Kripke意味論(Kripke semantics)とは、世界の集合とその上の二項関係を用意し、論理式の真偽を各世界で定める意味論である。直観主義論理では関係を情報の増え方を表す半順序にとり、命題変数の真偽は上に閉じた集合で与え、含意 $\varphi\to\psi$ を「その後のどの世界でも $\varphi$ が成り立てば $\psi$ も成り立つ」と解釈する。直観主義命題論理で証明可能な式は、すべての Kripke モデルで成り立つ式とちょうど一致し(健全性と完全性)、有限のモデルだけで判定できる。様相論理の Kripke 意味論と組み合わせると、直観主義論理が翻訳によって様相論理 $\mathbf{S4}$ に埋め込まれることが分かる。
Kripke 意味論(Kripke semantics)は、「世界」(状態)の集合とその上の二項関係を用意し、論理式の真偽を各世界で定める意味論である。様相論理では、任意の関係 $R$ について $\Box\varphi$ を「$R$ でたどれるすべての世界で $\varphi$ が真」と読む。直観主義論理では、関係を情報の増え方を表す半順序 $\le$ にとり、いったん成り立った命題は情報が増えても成り立ち続けるとする。このとき含意 $\varphi\to\psi$ は「今後のどの段階でも、$\varphi$ が成り立てば $\psi$ も成り立つ」という意味になり、排中律は一般には成り立たない。
様相論理の Kripke 意味論(フレーム、標準モデル、図式とフレームの性質の対応)は 様相論理 の記事にある。この記事では直観主義命題論理の Kripke モデルを主題とし、持続性、健全性、素な理論による完全性定理、有限モデル性と決定可能性、選言特性を証明する。最後に、直観主義論理が様相論理 $\mathbf{S4}$ に翻訳で埋め込まれること(Gödel–McKinsey–Tarski)を、両方の Kripke 意味論を使って示す。
論理式と証明体系は 直観主義論理 の記事のものを使う。命題変数 $p_0,p_1,\dots$ と $\bot$ から $\land,\lor,\to$ で論理式を作り、$\lnot\varphi:=(\varphi\to\bot)$ とする。$\Gamma\vdash_{\mathrm I}\varphi$ は、同じ記事の定義「直観主義命題論理の公理系」の公理 1〜7 と前件肯定による $\Gamma$ からの導出があることを表す。
Kripke モデル $\mathcal M=(W,\le,V)$ と $w\in W$ について、$\mathcal M,w\Vdash\varphi$(「$w$ は $\varphi$ を強制する」)を論理式の組み立てに沿って定める。誤解のないときは $w\Vdash\varphi$ と書く。
すべての $w\in W$ で $w\Vdash\varphi$ のとき $\mathcal M\Vdash\varphi$ と書く。すべての Kripke モデルで $\mathcal M\Vdash\varphi$ なら、$\varphi$ は Kripke 妥当であるという。論理式の集合 $\Gamma$ について、すべての Kripke モデルのすべての世界 $w$ で「$\Gamma$ の元をすべて強制するなら $\varphi$ も強制する」とき、$\Gamma\Vdash\varphi$ と書く。
定義は OLT26 Definition 59.1(p. 818)・Definition 59.2・59.4(p. 819)による(同書は $\lnot$ を基本の記号にしている)。$W$ を情報の状態、$w\le w'$ を「$w'$ は $w$ から情報が増えた状態」と読むと、$\land$ と $\lor$ はその場で決まるが、$\to$ と $\lnot$ は今後の状態すべてを見て決まる。
様相論理 の定義「フレームとモデル」「世界での真偽」では、関係 $R$ に条件を課さず、付値 $V(p)$ も任意の部分集合でよく、$\lnot,\land,\lor,\to$ は各世界で真理値表どおりに決まり、$\Box$ だけがたどれる世界を見る。直観主義論理のモデルでは、関係は反射的かつ推移的で、付値は上に閉じ、含意そのものがたどれる世界を見る。この違いを翻訳として述べたのが後の thm-ks-goedel である。
$W=\{w_0,w_1\}$、$w_0\le w_1$、$V(p)=\{w_1\}$ とする。$w_0\not\Vdash p$ であり、$w_0\le w_1$ かつ $w_1\Vdash p$ なので $w_0\not\Vdash\lnot p$ である。よって $w_0\not\Vdash p\lor\lnot p$。一方 $w_0$ と $w_1$ のどちらから先にも $p$ を強制する $w_1$ があるので、$w_0,w_1\not\Vdash\lnot p$、したがって $w_0\Vdash\lnot\lnot p$ である。$w_0\not\Vdash p$ なので $w_0\not\Vdash\lnot\lnot p\to p$。
