逆三角関数(高校数学)

同義語:inverse trigonometric functions (high school mathematics)

概要

逆三角関数(inverse trigonometric functions)とは、単調な範囲に制限した三角関数の逆関数 $\arcsin$、$\arccos$、$\arctan$ である。値域は $[-\frac\pi2,\frac\pi2]$、$[0,\pi]$、$(-\frac\pi2,\frac\pi2)$ で、$\arcsin x$($|x|\le1$)は $\sin y=x$ となるこの範囲の $y$。$\arcsin(\sin y)=y$ は $y$ が値域の中のときに限る。$\arctan a+\arctan b$ は $ab>1$ なら $\arctan\frac{a+b}{1-ab}$ から $\pi$ ずれる。$(\arcsin x)'=\frac1{\sqrt{1-x^2}}$($|x|<1$)、$(\arctan x)'=\frac1{1+x^2}$。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 三角関数のグラフと周期, 三角方程式と三角不等式, 逆関数, 連鎖律(高校数学)

高校での出発点:三角関数の値から角を 1 つ選ぶ

三角方程式と三角不等式 で見たように、$\sin x=\frac12$ を満たす $x$ は $\frac\pi6+2n\pi$、$\frac{5\pi}6+2n\pi$ と無数にある。「正弦が $\frac12$ になる角」を 1 つの数として扱いたいときは、角の範囲を決めて 1 つを選ぶ必要がある。これが 逆三角関数 の考え方である。まず 3 つの例を見る。

正弦が $\frac{1}{2}$ になる角を 1 つ選ぶ

$\sin x=\frac12$ の解のうち、$-\frac\pi2\le x\le\frac\pi2$ の範囲に入るのは $x=\frac\pi6$ だけである($\frac{5\pi}6$ はこの範囲の外)。この範囲の中で選んだ解を $\arcsin\frac12$ と書き、$\arcsin\frac12=\frac\pi6$ である。
同じように $\sin x=-\frac{\sqrt3}2$ の解のうち $-\frac\pi2\le x\le\frac\pi2$ に入るのは $x=-\frac\pi3$ だけなので、$\arcsin\bigl(-\frac{\sqrt3}2\bigr)=-\frac\pi3$ である。

直線の傾きから角を求める

原点を通る傾き $m$ の直線が $x$ 軸の正の向きとなす角 $\theta$($-\frac\pi2<\theta<\frac\pi2$)は、$\tan\theta=m$ を満たす。

  1. $m=1$ なら $\theta=\frac\pi4$($45^\circ$)である。
  2. $m=2$ では、$\tan\theta=2$ となる特別な角はない。それでも角は 1 つに決まり、$\theta=\arctan2=1.1071\ldots$(約 $63.43^\circ$)である。
    $\arctan$ を使うと、特別な角でない角にも名前を付けて計算できる。
関数電卓の $\sin^{-1}$

関数電卓で $\sin150^\circ=0.5$ を求め、続けて $\sin^{-1}$ のキーを押すと、$150^\circ$ ではなく $30^\circ$ が表示される。電卓の $\sin^{-1}$ は、$-90^\circ$ 以上 $90^\circ$ 以下の範囲の角を返すと決められているからである。$\sin^{-1}(\sin150^\circ)=30^\circ\ne150^\circ$ で、「$\sin$ してから $\sin^{-1}$ すると元に戻る」とは限らない。

3 つの例から、次の問いが出てくる。

  1. 角の範囲をどう選べば、値がちょうど 1 つに決まるのか。→ prop-itf-monotone、def-itf-inverse-trig
  2. $\arcsin(\sin x)$ は、いつ $x$ に戻るのか。戻らないときは何になるのか。→ prop-itf-composition、prop-itf-all-solutions
  3. 角の足し算は、逆三角関数でどう書けるか。→ thm-itf-arctan-addition
  4. 逆三角関数の導関数は何か。→ thm-itf-derivative
    高校の計算この記事での見方ボックス
    範囲を決めて角を 1 つ選ぶ単調な範囲に制限した関数の逆関数def-itf-inverse-trig
    $\sin^{-1}(\sin150^\circ)=30^\circ$逆関数の値域の外では元に戻らないprop-itf-composition
    $\sin x=k$ の一般解$n\pi+(-1)^n\arcsin k$(分枝の全体)prop-itf-all-solutions
    正接の加法定理$\arctan$ の加法公式と $\pi$ のずれthm-itf-arctan-addition
    $\int\frac{dx}{1+x^2}$$(\arctan x)'=\frac1{1+x^2}$thm-itf-derivative
    逆三角関数は高校の教科書では主題にならないことが多いが、積分の計算(有理関数の積分、根号を含む関数の積分)や円周率の計算(Machinの公式)で使われる。この記事は、それらの記事で使う $\arcsin$、$\arctan$ の定義・値域・導関数をまとめて証明する。大学向けの用語解説は 逆三角関数 である。

逆関数を作るための制限

逆関数

関数 $f$ が区間 $I$ で定義され、$f$ の値全体が集合 $J$ であるとする。$J$ のどの $y$ についても $f(x)=y$ となる $x\in I$ がちょうど 1 つあるとき、その $x$ を $f^{-1}(y)$ と書き、$f^{-1}$ を $f$ の 逆関数 という(逆関数)。$y=f(x)$ と $x=f^{-1}(y)$ は同じことを言っており、$f^{-1}$ のグラフは $f$ のグラフを直線 $y=x$ に関して折り返したものである。
「ちょうど 1 つ」を保証する便利な条件が、狭義単調 であることである。$I$ の $u< v$ について常に $f(u)< f(v)$ なら 狭義単調増加、常に $f(u)>f(v)$ なら 狭義単調減少 という。狭義単調なら、$u\ne v$ のとき $f(u)\ne f(v)$ なので、同じ値を 2 回とらない。
$\sin$ は実数全体では同じ値を何度もとるので、逆関数をもたない。そこで、狭義単調な範囲に制限する。

