極値

同義語:局所的極値local extremumrelative extremum

概要

極値(local extremum)とは、関数 $f$ がある点 $a$ の近傍の中で最大または最小になるときの値 $f(a)$ のことで、前者を極大値、後者を極小値という。$\mathbb{R}^n$ の開集合の上の微分可能な関数では、極値をとる点で勾配が $0$ になる(Fermat の定理)。$C^2$ 級の関数では、勾配が $0$ の点で Hesse 行列が正定値なら狭義の極小、負定値なら狭義の極大、不定値なら極値でない(鞍点)。Hesse 行列が退化していると 2 階の情報では判定できず、また極小値は最小値とは限らないが、凸関数では極小値が最小値になる。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 偏微分, 全微分, Taylorの定理, 2次形式

関数 $f$ が点 $a$ で極大であるとは、$a$ の近くだけを見れば $f(a)$ が最大であることをいい、極小も同様である。最大値・最小値が定義域全体での比較であるのに対し、極値は点のまわりだけでの比較である。山の地形でいえば、極大点は峰の頂上、極小点は窪地の底であり、最も高い峰(最大値)でなくてもよい。
1 変数の微分可能な関数では、内部の極値の点で $f'(a)=0$ となり、$f''(a)$ の符号で極大・極小を見分けられることが多い(高校数学の 関数の増減と極値 の記事)。この記事では、極値を一般の位相空間の上で定義したあと、$\mathbb{R}^n$ の開集合の上の $C^2$ 級関数について、勾配が $0$ になる点(臨界点)で Hesse 行列の符号を見る 2 階の条件を証明する。Hesse 行列が正定値なら極小、負定値なら極大、不定値なら極値でない(鞍点)。さらに、Hesse 行列で判定できない場合、どの直線に沿っても極大なのに極大でない点、ただ 1 つの臨界点で極小なのに最小でない関数など、多変数に特有の現象を調べる。

定義

極大・極小・極値

$X$ を位相空間、$f\colon X\to\mathbb{R}$ を関数、$a\in X$ とする。

  1. $a$ のある近傍 $V$ があって、すべての $x\in V$ で $f(x)\le f(a)$ となるとき、$f$ は $a$ で極大であるといい、$f(a)$ を極大値、$a$ を極大点という。$x\in V$、$x\ne a$ で $f(x)< f(a)$ となるようにとれるとき、狭義の極大という。
  2. 不等号の向きを逆にして、極小・極小値・極小点・狭義の極小を定める。
  3. 極大値と極小値をあわせて極値(local extremum)、極大点と極小点をあわせて極値点という。

$X$ が距離空間なら、近傍 $V$ は開球 $B(a,\delta)=\{x\mid d(x,a)< \delta\}$ にとってよい。$X=\mathbb{R}^n$ の部分集合 $D$ の上の関数なら、「$\delta>0$ があって、$x\in D$、$\|x-a\|< \delta$ ならば $f(x)\le f(a)$」が極大の定義である(Rud76 Definition 5.7、p. 107 は距離空間の上で同じ定義をしている)。$f$ が $a$ で $X$ 全体の最大値をとれば $a$ は極大点であるが、逆は成り立たない。
極値は近くとの比較なので、定数関数ではどの点も極大点かつ極小点である。広い意味の不等号 $\le$ を使う定義では、このように極大と極小が同時に起こりうる。狭義の極値に限ればこれは起こらない。

臨界点・鞍点・Hesse行列

$U\subset\mathbb{R}^n$ を開集合、$f\colon U\to\mathbb{R}$ とする。

  1. $f$ が $a\in U$ で偏微分可能で、勾配 $\nabla f(a)=\bigl(\frac{\partial f}{\partial x_1}(a),\dots,\frac{\partial f}{\partial x_n}(a)\bigr)$ が $0$ であるとき、$a$ を $f$ の臨界点(停留点)という。
  2. 臨界点で極値点でないものを鞍点という。
  3. $f$ が $C^2$ 級のとき、2 階偏導関数を並べた $n$ 次正方行列 $H_f(a):=\Bigl(\dfrac{\partial^2f}{\partial x_i\,\partial x_j}(a)\Bigr)_{i,j}$ を $f$ の $a$ における Hesse 行列という。

