力学系

同義語:dynamical system

概要

力学系(dynamical system)とは、状態の集合 $X$ と、時間を進める規則(写像 $f\colon X\to X$ の反復、または流れ $\varphi(t,x)$)の組であり、軌道の長い時間での振る舞い、とくに不動点・周期点・安定性・カオスを調べる。区間上の写像 $f$ が不動点 $p$ の近くで $C^1$ 級なら、$\lvert f'(p)\rvert<1$ のとき $p$ は漸近安定、$\lvert f'(p)\rvert>1$ のとき反発的である。ロジスティック写像 $x\mapsto4x(1-x)$ は $[0,1]$ 上のテント写像と位相共役で、周期点が稠密かつ位相推移的なカオス的な写像であり、初期値に鋭敏である。有界閉区間上の連続写像が周期 $3$ の点をもてば、すべての周期の点をもつ。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 写像の合成, 中間値の定理, 常微分方程式

漸化式 $x_{n+1}=f(x_n)$ で決まる数列は、写像 $f$ を何度も施して得られる。微分方程式 $x'=g(x)$ の解は、各時刻の状態から少し先の状態を決める規則に従って動く。どちらも「状態の集合」と「時間を進める規則」の組であり、これを 力学系 という。力学系の理論では、個々の解を式で求めるよりも、長い時間がたったあとの振る舞い、たとえば「動かない点に近づくか」「同じ動きを繰り返すか」「初めのわずかな違いが大きく広がるか」を調べる。
この記事では、離散時間と連続時間の力学系を定義し、不動点・周期点・安定性・位相共役の言葉を整える。そのうえで、1 変数の写像の不動点の安定性が微分係数で決まること(thm-ds-fixed-point)、ロジスティック写像 $x\mapsto4x(1-x)$ がテント写像と位相共役でカオス的であること(thm-ds-tent-logistic)、区間上の連続写像が周期 3 の点をもてばあらゆる周期の点をもつこと(thm-ds-period-three)を証明する。

定義

力学系・軌道
  1. 離散力学系 とは、集合 $X$ と写像 $f\colon X\to X$ の組 $(X,f)$ である。$f^0:=\mathrm{id}_X$、$f^{n+1}:=f\circ f^n$ とおき、$x\in X$ の 前向き軌道 を $\{f^n(x)\mid n\ge0\}$ とする。
  2. 連続力学系(流れ)とは、集合 $X$ と写像 $\varphi\colon\mathbb{R}\times X\to X$ の組で、すべての $x\in X$、$s,t\in\mathbb{R}$ について
    $$ \varphi(0,x)=x,\qquad\varphi(s+t,x)=\varphi\bigl(s,\varphi(t,x)\bigr) $$
    を満たすものである。$\{\varphi(t,x)\mid t\in\mathbb{R}\}$ を $x$ の 軌道 という。

$X$ は距離空間、$f$ や $\varphi$ は連続とすることが多い。$\mathbb{R}^n$ の開集合 $U$ 上の $C^1$ 級関数 $g$ について、自励系 $x'=g(x)$ のすべての解が $\mathbb{R}$ 全体で定義されるなら、初期値 $x$ の解の時刻 $t$ での値を $\varphi(t,x)$ とおくと連続力学系になる(Tes12 §6.2、Theorem 6.1。$g$ が滑らかな場合は ベクトル場の流れ の定理「流れの基本定理」)。解が有限の時間で爆発する場合は、$t$ の範囲が点ごとに変わる「局所的な流れ」として扱う。

不動点・周期点

$(X,f)$ を離散力学系とする。$f(p)=p$ となる $p$ を 不動点、ある $n\ge1$ で $f^n(p)=p$ となる $p$ を 周期点 という。そのような $n$ のうち最小のものを $p$ の 最小周期 といい、最小周期 $n$ の点を 周期 $n$ の点 ともいう。連続力学系では、すべての $t$ で $\varphi(t,p)=p$ となる点を 平衡点 という。

周期 $n$ の点 $p$ の前向き軌道は、相異なる $n$ 個の点 $p,f(p),\dots,f^{n-1}(p)$ からなる。$f^m(p)=p$ となる $m\ge1$ は最小周期 $n$ の倍数である($m=qn+r$、$0\le r< n$ と割ると $f^r(p)=f^r(f^{qn}(p))=f^m(p)=p$ なので、$n$ の最小性から $r=0$)。

