数論幾何学

同義語:数論幾何arithmetic geometry

概要

数論幾何学(arithmetic geometry)とは、整数係数や有理数係数の多項式の方程式を代数幾何学の言葉と方法で調べる数学の分野である。同じ方程式を有理数体・代数体・実数体・$p$ 進数体・有限体の上で同時に考え、それぞれの体の上の解(有理点)の集合を比べて、解の存在・有限性・個数の増え方を多様体の幾何(種数やコホモロジー)から読み取る。たとえば 2 次曲線は有限体上で $q+1$ 個の点をもち、Hensel の補題で $p$ 進点に持ち上がり、Legendre の定理により局所的な点の存在が有理点の存在と同値になる。主な成果に Mordell–Weil の定理、Faltings の定理、Weil 予想があり、Birch–Swinnerton-Dyer 予想などの予想が研究されている。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 有理点, p進数, 有限体, 射影空間

数論幾何学(arithmetic geometry)は、整数係数や有理数係数の多項式の方程式を、代数幾何学の言葉と方法で調べる分野である。1 組の方程式は、有理数体 $\mathbb{Q}$、実数体 $\mathbb{R}$、各素数 $p$ についての有限体 $\mathbb{F}_p$ と $p$ 進数体 $\mathbb{Q}_p$、さらに代数体($\mathbb{Q}$ の有限次拡大体)のように、性質のまったく違う多くの体の上で同時に意味をもつ。数論幾何学は、これらの体の上での解の集合(有理点の集合)を 1 つの幾何学的対象の異なる姿として比べ、「解があるか」「有限個か」「どれくらい多いか」を幾何の性質(次元、種数、コホモロジー)から読み取ることを目指す。
中心的な成果には、楕円曲線の有理点の群が有限生成であること(Mordell–Weilの定理)、種数 $2$ 以上の曲線の有理点が有限個であること(Faltings の定理)、有限体上の多様体の点の個数についての Weil予想 などがある。この記事では、1 つの方程式を有限体・$p$ 進体・有理数体で順に見る例を完全な証明つきで述べ、そのあとで分野の主な対象と定理の地図を示す。

対象と基本の問い

多くの体の上の点

整数係数の同次多項式 $F_1,\dots,F_r\in\mathbb{Z}[x_0,\dots,x_n]$ を考える。体 $k$ について
$$ X(k):=\{[a_0:\dots:a_n]\in\mathbb{P}^n(k)\mid F_1(a)=\dots=F_r(a)=0\} $$
とおく(係数は $\mathbb{Z}\to k$ で $k$ の元とみる)。$F_i$ は同次なので、条件は斉次座標の選び方によらない。これは 有理点 の意味での、$F_1,\dots,F_r$ が定める射影スキームの $k$ 値点の集合と一致する(有理点 の例「射影空間の値をもつ点」)。$k$ として $\mathbb{Q}$、$\mathbb{R}$、$\mathbb{Q}_p$、$\mathbb{F}_p$ をとると、同じ方程式から 4 種類の点の集合が得られる。包含 $\mathbb{Q}\subset\mathbb{R}$、$\mathbb{Q}\subset\mathbb{Q}_p$ から単射 $X(\mathbb{Q})\to X(\mathbb{R})$、$X(\mathbb{Q})\to X(\mathbb{Q}_p)$ が得られる。$\mathbb{F}_p$ との関係は「法 $p$ での還元」である。

射影空間の有理点と還元
  1. $\mathbb{P}^n(\mathbb{Q})$ の各点は、成分の最大公約数が $1$ の整数の組 $(a_0,\dots,a_n)$(原始的な座標)で表され、その表し方は全体の符号を除いてただ 1 通りである。
  2. 素数 $p$ について、原始的な座標を法 $p$ で還元する写像 $\mathrm{red}_p\colon\mathbb{P}^n(\mathbb{Q})\to\mathbb{P}^n(\mathbb{F}_p)$、$[a_0:\dots:a_n]\mapsto[\bar a_0:\dots:\bar a_n]$ が定まる。
  3. 整数係数の同次多項式 $F_1,\dots,F_r$ が定める $X$ について、$\mathrm{red}_p$ は $X(\mathbb{Q})$ を $X(\mathbb{F}_p)$ に写す。とくに、ある素数 $p$ で $X(\mathbb{F}_p)=\emptyset$ なら $X(\mathbb{Q})=\emptyset$ である。