$C^2$ 級なら偏微分の順序は交換できるので(偏微分 の記事の系「$C^2$ 級関数の偏微分の可換性」)、Hesse 行列は実対称行列であり、2 次形式 $u\mapsto u^{\top}H_f(a)u$ を定める。この 2 次形式が正定値・負定値・不定値などであることを、Hesse 行列が正定値・負定値・不定値などであるという(2次形式 の記事の定義「実2次形式の符号」)。鞍点という名前は、$x^2-y^2$ のグラフが原点で馬の鞍の形をしていることによる。文献によっては、Hesse 行列が不定値の臨界点だけを鞍点と呼ぶこともある。

直感

臨界点の近くで $f$ を 2 次の多項式で近似すると、$f(a+h)\approx f(a)+\frac12h^{\top}H_f(a)h$ である。1 次の項は勾配が $0$ なので消え、$f$ の形は 2 次形式 $h^{\top}H_f(a)h$ で決まる。2 次形式が正定値ならどの方向へ動いても $f$ は増えるので窪地の底、負定値なら峰の頂上、不定値なら上り方向と下り方向がある峠になる。2 次形式が退化していると($\det H_f(a)=0$)、近似で消えた 3 次以上の項が形を決めるので、2 階の情報だけでは判定できない。

1 階の条件

極値点での勾配(Fermat の定理)

$U\subset\mathbb{R}^n$ を開集合、$f\colon U\to\mathbb{R}$ とし、$f$ は $a\in U$ で極値をとり、$a$ ですべての偏微分係数が存在するとする。このとき $\nabla f(a)=0$、すなわち $a$ は $f$ の臨界点である。

証明の所在

これは 偏微分 の記事の命題「極値での偏微分係数」そのものであり、そこで証明されている。$n=1$ の場合は 導関数 の記事の命題「内部の極値での微分係数」である(Rud76 Theorem 5.8、p. 107)。証明の要点は、$a$ を通る座標軸に平行な直線に $f$ を制限すると 1 変数の関数が $a$ で極値をとり、その左右の差分商の符号が逆になることである。仮定の「$U$ が開集合」($a$ が定義域の内部にあること)と「偏微分可能」はどちらも外せない(下の反例の表)。逆に、臨界点は極値点とは限らない($x^3$ の原点、$x^2-y^2$ の原点)。

2 階の条件

2 次の Taylor の公式

2 次の Taylor の公式

$U\subset\mathbb{R}^n$ を開集合、$f\colon U\to\mathbb{R}$ を $C^2$ 級とし、$a\in U$、$h\in\mathbb{R}^n$ について線分 $\{a+th\mid0\le t\le1\}$ が $U$ に含まれるとする。このとき $0< \theta<1$ を満たす $\theta$ で
$$ f(a+h)=f(a)+\nabla f(a)\cdot h+\frac12\,h^{\top}H_f(a+\theta h)\,h $$
となるものがある。

線分に制限して 1 変数の Taylor の定理を使う

$h=0$ なら明らかなので $h\ne0$ とする。$J:=\{t\in\mathbb{R}\mid a+th\in U\}$ は $\mathbb{R}$ の開集合で $[0,1]$ を含む。$g(t):=f(a+th)$($t\in J$)とおく。$f$ は $C^1$ 級なので全微分可能であり(偏微分 の記事の定理「偏導関数が連続なら全微分可能」)、連鎖律 の記事の系「成分による表示と曲線に沿った微分」により
$$ g'(t)=\sum_{i=1}^{n}\frac{\partial f}{\partial x_i}(a+th)\,h_i $$
である。$\frac{\partial f}{\partial x_i}$ も $C^1$ 級なので同じ理由で
$$ g''(t)=\sum_{i,j=1}^{n}\frac{\partial^2f}{\partial x_j\,\partial x_i}(a+th)\,h_ih_j=h^{\top}H_f(a+th)\,h $$
であり、これは $t$ の連続関数である。$g$ は $[0,1]$ を含む開区間で $C^2$ 級なので、Taylorの定理 の記事の定理「Lagrange剰余つきのTaylorの定理」を $n=1$、区間 $[0,1]$、$x_0=0$、$x=1$ として使うと、$0< \theta<1$ で
$$ g(1)=g(0)+g'(0)+\frac{g''(\theta)}{2} $$
となるものがある。$g(1)=f(a+h)$、$g(0)=f(a)$、$g'(0)=\nabla f(a)\cdot h$ を代入すればよい。$\square$