安定性

$X$ を距離空間、$f\colon X\to X$ を写像、$p$ を不動点とする(多くの場合 $f$ は連続とする)。

  1. $p$ が 安定 であるとは、任意の $\varepsilon>0$ に対し $\delta>0$ があって、$d(x,p)<\delta$ ならすべての $n\ge0$ で $d(f^n(x),p)<\varepsilon$ となることをいう。安定でないとき 不安定 という。
  2. $p$ が 吸引的 であるとは、$\delta>0$ があって、$d(x,p)<\delta$ なら $f^n(x)\to p$ となることをいう。安定かつ吸引的なとき 漸近安定 という。
  3. $p$ が 反発的 であるとは、$\delta>0$ があって、$0< d(x,p)<\delta$ を満たすどの $x$ についても、ある $n$ で $d(f^n(x),p)\ge\delta$ となることをいう。$p$ が $X$ の孤立点でなければ、反発的な不動点は不安定である(1 で $\varepsilon=\delta$ とした条件が成り立たない)。
    連続力学系の平衡点についても、$f^n$ を $\varphi(t,\cdot)$($t\ge0$)に替えて同じように定める。

1 は「近くから出発すれば近くにとどまる」、2 は「近くから出発すれば近づく」ことを表す(連続時間の定義は Tes12 §6.5、p. 198)。

位相共役

離散力学系 $(X,f)$、$(Y,g)$($X,Y$ は位相空間、$f,g$ は連続)について、同相写像 $h\colon X\to Y$ で $h\circ f=g\circ h$ を満たすものがあるとき、$(X,f)$ と $(Y,g)$ は 位相共役 であるといい、$h$ を 共役写像 という。

$h\circ f=g\circ h$ は、$X$ で $f$ を施してから $h$ で $Y$ に移すことと、先に移してから $g$ を施すことが同じだという意味である。位相共役な力学系は、座標の取り替えで移り合う同じ系とみなせる。

例

1 次関数と回転
  1. $X=\mathbb{R}$、$f(x)=ax$ では $f^n(x)=a^nx$ である。$\lvert a\rvert<1$ なら不動点 $0$ は漸近安定、$\lvert a\rvert>1$ なら反発的である。$a=1$ ならすべての点が不動点で、$0$ は安定だが吸引的でない。$a=-1$ なら $0$ 以外のすべての点が周期 $2$ の点である。
  2. 円周 $X=\mathbb{R}/\mathbb{Z}$ 上の回転 $f(x)=x+\alpha$ を考える。$\alpha=\frac pq$(既約分数、$q\ge1$)なら、すべての点が周期 $q$ の点である。$\alpha$ が無理数なら周期点はなく、すべての軌道が稠密である。
    詳細

    $f^n(x)=x+n\alpha$ なので、$f^n(x)=x$ は $n\alpha\in\mathbb{Z}$ と同値である。$\alpha=\frac pq$ ならこれは $q\mid n$ と同値で、最小周期は $q$ である。$\alpha$ が無理数なら $n\alpha\notin\mathbb{Z}$($n\ge1$)である。稠密性:$N\ge1$ をとる。$N+1$ 個の点 $x+k\alpha$($k=0,\dots,N$)の中に、円周上の距離が $\frac1N$ 以下の 2 点 $x+k\alpha$、$x+l\alpha$($k< l$)がある(円周を長さ $\frac1N$ の $N$ 個の弧に分けると、ある弧に 2 点が入る)。$m:=l-k$ とすると $f^m$ は円周を $\beta:=m\alpha$ だけ回す回転で、$\beta$ と最も近い整数との差 $\beta'$ は $0<\lvert\beta'\rvert\le\frac1N$ を満たす。よって $x,x+\beta',x+2\beta',\dots$ は前向き軌道の点で、間隔 $\lvert\beta'\rvert$ で円周を一周し、どの点からも距離 $\frac1N$ 以内に軌道の点がある。$N$ は任意である。

