\mathbb{R}}1_A(x)\lambda(x-B)\,dx=\lambda(A)\lambda(B)>0$$となる($x-B:=\{x-b\mid b\in B\}$ の測度は $\lambda(B)$ に等しい)。
結論.積分が正なので $\varphi(h_0)>0$ となる $h_0$ がある。$\varphi$ は連続なので、$h_0$ を含む開区間 $J$ の上で $\varphi>0$ である。$h\in J$ なら $A\cap(B+h)$ は空でなく、その点 $x=b+h$($x\in A$、$b\in B$)から $h=x-b\in A-B$ である。よって $J\subset A-B$。$\square$
$B=A$ のときは $\varphi(0)=\lambda(A)>0$ なので、$J$ として $0$ を含む区間がとれ、thm-steinhaus-main に戻る。$A\ne B$ では $0$ のまわりの区間とは限らない。たとえば $A=[2,3]$、$B=[0,1]$ なら $A-B=[1,3]$ である。
$\mathbb{R}^d$ の Lebesgue 測度についても、正の測度の可測集合 $E$ の差の集合 $E-E$ は原点の近傍を含む(Tao11 Exercise 1.6.8、p. 140)。証明は prf-steinhaus-main と同じで、lem-steinhaus-translation の区間の有限和を、辺が座標軸に平行な直方体の有限和に取り替える。辺の長さが $\ell_1,\dots,\ell_d$ の直方体 $Q$ では $\lambda((Q+h)\mathbin{\triangle}Q)\le2\lvert h\rvert\sum_{i}\prod_{j\ne i}\ell_j$ となるので、有限和についての評価が同じく成り立つ。
$H$ を加法群 $\mathbb{R}$ の部分群で、Lebesgue 可測なものとする。$H\ne\mathbb{R}$ なら $\lambda(H)=0$ である。
$\lambda(H)>0$ と仮定する。$H$ は部分群なので $H-H=H$ であり、thm-steinhaus-main により $(-\delta,\delta)\subset H$ となる $\delta>0$ がある。任意の $x\in\mathbb{R}$ について、$\lvert x\rvert/n<\delta$ となる自然数 $n$ をとると $x/n\in H$ なので、$x=n\cdot(x/n)\in H$ である。よって $H=\mathbb{R}$ である。$\square$
$\mathbb{Z}$、$\mathbb{Q}$、$\mathbb{Q}+\mathbb{Q}\sqrt2$ のような可算な部分群は確かに測度 $0$ である。系は、非可算な部分群でも、$\mathbb{R}$ と異なり可測であれば測度 $0$ になることを述べている。同じ議論から、測度が正の可測集合 $A$ が生成する部分群は $\mathbb{R}$ 全体である。生成される部分群 $H$ は $A-A$ を含むので $(-\delta,\delta)\subset H$ となり、上の証明の後半がそのまま使えるからである。
$A,B\subset\mathbb{R}$ を可測集合で $\lambda(A)>0$、$\lambda(B)>0$ とする。このとき $A+B:=\{a+b\mid a\in A,\ b\in B\}$ は空でない開区間を含む。とくに $A+A$ は開区間を含む。
$-B:=\{-b\mid b\in B\}$ は可測で $\lambda(-B)=\lambda(B)>0$ である(Lebesgue測度 の命題「区間とBorel集合の可測性・不変性」の 2 で $c=-1$ としたもの)。$A+B=A-(-B)$ なので、thm-steinhaus-two-sets から従う。$\square$
Cantor集合 $C$ では $C+C=[0,2]$ なので、測度 $0$ でも和の集合が区間になることがある。系の逆もやはり成り立たない。
$f\colon\mathbb{R}\to\mathbb{R}$ が加法的(すべての $x,y$ で $f(x+y)=f(x)+f(y)$)かつ Lebesgue 可測なら、すべての $x$ で $f(x)=f(1)x$ である。
