特性サイクル

同義語:構成可能層の特性サイクルcharacteristic cycle斎藤の指数公式

概要

特性サイクル(characteristic cycle)とは、滑らかな多様体 $X$ の上の構成可能層 $F$ に対して、余接束 $T^*X$ の $\dim X$ 次元の円錐的なサイクル $CC(F)$ を対応させる不変量である。複素多様体では、Whitney 層別の各層の余法束の閉包に、複素リンクを使った局所的な Euler 標数で係数をつけて定め、コンパクトな $X$ では Euler 標数が $CC(F)$ と零切断の交点数に等しい(大域指数公式)。正標数の代数多様体のエタール層では、斎藤毅が特異台の成分の整数係数の 1 次結合として、消失サイクルの全次元を交点数で表す Milnor 公式で特徴づけ、射影的な $X$ で同じ指数公式を証明した。曲線では係数は Artin 導手で決まり、指数公式は Grothendieck–Ogg–Shafarevich の公式になる。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 特異台(エタール層), マイクロ台, 構成可能層, Euler標数, 交叉理論

特性サイクル(characteristic cycle)は、滑らかな多様体 $X$ の上の構成可能層(の複体)$F$ に対して、余接束 $T^*X$ の $\dim X$ 次元の円錐的なサイクル $CC(F)$、すなわち円錐的な既約閉集合の整数係数の 1 次結合を対応させる不変量である。台はマイクロ台(複素多様体の場合)や特異台(エタール層)(代数多様体のエタール層の場合)に含まれ、係数は「層別に横切る方向に見た局所的な Euler 標数」、あるいは消失サイクルの次元で決まる。
特性サイクルの基本的な性質は指数公式である:コンパクトな(射影的な)$X$ について、Euler 標数 $\chi(X,F)$ は $CC(F)$ と零切断 $T^*_XX$ の交点数に等しい。複素多様体では、これは Kashiwara の指数定理と Dubson・Sabbah・Ginsburg の交点公式にさかのぼり、特異点をもつ空間の Poincaré–Hopf の定理を含む。正標数の代数多様体では斎藤毅が特性サイクルを構成し、指数公式を証明した。曲線の場合、指数公式は Grothendieck–Ogg–Shafarevich の公式になる。
この記事では、複素多様体の上の特性サイクルを層別 Morse 理論の言葉で定義し、局所系と曲線の上の層について係数を計算する。エタール層の特性サイクルを Milnor 公式で特徴づけ、曲線の場合の式を Milnor 公式から導く。指数公式は引用とし、曲線の上で定数層・零拡張・摩天楼層について両辺を直接計算して確かめる。

複素多様体の上の特性サイクル

$M$ を $m$ 次元の複素多様体、$X\subset M$ を閉じた複素解析的部分集合(または複素代数多様体の閉部分多様体)とし、$X$ の複素解析的な Whitney 層別 $\mathcal S$ を固定する(Whitney層別)。係数は体 $R$ とし、$\mathcal S$ に関して構成可能な複体 $F\in D^b_{\mathcal S\text{-}c}(X;R)$(構成可能層)を考える。$F$ の茎の Euler 標数
$$ \alpha(x):=\chi(F_x)=\sum_i(-1)^i\dim_RH^i(F)_x $$
は各層の上で一定であり、$\mathcal S$ に関して構成可能な関数になる。層 $S$ の上の値を $\alpha(S)$ と書く。
層 $S\in\mathcal S$ の余法束 $T^*_SM$ の閉包 $\overline{T^*_SM}$ は、$T^*M$ の $m$ 次元の既約な円錐的 Lagrange 部分集合である。その基本類を $[T^*_SM]$ と書き、
$$ \sum_{S\in\mathcal S}m(S)\,[T^*_SM]\qquad(m(S)\in\mathbb Z) $$
の形の(局所)有限和を Lagrange サイクルという(MS21 Definition 3.32、p. 38)。
層 $S$ の点 $x$ での複素リンクを次のように定める(MS21 の式 (29)、pp. 29–30)。$x$ の近くで $M$ を $\mathbb C^n$ の開集合と見て $x=0$ とし、$x$ を通り $S$ と横断的に交わる複素部分多様体 $N$(法断面、$N\cap S=\{x\}$、$\dim N=m-\dim S$)をとる。$g$ を、$dg_x$ が $T^*_SM$ の非退化な元($S$ 以外の層の余法束の閉包に入らない元)となる正則関数とし、$r(z):=\sum_i|z_i|^2$ とおく。$0< |w|\ll\delta\ll1$ について
$$ l_X:=X\cap N\cap\{r\le\delta,\ g=w\},\qquad \partial l_X:=X\cap N\cap\{r=\delta,\ g=w\} $$
とし、$l^\circ_X:=l_X\setminus\partial l_X$ とおく。これは $g$ の $X\cap N$ の上の局所 Milnor ファイバーであり、その上のコホモロジーは層 $S$ だけで決まり、$x$、$N$、$g$ の選び方によらない(MS21 Proposition 3.14、p. 29)。