$W=\{r,a,b\}$、$r\le a$、$r\le b$($a,b$ は比べられない)、$V(p)=\{a\}$、$V(q)=\{b\}$ とする。$p\land q$ はどの世界でも強制されないので $r\Vdash\lnot(p\land q)$。一方 $r\le a$、$a\Vdash p$ なので $r\not\Vdash\lnot p$、同様に $r\not\Vdash\lnot q$ であり、$r\not\Vdash\lnot p\lor\lnot q$ である。また $a\Vdash p$、$a\not\Vdash q$ から $r\not\Vdash p\to q$、同様に $r\not\Vdash q\to p$ なので、$r\not\Vdash(p\to q)\lor(q\to p)$ である。
後の thm-ks-soundness により、これらの式($p\lor\lnot p$、$\lnot\lnot p\to p$、$\lnot(p\land q)\to\lnot p\lor\lnot q$、$(p\to q)\lor(q\to p)$)は直観主義論理では証明できない。最後の式は、世界の順序が全順序のモデルではつねに強制される($w\le w_1$、$w_1\Vdash p$、$w_1\not\Vdash q$ と $w\le w_2$、$w_2\Vdash q$、$w_2\not\Vdash p$ がともにあるとすると、$w_1\le w_2$ なら lem-ks-persistence で $w_2\Vdash p$、$w_2\le w_1$ なら $w_1\Vdash q$ となり、どちらも矛盾する)。
Kripke モデルで $w\Vdash\varphi$ かつ $w\le w'$ ならば $w'\Vdash\varphi$ である。
$\varphi$ の組み立てに関する帰納法による。命題変数は $V(p)$ が上に閉じていることから、$\bot$ は自明、$\land,\lor$ は帰納法の仮定から従う。$\varphi=\psi\to\chi$ とし、$w\Vdash\varphi$、$w\le w'$ とする。$w'\le w''$、$w''\Vdash\psi$ なら、推移性から $w\le w''$ なので $w''\Vdash\chi$ である。よって $w'\Vdash\varphi$。$\square$
$(W,\le)$ を Kripke フレームとし、上に閉じた部分集合の全体を $\operatorname{Up}(W)$ とする。$\operatorname{Up}(W)$ は $\cap$、$\cup$、$\emptyset$、$W$ と
$$
U\Rightarrow U'=\{w\in W\mid w\le w'\text{ かつ }w'\in U\text{ ならば }w'\in U'\}
$$
により Heyting代数 になる。Kripke モデル $(W,\le,V)$ について $[\varphi]:=\{w\mid w\Vdash\varphi\}$ とおくと、$[\varphi]$ は付値 $p\mapsto V(p)$ による $\varphi$ の $\operatorname{Up}(W)$ での値(直観主義論理 の定義「Heyting 代数での値」)に等しい。
上に閉じた集合の共通部分と和集合は上に閉じている。$U\Rightarrow U'$ が上に閉じていることは prf-ks-persistence の含意の場合と同じ議論による。Heyting 代数であるには、$X\in\operatorname{Up}(W)$ について $X\cap U\subset U'\iff X\subset(U\Rightarrow U')$ を示せばよい。⇒:$w\in X$、$w\le w'$、$w'\in U$ なら、$X$ は上に閉じているので $w'\in X\cap U\subset U'$。⇐:$w\in X\cap U$ なら $w\in U\Rightarrow U'$ と $w\le w$ から $w\in U'$。後半は、def-ks-forcing の各項が $\operatorname{Up}(W)$ の $\cap,\cup,\Rightarrow$ と最小元 $\emptyset$ の定義そのものであることから、組み立てに関する帰納法で分かる。$\square$
$\operatorname{Up}(W)$ は $W$ の上に閉じた集合を開集合とする位相の開集合系であり、Heyting代数 の例「開集合の束」の特別な場合である。