単調な範囲

正弦・余弦・正接が単調な範囲
  1. $\sin x$ は $-\frac\pi2\le x\le\frac\pi2$ で狭義単調増加であり、この範囲で $-1$ 以上 $1$ 以下のすべての値をとる。
  2. $\cos x$ は $0\le x\le\pi$ で狭義単調減少であり、この範囲で $-1$ 以上 $1$ 以下のすべての値をとる。
  3. $\tan x$ は $-\frac\pi2< x<\frac\pi2$ で狭義単調増加であり、この範囲ですべての実数の値をとる。

証明には、一般角と弧度法 の命題「正弦・余弦の符号と右半分の点の角」(三角方程式と三角不等式 でも使う)を使う。$P(t)=(\cos t,\sin t)$ を単位円上の点とすると、次が成り立つ。

  1. $0< t<\pi$ なら $\sin t>0$(上半分)である。
  2. $-\frac\pi2< t<\frac\pi2$ なら $\cos t>0$(右半分)、$\frac\pi2< t<\frac{3\pi}2$ なら $\cos t<0$(左半分)で、$\cos\bigl(\pm\frac\pi2\bigr)=\cos\frac{3\pi}2=0$ である。
  3. 単位円上の点 $(a,b)$ で $a\ge0$ なら、それを $P(t)$ とする $t$ が $-\frac\pi2\le t\le\frac\pi2$ の範囲にただ 1 つあり、$a>0$ なら $-\frac\pi2< t<\frac\pi2$ である。
    3 は 2 の裏返しである。角を 1 周の範囲 $-\frac\pi2\le t<\frac{3\pi}2$ にとると(一般角と弧度法 の 1 周の中への戻し方)、$x$ 座標が $0$ 以上なので 2 により $\frac\pi2< t<\frac{3\pi}2$ ではありえず、$-\frac\pi2\le t\le\frac\pi2$ となる。
差を積に直して符号を調べる

方針:単調性は、2 つの値の差を和積の公式や加法定理で積に直し、各因数の符号を調べる。すべての値をとることは、単位円の右半分の点を具体的に作って示す。
段 1($\sin$ の単調性)。$-\frac\pi2\le u< v\le\frac\pi2$ とする。和積の公式(加法定理から積和・和積・合成・正接の公式を導く)により
$$ \sin v-\sin u=2\cos\frac{u+v}2\,\sin\frac{v-u}2 $$
である。$0< v-u\le\pi$ なので $0<\frac{v-u}2\le\frac\pi2$ で、$\sin\frac{v-u}2>0$ である。また $u\ge-\frac\pi2$、$v\le\frac\pi2$、$u< v$ から $-\pi< u+v<\pi$(左の不等号は $u+v>2u\ge-\pi$、右は $u+v<2v\le\pi$)なので、$-\frac\pi2<\frac{u+v}2<\frac\pi2$ で、$\cos\frac{u+v}2>0$ である。よって $\sin v-\sin u>0$ である。
段 2($\sin$ がすべての値をとる)。$-1\le k\le1$ とする。点 $\bigl(\sqrt{1-k^2},k\bigr)$ は単位円上にあり、$x$ 座標が $0$ 以上なので、右半分(両端の $(0,\pm1)$ を含む)にある。証明の前に挙げた 3 により、この点を $P(t)$ とする $t$ が $-\frac\pi2\le t\le\frac\pi2$ の範囲にあり、$\sin t=k$ である。
段 3($\cos$)。加法定理により $\cos x=\sin\bigl(\frac\pi2-x\bigr)$ である($\sin\bigl(\frac\pi2-x\bigr)=\sin\frac\pi2\cos x-\cos\frac\pi2\sin x=\cos x$)。$0\le u< v\le\pi$ なら $-\frac\pi2\le\frac\pi2-v<\frac\pi2-u\le\frac\pi2$ なので、段 1 から $\cos v=\sin\bigl(\frac\pi2-v\bigr)<\sin\bigl(\frac\pi2-u\bigr)=\cos u$ である。すべての値をとることも、段 2 の $t$ に対して $x=\frac\pi2-t$($0\le x\le\pi$)をとれば $\cos x=\sin t=k$ となることから分かる。
段 4($\tan$ の単調性)。$-\frac\pi2< u< v<\frac\pi2$ とする。$\cos u>0$、$\cos v>0$ なので
$$ \tan v-\tan u=\frac{\sin v\cos u-\cos v\sin u}{\cos u\cos v}=\frac{\sin(v-u)}{\cos u\cos v} $$
である(分子は加法定理)。$0< v-u<\pi$ なので $\sin(v-u)>0$ で、分母も正だから $\tan v-\tan u>0$ である。
段 5($\tan$ がすべての値をとる)。実数 $m$ について、点 $\Bigl(\frac1{\sqrt{1+m^2}},\frac m{\sqrt{1+m^2}}\Bigr)$ は単位円上にあり(座標の 2 乗の和が $\frac{1+m^2}{1+m^2}=1$)、$x$ 座標が正なので右半分にある。段 2 と同じ理由で(証明の前に挙げた 3)、これを $P(t)$ とする $t$ が $-\frac\pi2< t<\frac\pi2$ の範囲にあり $\tan t=\frac{m/\sqrt{1+m^2}}{1/\sqrt{1+m^2}}=m$ である。$\square$

単調な範囲と、そうでない範囲
  1. $-\frac\pi2\le x\le\frac\pi2$ で $x$ を $-\frac\pi2,-\frac\pi6,0,\frac\pi6,\frac\pi2$ と増やすと、$\sin x$ は $-1,-\frac12,0,\frac12,1$ と増える(prop-itf-monotone の 1)。
  2. $0\le x\le\pi$ では、$\sin x$ は $0\to1\to0$ と増えてから減るので単調でない。実際 $\sin\frac\pi6=\sin\frac{5\pi}6=\frac12$ で、同じ値を 2 回とる。この範囲に制限しても、逆関数は作れない。
  3. $0\le x\le\pi$ で $x$ を $0,\frac\pi3,\frac\pi2,\frac{2\pi}3,\pi$ と増やすと、$\cos x$ は $1,\frac12,0,-\frac12,-1$ と減る(prop-itf-monotone の 2)。

