アーベル多様体

同義語:abelian varietyAbel 多様体

概要

アーベル多様体(abelian variety)とは、体 $k$ 上の完備(固有)で幾何的整な群多様体のことである。完備性から来る剛性補題により、その間の射は平行移動と準同型の合成に限られ、群は自動的に可換になり、立方定理により射影的でもある。$n$ 倍写像は次数 $n^{2g}$ の同種で、標数と素な $n$ の捩れ点は $(\mathbb{Z}/n\mathbb{Z})^{2g}$ をなし、その逆極限が Tate 加群 $T_\ell A\cong\mathbb{Z}_\ell^{2g}$ である。双対アーベル多様体 $A^\vee=\operatorname{Pic}^0_{A/k}$ をもつ。楕円曲線、Jacobi 多様体、Riemann の条件を満たす複素トーラスが代表例で、一般の複素トーラスは射影的でない。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 代数多様体, 群スキーム, 固有射, 可逆層, Picardスキーム

定義

以下、$k$ を体とする。$k$ 上の多様体(variety)とは、$k$ 上分離的で有限型かつ幾何的整なスキーム、すなわち整スキームであって代数閉包 $\bar k$ への底変換 $X_{\bar k}=X\times_k\bar k$ もまた整であるものをいう。$k$ 上の多様体 $X$ が完備(complete)であるとは、構造射 $X\to\operatorname{Spec}k$ が固有(固有射)であることをいう。

アーベル多様体

$k$ 上の群多様体(group variety)とは、$k$ 上の多様体 $G$ に $k$ 上の射 $m\colon G\times G\to G$(積)、$i\colon G\to G$(逆元)、$e\colon\operatorname{Spec}k\to G$(単位元)が与えられ、群の公理(結合律・単位律・逆元律)を表す図式が可換になるもの、すなわち多様体である群スキームをいう。$k$ 上のアーベル多様体(abelian variety)とは、完備な群多様体をいう。$g:=\dim A$ を $A$ の次元という。アーベル多様体の準同型(homomorphism)とは群スキームの射、すなわち積 $m$ と両立する $k$ 上の射をいい、$A$ から $B$ への準同型全体を $\operatorname{Hom}(A,B)$、$\operatorname{End}(A):=\operatorname{Hom}(A,A)$ と書く。

言い換えると、$k$ 上のアーベル多様体とは、$k$ 上固有で幾何的整な群スキームのことである。後で示すように、アーベル多様体は自動的に可換群スキームであり(cor-abelian-variety-commutative)、また射影的である(thm-abelian-variety-projective)。したがって「射影的で幾何的整な群多様体」と定義しても同じものになる。可換性にあわせて群演算は加法的に $x+y$、$-x$、$0$ と書き、整数 $n$ に対する $n$ 倍写像を $n_A\colon A\to A$ と書く。$a\in A(k)$ に対し $t_a\colon A\to A$、$x\mapsto x+a$ を $a$ による平行移動(translation)という。

幾何的整と滑らかさ

定義で幾何的整を要求したので $A_{\bar k}$ は既約(既約)かつ被約(被約スキーム)である。有限型で幾何的被約なスキームは空でない開集合(開集合)の上で滑らか(滑らかな射)であり、$A_{\bar k}$ ではその開集合を $\bar k$ 有理点による平行移動で動かして全体を覆えるから、$A$ は $k$ 上滑らかである。したがって多くの文献のように「$k$ 上滑らかで固有、幾何的に連結な群スキーム」と定義しても同じものになる(幾何的に連結で滑らかなら幾何的整である)。文献によっては $k$ を代数閉体(代数閉体)に限る(Mum70 第 II 章)。本記事では、点を使う議論は $k$ が代数閉体の場合に書き、一般の体への移行は忠実平坦な底変換 $\operatorname{Spec}\bar k\to\operatorname{Spec}k$ によって行う(prf-abelian-variety-commutative の末尾)。

直感

アーベル多様体は、複素数体上では複素トーラス $\mathbb{C}^g/\Lambda$ のうち射影空間に埋め込めるもの(ex-abelian-variety-complex-torus)であり、楕円曲線の高次元版である。「完備」という条件はきわめて強く、群構造を与える射がすべて「剛い」ことを導く。完備多様体を一方の因子にもつ直積からの射は変形の自由度をもたない(lem-abelian-variety-rigidity)ので、アーベル多様体の間の射は平行移動を除いて準同型に限られ、群は自動的に可換になる。この剛性のおかげで、アーベル多様体の幾何は格子・Tate 加群・接空間といった線形代数の対象でほぼ完全に記述できる。一方、$\mathrm{GL}_n$ のような線型代数群(線型代数群)はアフィン(アフィンスキーム)であり、完備な群とアフィンな群は対極にある。Chevalley の構造定理によれば、完全体上の連結群多様体は、連結線形代数群を核とするアーベル多様体の拡大である(代数群)。

例と反例

楕円曲線の場合

1 次元のアーベル多様体は楕円曲線にほかならない。すなわち、$k$ 上の 1 次元アーベル多様体 $E$ は種数(種数)$1$ の滑らかな射影曲線で有理点(有理点)$0\in E(k)$ をもつものであり、逆に種数 $1$ の滑らかな射影曲線 $E$ に有理点 $0$ を指定すると、$P\mapsto[\mathcal{O}_E(P-0)]$ による全単射(全単射)$E(\bar k)\cong\operatorname{Pic}^0(E_{\bar k})$ を通して $E$ は群多様体になる(Sil09 III.3、Har77 IV.4)。種数が $1$ であることは、余接束が自明である(prop-abelian-variety-invariant-forms)ことから $\Omega^1_E\cong\mathcal{O}_E$、したがって $2g-2=\deg\Omega^1_E=0$ として出る。$k$ の標数(標数)が $2,3$ でなければ $E$ は Weierstrass 方程式(Weierstrass方程式)$y^2=x^3+ax+b$($4a^3+27b^2\ne0$)で与えられ、加法は「弦と接線」で記述される。$E$ の $n$ 捩れ点は $p\nmid n$ のとき $(\mathbb{Z}/n\mathbb{Z})^2$ である(thm-abelian-variety-torsion の $g=1$ の場合)。

