Bloch–加藤予想(玉河数予想)(Bloch–Kato Tamagawa number conjecture)とは、モチーフ $M$ の $L$ 関数の $s=0$ での零点の位数を Selmer 群 $H^1_f$ と $H^0$ の次元の差で与え、最初の係数を周期とレギュレーターおよび Galois コホモロジーの格子で記述する予想である。解析的類数公式と Birch–Swinnerton-Dyer 予想を特別な場合として含み、一般には未解決である。Dirichlet モチーフなどの場合が知られている。Milnor の $K$ 群のノルム剰余同型も同じ名前で呼ばれることがあるが、別の主題である。
前提知識: Galoisコホモロジー, Selmer群, p進Hodge理論, Galois表現のL関数
Bloch–加藤予想(玉河数予想) は、モチーフ $M$ の $L$ 関数 $L(M,s)$ の $s=0$ での零点の位数と最初の係数を、$M$ の Galois コホモロジーで記述する予想である。零点の位数は局所条件つきの Selmer 群 $H^1_f$ と $H^0$ の次元の差で与えられ、最初の係数は周期とレギュレーターを除いて Galois コホモロジーの格子の大きさで与えられる、と主張する。S. Bloch と加藤和也(Kazuya Kato)が 1990 年の論文で定式化し、解析的類数公式 と Birch–Swinnerton-Dyer予想 を同じ形の特別な場合として含む(Ven05 pp. 8–9)。名前は代数群の 玉河数 との類似に由来する(Ven05 p. 9 の脚注 3)。
予想は一般には未解決である。2003 年の概説 Kin03 の時点で、$L$ の値そのものまで分かっている場合はある種の数体(Artin モチーフ)、ある種の虚数乗法をもつ楕円曲線、モジュラー形式の随伴モチーフと、Birch–Swinnerton-Dyer の公式が確かめられた場合に限られていた(Kin03 p. 179)。2025 年の時点でも、モジュラー形式について解析的階数が $1$ より大きい場合などの理解は極めて限られていると述べられている(Kim25 p. 2)。
この記事では、局所条件 $H^1_f$ を定義し、$\ell\ne p$ の素点での次元公式と直交性、数体の $\mathbb{Q}_p(1)$ と $\mathbb{Q}_p$ の $H^1_f$ の計算、楕円曲線の $H^1_f$ と Mordell–Weil 群の関係を証明する。予想の主張は Fontaine–Perrin-Riou の行列式の形で述べ、知られている場合を文献の範囲で挙げる。
「Bloch–加藤予想」という名前は、次の別々の主題を指す。文献を読むときは主題を確かめる。
| 名前の使われ方 | 内容 | 状態 |
|---|---|---|
| 玉河数予想(この記事) | モチーフの $L$ 関数の $s=0$ での零点の位数と最初の係数を $H^1_f$ などで記述する | 一般には未解決 |
| ノルム剰余同型 | 標数 $\ell$ でない体 $k$ で $K^M_n(k)/\ell\to H^n_{\mathrm{et}}(k,\mu_\ell^{\otimes n})$ がすべての $n$ で同型である | Voevodsky が Rost の結果とあわせて証明した(Voe11 Theorem 6.16、p. 436)。Milnor K群、Voevodskyのモチーフ圏 を見よ |
ノルム剰余同型は体の Milnor の $K$ 群についての定理で、$L$ 関数は現れない。また、代数群の玉河数についての Weil の予想(単連結な半単純群で玉河数が $1$ である。玉河数 の記事)も別の主張である。
$p$ を素数、$K$ を 代数体、$v$ を $K$ の素点、$K_v$ を完備化、$G_{K_v}:=\operatorname{Gal}(\bar K_v/K_v)$ とする。$V$ を $G_{K_v}$ の連続な作用をもつ $\mathbb{Q}_p$ 上の有限次元ベクトル空間とする。$H^q(K_v,V)$ は連続な Galois コホモロジーであり、$V$ の中の安定な格子 $T$ について $H^q(K_v,T)\otimes\mathbb{Q}_p$ と一致する(Kat04 8.2、p. 181)。
$H^1(K_v,V)$ の部分空間 $H^1_f(K_v,V)$ を次で定める(Kat04 14.1、p. 235)。
$$
H^1_f(K_v,V):=\begin{cases}
H^1(K_v,V)=0&v\text{ がアルキメデス素点のとき}\\
\ker\bigl(H^1(K_v,V)\to H^1(K_v^{\mathrm{ur}},V)\bigr)&v\nmid p\text{ の有限素点のとき}\\