  3. 自励系 $x'=-x$ の流れは $\varphi(t,x)=e^{-t}x$ で、平衡点 $0$ は漸近安定である。ロジスティック方程式 $x'=x(1-x)$ は $X=[0,1]$ の上の連続力学系を定め(初期値が $[0,1]$ にあれば解は $\mathbb{R}$ 全体で定義され $[0,1]$ にとどまる)、平衡点 $1$ が漸近安定、$0$ が不安定である(解の式は 常微分方程式 の例「ロジスティック方程式」。安定性は次の段落の判定法で $g'(1)=-1$、$g'(0)=1$ から分かる)。

1 次元の自励系 $x'=g(x)$($g$ は $C^1$ 級、$g(c)=0$)では、$g'(c)<0$ なら $c$ は漸近安定、$g'(c)>0$ なら不安定である(数理モデル の定理「平衡点の安定性の判定」)。$\mathbb{R}^n$ の自励系では、平衡点での Jacobi 行列の固有値の実部がすべて負なら、平衡点は指数的に漸近安定である(この記事では証明しない。Tes12 Theorem 6.10、p. 199)。次の節では、離散力学系の同じ形の定理を 1 変数で証明する。

1 変数の写像の不動点の安定性

不動点の安定性の判定

$I\subset\mathbb{R}$ を区間、$f\colon I\to I$ を写像、$p\in I$ を不動点とし、$f$ は $p$ の近く(ある $r>0$ について $I\cap(p-r,p+r)$)で $C^1$ 級とする。

  1. $\lvert f'(p)\rvert<1$ なら $p$ は漸近安定である。さらに $\lvert f'(p)\rvert<\lambda<1$ を満たす任意の $\lambda$ に対し、$\delta>0$ があって、$x\in I$、$\lvert x-p\rvert<\delta$ ならすべての $n\ge0$ で $\lvert f^n(x)-p\rvert\le\lambda^n\lvert x-p\rvert$ である。
  2. $\lvert f'(p)\rvert>1$ なら $p$ は反発的である。
平均値の定理で 1 歩ずつ比べる

1:$f'$ は $p$ で連続なので、$\delta\in(0,r)$ を小さくとれば、$J:=I\cap(p-\delta,p+\delta)$ の上で $\lvert f'\rvert\le\lambda$ である。$x\in J$ なら、平均値の定理 により $x$ と $p$ の間の $\xi$($\xi\in J$)で
$$ \lvert f(x)-p\rvert=\lvert f(x)-f(p)\rvert=\lvert f'(\xi)\rvert\,\lvert x-p\rvert\le\lambda\lvert x-p\rvert $$
となる。とくに $f(x)\in J$ である。帰納法により $f^n(x)\in J$ と $\lvert f^n(x)-p\rvert\le\lambda^n\lvert x-p\rvert$ がすべての $n$ で成り立つ。$\lambda^n\to0$ なので $p$ は吸引的であり、$\lvert f^n(x)-p\rvert\le\lvert x-p\rvert$ から、安定性の定義の $\varepsilon$ に対して $\min\{\delta,\varepsilon\}$ をとればよい。
2:$\lvert f'(p)\rvert>\mu>1$ となる $\mu$ をとり、$\delta\in(0,r)$ を $J:=I\cap(p-\delta,p+\delta)$ の上で $\lvert f'\rvert\ge\mu$ となるようにとる。1 と同じく、$y\in J$ なら $\lvert f(y)-p\rvert\ge\mu\lvert y-p\rvert$ である。$0<\lvert x-p\rvert<\delta$ とし、すべての $n$ で $f^n(x)\in J$ だったとすると、帰納法で $\lvert f^n(x)-p\rvert\ge\mu^n\lvert x-p\rvert\to\infty$ となり、$\lvert f^n(x)-p\rvert<\delta$ に反する。よってある $n$ で $f^n(x)\notin J$、つまり $\lvert f^n(x)-p\rvert\ge\delta$ である。$\square$