1.点 $P=[b_0:\dots:b_n]$($b_i\in\mathbb{Q}$、全部は $0$ でない)の座標に分母の公倍数を掛けて整数にし、さらに成分の最大公約数で割れば原始的な座標が得られる。$(a_i)$ と $(a'_i)$ が同じ点の原始的な座標なら、$a'=\lambda a$($\lambda\in\mathbb{Q}^\times$)である。$\lambda=u/v$(既約分数、$v\ge1$)と書くと、すべての $i$ で $va'_i=ua_i$ である。$i$ についての最大公約数をとると、$\gcd(a'_i)=\gcd(a_i)=1$ から左辺は $v$、右辺は $\lvert u\rvert$ なので $v=\lvert u\rvert$、既約性から $v=\lvert u\rvert=1$、すなわち $\lambda=\pm1$ である。
2.原始的な座標の成分は全部は $p$ で割り切れないので、$(\bar a_0,\dots,\bar a_n)\ne0$ であり $\mathbb{P}^n(\mathbb{F}_p)$ の点を定める。1 により座標の選び方の自由度は符号だけで、符号を変えても $\mathbb{P}^n(\mathbb{F}_p)$ の点は変わらない。
3.$P\in X(\mathbb{Q})$ の原始的な座標 $a$ について、$F_i(a)=0$ は整数の等式なので、法 $p$ で還元して $\bar F_i(\bar a)=0$ である。よって $\mathrm{red}_p(P)\in X(\mathbb{F}_p)$ である。後半は前半の対偶である。$\square$

この命題の 3 は、有理数解の非存在を有限個の合同式で示す方法の原型である。一方で、還元だけでは結論が出ない例もある。$X\colon x^2+y^2=3z^2$ の $\mathbb{F}_3$ 点を求めると、$x^2+y^2\equiv0\pmod3$ から $x\equiv y\equiv0$ となり($\mathbb{F}_3$ の平方は $0,1$ だけ)、点 $[0:0:1]$ が 1 つある。したがって 3 からは $X(\mathbb{Q})=\emptyset$ は結論できない。この例は、$\mathbb{Q}_3$ の点を使うと片がつく(有理点 の例「反例:実数の点はあるが 3 進数の点がない曲線」)。

基本の問い

体 $k$ 上の多様体 $X$ について、数論幾何学は次のような問いを立てる(Poo17 §2.6.4)。

  1. 存在:$X(k)$ は空でないか。$k=\mathbb{Q}$ で任意の多項式についてこれを判定する算法があるかは、$\mathbb{Q}$ 上の Hilbert の第 10 問題として未解決である。
  2. 有限性:$X(k)$ は有限か。有限なら元をすべて挙げられるか。
  3. 増え方:無限なら、高さ $B$ 以下の点の個数は $B\to\infty$ でどう増えるか(高さについては Diophantus幾何学)。
  4. 稠密性:$X(k)$ は $X$ の中で Zariski 稠密か。
  5. 局所と大域:すべての完備化 $k_v$ で $X(k_v)\ne\emptyset$ なら $X(k)\ne\emptyset$ か(Hasse 原理、局所大域原理)。
    有限体では 1 は有限回の探索で判定でき、$p$ 進体や実数体では Henselの補題 や中間値の定理のような近似の道具が使える。難しさは有理数体や代数体(大域体)にある。局所体の上の情報をどう大域体に持ち上げるかが、分野全体を通じた主題である。

例:2 次曲線を 3 種類の体で見る

$a,b,c$ を $0$ でない整数とし、射影平面の 2 次曲線
$$ C\colon ax^2+by^2+cz^2=0 $$
を考える。この 1 つの方程式を、有限体、$p$ 進体、有理数体の順に調べる。有限体での点の存在と数え上げ、$p$ 進体への持ち上げ、有理数体での局所大域原理という、数論幾何学の典型的な流れがここに現れる。

有限体の上

有限体上の対角 2 次形式の零点

$q$ を奇数の素数冪、$a,b,c\in\mathbb{F}_q^\times$ とする。$ax^2+by^2=-c$ をみたす $x,y\in\mathbb{F}_q$ が存在する。とくに $C(\mathbb{F}_q)\ne\emptyset$ である。