逆三角関数の定義と値

逆正弦・逆余弦・逆正接
  1. $-1\le x\le1$ に対し、$\sin y=x$ かつ $-\frac\pi2\le y\le\frac\pi2$ を満たす $y$ を $\arcsin x$ と書く。
  2. $-1\le x\le1$ に対し、$\cos y=x$ かつ $0\le y\le\pi$ を満たす $y$ を $\arccos x$ と書く。
  3. 実数 $x$ に対し、$\tan y=x$ かつ $-\frac\pi2< y<\frac\pi2$ を満たす $y$ を $\arctan x$ と書く。
    prop-itf-monotone により、このような $y$ はそれぞれちょうど 1 つある(すべての値をとるので少なくとも 1 つ、狭義単調なので 2 つ以上はない)。$\arcsin$、$\arccos$、$\arctan$ をまとめて 逆三角関数 という。$\arcsin x$ の値の範囲 $\bigl[-\frac\pi2,\frac\pi2\bigr]$ を $\arcsin$ の 値域 といい、$\arccos$ の値域は $[0,\pi]$、$\arctan$ の値域は $\bigl(-\frac\pi2,\frac\pi2\bigr)$ である。

$\arcsin x$ を $\sin^{-1}x$ とも書く。これは逆関数の記号で、$\frac1{\sin x}$ の意味ではない(ex-itf-not-reciprocal)。3 つのグラフは、制限した $\sin$、$\cos$、$\tan$ のグラフを直線 $y=x$ に関して折り返したものである(図1)。
左から、−π/2 ≤ x ≤ π/2 に制限した sin と arcsin、0 ≤ x ≤ π に制限した cos と arccos、−π/2 < x < π/2 の tan と arctan。逆三角関数のグラフが直線 y = x に関する折り返しであり、arctan のグラフが y = ±π/2 に近づくことを見る図。 左から、−π/2 ≤ x ≤ π/2 に制限した sin と arcsin、0 ≤ x ≤ π に制限した cos と arccos、−π/2 < x < π/2 の tan と arctan。逆三角関数のグラフが直線 y = x に関する折り返しであり、arctan のグラフが y = ±π/2 に近づくことを見る図。

逆三角関数の値

定義に戻って、「値域に入り、三角関数の値が合う角」を探す。

  1. $\arccos\bigl(-\frac12\bigr)$:$\cos y=-\frac12$、$0\le y\le\pi$ を満たすのは $y=\frac{2\pi}3$ なので、$\arccos\bigl(-\frac12\bigr)=\frac{2\pi}3$。
  2. $\arccos0=\frac\pi2$、$\arcsin1=\frac\pi2$、$\arcsin(-1)=-\frac\pi2$。
  3. $\arctan1=\frac\pi4$、$\arctan\bigl(-\sqrt3\bigr)=-\frac\pi3$($\tan\bigl(-\frac\pi3\bigr)=-\sqrt3$ で、$-\frac\pi3$ は $\bigl(-\frac\pi2,\frac\pi2\bigr)$ に入る)。
  4. $\arcsin\frac35=0.6435\ldots$、$\arccos\frac35=0.9272\ldots$、$\arctan2=1.1071\ldots$。これらは特別な角ではないが、prop-itf-monotone により値はちょうど 1 つに決まる。

値域の選び方 $\bigl[-\frac\pi2,\frac\pi2\bigr]$、$[0,\pi]$、$\bigl(-\frac\pi2,\frac\pi2\bigr)$ は、関数電卓や多くの教科書と同じ標準的な約束である(Abr21 §8.3)。別の範囲を選ぶと別の逆関数ができることは、rem-itf-branches で見る。

逆三角関数の性質

三角関数と組み合わせる

三角関数との合成
  1. $-1\le x\le1$ なら $\sin(\arcsin x)=x$、$\cos(\arccos x)=x$ であり、すべての実数 $x$ について $\tan(\arctan x)=x$ である。
  2. $-\frac\pi2\le y\le\frac\pi2$ なら $\arcsin(\sin y)=y$、$0\le y\le\pi$ なら $\arccos(\cos y)=y$、$-\frac\pi2< y<\frac\pi2$ なら $\arctan(\tan y)=y$ である。
  3. $\frac\pi2\le y\le\frac{3\pi}2$ なら $\arcsin(\sin y)=\pi-y$ である。
定義の一意性を使う

方針:$\arcsin k$ は「$\sin$ の値が $k$ で、$\bigl[-\frac\pi2,\frac\pi2\bigr]$ に入る角」としてただ 1 つに決まる(def-itf-inverse-trig)。そこで、ある角がこの 2 つの条件を満たすことを確かめれば、その角が $\arcsin k$ である。
段 1(1)。$\arcsin x$ は定義により $\sin(\arcsin x)=x$ を満たす。$\arccos$、$\arctan$ も同じである。
段 2(2)。$-\frac\pi2\le y\le\frac\pi2$ とし、$k:=\sin y$ とおく。角 $y$ は「$\sin$ の値が $k$」と「$\bigl[-\frac\pi2,\frac\pi2\bigr]$ に入る」を満たすので、一意性から $y=\arcsin k=\arcsin(\sin y)$ である。$\arccos$、$\arctan$ も同じである。
段 3(3)。$\frac\pi2\le y\le\frac{3\pi}2$ なら $-\frac\pi2\le\pi-y\le\frac\pi2$ であり、$\sin(\pi-y)=\sin y$ である(三角方程式と三角不等式 の対称性の補題)。よって角 $\pi-y$ が 2 つの条件を満たし、$\arcsin(\sin y)=\pi-y$ である。$\square$

