陰関数の微分

同義語:陰関数の微分法implicit differentiation

概要

陰関数の微分(implicit differentiation)とは、$x^2+y^2=25$ のように式 $F(x,y)=0$ で与えられた曲線について、$y$ を $x$ の微分可能な関数とみて両辺を $x$ で微分し、接線の傾き $y'$ を求める方法である。積の微分と連鎖律から $F_x+F_y\,y'=0$ が成り立ち、$F_y\ne0$ の点では $y'=-\frac{F_x}{F_y}$ となる($F_x$、$F_y$ は偏導関数)。楕円の接線 $\frac{x_0x}{a^2}+\frac{y_0y}{b^2}=1$ はこの方法で求まる。微分可能な陰関数があることは別に確かめる必要があり、$F_y=0$ の点では $y$ が $x$ の関数でなくなることがある。大学では陰関数定理として述べられ、$(F_x,F_y)$ は曲線の法線ベクトルになる。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 連鎖律(高校数学), 逆関数の微分, 微分係数と導関数の定義(高校数学)

高校での出発点:$y$ を $x$ の関数とみて両辺を微分する

円 $x^2+y^2=25$ のように、$x$ と $y$ の関係が $y=\cdots$ の形ではなく、式 $F(x,y)=0$ の形で与えられることがある。数学 III では、このような曲線の接線の傾き $y'=\dfrac{dy}{dx}$ を、「$y$ を $x$ の関数とみて、両辺を $x$ で微分する」方法で求める。これを陰関数の微分という。まず、$y$ について解ける例で、2 通りの計算を比べる。

例 1:円の接線の傾き

円 $x^2+y^2=25$ の上の点 $(3,\,4)$ での接線の傾きを求める。
$y$ について解いてから微分する:点 $(3,\,4)$ は上半分 $y>0$ にあるので、$y=\sqrt{25-x^2}$ である。連鎖律(高校数学) により
$$ y'=\frac{1}{2\sqrt{25-x^2}}\cdot(-2x)=-\frac{x}{\sqrt{25-x^2}} $$
で、$x=3$ では $-\dfrac3{\sqrt{16}}=-\dfrac34$ である。
両辺を $x$ で微分する:$y$ を $x$ の関数とみると、$y^2$ は「$u^2$ と $u=y$ の合成」なので、連鎖律により $(y^2)'=2y\,y'$ である。よって $x^2+y^2=25$ の両辺を $x$ で微分して
$$ 2x+2y\,y'=0,\qquad y'=-\frac xy $$
である。$(x,\,y)=(3,\,4)$ を代入すると $y'=-\dfrac34$ で、一致する。
下半分の点 $(3,\,-4)$ では、$y=-\sqrt{25-x^2}$ を微分すると $y'=\dfrac{x}{\sqrt{25-x^2}}=\dfrac34$ である。一方、式 $y'=-\dfrac xy$ に $(3,\,-4)$ を代入しても $-\dfrac3{-4}=\dfrac34$ となる。同じ式で、上半分と下半分の両方の傾きが求まる(図1)。

円 !FORMULA[39][-1620218610][0] の点 !FORMULA[40][-1215978158][0] と !FORMULA[41][959184991][0] での接線(傾き !FORMULA[42][-1693430558][0] と !FORMULA[43][173309309][0])は、同じ式 !FORMULA[44][-59389525][0] で求まる。点 !FORMULA[45][-1214134960][0] では接線が垂直で、その近くの !FORMULA[46][38352][0](たとえば !FORMULA[47][1083822097][0])に対して !FORMULA[48][38383][0] が 2 つあり、!FORMULA[49][38383][0] は !FORMULA[50][38352][0] の関数として 1 つに決まらないことを見る図。 円 $x^2+y^2=25$ の点 $(3,4)$ と $(3,-4)$ での接線(傾き $-\frac34$ と $\frac34$)は、同じ式 $y'=-\frac xy$ で求まる。点 $(5,0)$ では接線が垂直で、その近くの $x$(たとえば $x=4.6$)に対して $y$ が 2 つあり、$y$ は $x$ の関数として 1 つに決まらないことを見る図。

