分類トポス(classifying topos)とは、各トポス $\mathcal F$ の中のある種の構造のモデルの圏 $\mathbb T(\mathcal F)$ が、$\mathcal F$ から自分への幾何学的射の圏と $\mathcal F$ について自然に同値になるトポスであり、同値を除いて一意に定まる。恒等射に対応する普遍モデルがあり、どのモデルもそれを逆像関手で引き戻して得られる。小さい圏 $\mathcal C$ 上の前層のトポスは $\mathcal C$ 上の平坦関手を分類し(Diaconescu の定理)、群 $G$ の前層のトポスは $G$ トーサーを分類する。有限的な幾何学的理論はすべて分類トポスをもち、任意の Grothendieck トポスは一般化された幾何学的理論の分類トポスである。
位相空間 $X$ から分類空間 $BG$ への連続写像のホモトピー類が $X$ 上の主 $G$ 束を分類するように、トポス $\mathcal B$ への幾何学的射が、別のトポスの中の「ある種の数学的構造」をちょうど分類することがある。このような $\mathcal B$ を、その構造の分類トポスという。分類トポスには、恒等射に対応する「普遍的なモデル」があり、どのトポスの中のどのモデルも、その普遍的なモデルを幾何学的射の逆像関手で引き戻したものとして得られる。
この記事では、分類トポスを定義し、それが同値を除いて一意であることを示す(prop-ctopos-unique)。主定理は、小さい圏 $\mathcal C$ 上の前層のトポス $\widehat{\mathcal C}$ が「$\mathcal C$ 上の平坦関手」を分類するという Diaconescu の定理であり、これを証明する(thm-ctopos-diaconescu)。その応用として、群 $G$ の前層のトポスの点が $G$ のトーサーにちょうど対応すること(prop-ctopos-bg-points)と、Sierpiński トポスの点が 2 つしかないこと(prop-ctopos-sierpinski-points)を確かめる。最後に、幾何学的理論とその分類トポスの一般論を述べる。
この記事でトポスといえば Grothendieck トポス(トポス の定義「Grothendieckトポス」)を指す。トポスは小さい極限と小さい余極限をすべてもち、射の集合は小さい(トポス の命題「完備性と余完備性」)。トポスの間の幾何学的射 $f\colon\mathcal F\to\mathcal E$ とは、随伴 $f^*\dashv f_*$($f^*\colon\mathcal E\to\mathcal F$)であって逆像関手 $f^*$ が有限極限を保つものである(トポス の定義「幾何学的射」)。$f^*$ は左随伴なので小さい余極限をすべて保つ。
トポス $\mathcal F,\mathcal E$ に対し、圏 $\operatorname{Geom}(\mathcal F,\mathcal E)$ を次で定める。対象は幾何学的射 $f\colon\mathcal F\to\mathcal E$ である。$f$ から $g$ への射は、逆像関手の間の自然変換 $\alpha\colon f^*\Rightarrow g^*$ である。幾何学的射 $h\colon\mathcal F'\to\mathcal F$ に対し、$f\mapsto f\circ h$、$\alpha\mapsto h^*\alpha$(成分 $h^*(\alpha_X)$)は関手 $-\circ h\colon\operatorname{Geom}(\mathcal F,\mathcal E)\to\operatorname{Geom}(\mathcal F',\mathcal E)$ を与える。$(f\circ h)^*=h^*\circ f^*$ である。
射を逆像関手の間の自然変換 $f^*\Rightarrow g^*$ で定める流儀は J77 4.34 の証明の (ii)(p. 114)と同じである。自然変換 $f^*\Rightarrow g^*$ は、随伴によって順像関手の間の逆向きの自然変換 $g_*\Rightarrow f_*$ と 1 対 1 に対応する。
分類トポスは、「どのトポスにも、その中の構造のモデルの圏がある」という状況で定義される。