$q$ は奇数なので $\mathbb{F}_q$ の標数は $2$ でなく、$x\ne0$ なら $x\ne-x$ である。したがって 2 乗写像 $\mathbb{F}_q^\times\to\mathbb{F}_q^\times$ は各像の上にちょうど 2 元をもち、$0$ でない平方は $(q-1)/2$ 個、$0$ を含めた平方の集合 $Q$ は $(q+1)/2$ 個の元をもつ。$a,b\ne0$ なので、$A:=\{ax^2\mid x\in\mathbb{F}_q\}=aQ$ と $B:=\{-c-by^2\mid y\in\mathbb{F}_q\}=-c-bQ$ はともに $(q+1)/2$ 個の元をもつ。$\#A+\#B=q+1>q=\#\mathbb{F}_q$ なので $A\cap B\ne\emptyset$ であり、$ax^2=-c-by^2$ となる $x,y$ がある。$[x:y:1]\in C(\mathbb{F}_q)$ である。$\square$

点が 1 つ見つかると、すべての点を数えられる。これは有限体に限らない一般の事実である。

点をもつ 2 次曲線と射影直線

$k$ を標数が $2$ でない体、$a,b,c\in k^\times$、$C\colon ax^2+by^2+cz^2=0$ とし、$P_0\in C(k)$ とする。$P_0$ を通る $k$ 上の直線 $L$ に、「$L$ と $C$ の交わりのうち $P_0$ 以外の点($L$ が接線なら $P_0$)」を対応させる写像は、$P_0$ を通る直線全体から $C(k)$ への全単射である。$P_0$ を通る直線全体は $\mathbb{P}^1(k)$ と 1 対 1 に対応するので、$C(k)$ は $\mathbb{P}^1(k)$ と 1 対 1 に対応する。とくに $k=\mathbb{F}_q$($q$ は奇数)なら $\#C(\mathbb{F}_q)=q+1$ である。

$F(v):=ax_0^2+bx_1^2+cx_2^2$($v=(x_0,x_1,x_2)\in k^3$)とし、$\beta(v,w):=ax_0y_0+bx_1y_1+cx_2y_2$ をその対称双線形形式とする($w=(y_0,y_1,y_2)$)。$F(v)=\beta(v,v)$ であり、$F(sv+tw)=s^2F(v)+2st\beta(v,w)+t^2F(w)$ が成り立つ。$abc\ne0$ なので $\beta$ は非退化である。
(直線は $C$ に含まれない)2 次元部分空間 $W\subset k^3$ の上で $F$ が恒等的に $0$ なら、上の式と標数 $\ne2$ から $\beta$ も $W$ 上で $0$ となり、$W\subset W^\perp$ である。非退化性から $\dim W^\perp=3-2=1$ なので矛盾する。
$P_0=[v_0]$ とする。$P_0$ を通る直線は $v_0$ を含む 2 次元部分空間 $W=\langle v_0,w\rangle$ である。$W$ の点 $[sv_0+tw]$ が $C$ にあるための条件は、$F(v_0)=0$ から
$$ t\bigl(2s\,\beta(v_0,w)+t\,F(w)\bigr)=0 $$
である。$t=0$ は $P_0$ である。$\beta(v_0,w)$ と $F(w)$ が同時に $0$ なら $F$ は $W$ 上で $0$ となって前段に反するので、もう 1 つの解 $(s:t)=(-F(w):2\beta(v_0,w))$ が定まる。この点
$$ \Phi(L):=\bigl[-F(w)\,v_0+2\beta(v_0,w)\,w\bigr] $$
は $k$ 有理点であり、$w$ を $W$ の別の元 $\lambda w+\mu v_0$($\lambda\ne0$)に取り替えても同じ点を与える($\beta(v_0,v_0)=0$ を使って代入すると全体が $\lambda^2$ 倍になる)。$\Phi(L)=P_0$ となるのは $\beta(v_0,w)=0$、すなわち $W=\{v\mid\beta(v_0,v)=0\}$(接線。非退化性からこれは 2 次元)のときだけである。
逆写像を作る。$P\in C(k)$、$P\ne P_0$ には直線 $P_0P$ を、$P_0$ には接線を対応させる。$P\ne P_0$ なら直線 $P_0P$ と $C$ の交わりは上の計算から $P_0$ ともう 1 点だけで、$P$ はその 1 点なので $\Phi(P_0P)=P$ である。接線 $L_0$ については $\Phi(L_0)=P_0$ である。また $L$ が接線でなければ $\Phi(L)\ne P_0$ で $L=P_0\Phi(L)$ である。よって 2 つの写像は互いに逆である。
$v_0$ を含む 2 次元部分空間は、商 $k^3/kv_0\cong k^2$ の 1 次元部分空間と 1 対 1 に対応するので、$P_0$ を通る直線全体は $\mathbb{P}^1(k)$ と 1 対 1 に対応する。$k=\mathbb{F}_q$ では $\#\mathbb{P}^1(\mathbb{F}_q)=q+1$ である。$\square$