曲線のJacobi多様体

$C$ を $k$ 上種数 $g$ の滑らかな射影曲線で幾何的に連結なものとする。Picardスキーム $\operatorname{Pic}_{C/k}$ の単位成分 $J:=\operatorname{Pic}^0_{C/k}$ は $g$ 次元のアーベル多様体であり、$C$ のJacobi多様体(Jacobian variety)と呼ばれる(Mil08 第 III 章、BLR90 第 8–9 章)。$J(\bar k)$ は $C_{\bar k}$ 上の次数 $0$ の因子(因子)の線型同値(線型同値)類の群である。$C$ に有理点 $P_0$ があれば Abel–Jacobi 写像 $C\to J$、$P\mapsto[P-P_0]$ が定まり、$g\ge1$ ならこれは閉埋め込み(閉埋め込み)である。$J$ はテータ因子(テータ因子)$\Theta$($C$ の $g-1$ 個の点の和の像)から得られる主偏極 $\varphi_{\mathcal{O}(\Theta)}\colon J\xrightarrow{\sim}J^\vee$ をもつ(def-abelian-variety-dual)。$g=1$ で $C=E$ が楕円曲線なら $J\cong E$ である。$k=\mathbb{C}$ のとき $J(\mathbb{C})=H^0(C,\Omega^1_C)^\vee/H_1(C,\mathbb{Z})$(周期(周期(代数多様体))による記述)で、これは次の複素トーラスの記述と一致する。

複素トーラスとRiemannの条件

$k=\mathbb{C}$ とする。$V$ を $g$ 次元複素ベクトル空間、$\Lambda\subset V$ を階数 $2g$ の格子(格子。$V$ を実 $2g$ 次元ベクトル空間とみて離散かつ余コンパクトな部分群)とすると、商 $X:=V/\Lambda$ はコンパクト(コンパクト空間)で連結な複素 Lie 群(Lie群、複素多様体)であり、複素トーラスと呼ばれる。逆に $\mathbb{C}$ 上のアーベル多様体 $A$ の解析化 $A(\mathbb{C})$ はコンパクト連結複素 Lie 群だから、指数写像(指数写像)により $A(\mathbb{C})\cong t_A/\Lambda$($t_A$ は原点での接空間、$\Lambda\cong\pi_1(A(\mathbb{C}),0)$)と複素トーラスになる(Mum70 §1)。複素トーラス $X=V/\Lambda$ がアーベル多様体の解析化であるための必要十分条件は Riemann の条件:$V$ 上の正定値(正定値)Hermite 形式(Hermite形式)$H$ で、その虚部 $E:=\operatorname{Im}H$ が $\Lambda\times\Lambda$ 上で整数値をとるものが存在すること、である(Mum70 §1–§3、GH78 第 2 章 §6、BL04 第 4 章)。より精密に、Appell–Humbert の定理により、$X$ 上の可逆層 $L$ の第 1 Chern 類(第1Chern類)$c_1(L)\in H^2(X,\mathbb{Z})=\operatorname{Hom}(\bigwedge^2\Lambda,\mathbb{Z})$ は、$\Lambda$ 上の整数値交代形式(交代形式)$E$ で($V$ へ $\mathbb{R}$ 双線形に延長したとき)$E(ix,iy)=E(x,y)$ を満たすものと同一視され、この対応は Néron–Severi群 $\operatorname{NS}(X)=\operatorname{Pic}(X)/\operatorname{Pic}^0(X)$ と、そのような $E$ の全体のなす群との同型を与える。さらに $L$ が豊富(豊富な可逆層)であることは、対応する $E$ から定まる Hermite 形式 $H(x,y)=E(ix,y)+iE(x,y)$ が正定値であることと同値である。$g=1$ では任意の格子 $\Lambda=\mathbb{Z}\omega_1+\mathbb{Z}\omega_2$ に対し $E(\omega_1,\omega_2)=\pm1$ と定めれば Riemann の条件が満たされるので、1 次元複素トーラスはすべて楕円曲線である。$g\ge2$ ではそうでない(次の反例)。