特性サイクル(複素多様体)

$F\in D^b_{\mathcal S\text{-}c}(X;R)$ の特性サイクルを
$$ CC(F):=\sum_{S\in\mathcal S}m(S)\,[T^*_SM] $$
と定める。ここで係数 $m(S)$ は、層 $S$ の点 $x$ と、$S$ を境界に含む層 $S'$($S\subset\overline{S'}\setminus S'$)について
$$ (-1)^{\dim S}m(S)=\alpha(x)-\sum_{S\subset\partial S'}c(S,S')\,\alpha(S'),\qquad c(S,S'):=\chi_c(l^\circ_X\cap S') $$
で与えられる。

これは MS21 Definition 3.34 と式 (39)・(40)(p. 39)である。同書は係数をもともと、層別 Morse 理論の「法 Morse データ」$\mathrm{NMD}(F,S)$ の Euler 標数を使って $m(S)=(-1)^{\dim S}\chi(\mathrm{NMD}(F,S))$ と定め、複素リンクを使う上の式がそれと等しいことを示している。$\mathrm{NMD}(F,S)$ は、$x$ で非退化な余接ベクトル $d(\mathrm{Re}\,g)_x$ をもつ関数について $R\Gamma_{\{\mathrm{Re}\,g\ge0\}}(F|_{N\cap X})_x$ をとったものであり(同 式 (26)、pp. 28–29)、マイクロ台の定義に現れた量と同じ形をしている。係数は $\alpha$ だけで決まり、$CC(F)$ は Whitney 層別を細かくしても変わらない(同 p. 40)。
特性サイクルは加法的である:完全三角形 $F'\to F\to F''\xrightarrow{+1}$ について $\alpha_F=\alpha_{F'}+\alpha_{F''}$ なので、$CC(F)=CC(F')+CC(F'')$ である。とくに $CC(F[1])=-CC(F)$ である。構成可能関数と Lagrange サイクルの対応 $\alpha\mapsto CC(\alpha)$ は同型 $CF(X)\cong L(T^*M|_X)$ を与える(同 式 (45)、p. 40)。
マイクロ台との関係。 $k\colon X\to M$ を包含とすると、$\operatorname{supp}CC(F)\subset\mathrm{SS}(Rk_*F)$ であり、$F$ が偏屈層なら等号が成り立ち、しかも $CC(F)$ は有効(係数がすべて $0$ 以上)である(MS21 の式 (42)・(43) と p. 40)。一般には等号は成り立たない(節「反例」)。

係数の計算

局所系の特性サイクル

$X\subset M$ が連結な閉部分多様体で、$F$ が $X$ 上の階数 $r$ の局所系なら、$CC(F)=(-1)^{\dim X}r\,[T^*_XM]$ である。

$X$ だけからなる層別 $\mathcal S=\{X\}$ について $F$ は構成可能であり、$\alpha(X)=\chi(F_x)=r$ である。$X$ を境界に含む層はないので、def-cc-complex の和は空であり、$(-1)^{\dim X}m(X)=r$ となる。$\square$

これは MS21 Example 3.35(p. 39)である。符号 $(-1)^{\dim X}$ は、次に述べる交点数の向きの規約から来る。

曲線の上の特性サイクル(複素多様体)