十分条件と必要条件

2 階の十分条件

$U\subset\mathbb{R}^n$ を開集合、$f\colon U\to\mathbb{R}$ を $C^2$ 級とし、$a\in U$ を $f$ の臨界点とする。

  1. $H_f(a)$ が正定値ならば、$f$ は $a$ で狭義の極小をとる。
  2. $H_f(a)$ が負定値ならば、$f$ は $a$ で狭義の極大をとる。
  3. $H_f(a)$ が不定値ならば、$a$ は鞍点である。より詳しく、$u^{\top}H_f(a)u<0$ となる $u$ について、$t\ne0$ が十分小さければ $f(a+tu)< f(a)$ であり、$u^{\top}H_f(a)u>0$ となる $u$ について、$t\ne0$ が十分小さければ $f(a+tu)>f(a)$ である。
単位球面上の最小値で押さえる

1:単位球面 $S:=\{u\in\mathbb{R}^n\mid\|u\|=1\}$ は空でない有界閉集合で、$u\mapsto u^{\top}H_f(a)u$ は多項式なので連続である。Bolzano–Weierstrassの定理 の記事の系「最大値と最小値の存在」により、この関数は $S$ 上で最小値 $m$ をとり、正定値なので $m>0$ である。
$f$ の 2 階偏導関数は連続なので、$\delta>0$ を、$B(a,\delta)\subset U$ であり、$\|y-a\|< \delta$ ならすべての $i,j$ で
$$ \Bigl|\frac{\partial^2f}{\partial x_i\,\partial x_j}(y)-\frac{\partial^2f}{\partial x_i\,\partial x_j}(a)\Bigr|\le\frac{m}{2n} $$
となるようにとれる。このとき $u\in S$ について、$E:=H_f(y)-H_f(a)$ の成分を $e_{ij}$ とすると
$$ |u^{\top}Eu|\le\sum_{i,j}|e_{ij}||u_i||u_j|\le\frac{m}{2n}\Bigl(\sum_i|u_i|\Bigr)^2\le\frac{m}{2n}\cdot n\sum_iu_i^2=\frac m2 $$
である(最後は Cauchy–Schwarzの不等式)。したがって $u^{\top}H_f(y)u\ge m-\frac m2=\frac m2$ である。
$0< \|h\|< \delta$ とすると、線分 $a+th$($0\le t\le1$)は $B(a,\delta)\subset U$ に含まれる。lem-lext-taylor と $\nabla f(a)=0$ により、ある $0< \theta<1$ で、$u:=h/\|h\|$、$y:=a+\theta h$($\|y-a\|< \delta$)として
$$ f(a+h)-f(a)=\frac12\|h\|^2\,u^{\top}H_f(y)\,u\ge\frac{m}{4}\|h\|^2>0 $$
である。よって $f$ は $a$ で狭義の極小をとる。
2:$-f$ は $C^2$ 級で、$a$ は $-f$ の臨界点、$H_{-f}(a)=-H_f(a)$ は正定値である。1 により $-f$ は $a$ で狭義の極小をとり、$f$ は狭義の極大をとる。
3:$u^{\top}H_f(a)u<0$ とする($u\ne0$)。$g(t):=f(a+tu)$ は $0$ を含む開区間で定義された $C^2$ 級関数で、prf-lext-taylor の計算により $g'(0)=\nabla f(a)\cdot u=0$、$g''(0)=u^{\top}H_f(a)u<0$ である。$1\times1$ の Hesse 行列 $(g''(0))$ は負定値なので、2 を $n=1$ の関数 $g$ に使うと、$g$ は $0$ で狭義の極大をとる。すなわち $t\ne0$ が十分小さければ $f(a+tu)< f(a)$ である。$u^{\top}H_f(a)u>0$ の場合も 1 から同様である。$H_f(a)$ が不定値なら両方の $u$ があるので、$a$ のどんな近傍にも $f>f(a)$ の点と $f< f(a)$ の点があり、$a$ は極値点でない。$\square$

