Bergman空間

同義語:ベルグマン空間Bergman space

概要

Bergman空間(Bergman space)とは、$\mathbb C^m$ の開集合 $D$ の上の正則関数のうち Lebesgue 測度について 2 乗可積分なもの全体 $A^2(D)$ に $L^2$ 内積を入れた空間である。多重円板の上の単項式の直交性から、コンパクト集合の上の上限が $L^2$ ノルムで抑えられ(Bergman の不等式)、$A^2(D)$ は $L^2(D)$ の閉部分空間として Hilbert 空間になる。点での値は有界な汎関数なので再生核である Bergman 核が定まり、単位円板では $1/(\pi(1-z\bar w)^2)$ である。閉包がコンパクトに含まれる部分領域への制限はコンパクト作用素で、多重円板では原点で高い位数まで消える関数に $L^2$ ノルムの Schwarz の補題が成り立つ。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 多変数の正則関数, 多重円板, Hilbert空間, Lp空間, Rieszの表現定理

Bergman空間(Bergman space)とは、$\mathbb C^m$ の開集合 $D$ の上の正則関数のうち、Lebesgue 測度について 2 乗可積分なもの全体 $A^2(D)$ に、$L^2$ 内積を入れた空間である。$A^2(D)$ は $L^2(D)$ の閉部分空間で Hilbert 空間になり、その位相は広義一様収束より強い。各点での値を対応させる汎関数は有界なので、Riesz の表現定理から Bergman 核 $K(z,w)$ が定まり、正則関数を積分で再生する:$f(z)=\int_DK(z,w)f(w)\,d\lambda(w)$。
正則関数の空間に上限ノルムを入れると扱いにくいが、$L^2$ ノルムに替えると、直交射影・正規直交基底といった Hilbert 空間の道具がそのまま使える。単位円板では単項式が直交基底をなし、Bergman 核は $\frac1{\pi(1-z\bar w)^2}$ と書ける。さらに、小さい領域への制限はコンパクト作用素であり、原点で高い位数まで消える関数には $L^2$ ノルムでの Schwarz の補題が成り立つ。Grauert–Remmert はこの評価を、コンパクト複素空間上の連接層のコホモロジーが有限次元であるという Cartan–Serre の有限性定理の証明に使っている(GR79 Ch. VI、この記事では証明しない)。
この記事では、多重円板の上の単項式の直交関係から平均値の性質と Bergman の不等式を導き、$A^2(D)$ の完備性、Bergman 核の級数表示、制限写像のコンパクト性、$L^2$ ノルムの Schwarz の補題と有限階数の近似を証明する。

定義

$\mathbb C^m$ の点を $z=(z_1,\dots,z_m)$ と書き、$\lambda$ を $\mathbb C^m=\mathbb R^{2m}$ の Lebesgue 測度とする。多重指数 $\alpha$ と $p\in\mathbb C^m$ について $(z-p)^\alpha:=\prod_j(z_j-p_j)^{\alpha_j}$、$\lvert\alpha\rvert:=\sum_j\alpha_j$ とし、多重半径 $\rho=(\rho_1,\dots,\rho_m)$ の多重円板を $\Delta(p,\rho):=\{z\mid\lvert z_j-p_j\rvert<\rho_j\ (j=1,\dots,m)\}$ と書く。半径がすべて $r$ のときは $\Delta(p,r)$ と書く。

Bergman 空間

$D\subset\mathbb C^m$ を空でない開集合とする。
$$ A^2(D):=\Bigl\{f\colon D\to\mathbb C\ \Big|\ f\ \text{は正則で}\ \| f\|_D^2:=\int_D\lvert f\rvert^2\,d\lambda<\infty\Bigr\} $$
に内積 $\langle f,g\rangle_D:=\int_Df\,\bar g\,d\lambda$ を入れたものを、$D$ の Bergman 空間という。