$\sin$ は周期 $2\pi$ なので、2 と 3 を $2\pi$ ずつずらすと、すべての実数 $y$ で $\arcsin(\sin y)$ が分かる。グラフは、傾き $1$ と $-1$ の線分が交互に並ぶのこぎり形になる(図2)。
y = arcsin(sin x) のグラフ。−π/2 ≤ x ≤ π/2(薄い青)では y = x と一致するが、その外では値が −π/2 と π/2 の間を行き来し、x には戻らないことを見る図。 y = arcsin(sin x) のグラフ。−π/2 ≤ x ≤ π/2(薄い青)では y = x と一致するが、その外では値が −π/2 と π/2 の間を行き来し、x には戻らないことを見る図。

$\arcsin(\sin y)$ を計算する
  1. $y=\frac{3\pi}4$:prop-itf-composition の 3 から $\arcsin\bigl(\sin\frac{3\pi}4\bigr)=\pi-\frac{3\pi}4=\frac\pi4$ である。実際 $\sin\frac{3\pi}4=\frac{\sqrt2}2=\sin\frac\pi4$ である。
  2. $y=2$:$\frac\pi2=1.57\ldots\le2\le\frac{3\pi}2$ なので、$\arcsin(\sin2)=\pi-2=1.1415\ldots$ である。
  3. $y=7$:$7-2\pi=0.7168\ldots$ は $\bigl[-\frac\pi2,\frac\pi2\bigr]$ に入り、$\sin7=\sin(7-2\pi)$ なので、2 から $\arcsin(\sin7)=7-2\pi$ である。
  4. $y=10$:$10-2\pi=3.716\ldots$ は $\bigl[\frac\pi2,\frac{3\pi}2\bigr]$ に入るので、3 から $\arcsin(\sin10)=\pi-(10-2\pi)=3\pi-10=-0.5752\ldots$ である。

逆三角関数どうしの関係

逆三角関数の関係式
  1. $-1\le x\le1$ なら $\arcsin x+\arccos x=\frac\pi2$。
  2. $\arcsin(-x)=-\arcsin x$、$\arctan(-x)=-\arctan x$、$\arccos(-x)=\pi-\arccos x$($\arcsin$、$\arccos$ では $-1\le x\le1$)。
  3. $x>0$ なら $\arctan x+\arctan\frac1x=\frac\pi2$、$x<0$ なら $\arctan x+\arctan\frac1x=-\frac\pi2$。
  4. $-1\le x\le1$ なら $\cos(\arcsin x)=\sqrt{1-x^2}$、$\sin(\arccos x)=\sqrt{1-x^2}$。
値域に入ることと値が合うことを確かめる

方針:prf-prop-itf-composition と同じく、候補の角が値域に入り、三角関数の値が合うことを確かめ、定義の一意性を使う。加法定理から出る $\cos\bigl(\frac\pi2-\theta\bigr)=\sin\theta$、$\sin\bigl(\frac\pi2-\theta\bigr)=\cos\theta$、$\cos(\pi-\theta)=-\cos\theta$、$\sin(-\theta)=-\sin\theta$ を使う。
段 1(1)。$\theta:=\arcsin x$ とすると $-\frac\pi2\le\theta\le\frac\pi2$ なので、$\frac\pi2-\theta$ は $0$ 以上 $\pi$ 以下である。$\cos\bigl(\frac\pi2-\theta\bigr)=\sin\theta=x$ なので、$\frac\pi2-\theta=\arccos x$ である。移項して 1 を得る。
段 2(2)。$-\arcsin x$ は $\bigl[-\frac\pi2,\frac\pi2\bigr]$ に入り、$\sin(-\arcsin x)=-x$ なので、$-\arcsin x=\arcsin(-x)$ である。$\arctan$ も同じである($\tan(-\theta)=\frac{-\sin\theta}{\cos\theta}=-\tan\theta$)。$\pi-\arccos x$ は $[0,\pi]$ に入り、$\cos(\pi-\arccos x)=-x$ なので、$\pi-\arccos x=\arccos(-x)$ である。
段 3(3)。$x>0$ とし、$\theta:=\arctan x$ とおく。$\tan$ は $\bigl(-\frac\pi2,\frac\pi2\bigr)$ で狭義単調増加で $\tan0=0< x$ なので、$0<\theta<\frac\pi2$ である。$\frac\pi2-\theta$ も $0$ と $\frac\pi2$ の間にあり
$$ \tan\Bigl(\frac\pi2-\theta\Bigr)=\frac{\sin(\frac\pi2-\theta)}{\cos(\frac\pi2-\theta)}=\frac{\cos\theta}{\sin\theta}=\frac1{\tan\theta}=\frac1x $$
なので、$\frac\pi2-\theta=\arctan\frac1x$ である。$x<0$ のときは、$-x>0$ にこの結果を使い、2 の $\arctan(-x)=-\arctan x$ で符号を戻す。
段 4(4)。$\theta:=\arcsin x$ は $\bigl[-\frac\pi2,\frac\pi2\bigr]$ に入るので、$P(\theta)$ は単位円の右半分(両端を含む)にあり、$\cos\theta\ge0$ である。$\cos^2\theta=1-\sin^2\theta=1-x^2$ なので、$\cos\theta=\sqrt{1-x^2}$ である。$\sin(\arccos x)$ も、$\arccos x\in[0,\pi]$ で $\sin\ge0$ となることから同じように示せる。$\square$