例 2:双曲線 $xy=1$

$xy=1$ の両辺を $x$ で微分する。左辺は $x$ と $y$ の積なので、積の微分により $(xy)'=1\cdot y+x\,y'$ である。右辺は定数なので $0$ である。よって
$$ y+x\,y'=0,\qquad y'=-\frac yx $$
である。
$y$ について解くと $y=\dfrac1x$ で、$y'=-\dfrac1{x^2}$ である。$y=\dfrac1x$ を $-\dfrac yx$ に代入しても $-\dfrac1{x^2}$ となり、一致する。$x=2$ では、$y=\dfrac12$ で、どちらも $y'=-\dfrac14$ である。

例 1 と例 2 の計算では、次のことが気になる。

  1. 「$y$ を $x$ の関数とみる」とは、正確にはどういうことか。両辺を微分してよいのはなぜか。→ def-imp-implicit、prop-imp-differentiate
  2. 答え $y'=-\frac xy$ に $y$ が残るのは、どう読めばよいか。→ ex-imp-circle、ex-imp-two-functions
  3. 分母が $0$ になる点(円の $(5,\,0)$)では、何が起きているのか。→ ex-imp-vertical、rem-imp-ift
  4. 点が 1 つもない式を微分すると、どうなるか。→ ex-imp-empty
  5. 分母も分子も $0$ になる点では、何が起きているのか。→ ex-imp-folium、ex-imp-folium-origin
  6. 大学数学では、この計算はどう見えるのか。→ rem-imp-gradient、rem-imp-ift
    高校の計算この記事での見方ボックス
    $y$ を $x$ の関数とみる$F(x,\varphi(x))=0$ を満たす関数 $\varphi$(陰関数)def-imp-implicit
    両辺を $x$ で微分する積の微分と連鎖律で $F_x+F_y\,y'=0$prop-imp-differentiate
    $y'=-\dfrac{F_x}{F_y}$$F_y\ne0$ の点で使えるprop-imp-differentiate
    分母が $0$ の点$y$ が $x$ の関数でなくなることがある(接線が垂直など)ex-imp-vertical
    楕円の接線 $\frac{x_0x}{a^2}+\frac{y_0y}{b^2}=1$$(F_x,F_y)$ は曲線の法線ベクトルex-imp-ellipse-tangent、rem-imp-gradient
    分母も分子も $0$ の点曲線の特異点ex-imp-folium-origin

陰関数

式で定まる関数

$F(x,y)$ を $x$ と $y$ の式とする。区間 $I$ で定義された関数 $\varphi$ が、$I$ のすべての $x$ で
$$ F(x,\varphi(x))=0 $$
を満たすとき、$\varphi$ を $F(x,y)=0$ で定まる陰関数という。このとき、$y=\varphi(x)$ のグラフは、曲線 $F(x,y)=0$ の一部である。
これに対し、$y=f(x)$ のように $y$ を $x$ の式で直接書いた関数を陽関数ということがある。

「$y$ を $x$ の関数とみる」とは、曲線 $F(x,y)=0$ の一部を、陰関数 $\varphi$ のグラフ $y=\varphi(x)$ とみることである。1 つの式から、陰関数がいくつも出てくることがある。

1 つの式から出る陰関数

$F(x,y)=x^2+y^2-25$ とし、区間 $-5< x<5$ で考える。

  1. $\varphi_1(x)=\sqrt{25-x^2}$(上半分)と $\varphi_2(x)=-\sqrt{25-x^2}$(下半分)は、どちらも $x^2+\varphi(x)^2=25$ を満たすので、陰関数である。
  2. $x<0$ では $\varphi_1$、$x\ge0$ では $\varphi_2$ を使う関数 $\varphi_3$ も、$x^2+\varphi_3(x)^2=25$ を満たすので、定義の上では陰関数である。しかし $\varphi_3$ は $x=0$ で値が $5$ から $-5$ へ跳び、連続でも微分可能でもない。
  3. 連続であることを求めても、1 の $\varphi_1$ と $\varphi_2$ の 2 つが残るので、陰関数は 1 つに決まらない。そこで、曲線上の点を 1 つ指定する。たとえば点 $(3,\,4)$ を通る、$-5< x<5$ で連続な陰関数 $\varphi$ を考える。$\varphi(x)^2=25-x^2>0$ なので $\varphi(x)$ はどこでも $0$ にならず、連続なので(中間値の定理 により)符号が変わらない。$\varphi(3)=4>0$ なので $\varphi(x)>0$、つまり $\varphi=\varphi_1$ に決まる。$\varphi_3$ も点 $(-3,\,4)$ と点 $(3,\,-4)$ を通るが、連続でないので、この議論からは除かれる。連続という仮定を外すと、点 $(-3,\,4)$ を通る陰関数は $\varphi_1$ も $\varphi_3$ もあり($x\ne-3$ の各点で符号を自由に選べるので、ほかにも無数にある)、1 つに決まらない。
    陰関数の微分で考えるのは、1 の $\varphi_1$、$\varphi_2$ のような微分可能な陰関数である。ex-imp-circle の式 $y'=-\frac xy$ は、点 $(x,\,y)$ を通る微分可能な陰関数の導関数を表す。$y$ が式に残るのは、同じ $x$ に対して曲線上の点が 2 つ($y>0$ と $y<0$)あり、どちらの陰関数の傾きかを $y$ の値で区別するためである。

