有限個の付値環の交わり

同義語:付値環の交わりintersection of finitely many valuation rings

概要

有限個の付値環の交わり(intersection of finitely many valuation rings)とは、体 $K$ の付値環 $R_1,\dots,R_n$ で互いに含み合わないものの共通部分 $A=R_1\cap\cdots\cap R_n$ のことである。$A$ は半局所環で、その極大イデアルは各 $R_i$ の極大イデアルと $A$ の共通部分 $\mathfrak{p}_i$ にちょうど一致し、局所化 $A_{\mathfrak{p}_i}$ は $R_i$ に戻る。各 $R_i$ が離散付値環なら $A$ は単項イデアル整域であり、有理数体の有限個の素数での局所化の交わりがその典型例である。付値環が無限個なら半局所性が、離散でない付値環を許すと単項性が成り立たないことがある。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 付値環, 離散付値環, 局所化, 半局所環, 素イデアル回避補題

有理数体 $\mathbb Q$ の中で、素数 $p$ での局所化 $\mathbb Z_{(p)}$(分母が $p$ で割り切れない分数の全体)は付値環である。素数 $p_1,\dots,p_n$ について交わり $\mathbb Z_{(p_1)}\cap\cdots\cap\mathbb Z_{(p_n)}$ をとると、分母がどの $p_i$ でも割り切れない分数の全体となり、極大イデアルがちょうど $n$ 個の単項イデアル整域になる。一方、全ての素数にわたる交わりは $\mathbb Z$ で、極大イデアルは無限個ある。
この記事では、体 $K$ の 有限個の付値環の交わり について、一般に次が成り立つことを証明する(Mat89 Theorem 12.2)。互いに含み合わない付値環 $R_1,\dots,R_n$ の交わり $A$ は 半局所環 で、その極大イデアルは各 $R_i$ の極大イデアルを $A$ に制限したものにちょうど一致し、そこでの局所化は $R_i$ に戻る。さらに各 $R_i$ が 離散付値環 なら、$A$ は単項イデアル整域である。

設定と記号

この記事では、環は単位元をもつ可換環とする。体 $K$ の部分環 $R$ が $K$ の 付値環 であるとは、$0$ でない $x\in K$ について $x\in R$ または $x^{-1}\in R$ が成り立つことをいう(付値環 の定義「付値環」)。付値環は局所環であり、その極大イデアルは非単元の全体である(同記事の命題「付値環の局所性」)。$K$ 自身も $K$ の付値環(自明な付値環)である。

有限個の付値環の交わり

体 $K$ の付値環 $R_1,\dots,R_n$($n\ge1$)で、$i\neq j$ なら $R_i\not\subset R_j$ となるものを考える。$\mathfrak m_i$ を $R_i$ の極大イデアルとし、
$$ A:=R_1\cap\cdots\cap R_n,\qquad \mathfrak p_i:=\mathfrak m_i\cap A\quad(i=1,\dots,n) $$
とおく。$A$ を $R_1,\dots,R_n$ の交わりという。

$A$ は $K$ の部分環で整域であり、$\mathfrak p_i$ は素イデアル $\mathfrak m_i$ の包含 $A\subset R_i$ による引き戻しなので $A$ の素イデアルである($1\notin\mathfrak m_i$ なので真のイデアル)。以下、この記号を断りなく使う。

主定理

証明の要は、永田雅宜(Masayoshi Nagata)による次の補題である。付値の離散性は使わない。

永田の補題

$a\in K$ とする。ある整数 $s\ge2$ について、$q:=1+a+a^2+\cdots+a^{s-1}$ は $0$ でなく、$q^{-1}$ と $aq^{-1}$ はともに $A$ に入る。さらに、$a\in R_i$ となる $i$ については、$q$ は $R_i$ の単元である。

各 $i$ について、$s$ が満たすべき条件を調べる。
$a\notin R_i$ の場合。付値環の定義から $a^{-1}\in R_i$ で、$a^{-1}$ は単元でない(単元なら $a\in R_i$)ので $a^{-1}\in\mathfrak m_i$ である。
$$ q=a^{s-1}\bigl(1+a^{-1}+\cdots+a^{-(s-1)}\bigr)=a^{s-1}u $$
と書くと、$u\equiv1\pmod{\mathfrak m_i}$ なので $u$ は $R_i$ の単元である。従って $q\neq0$ で、$s\ge2$ なら $q^{-1}=(a^{-1})^{s-1}u^{-1}$ と $aq^{-1}=(a^{-1})^{s-2}u^{-1}$ は $R_i$ に入る。この場合、$s\ge2$ に条件はない。
$a\in R_i$ の場合。$\alpha$ を $a$ の剰余体 $k_i:=R_i/\mathfrak m_i$ での像とする。$q$ の像 $\bar q=1+\alpha+\cdots+\alpha^{s-1}$ が $0$ でなければ、$q$ は $R_i$ の単元で(局所環では極大イデアルの外の元は単元)、$q^{-1}$、$aq^{-1}$ は $R_i$ に入る。$\bar q=0$ となる $s$ を調べる。