正則関数は連続なので、ほとんどいたるところ等しい 2 つの正則関数は至るところ等しい。したがって $A^2(D)$ は $L^2(D)$ の部分空間とみなせる。$D$ の体積が有限なら、有界な正則関数はすべて $A^2(D)$ に入る。以下、正則関数の Taylor 展開は 多変数の正則関数 の定理「正則性の言い換え」による:$\Delta(p,\rho)\subset D$ なら、$f\in\mathcal O(D)$ は $\Delta(p,\rho)$ の上で $f(z)=\sum_\alpha c_\alpha(z-p)^\alpha$ と書け、級数は $\Delta(p,\rho)$ のコンパクト部分集合の上で正規収束する。$c_\alpha$ を $f$ の $p$ での Taylor 係数という。

単項式の直交性と Bergman の不等式

多重円板の上の Taylor 係数

$\Delta:=\Delta(p,\rho)$(各 $\rho_j$ は有限)とし、$f$ を $\Delta$ の上の正則関数、$f(z)=\sum_\alpha c_\alpha(z-p)^\alpha$ をその Taylor 展開とする。$N_\alpha:=\prod_{j=1}^m\frac{\pi\rho_j^{2\alpha_j+2}}{\alpha_j+1}$ とおく。

  1. $\| f\|_\Delta^2=\sum_\alpha\lvert c_\alpha\rvert^2N_\alpha$ である(両辺は $+\infty$ でもよい)。
  2. $f\in L^2(\Delta)$ なら、各 $\alpha$ について $\langle f,(z-p)^\alpha\rangle_\Delta=c_\alpha N_\alpha$ であり、$\lvert c_\alpha\rvert\le\| f\|_\Delta/\sqrt{N_\alpha}$ である。
    特に $\alpha=0$ から、$f\in L^2(\Delta)$ なら $f(p)=\frac1{\lambda(\Delta)}\int_\Delta f\,d\lambda$ であり(多重円板の上の平均値の性質)、$\lvert f(p)\rvert\le\lambda(\Delta)^{-1/2}\| f\|_\Delta$、$\lambda(\Delta)=\prod_j\pi\rho_j^2$ である。

要点:少し小さい閉多重円板の上では Taylor 級数が一様収束するので項別に積分でき、単項式どうしの積分は極座標で計算すると異なる単項式で $0$ になる。半径を広げる極限は単調収束定理と優収束定理で正当化する。

詳しい証明を開く

$0< t<1$ とし、$\Delta_t:=\Delta(p,t\rho)$ とおく。極座標 $z_j-p_j=se^{i\theta}$ と Fubini の定理により$$\int_{\Delta_t}(z-p)^\beta\,\overline{(z-p)^\alpha}\,d\lambda=\prod_{j=1}^m\int_0^{t\rho_j}\!\!\int_0^{2\pi}s^{\alpha_j+\beta_j+1}e^{i(\beta_j-\alpha_j)\theta}\,d\theta\,ds=\delta_{\alpha\beta}N_\alpha t^{2\lvert\alpha\rvert+2m}$$である($\beta_j\ne\alpha_j$ なら $\theta$ の積分が $0$)。閉多重円板 $\overline{\Delta_t}$ は $\Delta$ のコンパクト部分集合なので、Taylor 級数はその上で正規収束し、$M_t:=\sum_\alpha\lvert c_\alpha\rvert(t\rho)^\alpha<\infty$ である。$\lvert f\rvert^2=\sum_{\beta,\gamma}c_\beta\bar c_\gamma(z-p)^\beta\overline{(z-p)^\gamma}$ の二重級数は、各項の上限の和が $M_t^2$ 以下なので $\overline{\Delta_t}$ の上で一様収束する。項別に積分して$$\int_{\Delta_t}\lvert f\rvert^2d\lambda=\sum_\alpha\lvert c_\alpha\rvert^2N_\alpha t^{2\lvert\alpha\rvert+2m},\qquad\int_{\Delta_t}f\,\overline{(z-p)^\alpha}\,d\lambda=c_\alpha N_\alpha t^{2\lvert\alpha\rvert+2m}$$を得る。$t\uparrow1$ とすると、第 1 式の左辺は単調収束定理により $\| f\|_\Delta^2$ に、右辺は各項が増加するので $\sum_\alpha\lvert c_\alpha\rvert^2N_\alpha$ に近づき、1 を得る。$f\in L^2(\Delta)$ なら、$f\,\overline{(z-p)^\alpha}$ は有界な関数と $L^2$ の関数の積で、$\Delta$ の体積が有限なので可積分であり、第 2 式の左辺は優収束定理により $\langle f,(z-p)^\alpha\rangle_\Delta$ に近づく。これが 2 の等式である。不等式は Cauchy–Schwarz の不等式と $\|(z-p)^\alpha\|_\Delta^2=N_\alpha$(1 を $f=(z-p)^\alpha$ に当てたもの)から従う。$\square$