両辺を $x$ で微分する

偏導関数

「両辺を $x$ で微分する」計算を整理するために、2 変数の式の微分を 1 つ用意する。

多項式の偏導関数

$F(x,y)$ を $x$ と $y$ の多項式とする。$y$ を定数とみて $F$ を $x$ で微分したものを $F_x$、$x$ を定数とみて $F$ を $y$ で微分したものを $F_y$ と書き、$F$ の偏導関数という。

偏導関数を計算する
  1. $F=x^2+y^2-25$:$F_x=2x$、$F_y=2y$ である。
  2. $F=xy-1$:$F_x=y$、$F_y=x$ である。
  3. $F=x^3+y^3-3xy$:$F_x=3x^2-3y$、$F_y=3y^2-3x$ である。点 $(1,\,2)$ では $F_x=3-6=-3$、$F_y=12-3=9$ である。

陰関数の導関数

前提とする公式
  1. 積の微分 $(fg)'=f'g+fg'$(本記事では証明しない。積の微分とLeibnizの公式)と、定数倍・和の微分(微分係数と導関数の定義(高校数学) で示す)。
  2. $(x^n)'=nx^{n-1}$($n$ は正の整数。微分係数と導関数の定義(高校数学) で示す)。
  3. 連鎖律(連鎖律(高校数学) で示す)。とくに、$\varphi$ が微分可能なら $\bigl(\varphi(x)^n\bigr)'=n\varphi(x)^{n-1}\varphi'(x)$ である(外側 $u^n$、中身 $u=\varphi(x)$)。
陰関数の導関数

$F(x,y)$ を $x$ と $y$ の多項式とする。区間 $I$ で微分可能な関数 $\varphi$ が、$I$ のすべての $x$ で $F(x,\varphi(x))=0$ を満たすならば、$I$ のすべての $x$ で
$$ F_x(x,\varphi(x))+F_y(x,\varphi(x))\,\varphi'(x)=0 $$
が成り立つ。とくに、$F_y(x,\varphi(x))\ne0$ となる $x$ では
$$ \varphi'(x)=-\frac{F_x(x,\varphi(x))}{F_y(x,\varphi(x))} $$
である。

