Heron–Rota–Welsh予想

同義語:Heron–Rota–Welsh conjectureAdiprasito–Huh–Katzの定理Adiprasito–Huh–Katz theoremマトロイドの特性多項式characteristic polynomial of a matroidWhitney数Mason–Welsh予想

概要

Heron–Rota–Welsh予想(Heron–Rota–Welsh conjecture)とは、任意のマトロイドの特性多項式 $\chi_M(\lambda)=\sum_{A\subset E}(-1)^{|A|}\lambda^{r(E)-r(A)}$ の係数の絶対値の列(第一種 Whitney 数)が対数凹である、という予想である。グラフの彩色多項式は $q^{c(G)}\chi_{M(G)}(q)$ に等しいので、彩色多項式の係数についての Read と Hoggar の予想を含む。Adiprasito–Huh–Katz はマトロイドの Chow 環が Hard Lefschetz 定理と Hodge–Riemann の関係をみたすことを示し、この予想と独立集合の個数の対数凹性を証明した。一方、フラットの個数(第二種 Whitney 数)は対数凹でも単峰でもない例がある。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: マトロイド, 対数凹性, グラフ, 彩色数

Heron–Rota–Welsh予想(Heron–Rota–Welsh conjecture)とは、任意のマトロイド $M$ の特性多項式
$$ \chi_M(\lambda)=w_0\lambda^r-w_1\lambda^{r-1}+w_2\lambda^{r-2}-\dots+(-1)^rw_r $$
の係数の絶対値の列 $w_0,w_1,\dots,w_r$ が対数凹、すなわち $w_k^2\ge w_{k-1}w_{k+1}$ をみたす、という予想である。グラフの彩色多項式の係数についての Read(単峰性)と Hoggar(対数凹性)の予想を、Rota と Heron が単峰性の形で任意のマトロイドに広げ、Welsh が対数凹性の形で述べた(AHK18 §1、p. 2)。
この予想は 2015 年に Adiprasito–Huh–Katz によって証明された(Adiprasito–Huh–Katz の定理)。彼らはマトロイドから「Chow 環」と呼ぶ次数付き環を作り、それが射影多様体のコホモロジーと同じ Hard Lefschetz 定理と Hodge–Riemann の関係をみたすことを組合せ論的に証明して、そこから対数凹性を導いた。
この記事では、特性多項式を定義してその基本性質(削除縮約の関係式)と、グラフの彩色多項式との関係 $P_G(q)=q^{c(G)}\chi_{M(G)}(q)$ を完全に証明し、例を計算する。Adiprasito–Huh–Katz の定理の本体(Hodge 理論の部分)は証明しないが、そこから対数凹性を導く線形代数と、畳み込みによる最後の段は証明する。最後に、似た形の予想であるフラットの個数の対数凹性・単峰性には反例があることを述べる。

特性多項式

以下、$M$ を有限集合 $E$ 上のマトロイド、$r(\cdot)$ をその階数関数、$r:=r(E)$ を $M$ の階数とする(マトロイド)。

マトロイドの特性多項式

$$ \chi_M(\lambda):=\sum_{A\subset E}(-1)^{|A|}\lambda^{\,r-r(A)} $$
を $M$ の 特性多項式 という。$\lambda^{r-k}$ の係数の絶対値を $w_k(M)$ と書き、第一種 Whitney 数 という。

この定義は Rota による(AHK18 §1、p. 1)。フラットの束の Möbius 関数 $\mu$ を使って $\chi_M(\lambda)=\sum_F\mu(\emptyset,F)\lambda^{r-r(F)}$(和はフラット全体)とも書けるが、この記事ではこの形は使わない。
マトロイドの 削除 と 縮約 を次のように定める。$e\in E$ について、$M\setminus e$ は $E-e$ 上のマトロイドで、独立集合は $M$ の独立集合のうち $e$ を含まないもの、階数関数は $r$ の制限である。$e$ がループでないとき、$M/e$ は $E-e$ 上のマトロイドで、階数関数を $r_{M/e}(A):=r(A+e)-1$ と定める。これが マトロイド の階数の公理(R1)〜(R3)をみたすことは、$1=r(\{e\})\le r(A+e)\le r(A)+1$ と、(R2)(R3)を $A+e$、$B+e$ に当てることから分かる($(A+e)\cup(B+e)=(A\cup B)+e$、$(A+e)\cap(B+e)=(A\cap B)+e$)。グラフ的マトロイドでは、削除は辺を取り除くこと、縮約は辺をつぶして両端を 1 点にすることにあたる。
$e$ が コループ(すべての基に属する元)であることは $r(E-e)=r-1$ と同値である。