周期 $n$ の点 $p$ には、$f$ が軌道の各点 $f^k(p)$ の近くで $C^1$ 級なら、$f^n$ の不動点として thm-ds-fixed-point を使う。連鎖律 により $(f^n)'(p)=f'(p)f'(f(p))\cdots f'(f^{n-1}(p))$ であり、この積の絶対値が $1$ より小さいか大きいかで判定できる。$\mathbb{R}^n$ の $C^1$ 級写像では、不動点での Jacobi 行列の固有値がすべて単位円の内側にあれば吸引的である。固有値がすべて単位円の外側にあれば、不動点の近くでの $f$ の逆写像について吸引的である(どちらもこの記事では証明しない。Tes12 Theorem 10.1、p. 283)。$\lvert f'(p)\rvert=1$ のときは、微分係数だけでは判定できない(ex-ds-table)。

ロジスティック写像の不動点と周期 2 の軌道

$0<\mu\le4$ とし、$[0,1]$ 上の ロジスティック写像 $L_\mu(x)=\mu x(1-x)$ を考える($L_\mu$ は $[0,1]$ を $[0,\frac\mu4]\subset[0,1]$ に写す)。$L_\mu'(x)=\mu(1-2x)$ である。

  • 不動点 $0$ では $L_\mu'(0)=\mu$ なので、$\mu<1$ なら漸近安定、$\mu>1$ なら反発的である。
  • $\mu>1$ のとき、もう 1 つの不動点 $p_\mu=1-\frac1\mu$ があり、$L_\mu'(p_\mu)=2-\mu$ である。$1<\mu<3$ なら漸近安定、$3<\mu\le4$ なら反発的である。
  • $\mu>3$ のとき、周期 $2$ の点が 2 つ $x_\pm=\dfrac{\mu+1\pm\sqrt{(\mu+1)(\mu-3)}}{2\mu}$ あり、$L_\mu(x_+)=x_-$、$L_\mu(x_-)=x_+$ である。$(L_\mu^2)'(x_\pm)=L_\mu'(x_+)L_\mu'(x_-)=-\mu^2+2\mu+4$ なので、周期 $2$ の点は $3<\mu<1+\sqrt6$ なら $L_\mu^2$ の不動点として漸近安定、$1+\sqrt6<\mu\le4$ なら反発的である。
    途中の計算を開く

    $L_\mu^2(x)=x$ から不動点の分の因子 $x(\mu x-\mu+1)$ を除くと $\mu^2x^2-\mu(\mu+1)x+(\mu+1)=0$ が残る(展開して確かめられる)。判別式は $\mu^2(\mu+1)(\mu-3)$ なので、$\mu>3$ で相異なる 2 つの実数解 $x_\pm$ をもち、解と係数の関係から $x_++x_-=\frac{\mu+1}\mu$、$x_+x_-=\frac{\mu+1}{\mu^2}$ である。$x_\pm$ は $p_\mu$ と異なり(左辺に $p_\mu$ を代入すると $3-\mu\ne0$)、$0$ とも異なる(代入すると $\mu+1\ne0$)。また、$L_\mu(x_+)$ も同じ 2 次方程式の解で $x_+$ と異なる($x_+$ は $L_\mu$ の不動点でない)ので $L_\mu(x_+)=x_-$ である。$0< x_-< x_+\le1$ は $\sqrt{(\mu+1)(\mu-3)}<\mu+1$ と $\sqrt{(\mu+1)(\mu-3)}\le\mu-1$ からわかる。$(L_\mu^2)'(x_+)=\mu^2(1-2x_+)(1-2x_-)=\mu^2\bigl(1-2(x_++x_-)+4x_+x_-\bigr)=-\mu^2+2\mu+4$ である。$-\mu^2+2\mu+4<1$ は $\mu>3$ と同値、$-\mu^2+2\mu+4>-1$ は $\mu<1+\sqrt6$ と同値である。

$\mu$ を増やすと、安定な不動点が不安定になると同時に安定な周期 $2$ の軌道が現れる。$\mu=4$ では、次の節で見るように振る舞いがまったく変わる。

カオス:ロジスティック写像 $\mu=4$ とテント写像

位相推移性・初期値鋭敏性・Devaney のカオス

$X$ を距離空間、$f\colon X\to X$ を連続写像とする。

  1. $f$ が 位相推移的 であるとは、空でない任意の開集合 $U,V$ に対して、ある $n\ge1$ で $f^n(U)\cap V\ne\emptyset$ となることをいう。
  2. $f$ が 初期値に鋭敏 であるとは、$\delta>0$ があって、任意の $x\in X$ と $\varepsilon>0$ に対し、$d(x,y)<\varepsilon$ と $d(f^n(x),f^n(y))\ge\delta$ を満たす $y\in X$ と $n\ge0$ があることをいう。
  3. $X$ が無限集合で、$f$ が位相推移的で周期点の全体が $X$ で稠密なとき、$f$ は(Devaney の意味で)カオス的 であるという。