2 階の必要条件

$U\subset\mathbb{R}^n$ を開集合、$f\colon U\to\mathbb{R}$ を $C^2$ 級とする。$f$ が $a\in U$ で極小をとるならば、$\nabla f(a)=0$ であり、$H_f(a)$ は半正定値である。極大をとるならば、$\nabla f(a)=0$ であり、$H_f(a)$ は半負定値である。

極小の場合を示す。$\nabla f(a)=0$ は thm-lext-fermat による。$H_f(a)$ が半正定値でないとすると、$u^{\top}H_f(a)u<0$ となる $u$ がある。thm-lext-second-sufficient の 3 により、$t\ne0$ が十分小さければ $f(a+tu)< f(a)$ であり、$a+tu$ は $a$ にいくらでも近くとれるので、$a$ は極小点でない。これは仮定に反する。極大の場合は $-f$ に使えばよい。$\square$

十分条件(正定値)と必要条件(半正定値)のあいだには隙間がある。Hesse 行列が半正定値で正定値でない($\det H_f(a)=0$ となる)臨界点では、2 階の情報だけでは極小かどうかが決まらない(ex-lext-degenerate)。$n=1$ の 1 と 2 は、$f'(a)=0$、$f''(a)>0$ なら狭義の極小という 1 変数の 2 階の判定である(Leb26 Proposition 4.3.3、p. 174)。

2 変数の場合

2 変数の判定

$U\subset\mathbb{R}^2$ を開集合、$f\colon U\to\mathbb{R}$ を $C^2$ 級、$a\in U$ を臨界点とし、$A:=f_{xx}(a)$、$B:=f_{xy}(a)$、$C:=f_{yy}(a)$、$D:=AC-B^2=\det H_f(a)$ とおく。

  1. $D>0$ かつ $A>0$ なら、$a$ で狭義の極小をとる。
  2. $D>0$ かつ $A<0$ なら、$a$ で狭義の極大をとる。
  3. $D<0$ なら、$a$ は鞍点である。

1:2次形式 の記事の定理「正定値であるための条件」(左上の小行列式 $A$ と $D$ がともに正)により $H_f(a)$ は正定値であり、thm-lext-second-sufficient の 1 による。2:$-H_f(a)$ の左上の小行列式は $-A>0$ と $D>0$ なので、$H_f(a)$ は負定値である。3:2次形式 の記事の定理「実対称行列の主軸定理」により $H_f(a)$ は直交行列で対角化でき、固有値 $\lambda_1,\lambda_2$ の積は $\det H_f(a)=D<0$ なので、$\lambda_1,\lambda_2$ は異符号である。長さ $1$ の固有ベクトル $u_k$ について $u_k^{\top}H_f(a)u_k=\lambda_k$ なので $H_f(a)$ は不定値であり、thm-lext-second-sufficient の 3 による。$\square$

$D=0$ のときは、この判定では何も分からない(ex-lext-degenerate)。

例

3 次の多項式の臨界点

$f(x,y)=x^3+y^3-3xy$ とする。$\nabla f=(3x^2-3y,\ 3y^2-3x)$ なので、臨界点は $y=x^2$ かつ $x=y^2$、すなわち $x=x^4$ を解いて $(0,0)$ と $(1,1)$ である。$H_f=\begin{pmatrix}6x&-3\\-3&6y\end{pmatrix}$ である。

  • $(0,0)$ では $D=0\cdot0-9=-9<0$ なので鞍点である。実際 $f(t,t)=2t^3-3t^2<0$、$f(t,-t)=3t^2>0$($0<|t|< \frac32$)。
  • $(1,1)$ では $A=6>0$、$D=36-9=27>0$ なので狭義の極小で、極小値は $f(1,1)=-1$ である。
    $f(t,0)=t^3\to-\infty$($t\to-\infty$)なので $f$ は最小値をもたず、極小値 $-1$ は最小値でない。
Hesse 行列で判定できない例

次の関数はどれも原点が臨界点で、$\det H_f(0)=0$ である。

$f(x,y)$$H_f(0)$原点理由
$x^4+y^4$零行列狭義の極小原点以外で $f>0$
$-x^4-y^4$零行列狭義の極大原点以外で $f<0$
$x^4-y^4$零行列鞍点$f(t,0)>0>f(0,t)$
$x^2+y^4$$\operatorname{diag}(2,0)$狭義の極小原点以外で $f>0$
$x^2+y^3$$\operatorname{diag}(2,0)$鞍点$f(t,0)>0$、$f(0,-t)=-t^3<0$($t>0$)