  • $\alpha=1$ なら $\bar q=s\cdot1$ で、これが $0$ になるのは $k_i$ の標数が素数 $p$ で $p\mid s$ のときに限る。
  • $\alpha\neq1$ なら $(1-\alpha)\bar q=1-\alpha^s$ なので、$\bar q=0$ と $\alpha^s=1$ は同値である。$\alpha^s=1$ となる $s\ge1$ がなければ($\alpha=0$ の場合を含む)条件はない。あれば、そのような最小の $d$ は $d>1$ で($\alpha\neq1$)、$\alpha^s=1$ と $d\mid s$ は同値である。
    いずれの場合も、$R_i$ で避けるべき $s$ は「ある整数 $d_i>1$ の倍数」であるか、存在しないかである。条件のある $i$ についての $d_i$ の積を $D$(条件がなければ $D=1$)とし、$s:=D+1$ とおくと、$s\ge2$ で、$s$ はどの $d_i$ の倍数でもない($s\equiv1\pmod{d_i}$)。この $s$ について、全ての $i$ で $q\neq0$ かつ $q^{-1},aq^{-1}\in R_i$ なので、$q^{-1},aq^{-1}\in A$ である。$a\in R_i$ なら、選び方から $\bar q\neq0$ で $q$ は $R_i$ の単元である。$\square$
有限個の付値環の交わりの構造

定義の記号で、次が成り立つ。

  1. 各 $i$ について $A_{\mathfrak p_i}=R_i$($K$ の部分環として)である。特に $K$ は $A$ の商体である。
  2. $\mathfrak p_1,\dots,\mathfrak p_n$ は互いに含み合わない。
  3. $A$ の極大イデアルは $\mathfrak p_1,\dots,\mathfrak p_n$ でちょうど尽くされる。特に $A$ は半局所環である。

1:$s\in A\setminus\mathfrak p_i$ は $\mathfrak m_i$ に入らないので $R_i$ の単元であり、$A_{\mathfrak p_i}\subset R_i$ である。逆に $a\in R_i$ をとり、lem-fivr-nagata の $q$ について $u:=q^{-1}$ とおくと、$u\in A$、$au\in A$ で、$q$ は $R_i$ の単元なので $u\notin\mathfrak m_i$、すなわち $u\in A\setminus\mathfrak p_i$ である。従って $a=(au)/u\in A_{\mathfrak p_i}$ である。$R_i$ の商体は $K$ なので($0$ でない $x\in K$ は $x$ か $1/x^{-1}$ の形に書ける)、$A$ の商体も $K$ である。
2:$i\neq j$ で $\mathfrak p_i\subset\mathfrak p_j$ なら $A\setminus\mathfrak p_j\subset A\setminus\mathfrak p_i$ なので $A_{\mathfrak p_j}\subset A_{\mathfrak p_i}$、すなわち 1 から $R_j\subset R_i$ となり、仮定に反する。
3:$J$ を、どの $\mathfrak p_i$ にも含まれない $A$ のイデアルとする。素イデアル回避補題 により、どの $\mathfrak p_i$ にも入らない $x\in J$ がある。$x\in A\subset R_i$ で $x\notin\mathfrak m_i$ なので $x$ は全ての $R_i$ の単元であり、$x^{-1}\in A$ である。従って $J=A$ である。
これより、$A$ の真のイデアルはいずれかの $\mathfrak p_i$ に含まれる。極大イデアル $\mathfrak n$ がある $\mathfrak p_i$ に含まれれば、極大性から $\mathfrak n=\mathfrak p_i$ である。逆に $\mathfrak p_i$ を含む極大イデアルは今示したことからある $\mathfrak p_j$ に等しく、$\mathfrak p_i\subset\mathfrak p_j$ と 2 から $j=i$ となるので、$\mathfrak p_i$ は極大イデアルである。$\square$

1 は「$A$ は $R_i$ たちを、$R_i$ の $A$ 上の中心 $\mathfrak p_i$ での局所化として復元できる」ことを表している(付値環の中心)。極大イデアルの数は $n$ で、交わりに使った付値環の数と一致する。