\ker\bigl(H^1(K_v,V)\to H^1(K_v,B_{\mathrm{cris}}\otimes_{\mathbb{Q}_p}V)\bigr)&v\mid p\text{ のとき}
\end{cases}
$$
ここで $K_v^{\mathrm{ur}}$ は最大不分岐拡大、$B_{\mathrm{cris}}$ は p進Hodge理論 のクリスタリン周期環である。$f$ は finite part の f で、$v\mid p$ の条件は「クリスタリンな拡大を与える類」を切り出す。
$v\nmid p$ を有限素点、$I_v\subset G_{K_v}$ を惰性群、$\varphi$ を $G_{K_v}/I_v\cong\widehat{\mathbb{Z}}$ の位相的な生成元とする。このとき $H^1_f(K_v,V)\cong V^{I_v}/(\varphi-1)V^{I_v}$ であり、
$$
\dim H^1_f(K_v,V)=\dim H^0(K_v,V)
$$
が成り立つ。
要点:制限とインフレーションの完全列で $H^1_f$ は $H^1(\widehat{\mathbb{Z}},V^{I_v})$ に等しく、これは $\varphi-1$ の余核である。余核と核の次元は一致する。
$K_v^{\mathrm{ur}}$ に対応する部分群は $I_v$ である。Hochschild–Serre の完全列 $0\to H^1(G_{K_v}/I_v,V^{I_v})\to H^1(G_{K_v},V)\to H^1(I_v,V)$ から $H^1_f(K_v,V)=H^1(\widehat{\mathbb{Z}},W)$、$W:=V^{I_v}$ である。
$V$ の安定な格子 $T$ をとり $L:=T\cap W$ とする。$L$ は $\varphi$ 安定な格子で、有限加群 $L/p^mL$ については $H^1(\widehat{\mathbb{Z}},L/p^mL)\cong(L/p^mL)/(\varphi-1)$ である(Galoisコホモロジー の例「有限体」と同じ計算)。$m$ について逆極限をとると、$L/(\varphi-1)L$ は有限生成 $\mathbb{Z}_p$ 加群で $p$ 進完備なので $H^1(\widehat{\mathbb{Z}},L)\cong L/(\varphi-1)L$ を得る。$\mathbb{Q}_p$ を掛けて $H^1(\widehat{\mathbb{Z}},W)\cong W/(\varphi-1)W$ である。
$H^0(K_v,V)=W^{\varphi=1}=\ker(\varphi-1\mid W)$ であり、有限次元の線形写像の階数と退化次数の関係から $\dim\operatorname{coker}(\varphi-1)=\dim\ker(\varphi-1)$ である。$\square$
$v\mid p$ で $V$ が de Rham 表現のときは、$H^1_f$ を計算する複体が $[D_{\mathrm{cris}}(V)\xrightarrow{(1-\varphi,\pi)}D_{\mathrm{cris}}(V)\oplus t_V]$(次数 $0,1$)で与えられる(Kin03 p. 184)。$t_V:=D_{\mathrm{dR}}(V)/D^0_{\mathrm{dR}}(V)$ は接空間である。Euler 標数をとると
$$
\dim_{\mathbb{Q}_p}H^1_f(K_v,V)=\dim_{\mathbb{Q}_p}H^0(K_v,V)+\dim_{\mathbb{Q}_p}t_V
$$
となる(この等式を (1) と呼ぶ)。prop-bk-dim は接空間の項がない場合にあたる。
$V^*(1):=\operatorname{Hom}(V,\mathbb{Q}_p(1))$ を Kummer 双対とする(Tate捻り)。
$v\nmid p$ を有限素点とする。カップ積 $H^1(K_v,V)\times H^1(K_v,V^*(1))\to H^2(K_v,\mathbb{Q}_p(1))\cong\mathbb{Q}_p$ について、$H^1_f(K_v,V)$ と $H^1_f(K_v,V^*(1))$ は互いの直交補空間である。
要点:不分岐な類どうしの積は $\widehat{\mathbb{Z}}$ の $H^2$ から来るので $0$ である。次元は prop-bk-dim と局所 Tate 双対、Euler 標数で合う。
$x,y$ が不分岐なら、$x\cup y$ は $G_{K_v}/I_v\cong\widehat{\mathbb{Z}}$ の $H^2$ のカップ積のインフレーションである。$\widehat{\mathbb{Z}}$ の $\mathbb{Q}_p$ 係数の $H^2$ は $0$ なので(格子の $p^n$ 剰余の $H^2$ は $0$ である)、$x\cup y=0$ である。