カオス的な写像は初期値に鋭敏である(この記事では一般には証明しない。Tes12 §11.3、Lemma 11.3、p. 297)。以下の例では鋭敏性を直接示す。

位相共役で保たれる性質

$h\colon X\to Y$ を $(X,f)$ から $(Y,g)$ への共役写像とする。

  1. すべての $n$ で $h\circ f^n=g^n\circ h$ であり、$p$ が $f$ の周期 $n$ の点であることと $h(p)$ が $g$ の周期 $n$ の点であることは同値である。とくに $f^n$ と $g^n$ の不動点の個数は等しい。
  2. $f$ の周期点が稠密であることと $g$ の周期点が稠密であることは同値である。$f$ が位相推移的であることと $g$ が位相推移的であることは同値である。
同相写像で移す

要点:$h\circ f^n=g^n\circ h$ により、$f$ の軌道は $h$ で $g$ の軌道に移り、$h$ は同相写像なので稠密な集合と開集合を保つ。

詳しい証明を開く

1:$h\circ f^{n+1}=h\circ f\circ f^n=g\circ h\circ f^n$ から帰納法で $h\circ f^n=g^n\circ h$ を得る。$h$ は単射なので $f^n(p)=p$ と $g^n(h(p))=h(p)$ は同値であり、最小周期も一致する。2:$h$ は同相写像なので、稠密な集合と空でない開集合を移り合わせる。$\mathrm{Per}(g)=h(\mathrm{Per}(f))$ である。$U,V\subset Y$ が空でない開集合なら、$h^{-1}(U),h^{-1}(V)$ も空でない開集合で、$g^n(U)\cap V=h\bigl(f^n(h^{-1}(U))\cap h^{-1}(V)\bigr)$ である。逆向きは $h^{-1}$ が $(Y,g)$ から $(X,f)$ への共役写像であることによる。

$[0,1]$ 上の テント写像 を $T(x)=1-\lvert2x-1\rvert$($x\le\frac12$ なら $2x$、$x\ge\frac12$ なら $2-2x$)で定める。

テント写像とロジスティック写像のカオス

$L(x)=4x(1-x)$、$h(x)=\sin^2\frac{\pi x}2$ とする(どれも $[0,1]\to[0,1]$)。

  1. $h$ は同相写像で $h\circ T=L\circ h$ である。つまり $([0,1],T)$ と $([0,1],L)$ は位相共役である。
  2. $n\ge1$ について、$I_{n,j}:=\bigl[\frac j{2^n},\frac{j+1}{2^n}\bigr]$($0\le j<2^n$)の上で $T^n$ は傾き $\pm2^n$ の 1 次式で、$I_{n,j}$ を $[0,1]$ の上へ写す。$T^n$ の不動点はちょうど $2^n$ 個ある。
  3. $T$ と $L$ はカオス的であり、初期値に鋭敏である。$L^n$ の不動点もちょうど $2^n$ 個ある。
区間を全体に引き伸ばす