$X$ を連結な Riemann 面($M=X$、$m=1$)、$\Sigma=\{x_1,\dots,x_s\}\subset X$ を離散集合、$U:=X\setminus\Sigma$ とし、$F$ を $U$ の上で局所定数な構成可能複体とする。$u\in U$ について $r:=\chi(F_u)$ とおくと
$$ CC(F)=-r\,[T^*_XX]+\sum_{i=1}^s\bigl(\chi(F_{x_i})-r\bigr)[T^*_{x_i}X] $$
である。

層別 $\mathcal S=\{U,\{x_1\},\dots,\{x_s\}\}$ をとる($U$ は連結で、各点 $x_i$ は $U$ の境界にある)。これは Whitney 層別であり、$F$ はこれに関して構成可能である。
開いた層 $U$ については、$U$ を境界に含む層がないので $(-1)^1m(U)=\alpha(U)=r$、すなわち $m(U)=-r$ である。$\overline{T^*_UX}$ は零切断 $T^*_XX$ である。
点の層 $\{x_i\}$ については、法断面 $N$ は $x_i$ の近傍全体($\dim N=1-0$)である。$\{x_i\}$ より大きい層は $U$ だけで、その余法束は零切断なので、非退化な $g$ とは $dg_{x_i}\neq0$ となる正則関数、すなわち $x_i$ のまわりの局所座標である。$g=w$ となる点は、$x_i$ の小さな近傍の中にちょうど 1 つあり、$|w|\ll\delta$ ならそれは球 $\{r< \delta\}$ の内部にある。よって $l^\circ_X$ は $U$ の 1 点であり、$c(\{x_i\},U)=\chi_c(\mathrm{pt})=1$ である。定義により
$$ (-1)^0m(\{x_i\})=\alpha(x_i)-c(\{x_i\},U)\,\alpha(U)=\chi(F_{x_i})-r $$
である。$T^*_{\{x_i\}}X$ はファイバー $T^*_{x_i}X$ である。$\square$

たとえば $F$ が $X$ 全体の定数層 $\mathbb C_X$ なら、$\chi(F_{x_i})=r=1$ なので点の係数は消え、$CC(\mathbb C_X)=-[T^*_XX]$ となって prop-cc-local-system と合う。$j\colon U\to X$ による零拡張 $j_!\mathbb C_U$ なら $\chi(F_{x_i})=0$ なので $CC=-[T^*_XX]-\sum_i[T^*_{x_i}X]$、摩天楼層 $\mathbb C_{\{x\}}$ なら $r=0$ なので $CC=[T^*_xX]$ である。

指数公式

$T^*M$ の $m$ 次元の閉集合 $A,B$ で $A\cap B$ がコンパクトなものについて、Borel–Moore ホモロジーの類の交点数 $\sharp(A\cap B)\in\mathbb Z$ が、$T^*M$ と $A,B$ の複素構造から定まる向きを使って定義される(MS21 p. 41)。複素部分多様体が 1 点で横断的に交わるときの局所交点数は $1$ である(同 Example 3.37、p. 41)。

大域指数公式

$X\subset M$ をコンパクトな複素解析的部分集合とし、$F\in D^b_{\mathcal S\text{-}c}(X;R)$ とする。このとき
$$ \chi(X,F)=\sharp\bigl(CC(F)\cap[T^*_MM]\bigr) $$
である。さらに、$M$ 上の 1 形式 $\omega$ で、そのグラフ $\omega(M)$ が $\bigcup_ST^*_SM$ と有限個の点でしか交わらないものについて、右辺は $\sharp(CC(F)\cap[\omega(M)])$ に等しく、各交点での局所交点数の和になる。

