Osgoodの補題

同義語:Osgood's lemma

概要

Osgoodの補題(Osgood's lemma)とは、$\mathbb{C}^n$ の開集合の上で各変数について正則な関数が、連続であるか、より弱く局所有界であれば、多変数の意味で正則である、という定理である。局所有界なら 1 変数の Cauchy の評価式から局所 Lipschitz 型の評価が出て連続になり、連続なら 1 変数の Cauchy の積分公式を変数ごとに繰り返して多重円板上の積分公式が得られ、核を等比級数に展開して冪級数展開が従う。実変数では対応する主張が成り立たず、複素変数では局所有界性の仮定も Hartogs の定理によって外せる。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 多変数の正則関数, Cauchyの積分公式, 多重円板

Osgoodの補題(Osgood's lemma)とは、$\mathbb{C}^n$ の開集合の上で各変数について正則な関数が、連続であるか、より弱く局所有界であれば、多変数の意味で正則である、という定理である。証明は、局所有界なら連続であることを 1 変数の Cauchy の評価式で示し、連続なら 1 変数の Cauchy の積分公式を変数ごとに繰り返して多重円板上の積分公式を作り、核を等比級数に展開する、という 2 段からなる。
この補題は、多変数の正則関数 のいくつかの定義(局所的な冪級数展開、連続で各変数について正則、局所有界で各変数について正則)を結びつける。連続性も局所有界性も実は要らないが、それを示す Hartogsの定理(別々正則性) の証明はずっと長い。また、実変数ではこの補題に当たることが成り立たない(ex-osgood-real)。

主張

$U\subset\mathbb{C}^n$ を開集合とする。関数 $f\colon U\to\mathbb{C}$ が各変数について正則であるとは、各 $j$ と各点 $z\in U$ について、$z_j$ 以外の変数を止めた 1 変数の関数 $w\mapsto f(z_1,\dots,z_{j-1},w,z_{j+1},\dots,z_n)$ が、それが定義される開集合の上で正則であることをいう。$f$ が局所有界であるとは、各点に、その上で $|f|$ が有界になる近傍があることをいう。連続関数は局所有界である。
記号は 多変数の正則関数 に合わせる。$\Delta(a,r)$ は多重円板、$\overline{\Delta}(a,r)$ は閉多重円板、$T(a,r):=\{\zeta\mid|\zeta_j-a_j|=r_j\ (j=1,\dots,n)\}$ はその区別された境界であり、$T(a,r)$ 上の積分は $\zeta_j=a_j+r_je^{i\theta_j}$ による媒介変数表示で $[0,2\pi]^n$ 上の積分として定める(多重円板 の定義「多重円板」と定理「多重円板上の Cauchy の積分公式」の前の約束)。

Osgoodの補題

$U\subset\mathbb{C}^n$ を開集合、$f\colon U\to\mathbb{C}$ を各変数について正則な関数とし、$f$ は $U$ 上で局所有界(たとえば連続)であるとする。このとき次が成り立つ。

  1. $f$ は $U$ 上で連続である。
  2. 閉多重円板 $\overline{\Delta}(a,r)$($0< r_j<\infty$)が $U$ に含まれれば、任意の $z\in\Delta(a,r)$ について
    $$ f(z)=\frac{1}{(2\pi i)^n}\int_{T(a,r)}\frac{f(\zeta)}{(\zeta_1-z_1)\cdots(\zeta_n-z_n)}\,d\zeta_1\cdots d\zeta_n . $$
  3. 2 の状況で、$c_\alpha:=\frac{1}{(2\pi i)^n}\int_{T(a,r)}f(\zeta)(\zeta-a)^{-\alpha-\mathbf 1}d\zeta_1\cdots d\zeta_n$($\mathbf 1=(1,\dots,1)$)とおくと、$|c_\alpha|\le r^{-\alpha}\max_{T(a,r)}|f|$ であり、$\Delta(a,r)$ の上で $f(z)=\sum_\alpha c_\alpha(z-a)^\alpha$、右辺は $\Delta(a,r)$ のコンパクト部分集合の上で正規収束する。
    特に $f$ は 多変数の正則関数 の定義「多変数の正則関数」の意味で正則である。
証明の組み立て

証明は下の prf-osgood-main にある。1 は次の lem-osgood-lipschitz から従い、2・3 は 1 変数の Cauchy の積分公式を変数ごとに繰り返して得る。