1:$h$ は連続で狭義単調増加、$h(0)=0$、$h(1)=1$ なので同相写像である。$x\le\frac12$ なら $h(T(x))=\sin^2\pi x$、$x\ge\frac12$ なら $h(T(x))=\sin^2(\pi-\pi x)=\sin^2\pi x$ である。一方 $L(h(x))=4\sin^2\frac{\pi x}2\cos^2\frac{\pi x}2=\sin^2\pi x$ である。
2:$n$ についての帰納法による。$n=1$ は $T$ の定義そのものである。$T$ は $I_{n+1,j}$ を傾き $\pm2$ で、$j< 2^n$ なら $I_{n,j}$ の上へ、$j\ge2^n$ なら $I_{n,2^{n+1}-1-j}$ の上へ写す。そこで $T^n$ は傾き $\pm2^n$ で $[0,1]$ の上へ写すので、$T^{n+1}=T^n\circ T$ は $I_{n+1,j}$ の上で傾き $\pm2^{n+1}$ の 1 次式で、$[0,1]$ の上へ写す。不動点:$I_{n,j}$ の両端で $T^n$ の値は $0$ と $1$ なので、$T^n(x)-x$ は一方の端で $0$ 以下、他方で $0$ 以上であり、傾き $\pm2^n-1\ne0$ の 1 次式なので $I_{n,j}$ にちょうど 1 つの零点をもつ。隣り合う区間の共有点 $\frac j{2^n}$($0< j< 2^n$)では $T^n$ の値は $0$ か $1$ で $\frac j{2^n}$ と異なるから、不動点は重複して数えられていない。よって $T^n$ の不動点は $2^n$ 個である。
3:$[0,1]$ の空でない開集合 $U$ は、$n$ が大きければある $I_{n,j}$ を含む。2 から $I_{n,j}$ は $T^n$ の不動点を含むので、周期点は稠密である。また $T^n(U)\supset T^n(I_{n,j})=[0,1]$ なので、$T$ は位相推移的である。鋭敏性:$x\in[0,1]$、$\varepsilon>0$ に対し $2^{-n}<\varepsilon$ となる $n$ をとり、$x\in I_{n,j}$ となる $j$ をとると $I_{n,j}\subset(x-\varepsilon,x+\varepsilon)$ である。$T^n(y_0)=0$、$T^n(y_1)=1$ となる $y_0,y_1\in I_{n,j}$ があり、$\lvert T^n(y_i)-T^n(x)\rvert\ge\frac12$ となる $i$ がある。よって $T$ は $\delta=\frac12$ で初期値に鋭敏である。
$L$ については、1 と prop-ds-conjugacy により、周期点の稠密性・位相推移性・$L^n$ の不動点の個数が $T$ から移る。鋭敏性は距離に関わるので、コンパクト性を使って移す。$\delta_L:=\min\{\lvert h(a)-h(b)\rvert\mid a,b\in[0,1],\ \lvert a-b\rvert\ge\frac12\}$ は、コンパクト集合上の連続関数の最小値で、$h$ が単射なので正である。$x\in[0,1]$、$\varepsilon>0$ に対し、$h$ の一様連続性から $\lvert a-b\rvert<\varepsilon'$ なら $\lvert h(a)-h(b)\rvert<\varepsilon$ となる $\varepsilon'$ をとる。$x':=h^{-1}(x)$ と $\varepsilon'$ に $T$ の鋭敏性を使って $y'$、$n$ をとり、$y:=h(y')$ とおくと、$\lvert x-y\rvert<\varepsilon$ かつ $\lvert L^n(x)-L^n(y)\rvert=\lvert h(T^n(x'))-h(T^n(y'))\rvert\ge\delta_L$ である。$\square$

$y=1-2x$ とおくと $1-2L(x)=2(1-2x)^2-1$ なので、$L$ は $[-1,1]$ 上の $y\mapsto2y^2-1$(2 次の Chebyshev多項式 $T_2$)とも位相共役である。$T_2(\cos\theta)=\cos2\theta$ なので、これは角の倍化写像 $\theta\mapsto2\theta$ を $\cos$ を通して見たものであり、$L^n$ の不動点が $2^n$ 個あることは Chebyshev多項式 の定理「角の倍化写像の周期点」の 1 と同じ内容である。

周期 3 はすべての周期を導く

区間の像についての 2 つの事実

$f\colon I\to\mathbb{R}$ を区間 $I$ 上の連続関数とし、$J,K\subset I$ を有界閉区間とする(1 点からなる区間も含める)。

  1. $f(J)\supset K$ なら、有界閉区間 $J_0\subset J$ で $f(J_0)=K$ となるものがある。
  2. $f(J)\supset J$ なら、$f$ は $J$ に不動点をもつ。
中間値の定理で端を選ぶ