Bergman の不等式

$D\subset\mathbb C^m$ を空でない開集合、$K\subset D$ をコンパクト集合とし、$d>0$ を $K$ から $\mathbb C^m\setminus D$ への Euclid 距離以下の正の数とする($D=\mathbb C^m$ なら任意の $d>0$)。このとき、すべての $f\in A^2(D)$ について
$$ \sup_{z\in K}\lvert f(z)\rvert\le\frac{m^{m/2}}{\pi^{m/2}d^m}\| f\|_D $$
が成り立つ。

$z\in K$ とし、$\rho:=d/\sqrt m$ とおく。$w\in\Delta(z,\rho)$ なら $\lvert w-z\rvert<\sqrt m\,\rho=d$ なので $\Delta(z,\rho)\subset D$ である。lem-bg-orthogonality により $\lvert f(z)\rvert\le(\pi\rho^2)^{-m/2}\| f\|_{\Delta(z,\rho)}\le\pi^{-m/2}\rho^{-m}\| f\|_D$ であり、$\rho^{-m}=m^{m/2}d^{-m}$ である。$\square$

この不等式は GR79 Ch. VI §1 Theorem 3(p. 189)にある。$K=\{z\}$ とすれば、点での値は $\| f\|_D$ で抑えられる。

$A^2(D)$ の完備性

$D\subset\mathbb C^m$ を空でない開集合とする。

  1. $A^2(D)$ は $L^2(D)$ の閉部分空間であり、したがって Hilbert 空間である。
  2. $A^2(D)$ で収束する列は、$D$ の上で広義一様収束する。
  3. 各 $p\in D$ と多重指数 $\alpha$ について、$p$ での Taylor 係数 $f\mapsto c_\alpha$ は $A^2(D)$ の上の連続線形汎関数である。

2 は thm-bg-inequality を差 $f_n-f$ に当てればよい。
1:$f_n\in A^2(D)$ が $L^2(D)$ で $g$ に収束するとする。$(f_n)$ は $L^2$ のノルムで Cauchy 列なので、thm-bg-inequality により各コンパクト集合の上で一様 Cauchy 列であり、ある関数 $f\colon D\to\mathbb C$ に広義一様収束する。多変数の正則関数 の定理「局所一様極限」により $f$ は正則である。一方、$L^2$ で収束する列は、ほとんどいたるところ $g$ に収束する部分列をもつ(Riesz–Fischerの定理 の定理「収束列の部分列の概収束」)。その部分列は各点で $f$ にも収束するので、ほとんどいたるところ $f=g$ であり、$f\in A^2(D)$、$f_n\to f$($L^2$)である。よって $A^2(D)$ は閉である。
3:$\Delta(p,\rho)\subset D$ となる有限の $\rho$ をとると、lem-bg-orthogonality の 2 により $\lvert c_\alpha\rvert\le N_\alpha^{-1/2}\| f\|_{\Delta(p,\rho)}\le N_\alpha^{-1/2}\| f\|_D$ である。$\square$