次元を比べる。$h^i(U):=\dim H^i(K_v,U)$ と書く。局所 Tate 双対(Mil06 Corollary I.2.3、p. 28)を有限係数から極限をとって使うと、カップ積は完全で、$h^2(V)=h^0(V^*(1))$ である。$v\nmid p$ なので、位数が $p$ の冪の有限加群の Euler 標数は $1$ であり(Mil06 Theorem I.2.8 と Lemma I.2.9、p. 31)、$h^0(V)-h^1(V)+h^2(V)=0$ を得る。prop-bk-dim から $\dim H^1_f(K_v,V)+\dim H^1_f(K_v,V^*(1))=h^0(V)+h^0(V^*(1))=h^0(V)+h^2(V)=h^1(V)$ である。完全なカップ積の下で互いに直交し、次元の和が全体の次元に等しいので、互いの直交補空間である。$\square$
$v\mid p$ でも $V$ が de Rham 表現なら同じ直交性が知られている。この記事では証明しない。
以下、$V$ を $G_K$ の連続な作用をもつ $\mathbb{Q}_p$ 上の有限次元ベクトル空間で、有限個の素点の外で不分岐なものとする。$S$ を、無限素点、$p$ の上の素点、$V$ の分岐する素点を含む有限集合とし、$\mathcal{O}_S$ を $K$ の $S$ 整数環とする。$H^1(\mathcal{O}_S,V)$ は $S$ の外で不分岐な類の群である(Kat04 8.2、p. 181)。
$$
H^1_f(K,V):=\bigl\{x\in H^1(\mathcal{O}_S,V)\ \bigm|\ \text{すべての }v\in S\text{ で }\mathrm{res}_v(x)\in H^1_f(K_v,V)\bigr\}
$$
を $V$ の Bloch–加藤 Selmer 群 という(Kin03 p. 181)。$S$ の外の素点では $H^1_f$ は不分岐な類の群なので、この群は $S$ の選び方によらない。
有限係数の Selmer群 $\mathrm{Sel}^{(n)}(E/K)$ は、Kummer 写像の像を局所条件とした。$H^1_f$ はこれを一般の $V$ に広げたものである。
$F$ を代数体、$r_1,r_2$ を実素点と複素素点の個数とする。Kummer 写像は同型
$$
\mathcal{O}_F^\times\otimes_{\mathbb{Z}}\mathbb{Q}_p\xrightarrow{\ \sim\ }H^1_f(F,\mathbb{Q}_p(1))
$$
を与える。とくに $\dim H^1_f(F,\mathbb{Q}_p(1))=r_1+r_2-1$ である。また $H^1_f(F,\mathbb{Q}_p)=0$ である。
要点:$H^1(\mathcal{O}_S,\mathbb{Q}_p(1))$ は Kummer 列で $S$ 単数の群になり、局所条件は各素点の位数が $0$ であることに等しい。$\mathbb{Q}_p$ の場合は類が至るところ不分岐になるので、有限の類群を経由して $0$ になる。入力として、局所 Kummer 写像が $\widehat{\mathcal{O}_{F_v}^\times}\otimes\mathbb{Q}_p$ と $H^1_f(F_v,\mathbb{Q}_p(1))$ の同型を与えること(DM22 §2.1.2、p. 3)を引用する。この事実はこの記事では証明しない。
$\mathbb{Q}_p(1)$ の場合。$S$ を無限素点と $p$ の上の素点を含む有限集合とする。$\mathcal{O}_S$ の上の Kummer 列から $0\to\mathcal{O}_S^\times/p^n\to H^1(\mathcal{O}_S,\mu_{p^n})\to\operatorname{Pic}(\mathcal{O}_S)[p^n]\to0$ を得る。$\mathcal{O}_S^\times$ は有限生成で($\mathcal{O}_S^\times/\mathcal{O}_F^\times$ は位数の写像で $\mathbb{Z}$ の有限直和に埋め込まれ、$\mathcal{O}_F^\times$ は Dirichletの単数定理 で有限生成である)、$\operatorname{Pic}(\mathcal{O}_S)$ は有限群である。$n$ について逆極限をとると、$\mathcal{O}_S^\times\otimes\mathbb{Z}_p\to H^1(\mathcal{O}_S,\mathbb{Z}_p(1))$ の核は $0$、余核は有限群 $\operatorname{Pic}(\mathcal{O}_S)$ の Tate 加群で $0$ である。よって $\mathcal{O}_S^\times\otimes\mathbb{Q}_p\cong H^1(\mathcal{O}_S,\mathbb{Q}_p(1))$ である。
