三角形の相似条件(similarity criteria for triangles)とは、2 つの三角形が相似である(対応する角がすべて等しく、対応する辺の比がすべて等しい)ことを、一部の量で判定する 3 つの条件である:3 組の辺の比がすべて等しい、2 組の辺の比とその間の角がそれぞれ等しい、2 組の角がそれぞれ等しい。一方の三角形を頂点を中心に相似比だけ拡大(相似拡大)すると、相似条件は合同条件に帰着する。間にない角を使う条件(2 辺の比と挟まない角)では形が 1 つに決まらず、四角形では角と辺の比が独立なので、同じ形の条件は成り立たない。大学数学では、相似とはすべての 2 点の距離を一定の倍率にする相似変換で移り合うことであり、相似条件はその判定法である。複素数平面では、同じ向きの相似は比 $(\gamma-\alpha)/(\beta-\alpha)$ が等しいことと同値である。
前提知識: 三角形の内角の和, 三角形の合同条件, 平行線公準(高校数学), 位置ベクトルと内分点
中学校で「2 つの三角形は、3 組の辺の比がすべて等しいとき、2 組の辺の比とその間の角がそれぞれ等しいとき、2 組の角がそれぞれ等しいとき、相似である」と習う。これが 三角形の相似条件 である。相似の定義は「対応する角がすべて等しく、対応する辺の比がすべて等しい」ことなので、相似条件は「定義にある角と辺の比の条件のうち、一部を確かめれば残りが自動的に成り立つ」と言っている。この記事では、それがなぜ正しいのかを証明する。まず具体的な三角形で、条件の一部から残りが出てくる様子を見る。
3 辺が $4,5,6$ の三角形と、3 辺が $6,\ 7.5,\ 9$ の三角形を比べる。辺の比は
$$
\frac64=\frac{7.5}5=\frac96=\frac32
$$
で、3 組とも等しい。角を 余弦定理(高校数学) で求める。3 辺が $a,b,c$ の三角形で、長さ $a$ の辺の向かいの角を $\alpha$ とすると $\cos\alpha=\dfrac{b^2+c^2-a^2}{2bc}$ である。
(1) 3 辺 $4,5,6$ の三角形。辺 $4$ の向かいの角は $\cos=\dfrac{25+36-16}{2\cdot5\cdot6}=\dfrac{45}{60}=\dfrac34$、辺 $5$ の向かいの角は $\cos=\dfrac{16+36-25}{2\cdot4\cdot6}=\dfrac{27}{48}=\dfrac9{16}$、辺 $6$ の向かいの角は $\cos=\dfrac{16+25-36}{2\cdot4\cdot5}=\dfrac5{40}=\dfrac18$ である。
(2) 3 辺 $6,\ 7.5,\ 9$ の三角形。辺 $6$ の向かいの角は $\cos=\dfrac{7.5^2+9^2-6^2}{2\cdot7.5\cdot9}=\dfrac{56.25+81-36}{135}=\dfrac{101.25}{135}=\dfrac34$ である。同じように、辺 $7.5$ の向かいの角は $\cos=\dfrac{36+81-56.25}{108}=\dfrac{60.75}{108}=\dfrac9{16}$、辺 $9$ の向かいの角は $\cos=\dfrac{36+56.25-81}{90}=\dfrac{11.25}{90}=\dfrac18$ である。
対応する角の余弦がすべて等しいので、対応する角はすべて等しい($0^\circ$ と $180^\circ$ の間の角は余弦で決まる)。辺の比だけを確かめたのに、角まで等しくなった。
$\angle A=90^\circ$、$AB=3$、$AC=4$、$BC=5$ の直角三角形 $ABC$ で、$A$ から辺 $BC$ に垂線 $AH$ を下ろす。座標を $A(0,0)$、$B(3,0)$、$C(0,4)$ にとると、$H\left(\dfrac{48}{25},\dfrac{36}{25}\right)$ で、
$$
BH=\frac95,\qquad HC=\frac{16}5,\qquad AH=\frac{12}5
$$
である(後の図 2 と同じ三角形。$H$ は直線 $BC$ の上の点 $(3-3t,\ 4t)$ のうち $\overrightarrow{AH}\cdot\overrightarrow{BC}=0$ となる $t=\dfrac{9}{25}$ の点)。
三角形 $HBA$ と三角形 $ABC$ を比べる。$\angle BHA=90^\circ=\angle BAC$ で、角 $B$ は共通である。2 つの角が等しい。辺の比を計算すると
$$