特性多項式の基本性質
  1. $M$ がループをもてば $\chi_M=0$ である。
  2. $M$ がループをもたなければ、$\chi_M$ は最高次の係数 $1$ の $r$ 次多項式である。
  3. $E\neq\emptyset$ ならば $\chi_M(1)=0$ である。
  4. (削除縮約)$e\in E$ がループでもコループでもなければ $\chi_M=\chi_{M\setminus e}-\chi_{M/e}$ である。
  5. $M$ がループをもたなければ、$\chi_M$ の $\lambda^{r-k}$ の係数は $(-1)^kw_k(M)$ で、$0\le k\le r$ について $w_k(M)>0$ である。

1.ループ $\ell$ について $r(A+\ell)=r(A)$ である($r(A)\le r(A+\ell)\le r(A)+r(\{\ell\})=r(A)$)。$\ell\notin A$ となる $A$ と $A+\ell$ を組にすると、2 つの項は指数が同じで符号が逆なので打ち消し合う。
2.$r(A)=0$ となるのは $A$ の元がすべてループのときなので、ループがなければ $\lambda^r$ の項は $A=\emptyset$ だけから来て係数は $1$ である。$r(A)\ge0$ なので次数は $r$ 以下である。
3.$\chi_M(1)=\sum_{A\subset E}(-1)^{|A|}=(1-1)^{|E|}=0$ である。
4.和を $e\notin A$ と $e\in A$ に分ける。$e$ はコループでないので $r(E-e)=r$ であり、$e\notin A$ の部分は $\sum_{A\subset E-e}(-1)^{|A|}\lambda^{r(E-e)-r(A)}=\chi_{M\setminus e}(\lambda)$ である。$e\in A$ の部分は $A=B+e$($B\subset E-e$)と書けて、$r_{M/e}(E-e)=r-1$、$r_{M/e}(B)=r(B+e)-1$ なので
$$ \sum_{B\subset E-e}(-1)^{|B|+1}\lambda^{\,r-r(B+e)}=-\sum_{B\subset E-e}(-1)^{|B|}\lambda^{\,r_{M/e}(E-e)-r_{M/e}(B)}=-\chi_{M/e}(\lambda) $$
である。
5.$|E|$ についての帰納法で示す。すべての元がコループなら、$E$ は独立で $r(A)=|A|$ なので $\chi_M(\lambda)=\sum_A(-1)^{|A|}\lambda^{|E|-|A|}=(\lambda-1)^{r}$ であり、$w_k=\binom rk>0$ である。そうでなければ、コループでない $e$ をとる(ループはない)。$M\setminus e$ はループをもたず階数 $r$ で、帰納法の仮定が当てはまる。$M/e$ がループをもてば 1 により $\chi_{M/e}=0$ で、4 から $\chi_M=\chi_{M\setminus e}$ である。$M/e$ がループをもたなければ、階数 $r-1$ で帰納法の仮定が当てはまり、4 の $\lambda^{r-k}$ の係数は
$$ (-1)^kw_k(M\setminus e)-(-1)^{k-1}w_{k-1}(M/e)=(-1)^k\bigl(w_k(M\setminus e)+w_{k-1}(M/e)\bigr) $$
である($w_{-1}:=0$)。どちらの場合も符号は $(-1)^k$ で、絶対値は正である。$\square$

5 の証明から、$M/e$ がループをもたないとき $w_k(M)=w_k(M\setminus e)+w_{k-1}(M/e)$ である。これは第一種 Whitney 数を「和」で計算する式なので、対数凹性 で見たとおり、それだけからは対数凹性は出てこない(Huh18 §2.4、p. 8)。