局所有界なら連続

1 の鍵は、有界な正則関数の導関数が Cauchy の評価式で押さえられることである。変数を 1 つずつ動かして差を分解すると、多変数の Lipschitz 型の評価が得られる。

有界で各変数について正則な関数の評価

$a\in\mathbb{C}^n$、$0< R_j<\infty$ とし、$f$ を $\Delta(a,R)$ 上の各変数について正則な関数で $|f|\le M$ を満たすものとする。$0<\rho_j< R_j$ とすると、すべての $z,w\in\Delta(a,\rho)$ について
$$ |f(z)-f(w)|\le M\sum_{j=1}^n\frac{|z_j-w_j|}{R_j-\rho_j} $$
が成り立つ。特に $f$ は $\Delta(a,R)$ 上で連続である。

1 座標ずつ置き換える

$k=0,1,\dots,n$ に対し $p^{(k)}:=(w_1,\dots,w_k,z_{k+1},\dots,z_n)$ とおくと、$p^{(0)}=z$、$p^{(n)}=w$ であり、各 $p^{(k)}$ は $\Delta(a,\rho)$ に属する。
$$ f(z)-f(w)=\sum_{k=1}^n\bigl(f(p^{(k-1)})-f(p^{(k)})\bigr) $$
であり、$p^{(k-1)}$ と $p^{(k)}$ は第 $k$ 座標だけが違う。$\varphi(t):=f(w_1,\dots,w_{k-1},t,z_{k+1},\dots,z_n)$ は円板 $|t-a_k|< R_k$ の上で正則で $|\varphi|\le M$ である。$|t-a_k|\le\rho_k$ となる $t$ では、中心 $t$、半径 $s< R_k-\rho_k$ の円板が $|t'-a_k|< R_k$ に含まれるので、Cauchyの積分公式 の命題「Cauchy の評価式」により $|\varphi'(t)|\le M/s$ であり、$s\to R_k-\rho_k$ として $|\varphi'(t)|\le M/(R_k-\rho_k)$ を得る。$z_k$ と $w_k$ を結ぶ線分は閉円板 $|t-a_k|\le\rho_k$ に含まれるので、
$$ |\varphi(z_k)-\varphi(w_k)|=\Bigl|\int_0^1\varphi'\bigl(w_k+s(z_k-w_k)\bigr)(z_k-w_k)\,ds\Bigr|\le\frac{M|z_k-w_k|}{R_k-\rho_k} $$
である。これを $k=1,\dots,n$ について足せばよい。$\Delta(a,R)$ の各点は、ある $\rho$ について $\Delta(a,\rho)$ に属するので、$f$ は連続である。$\square$

連続なら Cauchy の積分公式と冪級数展開

局所有界から連続へ、積分公式から冪級数へ

1。 $x\in U$ をとり、$|f|$ が有界になる $x$ の近傍の中に多重円板 $\Delta(x,R)$ をとる。lem-osgood-lipschitz により $f$ は $\Delta(x,R)$ 上で連続である。$x$ は任意なので $f$ は $U$ 上で連続である。
2。 $z\in\Delta(a,r)$ を固定する。$0\le k< n$ と、$|\zeta_j-a_j|\le r_j$($j\le k$)を満たす $\zeta_1,\dots,\zeta_k$ に対し、1 変数の関数 $\psi(w):=f(\zeta_1,\dots,\zeta_k,w,z_{k+2},\dots,z_n)$ を考える。$|w-a_{k+1}|\le r_{k+1}$ なら変数の点は $\overline{\Delta}(a,r)\subset U$ に属するので、$\psi$ が定義される開集合は閉円板 $|w-a_{k+1}|\le r_{k+1}$ を含み、仮定から $\psi$ はその上で正則である。Cauchyの積分公式 の定理「円板に対する Cauchy の積分公式」により
$$ f(\zeta_1,\dots,\zeta_k,z_{k+1},\dots,z_n)=\frac{1}{2\pi i}\oint_{|\zeta_{k+1}-a_{k+1}|=r_{k+1}}\frac{f(\zeta_1,\dots,\zeta_{k+1},z_{k+2},\dots,z_n)}{\zeta_{k+1}-z_{k+1}}\,d\zeta_{k+1} $$
である。$k=0$ の式の被積分関数に $k=1$ の式を代入し、以下 $k=n-1$ まで順に代入すると、$f(z)$ は円周の上の $n$ 重の逐次積分で表される。1 により被積分関数 $f(\zeta)\prod_j(\zeta_j-z_j)^{-1}$ は $T(a,r)$ 上で連続なので、媒介変数で書いた $[0,2\pi]^n$ 上の連続関数の逐次積分は重積分に等しく、2 の式を得る。
3。 $M:=\max_{T(a,r)}|f|$ とし、$K\subset\Delta(a,r)$ をコンパクト集合、$q_j:=\max_{z\in K}|z_j-a_j|/r_j<1$ とする。$\zeta\in T(a,r)$、$z\in K$ では等比級数により
$$ \prod_{j=1}^n\frac1{\zeta_j-z_j}=\sum_{\alpha\in\mathbb{N}^n}\frac{(z-a)^\alpha}{(\zeta-a)^{\alpha+\mathbf 1}},\qquad\Bigl|\frac{(z-a)^\alpha}{(\zeta-a)^{\alpha+\mathbf 1}}\Bigr|\le\frac{q^\alpha}{r_1\cdots r_n} $$
であり、$\sum_\alpha q^\alpha=\prod_j(1-q_j)^{-1}<\infty$ なので級数は $T(a,r)\times K$ 上で一様に絶対収束する。2 の式に代入して項別に積分すると $f(z)=\sum_\alpha c_\alpha(z-a)^\alpha$ を得る。$T(a,r)$ 上で $|f(\zeta)(\zeta-a)^{-\alpha-\mathbf 1}\prod_j(i(\zeta_j-a_j))|\le Mr^{-\alpha}$ なので $|c_\alpha|\le Mr^{-\alpha}$ であり、$\sup_K|c_\alpha(z-a)^\alpha|\le Mq^\alpha$ だから級数は $K$ 上で正規収束する。
最後に、$U$ の各点 $a$ は $U$ に含まれる閉多重円板の中心になるので、3 により $f$ は定義の意味で正則である。$\square$