各トポス $\mathcal F$ に圏 $\mathbb T(\mathcal F)$($\mathcal F$ における $\mathbb T$ のモデルの圏)が、各幾何学的射 $h\colon\mathcal F'\to\mathcal F$ に関手 $h^*\colon\mathbb T(\mathcal F)\to\mathbb T(\mathcal F')$ が与えられ、合成と恒等射について同型 $(h\circ k)^*\cong k^*\circ h^*$、$\mathrm{id}^*\cong\mathrm{id}$ が整合的に与えられているとする。トポス $\mathcal B$ が $\mathbb T$ の分類トポス(classifying topos)であるとは、各トポス $\mathcal F$ について圏同値
$$
\Phi_{\mathcal F}\colon\operatorname{Geom}(\mathcal F,\mathcal B)\xrightarrow{\ \simeq\ }\mathbb T(\mathcal F)
$$
が与えられ、それが $\mathcal F$ について自然であること、すなわち幾何学的射 $h\colon\mathcal F'\to\mathcal F$ ごとに自然な同型 $\Phi_{\mathcal F'}(f\circ h)\cong h^*\Phi_{\mathcal F}(f)$ があることをいう。このとき $U:=\Phi_{\mathcal B}(\mathrm{id}_{\mathcal B})\in\mathbb T(\mathcal B)$ を普遍モデル(generic model)という。$\mathcal B$ を $\mathbf{Set}[\mathbb T]$ と書くことが多い。
自然性を $\mathcal F=\mathcal B$、$f=\mathrm{id}_{\mathcal B}$、$h=g$ に当てはめると、任意の幾何学的射 $g\colon\mathcal F'\to\mathcal B$ について
$$
\Phi_{\mathcal F'}(g)\cong g^*U
$$
が成り立つ。つまり $\mathcal F'$ の中の $\mathbb T$ のモデルはすべて普遍モデルの引き戻しであり、引き戻しに使う幾何学的射は同型を除いて一意である。分類空間で、主束が普遍束の引き戻しとして得られることの類似である。とくに $\mathcal F'=\mathbf{Set}$ とすれば、$\mathcal B$ の点($\mathbf{Set}\to\mathcal B$ の幾何学的射、トポス の定義「トポスの点」)の圏は、集合の世界での $\mathbb T$ のモデルの圏 $\mathbb T(\mathbf{Set})$ と同値になる。
$\mathcal B$ と $\mathcal B'$ がともに $\mathbb T$ の分類トポスなら、$\mathcal B$ と $\mathcal B'$ は圏同値である。より詳しく、幾何学的射 $p\colon\mathcal B\to\mathcal B'$、$q\colon\mathcal B'\to\mathcal B$ で、$q\circ p\cong\mathrm{id}_{\mathcal B}$、$p\circ q\cong\mathrm{id}_{\mathcal B'}$ となるものがある。
同値を $\Phi$、$\Phi'$、普遍モデルを $U=\Phi_{\mathcal B}(\mathrm{id}_{\mathcal B})$、$U'=\Phi'_{\mathcal B'}(\mathrm{id}_{\mathcal B'})$ とする。$\Phi'_{\mathcal B}$ は本質的に全射なので $\Phi'_{\mathcal B}(p)\cong U$ となる $p\colon\mathcal B\to\mathcal B'$ があり、同様に $\Phi_{\mathcal B'}(q)\cong U'$ となる $q\colon\mathcal B'\to\mathcal B$ がある。自然性を繰り返し使うと
$$
\Phi_{\mathcal B}(q\circ p)\cong p^*\Phi_{\mathcal B'}(q)\cong p^*U'=p^*\Phi'_{\mathcal B'}(\mathrm{id}_{\mathcal B'})\cong\Phi'_{\mathcal B}(\mathrm{id}_{\mathcal B'}\circ p)=\Phi'_{\mathcal B}(p)\cong U=\Phi_{\mathcal B}(\mathrm{id}_{\mathcal B})
$$