項ごとに積の微分と連鎖律を使う

方針:多項式 $F$ を $x^my^n$ の形の項の和に分け、$y$ に $\varphi(x)$ を代入した各項を $x$ で微分する。項の微分は「$x$ の部分の微分」と「$y$ の部分の微分」の 2 つに分かれ、前者を集めると $F_x$、後者を集めると $F_y\,\varphi'$ になる。
段 1(項に分ける)。$F(x,y)=\displaystyle\sum c_{mn}\,x^my^n$($c_{mn}$ は定数、$m,n$ は $0$ 以上の整数、和は有限個)と書く。偏導関数の定義から
$$ F_x(x,y)=\sum c_{mn}\,m\,x^{m-1}y^n,\qquad F_y(x,y)=\sum c_{mn}\,n\,x^my^{n-1} $$
である($m=0$ の項は $F_x$ に、$n=0$ の項は $F_y$ に現れない。係数 $m$ や $n$ が $0$ になるので、上の式でもその項は $0$ である)。
段 2(1 つの項を微分する)。$x^m\varphi(x)^n$ を積の微分で微分すると
$$ \bigl(x^m\varphi(x)^n\bigr)'=(x^m)'\,\varphi(x)^n+x^m\,\bigl(\varphi(x)^n\bigr)' $$
である。rem-imp-premises の 2 と 3 から、$(x^m)'=mx^{m-1}$、$\bigl(\varphi(x)^n\bigr)'=n\varphi(x)^{n-1}\varphi'(x)$ なので
$$ \bigl(x^m\varphi(x)^n\bigr)'=m\,x^{m-1}\varphi(x)^n+n\,x^m\varphi(x)^{n-1}\,\varphi'(x) $$
である($m=0$ なら $x^0=1$ の導関数は $0$、$n=0$ なら $\varphi(x)^0=1$ の導関数は $0$ で、この式でも係数 $m$ や $n$ が $0$ になるので同じである)。
段 3(和をとる)。段 2 に $c_{mn}$ を掛けて足すと、定数倍と和の微分により
$$ \bigl(F(x,\varphi(x))\bigr)'=\sum c_{mn}\,m\,x^{m-1}\varphi(x)^n+\Bigl(\sum c_{mn}\,n\,x^m\varphi(x)^{n-1}\Bigr)\varphi'(x) $$
である。段 1 の式と比べると、右辺は $F_x(x,\varphi(x))+F_y(x,\varphi(x))\,\varphi'(x)$ である。
段 4(左辺は 0)。仮定から、$I$ で $F(x,\varphi(x))=0$、つまり $F(x,\varphi(x))$ は定数関数 $0$ なので、その導関数は $0$ である。段 3 と合わせて、前半の等式が得られる。
段 5(割る)。$F_y(x,\varphi(x))\ne0$ なら、前半の等式を $\varphi'(x)$ について解いて、後半の式が得られる。$\square$

命題は多項式について述べたが、証明で使ったのは積の微分と連鎖律だけである。$\sin y$ や $e^{xy}$ のような式を含む $F$ でも、同じように項ごとに微分すれば、$F_x+F_y\,y'=0$ の形の式が得られる。
命題の仮定は「微分可能な陰関数 $\varphi$ がある」ことである。命題は、$\varphi$ があることを示してはいない。$\varphi$ があるかどうかは、ex-imp-empty、ex-imp-vertical、rem-imp-ift で考える。

命題を使う
  1. 円 $x^2+y^2=25$:$F_x=2x$、$F_y=2y$ なので、$y\ne0$ の点で $y'=-\dfrac{2x}{2y}=-\dfrac xy$ である。ex-imp-circle と同じ式である。
  2. 双曲線 $xy=1$:$F_x=y$、$F_y=x$ なので $y'=-\dfrac yx$ で、ex-imp-hyperbola と同じである。
  3. 逆関数:関数 $f$ の逆関数 $y=g(x)$ は、$x=f(y)$、つまり $F(x,y)=x-f(y)=0$ で定まる陰関数である。$F_x=1$、$F_y=-f'(y)$ なので
    $$ y'=-\frac{1}{-f'(y)}=\frac1{f'(y)} $$
    で、逆関数の微分 の公式 $g'(x)=\dfrac1{f'(g(x))}$ と同じである。たとえば $x=y^3+y$ で定まる $y$ は、点 $(2,\,1)$ で $y'=\dfrac1{3\cdot1^2+1}=\dfrac14$ である。ただし、ここでも陰関数 $g$ が微分可能であることは仮定している。それを示したのが 逆関数の微分 の定理である。