1〜3 行目は Hesse 行列が同じ(零行列)なのに 3 通りの振る舞いをし、4・5 行目は Hesse 行列が同じ半正定値の行列なのに一方は極小、他方は鞍点である。2 階の情報が退化していると、3 次以上の項が形を決める。

どの直線の上でも極大だが極大でない点

$f(x,y):=(x-y^2)(2y^2-x)=-x^2+3xy^2-2y^4$ とする。原点は臨界点で、$H_f(0)=\operatorname{diag}(-2,0)$ は半負定値である。
原点を通る直線 $t\mapsto(tc,ts)$($c^2+s^2=1$)に制限すると $\varphi(t):=f(tc,ts)=-c^2t^2+3cs^2t^3-2s^4t^4$ である。$c\ne0$ なら $\varphi(t)=t^2(-c^2+3cs^2t-2s^4t^2)$ で、括弧の中は $t\to0$ で $-c^2<0$ に近づくので、$t\ne0$ が十分小さければ $\varphi(t)<0$ である。$c=0$ なら $\varphi(t)=-2t^4<0$($t\ne0$)である。したがって $f$ をどの直線に制限しても、原点で狭義の極大になる。
ところが放物線 $x=\frac32y^2$ の上では $f=\frac{y^2}{2}\cdot\frac{y^2}{2}=\frac{y^4}{4}>0$($y\ne0$)であり、この放物線の点は原点にいくらでも近い。よって $f$ は原点で極大でなく、$f(x,0)=-x^2<0$ なので極小でもない。原点は鞍点である。$f>0$ となるのは 2 本の放物線 $x=y^2$、$x=2y^2$ に挟まれた細い領域で、どの直線もこの領域を原点の近くでは通らない。この関数のグラフは Peano の曲面と呼ばれる(Leb26b Exercise 8.3.11、p. 45)。

1 変数の高階の判定

Hesse 行列が退化している場合の判定は、1 変数なら次のように完全に片付く。

高階の導関数による判定

$I$ を開区間、$k\ge2$、$f\colon I\to\mathbb{R}$ を $C^k$ 級とし、$a\in I$ で $f'(a)=f''(a)=\cdots=f^{(k-1)}(a)=0$、$f^{(k)}(a)\ne0$ とする。

  1. $k$ が偶数で $f^{(k)}(a)>0$ なら、$f$ は $a$ で狭義の極小をとる。$f^{(k)}(a)<0$ なら狭義の極大をとる。
  2. $k$ が奇数なら、$a$ は極値点でない。
剰余項の符号を見る

$f^{(k)}$ は連続で $f^{(k)}(a)\ne0$ なので、$\delta>0$ を、$(a-\delta,a+\delta)\subset I$ の上で $f^{(k)}$ が $f^{(k)}(a)$ と同じ符号をもつようにとれる。$0<|x-a|< \delta$ とすると、Taylorの定理 の記事の定理「Lagrange剰余つきのTaylorの定理」を $n=k-1$ として使い、$a$ での $1$ 階から $k-1$ 階の導関数が $0$ であることから、$a$ と $x$ の間の $c$ で
$$ f(x)-f(a)=\frac{f^{(k)}(c)}{k!}(x-a)^k $$
となる。$c\in(a-\delta,a+\delta)$ なので $f^{(k)}(c)$ は $f^{(k)}(a)$ と同じ符号である。$k$ が偶数なら $(x-a)^k>0$ なので、$f(x)-f(a)$ は $f^{(k)}(a)$ と同じ符号であり、1 を得る。$k$ が奇数なら $(x-a)^k$ は $x>a$ と $x< a$ で符号が変わるので、$a$ のどんな近くにも $f(x)>f(a)$ の点と $f(x)< f(a)$ の点がある。これが 2 である。$\square$

