放物型偏微分方程式

同義語:放物型方程式parabolic partial differential equationparabolic equation

概要

放物型偏微分方程式(parabolic partial differential equation)とは、各時刻で空間の変数について楕円型の 2 階線形作用素 $L$ を用いて $u_t+Lu=f$ と書かれる発展方程式であり、熱方程式がその代表である。有界な領域では、2 階の係数が半正定値で $c\ge0$ なら解の最大値は放物境界での正の部分の最大値以下である($c=0$ なら放物境界で最大値をとる)という弱最大値原理が成り立ち、初期境界値問題の古典解は一意である。発散形ではエネルギー評価からデータへの連続な依存が従い、一様放物型なら弱解がただ 1 つ存在し、領域・係数・右辺が滑らかなら正の時刻で滑らかになる。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 偏微分方程式, 楕円型偏微分方程式, 熱方程式

放物型偏微分方程式(parabolic partial differential equation)は、時間 $t$ について 1 階、空間の変数 $x$ について楕円型の 2 階の作用素をもつ発展方程式
$$ u_t+Lu=f $$
である。熱方程式 $u_t=\Delta u$ がその代表で、場所や時刻によって熱の伝わりやすさが変わる拡散、流れに乗って運ばれながら広がる物質の濃度、確率過程の分布の時間変化などを記述する。楕円型偏微分方程式 が時間が経ったあとの釣り合いを表すのに対し、放物型の方程式は釣り合いへ向かう途中の変化を表し、時間が十分経って変化が止まった解は楕円型の方程式を満たす。
この記事では、楕円型の場合と同じ 2 階の線形作用素 $L$ について放物型の方程式を定義し、熱方程式で見られる性質のうち、最大値原理と、エネルギーによる一意性と安定性を、係数が一般の場合に証明する。解の存在と平滑化は Hilbert 空間の方法による結果を引用する。

定義

以下、$\Omega\subset\mathbb{R}^n$ を空でない開集合、$T>0$、$Q_T:=\Omega\times(0,T]$ とし、関数はすべて実数値とする。$a^{ij},b^i,c$($1\le i,j\le n$)を $Q_T$ の上の関数とする。

2 階の線形放物型偏微分方程式

各時刻 $t$ で空間の変数に作用する作用素
$$ Lu:=-\sum_{i,j=1}^na^{ij}(x,t)\,\partial_i\partial_ju+\sum_{i=1}^nb^i(x,t)\,\partial_iu+c(x,t)\,u\qquad(1) $$
(非発散形)、または
$$ Lu:=-\sum_{i,j=1}^n\partial_j\bigl(a^{ij}(x,t)\,\partial_iu\bigr)+\sum_{i=1}^nb^i(x,t)\,\partial_iu+c(x,t)\,u\qquad(2) $$
(発散形)について、方程式 $u_t+Lu=f$ を考える($\partial_i=\partial/\partial x_i$)。$a^{ij}=a^{ji}$ とする。各点 $(x,t)\in Q_T$ で行列 $(a^{ij}(x,t))$ が正定値のとき、この方程式は 放物型 であるという。さらに定数 $\theta>0$ があって
$$ \sum_{i,j=1}^na^{ij}(x,t)\,\xi_i\xi_j\ge\theta|\xi|^2\qquad((x,t)\in Q_T,\ \xi\in\mathbb{R}^n)\qquad(3) $$
が成り立つとき、一様放物型 であるという。

各時刻を止めると、$L$ は 楕円型偏微分方程式 の定義「2 階の線形楕円型偏微分方程式」の作用素そのものである。$a^{ij}=\delta_{ij}$、$b=0$、$c=0$ なら $u_t+Lu=u_t-\Delta u$ で、熱方程式になる。変数 $(x,t)$ の 2 階の係数行列は時間の方向に退化しているので、偏微分方程式 の節「2 階線形方程式の型」の分類でも放物型にあたる。符号を変えた $u_t-Lu=0$ は時間を逆向きにした方程式で、$s=T-t$ と置き換えれば $u_s+Lu=0$ の形になる。