である。$\Phi_{\mathcal B}$ は充満忠実なので、$\mathbb T(\mathcal B)$ のこの同型は $\operatorname{Geom}(\mathcal B,\mathcal B)$ の同型 $q\circ p\cong\mathrm{id}_{\mathcal B}$、すなわち自然同型 $p^*q^*\cong\mathrm{id}$ から来る。$p$ と $q$ の役割を入れ替えれば $q^*p^*\cong\mathrm{id}$ も得られる。よって $q^*\colon\mathcal B\to\mathcal B'$ と $p^*\colon\mathcal B'\to\mathcal B$ は互いに逆の圏同値である。$\square$
この一意性のため、「$\mathbb T$ の分類トポス」は同値を除いて定まった対象として扱える。また、2 つの構造 $\mathbb T_1,\mathbb T_2$ の分類トポスが同値なら、$\operatorname{Geom}(\mathcal F,-)$ を通して、両者のモデルの圏はすべてのトポス $\mathcal F$ で同値になる。
$\mathcal C$ を小さい圏とし、$y\colon\mathcal C\to\widehat{\mathcal C}$ を米田埋め込み、$\widehat{\mathcal C}=\mathbf{Set}^{\mathcal C^{\mathrm{op}}}$ を前層のトポスとする。前層 $X$ の要素の圏 $\int X$(対象は $c\in\mathcal C$ と $x\in X(c)$ の組 $(c,x)$、射 $(c,x)\to(d,z)$ は $X(u)(z)=x$ となる $u\colon c\to d$)は 前層 の定義「前層の要素の圏」のとおりとする。
トポス $\mathcal F$ と関手 $A\colon\mathcal C\to\mathcal F$ に対し、関手 $A_!\colon\widehat{\mathcal C}\to\mathcal F$ を
$$
A_!(X):=\operatorname*{colim}_{(c,x)\in\int X}A(c)
$$
で定め(射 $X\to X'$ は要素の圏の間の関手 $\int X\to\int X'$ を誘導し、それが余極限の間の射を与える)、$A$ の米田拡張という。$A_!$ が有限極限を保つとき、$A$ を平坦関手(flat functor)という。平坦関手と自然変換のなす $\operatorname{Fun}(\mathcal C,\mathcal F)$ の充満部分圏を $\operatorname{Flat}(\mathcal C,\mathcal F)$ と書く。
$A_!$ は $A$ の $y$ に沿う左 Kan拡張の各点公式で与えられるものである(J77 7.13 の証明、p. 226)。$\mathcal F=\mathbf{Set}$ で $\mathcal C$ が群のように 1 対象の場合には、$A_!$ は加群のテンソル積に似た形になる(prop-ctopos-bg-points)。$\mathcal F=\mathbf{Set}$ で $A=\operatorname{Hom}(c_0,-)$ が表現可能なら $A_!(X)\cong X(c_0)$ である。実際 $A_!(X)$ の元は組 $(x,u)$($x\in X(c)$、$u\colon c_0\to c$)の類で、$[x,u]\mapsto X(u)(x)$ は逆写像 $z\mapsto[z,\mathrm{id}_{c_0}]$ をもつ($(x,u)$ は要素の圏の射 $u\colon(c_0,X(u)x)\to(c,x)$ によって $(X(u)x,\mathrm{id}_{c_0})$ と同一視される)。前層の極限は各点で計算されるので、このとき $A$ は平坦である。
J77 4.31(p. 113)は、平坦性を「$A$ に対応する内部の離散ファイブレーションの全体の圏がフィルター的であること」で定義し、Diaconescu の定理 4.34(pp. 113–115)を証明している。$\mathcal F=\mathbf{Set}$ ではこれは、組 $(c,a)$($a\in A(c)$)を対象とし、$A(u)(a)=a'$ となる $u\colon c\to c'$ を射 $(c,a)\to(c',a')$ とする圏の逆圏がフィルター的であることにあたる。この定義が上の定義と同値であることは、同書 4.32 と 4.34 から従う。$\mathcal F=\mathbf{Set}$ で $\mathcal C$ が有限極限をもつときには、$A$ が平坦であることと $A$ が有限極限を保つことは同値である(同 4.33、p. 113)。同じ議論は一般のトポス $\mathcal F$ でも使われる(同 7.13 の証明、p. 226)。この記事ではこれらの同値性を証明しない。ただし「有限極限をもつ $\mathcal C$ 上の平坦関手は有限極限を保つ」という向きは、次の定理の証明の (2) の同型 $A\cong A_!\circ y$ と、$y$ が極限を保つこと(米田埋め込み)からすぐ分かる。