3 から、$p$ で位数 $\ell$ 以上消える関数($\lvert\alpha\rvert< \ell$ のすべての Taylor 係数が $0$ のもの)全体は $A^2(D)$ の閉部分空間である。完備性と 2 は GR79 Ch. VI §1 Theorem 4(p. 190)にある。

Bergman 核

thm-bg-inequality により、各 $z\in D$ で $f\mapsto f(z)$ は $A^2(D)$ の上の連続線形汎関数である。Rieszの表現定理 の定理「Rieszの表現定理」により、$f(z)=\langle f,K_z\rangle_D$($f\in A^2(D)$)を満たす $K_z\in A^2(D)$ がただ 1 つある。

Bergman 核

$z,w\in D$ について $K(z,w):=K_w(z)$ とおく。$K\colon D\times D\to\mathbb C$ を $D$ の Bergman 核という。

Bergman 核の性質

$D\subset\mathbb C^m$ を空でない開集合とする。

  1. $K(z,w)=\langle K_w,K_z\rangle_D=\overline{K(w,z)}$ であり、$K$ は $z$ について正則、$w$ について反正則(複素共役が正則)である。すべての $f\in A^2(D)$ と $z\in D$ について
    $$ f(z)=\int_DK(z,w)\,f(w)\,d\lambda(w) $$
    が成り立つ。
  2. $(e_j)_{j\ge1}$ を $A^2(D)$ の任意の正規直交基底とすると($L^2(D)$ は可分なので、正規直交基底は高々可算である。有限個のときは和を有限和と読む)、$K(z,w)=\sum_je_j(z)\overline{e_j(w)}$ であり、和は絶対収束する。
  3. $K(z,z)=\sum_j\lvert e_j(z)\rvert^2=\sup\{\lvert f(z)\rvert^2\mid f\in A^2(D),\ \| f\|_D\le1\}$ である。

1:$K_w\in A^2(D)$ に $z$ での再生の式を当てると $K(z,w)=K_w(z)=\langle K_w,K_z\rangle_D$ であり、内積のエルミート性から $\overline{K(w,z)}=\overline{\langle K_z,K_w\rangle_D}=\langle K_w,K_z\rangle_D$ である。$z\mapsto K(z,w)=K_w(z)$ は正則で、$w\mapsto\overline{K(z,w)}=K(w,z)$ も正則である。再生の式は $f(z)=\langle f,K_z\rangle_D=\int_Df(w)\overline{K_z(w)}\,d\lambda(w)$ と $\overline{K_z(w)}=\overline{K(w,z)}=K(z,w)$ から従う。
2:$\langle K_w,e_j\rangle_D=\overline{\langle e_j,K_w\rangle_D}=\overline{e_j(w)}$ である。Hilbert空間 の定理「完全正規直交系の特徴づけとParsevalの等式」により
$$ K(z,w)=\langle K_w,K_z\rangle_D=\sum_j\langle K_w,e_j\rangle_D\overline{\langle K_z,e_j\rangle_D}=\sum_j\overline{e_j(w)}\,e_j(z) $$
であり、Cauchy–Schwarz の不等式と $\sum_j\lvert e_j(z)\rvert^2=\| K_z\|_D^2<\infty$ により絶対収束する。
3:$K(z,z)=\| K_z\|_D^2$ である。$\| f\|_D\le1$ なら $\lvert f(z)\rvert=\lvert\langle f,K_z\rangle_D\rvert\le\| K_z\|_D$ で、$K_z\ne0$ なら $f=K_z/\| K_z\|_D$ で等号が成り立つ。$K_z=0$ なら両辺とも $0$ である。$\square$

3 の上限は Bergman 核の対角成分の極値的な意味であり、$K(z,z)>0$ となるのは $f(z)\ne0$ となる $f\in A^2(D)$ があるときである。$D$ が有界なら定数関数が $A^2(D)$ に入るので、$K(z,z)\ge1/\lambda(D)>0$ である。