関係式を使う
  1. $\arcsin\frac35+\arccos\frac35=0.6435\ldots+0.9272\ldots=1.5707\ldots=\frac\pi2$ で、prop-itf-identities の 1 のとおりである。
  2. $\tan\bigl(\arcsin\frac35\bigr)$:4 から $\cos\bigl(\arcsin\frac35\bigr)=\sqrt{1-\frac9{25}}=\frac45$ なので、$\tan\bigl(\arcsin\frac35\bigr)=\frac{3/5}{4/5}=\frac34$ である。
  3. $\sin\bigl(\arccos\bigl(-\frac13\bigr)\bigr)=\sqrt{1-\frac19}=\frac{2\sqrt2}3$ である。
  4. $\arctan2+\arctan\frac12=\frac\pi2$(3)。$1.1071\ldots+0.4636\ldots=1.5707\ldots$ である。この関係は、対称性を用いた積分 で $x\mapsto\frac1x$ の置き換えと組み合わせて使われる。

すべての解を逆三角関数で書く

三角方程式と三角不等式 の一般解の定理を、逆三角関数で書き直す。

方程式のすべての解

$n$ は整数を表すとする。

  1. $-1\le k\le1$ のとき、$\sin y=k$ ⇔ $y=n\pi+(-1)^n\arcsin k$。
  2. $-1\le k\le1$ のとき、$\cos y=k$ ⇔ $y=\pm\arccos k+2n\pi$。
  3. 実数 $k$ について、$\tan y=k$ ⇔ $y=\arctan k+n\pi$。
一般解の定理の $\alpha$ に逆三角関数を入れる

方針:三角方程式と三角不等式 の定理「基本の三角方程式の一般解」は、$\sin\alpha=k$ となる $\alpha$ を 1 つ知っていれば、すべての解を与える。その $\alpha$ として逆三角関数の値を使う。
段 1(1)。$\alpha:=\arcsin k$ とすると $\sin\alpha=k$ なので、一般解の定理から $\sin y=k$ ⇔ $y=\alpha+2m\pi$ または $y=\pi-\alpha+2m\pi$($m$ は整数)である。前者は $n=2m$(偶数)で $n\pi+(-1)^n\alpha$、後者は $n=2m+1$(奇数)で $(2m+1)\pi-\alpha=n\pi+(-1)^n\alpha$ である。偶数と奇数を合わせると、すべての整数 $n$ になる。
段 2(2、3)。$\alpha:=\arccos k$、$\alpha:=\arctan k$ として、一般解の定理の 1、3 をそのまま使う($\cos(\arctan k)>0$ なので、正接の場合の条件 $\cos\alpha\ne0$ も満たされる)。$\square$

特別な角でない値の方程式

$\sin y=0.3$ の解は $y=n\pi+(-1)^n\arcsin0.3$ である。$\arcsin0.3=0.3046\ldots$ なので、$0\le y<2\pi$ では $n=0$ の $y=0.3046\ldots$ と $n=1$ の $y=\pi-0.3046\ldots=2.8369\ldots$ の 2 個である。$n=-2,-1,0,1,2$ の 5 つの値で $\sin y$ を計算すると、どれも $0.3$ になる。

逆正接の加法公式

正接の加法定理 $\tan(\alpha+\beta)=\frac{\tan\alpha+\tan\beta}{1-\tan\alpha\tan\beta}$(加法定理から積和・和積・合成・正接の公式を導く)を $\arctan$ で書くと、次の公式になる。値域の外に出た分を $\pi$ で補正する必要がある。

逆正接の加法公式

実数 $a,b$ が $ab\ne1$ を満たすとき、$c:=\dfrac{a+b}{1-ab}$ とおくと
$$ \arctan a+\arctan b=\begin{cases}\arctan c & (ab<1)\\ \arctan c+\pi & (ab>1,\ a>0)\\ \arctan c-\pi & (ab>1,\ a<0)\end{cases} $$
である。$ab=1$ のときは、prop-itf-identities の 3 により和は $\pm\frac\pi2$ である。

余弦の符号で $\pi$ のずれを決める

方針:$\theta:=\arctan a+\arctan b$ の正接が $c$ になることを示し、prop-itf-all-solutions の 3 で $\theta=\arctan c+k\pi$ と書く。整数 $k$ は、$\cos\theta$ の符号と $\theta$ の範囲から決める。
段 1(範囲と余弦)。$\alpha:=\arctan a$、$\beta:=\arctan b$ とおく。どちらも $\bigl(-\frac\pi2,\frac\pi2\bigr)$ に入るので、$\cos\alpha>0$、$\cos\beta>0$ であり、$\theta=\alpha+\beta$ は $-\pi<\theta<\pi$ を満たす。加法定理により
$$ \cos\theta=\cos\alpha\cos\beta-\sin\alpha\sin\beta=\cos\alpha\cos\beta\,(1-\tan\alpha\tan\beta)=\cos\alpha\cos\beta\,(1-ab) $$
である。
段 2(正接)。$ab\ne1$ なので $\cos\theta\ne0$ であり、正接の加法定理から $\tan\theta=\frac{a+b}{1-ab}=c$ である。prop-itf-all-solutions の 3 により、$\theta=\arctan c+k\pi$ となる整数 $k$ がある。$\arctan c$ は $\bigl(-\frac\pi2,\frac\pi2\bigr)$ に入るので、$k$ は「$\theta-k\pi$ が $\bigl(-\frac\pi2,\frac\pi2\bigr)$ に入る」ように決まる。
段 3($ab<1$)。段 1 から $\cos\theta>0$ である。$-\pi<\theta<\pi$ のうち $\frac\pi2\le\theta<\pi$ では、prop-itf-monotone の証明の前に挙げた 2 により $\cos\theta\le0$ である。$-\pi<\theta\le-\frac\pi2$ では、$\theta+2\pi$ が $\pi<\theta+2\pi\le\frac{3\pi}2$ を満たし、$\cos\theta=\cos(\theta+2\pi)\le0$ である(同じ 2 と、一般角と弧度法 の単位円上の点が一致する条件)。どちらも $\cos\theta>0$ に反するので、$\theta$ は $\bigl(-\frac\pi2,\frac\pi2\bigr)$ に入る。よって $k=0$ である。
段 4($ab>1$)。段 1 から $\cos\theta<0$ なので、$\theta$ は $\bigl(-\frac\pi2,\frac\pi2\bigr)$ に入らず(そこでは $\cos\theta>0$)、$\pm\frac\pi2$ でもない。したがって $\frac\pi2<\theta<\pi$ または $-\pi<\theta<-\frac\pi2$ である。$ab>1>0$ なので $a$ と $b$ は同符号である。$a>0$ なら $b>0$ である。$\tan\alpha=a>0=\tan0$ で、$\tan$ は $\bigl(-\frac\pi2,\frac\pi2\bigr)$ で狭義単調増加なので(prop-itf-monotone)、$\alpha\le0$ ではありえず $\alpha>0$ である。同じく $\beta>0$ で、よって $\theta>0$ で $\frac\pi2<\theta<\pi$ である。このとき $\theta-\pi$ が $\bigl(-\frac\pi2,0\bigr)$ に入るので $k=1$ である。$a<0$ なら同じように $-\pi<\theta<-\frac\pi2$ で、$k=-1$ である。$\square$