同様に局所 Kummer 写像は $\widehat{F_v^\times}\otimes\mathbb{Q}_p\cong H^1(F_v,\mathbb{Q}_p(1))$ を与え、大域の写像と両立する。$F_v^\times\cong\mathbb{Z}\times\mathcal{O}_{F_v}^\times$ なので、位数 $\operatorname{ord}_v$ は $\widehat{F_v^\times}\otimes\mathbb{Q}_p\to\mathbb{Q}_p$ を引き起こし、核は $\widehat{\mathcal{O}_{F_v}^\times}\otimes\mathbb{Q}_p$ である($v\nmid p$ ではこれは $0$ で、prop-bk-dim の $H^1_f(F_v,\mathbb{Q}_p(1))=0$ と合う)。引用した局所の事実から、$x\in\mathcal{O}_S^\times\otimes\mathbb{Q}_p$ の類が $H^1_f$ に入ることは、$S$ のすべての有限素点 $v$ で $\operatorname{ord}_v(x)=0$ であることと同値である。
$0\to\mathcal{O}_F^\times\to\mathcal{O}_S^\times\to\bigoplus_{v\in S,\,v\nmid\infty}\mathbb{Z}$ は完全で、$\mathbb{Q}_p$ は $\mathbb{Z}$ 上平坦なので、$\operatorname{ord}_v$ の共通の核は $\mathcal{O}_F^\times\otimes\mathbb{Q}_p$ である。階数は Dirichletの単数定理 による。
$\mathbb{Q}_p$ の場合。$v\mid p$ では $H^0(F_v,\mathbb{Q}_p)=\mathbb{Q}_p$、$t_{\mathbb{Q}_p}=0$ なので (1) から $\dim H^1_f(F_v,\mathbb{Q}_p)=1$ である。不分岐な準同型 $c\colon G_{F_v}\to\mathbb{Q}_p$ は $H^1_f$ に入る:$\sigma$ を $G_{F_v}$ の不分岐商の Frobenius、$a:=c(\sigma)$ とする。$B_{\mathrm{cris}}$ は $W(\bar{\mathbb{F}}_p)[1/p]$ を含み、$\sigma-1$ はこの上で全射なので(Lang の定理)$\sigma x-x=a$ となる $x$ があり、$c$ は $g\mapsto gx-x$ となって $B_{\mathrm{cris}}$ の中でコボウンダリである。不分岐な類の空間も $1$ 次元なので、$H^1_f(F_v,\mathbb{Q}_p)$ は不分岐な類の全体である。
よって $x\in H^1_f(F,\mathbb{Q}_p)$ は連続準同型 $G_F\to\mathbb{Q}_p$ で、すべての有限素点で不分岐である。$\mathbb{Q}_p$ は捩れをもたないので実素点の複素共役の像も $0$ である。したがって $x$ は $F$ の最大不分岐アーベル拡大の Galois 群、すなわち有限の イデアル類群 を経由し、捩れのない群への準同型なので $0$ である。$\square$
楕円曲線では $H^1_f$ が Mordell–Weil 群と Tate–Shafarevich群 から決まる。$E$ を $\mathbb{Q}$ 上の 楕円曲線、$T_pE$ を Tate加群、$V_pE:=T_pE\otimes\mathbb{Q}_p$ とし、$V_pШ(E/\mathbb{Q}):=T_pШ(E/\mathbb{Q})\otimes\mathbb{Q}_p$ とおく。
Kummer 写像は完全列
$$
0\to E(\mathbb{Q})\otimes_{\mathbb{Z}}\mathbb{Q}_p\to H^1_f(\mathbb{Q},V_pE)\to V_pШ(E/\mathbb{Q})\to0
$$
を与える。とくに $\dim H^1_f(\mathbb{Q},V_pE)=\operatorname{rank}E(\mathbb{Q})+\operatorname{corank}Ш(E/\mathbb{Q})[p^\infty]$ である。