$\Gamma\vdash_{\mathrm I}\varphi$ ならば $\Gamma\Vdash\varphi$ である。とくに直観主義論理で証明可能な論理式は Kripke 妥当である。
$\Gamma$ からの導出 $\chi_1,\dots,\chi_m$ の各 $\chi_k$ について、$\Gamma$ の元をすべて強制する世界 $w$ が $\chi_k$ を強制することを $k$ に関する帰納法で示す。$\chi_k$ が公理なら、直観主義論理 の定理「Heyting 代数に関する健全性」を $\operatorname{Up}(W)$ に当てると値は $W$ なので、prop-ks-upsets によりすべての世界で強制される。$\chi_k\in\Gamma$ なら仮定による。$\chi_k$ が $\chi_i$ と $\chi_i\to\chi_k$ から前件肯定で得られたなら、帰納法の仮定から $w\Vdash\chi_i$、$w\Vdash\chi_i\to\chi_k$ であり、$w\le w$ なので $w\Vdash\chi_k$ である。$\square$
OLT26 Theorem 60.1(p. 822)は同じ定理を導出の長さに関する帰納法の形で述べている。持続性と健全性の証明は $\le$ の反射性と推移性しか使わないので、$\le$ が前順序でも同じく成り立つ(thm-ks-goedel で使う)。
$\mathcal M=(W,\le,V)$ を Kripke モデル、$W'\subset W$ を空でない上に閉じた部分集合とし、$\mathcal M'=(W',\le|_{W'},V|_{W'})$、$V|_{W'}(p)=V(p)\cap W'$ とおく。このとき $w\in W'$ について $\mathcal M',w\Vdash\varphi\iff\mathcal M,w\Vdash\varphi$。
組み立てに関する帰納法で、含意の場合だけが問題になる。$w\in W'$ なら $w\le w'$ となる $w'$ はすべて $W'$ に入るので、$\to$ の条件でたどる世界は $\mathcal M$ と $\mathcal M'$ で同じである。$\square$
健全性の逆を、素な理論を世界とするモデルを作って示す。古典論理や 様相論理 の完全性定理では極大無矛盾集合を世界にするが、直観主義論理では「$\varphi$ が導けない」ことを保つ必要があり、極大性の代わりに選言についての条件を使う。
論理式の集合 $\Delta$ が素な理論(prime theory)であるとは、次の 3 条件をみたすことをいう。
$\Gamma\not\vdash_{\mathrm I}\varphi$ ならば、$\Gamma\subset\Delta$ かつ $\varphi\notin\Delta$ となる素な理論 $\Delta$ がある。
論理式は可算個なので $\chi_0,\chi_1,\dots$ と並べる。$\Gamma_0=\Gamma$ とし、$\Gamma_n\cup\{\chi_n\}\not\vdash_{\mathrm I}\varphi$ なら $\Gamma_{n+1}=\Gamma_n\cup\{\chi_n\}$、そうでなければ $\Gamma_{n+1}=\Gamma_n$ とする。各 $\Gamma_n$ について $\Gamma_n\not\vdash_{\mathrm I}\varphi$ であり、導出は有限個の仮定しか使わないので、$\Delta=\bigcup_n\Gamma_n$ も $\Delta\not\vdash_{\mathrm I}\varphi$ をみたす。とくに $\varphi\notin\Delta$ である。
鍵は次の観察である:$\chi=\chi_n\notin\Delta$ なら、$\chi$ は第 $n$ 段で加えられなかったので $\Gamma_n\cup\{\chi\}\vdash_{\mathrm I}\varphi$、したがって 直観主義論理 の命題「演繹定理」により $\Delta\vdash_{\mathrm I}\chi\to\varphi$ である($(\ast)$)。