離散付値環の場合

各 $R_i$ が離散付値環のとき、その正規化された付値を $v_i\colon K^{\times}\to\mathbb Z$ とする($R_i=\{x\mid v_i(x)\ge0\}\cup\{0\}$、$v_i(\pi_i)=1$ となる一意化元 $\pi_i$ がある)。離散付値環の $0$ でないイデアルは $\pi_i^eR_i$($e\ge0$)の形である(離散付値環)。

離散付値環の交わりは単項イデアル整域

各 $R_i$ が離散付値環なら、$A$ は単項イデアル整域である。より詳しく、$0$ でないイデアル $I$ について $IR_i=\pi_i^{e_i}R_i$ と書くと、$v_i(g)=e_i$(全ての $i$)となる $g\in A$ があり、$I=gA$ である。

段 1(各 $i$ に「$i$ でだけ値 $1$ をもつ元」がある)。thm-fivr-structure の 1 から $R_i=A_{\mathfrak p_i}$ なので、$\pi_i=b/t$($b\in A$、$t\in A\setminus\mathfrak p_i$)と書け、$v_i(t)=0$ から $v_i(b)=1$ である。$\mathfrak q_i:=\{y\in A\mid v_i(y)\ge2\}\cup\{0\}=\mathfrak m_i^2\cap A$ は $A$ のイデアルである。$j\neq i$ について $\mathfrak q_i+\mathfrak p_j=A$ である。実際、thm-fivr-structure の 2 から $c\in\mathfrak p_i\setminus\mathfrak p_j$ があり、$c^2\in\mathfrak q_i$ で、$\mathfrak p_j$ は素イデアルなので $c^2\notin\mathfrak p_j$ である。$\mathfrak p_j$ は極大イデアルなので $\mathfrak q_i+\mathfrak p_j=A$ となる。そこで $j\neq i$ ごとに $e_j+f_j=1$($e_j\in\mathfrak q_i$、$f_j\in\mathfrak p_j$)と書き、$f:=\prod_{j\neq i}f_j$、$x_i:=bf+(1-f)$ とおく。$f\equiv1\pmod{\mathfrak q_i}$ なので $x_i\equiv b\pmod{\mathfrak q_i}$、すなわち $v_i(x_i-b)\ge2$ で、$v_i(b)=1$ から $v_i(x_i)=1$ である。また $f\in\mathfrak p_j$ なので $x_i\equiv1\pmod{\mathfrak p_j}$ で、$x_i\notin\mathfrak p_j$、すなわち $v_j(x_i)=0$ である($n=1$ なら $f=1$、$x_i=b$)。
段 2($g$ の構成)。$I\neq0$ とし、$IR_i=\pi_i^{e_i}R_i$ とする。$g:=x_1^{e_1}\cdots x_n^{e_n}\in A$ とおくと、段 1 から $v_i(g)=e_i$ である。
段 3($I\subset gA$)。$y\in I$、$y\neq0$ なら $y\in IR_i$ なので $v_i(y)\ge e_i$、従って全ての $i$ で $v_i(y/g)\ge0$、すなわち $y/g\in\bigcap_iR_i=A$ で、$y\in gA$ である。
段 4($g\in I$)。各 $i$ で $v_i(g)=e_i$ なので $g\in\pi_i^{e_i}R_i=IR_i=IA_{\mathfrak p_i}$ である。従って $g=y_i/t_i$($y_i\in I$、$t_i\in A\setminus\mathfrak p_i$)と書け、$t_ig=y_i\in I$ となる。イデアル $(I:g)=\{a\in A\mid ag\in I\}$ は $t_i$ を含むので、どの $\mathfrak p_i$ にも含まれない。thm-fivr-structure の 3 より $A$ の極大イデアルは $\mathfrak p_1,\dots,\mathfrak p_n$ だけなので、$(I:g)=A$、すなわち $g\in I$ である。
以上から $I=gA$ で、$A$ は単項イデアル整域である。$\square$

段 1 の元 $x_i$ を使うと、各 $\mathfrak p_i=x_iA$ であり、$0$ でない $a\in A$ は $a=u\,x_1^{v_1(a)}\cdots x_n^{v_n(a)}$($u$ は単元)と一意に分解する。$A$ は素イデアルが $0$ と $\mathfrak p_1,\dots,\mathfrak p_n$ だけの Dedekind 整域である。