証明の方針と特別な場合

これは MS21 Theorem 3.38(p. 41)と Example 3.39 の式 (52)–(54)(p. 43)である。この記事では証明しない。証明は、層別 Morse 関数 $f$ の臨界点ごとに、コホモロジーの変化 $\chi(\text{局所 Morse データ})$ が $(-1)^\lambda\chi(\mathrm{NMD}(F,S))$($\lambda$ は Morse 指数)であることと、$d f$ のグラフと $[T^*_SM]$ の局所交点数が $(-1)^{\dim S}(-1)^\lambda$ であること(同 式 (47))を合わせて行う。係数の符号 $(-1)^{\dim S}$ はこの一致のために選ばれている。層 $F$ が定数層 $\mathbb C_X$ で $X=M$ がコンパクトな多様体なら、$CC=(-1)^m[T^*_MM]$ であり、公式は零切断の自己交点数が $(-1)^m\chi(M)$ であるという Poincaré–Hopf の定理の言い換えになる。$\omega$ を動かした形は、特異点をもつ空間の上の 1 形式の指数の和で Euler 標数を表す(同 式 (54))。

指数公式の左辺は、茎の Euler 標数だけで書ける:層 $S$ ごとのコンパクト台の Euler 標数 $\chi_c(S)$ を使って
$$ \chi(X,F)=\chi_c(X,F)=\sum_{S\in\mathcal S}\chi_c(S)\,\alpha(S) $$
である(MS21 の式 (3)・(6)、p. 11。$X$ がコンパクトなので $\chi=\chi_c$)。曲線ではこれを使って両辺を直接比べられる。

曲線の上の指数公式

$X$ を種数 $g$ のコンパクトで連結な Riemann 面とし、thm-cc-complex-curve と同じ記号で $F$ をとる。このとき thm-cc-global-index の両辺はともに
$$ r(2-2g-s)+\sum_{i=1}^s\chi(F_{x_i}) $$
に等しい。

左辺。 上の式で層 $U,\{x_1\},\dots,\{x_s\}$ に分けると、$\chi(X,F)=\chi_c(U)\,r+\sum_i\chi(F_{x_i})$ である。同じ式を定数層 $\mathbb C_X$($\alpha=1$)に使うと $\chi(X)=\chi_c(U)+s$ であり、コンパクトな種数 $g$ の Riemann 面の Euler 標数は $2-2g$ なので(種数の系「種数のEuler標数による式」)、$\chi_c(U)=2-2g-s$ である。よって左辺は主張の値に等しい。
右辺。 thm-cc-complex-curve により
$$ \sharp\bigl(CC(F)\cap[T^*_XX]\bigr)=-r\,\sharp\bigl([T^*_XX]\cap[T^*_XX]\bigr)+\sum_i\bigl(\chi(F_{x_i})-r\bigr)\,\sharp\bigl([T^*_{x_i}X]\cap[T^*_XX]\bigr) $$
である。ファイバー $T^*_{x_i}X$ と零切断は、点 $(x_i;0)$ だけで横断的に交わる複素曲線なので、交点数は $1$ である。零切断の自己交点数は、零切断の法束の次数に等しい。ベクトル束の零切断の法束はそのベクトル束自身なので、法束は正則余接束 $T^*X$、すなわち標準束であり、その次数は $2g-2$ である(標準因子の定理「標準因子の次数」。曲面の上の曲線の自己交点数と法束の次数の関係は交叉理論の系「自己交叉数と法束」)。よって右辺は
$$ -r(2g-2)+\sum_i\bigl(\chi(F_{x_i})-r\bigr)=r(2-2g-s)+\sum_i\chi(F_{x_i}) $$
であり、左辺と一致する。$\square$

たとえば $g=0$(Riemann 球面)、$s=2$、$F=j_!\mathbb C_U$($U=\mathbb C^\times$)なら、両辺は $1\cdot(2-0-2)+0=0$ であり、$\chi_c(\mathbb C^\times)=0$ と合う。