1:$\Delta\vdash_{\mathrm I}\chi$ で $\chi\notin\Delta$ なら、$(\ast)$ と前件肯定で $\Delta\vdash_{\mathrm I}\varphi$ となり矛盾する。2:$\bot\in\Delta$ なら公理 7($\bot\to\varphi$)で $\Delta\vdash_{\mathrm I}\varphi$ となる。3:$\chi\lor\theta\in\Delta$ で $\chi,\theta\notin\Delta$ なら、$(\ast)$ から $\Delta\vdash_{\mathrm I}\chi\to\varphi$、$\Delta\vdash_{\mathrm I}\theta\to\varphi$ であり、公理 6 の $(\chi\to\varphi)\to((\theta\to\varphi)\to(\chi\lor\theta\to\varphi))$ と前件肯定 3 回で $\Delta\vdash_{\mathrm I}\varphi$ となる。$\square$
素な理論の全体を $W^{\mathrm c}$ とし、包含 $\subset$ を順序とする。$V^{\mathrm c}(p)=\{\Delta\in W^{\mathrm c}\mid p\in\Delta\}$ とおいた $\mathcal M^{\mathrm c}=(W^{\mathrm c},\subset,V^{\mathrm c})$ を標準モデルという。
$\vdash_{\mathrm I}\bot$ ではない(直観主義論理 の系「直観主義論理で証明できない式」)ので、lem-ks-prime-extension を $\Gamma=\emptyset$、$\varphi=\bot$ に使えば $W^{\mathrm c}$ は空でない。$V^{\mathrm c}(p)$ は明らかに上に閉じているので、$\mathcal M^{\mathrm c}$ は Kripke モデルである。
すべての論理式 $\varphi$ と $\Delta\in W^{\mathrm c}$ について、$\mathcal M^{\mathrm c},\Delta\Vdash\varphi\iff\varphi\in\Delta$。
$\varphi$ の組み立てに関する帰納法による。要は含意の場合で、そこで lem-ks-prime-extension を使う。
$\varphi=\psi\to\chi$ とする。$\psi\to\chi\in\Delta$ で、$\Delta\subset\Delta'$、$\Delta'\Vdash\psi$ なら、帰納法の仮定から $\psi\in\Delta'$、$\psi\to\chi\in\Delta'$ であり、$\Delta'$ は導出で閉じているので $\chi\in\Delta'$、すなわち $\Delta'\Vdash\chi$。よって $\Delta\Vdash\psi\to\chi$。逆に $\psi\to\chi\notin\Delta$ なら $\Delta\cup\{\psi\}\not\vdash_{\mathrm I}\chi$ である(そうでなければ演繹定理で $\Delta\vdash_{\mathrm I}\psi\to\chi$ となり、閉じているので $\psi\to\chi\in\Delta$)。lem-ks-prime-extension で $\Delta\cup\{\psi\}\subset\Delta'$、$\chi\notin\Delta'$ となる素な理論 $\Delta'$ をとれば、$\Delta\subset\Delta'$ で、帰納法の仮定から $\Delta'\Vdash\psi$、$\Delta'\not\Vdash\chi$ なので $\Delta\not\Vdash\psi\to\chi$。
命題変数は $V^{\mathrm c}$ の定義、$\bot$ は素な理論の条件 2 による。$\land$:公理 3 と公理 4 と導出で閉じていることから $\psi\land\chi\in\Delta\iff\psi\in\Delta$ かつ $\chi\in\Delta$。$\lor$:$\psi\in\Delta$ か $\chi\in\Delta$ なら公理 5 で $\psi\lor\chi\in\Delta$、逆は素な理論の条件 3 である。いずれも帰納法の仮定と合わせればよい。$\square$
論理式の集合 $\Gamma$ と論理式 $\varphi$ について、$\Gamma\Vdash\varphi$ ならば $\Gamma\vdash_{\mathrm I}\varphi$ である。したがって thm-ks-soundness と合わせて、$\Gamma\vdash_{\mathrm I}\varphi\iff\Gamma\Vdash\varphi$ であり、とくに $\vdash_{\mathrm I}\varphi$ であることと $\varphi$ が Kripke 妥当であることは同値である。
