Goldstineの定理(Goldstine's theorem)とは、ノルム空間 $X$ の閉単位球を評価写像 $J\colon X\to X^{**}$ で二重双対へ移した像が、$X^{**}$ の閉単位球の中で弱スター位相について稠密であるという定理である。有限個の汎関数に単位球の点で指定した値を近似的にとらせる Helly の補題を、有限次元の点と凸集合の分離から示し、それを二重双対の元の値に当てはめて証明される。Banach 空間では $J(X)$ はノルム位相でも弱位相でも閉じているので、反射的でなければ弱スター位相でだけ稠密になる。単位球が弱コンパクトな空間は反射的であるという Kakutani の定理の一方の向きを支える。
ノルム空間 $X$ は、評価写像 $J\colon X\to X^{**}$、$J(x)(f)=f(x)$ によって二重双対 $X^{**}$ の中に等長に埋め込まれる(連続双対空間 の定理「評価写像は等長埋め込み」。等長性は Hahn–Banachの定理 による)。$J$ が全射のとき $X$ は反射的であるが、$c_0$ や $\ell^1$ のように反射的でない空間では、$J(X)$ は $X^{**}$ の真の部分空間になる。それでは $J(X)$ は $X^{**}$ の中でどのくらい「大きい」のか。
Goldstine の定理(Goldstine's theorem)はこれに答える。$X$ が Banach 空間なら、ノルムで測ると $J(X)$ は閉じた部分空間で、反射的でなければ稠密でない。ところが弱スター位相 $\sigma(X^{**},X^*)$ で見ると、$X$ の閉単位球の像 $J(B_X)$ は $X^{**}$ の閉単位球 $B_{X^{**}}$ の中で稠密である。$X^{**}$ のどの元も、有限個の汎関数で観測する限り $X$ の元と区別できない。この記事では、有限次元の分離だけを使う Helly の補題からこの定理を証明し、反射性の判定に応用する。
以下 $X$ は実ノルム空間、$B_X=\{x\in X:\|x\|\le1\}$ とし、$X^{**}=(X^*)^*$ には双対ノルムを入れる。$X^{**}$ の弱スター位相 $\sigma(X^{**},X^*)$ は、各 $f\in X^*$ での評価 $\xi\mapsto\xi(f)$ をすべて連続にする最も粗い位相で、$\xi_0$ の基本近傍は
$$
\{\xi\in X^{**}:|\xi(f_i)-\xi_0(f_i)|<\varepsilon\ (1\le i\le k)\}\qquad(f_1,\dots,f_k\in X^*,\ \varepsilon>0)
$$
である(弱スター位相 の定義「弱スター位相」を $X^*$ を前双対として使う)。複素ノルム空間の場合は最後に述べる。
有限個の汎関数 $f_1,\dots,f_k$ に、単位球の点で指定した値 $\gamma_1,\dots,\gamma_k$ をとらせることができるか、という問題を考える。
$f_1,\dots,f_k\in X^*$ と $\gamma=(\gamma_1,\dots,\gamma_k)\in\mathbb R^k$ について、次は同値である。
この補題は、Hellyの補題(関数解析) の定理「Hellyの補題」で $M=1$ とした場合の 1 と 3 の同値であり(この補題の 1 が定理の 1、2 が定理の 3 にあたる)、証明はそこにある(Bre11 Lemma 3.3、p. 68 の形)。1 ならば 2 は $\|x\|\le1$ からすぐ従い、2 ならば 1 は、$\Phi(x)=(f_1(x),\dots,f_k(x))$ で $X$ を $\mathbb R^k$ に写し、有限次元での点と閉凸集合の分離に帰着させて示す。無限次元の問題($X$ の点を探す)を有限次元の像に落として解くのが要点である。
1 の「$\varepsilon>0$ ごとに近い点がある」を「値をちょうど $\gamma$ にする点がある」に強めることはできない。ex-goldstine-helly-exact で反例を示す。
$X$ を実ノルム空間とする。
この定理と証明の筋は Bre11 Lemma 3.4(p. 69)にある。閉包をネットで書き直すと(ネット の命題「閉包のネットによる特徴づけ」)、次の形になる。
任意の $\xi\in X^{**}$ に対し、$X$ のネット $(x_\alpha)$ で、すべての $\alpha$ について $\|x_\alpha\|\le\|\xi\|$、すべての $f\in X^*$ について $f(x_\alpha)\to\xi(f)$ を満たすものがある。
$\xi=0$ なら $x_\alpha=0$ とすればよい。$\xi\ne0$ なら $r=\|\xi\|$ とおくと、thm-goldstine の証明の 2 のとおり $\xi$ は $J(rB_X)$ の弱スター閉包に属する。閉包の点にはその集合の点からなるネットが収束するので、$J(x_\alpha)\to\xi$(弱スター)となる $x_\alpha\in rB_X$ がある。弱スター収束は各 $f\in X^*$ での値の収束と同じなので(弱スター位相 の命題「収束の判定」)、$f(x_\alpha)=J(x_\alpha)(f)\to\xi(f)$ である。