要点:$\lvert f\rvert\le n$ となる点の集合のどれかが正の測度をもち、その差の集合の上で $\lvert f\rvert\le2n$ となる。
$E_n:=\{x\mid\lvert f(x)\rvert\le n\}$ は可測で $\bigcup_nE_n=\mathbb{R}$ なので、ある $n$ で $\lambda(E_n)>0$ である。thm-steinhaus-main により $(-\delta,\delta)\subset E_n-E_n$ となる $\delta>0$ がある。$\lvert t\rvert<\delta$ なら $t=a-a'$($a,a'\in E_n$)と書けて、加法性から $f(t)=f(a)-f(a')$、よって $\lvert f(t)\rvert\le2n$ である。$f$ は開区間 $(-\delta,\delta)$ の上で上に有界なので、Cauchyの関数方程式 の定理「一次関数になるための条件」(4 ⇒ 1)により $f(x)=f(1)x$ である。$\square$
Hamel基底 の命題「可測な加法的関数は一次関数」は同じ結論を、差の集合が区間を含むことを開集合による近似から直接示して導いている。逆に、選択公理を使うと可測でない加法的関数が作れる(Hamel基底)。
$V\subset\mathbb{R}$ が、各剰余類 $x+\mathbb{Q}$ とちょうど 1 点で交わる集合(Vitali集合)なら、$V$ は Lebesgue 可測でない。
$v,v'\in V$ で $v-v'\in\mathbb{Q}$ なら、$v$ と $v'$ は同じ剰余類に属するので $v=v'$ である。よって $(V-V)\cap\mathbb{Q}=\{0\}$ であり、$0$ のまわりのどの区間も $0$ でない有理数を含むので、$V-V$ は $0$ のまわりの区間を含まない。$V$ が可測なら、thm-steinhaus-main の対偶により $\lambda(V)=0$ である。一方、各 $x\in\mathbb{R}$ はある $v\in V$ と同じ剰余類に属するので $\mathbb{R}=\bigcup_{q\in\mathbb{Q}}(V+q)$ であり、可算劣加法性と平行移動不変性から $\lambda(\mathbb{R})\le\sum_{q}\lambda(V)=0$ となって矛盾する。$\square$
$A=[0,\ell]$($\ell>0$)なら $A-A=[-\ell,\ell]$ である。prf-steinhaus-main の $\delta$ を実際に求めると、$\lvert h\rvert\le\ell$ では $(A+h)\mathbin{\triangle}A$ は長さ $\lvert h\rvert$ の区間 2 つの和なので $\lambda((A+h)\mathbin{\triangle}A)=2\lvert h\rvert$ であり、これが $\lambda(A)=\ell$ より小さいのは $\lvert h\rvert<\ell/2$ のときである。証明が与える $\delta=\ell/2$ は、実際に差の集合に含まれる区間 $(-\ell,\ell)$ の半分であり、証明は最良の $\delta$ を与えるわけではない。
$A=[0,1]\cup[3,4]$ なら、差は同じ区間の中の 2 点からは $[-1,1]$、異なる区間の 2 点からは $[2,4]$ と $[-4,-2]$ が出るので、$A-A=[-4,-2]\cup[-1,1]\cup[2,4]$ である。差の集合は $0$ のまわりの区間を含むが、全体が区間になるとは限らない。
$n\ge1$ について $A_n:=\bigcup_{k=0}^{n-1}\bigl[\tfrac kn,\tfrac kn+\tfrac1{3n}\bigr]$ とおく。長さ $\tfrac1{3n}$ の区間が $n$ 個、互いに交わらずに並ぶので $\lambda(A_n)=\tfrac13$ であり、$n$ によらない。一方、$A_n$ の 2 点の差は、属する区間の番号の差を $j$ とすると $\bigl[\tfrac jn-\tfrac1{3n},\tfrac jn+\tfrac1{3n}\bigr]$ に入り、逆にこの区間の点はすべて差として現れる。したがって
$$