エタール層の特性サイクル

$k$ を完全体、$X$ を $k$ 上の $n$ 次元の滑らかな多様体、$\Lambda$ を標数 $\ell\neq p$ の剰余体をもつ有限局所環とし、$F$ を有限 Tor 次元の構成可能複体とする。$F$ の特異台(エタール層)を $C=\mathrm{SS}(F)$ とすると、$C$ の既約成分はすべて $n$ 次元である。
Milnor 公式の設定。 エタール射 $j\colon W\to X$、滑らかな曲線への射 $f\colon W\to Y$、閉点 $u\in W$ について、$u$ の近傍 $V$ があって試験対 $X\leftarrow V\setminus\{u\}\to Y$ が $C$ 横断的であるとき、$u$ を $f$ の高々孤立した $C$ 特性点という(Sai17 Definition 4.3、p. 40)。このとき、$Y$ の $f(u)$ の近くの 1 形式の基底 $\omega$ を引き戻した $T^*W$ の切断 $f^*\omega$($df$ と書く)と、$j^*C$ の成分は、ファイバー $T^*_uW$ の上の高々 1 点でしか交わらず、局所交点数 $(A,df)_{T^*W,u}$ が $C$ の成分の 1 次結合 $A$ について定まる(同)。
消失サイクル $\phi_u(j^*F,f)$ は $\bar u$ での茎と Milnor ファイバーのコホモロジーの差であり、その全次元 $\dim\mathrm{tot}$ は、次元に Swan 導手(野性分岐の大きさ)を足したものの交代和である(Sai17 (1.19)、p. 14)。

斎藤の特性サイクル

上の設定で、$C=\bigcup_aC_a$ の既約成分の整数係数の 1 次結合 $CC(F)=\sum_am_a[C_a]$ で、すべての $j$、$f$、高々孤立した $C$ 特性点 $u$ について Milnor 公式
$$ -\dim\mathrm{tot}\,\phi_u(j^*F,f)=(CC(F),df)_{T^*W,u} $$
を満たすものがただ 1 つ存在する。

定理の所在と証明の要点

これは Sai17 Theorem 4.9(p. 45)・Definition 4.10(p. 46)であり、係数が整数であること(同 Theorem 4.18、p. 48。Beilinson の証明)を含む。この記事では証明しない。証明の要点は、射影空間への埋め込みから作る鉛筆(pencil)の族の上で、消失サイクルの全次元が連続的に変わること(Deligne–Laumon の Swan 導手の半連続性の高次元化、同 Proposition 1.16)にある。

特性サイクルは加法的であり(完全三角形について $CC(F)=CC(F')+CC(F'')$)、Verdier 双対で変わらず($CC(D_XF)=CC(F)$)、偏屈層なら有効で台は $\mathrm{SS}(F)$ に一致する(Sai17 Lemma 4.13、p. 47、Proposition 4.14、pp. 47–48)。局所定数な $F$ については $CC(F)=(-1)^n\operatorname{rank}F\,[T^*_XX]$ である(同 Lemma 4.11 の 1、p. 46。定数層の場合は Deligne の Milnor 公式)。これは複素の場合の prop-cc-local-system と同じ形である。

曲線の場合と Artin 導手

$X$ を曲線($n=1$)、$U\subset X$ を $F$ が局所定数となる稠密な開集合とする。$x\in X\setminus U$ について、狭義局所化の幾何的生成点を $\bar\eta_x$ とし、Artin 導手を
$$ a_x(F):=\operatorname{rank}F_{\bar\eta_x}-\operatorname{rank}F_{\bar x}+\mathrm{Sw}_xF_{\bar\eta_x} $$
と定める($\operatorname{rank}$ は茎の階数の交代和、$\mathrm{Sw}_x$ は Swan 導手)。

曲線の特性サイクル(エタール)

上の記号で、$r:=\operatorname{rank}F_{\bar\eta}$(生成点での階数)とすると
$$ CC(F)=-\Bigl(r\,[T^*_XX]+\sum_{x\in X\setminus U}a_x(F)\,[T^*_xX]\Bigr) $$
である。