例

有理数体の有限個の素数での局所化

相異なる素数 $p_1,\dots,p_n$ について $R_i=\mathbb Z_{(p_i)}$ は $\mathbb Q$ の離散付値環で($p_i$ 進付値)、互いに含み合わない($1/p_j\in R_i\setminus R_j$)。既約分数 $a/b$ が全ての $R_i$ に入ることは $b$ がどの $p_i$ でも割り切れないことと同値なので、
$$ A=\bigcap_{i=1}^n\mathbb Z_{(p_i)}=S^{-1}\mathbb Z,\qquad S=\{b\in\mathbb Z\mid b\text{ はどの }p_i\text{ でも割り切れない}\} $$
である。主定理から $A$ の極大イデアルは $p_iA$($i=1,\dots,n$)で、$A$ は単項イデアル整域、$A_{p_iA}=\mathbb Z_{(p_i)}$ である。段 1 の元として $x_i=p_i$ がとれる。

射影直線の 2 点で正則な有理関数

$k$ を体、$K=k(t)$ とし、$R_1=k[t]_{(t)}$($t=0$ で極をもたない有理関数)、$R_2=k[t^{-1}]_{(t^{-1})}$($t=\infty$ で極をもたない有理関数)とする。どちらも $K$ の離散付値環で、$t\in R_1\setminus R_2$、$t^{-1}\in R_2\setminus R_1$ なので互いに含み合わない。交わり $A$ は、既約な表示 $P/Q$($P,Q\in k[t]$)で $Q(0)\neq0$ かつ $\deg P\le\deg Q$ を満たす有理関数の全体である。主定理から $A$ は極大イデアルがちょうど 2 つの単項イデアル整域で、段 1 の元として $x_1=t/(t+1)$($t=0$ で 1 位の零点、$\infty$ で値 $1$)、$x_2=1/(t+1)$($\infty$ で 1 位の零点、$0$ で値 $1$)がとれる。

反例

各行は 1 つの仮定だけを外している。

外す条件反例成り立たなくなること
付値環の個数が有限全ての素数 $p$ にわたる $\bigcap_p\mathbb Z_{(p)}=\mathbb Z$交わりが半局所環であること
互いに含み合わない$R_1=\mathbb Z_{(p)}\subset R_2=\mathbb Q$各 $\mathfrak p_i$ が極大イデアルで、極大イデアルの個数が $n$ であること
各 $R_i$ が離散付値環(一般の付値環に弱める)付値環 の例「値群が有理数の付値環」の $R=\bigcup_mk[\![t^{1/m}]\!]$($n=1$)交わりが単項イデアル整域であること
反例の確かめ

表の 3 行は、それぞれ次のように確かめられる。

詳細

1. 既約分数 $a/b$ で $b\neq\pm1$ なら $b$ の素因数 $p$ について $a/b\notin\mathbb Z_{(p)}$ なので、交わりは $\mathbb Z$ である。各 $\mathbb Z_{(p)}$ は離散付値環で互いに含み合わないが、$\mathbb Z$ の極大イデアル $p\mathbb Z$ は無限個あり、$\mathbb Z$ は半局所環でない。外したのは個数の有限性だけである。

2. $\mathbb Q$ 自身は $\mathbb Q$ の(自明な)付値環で、$A=\mathbb Z_{(p)}\cap\mathbb Q=\mathbb Z_{(p)}$ である。$R_2=\mathbb Q$ の極大イデアルは $0$ なので $\mathfrak p_2=0$ となり、これは $A$ の極大イデアルではない。$A$ の極大イデアルは $p\mathbb Z_{(p)}$ の 1 つだけで、$n=2$ と一致しない。

3. $R$ は値群が $\mathbb Q$ の付値環で、極大イデアル $\mathfrak m=\{v>0\}$ は単項イデアルでない($\mathfrak m=(g)$ なら $v(g)>0$ で、$t^{v(g)/2}\in\mathfrak m$ が $g$ の倍数にならない)。$n=1$ では「互いに含み合わない」は自動的に満たされ、thm-fivr-structure は成り立つ($A=R$ は局所環)が、単項イデアル整域という結論は成り立たない。

補足

Krull 整域との関係

離散付値環の族 $\{R_\lambda\}$ の交わりで、$0$ でない各元が有限個の $R_\lambda$ を除いて単元になるものを Krull整域 という。有限個の離散付値環の交わりはその最も簡単な場合で、上の定理によって単項イデアル整域になる。無限個の場合は、$\mathbb Z$ や多項式環のように Krull 整域であっても半局所環とは限らない。

文献

永田の補題と主定理は Mat89 §12 の Lemma 1(Nagata, pp. 86–87)と Theorem 12.2(p. 87)にある。単項イデアル整域になる部分の証明は、原典の筋(局所化での単項性から大域の単項性を戻す)に沿いつつ、段 1 の元を明示的に作った。

関連項目

参考文献

[1]
Hideyuki Matsumura, Commutative Ring Theory, Cambridge University Press, 1989, §12(Lemma 1(Nagata), pp. 86–87、Theorem 12.2, p. 87)

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