要点:有限係数の完全列(Selmer群 の定理「Selmer 群と Tate–Shafarevich 群の完全列」)の逆極限をとる。入力として、すべての素数 $\ell$ で $H^1_f(\mathbb{Q}_\ell,V_pE)$ が $\widehat{E(\mathbb{Q}_\ell)}\otimes\mathbb{Q}_p$ の Kummer 像に等しいこと(Ven05 Proposition 3.9 (b)、(3.20)、p. 12。$\widehat{\ }$ は $p$ 進完備化)を引用する。この事実はこの記事では証明しない。
$0\to E(\mathbb{Q})/p^n\to\mathrm{Sel}^{(p^n)}(E/\mathbb{Q})\to Ш(E/\mathbb{Q})[p^n]\to0$ で、推移写像を $E[p^{n+1}]\xrightarrow{p}E[p^n]$ から定まるものとする。$\mathrm{Sel}^{(p^n)}$ は有限群なので逆極限は完全で、$0\to E(\mathbb{Q})\otimes\mathbb{Z}_p\to\varprojlim_n\mathrm{Sel}^{(p^n)}\to T_pШ\to0$ を得る。$\mathbb{Q}_p$ を掛けた真ん中の項を $X$ とする。$S$ を $p$ と悪い素数と $\infty$ の集合とすると、$X\subset H^1(\mathbb{Z}[1/S],V_pE)$ である。
$X\subset H^1_f$:$(x_n)\in\varprojlim\mathrm{Sel}^{(p^n)}$ の局所成分は $\varprojlim E(\mathbb{Q}_\ell)/p^n=\widehat{E(\mathbb{Q}_\ell)}$ の像に入るので、引用した事実から $H^1_f(\mathbb{Q}_\ell,V_pE)$ に入る。
$H^1_f\subset X$:$x\in H^1_f(\mathbb{Q},V_pE)$ とする。$0$ でない整数を掛けて $x$ を $H^1(\mathbb{Z}[1/S],T_pE)$ の元の像とする。$S$ の各素点 $\ell$ で $\mathrm{res}_\ell(x)$ は $\widehat{E(\mathbb{Q}_\ell)}$ の像に捩れを除いて入り、$H^1(\mathbb{Q}_\ell,T_pE)$ の捩れは有限で、$S$ は有限集合だから、さらに $0$ でない整数を掛けて、すべての $\ell\in S$ で $\mathrm{res}_\ell(x)$ が $\widehat{E(\mathbb{Q}_\ell)}$ の像に入るようにできる。$\ell\notin S$ では $E$ は良い還元をもち $\ell\ne p$ なので、$E(\mathbb{Q}_\ell)$ の Kummer 像は不分岐な類の全体である。よって $x$ の法 $p^n$ の像は $\mathrm{Sel}^{(p^n)}$ に入り、$x\in X$ である。$\square$
$K$ を代数体、$M$ を $K$ 上の Chow モチーフ(係数は簡単のため $\mathbb{Q}$)とする。予想は次のデータで述べられる(Kin03 pp. 180–182)。
$H^0(K,M)$ と $H^1_f(K,M)$ は有限次元であり、
$$
H^1_f(K,M)\otimes\mathbb{Q}_p\cong H^1_f(K,M_p),\qquad H^0(K,M)\otimes\mathbb{Q}_p\cong H^0(K,M_p)
$$
が成り立つ(Kin03 Conjecture 1.1.1。第 2 の同型は Tate 予想である)。
$L(M,s)$ は $s=0$ の近傍で有理型に延び、
$$
\operatorname{ord}_{s=0}L(M,s)=\dim H^1_f(K,M^\vee(1))-\dim H^0(K,M^\vee(1))
$$
が成り立つ(Kin03 Conjecture 1.2.3、Ven05 Conjecture 3.2)。conj-bk-realization のもとで、右辺は $V=M_p$ の $H^1_f(K,V^*(1))$ と $H^0(K,V^*(1))$ の次元の差である。
$L_f(M):=\det H^0(K,M)\otimes\det{}^{-1}H^1_f(K,M)$ とおき、Fontaine–Perrin-Riou の 基本直線 を
$$
\Delta_f(M):=L_f(M)\otimes L_f(M^\vee(1))\otimes\det{}^{-1}(M_B^+)\otimes\det(\tan_M)
$$