\frac{HB}{AB}=\frac{9/5}{3}=\frac35,\qquad \frac{BA}{BC}=\frac35,\qquad \frac{AH}{CA}=\frac{12/5}{4}=\frac35
$$
で、3 組とも $\dfrac35$ になる。角だけを確かめたのに、辺の比まで等しくなった。
2 つの例で、条件の一部から残りが出てきた。この記事で答える問いは次の 4 つである。
| 高校の言葉 | この記事の言葉 | 大学の言葉 |
|---|---|---|
| 形が同じで大きさが違う | 相似(def-tsc-similar) | 相似変換で移り合う |
| 拡大図・縮図をかく | 相似拡大(def-tsc-homothety) | ベクトルを $k$ 倍する写像 |
| 相似条件を確かめる | 相似拡大して合同条件に帰着する | 相似変換の群の作用で同じ軌道にあるかの判定 |
| 相似比 | 相似拡大の比 $k$ | 相似変換の拡大率 |
| 角が等しく、辺の比が等しい | 複素数の比が等しい | $\dfrac{\gamma-\alpha}{\beta-\alpha}$ が三角形の形を表す |
相似条件を証明するには、まず相似とは何かを決めておく必要がある。三角形の相似では、どの頂点がどの頂点に対応するかが大切である。
三角形 $ABC$ と三角形 $A'B'C'$ が、頂点の対応 $A\leftrightarrow A'$、$B\leftrightarrow B'$、$C\leftrightarrow C'$ のもとで 相似 であるとは、次の 2 つがともに成り立つことをいう。
記号 $\triangle ABC\sim\triangle A'B'C'$ では、頂点を書く順番が対応を表す。同じ 2 つの三角形でも、対応の付け方を変えると相似でなくなることがある。
ex-tsc-start-aa の三角形で考える。
(1) $\triangle HBA\sim\triangle ABC$ である。対応は $H\leftrightarrow A$、$B\leftrightarrow B$、$A\leftrightarrow C$ で、角は $\angle H=90^\circ=\angle A$、$\angle B$ は共通、残りの角も $\angle BAH=180^\circ-90^\circ-\angle B=\angle C$ で等しい(三角形の内角の和)。辺の比は ex-tsc-start-aa で計算したとおり、すべて $\dfrac35$ である。
(2) 同じ 2 つの三角形を、対応 $H\leftrightarrow A$、$B\leftrightarrow C$、$A\leftrightarrow B$ で比べると、$\dfrac{AB}{BC}=\dfrac35$ だが $\dfrac{HB}{AC}=\dfrac{9/5}4=\dfrac9{20}$ で、辺の比が等しくない。この対応のもとでは相似ではない。
同じ三角形の組でも、どの頂点を対応させるかを決めないと「相似」は意味をもたない。
定義の条件は、角について 3 つ、辺の比について 2 つ(3 つの比が等しいという 2 本の等式)の、合わせて 5 つの等式である。相似条件は、このうち 2〜3 個を確かめれば残りがすべて出ることを主張する。三角形では角と辺が強く結びついているので、このような節約ができる。四角形ではそうはいかない(ex-tsc-cx-quad)。
この記事では、平面に座標を入れ、2 点の距離を座標で測る。ベクトル $\vec v=(x,y)$ の長さは $\lvert\vec v\rvert=\sqrt{x^2+y^2}$ であり、$\lvert k\vec v\rvert=\lvert k\rvert\,\lvert\vec v\rvert$ である(位置ベクトルと内分点)。そのうえで、次の事実を証明せずに使う。
拡大図をかくとき、1 点を中心にして、そこから各点までの距離を一定の倍率で伸ばす。これを式にしたものが相似拡大である。
点 $O$ と正の数 $k$ を決める。平面の点 $X$ に対し、
$$
\overrightarrow{OX^*}=k\,\overrightarrow{OX}
$$
となる点 $X^*$ を対応させる変換を、$O$ を 中心 とする比 $k$ の 相似拡大 という。$X^*$ は半直線 $OX$ の上にあり、$OX^*=k\cdot OX$ である。中心 $O$ は動かない($O^*=O$)。
比が負の相似拡大(中心の反対側に移すもの)も含めた一般の場合は、Euler線 で扱う。この記事では比が正の場合だけを使う。
$O$ を中心とする比 $k\ (>0)$ の相似拡大で、点 $X,Y,Z$ がそれぞれ $X^*,Y^*,Z^*$ に移るとする。