グラフの彩色多項式との関係

有限グラフ $G=(V,E)$ と正の整数 $q$ について、隣接する頂点が異なる色になるような頂点の $q$ 色の塗り分けの個数を $P_G(q)$ と書き、彩色多項式 という(Huh18 §2.4、p. 7)。$G$ の連結成分の個数を $c(G)$、辺集合 $E$ から定まるグラフ的マトロイドを $M(G)$ と書く。

彩色多項式と特性多項式

ループをもたない有限グラフ $G$ について
$$ P_G(q)=\sum_{A\subset E}(-1)^{|A|}q^{\,c(A)}=q^{\,c(G)}\,\chi_{M(G)}(q) $$
である。ここで $c(A)$ は $(V,A)$ の連結成分の個数である。特に $P_G$ は $q$ の多項式で、その係数の絶対値の列は $M(G)$ の第一種 Whitney 数の列に一致する。

段 1(包除原理).頂点の $q$ 色の塗り方全体を $\Omega$ とし、辺 $e$ について、$e$ の両端が同じ色である塗り方の集合を $S_e$ とする。$P_G(q)=\bigl|\Omega\setminus\bigcup_eS_e\bigr|$ であり、包除原理により
$$ P_G(q)=\sum_{A\subset E}(-1)^{|A|}\Bigl|\bigcap_{e\in A}S_e\Bigr| $$
である($A=\emptyset$ の項は $|\Omega|$)。$\bigcap_{e\in A}S_e$ は、$A$ の各辺の両端が同じ色である塗り方の集合で、これは $(V,A)$ の各連結成分の中で色が一定の塗り方にほかならない。成分ごとに $q$ 通りの色を選べるので、その個数は $q^{c(A)}$ である。
段 2(階数との関係).マトロイド の命題「グラフ的マトロイド」により、森 $F$ について $c(F)=|V|-|F|$ である。$A\subset E$ の中の極大な森 $F$ は $(V,A)$ の各成分の全域木からなるので $c(A)=c(F)=|V|-|F|=|V|-r(A)$ であり、特に $c(G)=|V|-r(E)$ である。よって $c(A)=c(G)+r(E)-r(A)$ で、
$$ \sum_{A\subset E}(-1)^{|A|}q^{\,c(A)}=q^{\,c(G)}\sum_{A\subset E}(-1)^{|A|}q^{\,r(E)-r(A)}=q^{\,c(G)}\chi_{M(G)}(q) $$
である。$\square$

特性多項式の計算
  1. 4 頂点の閉路 $C_4$.削除縮約で計算すると、1 本の辺を削除すると 4 頂点の道(木)で $q(q-1)^3$、縮約すると三角形で $q(q-1)(q-2)$ なので
    $$ P_{C_4}(q)=q(q-1)^3-q(q-1)(q-2)=q^4-4q^3+6q^2-3q $$
    である(Huh18 Example 5、p. 7)。$\chi_{M(C_4)}(\lambda)=\lambda^3-4\lambda^2+6\lambda-3$ で、$(w_k)=(1,4,6,3)$ は $16\ge6$、$36\ge12$ をみたす。$M(C_4)$ は 4 本の辺のうち 3 本以下がつねに独立なので一様マトロイド $U_{3,4}$ であり、$\chi_{U_{3,4}}$ も同じである。
  2. 完全グラフ $K_4$.頂点を順に塗って $P_{K_4}(q)=q(q-1)(q-2)(q-3)$ なので、$\chi_{M(K_4)}(\lambda)=(\lambda-1)(\lambda-2)(\lambda-3)=\lambda^3-6\lambda^2+11\lambda-6$、$(w_k)=(1,6,11,6)$ である。
  3. Fano マトロイド $F_7$.$F_7$ の 7 元を台集合とする部分集合 $A$ を階数ごとに数える。階数 $0$ は $\emptyset$ だけ、階数 $1$ は 1 元集合 7 個、階数 $2$ は 2 元集合 21 個と直線(3 元)7 個である。よって $\lambda^3,\lambda^2,\lambda$ の係数は $1$、$-7$、$21-7=14$ であり、定数項は $\chi(1)=0$(prop-hrw-basic の 3)から $-(1-7+14)=-8$ である。
    $$ \chi_{F_7}(\lambda)=\lambda^3-7\lambda^2+14\lambda-8=(\lambda-1)(\lambda-2)(\lambda-4) $$
    で、$(w_k)=(1,7,14,8)$ は $49\ge14$、$196\ge56$ をみたす。