単位円板と全空間

単位円板の Bergman 空間

$\mathbb D:=\{z\in\mathbb C\mid\lvert z\rvert<1\}$ とする。

  1. $e_n(z):=\sqrt{(n+1)/\pi}\,z^n$($n\ge0$)は $A^2(\mathbb D)$ の正規直交基底である。
  2. 正則関数 $f(z)=\sum_{n\ge0}c_nz^n$ が $A^2(\mathbb D)$ に入るのは $\sum_n\lvert c_n\rvert^2/(n+1)<\infty$ のときで、そのとき $\| f\|_{\mathbb D}^2=\pi\sum_n\lvert c_n\rvert^2/(n+1)$ である。
  3. $\mathbb D$ の Bergman 核は $K(z,w)=\dfrac1{\pi(1-z\bar w)^2}$ である。

要点:lem-bg-orthogonality を単位円板に当てると $\| z^n\|^2=\pi/(n+1)$ で単項式は直交し、すべての単項式と直交する関数は Taylor 係数がすべて $0$ である。核は thm-bg-kernel の 2 の級数を足せばよい。

詳しい証明を開く

lem-bg-orthogonality を $m=1$、$p=0$、$\rho=1$ に当てると $N_n=\pi/(n+1)$ である。同じ補題の 1 から 2 が従い、2 を $f=z^k$ に当てると $\| e_k\|=1$、補題の 2 を $f=z^k$ に当てると $\langle z^k,z^n\rangle_{\mathbb D}=0$($k\ne n$)である。$f\in A^2(\mathbb D)$ がすべての $z^n$ と直交すれば、補題の 2 から $c_nN_n=0$、すなわちすべての Taylor 係数が $0$ で $f=0$ である。よって $(e_n)$ は完全な正規直交系、すなわち正規直交基底である(Hilbert空間 の定義「完全正規直交系」)。3 は thm-bg-kernel の 2 から$$K(z,w)=\sum_{n\ge0}\frac{n+1}\pi(z\bar w)^n=\frac1{\pi(1-z\bar w)^2}\qquad(\lvert z\bar w\rvert<1)$$である($\sum_n(n+1)x^n=(1-x)^{-2}$ は等比級数を項別微分したもの)。$\square$

有界でない関数と全空間
  1. $c_n:=\binom{2n}n4^{-n}$($(1-z)^{-1/2}$ の Taylor 係数。一般二項定理)とおく。$c_n=\prod_{k=1}^n\frac{2k-1}{2k}$ と $\bigl(\frac{2k-1}{2k}\bigr)^2\le\frac{2k-1}{2k+1}$ から $c_n^2\le\frac1{2n+1}$ なので、$f(z):=\sum_nc_nz^n$ は prop-bg-disk の 2 により $A^2(\mathbb D)$ に入る。一方 $k\ge2$ では $\bigl(\frac{2k-1}{2k}\bigr)^2\ge\frac{k-1}k$ なので、$k=1$ の因子 $\frac14$ を分けて $c_n^2\ge\frac14\prod_{k=2}^n\frac{k-1}k=\frac1{4n}$ となる。よって $c_n\ge\frac1{2\sqrt n}$ なので $\sum_nc_n=\infty$ であり、$0< x<1$ で $f(x)=\sum_nc_nx^n$ は $x\uparrow1$ で $+\infty$ に発散する。$A^2(\mathbb D)$ には有界でない関数がある。
  2. $f(z)=1/(1-z)$ は $c_n=1$ で $\sum_n1/(n+1)=\infty$ なので、$A^2(\mathbb D)$ に入らない。
  3. $A^2(\mathbb C^m)=\{0\}$ である。thm-bg-inequality を $K=\{z\}$ と任意の $d>0$ に当てると $\lvert f(z)\rvert\le m^{m/2}\pi^{-m/2}d^{-m}\| f\|$ であり、$d\to\infty$ として $f(z)=0$ を得る。このとき Bergman 核は恒等的に $0$ である。