要点:1 はベクトルの計算 $\overrightarrow{X^*Y^*}=\overrightarrow{OY^*}-\overrightarrow{OX^*}=k\,\overrightarrow{XY}$ で示す。2 は、角 $\angle X^*Y^*Z^*$ の 2 本の半直線が、角 $\angle XYZ$ の 2 本の半直線を平行移動したものであることを使う(平行移動は角を変えない)。
段 1(性質 1).定義から $\overrightarrow{OX^*}=k\,\overrightarrow{OX}$、$\overrightarrow{OY^*}=k\,\overrightarrow{OY}$ である。よって
$$\overrightarrow{X^*Y^*}=\overrightarrow{OY^*}-\overrightarrow{OX^*}=k\,\overrightarrow{OY}-k\,\overrightarrow{OX}=k\left(\overrightarrow{OY}-\overrightarrow{OX}\right)=k\,\overrightarrow{XY}$$
である。長さをとると、$k>0$ なので $X^*Y^*=\lvert k\rvert\,XY=k\cdot XY$ である。
段 2(一直線上にない).$X^*,Y^*,Z^*$ が一直線上にあると仮定すると、$\overrightarrow{Y^*Z^*}=t\,\overrightarrow{Y^*X^*}$ となる実数 $t$ がある($X^*\ne Y^*$ は段 1 と $X\ne Y$ から出る)。段 1 により両辺は $k\,\overrightarrow{YZ}$ と $tk\,\overrightarrow{YX}$ なので、$k$ で割って $\overrightarrow{YZ}=t\,\overrightarrow{YX}$ となり、$X,Y,Z$ が一直線上にあることになって仮定に反する。
段 3(角).$Y$ を $Y^*$ に移す平行移動 $\tau$(どの点 $P$ も $\overrightarrow{P\tau(P)}=\overrightarrow{YY^*}$ だけ動かす変換)を考える。$\tau$ は半直線 $YX$ を、$Y^*$ から出て向き $\overrightarrow{YX}$ の半直線に移す。段 1 より $\overrightarrow{Y^*X^*}=k\,\overrightarrow{YX}$ で $k>0$ なので、この半直線は半直線 $Y^*X^*$ である。同じように、$\tau$ は半直線 $YZ$ を半直線 $Y^*Z^*$ に移す。よって $\tau$ は角 $\angle XYZ$ を角 $\angle X^*Y^*Z^*$ に移す。平行移動は角を変えない(rem-tsc-facts の 2)ので、$\angle X^*Y^*Z^*=\angle XYZ$ である。
段 4(まとめ).段 1 を 3 辺に、段 3 を 3 つの角に使うと、三角形 $X^*Y^*Z^*$ は、対応する角がすべて三角形 $XYZ$ と等しく、対応する辺がすべて $k$ 倍である。これは def-tsc-similar の 2 つの条件である。$\square$
段 3 は「$Y^*X^*$ と $YX$ は平行で同じ向き」ということであり、平行線の同位角が等しいことを言いかえたものである。角の等しさは内積でも確かめられる。$\cos\angle XYZ=\dfrac{\overrightarrow{YX}\cdot\overrightarrow{YZ}}{\lvert\overrightarrow{YX}\rvert\,\lvert\overrightarrow{YZ}\rvert}$ の分子と分母は、どちらのベクトルを $k$ 倍しても $k^2$ 倍になるので、余弦は変わらない(ベクトルの内積(高校数学))。
相似拡大を使うと、相似条件は合同条件に帰着できる。考え方は、図 1 のとおりである。三角形 $ABC$ を頂点 $A$ を中心に $k$ 倍に拡大した三角形 $AB^*C^*$ をつくる。lem-tsc-homothety により $AB^*C^*$ は $ABC$ と相似である。そのうえで、$AB^*C^*$ と $A'B'C'$ が合同であることを合同条件で確かめる。
三角形 $ABC$ と三角形 $A'B'C'$ について、次の 3 つのどれか 1 つが成り立てば、$\triangle ABC\sim\triangle A'B'C'$ である。