放物型の方程式の例
  1. 熱方程式 $u_t=\Delta u$:$\theta=1$ で一様放物型である。
  2. 変化する伝導率の拡散 $u_t=\operatorname{div}(k(x,t)\nabla u)$:発散形 (2) で $a^{ij}=k\,\delta_{ij}$ とおいたもので、$k\ge\theta>0$ なら一様放物型である。
  3. 移流のある拡散 $u_t=\frac{\sigma^2}2u_{xx}+\mu u_x$($n=1$、$\sigma>0$、$\mu\in\mathbb{R}$):$a=\sigma^2/2$、$b=-\mu$、$c=0$ である。$v(x,t):=u(x-\mu t,t)$ とおくと $v_t=\frac{\sigma^2}2v_{xx}$ となり、流れとともに動く座標では熱方程式に戻る。
  4. 吸収のある拡散 $u_t=\Delta u-c(x)u$($c\ge0$):物質が場所によって消費される割合を $c$ で表す。
変数変換で熱方程式に帰着する例

$\sigma>0$、$r\in\mathbb{R}$ とし、$S>0$、$t< T$ の関数 $V(S,t)$ の方程式
$$ V_t+\frac{\sigma^2}2S^2V_{SS}+rSV_S-rV=0 $$
を考える(金融で使われる Black–Scholes 方程式)。$S$ の係数 $\frac{\sigma^2}2S^2$ は $S\to0$ で $0$ に近づき、時間の向きも逆である。$x=\log S$、$\tau=T-t$、$V(S,t)=W(x,\tau)$ とおくと
$$ W_\tau=\frac{\sigma^2}2W_{xx}+\Bigl(r-\frac{\sigma^2}2\Bigr)W_x-rW $$
となり、定数係数の一様放物型の方程式($a=\sigma^2/2$、$b=-(r-\sigma^2/2)$、$c=r$)になる。さらに $\alpha:=\frac12-\frac r{\sigma^2}$、$\beta:=-\frac{\sigma^2}2\alpha^2-r$ として $W=e^{\alpha x+\beta\tau}U$ とおくと、$U_\tau=\frac{\sigma^2}2U_{xx}$ となる。

計算を開く

$S\partial_S=\partial_x$ なので $SV_S=W_x$、$S^2V_{SS}=W_{xx}-W_x$、$V_t=-W_\tau$ である。代入すると $-W_\tau+\frac{\sigma^2}2(W_{xx}-W_x)+rW_x-rW=0$ で、上の式になる。次に $W=e^{\alpha x+\beta\tau}U$ を代入して $e^{\alpha x+\beta\tau}$ で割ると

$$\beta U+U_\tau=\frac{\sigma^2}2\bigl(\alpha^2U+2\alpha U_x+U_{xx}\bigr)+\Bigl(r-\frac{\sigma^2}2\Bigr)(\alpha U+U_x)-rU$$

である。$U_x$ の係数は $\sigma^2\alpha+r-\frac{\sigma^2}2=0$、$U$ の係数は $\frac{\sigma^2}2\alpha^2+(r-\frac{\sigma^2}2)\alpha-r-\beta=\frac{\sigma^2}2\alpha^2-\sigma^2\alpha^2-r-\beta=0$ なので、$U_\tau=\frac{\sigma^2}2U_{xx}$ が残る。

初期境界値問題と最大値原理

$\Omega$ が有界なとき、$Q_T$ の 放物境界 を $\Gamma_T:=(\overline\Omega\times\{0\})\cup(\partial\Omega\times[0,T])$ とする(熱方程式 の節「最大値原理と一意性」と同じ)。与えられた $f$、初期値 $u_0$、境界値 $g$ について
$$ u_t+Lu=f\ \ (Q_T),\qquad u=g\ \ (\partial\Omega\times[0,T]),\qquad u(\cdot,0)=u_0\ \ (\Omega) $$
を Dirichlet 条件の初期境界値問題 という。$u$ が $\overline\Omega\times[0,T]$ で連続で、$Q_T$ で $u_t$ と $\partial_i\partial_ju$ が存在して連続であり($t=T$ での $u_t$ は左からの微分係数)、各点で方程式を満たすとき 古典解 という。最大値原理は非発散形 (1) について述べる。