反例:射影的でない複素トーラス

$g=2$、$V=\mathbb{C}^2$ とし、
$$ Z:=\begin{pmatrix}i\sqrt2&i\sqrt3\\ i\sqrt5&i\sqrt7\end{pmatrix} $$
とおいて、$\Lambda\subset\mathbb{C}^2$ を $2\times4$ 行列 $\Pi:=(I_2\mid Z)$ の 4 本の列 $\lambda_1,\dots,\lambda_4$ が生成する部分群とする。$\operatorname{Im}Z$ の行列式 $\sqrt{14}-\sqrt{15}$ は $0$ でないので $\lambda_1,\dots,\lambda_4$ は $\mathbb{R}$ 上線形独立(線形独立)であり($\sum a_j\lambda_j=0$、$a_j\in\mathbb{R}$ の虚部をとると $(\operatorname{Im}Z)(a_3,a_4)^{T}=0$、よって $a_3=a_4=0$、続いて $a_1=a_2=0$)、$\Lambda$ は格子、$X:=\mathbb{C}^2/\Lambda$ は複素トーラスである。主張:$X$ は射影的でない。したがって $X$ はコンパクト連結複素 Lie 群(さらにコンパクト Kähler 多様体、Kähler多様体)ではあるが、アーベル多様体の解析化ではない。
証明。上の例で述べた対応により、$\operatorname{NS}(X)$ は、$\Lambda$ 上の整数値交代形式 $E$ で $E(ix,iy)=E(x,y)$ を満たすものの群である。$\Lambda_{\mathbb{R}}:=\Lambda\otimes\mathbb{R}=\mathbb{R}^4$(基底 $\lambda_1,\dots,\lambda_4$)上で「$i$ 倍」を表す実行列を $J$ とする($\Pi J=i\Pi$ で特徴づけられる)。$\Lambda_{\mathbb{C}}:=\mathbb{C}^4$ は $J$ の固有値 $i$、$-i$ の固有空間 $W$、$\overline W$ の直和であり、$x,y\in W$ なら $E$ の $\mathbb{C}$ 双線形延長について $E(x,y)=E(Jx,Jy)=E(ix,iy)=-E(x,y)$ だから、$E$ は $W\times W$ 上で消え、$E$ が実だから $\overline W\times\overline W$ 上でも消える。ここで $\overline W=\ker(\Pi\colon\mathbb{C}^4\to\mathbb{C}^2)$ である。実際 $x\in\overline W$ なら $Jx=-ix$ より $\Pi x\cdot i=\Pi Jx=\Pi(-ix)=-i\,\Pi x$、よって $\Pi x=0$ であり、両辺とも $2$ 次元である。$\ker\Pi$ は 2 本の列ベクトル
$$ n_1:=(-i\sqrt2,\,-i\sqrt5,\,1,\,0)^{T},\qquad n_2:=(-i\sqrt3,\,-i\sqrt7,\,0,\,1)^{T} $$
で張られる($N:=(n_1\ n_2)=\begin{pmatrix}-Z\\ I_2\end{pmatrix}$ について $\Pi N=-Z+Z=0$)。$E$ を基底 $\lambda_j$ に関する整数交代行列
$$ E=\begin{pmatrix}E_1&E_2\\-E_2^{T}&E_3\end{pmatrix},\qquad E_1=e_1J_0,\ E_3=e_3J_0,\ J_0=\begin{pmatrix}0&1\\-1&0\end{pmatrix},\ E_2=\begin{pmatrix}a&b\\c&d\end{pmatrix} $$
($e_1,e_3,a,b,c,d\in\mathbb{Z}$)で表すと、条件は $N^{T}EN=0$、すなわち
$$ Z^{T}E_1Z+E_2^{T}Z-Z^{T}E_2+E_3=0 $$
である。$2\times2$ 行列では $Z^{T}J_0Z=(\det Z)J_0$ であり、$E_2^{T}Z-Z^{T}E_2$ は交代行列なので $\mu J_0$、$\mu=az_{12}+cz_{22}-bz_{11}-dz_{21}$ と書ける。よって条件は 1 本の等式
$$ e_1\det Z+\mu+e_3=0,\qquad \det Z=\sqrt{15}-\sqrt{14},\qquad \mu=i\bigl(a\sqrt3+c\sqrt7-b\sqrt2-d\sqrt5\bigr) $$
に帰着する。実部から $e_1(\sqrt{15}-\sqrt{14})+e_3=0$ であり、$\sqrt{15}-\sqrt{14}$ は無理数(有理数 $r$ に等しければ $15=r^2+2r\sqrt{14}+14$ から $r=0$ または $\sqrt{14}\in\mathbb{Q}$ となり、いずれも矛盾)だから $e_1=e_3=0$。虚部から $a\sqrt3+c\sqrt7-b\sqrt2-d\sqrt5=0$ であり、$\sqrt2,\sqrt3,\sqrt5,\sqrt7$ は $\mathbb{Q}$ 上線形独立(相異なる無平方整数の平方根の線形独立性)だから $a=b=c=d=0$。ゆえに $E=0$、すなわち $\operatorname{NS}(X)=0$ である。もし $X$ が射影的なら豊富な可逆層 $L$ があり、対応する $E$ は正定値 Hermite 形式の虚部だから $0$ でない。これは $\operatorname{NS}(X)=0$ に反する。
この反例が破るのは「コンパクト連結複素 Lie 群はアーベル多様体の解析化である」という含意、および「コンパクト Kähler 多様体は射影的である」という含意である。$X$ 上の可逆層はすべて $\operatorname{Pic}^0(X)$ に属し、$X$ には定数でない有理型関数(有理型関数)が存在しない(BL04 第 4 章)。なお GAGA により、射影的な複素トーラスは代数的な構造をただ 1 つもつ。

性質

剛性補題と可換性

まず、完備多様体の上の大域的な正則関数が定数であることを確かめる。

完備連結スキーム上の大域関数

$k$ を代数閉体、$X$ を $k$ 上有限型で完備、連結(連結空間)かつ被約なスキームとする。このとき $H^0(X,\mathcal{O}_X)=k$ である。

射影直線への射

$f\in H^0(X,\mathcal{O}_X)$ をとる。$f$ は $k$ 上の射 $f\colon X\to\mathbb{A}^1_k\subset\mathbb{P}^1_k$ を定める。$X$ は完備だから像 $f(X)$ は $\mathbb{P}^1_k$ の閉部分集合であり、$\infty$ を含まないので $\mathbb{P}^1_k$ 全体ではない。$\mathbb{P}^1_k$ の真の閉部分集合(閉集合)は有限集合であり、$X$ が連結なので $f(X)$ も連結、したがって 1 点 $\{c\}$($c\in k$)である。これは、$X$ の各点 $x$ において $f-c$ が $x$ の素イデアルに属すること、すなわち $f-c$ が $X$ のすべてのアフィン開集合の上で冪零元であることを意味する。$X$ は被約だから $f-c=0$、ゆえに $f=c\in k$ である。

剛性補題

$k$ を代数閉体、$X$ を $k$ 上完備な多様体、$Y$ を $k$ 上の多様体、$Z$ を $k$ 上分離的なスキーム、$f\colon X\times Y\to Z$ を射とする。ある $y_0\in Y(k)$ について $f$ が $X\times\{y_0\}$ を 1 点に写すならば、射 $g\colon Y\to Z$ で $f=g\circ p_2$($p_2$ は第 2 射影)となるものが存在する。