3 辺 4, 5, 6 の三角形 ABC を A を中心に 3/2 倍に拡大すると三角形 ABC(破線)ができ、これが三角形 A'B'C' と合同になることを見る図
方針:$k=\dfrac{A'B'}{AB}$ とおき、$A$ を中心とする比 $k$ の相似拡大で $B$、$C$ を $B^*$、$C^*$ に移す。三角形 $AB^*C^*$ が三角形 $A'B'C'$ と合同であることを、条件 1〜3 のそれぞれで合同条件から示す。最後に、相似と合同をつなげる。
段 0(拡大した三角形)。$k=\dfrac{A'B'}{AB}>0$ とし、$A$ を中心とする比 $k$ の相似拡大で $B\mapsto B^*$、$C\mapsto C^*$ とする($A$ は動かない)。lem-tsc-homothety により、$A,B^*,C^*$ は一直線上になく、
$$
AB^*=k\cdot AB=A'B',\qquad AC^*=k\cdot AC,\qquad B^*C^*=k\cdot BC,
$$
$$
\angle B^*AC^*=\angle BAC,\qquad \angle AB^*C^*=\angle ABC,\qquad \angle AC^*B^*=\angle ACB
$$
である。
段 1(条件 1 の場合)。仮定から $\dfrac{A'C'}{AC}=\dfrac{B'C'}{BC}=k$ なので、$A'C'=k\cdot AC=AC^*$、$B'C'=k\cdot BC=B^*C^*$ である。段 0 の $AB^*=A'B'$ と合わせて、三角形 $AB^*C^*$ と三角形 $A'B'C'$ は 3 辺がそれぞれ等しいので合同である(rem-tsc-facts の 1)。
段 2(条件 2 の場合)。仮定から $\dfrac{A'C'}{AC}=k$ なので $A'C'=k\cdot AC=AC^*$ である。また $\angle B'A'C'=\angle BAC=\angle B^*AC^*$ である(前の等号は仮定、後の等号は段 0)。段 0 の $AB^*=A'B'$ と合わせて、2 辺とその間の角がそれぞれ等しいので、三角形 $AB^*C^*$ と三角形 $A'B'C'$ は合同である。
段 3(条件 3 の場合)。仮定と段 0 から $\angle B'A'C'=\angle BAC=\angle B^*AC^*$、$\angle A'B'C'=\angle ABC=\angle AB^*C^*$ である。段 0 の $AB^*=A'B'$ と合わせて、1 辺とその両端の角がそれぞれ等しいので、三角形 $AB^*C^*$ と三角形 $A'B'C'$ は合同である。
段 4(相似の結論)。段 1〜3 のどの場合も、対応 $A\leftrightarrow A'$、$B^*\leftrightarrow B'$、$C^*\leftrightarrow C'$ で三角形 $AB^*C^*$ と三角形 $A'B'C'$ は合同なので、対応する辺と角が等しい。段 0 と合わせると
$$
\angle A'=\angle B^*AC^*=\angle A,\qquad \angle B'=\angle AB^*C^*=\angle B,\qquad \angle C'=\angle AC^*B^*=\angle C,
$$
$$
A'B'=AB^*=k\cdot AB,\qquad A'C'=AC^*=k\cdot AC,\qquad B'C'=B^*C^*=k\cdot BC
$$
である。これは def-tsc-similar の 2 つの条件なので、$\triangle ABC\sim\triangle A'B'C'$(相似比 $k$)である。$\square$
証明の構造を言葉にすると、「相似条件=合同条件+相似拡大」である。3 つの相似条件は、3 つの合同条件の「長さ」を「長さの比」に置きかえたものになっている。条件 3 で 2 つの角しか仮定しないのは、合同条件「1 辺とその両端の角」の「1 辺」の役を、相似比 $k$ の決め方($AB^*=A'B'$)が引き受けるからである。
逆に、相似な三角形は条件 1〜3 をすべて満たす(定義の 2 つの条件に含まれている)。したがって、3 つの条件はどれも「相似であること」と同値である。
相似条件は、図形の中に相似な三角形を見つけて、長さの比の等式を作るために使う。代表的な 2 つを見る。
直角三角形 ABC(AB = 3, AC = 4)で、A から BC に下ろした垂線 AH が三角形を 2 つに分け、2 つの三角形 HBA、HAC がどちらももとの三角形と相似になることを見る図