制限写像のコンパクト性

制限写像のコンパクト性

$D\subset\mathbb C^m$ を開集合、$D'\subset D$ を空でない開集合で、閉包 $\overline{D'}$ が $D$ に含まれるコンパクト集合であるとする。このとき制限 $R\colon A^2(D)\to A^2(D')$、$f\mapsto f|_{D'}$ は コンパクト作用素 である。

$\| f_n\|_D\le1$ とする。Hilbert 空間は反射的なので(反射的Banach空間 の命題「Hilbert 空間は反射的」)、同記事の定理「有界列の弱収束部分列」により、部分列 $(f_{n_k})$ がある $f\in A^2(D)$ に弱収束する。各 $z\in D$ で $f_{n_k}(z)=\langle f_{n_k},K_z\rangle_D\to\langle f,K_z\rangle_D=f(z)$ である。また、弱収束列のノルムの下極限は極限のノルム以上なので $\| f\|_D\le1$ であり、thm-bg-inequality を $K:=\overline{D'}$ に当てると、ある定数 $C$ について $\overline{D'}$ の上で $\lvert f_{n_k}\rvert\le C$、$\lvert f\rvert\le C$ である。$\lambda(D')<\infty$ なので、優収束定理により $\| f_{n_k}-f\|_{D'}^2=\int_{D'}\lvert f_{n_k}-f\rvert^2d\lambda\to0$ である。有界列の像が収束する部分列をもつので、$R$ はコンパクトである。$\square$

GR79 Ch. VI §1 Theorem 4(p. 190)は、$A^2(D)$ から正則関数の空間 $\mathcal O(D)$(広義一様収束の位相)への埋め込みが連続でコンパクトであることを Montel の定理から導いている。$D=\mathbb D$、$D'=\{\lvert z\rvert< r\}$ では、prop-bg-disk の正規直交基底に対して $\| e_n\|_{D'}=r^{n+1}$ であり、$R$ は係数が $0$ に近づく対角的な作用素として見える。

Schwarz の補題の $L^2$ 版と有限階数の近似

原点で高い位数まで消える関数は、小さい多重円板の上では $L^2$ ノルムが指数的に小さくなる。

$L^2$ ノルムの Schwarz の補題

$0< r'< r$、$r'/r< a<1$ とし、$\Delta:=\Delta(0,r)$、$\Delta':=\Delta(0,r')$ を $\mathbb C^m$ の多重円板とする。$s:=r'/a$ とおき
$$ M:=(\pi r'^2)^{m/2}\cdot\frac{m^{m/2}}{\pi^{m/2}(r-s)^m} $$
と定める。整数 $\ell\ge0$ と、原点で位数 $\ell$ 以上消える $f\in A^2(\Delta)$ について、$\| f\|_{\Delta'}\le Ma^\ell\| f\|_\Delta$ が成り立つ。