A_n-A_n=\bigcup_{j=-(n-1)}^{n-1}\Bigl[\frac jn-\frac1{3n},\ \frac jn+\frac1{3n}\Bigr]
$$
であり、$n\ge2$ なら $j=0$ と $j=1$ の区間の間に長さ $\tfrac1{3n}$ のすき間 $\bigl(\tfrac1{3n},\tfrac2{3n}\bigr)$ がある。よって $(-\delta,\delta)\subset A_n-A_n$ となる最大の $\delta$ は $\tfrac1{3n}$ であり、$n\to\infty$ で $0$ に近づく。Steinhaus の定理の $\delta$ は、測度 $\lambda(A)$ の大きさだけからは下から評価できず、$A$ の形によって決まる。
Cantor集合 $C\subset[0,1]$ は Lebesgue 測度 $0$ だが、$C-C=[-1,1]$ である(GO03 第 8 章 Example 3、pp. 87–88)。したがって Steinhaus の定理の逆「$A-A$ が $0$ の近傍を含むなら $\lambda(A)>0$」は成り立たない。
確かめ:Cantor集合 の命題「自己相似性と対称性」の 2 により $x\in C$ なら $1-x\in C$ なので、$-C=C-1$($-C:=\{-x\mid x\in C\}$)である。よって $C-C=C+(-C)=(C+C)-1$ であり、同じ記事の例「反例:測度 $0$ の集合の和が区間になる」の $C+C=[0,2]$ から $C-C=[-1,1]$ を得る。
Cantor集合 の例「反例:測度が正の疎な閉集合」の集合 $K\subset[0,1]$ は、内部が空(区間を含まない)で $\lambda(K)=1/2$ である。Steinhaus の定理により $K-K$ は $0$ のまわりの区間を含む。区間を 1 つも含まない集合でも、差をとると区間が現れる。
次の表で、定理の仮定を 1 つずつ外したり結論を強めたりすると、主張が崩れることを確かめる。
| 変えるもの | 例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| 仮定 $\lambda(A)>0$ を外す | $A=\mathbb{Q}$($\lambda(\mathbb{Q})=0$) | $\mathbb{Q}-\mathbb{Q}=\mathbb{Q}$ は区間を含まない |
| 仮定の可測性を外す(外測度 $\lambda^*(A)>0$ だけを仮定する) | Vitali 集合 $V$ | $V-V$ は $0$ のまわりの区間を含まない |
| 結論の $A-A$ を $A$ に替える | ex-steinhaus-fat-cantor の $K$ | $\lambda(K)>0$ だが $K$ は区間を含まない |
要点:1 行目は $\mathbb{Q}$ が可算な部分群であること、2 行目は prf-steinhaus-vitali の前半と外測度の可算劣加法性、3 行目は ex-steinhaus-fat-cantor による。
1 行目:$\mathbb{Q}$ は可算なので測度 $0$ であり、部分群なので $\mathbb{Q}-\mathbb{Q}=\mathbb{Q}$ である。区間は非可算なので $\mathbb{Q}$ に含まれない。
2 行目:prf-steinhaus-vitali で示したとおり $(V-V)\cap\mathbb{Q}=\{0\}$ なので、$V-V$ は $0$ のまわりの区間を含まない。一方 $\mathbb{R}=\bigcup_{q\in\mathbb{Q}}(V+q)$ と外測度の可算劣加法性・平行移動不変性(Lebesgue測度 の定理「外測度の可算劣加法性」と命題「単調性と平行移動・拡大」)から、$\lambda^*(V)=0$ なら $\lambda^*(\mathbb{R})=0$ となるので、$\lambda^*(V)>0$ である。したがって、仮定の「$\lambda(A)>0$」を外測度の条件 $\lambda^*(A)>0$ に弱めると、可測性が外れた集合では結論が成り立たない。
3 行目:$K$ は内部が空なので区間を含まない。$K$ は閉集合なので可測であり、$\lambda(K)=1/2>0$ である。
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