弱最大値原理

$\Omega$ を有界な開集合とし、各点で $(a^{ij}(x,t))$ が対称で半正定値であるとする($b^i,c$ は $Q_T$ の上の任意の関数でよい)。$u$ が古典解の正則性をもち、$Q_T$ で $u_t+Lu\le0$ を満たすとする。

  1. $c\equiv0$ なら $\displaystyle\max_{\overline\Omega\times[0,T]}u=\max_{\Gamma_T}u$ である。
  2. $c\ge0$ なら $\displaystyle\max_{\overline\Omega\times[0,T]}u\le\max_{\Gamma_T}u^+$ である($u^+:=\max(u,0)$)。
時間の 1 次関数を引く

$\varepsilon>0$ とし、$v:=u-\varepsilon t$ とおく。$L$ を定数 $\varepsilon t$($x$ について定数)に当てると $c\,\varepsilon t$ なので、$Q_T$ で
$$ v_t+Lv=(u_t+Lu)-\varepsilon-c\,\varepsilon t\le-\varepsilon< 0 $$
である(1 では $c=0$、2 では $c\ge0$ と $t\ge0$ を使う)。$v$ がコンパクト集合 $\overline\Omega\times[0,T]$ での最大値を $\Gamma_T$ の外の点 $(x_0,t_0)$ でとったとする。$x_0\in\Omega$、$0< t_0\le T$ で、左からの差分商から $v_t(x_0,t_0)\ge0$ である。$x\mapsto v(x,t_0)$ は内点 $x_0$ で最大なので、楕円型偏微分方程式 の補題「内部の最大点での符号」により $\nabla v(x_0,t_0)=0$、$\sum_{i,j}a^{ij}\partial_i\partial_jv(x_0,t_0)\le0$ である。
1.このとき $(v_t+Lv)(x_0,t_0)\ge0$ で矛盾する。よって $\max v=\max_{\Gamma_T}v$ で、$\max u\le\max v+\varepsilon T\le\max_{\Gamma_T}u+\varepsilon T$ である。
2.最大値 $v(x_0,t_0)$ が正なら $c\,v(x_0,t_0)\ge0$ なので、やはり $(v_t+Lv)(x_0,t_0)\ge0$ で矛盾する。よって $v$ の最大値は $0$ 以下か $\Gamma_T$ でとられ、$\max v\le\max_{\Gamma_T}v^+\le\max_{\Gamma_T}u^+$($v\le u$)である。$\max u\le\max v+\varepsilon T$ と合わせる。
どちらも $\varepsilon\to+0$ として結論を得る(1 の逆向きの不等式は明らか)。$\square$

一様放物性は使っていない。最大値原理に効くのは $a^{ij}$ の半正定値性と $c$ の符号だけである。

比較原理と古典解の一意性

thm-ppde-maximum の仮定のうち $c\ge0$ を、ある定数 $\lambda\ge0$ について $c\ge-\lambda$ に弱める。$u_1,u_2$ が同じ $f$ について古典解の正則性をもって $u_t+Lu=f$ を満たし、$\Gamma_T$ の上で $u_1\le u_2$ なら、$\overline\Omega\times[0,T]$ 全体で $u_1\le u_2$ である。とくに Dirichlet 条件の初期境界値問題の古典解はただ 1 つである。