要点:どちらも 中間値の定理 による。1 では $K$ の両端の値をとる点のうち、互いに最も近いものを選ぶ。

詳しい証明を開く

1:$K=[c,d]$ とし、$f(a)=c$、$f(b)=d$ となる $a,b\in J$ をとる。$c=d$ なら $J_0=\{a\}$ でよい。$a< b$ の場合、$a':=\max\{x\in[a,b]\mid f(x)=c\}$、$b':=\min\{x\in[a',b]\mid f(x)=d\}$ とおく($f$ の連続性からどちらの集合も閉で空でない)。$J_0:=[a',b']$ では $f(a')=c$、$f(b')=d$ なので中間値の定理により $f(J_0)\supset[c,d]$ である。ある $x\in(a',b')$ で $f(x)>d$ なら、$a'$ と $x$ の間で値 $d$ をとる点が $(a',x)$ にあり $b'$ の最小性に反する。$f(x)< c$ なら、$x$ と $b'$ の間で値 $c$ をとる点が $(x,b')$ にあり $a'$ の最大性に反する。よって $f(J_0)=[c,d]$ である。$a> b$ の場合も向きを逆にして同様である。

2:$J=[\alpha,\beta]$ とし、$f(u)=\alpha$、$f(v)=\beta$ となる $u,v\in J$ をとる。$f(u)-u=\alpha-u\le0$、$f(v)-v=\beta-v\ge0$ なので、中間値の定理により $f(x)-x=0$ となる $x$ が $u$ と $v$ の間にある。

周期 3 の点があればすべての周期の点がある

$I$ を有界閉区間、$f\colon I\to I$ を連続写像とし、$f$ が周期 $3$ の点をもつとする。このとき、すべての $n\ge1$ について $f$ は周期 $n$ の点をもつ。

区間の列で軌道の道筋を指定する

周期 $3$ の軌道を $a< b< c$ とする。$f(a)=b$、$f(b)=c$、$f(c)=a$ の場合を示す(もう一方の $f(a)=c$、$f(c)=b$、$f(b)=a$ の場合は、$g(x):=-f(-x)$ を区間 $-I$ で考えると軌道 $-c<-b<-a$ がこの場合になり、$x\mapsto-x$ は周期を保つ)。$I_0:=[a,b]$、$I_1:=[b,c]$ とおくと、中間値の定理により
$$ f(I_0)\supset I_1,\qquad f(I_1)\supset[a,c]=I_0\cup I_1 $$
である。$n=1$ では $f(I_1)\supset I_1$ なので、lem-ds-intervals の 2 により $I_1$ に不動点がある。
$n\ge2$ とする。$J_0:=I_1$ から始めて、$k=0,1,\dots,n-2$ について $J_{k+1}\subset J_k$、$f^{k+1}(J_{k+1})=I_1$ となる有界閉区間を順にとる。$f^k(J_k)=I_1$ なら $f^{k+1}(J_k)=f(I_1)\supset I_1$ なので、lem-ds-intervals の 1(連続写像 $f^{k+1}$ に使う)でとれる。ただし最後の段 $k=n-2$ だけは、$f^{n-1}(J_{n-2})=f(I_1)\supset I_0$ を使って $f^{n-1}(J_{n-1})=I_0$ となる $J_{n-1}\subset J_{n-2}$ をとる。すると $f^n(J_{n-1})=f(I_0)\supset I_1\supset J_{n-1}$ なので、lem-ds-intervals の 2 により $f^n(x)=x$ となる $x\in J_{n-1}$ がある。$x\in J_k$ から
$$ f^k(x)\in I_1\ (0\le k\le n-2),\qquad f^{n-1}(x)\in I_0 $$
である。
$f^{n-1}(x)\ne b$ を示す。$f^{n-1}(x)=b$ なら $x=f^n(x)=f(b)=c$、$f(x)=f(c)=a$ である。$n\ge3$ なら $f(x)\in I_1$ に反し、$n=2$ なら $f(x)=f^{n-1}(x)=b$ に反する。よって $f^{n-1}(x)\in[a,b)$、つまり $f^{n-1}(x)\notin I_1$ である。
$x$ の最小周期を $m$ とする。$m$ は $n$ の約数である。$m< n$ なら、$n-1$ を $m$ で割った余りを $r$ とすると $f^{n-1}(x)=f^r(x)$ で、$r\le m-1\le n-2$ なので $f^r(x)\in I_1$ となり矛盾する。よって $x$ は周期 $n$ の点である。$\square$