例:楕円の接線と第 2 次導関数

楕円の接線の方程式

楕円 $\dfrac{x^2}{a^2}+\dfrac{y^2}{b^2}=1$($a>0$、$b>0$)の上の点 $(x_0,\,y_0)$ での接線を求める。
$y_0\ne0$ の場合。両辺を $x$ で微分すると $\dfrac{2x}{a^2}+\dfrac{2y\,y'}{b^2}=0$ なので、$y'=-\dfrac{b^2x}{a^2y}$ である。点 $(x_0,\,y_0)$ での接線は
$$ y-y_0=-\frac{b^2x_0}{a^2y_0}(x-x_0) $$
である。両辺に $\dfrac{y_0}{b^2}$ を掛けて移項すると
$$ \frac{x_0(x-x_0)}{a^2}+\frac{y_0(y-y_0)}{b^2}=0,\qquad \frac{x_0x}{a^2}+\frac{y_0y}{b^2}=\frac{x_0^2}{a^2}+\frac{y_0^2}{b^2}=1 $$
となる(最後の等号は、点 $(x_0,\,y_0)$ が楕円の上にあることによる)。
$y_0=0$ の場合。点は $(\pm a,\,0)$ で、$y'$ の式の分母が $0$ になる。そこで役割を入れ替え、$x$ を $y$ の関数とみて両辺を $y$ で微分すると、$\dfrac{2x}{a^2}\cdot\dfrac{dx}{dy}+\dfrac{2y}{b^2}=0$ で、点 $(\pm a,\,0)$ では $\dfrac{dx}{dy}=0$ である。$x$ が $y$ についての傾き $0$ で変わるので、接線は垂直な直線 $x=\pm a$ である。これは公式 $\dfrac{x_0x}{a^2}+\dfrac{y_0y}{b^2}=1$ に $(x_0,\,y_0)=(\pm a,\,0)$ を代入した $\pm\dfrac xa=1$ と一致する。
数値の例:楕円 $\dfrac{x^2}4+y^2=1$ の点 $\left(1,\,\dfrac{\sqrt3}2\right)$ では、傾きは $-\dfrac{1\cdot1}{4\cdot\frac{\sqrt3}2}=-\dfrac1{2\sqrt3}=-\dfrac{\sqrt3}6$ で、接線は $\dfrac x4+\dfrac{\sqrt3}2y=1$ である。$y=\sqrt{1-\frac{x^2}4}$ を直接微分しても、$x=1$ で $-\dfrac{\sqrt3}6$ になる。
$a=b=r$ とすると、円 $x^2+y^2=r^2$ の接線 $x_0x+y_0y=r^2$ になる。円の場合は 円と直線の位置関係 で、半径に垂直な直線として図形的に求めている。楕円の焦点と接線の関係(光の反射)は 2次曲線の接線と光学的性質 で扱う。

円の第 2 次導関数

円 $x^2+y^2=25$ の $y>0$ の部分で、$y'=-\dfrac xy$ をもう一度 $x$ で微分する。商の微分と、$y$ が $x$ の関数であることから
$$ y''=-\frac{1\cdot y-x\,y'}{y^2}=-\frac{y-x\left(-\frac xy\right)}{y^2}=-\frac{y^2+x^2}{y^3}=-\frac{25}{y^3} $$
である(最後に $x^2+y^2=25$ を使った)。$(3,\,4)$ では $y''=-\dfrac{25}{64}$ で、$y=\sqrt{25-x^2}$ を 2 回微分した値と一致する。
$y>0$ では $y''<0$ なので上半分は上に凸、$y<0$ では $y''>0$ なので下半分は下に凸である(接線・法線と曲線の凹凸)。

陰関数はいつあるか

prop-imp-differentiate は、微分可能な陰関数があることを仮定している。仮定を確かめずに計算だけを進めると、意味のない答えが出ることがある。

反例:点が 1 つもない式

$x^2+y^2+1=0$ の両辺を形式的に $x$ で微分すると、$2x+2y\,y'=0$ から $y'=-\dfrac xy$ となり、円 $x^2+y^2=25$ と同じ式が出る。
しかし、実数 $x$、$y$ について $x^2+y^2+1\ge1>0$ なので、$x^2+y^2+1=0$ を満たす点 $(x,\,y)$ は 1 つもない。陰関数は存在せず、$y'=-\frac xy$ は何の傾きでもない。
同じように、$x^2+y^2=0$ を満たす点は原点 $(0,\,0)$ だけである。1 点だけでは、区間で定義された陰関数はない。

分母が 0 になる点:円の (5, 0)

円 $x^2+y^2=25$ の点 $(5,\,0)$ では $F_y=2y=0$ で、$y'=-\frac xy$ の分母が $0$ になる。この点の近くの様子を調べる。

  1. $x$ が $5$ より少し小さいとき、たとえば $x=4.6$ では、$y^2=25-4.6^2=3.84$ で、$y=\pm1.9595\ldots$ の 2 つの値がある(図1)。
  2. $x>5$ では $y^2=25-x^2<0$ となり、$y$ の値は 1 つもない。
    したがって、$x=5$ を内部に含むどんな区間でも、$x^2+\varphi(x)^2=25$、$\varphi(5)=0$ を満たす関数 $\varphi$ は定義できない($x>5$ で値がないため)。点 $(5,\,0)$ の近くで、$y$ は $x$ の関数ではない。
    一方、$F_x=2x=10\ne0$ なので、役割を入れ替えると、$x$ は $y$ の関数 $x=\sqrt{25-y^2}$ として表せる。ex-imp-ellipse-tangent の $y_0=0$ の場合と同じく、$\dfrac{dx}{dy}=-\dfrac yx=0$ で、接線は垂直な直線 $x=5$ である。