$\arctan 1+\arctan 2+\arctan 3=\pi$
  1. $\arctan2+\arctan3$:$ab=6>1$、$a=2>0$ なので、thm-itf-arctan-addition の 2 行目を使う。$c=\frac{2+3}{1-6}=-1$ なので $\arctan2+\arctan3=\arctan(-1)+\pi=-\frac\pi4+\pi=\frac{3\pi}4$ である。
  2. これに $\arctan1=\frac\pi4$ を足すと
    $$ \arctan1+\arctan2+\arctan3=\frac\pi4+\frac{3\pi}4=\pi $$
    である。数値でも $0.7853\ldots+1.1071\ldots+1.2490\ldots=3.1415\ldots$ である。
  3. $\arctan\frac12+\arctan\frac13$:$ab=\frac16<1$ なので 1 行目を使う。$c=\frac{5/6}{5/6}=1$ で、$\arctan\frac12+\arctan\frac13=\arctan1=\frac\pi4$ である。これは円周率の計算に使われる式の 1 つである(Machinの公式)。

2 の等式は、複素数の掛け算で見ると一目で分かる(rem-itf-gauss)。

逆三角関数の導関数

逆関数の微分公式

逆関数の導関数は、元の関数の導関数の逆数になる。高校の数学 III で学ぶこの公式を、ここでは次の形で使う。

逆関数の微分公式

$f$ を開区間 $I$ で微分可能な狭義単調関数とし、その値全体を $J$ とする。$x_0\in I$ で $f'(x_0)\ne0$ なら、逆関数 $f^{-1}$ は $y_0=f(x_0)$ で微分可能であり
$$ (f^{-1})'(y_0)=\frac1{f'(x_0)} $$
である。

この定理の証明について

$f^{-1}$ が微分できることを認めれば、$f(f^{-1}(y))=y$ の両辺を $y$ で微分して連鎖律(連鎖律(高校数学))を使うと $f'(x_0)\,(f^{-1})'(y_0)=1$ となり、公式が出る。微分できること自体の証明($f^{-1}$ の連続性を使う)は本記事では行わない。証明は Leb26 Lemma 4.4.1(p. 176)にあり、高校数学の範囲での扱いと、$f'(x_0)=0$ の点で成り立たない例は 逆関数の微分 で扱う。

主定理:3 つの導関数

逆三角関数の導関数
  1. $-1< x<1$ で $(\arcsin x)'=\dfrac1{\sqrt{1-x^2}}$。
  2. $-1< x<1$ で $(\arccos x)'=-\dfrac1{\sqrt{1-x^2}}$。
  3. すべての実数 $x$ で $(\arctan x)'=\dfrac1{1+x^2}$。
逆関数の微分公式と関係式

方針:thm-itf-inverse-derivative を、制限した $\sin$、$\tan$ に使う。導関数を $x$ の式に直すところで、prop-itf-identities の 4 と $1+\tan^2y=\frac1{\cos^2y}$ を使う。
段 1($\arcsin$)。$f(y)=\sin y$ を開区間 $-\frac\pi2< y<\frac\pi2$ で考える。prop-itf-monotone により狭義単調増加で、値全体は $-1< x<1$ である(端の値 $\pm1$ は端点 $y=\pm\frac\pi2$ でしかとらない)。$f'(y)=\cos y$ はこの範囲で正である。$-1< x<1$ に対し $y=\arcsin x$ とおくと、thm-itf-inverse-derivative により
$$ (\arcsin x)'=\frac1{\cos y}=\frac1{\cos(\arcsin x)}=\frac1{\sqrt{1-x^2}} $$
である。最後の等号は prop-itf-identities の 4 である。
段 2($\arccos$)。prop-itf-identities の 1 により $\arccos x=\frac\pi2-\arcsin x$ なので、段 1 から $(\arccos x)'=-\frac1{\sqrt{1-x^2}}$ である。
段 3($\arctan$)。$f(y)=\tan y$ を $-\frac\pi2< y<\frac\pi2$ で考える。商の微分により
$$ (\tan y)'=\Bigl(\frac{\sin y}{\cos y}\Bigr)'=\frac{\cos y\cdot\cos y-\sin y\cdot(-\sin y)}{\cos^2y}=\frac1{\cos^2y} $$
で、これは正である。また $\frac1{\cos^2y}=\frac{\cos^2y+\sin^2y}{\cos^2y}=1+\tan^2y$ である。$y=\arctan x$ とおくと $\tan y=x$ なので、thm-itf-inverse-derivative により
$$ (\arctan x)'=\frac1{1+\tan^2y}=\frac1{1+x^2} $$
である。$\square$