$\mathcal C$ を小さい圏、$\mathcal F$ をトポスとする。関手
$$
\Phi_{\mathcal F}\colon\operatorname{Geom}(\mathcal F,\widehat{\mathcal C})\longrightarrow\operatorname{Flat}(\mathcal C,\mathcal F),\qquad f\longmapsto f^*\circ y,\quad\alpha\longmapsto\alpha y
$$
は well-defined な圏同値であり、$\mathcal F$ について自然である。すなわち $\widehat{\mathcal C}$ は「$\mathcal C$ 上の平坦関手」の分類トポスであり、普遍モデルは米田埋め込み $y\colon\mathcal C\to\widehat{\mathcal C}$ である。
選択公理から排中律を導く Diaconescu の定理(排中律、内部選択公理)とは別の定理である。
5 段で示す。
(1) $A_!$ の右随伴。$A\colon\mathcal C\to\mathcal F$ に対し $A^*(e):=\operatorname{Hom}_{\mathcal F}(A(-),e)\colon\mathcal C^{\mathrm{op}}\to\mathbf{Set}$ とおく($\mathcal F$ の射の集合は小さいので前層である)。余極限の普遍性により、射 $A_!(X)\to e$ は、各 $(c,x)\in\int X$ に射 $\varphi_{(c,x)}\colon A(c)\to e$ を与え、$u\colon(c,x)\to(d,z)$ ごとに $\varphi_{(d,z)}\circ A(u)=\varphi_{(c,x)}$ となる族と同じである。これは、各 $c$ で写像 $X(c)\to\operatorname{Hom}(A(c),e)$、$x\mapsto\varphi_{(c,x)}$ を与え、$u\colon c\to d$ について $\varphi_{(c,X(u)z)}=\varphi_{(d,z)}\circ A(u)$ となること、すなわち自然変換 $X\to A^*(e)$ と同じである。この対応は $X$ と $e$ について自然なので、$A_!\dashv A^*$ である。
(2) $A_!\circ y\cong A$。$\int y(c)$ は終対象 $(c,\mathrm{id}_c)$ をもつ($(d,u)$ から $(c,\mathrm{id}_c)$ への射は $u$ ただ 1 つ)。終対象をもつ図式の余極限は終対象での値なので、$A_!(y(c))\cong A(c)$ であり、これは $c$ について自然である。
(3) $\Phi_{\mathcal F}$ は平坦関手に値をとる。幾何学的射 $f$ をとり $A:=f^*\circ y$ とおく。前層 の定理「前層は表現可能前層の余極限」により $X\cong\operatorname{colim}_{(c,x)\in\int X}y(c)$ であり、$f^*$ は余極限を保つので $f^*X\cong\operatorname*{colim}_{(c,x)\in\int X}f^*y(c)=A_!(X)$ で、これは $X$ について自然である。よって $A_!\cong f^*$ は有限極限を保ち、$A$ は平坦である。自然変換 $\alpha\colon f^*\Rightarrow g^*$ の $y$ への制限 $\alpha y$ は $f^*y\Rightarrow g^*y$ を与えるので、$\Phi_{\mathcal F}$ は関手である。