と定める(Kin03 Definition 1.2.1)。これは $1$ 次元の $\mathbb{Q}$ ベクトル空間である。次の完全列の予想(Kin03 Conjecture 1.1.2)を仮定する。
$$
0\to H^0(K,M)_{\mathbb{R}}\to\ker\alpha_M\to H^1_f(K,M^\vee(1))^\vee_{\mathbb{R}}\to H^1_f(K,M)_{\mathbb{R}}\to\operatorname{coker}\alpha_M\to H^0(K,M^\vee(1))^\vee_{\mathbb{R}}\to0
$$
写像は Beilinson のレギュレーターなどで与えられる(Kin03 p. 182)。この列と $0\to\ker\alpha_M\to M_B^+\otimes\mathbb{R}\to\tan_M\otimes\mathbb{R}\to\operatorname{coker}\alpha_M\to0$ の行列式から同型 $\iota_\infty\colon\Delta_f(M)\otimes\mathbb{R}\cong\mathbb{R}$ が定まる。
一方 $p$ 進の側では、conj-bk-realization のもとで同型 $\Delta_f(M)\otimes\mathbb{Q}_p\cong\det R\Gamma_c(\mathcal{O}_S,M_p)$ が得られる。ここで $R\Gamma_c$ はコンパクト台の Galois コホモロジーで、安定な格子 $T_p\subset M_p$ の $\det_{\mathbb{Z}_p}R\Gamma_c(\mathcal{O}_S,T_p)$ は $\det R\Gamma_c(\mathcal{O}_S,M_p)$ の格子を与え、$T_p$ の取り方によらない。その生成元を $1$ に送ることで $\iota_p\colon\Delta_f(M)\otimes\mathbb{Q}_p\cong\mathbb{Q}_p$ が定まる(Kin03 pp. 183–184)。$\iota_p$ は単数倍を除いて定まる。
$L(M,0)^*:=\lim_{s\to0}s^{-d_M}L(M,s)$、$d_M:=\operatorname{ord}_{s=0}L(M,s)$ を最初の係数とする。
上の仮定のもとで、次が成り立つ(Kin03 Conjecture 1.2.4)。
1 は「$L(M,0)^*$ が周期とレギュレーターを除いて有理数である」ことを述べ、2 はその有理数を $p$ ごとに Galois コホモロジーの格子で測る。したがって $\mathbb{Q}^\times/\{\pm1\}$ の元として値が決まる。元の定式化は玉河測度を用いたもので、行列式を用いたこの形は同値な言い換えである(Ven05 p. 9)。
$M$ が重さ $w$ の純なモチーフなら、完全列は次のように短くなる(Kin03 pp. 184–185)。
| 重さ | $s=0$ での零点の位数 | 主な内容 |
|---|---|---|
| $w\le-3$ | $0$ | レギュレーターが同型 $H^1_f(K,M)_{\mathbb{R}}\cong\operatorname{coker}\alpha_M$ |
| $w=-2$ | $-\dim H^0(K,M^\vee(1))$ | 余核に $H^0(K,M^\vee(1))^\vee$ の分が加わる(極が現れる) |
| $w=-1$ | $\dim H^1_f(K,M^\vee(1))$ | $\alpha_M$ は同型で、高さの対が完全(Birch–Swinnerton-Dyer 型) |
| $w=0$ | $\dim H^1_f(K,M^\vee(1))$ | 核に $H^0(K,M)$ の分が加わる($H^0(K,M^\vee(1))=0$) |
| $w\ge1$ | $\dim\ker\alpha_M=\dim H^1_f(K,M^\vee(1))$ | 双対側のレギュレーターが同型 |
$w=-1$ の行の位数は conj-bk-rank で $H^0(K,M^\vee(1))$ が重さの理由で $0$ になることによる(Kin03 Lemma 1.3.2)。
また、$L$ 関数の関数等式に対応して、$M$ についての予想は $M^\vee(1)$ についての予想を導くと予想されている(Kin03 Conjecture 1.3.4)。
$F$ を代数体とする。$M=\mathbb{Q}(0)$ を $F$ 上のモチーフとすると $L(M,s)=\zeta_F(s)$ で、$M^\vee(1)=\mathbb{Q}(1)$ である。thm-bk-units と $H^0(F,\mathbb{Q}_p(1))=0$ から、conj-bk-rank の右辺は $r_1+r_2-1$ である。これは $\zeta_F$ の $s=0$ での零点の位数に一致する(Dedekindゼータ関数 の関数等式)。