導関数を数で確かめる
  1. $x=\frac12$ で $(\arcsin x)'=\frac1{\sqrt{3/4}}=\frac2{\sqrt3}=1.154700\ldots$ である。差の商 $\frac{\arcsin(0.5+10^{-6})-\arcsin0.5}{10^{-6}}=1.154700\ldots$ と一致する。
  2. $x=1$ で $(\arctan x)'=\frac12$ である。差の商は $0.4999997\ldots$ である。
  3. $x=0$ で $(\arccos x)'=-1$ である。$\arccos$ のグラフ(図1 の中央)が右下がりであることと合う。
合成関数の微分と組み合わせる

$a>0$ とする。連鎖律により
$$ \Bigl(\frac1a\arctan\frac xa\Bigr)'=\frac1a\cdot\frac1{1+(x/a)^2}\cdot\frac1a=\frac1{a^2+x^2} $$
である。したがって $\frac1a\arctan\frac xa$ は $\frac1{x^2+a^2}$ の原始関数の 1 つである。同じように $\bigl(\arcsin\frac xa\bigr)'=\frac1a\cdot\frac1{\sqrt{1-(x/a)^2}}=\frac1{\sqrt{a^2-x^2}}$($-a< x< a$)である。前者は 有理関数の積分 で、後者は 根号を含む関数の積分 で使う公式である。

積分で表す

逆三角関数の積分表示

すべての実数 $x$ について $\displaystyle\arctan x=\int_0^x\frac{dt}{1+t^2}$ であり、$-1< x<1$ について $\displaystyle\arcsin x=\int_0^x\frac{dt}{\sqrt{1-t^2}}$ である。

導関数が等しく、0 での値が等しい

方針:両辺を $x$ の関数と見て、導関数と $x=0$ での値を比べる。
段 1(導関数)。微分積分学の基本定理 により、右辺の積分を $x$ で微分すると被積分関数の $t$ に $x$ を入れたものになる。thm-itf-derivative により、左辺の導関数も同じである。
段 2(差は定数)。左辺から右辺を引いた関数は、導関数がいつも $0$ なので定数である(導関数が区間で $0$ の関数は定数。平均値の定理から出る)。
段 3(定数は 0)。$x=0$ では、$\arctan0=0$、$\arcsin0=0$ で、右辺の積分も $0$ である。よって差は $0$ である。$\square$

積分の値

cor-itf-integral と ex-itf-chain から
$$ \int_0^1\frac{dx}{1+x^2}=\arctan1=\frac\pi4,\qquad\int_0^{\sqrt3}\frac{dx}{1+x^2}=\frac\pi3,\qquad\int_0^{1/2}\frac{dx}{\sqrt{1-x^2}}=\arcsin\frac12=\frac\pi6,\qquad\int_0^2\frac{dx}{x^2+4}=\frac12\arctan1=\frac\pi8 $$
である。1 つ目の式の被積分関数を等比数列の和で展開すると $\arctan$ の級数が得られ、円周率の計算になる。これは Machinの公式 で扱う。

例と反例

外した条件崩れる主張ボックス
$y$ が値域 $\bigl[-\frac\pi2,\frac\pi2\bigr]$ に入ること$\arcsin(\sin y)=y$ex-itf-outside-range
$x$ が区間の内部($-1< x<1$)にあること$\arcsin$ が微分できるex-itf-endpoint
$ab<1$$\arctan a+\arctan b=\arctan\frac{a+b}{1-ab}$ex-itf-addition-fails
記号 $\sin^{-1}$ が逆関数を表すこと$\sin^{-1}x=\frac1{\sin x}$ と読めるex-itf-not-reciprocal
反例:値域の外の角は戻らない

$y=\frac{3\pi}4$ では $\arcsin\bigl(\sin\frac{3\pi}4\bigr)=\arcsin\frac{\sqrt2}2=\frac\pi4\ne\frac{3\pi}4$ である(ex-itf-composition の 1)。関数電卓の $\sin^{-1}(\sin150^\circ)=30^\circ$(ex-itf-first-calculator)も同じ現象である。
満たす性質:$\sin(\arcsin k)=k$ はいつも成り立つ。満たさない性質:$\frac{3\pi}4$ が値域 $\bigl[-\frac\pi2,\frac\pi2\bigr]$ に入ること。破る主張:prop-itf-composition の 2「$\arcsin(\sin y)=y$」。正しい値は 3 の $\pi-y$ である。

反例:端点では微分できない

$x=1$ で $\arcsin$ の差の商 $\frac{\arcsin1-\arcsin(1-h)}{h}$($h>0$)を計算すると

$h$$0.01$$0.0001$$0.000001$
差の商$14.15\ldots$$141.42\ldots$$1414.21\ldots$

で、$h$ を小さくするといくらでも大きくなり、極限はない。値はおよそ $\sqrt{\frac2h}$ で増えている。グラフ(図1 の左)は点 $\bigl(1,\frac\pi2\bigr)$ で縦の接線をもつ。
満たす性質:$\arcsin$ は $x=1$ で定義され、連続である。満たさない性質:$x=1$ が区間の内部の点であること、すなわち $\sin$ の導関数 $\cos y$ が $y=\frac\pi2$ で $0$ でないこと。破る主張:thm-itf-derivative の 1(公式の分母 $\sqrt{1-x^2}$ が $0$ になる)。thm-itf-inverse-derivative の仮定 $f'(x_0)\ne0$ が外れた場合である。

反例:$ab>1$ で補正を忘れる

$a=2$、$b=3$ で補正なしの式を使うと $\arctan\frac{5}{-5}=\arctan(-1)=-\frac\pi4$ となる。しかし $\arctan2>0$、$\arctan3>0$ なので、和は正でなければならない。正しくは ex-itf-sum-pi のとおり $\frac{3\pi}4$ で、ちょうど $\pi$ ずれている。$a=-2$、$b=-3$ なら和は $-\frac{3\pi}4=\arctan(-1)-\pi$ である。
満たす性質:正接の値 $\tan(\arctan2+\arctan3)=-1$ は正しい。満たさない性質:$ab<1$。破る主張:補正のない加法公式。Machinの公式 の反例「角の範囲を確かめないと誤る」も同じ例である。