ここでは点列ではなくネットを使う。一般の位相空間では、閉包の点に収束する点列が取れるとは限らず、閉包はネットで特徴づけられるからである(弱スター位相 の節「可分な場合と列・ネットの違い」)。点列とネットの違いは Banach–Alaogluの定理 の節「何が収束するのか」でも現れる。次の $c_0$ の例では、点列で近似できる。
$c_0$ を $0$ に収束する実数列の空間(上限ノルム)とする(c0空間)。その連続双対は $\ell^1$ と等長に同一視される($a\in\ell^1$ は $x\mapsto\sum_na_nx_n$ を定める。弱スター位相 の節「列で見える差:$c_0$ と $\ell^1$」)。
有界な実数列 $\xi=(\xi_n)$、$\|\xi\|_\infty\le1$ を取り、$X^{**}=(c_0)^{**}$ の元 $\Xi$ を
$$
\Xi(a)=\sum_{n=1}^\infty a_n\xi_n\qquad(a\in\ell^1\cong c_0^*)
$$
で定める。$|\Xi(a)|\le\|a\|_1\|\xi\|_\infty$ なので $\|\Xi\|\le1$ である。$x^{(N)}=(\xi_1,\dots,\xi_N,0,0,\dots)\in B_{c_0}$ とおくと、各 $a\in\ell^1$ について
$$
\bigl|J(x^{(N)})(a)-\Xi(a)\bigr|=\Bigl|\sum_{n>N}a_n\xi_n\Bigr|\le\sum_{n>N}|a_n|\to0
$$
である。したがって点列 $J(x^{(N)})$ が $\Xi$ に弱スター収束し、thm-goldstine の 1 の近似が具体的に実現される。
一方 $\xi=(1,1,1,\dots)$ のとき、$\Xi$ は $J(c_0)$ に属さず、ノルムでは $J(c_0)$ から距離 $1$ 以上離れている。実際、$x\in c_0$ と第 $n$ 標準基底 $u_n\in\ell^1$($\|u_n\|_1=1$)について $\|\Xi-J(x)\|\ge|\Xi(u_n)-u_n(x)|=|1-x_n|\to1$ である。とくに $c_0$ は反射的でない。
$X$ が Banach 空間なら、$J(B_X)$ は $X^{**}$ のノルム位相で閉じており、$J(X)$ はノルムで閉じた部分空間である。したがって $J(B_X)$ が $B_{X^{**}}$ でノルム稠密になるのは $X$ が反射的なときに限る。さらに $J(X)$ は $X^{**}$ の弱位相 $\sigma(X^{**},X^{***})$ でも閉じている。
$J(x_n)\to\xi$(ノルム)とする。$J$ は等長なので $\|x_n-x_m\|=\|J(x_n)-J(x_m)\|$ であり、$(x_n)$ は Cauchy 列である。$X$ は完備なので $x_n\to x$ となり、$\|J(x_n)-J(x)\|=\|x_n-x\|\to0$ から $\xi=J(x)$ である。$x_n\in B_X$ なら $x\in B_X$ だから、$J(B_X)$ と $J(X)$ はノルムで閉じている。
$J(B_X)$ がノルム稠密なら、閉じていることから $J(B_X)=B_{X^{**}}$ となり、$X^{**}$ の各元はその定数倍として $J(X)$ に属するので $J$ は全射である。
最後に、$J(X)$ はノルムで閉じた部分空間で凸集合だから、Mazurの補題 の定理「凸集合の強閉と弱閉」をノルム空間 $X^{**}$ に使えば、$X^{**}$ の弱位相で閉じている。
したがって反射的でない Banach 空間では、$J(X)$ は $X^{**}$ のノルム位相でも弱位相でも稠密でなく、弱スター位相でだけ稠密になる。三つの位相のうち最も粗い弱スター位相で初めて $J(X)$ が全体に広がる。
$X$ をノルム空間とする。$B_X$ が弱位相 $\sigma(X,X^*)$ でコンパクトなら、$J(B_X)=B_{X^{**}}$ であり、$X$ は反射的である。
$J$ は $X$ の弱位相から $X^{**}$ の弱スター位相への写像として連続である。実際、弱収束するネット $x_\alpha\rightharpoonup x$ について、各 $f\in X^*$ で $J(x_\alpha)(f)=f(x_\alpha)\to f(x)=J(x)(f)$ となるからである。コンパクト集合の連続像はコンパクトなので、$J(B_X)$ は弱スター位相でコンパクトである。弱スター位相は Hausdorff なので(弱スター位相 の節「点ごとの情報を位相にする」)、コンパクト集合 $J(B_X)$ は弱スター閉である。thm-goldstine の 1 により、その閉包は $B_{X^{**}}$ だから $J(B_X)=B_{X^{**}}$ となり、$J$ は全射である。