$M=\mathbb{Q}(1)$ なら $L(M,s)=\zeta_F(s+1)$、$M^\vee(1)=\mathbb{Q}(0)$ である。thm-bk-units から $H^1_f(F,\mathbb{Q}_p)=0$、$H^0(F,\mathbb{Q}_p)=\mathbb{Q}_p$ なので右辺は $-1$ で、$\zeta_F$ の $s=1$ の 1 位の極に一致する。
したがって conj-bk-rank の Galois 側の等式は、この 2 つの $M$ については定理である。
最初の係数も計算できる。$M=\mathbb{Q}(0)$ では $\zeta_F(s)$ の $s=0$ での最初の係数は $-hR/w$ である($h$ は類数、$R$ は単数基準、$w$ は 1 の冪根の個数。Ven05 Example 3.8、解析的類数公式)。$F=\mathbb{Q}$ では $\zeta(0)=-1/2$ であり、$h=R=1$、$w=2$ と合う。主予想はこの形の 解析的類数公式 の言い換えであり、$M=\mathbb{Q}(0),\mathbb{Q}(1)$ について成り立つ(Kin03 Proposition 2.1.4 と直後の記述。完全な証明は少なくとも $p\ne2$ で書かれている)。この記事では証明しない。
$E/\mathbb{Q}$ について $M=h^1(E)(1)$ とする。$L(M,s)=L(E,s+1)$ で(Ven05 Example 3.1 B)、Weil対 により $V^*(1)\cong V=V_pE$ である。$E(\mathbb{Q})$ の捩れは有限なので $H^0(\mathbb{Q},V)=0$ である。よって conj-bk-rank の Galois 側の等式は、prop-bk-elliptic により
$$
\operatorname{ord}_{s=1}L(E,s)=\operatorname{rank}E(\mathbb{Q})+\operatorname{corank}Ш(E/\mathbb{Q})[p^\infty]
$$
と書ける。$Ш(E/\mathbb{Q})$ が有限なら、これは Birch–Swinnerton-Dyer予想 の階数の主張である。conj-bk-main は最初の係数について、$Ш(E/\mathbb{Q})$ の有限性のもとで Birch–Swinnerton-Dyer の形
$$
\frac{L(M,0)^*}{\Omega\cdot R}\sim\frac{\lvert Ш(E/\mathbb{Q})\rvert}{\lvert E(\mathbb{Q})_{\mathrm{tors}}\rvert^2}\prod_\ell c_\ell\quad(\mathbb{Z}_p^\times\text{ を除いて、}p\ne2)
$$
と同値である(Ven05 (3.35)、p. 15。$\Omega$ は周期、$R$ は高さの対の行列式、$c_\ell$ は局所の因子)。この記事では証明しない。
$L(E,1)\ne0$ のとき $E(\mathbb{Q})$ と $Ш(E/\mathbb{Q})$ は有限である(加藤のEuler系。モジュラー性定理 のもとで Kat04 Corollary 14.3 の $A=E$、自明な指標の場合にあたる)。したがって $H^1_f(\mathbb{Q},V_pE)=0$ となり、この場合の位数の等式は両辺 $0$ で成り立つ。
次の表は文献の時点で知られている場合である。$p$ の条件は主予想の 2 についてのものである。
| モチーフ | 結果 | 文献 |
|---|---|---|
| Dirichlet モチーフ $h(\chi)(r)$、$r\in\mathbb{Z}$ | conj-bk-main が $p\ne2$ で成り立つ(Burns–Greither、Huber–Kings) | Kin03 Theorem 2.1.3(2003 年の時点) |
| $h^0(F)$、$h^0(F)(1)$ | 解析的類数公式 の言い換え | Kin03 Proposition 2.1.4 |
| 総実体 $F$、$h^0(F)(-r)$、$r\ge1$ 奇数 | $p\ne2$ で成り立つ(Wiles の主予想の帰結) | Kin03 Theorem 2.1.5 |
| $\mathbb{Q}$ 上の虚数乗法をもつ楕円曲線の Hecke 指標のモチーフの $0$ でない臨界値 | 十分大きい良い通常素数 $p$ で成り立つ(Goldstein–Schappacher、Guo、Harrison) | Kin03 Theorem 2.2.1 |