2 つの命題から、奇数の $q$ について $\#C(\mathbb{F}_q)=q+1$ となる。たとえば $x^2+y^2+z^2=0$ は $q=3,5,7,11,13$ でそれぞれ $4,6,8,12,14$ 個の点をもつ(直接数えた値と一致する)。点の個数が $q+1$ という式は、$C(k)$ が $\mathbb{P}^1(k)$ と 1 対 1 に対応することの現れである。$\mathbb{F}_{q^m}$ でも同じ議論で点は $q^m+1$ 個なので、$C$ の合同ゼータ関数は射影直線と同じ $1/\bigl((1-T)(1-qT)\bigr)$ になり(合同ゼータ関数 の例「アフィン空間と射影空間」)、これは Weil予想 の種数 $0$ の場合にあたる。

$p$ 進体の上

有限体の点は、Henselの補題 によって $p$ 進整数の点に持ち上がる。

$p$ 進点の存在

$p$ を奇素数、$a,b,c\in\mathbb{Z}_p^\times$ とする。このとき $C\colon ax^2+by^2+cz^2=0$ は $\mathbb{Q}_p$ 有理点をもち、とくに $x,y,z\in\mathbb{Z}_p$ で $z=1$ となる解がある。

法 $p$ で還元すると $\bar a,\bar b,\bar c\in\mathbb{F}_p^\times$ なので、prop-arith-finite-field-zero により $\bar a\bar x^2+\bar b\bar y^2=-\bar c$ となる $\bar x,\bar y\in\mathbb{F}_p$ がある。
$\bar x\ne0$ の場合:$\bar x,\bar y$ の持ち上げ $x_0,y_0\in\mathbb{Z}_p$ をとり、$f(X):=aX^2+by_0^2+c\in\mathbb{Z}_p[X]$ とおく。$f(x_0)\equiv0\pmod p$ であり、$f'(x_0)=2ax_0$ は $p$ が奇数で $a,x_0$ が単元なので単元である。Henselの補題 の定理「Hensel の補題:単純根の持ち上げ」により $f(x)=0$ となる $x\in\mathbb{Z}_p$ があり、$[x:y_0:1]\in C(\mathbb{Q}_p)$ である。
$\bar x=0$ の場合:$\bar b\bar y^2=-\bar c\ne0$ なので $\bar y\ne0$ であり、$x$ と $y$ の役割を入れかえて同じ議論をすればよい。$\square$

局所的な条件は有限個

$a,b,c$ を $0$ でない整数とする。$2abc$ を割り切らない素数 $p$ について、$C\colon ax^2+by^2+cz^2=0$ は $\mathbb{Q}_p$ 有理点をもつ。したがって「すべての $p$ と $\mathbb{R}$ で点をもつ」かどうかは、$\mathbb{R}$ と、$2abc$ を割り切る有限個の素数 $p$ についての $\mathbb{Q}_p$ で調べれば判定できる。

$p\nmid2abc$ なら $p$ は奇数で $a,b,c\in\mathbb{Z}_p^\times$ なので、thm-arith-p-adic-point から従う。$\square$

有理数体の上

2 次曲線では、局所的な点の存在が大域的な点の存在を保証する。

Legendre の定理(2 次曲線の Hasse 原理)