逆に $X$ が反射的な Banach 空間なら、$B_{X^{**}}$ は Banach–Alaogluの定理 により弱スター位相でコンパクトで、$J^{-1}$ を通して $B_X$ は弱コンパクトになる。Banach 空間についてのこの同値は 反射的Banach空間 の定理「角谷の定理」である(Bre11 Theorem 3.17、p. 67)。角谷の定理は Banach 空間で述べられているが、cor-goldstine-kakutani は完備性を仮定しないノルム空間で成り立つ(その場合も結論の反射性から $X$ は完備になる)。Goldstine の定理は、その難しい側の向きを支える。
lem-goldstine-helly と thm-goldstine の仮定を一つずつ外すと、結論が崩れる。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| 弱スター位相(ノルム位相に替える) | $X=c_0$、$\xi=(1,1,\dots)$ | $J(B_X)$ の稠密性(距離 $1$、ex-goldstine-c0) |
| 弱スター位相(弱位相 $\sigma(X^{**},X^{***})$ に替える) | 反射的でない Banach 空間 $c_0$ | $J(X)$ の稠密性(弱閉な真部分空間、prop-goldstine-norm-closed) |
| 単位球(半径 $r<1$ の球に替える) | $X\ne\{0\}$ | 閉包が $B_{X^{**}}$ になること(閉包は $rB_{X^{**}}$) |
| Helly の補題の誤差 $\varepsilon>0$($\varepsilon=0$ に替える) | $c_0$ と $f(x)=\sum_n2^{-n}x_n$、$\gamma=1$ | 値をちょうどとる点の存在(ex-goldstine-helly-exact) |
3 行目は、thm-goldstine の証明の 2 のとおり $J(rB_X)$ の弱スター閉包が $rB_{X^{**}}$ であり、$X\ne\{0\}$ なら $\|\xi\|=1$ の元は $rB_{X^{**}}$ に入らないことによる($\|x\|=1$ となる $x$ について、評価写像の等長性から $\xi=J(x)$ はノルム $1$ である)。
$X=c_0$、$k=1$、$f(x)=\sum_{n\ge1}2^{-n}x_n$ とする。$|f(x)|\le\|x\|_\infty$ で、$x=(1,\dots,1,0,\dots)$($1$ が $N$ 個)について $f(x)=1-2^{-N}$ だから $\|f\|=1$ である。$\gamma=1$ とすると $|\beta\gamma|=|\beta|=\|\beta f\|$ なので lem-goldstine-helly の 2 が成り立ち、1 のとおり $f(x)$ をいくらでも $1$ に近くできる。しかし $x\in B_{c_0}$ で $f(x)=1$ となるものはない。$\sum_n2^{-n}(1-x_n)=0$ と $1-x_n\ge0$ から全ての $n$ で $x_n=1$ となり、$x\in c_0$ に反するからである。破られたのは「誤差 $\varepsilon>0$ を許す」ことで、補題の 1 が言えるのは $\gamma$ が $\Phi(B_X)$ の $\mathbb R^k$ での閉包に属することまでで、$\Phi(B_X)$ 自身に属するとは限らない、という点にあたる。
複素ノルム空間 $X$ でも thm-goldstine は成り立つ。スカラーを実数に制限した実ノルム空間を $X_{\mathbb R}$ とすると、$f\mapsto\operatorname{Re}f$ は $X^*$ から $(X_{\mathbb R})^*$ への実線形な等長全単射である(弱位相(関数解析) の命題「実部による対応」)。その逆を $g\mapsto g_{\mathbb C}$ と書く。
$\xi\in B_{X^{**}}$ に対し、$\eta(g)=\operatorname{Re}\xi(g_{\mathbb C})$ とおくと $\eta\in(X_{\mathbb R})^{**}$、$\|\eta\|\le1$ である。実の場合の cor-goldstine-net により、$B_X$ のネット $(x_\alpha)$ で、すべての $g\in(X_{\mathbb R})^*$ について $g(x_\alpha)\to\eta(g)$ となるものがある。$f\in X^*$ について $g=\operatorname{Re}f$ を使うと $\operatorname{Re}f(x_\alpha)\to\operatorname{Re}\xi(f)$、$g=\operatorname{Re}(if)$ を使うと $\operatorname{Im}f(x_\alpha)\to\operatorname{Im}\xi(f)$ が得られる。よって $f(x_\alpha)\to\xi(f)$ であり、$J(B_X)$ は $B_{X^{**}}$ で弱スター稠密である。
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