特異台(エタール層)の定理「曲線の上の層の特異台」により、$\mathrm{SS}(F)$ は零切断と、$x\in X\setminus U$ の上のファイバー $T^*_xX$ の和に含まれる(台が $X$ 全体でないときも、この和にマイクロ台をもつ)。よって $CC(F)=m_0[T^*_XX]+\sum_xm_x[T^*_xX]$ と書ける。
零切断の係数:$U$ の上では $F$ は局所定数なので、エタール射(開埋め込み)$U\to X$ への制限と Lemma 4.11 の 1(上に引用)から $m_0=(-1)^1r=-r$ である(Milnor 公式はエタール局所的な条件なので、$CC(F|_U)=CC(F)|_U$)。
ファイバーの係数:$j=\mathrm{id}_X$、$f=\mathrm{id}_X\colon X\to Y=X$、$u=x$ に Milnor 公式を使う。$x$ の開近傍 $V$ を $V\cap(X\setminus U)=\{x\}$ となるようにとると、$V\setminus\{x\}$ の上では $C$ は零切断であり、恒等射は滑らかなので零切断に横断的である。よって $x$ は $f$ の高々孤立した $C$ 特性点である。$x$ の近くの座標 $t$ について $df=dt$ は零切断と交わらない $T^*X$ の切断である。交点数は、$dt$ のグラフが零切断と交わらず、ファイバー $T^*_xX$ と点 $(x;dt_x)$ で横断的に 1 回交わることから
$$ (CC(F),dt)_{T^*X,x}=m_x $$
である。一方、恒等射の Milnor ファイバーは幾何的生成点 $\bar\eta_x$ なので、消失サイクルは茎の写像 $F_{\bar x}\to F_{\bar\eta_x}$ の錐であり、その全次元は $\dim\mathrm{tot}F_{\bar\eta_x}-\operatorname{rank}F_{\bar x}=a_x(F)$ である(Sai17 Lemma 4.11 の証明、p. 46)。Milnor 公式から $m_x=-a_x(F)$ である。$\square$

これは Sai17 Lemma 4.11 の 3(p. 46)である。$F$ が順分岐なら $\mathrm{Sw}=0$ で、係数 $-a_x(F)=\operatorname{rank}F_{\bar x}-r$ は複素の場合の thm-cc-complex-curve の係数 $\chi(F_x)-r$ と同じ形である。Swan 導手は、複素の場合にない「野性分岐の分だけ特性サイクルが重くなる」現象を表す。

指数公式と Grothendieck–Ogg–Shafarevich の公式

斎藤の指数公式

$X$ を代数閉体上の射影的で滑らかな多様体とすると、上の $F$ について
$$ \chi(X,F)=(CC(F),T^*_XX)_{T^*X} $$
である。右辺は $T^*X$ の中での $CC(F)$ と零切断の交点数である。

定理の所在と証明の要点

これは Sai17 Theorem 6.13(p. 64)である。この記事では証明しない。証明は Beilinson によるもので、特性サイクルが Radon 変換と両立することを使い、射影空間の場合に帰着する(同 §6.2)。

曲線の Euler 標数

$X$ を代数閉体 $k$ 上の種数 $g$ の射影的で滑らかな連結曲線とし、$F$ と $U$、$r$、$a_x(F)$ を prop-cc-etale-curve のとおりとする。このとき
$$ \chi(X,F)=r(2-2g)-\sum_{x\in X\setminus U}a_x(F) $$
である。

thm-cc-saito-index と prop-cc-etale-curve により
$$ \chi(X,F)=-r\,(T^*_XX,T^*_XX)_{T^*X}-\sum_xa_x(F)\,(T^*_xX,T^*_XX)_{T^*X} $$
である。ファイバー $T^*_xX$ と零切断は点 $(x;0)$ で横断的に交わるので、交点数は $1$ である。零切断の自己交点数は、その法束である余接束 $\Omega^1_X$ の次数 $2g-2$ に等しい(Riemann–Rochの定理の系「Riemann–Rochの定理の帰結」の 2。同記事は $k$ を任意の代数閉体として述べ、$\mathcal O_X(K)\cong\Omega^1_X$ も示している)。よって $\chi(X,F)=-r(2g-2)-\sum_xa_x(F)$ である。$\square$

これが Grothendieck–Ogg–Shafarevich の公式であり、Sai17 の序(p. 1)は指数公式がその高次元化であると述べる。$\mathrm{Sw}=0$ の順分岐の場合、右辺は $r\,\chi_c(U)+\sum_x\operatorname{rank}F_{\bar x}$ と書き直せ($\chi_c(U)=2-2g-|X\setminus U|$)、複素の場合の prop-cc-curve-index と同じ式になる。
指数公式そのものを使わずに、曲線の上の簡単な層で両辺を直接確かめられる。

