根と係数の関係(解と係数の関係、Vieta's formulas)とは、$n$ 次方程式 $a_nx^n+\cdots+a_0=0$($a_n\ne0$)の解を重複込みで $\alpha_1,\dots,\alpha_n$ とするとき、基本対称式が $e_k(\alpha_1,\dots,\alpha_n)=(-1)^ka_{n-k}/a_n$ となることである。2 次方程式では $\alpha+\beta=-\frac ba$、$\alpha\beta=\frac ca$ である。この記事は、$n$ 次方程式の解と係数の関係、対称式の基本定理、冪和と基本対称式を結ぶ Newton の恒等式、行列の固有値の和がトレースに等しいこと、の 4 本の記事への案内であり、高校の計算と大学の概念の対応と読む順番を示す。
2 次方程式 $ax^2+bx+c=0$($a\ne0$)の 2 つの解を $\alpha,\beta$ とすると、$\alpha+\beta=-\frac ba$、$\alpha\beta=\frac ca$ が成り立つ。これが解と係数の関係(根と係数の関係)である。高校では、これを使って解を求めずに $\alpha^2+\beta^2$ などの値を計算し、「対称式は $\alpha+\beta$ と $\alpha\beta$ で表せる」と習う。
この記事は、この高校の計算を、$n$ 次方程式・対称式の基本定理・Newton の恒等式・行列の固有値とトレースへと 4 本の記事でたどるための案内である。まず主題の定義と、各記事の入口になる計算を見る。
$n$ 個の文字 $x_1,\dots,x_n$ の多項式が、文字をどのように並べ替えても変わらないとき、対称式という。$k=1,\dots,n$ について、相異なる $k$ 個の文字の積すべての和
$$
e_1=x_1+\cdots+x_n,\quad e_2=\sum_{i< j}x_ix_j,\quad\dots,\quad e_n=x_1x_2\cdots x_n
$$
を基本対称式という。$n$ 次方程式 $a_nx^n+a_{n-1}x^{n-1}+\cdots+a_0=0$($a_n\ne0$)の解を重複を込めて $\alpha_1,\dots,\alpha_n$ とするとき、
$$
e_k(\alpha_1,\dots,\alpha_n)=(-1)^k\frac{a_{n-k}}{a_n}\qquad(k=1,\dots,n)
$$
が成り立つことを、解と係数の関係という。
$n=2$ では $e_1=\alpha+\beta=-\frac{a_1}{a_2}$、$e_2=\alpha\beta=\frac{a_0}{a_2}$ で、高校の式そのものである。証明は n次方程式の解と係数の関係 で行う。
$x^2-3x+1=0$ の解 $\alpha,\beta$ は $\frac{3\pm\sqrt5}2$ だが、これを代入しなくても、$\alpha+\beta=3$、$\alpha\beta=1$ から
$$
\alpha^2+\beta^2=(\alpha+\beta)^2-2\alpha\beta=9-2=7,\qquad \alpha^3+\beta^3=(\alpha+\beta)^3-3\alpha\beta(\alpha+\beta)=27-9=18
$$
が分かる。$\alpha^2+\beta^2$ も $\alpha^3+\beta^3$ も、$\alpha$ と $\beta$ を入れ替えても変わらない対称式である。
$(x-1)(x-2)(x-3)=x^3-6x^2+11x-6$ の解は $1,2,3$ である。基本対称式は $e_1=1+2+3=6$、$e_2=1\cdot2+2\cdot3+3\cdot1=11$、$e_3=1\cdot2\cdot3=6$ で、係数の $6,11,6$(符号を除く)と一致する。解の 2 乗の和は $1+4+9=14$ で、$e_1^2-2e_2=36-22=14$ とも計算できる。
行列 $A=\begin{pmatrix}2&1\\ 1&2\end{pmatrix}$ について、$A\boldsymbol v=\lambda\boldsymbol v$ となる $\boldsymbol v\ne\boldsymbol 0$ がある数 $\lambda$(固有値)は、$(2-\lambda)^2-1=0$、すなわち $\lambda^2-4\lambda+3=0$ の解 $1,3$ である。解と係数の関係から、その和 $4$ は対角成分の和 $2+2$、積 $3$ は行列式 $2\cdot2-1\cdot1$ に等しい。
図1:x² − 3x + 1 = 0 の解で見た、4 本の記事のつながり
図 1 は、4 本の記事の主な式と、$x^2-3x+1=0$ の解 $\alpha,\beta$ での値を並べたものである。解と係数の関係で $e_1,e_2$ が係数から分かり(1)、対称式はすべて $e_1,e_2$ で書け(2)、冪和 $\alpha^k+\beta^k$ は漸化式で順に計算でき(3)、その値 $3,7,18,47,123$ は、この方程式から作った行列の $k$ 乗のトレースとしても現れる(4)。
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