$\angle A=90^\circ$ の直角三角形 $ABC$ で、$A$ から直線 $BC$ に下ろした垂線の足を $H$ とする。
まず、$H$ が辺 $BC$ の上(端点を除く)にあることを確かめる。三角形の内角の和 から $\angle B+\angle C=90^\circ$ なので、角 $B$ と角 $C$ はどちらも鋭角で、$\cos B>0$、$\cos C>0$ である。$H$ は直線 $BC$ の上の点なので、$\overrightarrow{BH}=t\,\overrightarrow{BC}$ と書ける。$\overrightarrow{HA}=\overrightarrow{BA}-t\,\overrightarrow{BC}$ が $\overrightarrow{BC}$ と垂直なので、内積をとって
$$
\overrightarrow{BA}\cdot\overrightarrow{BC}-t\,BC^2=0,\qquad t=\frac{\overrightarrow{BA}\cdot\overrightarrow{BC}}{BC^2}=\frac{AB\cos B}{BC}>0
$$
である。$B$ と $C$ の役を入れかえて同じ計算をすると、$\overrightarrow{CH}=(1-t)\,\overrightarrow{CB}$ から $1-t=\dfrac{AC\cos C}{BC}>0$ である。よって $0< t<1$ で、$H$ は $B$ と $C$ の間にあり、$BH+HC=BC$ である。
ex-tsc-aa の (1) により、$\triangle HBA\sim\triangle ABC$、$\triangle HAC\sim\triangle ABC$ で、したがって $\triangle HBA\sim\triangle HAC$ でもある(対応 $H\leftrightarrow H$、$B\leftrightarrow A$、$A\leftrightarrow C$)。対応する辺の比から、次の 3 つの式が出る。
1 と 2 を足し、$H$ が $B$ と $C$ の間にあること($BH+HC=BC$、ex-tsc-right の 2 つ目の段落)を使うと $AB^2+AC^2=(BH+HC)\cdot BC=BC^2$ となり、三平方の定理 が出る。ただし、この記事の証明は座標で長さを測った(rem-tsc-facts)。座標の距離の公式 $\sqrt{x^2+y^2}$ は三平方の定理そのものなので、この記事の筋道のまま三平方の定理の証明とみると循環する。
円の 2 本の弦 $AB$、$CD$ が円の内部の点 $P$ で交わるとする。三角形 $PAC$ と三角形 $PDB$ で、$\angle APC=\angle DPB$(対頂角)、$\angle PAC=\angle BAC=\angle BDC=\angle PDB$(弧 $BC$ に対する円周角)なので、thm-tsc-main の 3 により $\triangle PAC\sim\triangle PDB$ である。対応する辺の比から $\dfrac{PA}{PD}=\dfrac{PC}{PB}$、つまり $PA\cdot PB=PC\cdot PD$ である。
数値で確かめる。円 $x^2+y^2=25$ と点 $P(1,0)$ をとる。$x$ 軸に沿う弦は $A(-5,0)$、$B(5,0)$ で、$PA\cdot PB=6\cdot4=24$ である。直線 $x=1$ に沿う弦は $C(1,\sqrt{24})$、$D(1,-\sqrt{24})$ で、$PC\cdot PD=\sqrt{24}\cdot\sqrt{24}=24$ である。相似比も確かめると
$$
\frac{PA}{PD}=\frac6{\sqrt{24}},\qquad \frac{PC}{PB}=\frac{\sqrt{24}}4,\qquad \frac{AC}{DB}=\frac{\sqrt{36+24}}{\sqrt{16+24}}=\frac{\sqrt{60}}{\sqrt{40}}
$$
で、3 つとも $\dfrac{\sqrt6}2$ に等しい。
この等式は方べきの定理の一部である。方べきの定理の全体と、座標による証明は 方べきの定理(高校数学) で扱う。ほかにも、直角三角形の辺の比が大きさによらないこと(三角比が定義できること)は、三角比と鈍角への拡張 で 2 つの角による相似条件から示している。相似な三角形の面積の比が相似比の 2 乗になることは 三角形の面積比 で示している。
thm-tsc-main の 3 つの条件は、どれもこれ以上は減らせない。また、三角形を四角形に替えたり、平面を球面に替えたりすると、同じ形の主張は成り立たない。