Adiprasito–Huh–Katz の定理

Adiprasito–Huh–Katz の定理

$M$ を任意のマトロイド、$G$ を任意の有限グラフとする。

  1. (Heron–Rota–Welsh 予想)特性多項式の係数の絶対値の列 $(w_k(M))_k$ は対数凹である。$M$ がループをもたなければ各項は正なので、単峰でもある。
  2. (Mason–Welsh 予想)$M$ の $k$ 元の独立集合の個数 $f_k(M)$ の列は対数凹である。
  3. (Read–Hoggar 予想)彩色多項式 $P_G$ の係数の絶対値の列は対数凹である。

1〜3 は AHK18 Theorem 9.9(p. 60)である。それ以前に、1 は複素数体上で表現可能なマトロイドについて Huh により、何らかの体の上で表現可能なマトロイドについて Huh–Katz により示されていた(AHK18 §1、p. 3)。表現可能性は代数幾何(超平面配置の補集合のコンパクト化)を使うために必要だった。任意のマトロイドへの拡張が Adiprasito–Huh–Katz の新しい点である。
ループをもつマトロイドでは $\chi_M=0$ なので 1 は自明である。単峰性は、正の項の対数凹列が単峰であること(対数凹性 の命題「対数凹性から単峰性」)と prop-hrw-basic の 5 から従う。3 は thm-hrw-chromatic により 1 の $M=M(G)$ の場合である($G$ にループがあれば $P_G=0$)。ex-hrw-examples の列 $(1,4,6,3)$、$(1,6,11,6)$、$(1,7,14,8)$ はいずれも対数凹である。Fano マトロイドの独立集合の個数 $(1,7,21,28)$(マトロイド の例「Fano マトロイド」)も $49\ge21$、$441\ge196$ をみたす。

証明の仕組み

主定理の証明を、この記事で証明する部分と引用する部分に分けて示す。この節では AHK18 に合わせて、ループをもたないマトロイド $M$ の階数を $r+1$ とする。

逆向きの Cauchy–Schwarz 不等式

$V$ を有限次元の実ベクトル空間、$Q$ を $V$ 上の対称双線形形式、$\ell\in V$ とし、$Q(\ell,\ell)>0$ で、$P:=\{p\in V\mid Q(\ell,p)=0\}$ の上で $Q$ が負定値であるとする。このとき、すべての $a\in V$ について
$$ Q(a,\ell)^2\ge Q(a,a)\,Q(\ell,\ell) $$
が成り立ち、等号は $a$ が $\ell$ の定数倍のときに限る。

$t:=Q(a,\ell)/Q(\ell,\ell)$、$p:=a-t\ell$ とおくと $Q(\ell,p)=0$ なので $p\in P$ である。$Q(a,\ell)=tQ(\ell,\ell)$、$Q(a,a)=t^2Q(\ell,\ell)+Q(p,p)$ だから
$$ Q(a,\ell)^2-Q(a,a)Q(\ell,\ell)=-Q(p,p)\,Q(\ell,\ell)\ge0 $$
であり、等号は $Q(p,p)=0$、すなわち $p=0$ のときに限る。$\square$

この補題の仮定は、$Q$ が「正の固有値をちょうど 1 つもつ」ことの具体的な形であり、Hodge 指数定理と同じ形の不等式を与える(Hodge–Riemann双線形関係、Huh18 §1、p. 3)。