この定理は、Sharkovskii の定理の一部である。自然数を
$$ 3\succ5\succ7\succ\cdots\succ2\cdot3\succ2\cdot5\succ\cdots\succ2^2\cdot3\succ2^2\cdot5\succ\cdots\succ2^3\succ2^2\succ2\succ1 $$
と並べると、区間上の連続写像が周期 $m$ の点をもてば、$m\succ k$ となるすべての $k$ について周期 $k$ の点をもつ(この記事では証明しない。主張は Tes12 Theorem 11.2、p. 295)。たとえば $T$ は $\frac27\mapsto\frac47\mapsto\frac67\mapsto\frac27$ という周期 $3$ の軌道をもつので、thm-ds-period-three からもすべての周期の点をもつことがわかる。

反例:条件を外すと崩れること

外す条件反例成り立たなくなること
thm-ds-fixed-point の $\lvert f'(p)\rvert\ne1$$f(x)=x-x^3$ と $f(x)=x+x^3$($p=0$、どちらも $f'(0)=1$)安定性が $f'(p)$ だけで決まる
thm-ds-period-three の $f$ の連続性$I=[0,2]$、$[0,1]$ で $f(x)=x+1$、$(1,2]$ で $f(x)=0$周期 $1$ の点(不動点)がある
thm-ds-period-three の「$I$ が区間」円周 $\mathbb{R}/\mathbb{Z}$ の $\frac13$ 回転周期 $1$・$2$ の点がある
thm-ds-tent-logistic の 3 の証明で使った $X$ のコンパクト性$X=(0,\infty)$、$f(x)=2x$、$g(x)=\frac x2$、$h(x)=\frac1x$位相共役で初期値鋭敏性が移る
表の反例の確かめ

1 行目:$f(x)=x-x^3$ では $0<\lvert x\rvert\le1$ で $\lvert f(x)\rvert=\lvert x\rvert(1-x^2)<\lvert x\rvert$ であり、$\lvert x\rvert\le1$ なら $f(x)$ も $[-1,1]$ に入る。$\lvert f^n(x)\rvert$ は減少して極限 $\ell\ge0$ をもち、$\ell>0$ なら $\lvert f^n(x)\rvert\ge\ell$ の範囲で $\lvert f^{n+1}(x)\rvert\le(1-\ell^2)\lvert f^n(x)\rvert$ となって $0$ に収束し矛盾するので、$\ell=0$ である。よって $0$ は漸近安定である。$f(x)=x+x^3$ では $\lvert f(x)\rvert\ge\lvert x\rvert(1+x^2)$ で、$0<\lvert x\rvert<1$ から出発すると $\lvert f^n(x)\rvert\ge\lvert x\rvert(1+x^2)^n\to\infty$ なので、$0$ は反発的($\delta=1$)である。
2 行目:$f(0)=1$、$f(1)=2$、$f(2)=0$ なので $0$ は周期 $3$ の点である。$[0,1]$ では $f(x)=x+1\ne x$、$(1,2]$ では $f(x)=0\ne x$ なので不動点はない。$f$ は $x=1$ で不連続である。
3 行目:$f(x)=x+\frac13$ ではすべての点が周期 $3$ の点で(ex-ds-basic の 2)、周期 $1$・$2$ の点はない。$f$ は連続だが、円周は区間でない。
4 行目:$h\circ f=g\circ h$ である($h(2x)=\frac1{2x}=g(h(x))$)。$f$ では $\lvert f^n(x)-f^n(y)\rvert=2^n\lvert x-y\rvert$ なので、どの $x$ のどんな近くの $y$ も、いずれ $1$ 以上離れる。$g$ では $\lvert g^n(x)-g^n(y)\rvert=2^{-n}\lvert x-y\rvert$ なので、$\lvert x-y\rvert<\delta$ ならいつまでも $\delta$ 未満で、どの $\delta>0$ でも鋭敏性の条件は成り立たない(Tes12 §11.3、p. 296 の例)。$h$ は同相写像だが一様連続でない。

関連項目

参考文献

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