| 外した仮定 | 崩れる主張 | ボックス |
|---|---|---|
| 条件 2 の「間の角」(間にない角に替える) | 2 辺の比と 1 つの角が等しい三角形は相似である | ex-tsc-cx-ssa |
| 条件 3 の 2 つ目の角(等しい角を 1 つだけにする) | 1 つの角が等しい三角形は相似である | ex-tsc-cx-few |
| 条件 1 の 3 つ目の辺の比(比が等しい辺を 2 組だけにする) | 2 組の辺の比が等しい三角形は相似である | ex-tsc-cx-few |
| 図形が三角形であること(四角形にする) | 対応する角がすべて等しい四角形は相似である/対応する辺の比がすべて等しい四角形は相似である | ex-tsc-cx-quad |
| 平面であること(球面の上の三角形にする) | 3 つの角が等しいまま、大きさ(面積)だけが違う三角形が作れる | ex-tsc-cx-sphere |
角 B = 30°、AB = 2、AC = √2 を満たす三角形が、C1 をとるものと C2 をとるものの 2 つあり、形が違うことを見る図
$\angle B=30^\circ$、$AB=2$、$AC=\sqrt2$ を満たす三角形 $ABC$ を作る(図 3)。$B$ を原点、直線 $BC$ を $x$ 軸にとると $A(\sqrt3,1)$ で、$C(x,0)$($x>0$)が $AC=\sqrt2$ を満たす条件は、余弦定理 $AC^2=AB^2+BC^2-2\cdot AB\cdot BC\cos30^\circ$ から
$$
2=4+x^2-2\sqrt3\,x,\qquad x^2-2\sqrt3\,x+2=0,\qquad x=\sqrt3\pm1
$$
である。2 つの解はどちらも正なので、$C_1(\sqrt3+1,0)$ と $C_2(\sqrt3-1,0)$ の 2 つの三角形ができる。
三角形 $ABC_1$ と三角形 $ABC_2$ は、$\dfrac{AB}{AB}=\dfrac{AC_2}{AC_1}=1$(2 辺の比が等しい)で、角 $B$ は共通である。しかし角 $C$ は、正弦定理 $\sin C=\dfrac{AB\sin B}{AC}=\dfrac{2\cdot\frac12}{\sqrt2}=\dfrac1{\sqrt2}$ から、$C_1$ では $45^\circ$、$C_2$ では $135^\circ$ である($C_2$ では $\cos\angle AC_2B=-\dfrac{\sqrt2}2$)。対応する角が等しくないので、2 つの三角形は相似でない。
等しいのは「$AB$ と $AC$ の比」と「角 $B$」で、角 $B$ は辺 $AB$ と辺 $BC$ の間の角であり、辺 $AB$ と辺 $AC$ の間の角ではない。間の角でない角では、三角形の形が 1 つに決まらない。三角形が 2 つできる場合の数え方は 三角形の決定と解の個数 で扱う。
半径 $1$ の球面の上で、北極 $(0,0,1)$ と赤道の上の 2 点 $(1,0,0)$、$(0,1,0)$ を大円の弧で結ぶと、3 つの角がすべて $90^\circ$ の球面三角形ができる。球面三角形の面積は、角を $A,B,C$(ラジアン)として $A+B+C-\pi$ に等しい(球面三角形の面積)ので、この三角形の面積は
$$
\frac\pi2+\frac\pi2+\frac\pi2-\pi=\frac\pi2
$$
である(球面全体 $4\pi$ の $\dfrac18$ で、確かに合う)。同じ公式により、3 つの角がすべて $90^\circ$ の球面三角形は、どれも面積が $\dfrac\pi2$ である。
平面なら、lem-tsc-homothety の相似拡大で、角を変えずに面積だけを $k^2$ 倍した三角形が作れる(面積の比は 三角形の面積比)。球面の上では、角を保ったまま大きさだけを変えることはできない。相似拡大が作れるのは、平面で平行線公準が成り立つからである(rem-tsc-noneuclid)。
lem-tsc-homothety の 1 は、相似拡大が「すべての 2 点の距離を $k$ 倍する」ことを言っている。この性質だけを取り出す。
平面の点を平面の点に移す写像 $f$ と正の数 $k$ があり、平面のすべての 2 点 $P,Q$ について
$$
f(P)f(Q)=k\cdot PQ
$$
が成り立つとき、$f$ を比 $k$ の 相似変換 という。比 $1$ の相似変換(距離を変えない写像)を 合同変換 という。
$f$ を比 $k$ の相似変換、$h$ を点 $O$ を中心とする比 $k$ の相似拡大とする。このとき、合同変換 $g$ があって、$f=h\circ g$(まず $g$、次に $h$ を行う写像)と書ける。