例 1・ex-imp-vertical から分かるように、$F_y\ne0$ の点では $y$ を $x$ の関数とみて微分でき、$F_y=0$ の点では、そうできないことがある。大学では、このことを次の定理として述べる。

陰関数定理(証明しない)

$F(x,y)$ の偏導関数 $F_x$、$F_y$ が連続で、点 $(a,\,b)$ で $F(a,b)=0$、$F_y(a,b)\ne0$ とする。このとき、$a$ を含む開区間 $I$ と $b$ を含む開区間 $K$ があって、$I$ の各 $x$ に対して $F(x,y)=0$ を満たす $y\in K$ がただ 1 つある。その $y$ を $\varphi(x)$ とすると、$\varphi$ は $I$ で微分可能で、$\varphi'(x)=-\dfrac{F_x(x,\varphi(x))}{F_y(x,\varphi(x))}$ である(陰関数定理。Leb26b Theorem 8.5.6、p. 55。本記事では証明しない)。
高校数学で扱う円・楕円・双曲線では、$y$ について解いた式が書けるので、この定理を使わずに陰関数があることを確かめられる。この定理が役に立つのは、次の葉線のように、$y$ について解いた式が書けない(書けても複雑な)場合である。定理の条件 $F_y(a,b)\ne0$ は、逆関数の微分 の条件 $f'(a)\ne0$ にあたる(ex-imp-use-prop の 3 では $F_y=-f'(y)$)。

葉線:分母も分子も 0 になる点

$y$ について解けない曲線の例として、葉線(Descartes の葉線)
$$ x^3+y^3=3xy $$
を調べる。

葉線の接線

$F=x^3+y^3-3xy$ とすると、ex-imp-partial の 3 から $F_x=3x^2-3y$、$F_y=3y^2-3x$ である。prop-imp-differentiate により、$y^2\ne x$ の点では
$$ y'=-\frac{3x^2-3y}{3y^2-3x}=\frac{y-x^2}{y^2-x} $$
である。

  1. 点 $\left(\dfrac32,\,\dfrac32\right)$ は曲線の上にある($\dfrac{27}8+\dfrac{27}8=\dfrac{27}4=3\cdot\dfrac94$)。$y'=\dfrac{\frac32-\frac94}{\frac94-\frac32}=\dfrac{-\frac34}{\frac34}=-1$ で、接線は $y-\dfrac32=-\left(x-\dfrac32\right)$、つまり $x+y=3$ である。
  2. 水平な接線($y'=0$):分子 $y-x^2=0$ で分母が $0$ でない点を探す。$y=x^2$ を曲線の式に代入すると $x^3+x^6=3x^3$、つまり $x^3(x^3-2)=0$ で、$x=0$ または $x=\sqrt[3]{2}$ である。$x=0$ のときは $y=0$ で原点になり、分母 $y^2-x$ も $0$ になるので除く(原点は 4 で調べる)。$x=\sqrt[3]2$ のとき $y=\sqrt[3]4$ で、分母は $y^2-x=\sqrt[3]{16}-\sqrt[3]2=\sqrt[3]2\,(2-1)\ne0$ である。点 $(\sqrt[3]2,\,\sqrt[3]4)=(1.2599\ldots,\,1.5874\ldots)$ で接線は水平である。
  3. 垂直な接線:$x$ と $y$ を入れ替えても曲線の式は変わらないので、2 の点を直線 $y=x$ で折り返した点 $(\sqrt[3]4,\,\sqrt[3]2)$ で接線は垂直である。ここでは $F_y=0$、$F_x\ne0$ で、ex-imp-vertical と同じく $x$ を $y$ の関数とみれば $\dfrac{dx}{dy}=0$ となる。
  4. 原点 $(0,\,0)$ では $F_x=F_y=0$ で、$y'$ の式は $\dfrac00$ になる。これは次の例で調べる(図2)。