有理数係数の 3 変数 2 次形式 $F(x,y,z)$ が $\mathbb{Q}$ に自明でない零点をもつための必要十分条件は、$\mathbb{R}$ とすべての素数 $p$ についての $\mathbb{Q}_p$ に自明でない零点をもつことである。

定理の働き

必要性は $\mathbb{Q}\subset\mathbb{R}$、$\mathbb{Q}\subset\mathbb{Q}_p$ から明らかで、定理の内容は十分性にある。局所体での零点の有無は有限個の素数の確認に帰着するので、2 次曲線の有理点の有無は有限回の計算で判定できる。次数が 3 以上では同様の主張は成り立たない。例えば Selmer の曲線 $3x^3+4y^3+5z^3=0$ はすべての局所体に自明でない零点をもつが、$\mathbb{Q}$ には自明でない零点をもたない。

この定理はこの記事では証明しない(Mil21 第 I 章 Theorem 2.8、p.22。変数の個数を任意にしたものが Hasse–Minkowski の定理で、同 Aside 2.9 に証明の所在がある)。必要性は $\mathbb{Q}\subset\mathbb{R}$、$\mathbb{Q}\subset\mathbb{Q}_p$ から明らかで、十分性が内容である。cor-arith-finitely-many-local と合わせると、2 次曲線が有理点をもつかどうかは有限回の計算で決まる(CJW06 の BSD 予想の章、p.31 も、種数 $0$ の曲線について有理点の有無が有限個の合同式で決まることを述べている)。さらに有理点が 1 つあれば、prop-arith-conic-parametrization により有理点全体は $\mathbb{P}^1(\mathbb{Q})$ と 1 対 1 に対応し、無限個ある。

2 次曲線の判定の例
  1. $x^2+y^2=5z^2$ は有理点 $[1:2:1]$ をもつ。prop-arith-conic-parametrization により有理点は無限個ある。
  2. $x^2+y^2=7z^2$ は有理点をもたない。$\mathbb{Q}_7$ 点がないことを示せばよい。原始的な $7$ 進整数解 $(x,y,z)$ があるとすると、$x^2+y^2\equiv0\pmod7$ で、$-1$ は法 $7$ の平方剰余でないから $x\equiv y\equiv0\pmod7$ となる。すると $49\mid7z^2$ から $7\mid z$ となり、原始性に反する。
  3. $x^2+y^2+z^2=0$ は $\mathbb{R}$ に自明でない零点をもたないので、有理点をもたない。

2 の議論は prop-arith-reduction の 3 と違い、法 $7$ の解 $[0:0:1]$ があるにもかかわらず、法 $49$ まで見て矛盾を出している。これは「$\mathbb{Q}_7$ で解けない」ことの確かめであり、cor-arith-finitely-many-local で残る素数 $7\mid abc$ での判定にあたる。
定理の仮定を外すと結論がどう崩れるかを並べる。確かめは表の下にある。

外す条件反例成り立たなくなること
$abc\ne0$(非退化)$\mathbb{F}_q$ 上の $x^2-y^2=0$点の個数が $q+1$
$p$ が奇数$\mathbb{Q}_2$ 上の $x^2+y^2+z^2=0$係数が単元なら $\mathbb{Q}_p$ 点がある
係数が $p$ 進単元$\mathbb{Q}_3$ 上の $x^2+y^2-3z^2=0$$\mathbb{Q}_p$ 点がある
点 $P_0$ をもつ$\mathbb{R}$ 上の $x^2+y^2+z^2=0$$C(k)$ が $\mathbb{P}^1(k)$ と 1 対 1
次数 $2$Selmer の曲線 $3x^3+4y^3+5z^3=0$Hasse 原理
反例の確かめ
  1. $x^2-y^2=0$($c=0$)は 2 直線 $x=y$ と $x=-y$ の和で、2 直線は $[0:0:1]$ だけで交わる($q$ は奇数なので $x=y=-y$ から $x=y=0$)。各直線は $q+1$ 個の点をもつので、$\mathbb{F}_q$ 点は $2q+1$ 個である。prop-arith-conic-parametrization の証明では非退化性($abc\ne0$)を「直線は $C$ に含まれない」ところで使っており、この例ではそこが崩れている。
  2. $x,y,z\in\mathbb{Z}_2$ が原始的な解なら、法 $4$ で平方は $0,1$ なので $x^2+y^2+z^2$ は奇数の成分の個数($1,2,3$ のどれか)に法 $4$ で合同となり、$0$ にならない。よって $\mathbb{Q}_2$ 点はない。係数 $1,1,1$ はすべて $2$ 進単元である。
  3. $c=-3$ は $3$ 進単元でない。$\mathbb{Q}_3$ 点がないことは 有理点 の例「反例:実数の点はあるが 3 進数の点がない曲線」で示されている。
  4. $x^2+y^2+z^2=0$ は $\mathbb{R}$ 点をもたないが、$\mathbb{P}^1(\mathbb{R})$ は無限集合である。
  5. Selmer の曲線は $\mathbb{R}$ に自明でない零点をもち、すべての整数 $m$ を法とする自明でない零点をもつが、$\mathbb{Q}$ に自明でない零点をもたない(Mil21 第 I 章 p.19。すべての $\mathbb{Q}_p$ に点をもつことは 楕円曲線 の例「反例:有理点をもたない種数 $1$ の曲線」)。種数 $1$ の曲線では Hasse 原理が成り立たないことがある。