$\Gamma\not\vdash_{\mathrm I}\varphi$ とする。lem-ks-prime-extension で $\Gamma\subset\Delta$、$\varphi\notin\Delta$ となる素な理論 $\Delta$ をとると、lem-ks-truth により標準モデルの世界 $\Delta$ は $\Gamma$ の元をすべて強制し、$\varphi$ を強制しない。よって $\Gamma\not\Vdash\varphi$。$\square$
素な理論と拡大の補題は OLT26 Definition 60.3・Lemma 60.4(p. 825)にある。同書は世界を自然数の有限列の木にとった標準モデルを作り、真理補題と完全性定理を Lemma 60.6(p. 827)・Theorem 60.7(p. 828)で示している。上の拡大の補題の証明は、選言を 1 つずつ処理する同書の証明とは別の、論理式を順に加える短い形にした。
prop-ks-upsets により、Kripke モデルは Heyting 代数 $\operatorname{Up}(W)$ に値をとる付値の特別な場合である。thm-ks-completeness と後の thm-ks-finite-model を合わせると、直観主義論理 の定理「Heyting 代数と Kripke モデルに関する完全性」の 1 と 3 の同値が得られる。
標準モデルは無限である。与えられた論理式の部分論理式の真偽だけを見分けるように世界をまとめると、有限のモデルに縮められる。以下 $\operatorname{Sub}(\varphi)$ は $\varphi$ の部分論理式($\varphi$ 自身を含む)の有限集合である。
$\varphi$ を強制しない世界をもつ Kripke モデルがあれば、世界の個数が $2^{|\operatorname{Sub}(\varphi)|}$ 以下で、$\varphi$ を強制しない世界をもつ Kripke モデルがある。したがって、$\vdash_{\mathrm I}\varphi$ であるかどうかは決定可能である。
$\mathcal M=(W,\le,V)$、$w_*\not\Vdash\varphi$ とし、$\Sigma=\operatorname{Sub}(\varphi)$ とおく。$u\in W$ に $\tau(u)=\{\psi\in\Sigma\mid u\Vdash\psi\}$ を対応させ、$W^*=\{\tau(u)\mid u\in W\}$ に包含を順序として入れる。$W^*$ は $\Sigma$ の部分集合からなるので $2^{|\Sigma|}$ 個以下である。$V^*(p)=\{X\in W^*\mid p\in X\}$($p\in\Sigma$ のとき。それ以外は $\emptyset$)は上に閉じている。$\mathcal M^*=(W^*,\subset,V^*)$ について、すべての $\psi\in\Sigma$ と $u\in W$ で
$$
\mathcal M,u\Vdash\psi\iff\mathcal M^*,\tau(u)\Vdash\psi
$$
を $\psi$ の組み立てに関する帰納法で示す($\Sigma$ は部分論理式で閉じているので、帰納法の仮定が使える)。命題変数は $V^*$ の定義から、$\bot,\land,\lor$ は帰納法の仮定から従う。含意 $\psi=\theta\to\chi$ の場合は、⇒ で $\theta\to\chi\in\tau(u)\subset\tau(v)$ を、⇐ で lem-ks-persistence を使う。
⇒:$u\Vdash\theta\to\chi$、$\tau(u)\subset\tau(v)$、$\tau(v)\Vdash\theta$ とする。帰納法の仮定から $v\Vdash\theta$ であり、$\theta\to\chi\in\tau(u)\subset\tau(v)$ なので $v\Vdash\theta\to\chi$、$v\le v$ から $v\Vdash\chi$、よって $\tau(v)\Vdash\chi$。
⇐:$u\not\Vdash\theta\to\chi$ なら、$u\le u'$、$u'\Vdash\theta$、$u'\not\Vdash\chi$ となる $u'$ がある。lem-ks-persistence により $\tau(u)\subset\tau(u')$ であり、帰納法の仮定から $\tau(u')\Vdash\theta$、$\tau(u')\not\Vdash\chi$ なので $\tau(u)\not\Vdash\theta\to\chi$。
$\vdash_{\mathrm I}\varphi\lor\psi$ ならば、$\vdash_{\mathrm I}\varphi$ または $\vdash_{\mathrm I}\psi$ である。