指数関数を掛けて吸収の項を非負にする

$w:=e^{-\lambda t}(u_1-u_2)$ とおく。$w_t=e^{-\lambda t}(u_1-u_2)_t-\lambda w$ なので、$L_\lambda:=L+\lambda$($c$ を $c+\lambda\ge0$ に替えた作用素)について $w_t+L_\lambda w=e^{-\lambda t}\bigl((u_1-u_2)_t+L(u_1-u_2)\bigr)=0$ である。thm-ppde-maximum の 2 を $L_\lambda$ と $w$ に当てると $\max w\le\max_{\Gamma_T}w^+=0$ である。一意性は $u_1,u_2$ を入れ替えた不等式と合わせればよい。$\square$

エネルギー評価

発散形 (2) の方程式では、解の 2 乗の積分を時間について追う方法が使える。以下 $\|\cdot\|$ は $L^2(\Omega)$ のノルムである。

エネルギー評価

$\Omega$ を有界な開集合とし、$\overline\Omega$ は滑らかな境界をもつコンパクトな領域(Gaussの発散定理 の定義「滑らかな境界をもつコンパクトな領域」)で、$\Omega$ はその内部であるとする。$L$ は発散形 (2) で、$a^{ij}=a^{ji}$ は $\overline\Omega\times[0,T]$ を含む開集合で $C^1$ 級で (3) を満たし、$b^i,c$ は $\overline\Omega\times[0,T]$ で連続で、定数 $\beta,\kappa\ge0$ について $|b(x,t)|\le\beta$、$c(x,t)\ge-\kappa$ とする。$u$ は $\overline\Omega\times[0,T]$ を含む開集合で $C^2$ 級で、$\partial\Omega\times[0,T]$ で $u=0$、$Q_T$ で $u_t+Lu=f$($f$ は連続)を満たすとする。このとき $\gamma:=\frac{\beta^2}{4\theta}+\kappa+\frac12$ として
$$ \|u(t)\|^2\le e^{2\gamma t}\Bigl(\|u(0)\|^2+\int_0^t\|f(s)\|^2\,ds\Bigr)\qquad(0\le t\le T) $$
である。とくに $f=0$、$u(0)=0$ なら $u\equiv0$ である。

部分積分と Gronwall 型の評価

$\varphi(t):=\frac12\|u(t)\|^2$ とおく。$uu_t$ は $\overline\Omega\times[0,T]$ で連続なので、積分記号の下で微分して $\varphi'(t)=\int_\Omega uu_t\,dx=\int_\Omega u(f-Lu)\,dx$ である。ベクトル場 $F:=u\,(\sum_ia^{ij}\partial_iu)_j$ は $C^1$ 級で、$\partial\Omega$ の上で $u=0$ なので $F\cdot\nu=0$ である。Gaussの発散定理 の定理「Gauss の発散定理」から
$$ \int_\Omega u\sum_{i,j}\partial_j\bigl(a^{ij}\partial_iu\bigr)\,dx=\int_\Omega\operatorname{div}F\,dx-\int_\Omega\sum_{i,j}a^{ij}\partial_iu\,\partial_ju\,dx=-\int_\Omega\sum_{i,j}a^{ij}\partial_iu\,\partial_ju\,dx $$
である。よって (3) と Cauchy–Schwarz の不等式から
$$ \varphi'(t)\le-\theta\|\nabla u\|^2+\beta\|\nabla u\|\,\|u\|+\kappa\|u\|^2+\frac12\|f\|^2+\frac12\|u\|^2 $$
である($\int fu\le\frac12\|f\|^2+\frac12\|u\|^2$)。$\beta\|\nabla u\|\|u\|\le\theta\|\nabla u\|^2+\frac{\beta^2}{4\theta}\|u\|^2$ を使うと、$\varphi'\le2\gamma\varphi+\frac12\|f\|^2$ となる。したがって $(e^{-2\gamma t}\varphi(t))'\le\frac12e^{-2\gamma t}\|f(t)\|^2\le\frac12\|f(t)\|^2$ で、$0$ から $t$ まで積分すると $e^{-2\gamma t}\varphi(t)\le\varphi(0)+\frac12\int_0^t\|f\|^2ds$ である。2 倍して $e^{2\gamma t}$ を掛ければよい(Grönwallの不等式 の定理「微分形の評価」と同じ、積分因子を掛ける議論である)。後半は $\|u(t)\|=0$ と $u$ の連続性から従う。$\square$