曲線の有理点:種数による 3 分法

2 次曲線の例は種数 $0$ の場合である。$\mathbb{Q}$ 上の滑らかな射影曲線 $C$ の有理点のふるまいは、複素数の点 $C(\mathbb{C})$ を Riemann 面とみたときの種数 $g$ でおおまかに決まる(CJW06 p.31–32、Mil21 第 I 章 §2)。

種数代表例$C(\mathbb{Q})$ のふるまい主な結果
$g=0$2 次曲線空か、$\mathbb{P}^1(\mathbb{Q})$ と 1 対 1(無限)Legendre の定理(有無は有限個の合同式で決まる)
$g=1$平面 3 次曲線空か、有限生成アーベル群 $\mathbb{Z}^r\oplus(\text{有限群})$Mordell–Weilの定理。Hasse 原理は成り立たないことがある
$g\ge2$次数 $4$ 以上の滑らかな平面曲線有限集合Faltings の定理(Mordell 予想)
  • 種数 $0$:上の節のとおりである。有理点が 1 つあれば有理関数で媒介変数表示でき、有理点は無限個ある(CJW06 p.31)。
  • 種数 $1$:有理点が 1 つあれば $C$ は楕円曲線で、$C(\mathbb{Q})$ はその点を単位元とするアーベル群になる。Mordell は 1922 年にこの群が有限生成であることを示した(CJW06 p.31–32)。階数 $r$ を求める算法は証明されておらず(Mil21 第 I 章 p.19)、Birch–Swinnerton-Dyer予想 は $r$ を $L$ 関数の $s=1$ での零点の位数として予想する(CJW06 p.32)。
  • 種数 $2$ 以上:代数体 $K$ 上の種数 $2$ 以上の滑らかな射影曲線 $X$ について、$X(K)$ は有限である(Faltings、1983 年。Poo17 Theorem 9.5.1)。既知の証明は有効でなく、有理点をすべて求める算法は知られていない(同 Remark 9.5.2)。
    この 3 分法は、曲線の幾何(種数)が有理点の多さを支配するという、数論幾何学の基本的な見方を示している。高次元の多様体への一般化は Bombieri–Lang 予想などとして Diophantus幾何学 で扱う。