(4) 本質的全射。$A$ を平坦とする。(1) により $A_!$ は右随伴 $A^*$ をもち、平坦性により有限極限を保つので、$\Psi(A)^*:=A_!$、$\Psi(A)_*:=A^*$ は幾何学的射 $\Psi(A)\colon\mathcal F\to\widehat{\mathcal C}$ を定める。(2) により $\Phi_{\mathcal F}(\Psi(A))=A_!\circ y\cong A$ である。
(5) 充満忠実。幾何学的射 $f,g$ と自然変換 $\beta\colon f^*y\Rightarrow g^*y$ をとる。(3) の同型 $f^*\cong(f^*y)_!$、$g^*\cong(g^*y)_!$ を通して、$X$ での成分を、余極限の間で $\beta_c\colon f^*y(c)\to g^*y(c)$ たちが誘導する射 $(f^*y)_!(X)\to(g^*y)_!(X)$ と定めれば、自然変換 $\tilde\beta\colon f^*\Rightarrow g^*$ が得られ、(2) の同型の下で $\tilde\beta y=\beta$ である。逆に $\alpha\colon f^*\Rightarrow g^*$ が $\alpha y=\beta$ を満たせば、$X$ への余錐 $\hat x\colon y(c)\to X$ についての自然性 $\alpha_X\circ f^*(\hat x)=g^*(\hat x)\circ\beta_c$ により、$\alpha_X$ は余極限 $f^*X$ の各成分の上で決まり、$\tilde\beta_X$ と一致する。よって $\alpha\mapsto\alpha y$ は全単射である。
自然性。幾何学的射 $h\colon\mathcal F'\to\mathcal F$ について $\Phi_{\mathcal F'}(f\circ h)=(f\circ h)^*\circ y=h^*\circ(f^*\circ y)$ である。平坦関手 $A$ について、$h^*$ は余極限を保つので $(h^*\circ A)_!\cong h^*\circ A_!$ であり、これは左完全な関手の合成なので $h^*\circ A$ は平坦である。よって $\mathbb T(\mathcal F):=\operatorname{Flat}(\mathcal C,\mathcal F)$、$h^*:=h^*\circ-$ について def-ctopos-main の自然性が等号で成り立つ。$\mathrm{id}_{\widehat{\mathcal C}}$ に対応する平坦関手は $y$ である。$\square$
証明の (3) が示すように、前層のトポスからの余極限を保つ関手は、表現可能前層での値で決まる。幾何学的射の情報のうち $\mathcal C$ に依存する部分は「$\mathcal C$ の各対象をどこへ送るか」だけで、平坦性はそれが逆像関手として左完全に拡張できるための条件である。
景 $(\mathcal C,J)$ 上の層のトポスについても同じ形の主張が成り立つ。$\mathcal C$ が有限極限をもつとき、幾何学的射 $\mathcal F\to\operatorname{Sh}(\mathcal C,J)$ は、有限極限を保ち $J$ 被覆篩を全射族に写す関手 $\mathcal C\to\mathcal F$ と対応する(J77 7.13、pp. 225–226。この記事では証明しない)。$\mathcal F=\mathbf{Set}$ の場合が トポス の定義「トポスの点」で述べられている点の記述である。
群 $G$ を、対象が $*$ ただ 1 つで $\operatorname{Hom}(*,*)=G$ の圏 $BG$ とみなす。前層のトポス $\widehat{BG}$ は右 $G$ 集合の圏であり、左 $G$ 集合の圏 $G\text{-}\mathbf{Set}$ と同値である(トポス の命題「$G$ 集合の圏と1対象の景」)。関手 $A\colon BG\to\mathbf{Set}$ は、集合 $P:=A(*)$ と左作用 $g\cdot p:=A(g)(p)$ の組、すなわち左 $G$ 集合と同じである。
左 $G$ 集合 $P$ が $G$ トーサーであるとは、$P\neq\emptyset$ であり、任意の $p,q\in P$ に対して $g\cdot p=q$ となる $g\in G$ がただ 1 つ存在することをいう(トーサー)。
関手 $A\colon BG\to\mathbf{Set}$ に対応する左 $G$ 集合を $P$ とする。
1 の公式を求め、終対象と積の保存がトーサーの条件にちょうど対応することを確かめる。