葉線 !FORMULA[439][1145043137][0](青)。点 !FORMULA[440][-722793155][0] での接線 !FORMULA[441][1069268620][0](赤の点線)、水平な接線をもつ点(緑)と垂直な接線をもつ点(橙)、漸近線 !FORMULA[442][-1212416475][0](灰色の破線)を示す。原点では曲線が自分自身と交わり、!FORMULA[443][1190002][0] の式の分母も分子も !FORMULA[444][36120][0] になることを見る図。 葉線 $x^3+y^3=3xy$(青)。点 $(\frac32,\frac32)$ での接線 $x+y=3$(赤の点線)、水平な接線をもつ点(緑)と垂直な接線をもつ点(橙)、漸近線 $x+y=-1$(灰色の破線)を示す。原点では曲線が自分自身と交わり、$y'$ の式の分母も分子も $0$ になることを見る図。

葉線の原点

原点の近くの様子を、原点を通る直線 $y=tx$ との交点で調べる(2次曲線の媒介変数表示 で円の点を作ったのと同じ方法である)。
段 1(交点を求める)。$y=tx$ を曲線の式に代入すると $x^3+t^3x^3=3tx^2$、つまり $x^2\bigl((1+t^3)x-3t\bigr)=0$ である。$x=0$ は原点で、もう 1 つの交点は、$t\ne-1$ のとき
$$ x=\frac{3t}{1+t^3},\qquad y=tx=\frac{3t^2}{1+t^3} $$
である。$t$ を動かすと、この点は葉線の上を動く。$t\to-1$ のときは分母 $1+t^3$ が $0$ に近づき、点は遠くへ行く。一方、$1+t^3=(1+t)(1-t+t^2)$ なので
$$ x+y=\frac{3t(1+t)}{1+t^3}=\frac{3t}{1-t+t^2}\to\frac{-3}{3}=-1\qquad(t\to-1) $$
である。つまり遠くへ行くにつれて、曲線は直線 $x+y=-1$ に近づく。この直線を葉線の漸近線という(図2の灰色の破線)。
段 2($t$ が $0$ に近いとき)。$t\to0$ のとき点は原点に近づき、$x\approx3t$、$y\approx3t^2$、つまり $y\approx\dfrac{x^2}3$ である。この部分は原点で $x$ 軸($y=0$)に接する。実際、$\dfrac{dx}{dt}=3$、$\dfrac{dy}{dt}=0$($t=0$)である。
段 3($|t|$ が大きいとき)。$|t|\to\infty$ のときも点は原点に近づき、$x\approx\dfrac3{t^2}$、$y\approx\dfrac3t$、つまり $x\approx\dfrac{y^2}3$ である。この部分は原点で $y$ 軸($x=0$)に接する。
段 4(まとめ)。葉線は原点を 2 回通り、そこで $x$ 軸に接する部分と $y$ 軸に接する部分が交わる。接線が 1 本に決まらないので、$y'$ の式が $\dfrac00$ になるのは自然である。原点の近くで $y$ は $x$ の関数でもない。たとえば $x=0.01$ のとき、$y^3-0.03y+0.000001=0$ の実数解は $y=0.0000333\ldots$、$0.17318\ldots$、$-0.17322\ldots$ の 3 つある(1 つ目は $y\approx\frac{x^2}3$ の部分、残りは $x\approx\frac{y^2}3$ の部分)。

例と反例

prop-imp-differentiate と、陰関数があるための条件 $F_y\ne0$ について、外すと何が崩れるかをまとめる。

外した仮定・条件崩れる主張ボックス
微分可能な陰関数がある$y'=-\frac{F_x}{F_y}$ が何かの傾きを表すex-imp-empty
$F_y\ne0$$y$ がその点の近くで $x$ の関数になるex-imp-vertical、ex-imp-folium-origin
$F_y\ne0$陰関数がその点で微分可能ex-imp-cube-root
陰関数が連続曲線上の点を 1 つ指定すると(例:$(3,\,4)$)、その点を通る陰関数が 1 つに決まるex-imp-two-functions の 3

ただし、条件 $F_y\ne0$ は「成り立てば陰関数があって微分可能」という十分条件であり、必要条件ではない(ex-imp-double-line)。

反例:陰関数はあるが微分できない

$F(x,y)=y^3-x$ とする。$F=0$ は $y=\sqrt[3]{x}$ と同じで、陰関数 $\varphi(x)=\sqrt[3]x$ は実数全体で定義された連続関数である。
$F_y=3y^2$ は原点で $0$ になる。原点で $\varphi$ は微分可能でない(逆関数の微分 の 3 乗の反例と同じ。差分商 $\frac{\sqrt[3]h}h$ は $h=0.001$ で $100$ になり、限りなく大きくなる)。$F_y=0$ の点では、陰関数があっても微分できないことがある。