アフィン近傍への引き戻し

$z_0:=f(X\times\{y_0\})$ とし、$z_0$ のアフィン開近傍 $U\subset Z$ をとる。$F:=Z\setminus U$ は閉集合で、$f^{-1}(F)\subset X\times Y$ は閉集合である。$X$ は完備だから射影 $p_2\colon X\times Y\to Y$ は固有射、特に閉写像であり、$V:=Y\setminus p_2(f^{-1}(F))$ は $Y$ の開集合である。$X\times\{y_0\}$ は $U$ に写るから $f^{-1}(F)$ と交わらず、$y_0\in V$ である。$y\in V(k)$ をとると $f(X\times\{y\})\subset U$ である。$X\times\{y\}\cong X$ は完備で連結な被約スキームであり、$U$ はアフィンなので、射 $X\to U$ は環準同型 $\mathcal{O}(U)\to H^0(X,\mathcal{O}_X)=k$(lem-abelian-variety-global-functions)に対応し、$\operatorname{Spec}k\to U$ を経由する。すなわち $f$ は $X\times\{y\}$ を 1 点に写す。そこで $x_0\in X(k)$ を固定して $g:=f\circ(x_0,\mathrm{id}_Y)\colon Y\to Z$ とおくと、$X\times V$ 上の 2 つの射 $f$ と $g\circ p_2$ はすべての $k$ 有理点で同じ値をとる。$Z$ は分離的だから $f$ と $g\circ p_2$ が一致する点の全体は $X\times V$ の閉部分スキーム(閉部分スキーム)であり、その台は稠密な集合(有限型スキームの $k$ 有理点全体)を含むので $X\times V$ 全体である。$X\times V$ は被約だから、この閉部分スキームは $X\times V$ 自身であり、$f=g\circ p_2$ が $X\times V$ 上で成り立つ。$X\times V$ は整スキーム $X\times Y$ の空でない開集合なので稠密であり、再び $Z$ の分離性と $X\times Y$ の被約性から、$f=g\circ p_2$ は $X\times Y$ 全体で成り立つ。

アーベル多様体の間の射

$k$ を代数閉体、$A,B$ を $k$ 上のアーベル多様体、$f\colon A\to B$ を $k$ 上の多様体の射とする。このとき $f=t_b\circ h$($b:=f(e)$、$h$ は準同型)とただ一通りに書ける。特に $f(e)=e$ なら $f$ は準同型である。

剛性補題の適用

可換性はまだ示していないので、この証明では $A,B$ の群演算を乗法的に書き、$t_b(x):=xb$ とする。$h:=t_{b^{-1}}\circ f$ とおくと $h(e)=e$ である。$\varphi\colon A\times A\to B$ を $\varphi(x,y):=h(xy)\,\bigl(h(x)h(y)\bigr)^{-1}$ で定める($B$ の群演算を用いて定義した射である)。$\varphi(x,e)=e$、$\varphi(e,y)=e$ だから、$\varphi$ は $A\times\{e\}$ を 1 点 $e$ に写す。lem-abelian-variety-rigidity により $\varphi=g\circ p_2$ となる $g\colon A\to B$ があり、$g(y)=\varphi(e,y)=e$ が $k$ 有理点で成り立つ。$A$ は被約で $k$ 有理点は稠密、$B$ は分離的だから $g$ は定数射 $e$ であり、$\varphi=e$、すなわち $h(xy)=h(x)h(y)$ である。よって $h$ は準同型である。一意性は、$t_b\circ h=t_{b'}\circ h'$ の両辺を $e$ で評価すれば $b=b'$ が出ることによる。

可換性

アーベル多様体は可換群スキームである。

逆元射は準同型

まず $k$ を代数閉体とする。逆元射 $i\colon A\to A$ は $i(e)=e$ を満たすから cor-abelian-variety-morphisms により準同型であり、$(xy)^{-1}=x^{-1}y^{-1}$ が $k$ 有理点で成り立つ。一方、任意の群で $(xy)^{-1}=y^{-1}x^{-1}$ であるから $x^{-1}y^{-1}=y^{-1}x^{-1}$、逆元をとって $yx=xy$ を得る。$A\times A$ は被約で $k$ 有理点は稠密、$A$ は分離的だから、射 $m$ と $m\circ\sigma$($\sigma$ は因子の入れ替え)は一致する。一般の体 $k$ の場合、いま示したことから $A_{\bar k}$ 上で $m=m\circ\sigma$ であり、$\operatorname{Spec}\bar k\to\operatorname{Spec}k$ は忠実平坦(忠実平坦)だから $A$ 上でも $m=m\circ\sigma$ である(忠実平坦な底変換で一致する 2 つの射はもとから一致する)。

立方定理と射影性

アーベル多様体上の可逆層の理論は、次の立方定理(theorem of the cube)を出発点とする。

立方定理と平方定理

$k$ を代数閉体、$A$ を $k$ 上のアーベル多様体とする。

  1. (立方定理)$X,Y$ を $k$ 上完備な多様体、$Z$ を $k$ 上の多様体、$L$ を $X\times Y\times Z$ 上の可逆層とする。点 $x_0\in X(k)$、$y_0\in Y(k)$、$z_0\in Z(k)$ について、$L$ の $\{x_0\}\times Y\times Z$、$X\times\{y_0\}\times Z$、$X\times Y\times\{z_0\}$ への制限がすべて自明ならば、$L$ は自明である。
  2. $A$ 上の可逆層 $L$ について、$A\times A\times A$ 上で
    $$ m_{123}^*L\otimes m_{12}^*L^{-1}\otimes m_{13}^*L^{-1}\otimes m_{23}^*L^{-1}\otimes p_1^*L\otimes p_2^*L\otimes p_3^*L\cong\mathcal{O}_{A\times A\times A} $$
    が成り立つ。ここで $m_{I}$ は添字 $I$ に属する座標の和をとる射、$p_i$ は射影である。
  3. (平方定理)$A$ 上の可逆層 $L$ と $a,b\in A(k)$ について $t_{a+b}^*L\otimes L\cong t_a^*L\otimes t_b^*L$。したがって $A(k)\to\operatorname{Pic}(A)$、$a\mapsto[t_a^*L\otimes L^{-1}]$ は群準同型(群準同型)である(Picard群)。
  4. 整数 $n$ に対し $n_A^*L\cong L^{\otimes(n^2+n)/2}\otimes(-1)_A^*L^{\otimes(n^2-n)/2}$。特に $L$ が対称($(-1)_A^*L\cong L$)なら $n_A^*L\cong L^{\otimes n^2}$。
立方定理の出典