2 と 3 は、連続で各変数について正則な関数を正則関数と呼ぶ流儀で 多重円板 の定理「多重円板上の Cauchy の積分公式」と「冪級数展開」が述べていることと同じである。この記事の要点は、1 で連続性を局所有界性へ弱められることにある。Kna16b Theorem B.50(p. 703)は、連続で各変数について正則な関数について 2・3 にあたる主張を「Osgood's Lemma」の名で述べている。Hor90 では 2・3 が Theorem 2.2.1(p. 26)と Theorem 2.2.6(p. 27)、1 が Lemma 2.2.9(p. 28)にあたる。Lemma 2.2.9 の証明は Schwarz の補題で 1 変数の評価を得ており、上の prf-osgood-lipschitz とは評価の作り方が違う。

帰結

Osgood の補題を使うと、正則性の確認が「連続性(または局所有界性)」と「1 変数の正則性」に分かれる。典型的な使い方を 2 つ挙げる。

局所有界な関数の正則性の判定

$U\subset\mathbb{C}^n$ を開集合、$f\colon U\to\mathbb{C}$ とする。$f$ が正則であることと、$f$ が局所有界で各変数について正則であることは同値である。

正則関数は連続(多変数の正則関数 の定理「正則性の言い換え」)なので局所有界で、各変数について正則である。逆は thm-osgood-main である。$\square$

パラメータを含む積分の正則性

$U\subset\mathbb{C}^n$ を開集合、$\varphi\colon U\times[0,1]\to\mathbb{C}$ を連続関数とし、各 $t\in[0,1]$ について $z\mapsto\varphi(z,t)$ は各変数について正則であるとする。このとき $F(z):=\int_0^1\varphi(z,t)\,dt$ は $U$ 上で正則である。

Morera の定理で 1 変数ずつ確かめる

連続性。 $z^0\in U$ と、$U$ に含まれる閉多重円板 $P$ で $z^0$ を内部に含むものをとる。$\varphi$ はコンパクト集合 $P\times[0,1]$ の上で一様連続なので、$z\to z^0$ のとき $\sup_t|\varphi(z,t)-\varphi(z^0,t)|\to0$ であり、$F(z)\to F(z^0)$ である。
各変数についての正則性。 $z_j$ 以外の変数を止め、$G(w):=F(z_1,\dots,w,\dots,z_n)=\int_0^1\psi(w,t)\,dt$($\psi(w,t):=\varphi(z_1,\dots,w,\dots,z_n,t)$)を、$G$ が定義される開集合 $W\subset\mathbb{C}$ の上で考える。$G$ は連続である。$W$ に含まれる開円板 $B$ と、$B$ に含まれる三角形 $\tau$ をとる。$\psi$ は $\partial\tau\times[0,1]$ の上で連続なので、媒介変数で書いた積分の順序を交換でき、
$$ \oint_{\partial\tau}G(w)\,dw=\int_0^1\Bigl(\oint_{\partial\tau}\psi(w,t)\,dw\Bigr)dt=0 $$
である(各 $t$ で $\psi(\cdot,t)$ は $B$ 上で正則なので、内側の積分は Cauchyの積分定理 により $0$)。Cauchyの積分公式 の定理「Morera の定理」により $G$ は $B$ 上で正則であり、$B$ は任意なので $W$ 上で正則である。
以上から $F$ は連続で各変数について正則であり、thm-osgood-main により正則である。$\square$