$\not\vdash_{\mathrm I}\varphi$ かつ $\not\vdash_{\mathrm I}\psi$ とする。thm-ks-completeness により、Kripke モデル $\mathcal M_1,\mathcal M_2$ と世界 $w_1,w_2$ で $w_1\not\Vdash\varphi$、$w_2\not\Vdash\psi$ となるものがある。lem-ks-generated により、$\mathcal M_i$ を $\{u\mid w_i\le u\}$ に制限してよい。2 つを交わらないように並べ、新しい世界 $r$ をすべての世界より下に加え、どの命題変数も $r$ では強制されないとする。得られた $\mathcal M$ は Kripke モデルで、$\{u\mid w_i\le u\}$ は $\mathcal M$ でも上に閉じているので、lem-ks-generated により $w_1,w_2$ での強制は元のモデルと同じである。$r\Vdash\varphi$ なら lem-ks-persistence で $w_1\Vdash\varphi$ となり矛盾し、同様に $r\not\Vdash\psi$。よって $r\not\Vdash\varphi\lor\psi$ であり、thm-ks-soundness から $\not\vdash_{\mathrm I}\varphi\lor\psi$。$\square$
直観主義論理 の定理「選言特性」はこの定理と同じ主張である。この議論は OLT26 の Problem 60.5(p. 829)の指示に沿う。
rem-ks-modal の違いを埋めるには、直観主義論理の「今後のすべての段階で」を $\Box$ で書けばよい。以下、様相論理の論理式・モデル・体系 $\mathbf{S4}$ は 様相論理 の記事のものとし、直観主義論理の命題変数をそのまま様相論理の命題変数とみなす。
直観主義命題論理の論理式 $\varphi$ に様相論理の論理式 $T(\varphi)$ を次で対応させる。
$$
T(p)=\Box p,\quad T(\bot)=\bot,\quad T(\varphi\land\psi)=T(\varphi)\land T(\psi),\quad T(\varphi\lor\psi)=T(\varphi)\lor T(\psi),\quad T(\varphi\to\psi)=\Box\bigl(T(\varphi)\to T(\psi)\bigr).
$$
$(W,R)$ を $R$ が反射的かつ推移的なフレーム、$V$ を任意の付値とし、$V'(p)=\{w\mid(W,R,V),w\Vdash\Box p\}$ とおく。$V'(p)$ は $R$ について上に閉じており、すべての $\varphi$ と $w\in W$ について
$$
(W,R,V'),w\Vdash\varphi\iff(W,R,V),w\Vdash T(\varphi)
$$
が成り立つ。左辺は $\le$ を $R$ に替えた(前順序上の)Kripke モデルでの強制である。
$w\Vdash\Box p$、$wRw'$ とすると、$w'Ru$ なら推移性から $wRu$ なので $u\Vdash p$、よって $w'\Vdash\Box p$ である。同値は $\varphi$ の組み立てに関する帰納法による。命題変数は $V'$ の定義、$\bot,\land,\lor$ は帰納法の仮定から従う。含意:左辺の $w\Vdash\varphi\to\psi$ は「$wRw'$ となるすべての $w'$ で、$w'\Vdash\varphi$ なら $w'\Vdash\psi$」であり、帰納法の仮定でこれは「$wRw'$ となるすべての $w'$ で $w'\Vdash T(\varphi)\to T(\psi)$」、すなわち $w\Vdash\Box(T(\varphi)\to T(\psi))$ と同値である。$\square$
直観主義命題論理の論理式 $\varphi$ について、$\vdash_{\mathrm I}\varphi\iff\mathbf{S4}\vdash T(\varphi)$。
⇒:$(W,R)$ を反射的かつ推移的なフレーム、$V$ を付値とする。$\vdash_{\mathrm I}\varphi$ なので、thm-ks-soundness(前順序でも成り立つ)により前順序上のモデル $(W,R,V')$ のすべての世界で $\varphi$ が強制され、lem-ks-translation から $(W,R,V)\Vdash T(\varphi)$ である。よって $T(\varphi)$ は反射的かつ推移的なすべてのフレームで妥当であり、様相論理 の定理「標準モデルの性質と完全性定理」の 3 により $\mathbf{S4}\vdash T(\varphi)$。