証明は Mum70 §6 と §10(標数 $0$ では §5 の底変換定理を用いる seesaw 原理による証明、一般には §10 の証明)、Mil08 第 I 章に譲る。2 は 1 を左辺の可逆層に適用して得られ(3 つの座標面への制限が自明であることは直接確かめられる)、3 は 2 を $\{a\}\times\{b\}\times A$ に制限して得られ、4 は 2 を $(n_A,1_A,(-1)_A)\colon A\to A\times A\times A$ で引き戻して $n$ に関する帰納法で得られる。

射影性

任意の体 $k$ 上のアーベル多様体 $A$ は射影的(射影多様体)である。より精密に、$k$ が代数閉体のとき、$A$ 上の効果的因子 $D$ で $\{a\in A(k)\mid t_a^*D=D\}$ が有限なものが存在し、そのような $D$ に対し $\mathcal{O}_A(D)$ は豊富である。

射影性の出典と証明の筋

証明は Mum70 §6(Application 1)と Mil08 第 I 章に譲る。筋は次のとおり。$0$ を含むアフィン開集合 $U\subset A$ をとり、$A\setminus U$ の余次元(余次元)$1$ の既約成分(既約成分)の和を $D$ とすると、$D$ の平行移動 $t_{a_1}^*D,\dots,t_{a_r}^*D$ の共通部分の台が $\{0\}$ になるように $a_1,\dots,a_r$ を選べる。thm-abelian-variety-cube の 3 により $\sum_it_{a_i}^*D$ は $rD$ と線形同値であり、この因子の切断を用いて、$\mathcal{O}_A(D)^{\otimes r}$ の大域切断が点を分離し接ベクトルを分離することが示され、$\mathcal{O}_A(D)$ は豊富になる。一般の体では、$A_{\bar k}$ 上の豊富層はある有限次拡大(有限次拡大)$k'/k$ 上で定義され、$A_{k'}\to A$ に沿うノルムをとることで $A$ 上の豊富層が得られる。

n倍写像と捩れ点

$A$ を $k$ 上の $g$ 次元アーベル多様体、$n\ge1$ を整数、$p:=\operatorname{char}k$ とする。

  1. $n_A\colon A\to A$ は同種(def-abelian-variety-isogeny)であり、次数は $n^{2g}$ である。すなわち $A[n]:=\ker n_A$ は位数 $n^{2g}$ の有限平坦可換群スキーム(有限平坦群スキーム)である。
  2. $p\nmid n$ ならば $n_A$ はエタール(エタール射)であり、$A[n](\bar k)\cong(\mathbb{Z}/n\mathbb{Z})^{2g}$ である。
  3. $p>0$ ならば、$0\le r\le g$ なる整数 $r$($A$ の $p$ 階数)があって、すべての $m\ge1$ について $A[p^m](\bar k)\cong(\mathbb{Z}/p^m\mathbb{Z})^{r}$ である。群スキーム $A[p]$ は被約でなく、相対 Frobenius(Frobenius写像)$F\colon A\to A^{(p)}$ の核は $A[p]$ の位数 $p^g$ の部分群スキームで、Verschiebung(Verschiebung)$V\colon A^{(p)}\to A$ について $V\circ F=p_A$ が成り立つ。
捩れ点の出典と証明の筋

1 と 2 は Mum70 §6(Application 2)と §7、3 は Mum70 §14–§15 と Mil08 第 I 章に譲る。1 の筋:対称な豊富層 $L$ をとる(豊富層 $L_0$ に対し $L:=L_0\otimes(-1)_A^*L_0$ でよい)。thm-abelian-variety-cube の 4 により $n_A^*L\cong L^{\otimes n^2}$ は豊富であるが、$n_A^*L$ は $n_A$ の各ファイバーの上で自明なので、ファイバーは有限でなければならない。よって $n_A$ は有限射で、次元の比較から全射、すなわち同種である。次数は交叉数(交叉数)$(n_A^*L)^g=\deg(n_A)\cdot(L^g)$ と $(L^{\otimes n^2})^g=n^{2g}(L^g)$ の比較から $n^{2g}$ である。2 の筋:$n_A$ の原点での微分は $t_A$ 上の $n$ 倍であり、$p\nmid n$ ならこれは同型、したがって $n_A$ はエタールで、$A[n](\bar k)$ は位数 $n^{2g}$ の有限アーベル群になり、$n$ の約数 $m$ について $A[m](\bar k)$ の位数が $m^{2g}$ であることと合わせて構造が決まる。

同種と双対アーベル多様体

同種写像

アーベル多様体の準同型 $f\colon A\to B$ が同種(isogeny)であるとは、$f$ が全射(全射)であり、核(核)$\ker f$ が有限群スキームであることをいう。同種 $f$ の次数(degree)$\deg f$ は関数体(関数体)の拡大次数 $[k(A):k(B)]$ であり、群スキーム $\ker f$ の位数($k$ 上の座標環の次元)に等しい。同種 $A\to B$ が存在するとき、$A$ と $B$ は同種であるという。

同種の特徴づけ

準同型 $f\colon A\to B$ について次は同値である。(i) $f$ は同種である。(ii) $\dim A=\dim B$ かつ $f$ は全射である。(iii) $\dim A=\dim B$ かつ $\ker f$ は有限である。(iv) $f$ は有限(有限射)・平坦(平坦射)・全射である。さらに、同種 $f\colon A\to B$ と $\ker f$ を消す整数 $n\ge1$ に対し、同種 $g\colon B\to A$ で $g\circ f=n_A$、$f\circ g=n_B$ となるものが存在する。特に「同種である」はアーベル多様体の間の同値関係(同値関係)である。