thm-ppde-energy の正則性をもち境界値が等しい 2 つの解の差に当てると、$\|u_1(t)-u_2(t)\|^2\le e^{2\gamma t}\bigl(\|u_1(0)-u_2(0)\|^2+\int_0^t\|f_1-f_2\|^2ds\bigr)$ となる。初期値と右辺が $L^2$ で近ければ解も $L^2$ で近く、問題はデータに連続に依存する。$b=0$、$c\ge0$、$f=0$ なら同じ計算で $\varphi'\le-\theta\|\nabla u\|^2\le0$ となり、エネルギー $\|u(t)\|$ は増えない(熱方程式 の定理「エネルギー等式と指数減衰」と同じ形)。

弱解の存在と平滑化

古典解の存在を直接示すのは難しいので、方程式に試験関数を掛けて積分した形で解を探す。$V:=H^1_0(\Omega)$(Sobolev空間)、$H:=L^2(\Omega)$ とし、発散形 (2) の係数について
$$ a(t;u,v):=\int_\Omega\Bigl(\sum_{i,j}a^{ij}\partial_iu\,\partial_jv+\sum_ib^i\partial_iu\,v+c\,uv\Bigr)dx\qquad(u,v\in V) $$
とおく。$u$ が古典解で境界で $0$ なら、上の証明と同じ部分積分により、台がコンパクトな滑らかな $v$ について $\int_\Omega u_tv\,dx+a(t;u,v)=\int_\Omega fv\,dx$ が成り立つ。この等式をほとんどすべての $t$ と $v\in V$ について要求したものが 弱解 である。

Lions の定理(放物型の Lax–Milgram の定理)

$\Omega$ を開集合とし、$a^{ij},b^i,c\in L^\infty(\Omega\times(0,T))$ が (3) をほとんどすべての $(x,t)$ で満たすとする。$u_0\in L^2(\Omega)$、$f\in L^2(0,T;H^{-1}(\Omega))$ について、
$$ u\in L^2(0,T;H^1_0(\Omega))\cap C([0,T];L^2(\Omega)),\qquad\frac{du}{dt}\in L^2(0,T;H^{-1}(\Omega)) $$
であって、ほとんどすべての $t$ とすべての $v\in H^1_0(\Omega)$ で $\langle\frac{du}{dt}(t),v\rangle+a(t;u(t),v)=\langle f(t),v\rangle$、かつ $u(0)=u_0$ を満たす $u$ がただ 1 つ存在する。

証明の所在と正則性

この記事では証明しない。主張は Bre11 の第 10 章の注 1(Theorem 10.9 とその応用、pp. 340–341)にあり、同書は証明を J.-L. Lions–E. Magenes の本に送っている。そこでは $a(t;\cdot,\cdot)$ が有界で $a(t;v,v)\ge\alpha\|v\|_{H^1}^2-C\|v\|_{L^2}^2$($\alpha>0$)を満たすことだけが使われ、この不等式は (3) と係数の有界性から上の証明と同じ評価で得られる。さらに $\Omega$ が有界で境界が $C^\infty$ 級、係数と $f$ が $\overline\Omega\times[0,T]$ で $C^\infty$ 級なら、$u_0\in L^2(\Omega)$ に対する弱解は各 $\varepsilon>0$ について $\overline\Omega\times[\varepsilon,T]$ で $C^\infty$ 級になる(同 Theorem 10.10、p. 342。証明は同じく他書に送られている)。$L$ が $-\Delta$ の場合の存在と平滑化は 熱方程式 の定理「Dirichlet 条件の下での解の存在と平滑化」にある。