この判定は Leb26 Exercise 4.3.10(p. 175)にある。$x^4$、$-x^4$ は 1、$x^3$ は 2 の例である。ただし、すべての導関数が $0$ になる点ではこの判定は使えない。$f(x)=e^{-1/x^2}$($x\ne0$)、$f(0)=0$ は何回でも微分できて $f^{(k)}(0)=0$($k\ge1$)であり(Taylorの定理 の記事の命題「何回でも微分できて導関数がすべて0になる関数」)、原点以外で $f>0$ なので原点で狭義の極小をとる。$x$ を掛けた $xf(x)$ も、積の微分法により原点での導関数はすべて $0$ だが、原点の左右で符号が変わるので極値をとらない。

局所と大域

極値は近くとの比較なので、極小値が最小値とは限らない(ex-lext-cubic)。この隔たりが消える代表的な場合が凸関数である。

凸関数の極小は最小

$D\subset\mathbb{R}^n$ を凸集合、$f\colon D\to\mathbb{R}$ を凸関数($x,y\in D$、$0\le t\le1$ で $f((1-t)x+ty)\le(1-t)f(x)+tf(y)$)とする。

  1. $f$ が $a\in D$ で極小をとるならば、$f(a)$ は $f$ の $D$ 上の最小値である。
  2. $D$ が開集合で、$f$ が $a\in D$ で全微分可能かつ $\nabla f(a)=0$ ならば、$f(a)$ は $f$ の $D$ 上の最小値である。
線分に沿って比べる

1:$f(y)< f(a)$ となる $y\in D$ があるとする。$0< t\le1$ について $a+t(y-a)\in D$ であり、凸性から $f(a+t(y-a))\le(1-t)f(a)+tf(y)< f(a)$ である。$\|t(y-a)\|$ は $t\to+0$ でいくらでも小さいので、$a$ は極小点でない。これは仮定に反する。
2:$y\in D$ をとり、$\varphi(t):=f(a+t(y-a))$($0\le t\le1$)とおく。$\varphi$ は $[0,1]$ 上の凸関数なので、凸関数 の記事の命題「凸関数の傾きの単調性」の 3 を $u=0$ として使うと、$0< t\le1$ で
$$ \frac{\varphi(t)-\varphi(0)}{t}\le\varphi(1)-\varphi(0)=f(y)-f(a) $$
である。$t\to+0$ とすると、左辺は方向微分 $D_{y-a}f(a)$ に近づき、偏微分 の記事の命題「全微分可能な関数の方向微分」によりこれは $\nabla f(a)\cdot(y-a)=0$ である。よって $f(y)\ge f(a)$ である。$\square$

1 は Boy04 §4.2.2(p. 138)と同じ論法である。1 変数の場合は 凸関数 の記事の命題「凸関数の局所的な最小は全体の最小」にある。
凸でない関数でも、1 変数なら「臨界点がただ 1 つで、そこで極小」であれば最小になる。

臨界点がただ 1 つの 1 変数関数

$I$ を開区間、$f\colon I\to\mathbb{R}$ を微分可能とし、$f$ の臨界点は $a$ ただ 1 つで、$f$ は $a$ で極小をとるとする。このとき $f(a)$ は $f$ の $I$ 上の最小値である。

$b\in I$、$b>a$ で $f(b)< f(a)$ となるものがあるとする($b< a$ の場合も同様である)。$\delta>0$ を、$(a-\delta,a+\delta)\subset I$ で $f\ge f(a)$ となるようにとり、$\delta':=\min(\delta,b-a)$ とする。$(a,a+\delta')$ のすべての点で $f=f(a)$ なら、そこで $f'=0$ となり $a$ 以外の臨界点ができるので、$f(t)>f(a)$ となる $t\in(a,a+\delta')$ がある。$f$ は $[a,b]$ で連続なので最大値をとり(最大値・最小値の定理)、最大値は $f(t)$ 以上で、$f(t)>f(a)>f(b)$ なので、最大点 $c$ は $a$ とも $b$ とも異なる。$c$ は開区間 $(a,b)$ の点で極大点なので $f'(c)=0$ であり、$a$ 以外の臨界点になる。これは矛盾である。$\square$