同種の出典

証明は Mum70 §7、Mil08 第 I 章に譲る。(iv) の平坦性は、$A$ が滑らか(特に Cohen–Macaulay、Cohen–Macaulay環)で $B$ が正則(正則スキーム)、$f$ が有限全射であることから従う(Cohen–Macaulay スキームから正則スキームへの有限全射は平坦)。$g$ の存在は、$\ker f\subset A[n]$ から $n_A$ が商 $A\to A/\ker f\cong B$ を経由することによる(有限群スキーム(有限群スキーム)による商の存在と普遍性は Mum70 §7・§12、群スキーム)。$f\circ g=n_B$ は、$f\circ g\circ f=f\circ n_A=n_B\circ f$ と $f$ が全射であることから従う。

Poincaréの完全可約性定理

$A$ のアーベル部分多様体 $B\subset A$(アーベル多様体である閉部分群スキーム)に対し、アーベル部分多様体 $C\subset A$ で、$B\cap C$ が有限かつ $B\times C\to A$、$(b,c)\mapsto b+c$ が同種となるものが存在する。したがって任意のアーベル多様体は単純アーベル多様体($0$ と自分自身以外にアーベル部分多様体をもたないもの)の積に同種であり、その因子は同種を除いて(重複度込みで)一意である。$\operatorname{End}^0(A):=\operatorname{End}(A)\otimes_{\mathbb{Z}}\mathbb{Q}$ は有限次元の半単純 $\mathbb{Q}$ 代数(半単純環)である。

完全可約性の出典

証明は Mum70 第 IV 章、Mil08 第 I 章に譲る。筋は、豊富層 $L$ の定める同種 $\varphi_L\colon A\to A^\vee$(def-abelian-variety-dual)と包含 $\iota\colon B\to A$ から準同型 $\iota^\vee\circ\varphi_L\circ\iota\colon B\to B^\vee$ を作り、$\ker(\iota^\vee\circ\varphi_L)\subset A$ の単位成分(単位成分。被約化したもの)を $C$ にとる、というものである。

双対アーベル多様体は、Picardスキームの記事で述べる相対 Picard 関手の表現可能性を前提として定義する。

双対アーベル多様体の定義

$A$ を $k$ 上のアーベル多様体とする。相対 Picard 関手(相対Picard関手)$T\mapsto\operatorname{Pic}(A\times T)/\operatorname{Pic}(T)$ の(fppf 位相(fppf位相)に関する)層化を表現する $k$ 上の群スキーム $\operatorname{Pic}_{A/k}$ の単位成分
$$ A^\vee:=\operatorname{Pic}^0_{A/k} $$
を $A$ の双対アーベル多様体(dual abelian variety)という(双対アーベル多様体)。$A\times A^\vee$ 上の可逆層 $\mathcal{P}$(Poincaré 束)で、各 $\xi\in A^\vee(\bar k)$ について $\mathcal{P}|_{A\times\{\xi\}}$ が $\xi$ の表す可逆層の類であり、$\mathcal{P}|_{\{0\}\times A^\vee}$ が自明であるものが同型を除いてただ 1 つ存在する。$A$ 上の可逆層 $L$ に対し、thm-abelian-variety-cube の 3 により定まる準同型
$$ \varphi_L\colon A\to A^\vee,\qquad a\mapsto[t_a^*L\otimes L^{-1}] $$
を $L$ の定める準同型といい、$K(L):=\ker\varphi_L$ とおく。$L$ が豊富のとき $\varphi_L$ を $L$ の定める偏極(polarization)といい、偏極が同型であるとき主偏極(principal polarization)という。

双対アーベル多様体の基本性質

$A$ を $k$ 上の $g$ 次元アーベル多様体とする。

  1. $A^\vee$ は $g$ 次元のアーベル多様体であり、$A^\vee(\bar k)$ は $A_{\bar k}$ 上の代数的に $0$ に同値な可逆層の同型類の群 $\operatorname{Pic}^0(A_{\bar k})$ である。
  2. (二重双対)$\mathcal{P}$ を $A^\vee\times A$ 上の可逆層とみなして得られる準同型 $A\to A^{\vee\vee}$ は同型である。
  3. 可逆層 $L$ について、$\varphi_L$ が同種であることと $K(L)$ が有限であることは同値である。$L$ が豊富ならば $\varphi_L$ は同種であり、$\deg\varphi_L=\chi(L)^2$($\chi(L)$ は $L$ の Euler 標数(Euler標数)で、豊富なら $\chi(L)=\dim_kH^0(A,L)$)が成り立つ。
  4. 準同型 $f\colon A\to B$ は $\mathcal{P}_B$ の引き戻しにより双対準同型 $f^\vee\colon B^\vee\to A^\vee$ を誘導し、$f$ が同種なら $f^\vee$ も同種で、$\ker f^\vee$ は $\ker f$ の Cartier双対 $(\ker f)^D$ に標準的に同型である。特に $A[n]^D\cong A^\vee[n]$ であり、非退化な Weil 対(Weil対)$e_n\colon A[n]\times A^\vee[n]\to\mu_n$ が得られる。
  5. (接空間)$t_{A^\vee}:=\operatorname{Lie}A^\vee\cong H^1(A,\mathcal{O}_A)$。特に $\dim_kH^1(A,\mathcal{O}_A)=g$ である。
双対アーベル多様体の出典

証明は Mum70 §8(標数 $0$)と §13(一般の標数)、Mil08 第 I 章に譲る。3 の $\deg\varphi_L=\chi(L)^2$ は Riemann–Roch の定理(Riemann–Rochの定理、Mum70 §16)による。5 は、$\operatorname{Pic}_{A/k}$ の原点での接空間が $H^1(A,\mathcal{O}_A)$ であること(Picardスキームの記事)と、$A^\vee$ が滑らかで $g$ 次元であることによる。