反例:$\sin^{-1}$ は $\frac{1}{\sin}$ ではない

$\sin^{-1}\frac12=\arcsin\frac12=\frac\pi6=0.5235\ldots$ であるが、$\frac1{\sin(1/2)}=2.0858\ldots$ で、まったく違う。$\sin^2x$ は $(\sin x)^2$ を表すので、同じ流儀で $\sin^{-1}x$ を $(\sin x)^{-1}$ と読みたくなるが、$\sin^{-1}$ は逆関数の記号である。定義される範囲も違い、$\arcsin x$ は $-1\le x\le1$ でだけ、$\frac1{\sin x}$ は $x\ne n\pi$ で定義される。
満たす性質:どちらも $\sin$ から作った関数である。満たさない性質:同じ関数であること。破る主張:「$\sin^{-1}x=\frac1{\sin x}$」。紛らわしさを避けるため、この記事では $\arcsin$ と書いた。

大学数学で見る

分枝と主値

$\sin$ を $\bigl[-\frac\pi2,\frac\pi2\bigr]$ 以外の単調な範囲に制限しても、逆関数が作れる。たとえば $\bigl[\frac\pi2,\frac{3\pi}2\bigr]$ では $\sin$ は狭義単調減少で、その逆関数は $x\mapsto\pi-\arcsin x$ である(prop-itf-composition の 3)。一般に $\bigl[n\pi-\frac\pi2,n\pi+\frac\pi2\bigr]$ に制限した逆関数は $x\mapsto n\pi+(-1)^n\arcsin x$ で、prop-itf-all-solutions の 1 は「$\sin y=k$ の解の全体は、これらすべての逆関数の値の集まり」と言っている。
このように、1 つの関数から範囲の選び方に応じて作られる逆関数の 1 つ 1 つを 分枝、標準的に選んだもの(ここでは $n=0$)を 主値 という。複素数の偏角や複素数の対数でも同じことが起こる。偏角は $2\pi$ の整数倍の違いを除いてしか決まらず(一般角と弧度法 の $\mathbb{R}/2\pi\mathbb{Z}$)、1 つの値を選ぶには範囲を決めて主値をとる。複素関数論では、分枝をつないだ全体を 1 つの対象(Riemann 面)として扱う。

偏角と Gauss 整数

$a>0$ のとき、複素数 $1+ai$ を表す点 $(1,a)$ は右半平面にあり、その偏角は $\arctan a$ である($\tan$ の値が $\frac a1=a$)。複素数の掛け算では偏角が足される(複素数の掛け算は回転と拡大)。
$$ (1+i)(1+2i)=-1+3i,\qquad(-1+3i)(1+3i)=-1-3i+3i+9i^2=-10 $$
なので、$\arctan1+\arctan2+\arctan3$ は $-10$ の偏角 $\pi$ と $2\pi$ の整数倍の違いを除いて等しい。3 つの角はそれぞれ $0$ と $\frac\pi2$ の間にあるので、和は $0$ と $\frac{3\pi}2$ の間にあり、$\pi$ に等しい(図3)。
複素数 1+i、1+2i、1+3i の偏角 arctan 1、arctan 2、arctan 3 を順に並べた図。積が −10 なので、3 つの角を合わせると半回転 π になることを見る図。扇形は 3 つの角を順に積み重ねたもので、矢印は各複素数そのものの向きを表す。 複素数 1+i、1+2i、1+3i の偏角 arctan 1、arctan 2、arctan 3 を順に並べた図。積が −10 なので、3 つの角を合わせると半回転 π になることを見る図。扇形は 3 つの角を順に積み重ねたもので、矢印は各複素数そのものの向きを表す。
$a+bi$($a,b$ は整数)の形の数を Gauss整数 という。$\arctan$ の間の関係式は、Gauss 整数の積の関係から作れる。Machinの公式 $\frac\pi4=4\arctan\frac15-\arctan\frac1{239}$ は $(5+i)^4(239-i)=114244(1+i)$ から出る。どのような関係式がありうるかは、Gauss 整数の素因数分解で調べられる(本記事では扱わない)。

級数と逆関数定理

cor-itf-integral の被積分関数 $\frac1{1+t^2}$ を $1-t^2+t^4-\cdots$ と展開して積分すると、$-1\le x\le1$ で
$$ \arctan x=x-\frac{x^3}3+\frac{x^5}5-\cdots $$
という冪級数(冪級数)が得られる。誤差の評価まで含めた証明は Machinの公式 にある。
変数が 2 つ以上のときも、写像の微分(ヤコビ行列)が可逆な点の近くでは逆写像があり、その微分は元の微分の逆行列になる。これが大学で学ぶ 逆関数定理 で、thm-itf-inverse-derivative はその 1 変数の場合である。

さらに先へ

  • $\sinh x=\frac{e^x-e^{-x}}2$ などの双曲線関数の逆関数は、$\operatorname{arsinh}x=\log\bigl(x+\sqrt{x^2+1}\bigr)$ のように対数で書ける。逆三角関数も、複素数まで広げると対数で書ける($\arctan x=\frac1{2i}\log\frac{1+ix}{1-ix}$ など)。双曲線関数の逆関数を使う積分は 根号を含む関数の積分 にある。
  • $\arcsin$ を積分 $\int_0^x\frac{dt}{\sqrt{1-t^2}}$ で先に定義し、その逆関数として $\sin$ を定義する方法がある。弧の長さを使わない三角関数の定義の 1 つで、三角関数はどう定義するか で扱う。

関連項目

参考文献

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