指数公式の直接の確認

cor-cc-gos の $X$ と $\Lambda=\mathbb Z/\ell^m$($\ell$ は $k$ の標数と異なる素数)について、次の層では thm-cc-saito-index の両辺を独立に計算でき、一致する。

  1. 定数層 $\Lambda_X$:両辺とも $2-2g$。
  2. $\Sigma\subset X$ を $s$ 個の点、$j\colon X\setminus\Sigma\to X$ として、零拡張 $j_!\Lambda$:両辺とも $2-2g-s$。
  3. 点 $x$ の摩天楼層 $i_{x*}\Lambda$:両辺とも $1$。
    したがって、完全三角形で $F$ をこれらの層から組み立てられるとき(たとえば $F|_U$ が定数層 $\Lambda^r$ のとき)、指数公式が成り立つ。

左辺。 $k$ は代数閉なので $\mu_{\ell^m}\cong\Lambda$ であり、$H^0(X,\Lambda)=\Lambda$、$H^1(X,\Lambda)\cong\Lambda^{2g}$、$H^2(X,\Lambda)\cong\Lambda$、$H^i=0$($i\ge3$)である(エタールコホモロジーの例「代数閉体上の曲線」)。自由 $\Lambda$ 加群の階数の交代和で $\chi$ を測ると $\chi(X,\Lambda_X)=1-2g+1=2-2g$ である。完全列 $0\to j_!\Lambda\to\Lambda_X\to\bigoplus_{x\in\Sigma}i_{x*}\Lambda\to0$ と、$\chi(X,i_{x*}\Lambda)=\chi(\operatorname{Spec}k,\Lambda)=1$ から、$\chi(X,j_!\Lambda)=2-2g-s$ である。
右辺。 prop-cc-etale-curve で Artin 導手を計算する。定数層は $X$ 全体で局所定数なので $CC(\Lambda_X)=-[T^*_XX]$ である。$j_!\Lambda$ では $x\in\Sigma$ で $\operatorname{rank}F_{\bar\eta_x}=1$、$F_{\bar x}=0$、Swan 導手は $0$(生成点の近くで定数層なので Galois 群の作用が自明)だから $a_x=1$ であり、$CC(j_!\Lambda)=-[T^*_XX]-\sum_{x\in\Sigma}[T^*_xX]$ である。摩天楼層では $r=0$、$a_x=0-1+0=-1$ なので $CC(i_{x*}\Lambda)=[T^*_xX]$ である。cor-cc-gos の証明の交点数(ファイバーとは $1$、零切断とは $2g-2$)を使うと、右辺はそれぞれ $-(2g-2)$、$-(2g-2)-s$、$1$ であり、左辺と一致する。
最後の主張:$\chi$ は完全三角形について加法的であり、$CC$ も加法的である(Sai17 Lemma 4.13 の 1、p. 47)ので、両辺の差は完全三角形について加法的である。$F|_U\cong\Lambda^r_U$ なら、完全三角形 $j_!j^*F\to F\to\bigoplus_{x}i_{x*}i_x^*F\xrightarrow{+1}$ の両端は $j_!\Lambda$ と摩天楼層の和と平行移動から作られるので、差は $0$ である。$\square$

反例

反例:偏屈でない層では特性サイクルは有効でなく、台は特異台より小さい

$X$ を滑らかな曲線とする。定数層 $\Lambda_X$ について $CC(\Lambda_X)=-[T^*_XX]$ であり、係数が負なので有効でない。平行移動した $\Lambda_X[1]$ は偏屈層であり、$CC(\Lambda_X[1])=[T^*_XX]$ は有効である。さらに $F:=\Lambda_X\oplus\Lambda_X[1]$ とすると、加法性から $CC(F)=-[T^*_XX]+[T^*_XX]=0$ である。一方 $F$ は局所定数で台が $X$ なので、$\mathrm{SS}(F)$ は零切断である(特異台(エタール層)の命題「局所定数性と零切断」と命題「特異台の底は台を含む」)。よって $\operatorname{supp}CC(F)=\emptyset\neq\mathrm{SS}(F)$ であり、偏屈層で成り立つ等号は一般の複体では成り立たない。複素多様体の場合も同じ計算がそのまま成り立つ(prop-cc-local-system)。