$r'/r< a<1$ から $r'< s< r$ である。閉多重円板 $\overline{\Delta(0,s)}$ はコンパクトで、そこから距離 $r-s$ 未満の点は各座標の絶対値が $r$ 未満なので $\Delta$ に入る。thm-bg-inequality により、$B:=\sup_{\Delta(0,s)}\lvert f\rvert$ は $B\le L\| f\|_\Delta$、$L:=m^{m/2}\pi^{-m/2}(r-s)^{-m}$ を満たす。
$c\in\Delta'$ をとる。$c=0$ なら $\ell\ge1$ のとき $f(0)=0$、$\ell=0$ のとき $\lvert f(0)\rvert\le B$ である。$c\ne0$ なら $\mu:=\max_j\lvert c_j\rvert\in(0,r')$ とおき、$\lvert w\rvert< s$ で $h(w):=f(wc/\mu)$ と定める。$\lvert wc_j/\mu\rvert\le\lvert w\rvert< s$ なので $h$ は円板 $\lvert w\rvert< s$ の上の正則関数で、$\lvert h\rvert\le B$ である。$f=\sum_{\lvert\alpha\rvert\ge\ell}a_\alpha z^\alpha$ は $\Delta$ のコンパクト部分集合の上で絶対収束するので、$h(w)=\sum_\alpha a_\alpha(c/\mu)^\alpha w^{\lvert\alpha\rvert}$ と項をまとめ直せて、$h$ は $w=0$ で位数 $\ell$ 以上消える。$\varepsilon>0$ について $w\mapsto h(sw)/((1+\varepsilon)B)$ は単位円板からそれ自身への正則関数なので($B=0$ なら $f=0$ で自明)、Schwarzの補題 の命題「高位の零点」により $\lvert h(w)\rvert\le(1+\varepsilon)B(\lvert w\rvert/s)^\ell$ であり、$\varepsilon\to0$ とすると
$$ \lvert f(c)\rvert=\lvert h(\mu)\rvert\le B\Bigl(\frac\mu s\Bigr)^\ell\le B\Bigl(\frac{r'}s\Bigr)^\ell=Ba^\ell $$
である($\ell=0$ のときは命題を使わず $\lvert h\rvert\le B$ による)。よって $\sup_{\Delta'}\lvert f\rvert\le La^\ell\| f\|_\Delta$ であり、$\| f\|_{\Delta'}\le\lambda(\Delta')^{1/2}\sup_{\Delta'}\lvert f\rvert$、$\lambda(\Delta')=(\pi r'^2)^m$ から結論を得る。$\square$

この評価は GR79 Ch. VI §1 Theorem 6(p. 191)にある。直交基底と組み合わせると、制限写像の有限階数の近似が得られる。$H\subset A^2(\Delta)$ の正規直交基底 $(e_j)_{j\ge1}$ が原点で単調であるとは、原点での消える位数 $\operatorname{ord}_0e_j$ が $j$ について単調非減少で、無限列なら $+\infty$ に発散することをいう。

有限階数の近似

thm-bg-schwarz の記号のもとで、$H\subset A^2(\Delta)$ を閉部分空間、$(e_j)_{j\ge1}$ を $H$ の原点で単調な正規直交基底とする。各 $\ell\ge0$ について自然数 $d$ があって、すべての $v\in H$ について
$$ \Bigl\| v-\sum_{j=1}^d\langle v,e_j\rangle_\Delta e_j\Bigr\|_{\Delta'}\le Ma^\ell\| v\|_\Delta $$
が成り立つ。特に制限 $H\to A^2(\Delta')$ は有限階数の作用素の作用素ノルムでの極限である。

単調性から、$\operatorname{ord}_0e_j< \ell$ となる $j$ は有限個であり、それらがちょうど $j\le d$ となる $d$ がある。$v\in H$ なら $w:=v-\sum_{j\le d}\langle v,e_j\rangle e_j=\sum_{j>d}\langle v,e_j\rangle e_j$ は $A^2(\Delta)$ で収束する級数であり(Hilbert空間 の定理「完全正規直交系の特徴づけとParsevalの等式」)、thm-bg-hilbert の 3 により Taylor 係数は項別にとれるので、$w$ は原点で位数 $\ell$ 以上消える。Parseval の等式から $\| w\|_\Delta\le\| v\|_\Delta$ であり、thm-bg-schwarz を $w$ に当てればよい。$\square$