1。$\int X$ の対象は $x\in X$、射 $x'\to x$ は $x'=x\cdot g$ となる $g\in G$ である。この図式での $A$ の余極限は、$x$ ごとの $P$ の直和を、射 $g\colon x\cdot g\to x$ による同一視 $(x\cdot g,p)\sim(x,g\cdot p)$ で割ったものである。
2 の必要性。$A$ を平坦とする。終対象(1 点の右 $G$ 集合)について $A_!(\ast)=\ast\otimes_GP$ は $P$ の軌道の集合 $P/G$ であり、これが 1 点でなければならない。よって $P\neq\emptyset$ で、作用は推移的である。次に右 $G$ 集合 $G$(右からの積)について、$G\otimes_GP\to P$、$[g,p]\mapsto g\cdot p$ は全単射である(逆写像は $p\mapsto[1,p]$)。積 $G\times G$(対角の右作用)の軌道は $ab^{-1}$ の値 $h\in G$ で区別され、各軌道は代表元 $(h,1)$ をもち、右作用は自由である。よって $(G\times G)\otimes_GP$ の元は $[(h,1),p]$($h\in G$、$p\in P$)と一意に書け、標準的な射 $A_!(G\times G)\to A_!(G)\times A_!(G)\cong P\times P$ は $(h,p)\longmapsto(h\cdot p,\ p)$ になる。$A_!$ が積を保つことから、これは全単射である。すなわち任意の $(q,p)$ に対し $h\cdot p=q$ となる $h$ がただ 1 つある。よって $P$ はトーサーである。
2 の十分性。$P$ をトーサーとし、$p_0\in P$ を固定する。$g\mapsto g\cdot p_0$ は左 $G$ 集合の同型 $G\cong P$ であり、左 $G$ 集合 $G$ に対応する関手は表現可能関手 $\operatorname{Hom}(*,-)$ であり、表現可能関手は平坦である(def-ctopos-flat の後の注意。1 の形でいえば $X\otimes_GG\cong X$、$[x,g]\mapsto x\cdot g$)。よって $A$ は平坦である。
点の圏。thm-ctopos-diaconescu により $\widehat{BG}$ の点の圏は $\operatorname{Flat}(BG,\mathbf{Set})$ と同値であり、関手の間の自然変換は $G$ 同変写像である。左 $G$ 集合 $G$ の同変な自己写像 $\varphi$ は $\varphi(g)=g\cdot\varphi(1)$ で決まり、右からの積 $g\mapsto g\varphi(1)$ である。これが全単射で、$\varphi\mapsto\varphi(1)^{-1}$ が自己同型群から $G$ への同型を与える。$\square$
$\widehat{BG}$ は「点が 1 つしかなく、その自己同型群が $G$ である」トポスであり、1 点の空間に基本群 $G$ を与えた分類空間 $BG$ の類似になっている。一般のトポス $\mathcal F$ についても、$BG$ 上の平坦関手は $\mathcal F$ の中の $G$ トーサーと同じであり、$\widehat{BG}$ は $G$ トーサーの分類トポスである(J77 4.37 (ii)、pp. 116–117。この記事では証明しない)。同書は、$G=\mathbb Z/2$ で $\mathcal F$ を円周 $S^1$ 上の層のトポスとすると、同型類が 2 つ(自明な 2 重被覆と連結な 2 重被覆)あることを例に挙げている。
$[1]$ を 2 つの対象 $0,1$ と射 $u\colon0\to1$ だけをもつ圏とする。前層 $X$ は写像 $X(u)\colon X(1)\to X(0)$ と同じであり、関手 $A\colon[1]\to\mathbf{Set}$ は写像 $A(u)\colon A(0)\to A(1)$ と同じである。$\widehat{[1]}$ を Sierpiński トポスという。
関手 $A\colon[1]\to\mathbf{Set}$ が平坦であることと、$A(1)$ が 1 点集合で $A(0)$ が高々 1 点の集合であることは同値である。したがって $\widehat{[1]}$ の点は同型を除いてちょうど 2 つあり、それぞれ $X\mapsto X(0)$ と $X\mapsto X(1)$ を逆像関手とする。