臨界点がただ 1 つで極小なのに最小でない 2 変数関数

$f(x,y)=x^2(1+y)^3+y^2$ とする。$f_x=2x(1+y)^3$、$f_y=3x^2(1+y)^2+2y$ である。$f_x=0$ なら $x=0$ または $y=-1$ で、$x=0$ なら $f_y=2y=0$、$y=-1$ なら $f_y=-2\ne0$ なので、臨界点は原点だけである。原点で $f_{xx}=2(1+y)^3=2$、$f_{xy}=6x(1+y)^2=0$、$f_{yy}=6x^2(1+y)+2=2$ なので Hesse 行列は $\operatorname{diag}(2,2)$ で正定値であり、原点で狭義の極小、極小値は $0$ である。しかし $f(x,-2)=-x^2+4\to-\infty$($x\to\infty$)なので、$0$ は最小値でない。2 変数では、prop-lext-unique の証明のように「間に別の臨界点が挟まる」ことを 1 本の線分だけで導けない。

反例:条件を外すと崩れる例

外す条件反例成り立たなくなること
定義域が開集合(Fermat の定理)$[0,1]$ 上の $f(x)=x$ の $a=0$極値点で $f'(a)=0$
偏微分可能(Fermat の定理)$\mathbb{R}^2$ 上の $\sqrt{x^2+y^2}$ の原点極値点は臨界点
Hesse 行列が正定値(半正定値に弱める)$x^2+y^3$ の原点臨界点で極小
$n=1$(直線への制限を $n=2$ で使う)ex-lext-peano の関数の原点原点を通るどの直線の上でも狭義の極大なら極大
$n=1$(prop-lext-unique を $n=2$ で使う)$x^2(1+y)^3+y^2$臨界点がただ 1 つで極小なら最小
凸性(prop-lext-convex)$x^3+y^3-3xy$ の点 $(1,1)$極小値は最小値
表の確かめ

1 行目:$f(x)=x$ は $[0,1]$ で $0$ において最小(極小)だが、$0$ での(右側の)微分係数は $1$ である。$0$ は定義域の内部の点でない。
2 行目:原点で最小値 $0$ をとるが、$\frac{\sqrt{t^2+0}-0}{t}=\frac{|t|}{t}$ は $t\to0$ で極限をもたないので、$x$ について偏微分可能でなく、臨界点の定義を満たさない。
3 行目:ex-lext-degenerate の 5 行目による。Hesse 行列 $\operatorname{diag}(2,0)$ は半正定値で、原点は臨界点だが極小点でない。
4 行目:ex-lext-peano による。$n=1$ では「原点を通る直線」は定義域そのものなので、主張は自明に正しい。
5 行目:ex-lext-unique-fails による。
6 行目:ex-lext-cubic による。$H_f(0,0)$ は不定値なので $f$ は凸でない($C^2$ 級の凸関数の Hesse 行列は半正定値である。$t\mapsto f(a+tu)$ が凸関数になることと 凸関数 の記事の系「2階導関数による判定」による)。

補足

条件付きの極値と多様体の上の極値

条件 $g(x)=0$ のもとでの極値は、Lagrangeの未定乗数法 の記事の定理「Lagrange の未定乗数法」で臨界点を求め、同じ記事の定理「2 次の十分条件」で判定する。多様体の上の関数では、Hesse 行列は臨界点でだけ座標によらない意味をもつ(非退化臨界点 の記事の命題「Hesse形式」)。Hesse 行列が正則な臨界点では、Morse の補題により関数は座標を選べば 2 次形式そのものになり、極値かどうかは指数だけで決まる(同じ記事の命題「指数と極値」)。この記事の thm-lext-second-sufficient は、Morse の補題を使わずに $C^2$ 級の関数で同じ判定を与える。

さまざまな場面の極値

定義域が位相空間なので、極値の言葉はユークリッド空間の外でも使われる。たとえば、連結な Riemann 面の上の定数でない正則関数 $f$ について、$|f|$ はどの点でも極大値をとらない(開写像定理(複素解析) の記事の系「正則関数の最大値原理」)。極値の存在は別の問題で、有界閉集合の上の連続関数は最大値・最小値をとるので(最大値・最小値の定理)、関数が定義域の内部の各点で偏微分可能なら、最大点・最小点は臨界点か定義域の境界の点のどちらかにある(thm-lext-fermat)。関数を変数とする関数(汎関数)の極値は、変分法で扱われる。

関連項目

参考文献

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