評価の左辺の $v$ は $H$ の元でなければならない。$v$ を $A^2(\Delta)$ 全体から取ると、評価は一般に成り立たない(反例の表の 3 行目)。$H=A^2(\Delta)$ では単項式を正規化したものが原点で単調な正規直交基底であり(lem-bg-orthogonality。添字を総次数の順に並べる)、系は thm-bg-compact の多重円板の場合の別証明を与える。一般の閉部分空間 $H\subset A^2(\Delta)$ にも原点で単調な正規直交基底がある。実際、$H_\ell:=\{h\in H\mid h\ \text{は原点で位数}\ \ell\ \text{以上消える}\}$ は thm-bg-hilbert の 3 により閉部分空間であり、$H_\ell$ の中での $H_{\ell+1}$ の直交補空間は、$\lvert\alpha\rvert=\ell$ の Taylor 係数へ単射に写るので有限次元で、その $0$ でない元は原点でちょうど位数 $\ell$ で消える。$\ell=0,1,2,\dots$ の順にこれらの正規直交基底を並べればよい。並べた全体に直交する $H$ の元は、帰納的にすべての $H_\ell$ に入り、原点での Taylor 係数がすべて $0$ なので $0$ である。Grauert–Remmert は、飽和した部分空間について最小ノルムの元を順にとる方法で同じ結論を示している(GR79 Ch. VI §2 Theorem 2、p. 194)。

反例:仮定を外した場合

外す条件反例成り立たなくなること
thm-bg-inequality の「$K$ から $\mathbb C^m\setminus D$ への距離が正」($K$ がコンパクトなら成り立つ)$D=K=\mathbb D$、ex-bg-examples の 1 の $f$$\sup_K\lvert f\rvert\le C\| f\|_D$ となる定数 $C$ の存在
thm-bg-compact の「$\overline{D'}$ が $D$ の中でコンパクト」$D'=D=\mathbb D$$R$(恒等写像)のコンパクト性
cor-bg-finite-rank の $v\in H$($v$ を $A^2(\Delta)$ から取る)$m=1$、$r=1$、$r'=\frac12$、$H=\{f\in A^2(\mathbb D)\mid f(0)=0\}$、$v=1$十分大きい $\ell$ での評価
反例の確かめ

要点:1 行目は有界でない例、2 行目は正規直交系が収束部分列をもたないこと、3 行目は $v=1$ が $H$ と直交することによる。

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1 行目:ex-bg-examples の 1 の $f$ は $A^2(\mathbb D)$ に入るが、$\mathbb D$ の上で有界でない。

2 行目:prop-bg-disk の $(e_n)$ は $\| e_n\|=1$ で、$n\ne k$ なら $\| e_n-e_k\|=\sqrt2$ なので、収束する部分列をもたない。

3 行目:$H$ は連続線形汎関数 $f\mapsto f(0)$ の核なので閉部分空間であり、prop-bg-disk の $e_n$($n\ge1$)がその原点で単調な正規直交基底である。$v=1$ はすべての $e_n$($n\ge1$)と直交するので、どの $d$ についても左辺の関数は $1$ である。$\|1\|_{\Delta'}=\sqrt{\pi/4}$、$\|1\|_{\Delta}=\sqrt\pi$ なので、評価は $\frac12\le Ma^\ell$ を要求するが、$a<1$ なので $\ell$ が大きいと成り立たない。

1 行目は、$A^2$ のノルムが点での値を抑えるのは境界から離れたところに限ることを示す。2 行目では、制限が恒等写像になり、無限次元の Hilbert 空間の単位球はコンパクトでない。3 行目では、$H$ の外の成分は $H$ の基底による展開に現れず、Schwarz の補題が効かない。

関連項目

参考文献

[1]
Hans Grauert, Reinhold Remmert, Theory of Stein Spaces, Springer, 1979, Ch. VI 冒頭(p. 186、Cartan–Serre の有限性定理と証明の方針)、§1 Theorem 1・2(pp. 188–189、多重円板の上の単項式の直交関係と完全性)、Theorem 3(p. 189、Bergman の不等式)、Theorem 4(p. 190、完備性と $\mathcal O(D)$ へのコンパクトな埋め込み)、Theorem 6(p. 191、$L^2$ ノルムの Schwarz の補題)、§2 Theorem 1(p. 192、単調な直交基底による近似)、Theorem 2(p. 194、最小関数による単調な直交基底の存在)

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