例

積分で定まる関数

$\varphi(z,t):=e^{t(z_1+z_2^2)}$ は $\mathbb{C}^2\times[0,1]$ 上で連続で、各 $t$ について $z$ の各変数について正則である。cor-osgood-integral により
$$ F(z_1,z_2)=\int_0^1e^{t(z_1+z_2^2)}\,dt $$
は $\mathbb{C}^2$ 上で正則である。実際、$u:=z_1+z_2^2\ne0$ では $F=(e^u-1)/u$、$u=0$ では $F=1$ であり、$F$ は整関数 $g(u)=\sum_{k\ge0}u^k/(k+1)!$ と多項式 $u=z_1+z_2^2$ の合成である。$\{u=0\}$ の上で式の形が変わっても、Osgood の補題を使えばその場所を別扱いせずに正則性が分かる。

実変数では成り立たない

$\mathbb{R}^2$ 上の関数を
$$ g(x,y):=\frac{xy}{x^2+y^2},\qquad h(x,y):=\frac{xy}{\sqrt{x^2+y^2}}\qquad((x,y)\ne(0,0)),\qquad g(0,0)=h(0,0)=0 $$
で定める。どちらも、$y$ を止めると $x$ の実解析関数であり($y=c\ne0$ なら分母は $0$ にならない解析関数、$y=0$ なら恒等的に $0$)、$x$ を止めても同様である。

  1. $|g|\le\frac12$ なので $g$ は有界だが、$g(t,t)=\frac12$($t\ne0$)なので原点で連続でない(Hor90 p. 27 にもこの例がある)。
  2. $|h|\le\frac12\sqrt{x^2+y^2}$ なので $h$ は連続だが、$h(t,t)=\frac{|t|}{\sqrt2}$ なので原点で全微分可能でない(偏導関数は $0$ なのに、対角線の方向の増分が $|t|$ の 1 次で残る)。したがって $h$ は 2 変数の実解析関数でない。
    複素変数では、各変数について正則なら局所有界性すら仮定せずに正則になる(Hartogsの定理(別々正則性))。この違いは、1 変数の正則関数が Cauchy の評価式のように境界の値で内部の導関数を押さえられることから来ている。

反例:仮定を外した場合

外す条件反例成り立たなくなること
lem-osgood-lipschitz の「各変数について正則」を「各変数について実解析的」に弱める(実変数)ex-osgood-real の $g$有界でも連続にならない
thm-osgood-main の「各変数について正則」を「各変数について実解析的」に弱める(実変数)ex-osgood-real の $h$連続でも 2 変数の実解析関数にならない
thm-osgood-main の「すべての変数について正則」を「一部の変数について正則」に弱める$n=2$、$f(z_1,z_2)=\lvert z_2\rvert$連続で $z_1$ について正則だが正則でない($z_2$ について正則でない)

3 行目の $f$ が正則でないのは、正則関数は各変数について正則だからである(多変数の正則関数 の定理「正則性の言い換え」)。$w\mapsto|w|$ は実数値で定数でないので、1 変数の正則関数ではない(正則関数 の命題「実数値の正則関数」)。

補足

  • 局所有界性の仮定は外せる。各変数について正則な関数は、連続性も有界性も仮定せずに正則である(Hartogsの定理(別々正則性))。その証明は、Baire のカテゴリー定理で $f$ が有界になる小さい多重円板を見つけ、そこで Osgood の補題を使い、劣調和関数についての Hartogs の補題で正則性を全体に広げる、という形をとり、Osgood の補題はその一段として使われる。
  • 1 変数の正則関数の局所一様極限が正則であること(Weierstrass の定理)の多変数版は、Osgood の補題と同じ考え方で、連続性と各変数の正則性に分けて示せる(多変数の正則関数 の定理「局所一様極限」)。

関連項目

参考文献

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