Tate加群とGalois表現

アーベル多様体のTate加群

$\ell$ を $p=\operatorname{char}k$ と異なる素数(素数)とする。$A$ の($\ell$ 進)Tate 加群とは、$\ell$ 倍写像を遷移写像とする逆極限(逆極限)
$$ T_\ell A:=\varprojlim_{m}A[\ell^m](\bar k) $$
であり(一般のアーベル群の Tate 加群については Tate加群)、$V_\ell A:=T_\ell A\otimes_{\mathbb{Z}_\ell}\mathbb{Q}_\ell$ とおく。絶対 Galois 群(Galois群)$G_k:=\operatorname{Gal}(\bar k/k)$ は各 $A[\ell^m](\bar k)$ に作用し、$T_\ell A$ には連続に作用する。

Tate加群の構造
  1. thm-abelian-variety-torsion の 2 により $T_\ell A\cong\mathbb{Z}_\ell^{2g}$ であり、Galois 表現(Galois表現)$\rho_{A,\ell}\colon G_k\to\mathrm{GL}_{2g}(\mathbb{Z}_\ell)$ が得られる。
  2. 自然な写像 $\operatorname{Hom}(A,B)\otimes_{\mathbb{Z}}\mathbb{Z}_\ell\to\operatorname{Hom}_{\mathbb{Z}_\ell}(T_\ell A,T_\ell B)$ は単射である。特に $\operatorname{Hom}(A,B)$ は階数 $4\dim A\dim B$ 以下の自由アーベル群(自由アーベル群)である。
  3. Weil 対は同型 $T_\ell(A^\vee)\cong\operatorname{Hom}_{\mathbb{Z}_\ell}(T_\ell A,\mathbb{Z}_\ell(1))$ を与える。$\ell$ 進コホモロジー(ℓ進コホモロジー、エタールコホモロジー)は $H^1_{\text{ét}}(A_{\bar k},\mathbb{Z}_\ell)\cong\operatorname{Hom}_{\mathbb{Z}_\ell}(T_\ell A,\mathbb{Z}_\ell)$、$H^n_{\text{ét}}(A_{\bar k},\mathbb{Z}_\ell)\cong\bigwedge^nH^1_{\text{ét}}(A_{\bar k},\mathbb{Z}_\ell)$ で与えられる。
  4. (Tate、Faltings)$k$ が有限体(有限体)または数体(代数体)ならば、2 の写像は $G_k$ 不変な部分への同型 $\operatorname{Hom}(A,B)\otimes\mathbb{Z}_\ell\xrightarrow{\sim}\operatorname{Hom}_{G_k}(T_\ell A,T_\ell B)$ を誘導する。
Tate加群の出典

1–3 は Mum70 第 IV 章、Mil08 第 I 章。4 は有限体上が Tat66、数体上が Fal83 であり、Tate予想の記事で扱う。有限体 $\mathbb{F}_q$ 上では、Frobenius の $V_\ell A$ 上の固有多項式(固有多項式)が整数係数で $\ell$ によらず、その根の絶対値が $q^{1/2}$ である(Weil、Weil予想)。

接空間とde Rhamコホモロジー

不変微分形式と余接束の自明化

$G$ を体 $k$ 上の群多様体、$e$ を単位元、$t_G:=\operatorname{Lie}G$ を $e$ での接空間、$\check t_G:=t_G^\vee=e^*\Omega^1_{G/k}$ を余接空間(余接空間)とする。このとき Kähler 微分の層(Kähler微分)について標準的な同型
$$ \Omega^1_{G/k}\cong\mathcal{O}_G\otimes_k\check t_G $$
がある。特に $G=A$ がアーベル多様体なら $H^0(A,\Omega^1_{A/k})\cong\check t_A$ であり、$\dim_kH^0(A,\Omega^1_{A/k})=g$ である。

平行移動による自明化

$\psi\colon G\times G\to G\times G$、$(x,y)\mapsto(x,xy)$ は、逆射 $(x,z)\mapsto(x,x^{-1}z)$ をもつ同型であり、第 1 射影 $p_1$ と両立する($p_1\circ\psi=p_1$)。$p_1$ に関する相対微分の層は $\Omega^1_{G\times G/G}=p_2^*\Omega^1_{G/k}$ であり(底変換)、$\psi$ が $G$ 上の同型なので $\psi^*\Omega^1_{G\times G/G}\cong\Omega^1_{G\times G/G}$、すなわち $\psi^*p_2^*\Omega^1_{G/k}\cong p_2^*\Omega^1_{G/k}$ である。次に $s\colon G\to G\times G$、$x\mapsto(x,e)$ とおくと $\psi\circ s=\Delta$(対角射)であり、$p_2\circ s$ は定数射 $G\to\operatorname{Spec}k\xrightarrow{e}G$ である。したがって
$$ \Omega^1_{G/k}=\Delta^*p_2^*\Omega^1_{G/k}=s^*\psi^*p_2^*\Omega^1_{G/k}\cong s^*p_2^*\Omega^1_{G/k}=(p_2\circ s)^*\Omega^1_{G/k}=\mathcal{O}_G\otimes_ke^*\Omega^1_{G/k}=\mathcal{O}_G\otimes_k\check t_G $$
を得る。$G=A$ が完備なら $H^0(A,\mathcal{O}_A)=k$(lem-abelian-variety-global-functions。一般の $k$ では $\bar k$ への底変換で $H^0(A,\mathcal{O}_A)\otimes_k\bar k=H^0(A_{\bar k},\mathcal{O})=\bar k$ から従う)なので、$H^0(A,\Omega^1_{A/k})\cong H^0(A,\mathcal{O}_A)\otimes_k\check t_A=\check t_A$ である。