| 新形式の随伴モチーフ | 例外の素点の集合 $T_f$ の外で成り立つ(Diamond–Flach–Guo) | Kin03 Theorem 2.3.1 |
| 重さ $k\ge2$ の固有尖点形式 | $r\ne k/2$、または中心の値が $0$ でないとき Selmer 群が有限。主予想の片側の不等式 | Kat04 Theorem 14.2、14.5 |
重さ $-1$ の場合は Birch–Swinnerton-Dyer 予想にあたり、個別の結果が多い(Kin03 p. 186 は扱いを省いている。Birch–Swinnerton-Dyer予想 の表を見よ)。
証明の鍵は 2 つの道具である。1 つは岩澤理論と主予想で、$L$ 値を Selmer 群の位数に結びつける(岩澤主予想)。もう 1 つはモチーフ的な元(多重対数の実現、加藤のEuler系 の Beilinson 元)で、$L$ 値を Galois コホモロジーの元に結びつける(Kin03 p. 180)。
次の表は、conj-bk-rank の形から 1 つの条件を外すと等式が破れることを示す。
| 外す条件 | 式 | 例 | 破れ方 |
|---|---|---|---|
| 局所条件($H^1_f$ を $H^1(\mathcal{O}_S,\cdot)$ に替える) | $\operatorname{ord}_{s=0}\zeta_F=\dim H^1(\mathcal{O}_S,\mathbb{Q}_p(1))$ | $F=\mathbb{Q}$、$S=\{p,q,\infty\}$、$p\ne q$ | 左辺 $0$、右辺 $2$ |
| $v\mid p$ のクリスタリン条件(不分岐に替える) | $\operatorname{ord}_{s=0}\zeta_F=\dim$($v\mid p$ で不分岐とした群) | $F=\mathbb{Q}(\sqrt2)$ | 左辺 $1$、右辺 $0$ |
| $H^0$ の項($H^1_f$ の次元だけにする) | $\operatorname{ord}_{s=0}L(\mathbb{Q}(1),s)=\dim H^1_f(\mathbb{Q},\mathbb{Q}_p)$ | $F=\mathbb{Q}$ | 左辺 $-1$、右辺 $0$ |
1 行目:thm-bk-units の証明から $H^1(\mathcal{O}_S,\mathbb{Q}_p(1))\cong\mathcal{O}_S^\times\otimes\mathbb{Q}_p$ で、$\mathbb{Z}[1/pq]^\times$ の階数は $2$ である。一方 $\zeta(0)=-1/2\ne0$ である。
2 行目:$\varepsilon=1+\sqrt2$ は $\mathcal{O}_F^\times$ の捩れでない元で、$\dim\mathcal{O}_F^\times\otimes\mathbb{Q}_p=1$ である。$v\mid p$ で $\mathbb{Q}_p(1)$ の惰性群の不変部分は $0$ なので、$H^1(F_v^{\mathrm{ur}}/F_v,\cdot)=0$ であり、不分岐な類は $0$ だけである。$\varepsilon\otimes1$ の局所成分は、$\varepsilon$ の $\widehat{\mathcal{O}_{F_v}^\times}$ での像が捩れでないので($p$ 進対数の核は 1 の冪根である)$0$ でない。$v\mid p$ で不分岐とした群の元は、$v\mid p$ で局所成分が $0$ なので $\operatorname{ord}_v=0$ をみたし、$\mathcal{O}_F^\times\otimes\mathbb{Q}_p$ に入る。その中で局所成分が $0$ の元は $0$ だけなので、この群は $0$ である。
3 行目:$L(\mathbb{Q}(1),s)=\zeta(s+1)$ は $s=0$ に 1 位の極をもち、thm-bk-units から $H^1_f(\mathbb{Q},\mathbb{Q}_p)=0$ である。$H^0(\mathbb{Q},\mathbb{Q}_p)=\mathbb{Q}_p$ の項が差を埋める。
また、conj-bk-realization は conj-bk-rank と別の予想である。prop-bk-elliptic の完全列で $V_pШ\ne0$ なら $H^1_f(\mathbb{Q},V_pE)$ は $E(\mathbb{Q})\otimes\mathbb{Q}_p$ より真に大きくなる。$Ш(E/\mathbb{Q})$ の有限性は一般には予想なので、この可能性は証明の上では排除されていない。
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