要点:$f$ のあとに比 $\dfrac1k$ の相似拡大 $h'$ で縮めた写像 $g=h'\circ f$ は、距離を $k\cdot\dfrac1k=1$ 倍するので合同変換であり、$h$ で戻すと $f$ になる。
段 1($h$ の逆).$O$ を中心とする比 $\dfrac1k$ の相似拡大を $h'$ とする。どの点 $X$ についても、$\overrightarrow{O\,h(h'(X))}=k\cdot\dfrac1k\,\overrightarrow{OX}=\overrightarrow{OX}$ なので $h(h'(X))=X$ である。
段 2($g$ の定義).$g=h'\circ f$(まず $f$、次に $h'$)とおく。どの 2 点 $P,Q$ についても、lem-tsc-homothety の 1 を比 $\dfrac1k$ の $h'$ に使い、次に $f$ の仮定を使うと
$$g(P)g(Q)=\frac1k\cdot f(P)f(Q)=\frac1k\cdot k\cdot PQ=PQ$$
である。よって $g$ は合同変換である。
段 3(合成).段 1 により、どの点 $P$ についても $h(g(P))=h(h'(f(P)))=f(P)$ である。よって $f=h\circ g$ である。$\square$
三角形 $ABC$ と三角形 $A'B'C'$ について、次の 2 つは同値である。
要点:2 ⇒ 1 は、$f$ が 3 辺をすべて $k$ 倍するので相似条件 1 から出る。1 ⇒ 2 は、prf-tsc-main で作った三角形 $AB^*C^*$ を使い、$A$ を中心とする相似拡大 $h$ のあとに、三角形 $AB^*C^*$ を三角形 $A'B'C'$ に重ねる合同変換 $g$ を行う。この証明では、合同な 2 つの三角形は平面の合同変換で移り合うことを、証明せずに使う。
使う事実について.Hilbert の公理系では Hil02 §7 の定理 17 にあたる。定理 17 は、合同な 2 つの平面図形に点を 1 つずつ付け加えても合同な図形に延ばせ、3 点が一直線上にないならその付け加える点はただ 1 つに決まる、と述べる。これを平面のすべての点に使うと平面の合同変換が定まる。高校数学では、平行移動・回転・対称移動を組み合わせて重ねることにあたる(回転・鏡映と行列の群)。
段 1(2 ⇒ 1).$f$ の比を $k$ とすると、$A'B'=f(A)f(B)=k\cdot AB$、同じく $A'C'=k\cdot AC$、$B'C'=k\cdot BC$ である。3 辺の比が等しいので、thm-tsc-main の 1 により $\triangle ABC\sim\triangle A'B'C'$ である。
段 2(1 ⇒ 2、相似拡大).相似比を $k$ とし、$A$ を中心とする比 $k$ の相似拡大を $h$ とする。$B^*=h(B)$、$C^*=h(C)$ とおく。相似の定義から $A'B'=k\cdot AB$、$A'C'=k\cdot AC$、$B'C'=k\cdot BC$ であり、prf-tsc-main の段 0 から $AB^*=k\cdot AB$、$AC^*=k\cdot AC$、$B^*C^*=k\cdot BC$ である。よって prf-tsc-main の段 1 と同じく、三角形 $AB^*C^*$ と三角形 $A'B'C'$ は 3 辺がそれぞれ等しく、合同である。
段 3(1 ⇒ 2、合同変換).合同な 2 つの三角形は合同変換で移り合うので、合同変換 $g$ で $g(A)=A'$、$g(B^*)=B'$、$g(C^*)=C'$ となるものがある。$f=g\circ h$(まず $h$、次に $g$)とおくと、どの 2 点 $P,Q$ についても $f(P)f(Q)=g(h(P))g(h(Q))=h(P)h(Q)=k\cdot PQ$ なので、$f$ は比 $k$ の相似変換である。さらに $f(A)=g(A)=A'$($h(A)=A$)、$f(B)=g(B^*)=B'$、$f(C)=g(C^*)=C'$ である。$\square$
2 つの相似変換を続けて行うと、比が $k$ と $l$ なら比 $kl$ の相似変換になり、比 $k$ の相似変換は(全単射であることを確かめると)逆写像が比 $\dfrac1k$ の相似変換になる。相似変換の全体は合成について群をなす。thm-tsc-transform は、相似な三角形とは「この群の元で移り合う三角形」のことだと言っている。この見方では、相似条件は「2 つの三角形が群の作用で同じ仲間(同じ軌道)に入るかどうかを、少ない量で判定する方法」である。相似変換の群そのものと、相似の中心については 相似変換と相似の中心 で扱う。