終対象の保存と、表現可能前層 $y(0)$ の自分自身との積の保存から必要性を、表現可能関手への同型から十分性を示す。
定義から、$A_!(X)$ は $X(0)\times A(0)$ と $X(1)\times A(1)$ の直和を、$x_1\in X(1)$、$a\in A(0)$ について $(X(u)x_1,a)\sim(x_1,A(u)a)$ で割ったものである。
必要性。終対象 $X=(\ast\to\ast)$ では、$A_!(\ast)$ は $A(0)\sqcup A(1)$ を $a\sim A(u)a$ で割ったもので、$A(1)$ と全単射に対応する。平坦性によりこれは 1 点である。次に $X=y(0)$ とすると $y(0)(0)=\{\mathrm{id}\}$、$y(0)(1)=\emptyset$ であり、$A_!(y(0))\cong A(0)$ である(定理の証明の (2))。$y(0)$ の各値は高々 1 点なので、対角射 $y(0)\to y(0)\times y(0)$ は同型である。$A_!$ は積を保つので、対角写像 $A(0)\to A(0)\times A(0)$ も全単射であり、$A(0)$ は高々 1 点である。
十分性。$A(1)=\ast$ のとき、$A(0)=\ast$ なら $A\cong\operatorname{Hom}(0,-)$、$A(0)=\emptyset$ なら $A\cong\operatorname{Hom}(1,-)$ である($\operatorname{Hom}(0,0)$、$\operatorname{Hom}(0,1)$、$\operatorname{Hom}(1,1)$ は 1 点、$\operatorname{Hom}(1,0)$ は空)。表現可能関手 $\operatorname{Hom}(c_0,-)$ の米田拡張は $X\mapsto X(c_0)$ で(def-ctopos-flat の後の注意)、極限を保つ。よって $A$ は平坦である。この 2 つの関手は同型でないので、thm-ctopos-diaconescu により点はちょうど 2 つである。$\square$
Sierpiński空間 $\{a,b\}$(開集合は $\emptyset$、$\{a\}$、全体)の上の層の圏は $\widehat{[1]}$ と同値である(層 $F$ は $F(\emptyset)$ が 1 点で、制限 $F(\{a,b\})\to F(\{a\})$ だけで決まるので、$X(1)=F(\{a,b\})$、$X(0)=F(\{a\})$ とおけばよい)。2 つの点は空間の 2 点に対応する。一般のトポス $\mathcal F$ では、$[1]$ 上の平坦関手は $A(1)\cong1$ で $A(0)\to A(1)$ がモノ射であるもの、すなわち終対象の部分対象と同じであり、$\widehat{[1]}$ は終対象の部分対象(J77 は開対象と呼ぶ)の分類トポスである(同 4.37 (iii)、p. 117。同書の圏 $\mathbf 2$ はここでの $[1]$ の逆圏にあたる。この記事では証明しない)。上の命題は $\mathcal F=\mathbf{Set}$ の場合で、$1$ の部分対象は $\emptyset$ と $1$ の 2 つである。
$\mathbf{FinSet}$ を有限集合の圏(各濃度から 1 つずつ代表を選んで小さい圏にしたもの)とし、$\mathbf{Set}[\mathbb O]:=\mathbf{Set}^{\mathbf{FinSet}}=\widehat{\mathbf{FinSet}^{\mathrm{op}}}$ とおく。$\mathbf{FinSet}^{\mathrm{op}}$ は有限極限をもつので、rem-ctopos-flat-equivalents により、その上の平坦関手 $\mathbf{FinSet}^{\mathrm{op}}\to\mathbf{Set}$ は有限極限を保つ関手であり、そのような関手は $1$ での値で決まる。こうして任意のトポス $\mathcal F$ について $\operatorname{Geom}(\mathcal F,\mathbf{Set}[\mathbb O])\simeq\mathcal F$ となり、$\mathbf{Set}[\mathbb O]$ は「対象」の分類トポス(対象分類子)である。普遍モデルは包含関手 $\mathbf{FinSet}\hookrightarrow\mathbf{Set}$ である(J77 4.37 (iv)、pp. 117–118、点については 7.12 (ii)、p. 225。この記事では証明しない)。