主な対象と理論の地図

数論幾何学の主な対象と、それぞれの中心的な定理・予想を並べる。個々の証明は各記事と文献に譲り、この記事では証明しない。

  1. 有限体上の多様体とゼータ関数。$\mathbb{F}_q$ 上の多様体 $X$ の点の個数 $\#X(\mathbb{F}_{q^n})$ を並べた母関数が合同ゼータ関数である。Weil予想(すべて証明されている)は、その有理性・関数等式・Riemann 予想の類似を述べる(Poo17 Theorem 7.1.1)。曲線についての帰結が Hasse–Weil の不等式 $\lvert\#X(\mathbb{F}_q)-q-1\rvert\le2g\sqrt q$ である(同 Corollary 7.2.1)。種数 $0$ の 2 次曲線では右辺が $0$ で、prop-arith-conic-parametrization の $\#C(\mathbb{F}_q)=q+1$ と一致する。
  2. 局所体上の多様体と Galois 表現。$\ell$ 進エタールコホモロジーや Tate加群 は絶対 Galois 群の表現を与え、$\ell=p$ の場合の構造を p進Hodge理論 が扱う。Henselの補題 は、滑らかな点を有限体から $p$ 進整数へ持ち上げる基本の道具である(thm-arith-p-adic-point)。
  3. 大域体上の多様体と局所大域原理。Hasse 原理が成り立たない例の多くは、Brauer群 を使う Brauer–Manin 障害や降下障害で説明される(Poo17 第 8 章)。種数 $1$ の曲線での破れ方は Tate–Shafarevich群 で測られる(CJW06 p.32)。
  4. アーベル多様体と楕円曲線。楕円曲線、アーベル多様体、そのNéronモデルや Selmer群、有理点の群の構造が研究される。
  5. $L$ 関数と数論的不変量。整数係数の方程式 $y^2=x^3+ax+b$(右辺の 3 次式の判別式を $\Delta$ とする)で与えた楕円曲線 $E$ の $L$ 関数 $L(E,s)=\prod_{p\nmid2\Delta}(1-a_pp^{-s}+p^{1-2s})^{-1}$($N_p$ は合同式 $y^2\equiv x^3+ax+b\pmod p$ の解の個数、$a_p=p-N_p$)は全平面に正則に延び、その $s=1$ での性質が Birch–Swinnerton-Dyer予想 の主題である(CJW06 p.32)。
  6. 高さと Diophantus 近似。点の「複雑さ」を測る高さを使い、有理点の有限性や個数の増え方を調べる分野が Diophantus幾何学 である。

直感

数論幾何学の基本的な考え方は、「方程式の解を、1 つの体の中で探す代わりに、多くの体の中の解を同時に見る」ことである。有限体 $\mathbb{F}_p$ の中の解は数えられ、$p$ 進体や実数体の中の解は近似と極限(Henselの補題、中間値の定理)で扱える。これらの「局所的な」情報を集めて、有理数や代数体の中の「大域的な」解について何が言えるかを調べる。2 次曲線では局所的な情報で完全に決まり(Legendre の定理)、3 次曲線ではそれだけでは足りない(Selmer の曲線)。その差を測る量(Tate–Shafarevich群、Brauer–Manin 障害)を作ることが、分野の大きな流れの 1 つである。
もう 1 つの考え方は、「方程式の幾何が解の多さを決める」ことである。曲線では種数が有理点の多さを決め(上の表)、有限体の上では点の個数がコホモロジー(Betti 数)で制御される(Weil予想)。

関連する分野との区別

  • 代数幾何学:代数閉体(とくに $\mathbb{C}$)上の多様体の幾何を主に扱う。数論幾何学は同じ言葉(スキーム、コホモロジー)を使いながら、代数閉でない体や整数環の上の点と、Galois 群の作用に焦点を当てる。
  • 代数的整数論:代数体とその整数環、イデアル類群、類体論など、「0 次元」の対象(体と環そのもの)を主に扱う。数論幾何学はその上の曲線や高次元の多様体を扱う。
  • **Diophantus幾何学**:数論幾何学のうち、有理点・整数点の有限性や分布を、高さや Diophantus 近似を使って調べる部分を指すことが多い。

関連項目

参考文献

[1]
Bjorn Poonen, Rational Points on Varieties, American Mathematical Society, 2017, §2.6.4(有理点についての基本の問い、Hilbert の第 10 問題、Hasse 原理)p.50–52、Theorem 7.1.1(Weil 予想)p.205、Corollary 7.2.1(Hasse–Weil の不等式)p.206、第 8 章(Brauer–Manin 障害と降下障害)、Theorem 9.5.1・Remark 9.5.2(Faltings の定理とその非有効性)p.286
[3]
James Carlson, Arthur Jaffe, Andrew Wiles (eds.), The Millennium Prize Problems, Clay Mathematics Institute / American Mathematical Society, 2006, A. Wiles「The Birch and Swinnerton-Dyer Conjecture」p.31–32(種数による有理点の 3 分法、Mordell の定理、$L$ 関数と BSD 予想、Tate–Shafarevich 群)

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