$\check t_A$ の元に対応する $\Omega^1_A$ の大域切断を不変微分形式(invariant differential form)という。同じ議論を $\bigwedge^p$ に適用すると $\Omega^p_{A/k}\cong\mathcal{O}_A\otimes_k\bigwedge^p\check t_A$ であり、thm-abelian-variety-dual-properties の 5 と Künneth の公式(Künnethの公式)による $H^q(A,\mathcal{O}_A)\cong\bigwedge^qH^1(A,\mathcal{O}_A)$(Mum70 §13)とを合わせて
$$ H^q(A,\Omega^p_{A/k})\cong\bigwedge^p\check t_A\otimes_k\bigwedge^qt_{A^\vee},\qquad \dim_kH^q(A,\Omega^p_{A/k})=\binom gp\binom gq $$
を得る。

1次de Rhamコホモロジーの完全列

$A$ を任意の体 $k$ 上の $g$ 次元アーベル多様体とする。Hodge–de Rham スペクトル系列(スペクトル系列)$E_1^{p,q}=H^q(A,\Omega^p_{A/k})\Rightarrow H^{p+q}_{dR}(A/k)$(de Rhamコホモロジー)は任意の標数で $E_1$ で退化し、$\dim_kH^n_{dR}(A/k)=\binom{2g}n$ である。特に $n=1$ では、$k$ ベクトル空間の完全列
$$ 0\longrightarrow\check t_A=H^0(A,\Omega^1_{A/k})\longrightarrow H^1_{dR}(A/k)\longrightarrow H^1(A,\mathcal{O}_A)=t_{A^\vee}\longrightarrow0 $$
が得られ、$\dim_kH^1_{dR}(A/k)=2g$ である。この列は $\operatorname{End}(A)$ の作用と両立する。

de Rham完全列の出典

任意の標数での退化と $H^1_{dR}$ の完全列は Oda69 と Gro66 の注意(Grothendieck はこの拡大を数論的に興味深い不変量として注意している)、標数 $0$ の場合は Hodge 理論(Hodge分解)による。$k=\mathbb{C}$ では $H^1_{dR}(A/\mathbb{C})\cong H^1(A(\mathbb{C}),\mathbb{C})=\operatorname{Hom}(\Lambda,\mathbb{C})$ であり、上の列は Hodge 分解 $H^1=H^{1,0}\oplus H^{0,1}$ に対応する。ただしこの分解は複素共役を用いて得られるもので、上の完全列は一般に代数的($k$ 上で族に対して整合的)には分裂しない。$k$ が標数 $p$ の完全体(完全体)のとき、$H^1_{dR}(A/k)$ は $p$ 捩れ群スキーム $A[p]$ の Dieudonné 加群と同一視され(Oda69、Dieudonné加群とBarsotti–Tate群)、上の完全列は $0\to\ker F\to A[p]\xrightarrow{F}\ker V\to0$($\ker V\subset A^{(p)}$)に対応する。

補足

  • Mordell–Weil の定理:$k$ が数体(より一般に有限生成体)のとき $A(k)$ は有限生成アーベル群(有限生成アーベル群)である(Mordell–Weilの定理)。証明は $A(k)/nA(k)$ の有限性(Galois コホモロジー、Galoisコホモロジー)と高さ(高さ)の理論による。
  • Néron モデル:Dedekind スキーム(Dedekindスキーム)$S$ の関数体上のアーベル多様体 $A$ は、$S$ 上の滑らかな群スキームである Néron モデル(Néronモデル)をもち、良い還元をもつ点ではアーベルスキームになる(BLR90)。
  • 有限体上の点の個数:$\mathbb{F}_q$ 上のアーベル多様体について $|A(\mathbb{F}_q)|=\det(1-\operatorname{Frob}\mid T_\ell A)$ であり、Weil 予想(Weil予想)から $|A(\mathbb{F}_q)|=\prod_{i=1}^{2g}(1-\alpha_i)$、$|\alpha_i|=q^{1/2}$ となる。
  • アーベルスキーム:底スキーム $S$ 上のアーベルスキームとは、$S$ 上滑らかで固有な群スキームで幾何的ファイバーが連結なものをいう。各ファイバーはアーベル多様体であり、$S$ 上の族として上の理論(双対、捩れ、$H^1_{dR}$ の完全列)がそのまま相対化される(Mum70 §6 の底変換、BLR90)。

関連項目

参考文献

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David Mumford, Abelian Varieties, Oxford University Press / Tata Institute of Fundamental Research, 1974, §1–§3(複素トーラスと Riemann の条件)、§4(定義と剛性補題)、§6(立方定理・射影性・$n$ 倍写像)、§7(同種と商)、§8・§13(双対アーベル多様体、$H^1(A,\mathcal{O}_A)$)、§14–§16($p$ 捩れ、Riemann–Roch)、第 IV 章(Tate 加群、完全可約性)
[3]
Christina Birkenhake, Herbert Lange, Complex Abelian Varieties, Springer, 2004, 第 2 章(Appell–Humbert の定理)、第 4 章(Riemann の条件、非代数的トーラス)
[4]
Phillip Griffiths, Joseph Harris, Principles of Algebraic Geometry, Wiley, 1978, 第 2 章 §6(複素トーラスと Riemann の条件)
[5]
Siegfried Bosch, Werner Lütkebohmert, Michel Raynaud, Néron Models, Springer, 1990, 第 1 章(Néron モデル)、第 8–9 章(Picard 関手と Jacobi 多様体)
[6]
Robin Hartshorne, Algebraic Geometry, Springer, 1977, IV.4(楕円曲線の群構造)
[8]
Tadao Oda, The first de Rham cohomology group and Dieudonné modules, Annales scientifiques de l'École Normale Supérieure, 4e série, 1969, 63–135
[10]
John Tate, Endomorphisms of abelian varieties over finite fields, Inventiones Mathematicae, 1966, 134–144
[11]
Gerd Faltings, Endlichkeitssätze für abelsche Varietäten über Zahlkörpern, Inventiones Mathematicae, 1983, 349–366

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