反例:コンパクトでない空間の Euler 標数

$X=M=\mathbb C$、$F=\mathbb C_X$ とする。$CC(F)=-[T^*_{\mathbb C}\mathbb C]$ である(prop-cc-local-system)。1 形式 $\omega=dz$ のグラフは零切断と交わらないので、$\sharp(CC(F)\cap[\omega(M)])=0$ である。一方 $\chi(\mathbb C,\mathbb C_{\mathbb C})=1$ である($\mathbb C$ は可縮)。thm-cc-global-index はコンパクト性を仮定しており、それを外すと、1 形式を動かした形の公式は成り立たない。

外す条件反例成り立たなくなること
偏屈層であること曲線の定数層 $\Lambda_X$(ex-cc-non-perverse)$CC(F)$ が有効であること
偏屈層であること$\Lambda_X\oplus\Lambda_X[1]$(ex-cc-non-perverse)$\operatorname{supp}CC(F)=\mathrm{SS}(F)$
$X$ がコンパクト(射影的)であること$\mathbb C$ の定数層と $\omega=dz$(ex-cc-noncompact)$\chi(X,F)$ が $CC(F)$ と 1 形式のグラフの交点数に等しいこと
順分岐であること($\mathrm{Sw}=0$)野性分岐する局所系(prop-cc-etale-curve)$CC(F)$ の係数が茎の階数だけで決まること

最後の行は、エタールの場合に特有の現象である:同じ階数の茎をもつ層でも、Swan 導手が違えば特性サイクルと Euler 標数が違う。複素の場合は、係数が茎の Euler 標数(構成可能関数)だけで決まり(def-cc-complex)、この現象は起きない。

関連する結果

  • Kashiwara の指数定理。 ホロノミック $\mathcal D$ 加群(D加群)の特性サイクルと解の複体の特性サイクルの関係、および局所指数公式は、特性サイクルの理論の出発点である(MS21 §3.3 の冒頭、p. 37 と Remark 3.44、p. 45)。
  • 局所 Euler 障害と Chern–Schwartz–MacPherson 類。 部分多様体 $Z$ の局所 Euler 障害 $\mathrm{Eu}_Z$ は、$CC$ の逆写像で $(-1)^{\dim Z}[T^*_ZM]$ に対応する構成可能関数である(MS21 Corollary 3.43 と式 (59)、p. 45)。局所 Euler 障害は、特異点をもつ複素代数多様体の Chern 類(MacPherson の Chern 類)の定義に使われる量である(同 p. 37)。
  • 特性類。 斎藤は正標数でも $CC(F)$ から MacPherson の Chern 類の類似である特性類を定め(Sai17 の序、p. 2、Definition 5.7、p. 54)、その次数 $0$ の部分が指数公式の右辺 $(CC(F),T^*_XX)_{T^*X}$ であることを示した(同 Lemma 5.9 の 1、p. 55)。

関連項目

参考文献

[1]
Laurenţiu G. Maxim, Jörg Schürmann, Constructible sheaf complexes in complex geometry and applications, arXiv:2105.13069, 2021, 頁は arXiv:2105.13069v2 による。式 (3)・(6)(p. 11)、式 (26)(pp. 28–29)、Proposition 3.14(p. 29)、式 (29)(pp. 29–30)、§3.3 の冒頭(p. 37)、Definition 3.32(p. 38)、Definition 3.34・式 (39)–(43)・Example 3.35(p. 39)、式 (44)・(45)(p. 40)、Example 3.37・Theorem 3.38・式 (47)(p. 41)、Example 3.39 の式 (52)–(54)(p. 43)、Corollary 3.43・式 (59)・Remark 3.44(p. 45)

Mathpediaは寄付と、参考文献の書籍リンク(Amazonアソシエイト)の紹介料で運営されています。 支援について / 寄付する