反例:$F_y=0$ でも陰関数が微分可能

$F(x,y)=(y-x)^2$ とする。$F=0$ は直線 $y=x$ と同じで、陰関数 $\varphi(x)=x$ は微分可能で $\varphi'(x)=1$ である。
一方、$F_y=2(y-x)$、$F_x=-2(y-x)$ は直線 $y=x$ の上のすべての点で $0$ になり、$y'=-\frac{F_x}{F_y}$ は $\frac00$ で使えない。$F_y\ne0$ は、陰関数が微分可能であるための必要条件ではない。同じ直線を $F=y-x$ で表せば $F_y=1\ne0$ で、$y'=1$ と求まる。どの式で曲線を表すかによって、条件が満たされるかどうかが変わる。

大学数学で見る:偏導関数のベクトルは法線ベクトル

大学数学で見ると:法線ベクトルと接線

prop-imp-differentiate の等式 $F_x+F_y\,y'=0$ は、2 つのベクトル $(F_x,\,F_y)$ と $(1,\,y')$ の内積が $0$ であること
$$ (F_x,\,F_y)\cdot(1,\,y')=0 $$
と読める(ベクトルの内積(高校数学))。$(1,\,y')$ は接線の向きのベクトル($x$ が $1$ 進むと $y$ が $y'$ 進む)なので、ベクトル $(F_x,\,F_y)$ は接線に垂直、つまり曲線の法線ベクトルである。大学ではこのベクトルを $F$ の勾配という。
この見方では、点 $P(x_0,\,y_0)$ での接線は
$$ F_x(x_0,y_0)\,(x-x_0)+F_y(x_0,y_0)\,(y-y_0)=0 $$
と書ける。この式は $F_y(x_0,y_0)=0$ でも使える。$(F_x,\,F_y)\ne(0,\,0)$ でさえあればよい。

  • 楕円 $\frac{x^2}{a^2}+\frac{y^2}{b^2}-1=0$ では $(F_x,\,F_y)=\left(\frac{2x_0}{a^2},\,\frac{2y_0}{b^2}\right)$ で、上の式を $2$ で割ると $\frac{x_0(x-x_0)}{a^2}+\frac{y_0(y-y_0)}{b^2}=0$ となり、ex-imp-ellipse-tangent の接線と同じになる。$y_0=0$ の点 $(a,\,0)$ でも、$(F_x,\,F_y)=\left(\frac2a,\,0\right)$ から接線 $x=a$ がそのまま出る。
  • 空間の平面 $px+qy+rz=s$ の法線ベクトルが $(p,\,q,\,r)$ である(空間の平面と法線ベクトル)のも、同じ見方の 3 変数版である。
    $F=F_x=F_y=0$ となる点を、曲線 $F=0$ の特異点という。葉線の原点では $F_x=3\cdot0-0=0$、$F_y=0$ で、特異点である(ex-imp-folium-origin)。特異点では法線ベクトルが $(0,\,0)$ になって接線が決まらず、陰関数定理(rem-imp-ift)も使えない。特異点で曲線がどう交わるか・とがるかは、大学の代数幾何学で詳しく調べられる。
    多変数では、$m$ 個の式で $m$ 個の変数を残りの変数の関数として表す形に広がり、条件 $F_y\ne0$ は「$F$ の Jacobi 行列の一部が逆行列をもつ」になる。陰関数定理は、逆関数の微分 の大学版である 逆関数定理 から導かれる(Leb26b Theorem 8.5.6 の証明)。

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  • 曲線 $F(x,y)=0$ の上を点が動くとき、時刻 $t$ で両辺を微分すると $F_x\dfrac{dx}{dt}+F_y\dfrac{dy}{dt}=0$ となり、速度のベクトルが法線ベクトルに垂直、つまり接線の向きであることが分かる。円 $x^2+y^2=r^2$ の上の運動では、速度が位置ベクトルに垂直になる。これは 速度と加速度 で使う。
  • 楕円・双曲線・放物線の接線と焦点の関係は 2次曲線の接線と光学的性質 で扱う。
  • 葉線のように、$x$ と $y$ の多項式で表される曲線を代数曲線という。直線 $y=tx$ で点を表す方法は、2次曲線の媒介変数表示 と同じ考え方で、有理数の点を作ることにもつながる(ピタゴラス数と円の有理点)。

関連項目

参考文献

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