上の例はどれも「前層のトポスとそこでの平坦関手」の形であった。より一般の構造は、一階論理の言葉で与えられる。
ソート(型)、関数記号、関係記号の集合を指定した多ソートの言語を考える。原子論理式から $\wedge$、$\vee$、$\exists$ だけを使って作った論理式を幾何学的論理式といい、幾何学的論理式 $\varphi,\psi$ の組 $\varphi\vdash\psi$(「$\varphi$ ならば $\psi$」)の集まりを公理とする理論を有限的な幾何学的理論という(J77 6.52–6.54、pp. 199–201)。$\vee$ に無限個の論理式の選言を許したものを一般化された幾何学的理論という。トポス $\mathcal F$ でのモデルは、ソートを対象に、関数記号を射に、関係記号を部分対象に送り、公理の各 $\varphi\vdash\psi$ について $\varphi$ の解釈が $\psi$ の解釈に含まれるものである。$\forall$、$\Rightarrow$、$\neg$ を使わないのは、幾何学的射の逆像関手が有限極限・像・部分対象の合併を保つので、幾何学的論理式の解釈とモデルを保つが、これらの記号の解釈は一般に保たないからである(同 6.52 の後の注意、p. 200)。こうしてモデルの圏 $\mathbb T(\mathcal F)$ は def-ctopos-main の形の状況を与える。
分類トポスは、理論の性質をトポスの性質に、トポスの性質を理論の性質に翻訳する道具になる。1 で得られる分類トポスはコヒーレントなので、Deligne の定理により十分多くの点をもつ(コヒーレントトポス)。点は集合の世界でのモデルだから、このことから「有限的な幾何学的理論の公理から証明できる $\varphi\vdash\psi$ は、集合でのすべてのモデルで成り立つものにちょうど一致する」という完全性定理の形の主張が従う(J77 7.46、p. 246。この記事では証明しない)。一方、点をもたない Grothendieck トポスも存在する(トポス の注意「点の十分性の出典と点のないトポス」)ので、一般化された幾何学的理論については、集合でのモデルだけを使う形の完全性定理は期待できない(同 p. 247)。そのような理論でも、分類トポスの中の普遍モデルは存在する。
平坦性の条件は、関手が点(さらに幾何学的射)を与えるための本質的な制約である。次の表の各行は、条件を 1 つだけ外した関手を示す。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| 平坦性(一般の $\mathcal C$) | 2 つの対象 $a,b$ と恒等射だけの圏 $\mathcal C$ と、値がどちらも 1 点の関手 $A$ | $A_!(X)=X(a)\sqcup X(b)$ で、$A_!(\ast)$ は 2 点になり終対象を保たない。$A$ は点を与えない |
| トーサーの $P\neq\emptyset$ | $P=\emptyset$ | $A_!(\ast)=P/G=\emptyset$ で、終対象を保たない |
| トーサーの推移性 | $P=G\sqcup G$(左からの積を 2 つ並べたもの) | $A_!(\ast)=P/G$ が 2 点で、終対象を保たない。作用は自由である |
| トーサーの作用の自由性 | $G\neq1$ と 1 点集合 $P=\ast$(自明な作用) | $A_!(X)=X/G$ になり、$A_!(G\times G)$ は $\lvert G\rvert$ 点、$A_!(G)\times A_!(G)$ は 1 点で、積を保たない。作用は推移的で $P\neq\emptyset$ である |
1 行目の $\widehat{\mathcal C}$ は $\mathbf{Set}\times\mathbf{Set}$ であり、その点は $X\mapsto X(a)$ と $X\mapsto X(b)$ の 2 つである(どちらも表現可能関手から来る)。2〜4 行目の計算は prf-ctopos-bg-points の 1 の公式による。4 行目では、$G\times G$ の軌道が $ab^{-1}$ の値で区別されることを使う。
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