一様放物性 (3) は、正の時刻で解が滑らかになることの源である。$a^{ij}$ が退化すると、この性質は失われる(下の反例の表の 3 行目)。

確率過程とのつながり

伊藤の公式 の節「一般の形」の式から、$\partial_tu+\frac12\partial_x^2u=0$ を満たす $C^2$ 級の $u$ について、$u(t,B_t)$ の変化は $\int\partial_xu(s,B_s)\,dB_s$ だけになる。時間を逆向きにした熱方程式 $u_t+\frac12u_{xx}=0$ は、$s=T-t$ と置き換えると $u_s=\frac12u_{xx}$ という放物型の方程式になる。逆向きに、伊藤の公式 の系「期待値と熱方程式」は、$E[f(x+B_t)]$ がこの方程式の解であることを示している。放物型の方程式の解を確率過程の期待値で表すこの見方は、熱方程式 の節「確率による表示」でも使った。

条件を外したときの反例

外す条件反例成り立たなくなること
放物性($a$ の正定値性)$a=-1$:$u_t=-u_{xx}$ の解 $u_k=k^{-1}e^{k^2t}\sin(kx)$、$\Omega=(0,\pi)$最大値原理と、データへの連続な依存
thm-ppde-maximum の 2 の $c\ge0$$c=-2$:$u_t-u_{xx}-2u=0$ の解 $u=e^t\sin x$、$\Omega=(0,\pi)$$\max u\le\max_{\Gamma_T}u^+$
一様放物性($a\ge\theta>0$)$a=0$:$u_t+u_x=0$、$u(x,0)=e^{-\lvert x\rvert}$($x\in\mathbb{R}$)正の時刻での平滑化
表の反例の確かめ

1 行目:$(u_k)_t=k\,e^{k^2t}\sin(kx)=-(u_k)_{xx}$ で、境界 $x=0,\pi$ では $0$ である。放物境界での最大値は $\sup|u_k(\cdot,0)|=1/k$ だが、$u_k(\pi/(2k),T)=k^{-1}e^{k^2T}$ はこれより大きく、$k\to\infty$ で $\infty$ に発散する。初期値が一様に $0$ に近づいても、時刻 $T$ の解は近づかない(熱方程式 の例「後ろ向きの問題の不安定性」の時間を逆にしたもの)。2 行目:$u_t=u$、$u_{xx}=-u$ なので $u_t-u_{xx}-2u=0$ で、これは $L u=-u_{xx}-2u$($c=-2$)の $u_t+Lu=0$ である。放物境界での最大値は底面の $\sin(\pi/2)=1$ だが、$u(\pi/2,T)=e^T>1$ である。3 行目:解は $u(x,t)=e^{-|x-t|}$ で、各時刻で $x=t$ において微分できない。初期値の折れ目が消えずに運ばれる。熱方程式なら 熱方程式 の定理「熱方程式の Cauchy 問題の解」により $t>0$ で $C^\infty$ 級になる。

補足

  • 文献:熱方程式の場合の存在・平滑化・最大値原理は Bre11 §10.1–§10.2(pp. 325–335)、一般の係数の弱解と正則性は同書の第 10 章の注(pp. 340–343)にある。
  • 呼び名:$u_t+Lu=f$ を「$L$ に付随する放物型方程式」と呼ぶこともある。$L$ の 2 階の部分の符号の付け方は文献によって異なり、$u_t=\sum a^{ij}\partial_i\partial_ju+\cdots$ と書く流儀も多い。

関連項目

参考文献

[1]
Haim Brezis, Functional Analysis, Sobolev Spaces and Partial Differential Equations, Universitext, Springer, 2011, §10.1–§10.2(pp. 325–335、熱方程式の存在・平滑化・最大値原理)、第 10 章の注 1 Theorem 10.9(pp. 340–341、J.-L. Lions の定理と放物型方程式への応用)、注 2 Theorem 10.10(p. 342、C^∞ 正則性)

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