複素数平面では、三角形の形を 1 つの複素数で表せる。3 点 $A(\alpha)$、$B(\beta)$、$C(\gamma)$ に対して
$$
w=\frac{\gamma-\alpha}{\beta-\alpha}
$$
とおくと、複素数平面と図形 の定理「3 点の比は長さの比と角を表す」により、$\lvert w\rvert=\dfrac{AC}{AB}$ であり、$\arg w$ は半直線 $AB$ から半直線 $AC$ へ測った向きのついた角である。以下、2 つの三角形 $ABC$、$A'B'C'$ が 同じ向き であるとは、半直線 $AB$ から半直線 $AC$ へ測った向きのついた角と、半直線 $A'B'$ から半直線 $A'C'$ へ測った向きのついた角(どちらも $-\pi$ より大きく $\pi$ 以下にとる)の符号が同じであることとする。
三角形 $ABC$、$A'B'C'$ の頂点を表す複素数を $\alpha,\beta,\gamma$、$\alpha',\beta',\gamma'$ とし、$w=\dfrac{\gamma-\alpha}{\beta-\alpha}$、$w'=\dfrac{\gamma'-\alpha'}{\beta'-\alpha'}$ とおく。
要点:複素数は絶対値と偏角で決まる。絶対値 $\lvert w\rvert=\dfrac{AC}{AB}$ は辺の比を、偏角は角 $A$ を表すので、$w=w'$(逆の向きなら $w'=\overline{w}$)は条件 2(2 辺の比と間の角)と同じことになる。
段 1(1 の ⇒).相似なら $\dfrac{A'B'}{AB}=\dfrac{A'C'}{AC}$ なので $\dfrac{AC}{AB}=\dfrac{A'C'}{A'B'}$、つまり $\lvert w\rvert=\lvert w'\rvert$ である。また $\angle A=\angle A'$ で、向きのついた角は符号が同じなので、向きのついた角そのものが等しい。よって $\arg w=\arg w'$ である。絶対値と偏角が等しいので $w=w'$ である。
段 2(1 の ⇐).$w=w'$ なら $\lvert w\rvert=\lvert w'\rvert$ から $\dfrac{AC}{AB}=\dfrac{A'C'}{A'B'}$、つまり $\dfrac{A'B'}{AB}=\dfrac{A'C'}{AC}$ である。また偏角が等しいので向きのついた角が等しく、その絶対値である $\angle A$ と $\angle A'$ も等しい。2 辺の比と間の角が等しいので、thm-tsc-main の 2 により相似である。
段 3(2).逆の向きなら、向きのついた角は絶対値が同じで符号が逆である。$\overline{w}$ は $w$ と絶対値が同じで偏角の符号が逆の複素数なので、段 1・段 2 の「$\arg w=\arg w'$」を「$\arg w'=-\arg w$」に、「$w=w'$」を「$w'=\overline{w}$」に替えれば同じ議論が通る。$\square$
prop-tsc-complex により、三角形の形(相似で移り合うものを同じとみたもの)は、向きまで込めると 1 つの複素数 $w$(実数でないもの)で表される。$w$ は実部と虚部の 2 つの実数をもち、これは「三角形の形は 2 つの角で決まる」という相似条件 3 とちょうど合っている。
相似拡大が作れること、すなわち「合同でない相似な三角形がある」ことは、平行線公準と同値な命題の 1 つとして知られている(Saccheri。一覧は 平行線公準(高校数学) の注意「平行線公準と同値なほかの命題」)。平行線公準が成り立たない双曲幾何では、3 つの角がそれぞれ等しい三角形は合同になる。ex-tsc-cx-sphere の球面では、同じ角の三角形の面積が等しかった。双曲幾何でも、三角形の面積は $\pi$ から 3 つの角の和を引いた値に比例し、角だけで決まる。これらはこの記事では証明しない(双曲幾何の三角形)。
また Hilbert は、平行線公準を含む平面の公理から、座標も連続性も使わずに線分の積を定義し、相似の理論を組み立てた。そこでは相似な三角形を「対応する角がすべて等しい三角形」と定義し、辺の比が等しいことを定理として示している(Hil02 §15、§16 の定理 22)。
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