⇐:同じ定理の 3 により、$T(\varphi)$ は反射的かつ推移的なすべてのフレームで妥当である。Kripke モデル $(W,\le,V)$ を様相論理のモデルとみると、$\le$ は反射的で $V(p)$ は上に閉じているので $w\Vdash\Box p\iff w\in V(p)$、すなわち $V'=V$ である。lem-ks-translation から $(W,\le,V)$ のすべての世界で $\varphi$ が強制される。よって $\varphi$ は Kripke 妥当であり、thm-ks-completeness により $\vdash_{\mathrm I}\varphi$。$\square$
様相論理への翻訳は Gödel(1933 年)が導入し(Gödel の元の翻訳は上の $T$ と細部が異なる)、両向きの同値は McKinsey と Tarski(1948 年)が示した。$\mathbf{S4}$ の $\Box\varphi$ を「$\varphi$ が証明された」と読むと、$T$ は BHK 解釈(直観主義論理 の注意「証明による意味づけ(BHK 解釈)」)の「証明」を様相として書いたものになる。
直観主義述語論理では、各世界 $w$ に空でない領域 $D(w)$ を与え、$w\le w'$ なら $D(w)\subset D(w')$ とし、関係記号の解釈も情報が増えると広がるようにする。$w\Vdash\exists x\,\varphi(x)$ は「ある $d\in D(w)$ で $w\Vdash\varphi(d)$」、$w\Vdash\forall x\,\varphi(x)$ は「$w\le w'$ となるすべての $w'$ とすべての $d\in D(w')$ で $w'\Vdash\varphi(d)$」と定める。全称量化も含意と同じく今後の状態を見る。トポスの内部論理 の定理「前層のトポスの Kripke–Joyal 意味論」は、この形の強制を半順序集合上の前層、さらに一般の小さい圏上の前層に広げたものになっている。述語論理の完全性はこの記事では扱わない。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| 付値 $V(p)$ が上に閉じていること | $w_0\le w_1$、$V(p)=\{w_0\}$、$V(q)=\{w_0,w_1\}$ | 公理 1 の例 $p\to(q\to p)$ が強制されること(健全性) |
| $\le$ の反射性 | 1 点 $w$、関係は空、$V(p)=\{w\}$ | $\{p,\lnot p\}\vdash_{\mathrm I}\bot$ に対する健全性 |
| $\le$ の推移性 | $W=\{a,b,c\}$、関係は反射律のほかに $a\le b$、$b\le c$ だけ、$V(p)=\{c\}$ | 持続性 |
| 翻訳で含意に $\Box$ を付けること | $T(\varphi\to\psi)$ を $T(\varphi)\to T(\psi)$ に替えた翻訳 | $\vdash_{\mathrm I}\varphi\iff\mathbf{S4}\vdash T(\varphi)$ |
1 行目:$w_0\Vdash p$ だが、$w_1\Vdash q$、$w_1\not\Vdash p$ なので $w_0\not\Vdash q\to p$、よって $w_0\not\Vdash p\to(q\to p)$。関係は半順序で、上に閉じていないのは $V(p)$ だけである。2 行目:関係は空なので推移的かつ反対称的で、$V(p)$ は上に閉じている。$w$ からたどれる世界がないので $w\Vdash\lnot p$(含意はすべて強制される)だが、$w\Vdash p$、$w\not\Vdash\bot$ である。3 行目:$V(p)$ は上に閉じている。$a$ からたどれるのは $a,b$ で、どちらも $p$ を強制しないので $a\Vdash\lnot p$。$b$ からは $c\Vdash p$ にたどれるので $b\not\Vdash\lnot p$。$a\le b$ なのに強制が保たれない。4 行目:$p\lor\lnot p$ の翻訳は $\Box p\lor(\Box p\to\bot)$ になり、これは恒真式 $q\lor(q\to\bot)$ の代入例なので $\mathbf{S4}$ の定理であるが、ex-ks-chain と thm-ks-soundness により $\not\vdash_{\mathrm I}p\lor\lnot p$。
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