主定理の証明の構成

段 1(Chow 環.引用).$M$ の空でも全体でもないフラット $F$ ごとに変数 $x_F$ をおいた多項式環 $S_M=\mathbb R[x_F]$ を、比較できない 2 つのフラットの積 $x_{F_1}x_{F_2}$ と、相異なる $i_1,i_2\in E$ についての 1 次式 $\sum_{F\ni i_1}x_F-\sum_{F\ni i_2}x_F$ で生成されるイデアルで割った環を $A(M)$ と書き、$M$ の Chow 環 という(AHK18 Definition 1.3、p. 2。Feichtner–Yuzvinsky による)。$A(M)=\bigoplus_{q=0}^rA^q(M)$ と次数付けられ、フラットの旗 $F_1\subsetneq\dots\subsetneq F_r$ について $\deg(x_{F_1}\cdots x_{F_r})=1$ となる線形同型 $\deg\colon A^r(M)\to\mathbb R$ がある(同 p. 3、Proposition 5.10、p. 24)。狭義劣モジュラな関数から作られる $\ell\in A^1(M)$ について、Hard Lefschetz 定理と Hodge–Riemann の関係が成り立つ(同 Theorem 1.4、p. 4)。この部分は AHK18 の §2〜§8 の全体を使い、この記事では証明しない。
段 2(1 次の部分での不等式).$r\ge2$ とする($r\le1$ では示すべき不等式がない)。段 1 の $\ell$ について、$A^1(M)$ 上の対称双線形形式 $Q(a,b):=\deg(ab\,\ell^{r-2})$ を考える。Hodge–Riemann の関係の $q=0$ の場合は $Q(\ell,\ell)=\deg(\ell^r)>0$ を、$q=1$ の場合は $\ell^{r-1}a=0$ となる $0$ でない $a\in A^1(M)$ について $Q(a,a)< 0$ を意味する。$\deg$ は同型なので、$\ell^{r-1}a=0$ は $Q(\ell,a)=\deg(\ell^{r-1}a)=0$ と同値である。よって lem-hrw-reverse-cs の仮定がみたされ、すべての $a\in A^1(M)$ について $\deg(a^2\ell^{r-2})\deg(\ell^r)\le\deg(a\ell^{r-1})^2$ である。AHK18 Lemma 9.6(pp. 58–59)は、極限をとってこれを $\ell$ が「nef」な元の場合に広げている。
段 3(係数を次数で表す.引用).$\overline\chi_M(\lambda):=\chi_M(\lambda)/(\lambda-1)=\sum_{k=0}^r(-1)^k\mu_k\lambda^{r-k}$ とおく(prop-hrw-basic の 3 により割り切れる)。$A^1(M)$ の 2 つの nef な元 $\alpha,\beta$ があって、$\mu_k=\deg(\alpha^{r-k}\beta^k)$ である(AHK18 Definition 5.7(p. 23)、Proposition 9.5(p. 58)、Lemma 9.7(p. 59))。段 2 の不等式を $a=\alpha$、$\ell=\beta$ に当てると $\mu_{r-2}\mu_r\le\mu_{r-1}^2$ であり、階数を下げたマトロイド(打ち切り)に同じ議論を当てて、$0< k< r$ で $\mu_{k-1}\mu_{k+1}\le\mu_k^2$ を得る(同 Proposition 9.8、pp. 59–60)。
段 4(畳み込み).$\chi_M=(\lambda-1)\overline\chi_M$ の $\lambda^{r+1-j}$ の係数を比べると
$$ (-1)^jw_j=(-1)^j\mu_j-(-1)^{j-1}\mu_{j-1},\qquad\text{つまり}\quad w_j=\mu_j+\mu_{j-1} $$
である(範囲外は $0$)。すなわち $(w_j)$ は $(\mu_k)$ と $(1,1)$ の畳み込みである。$\mu_k$ はすべて正である(AHK18 §9.1、pp. 56–57。$\mu_k=w_k-w_{k-1}+\dots\pm w_0$ で $\mu_r$ は Möbius 関数の値の絶対値)。$(1,1)$ と $(\mu_k)$ は内部に零をもたない非負の対数凹列なので、対数凹性 の定理「畳み込みは対数凹性を保つ」により $(w_j)$ は対数凹である。これが 1 である。
段 5(独立集合の個数).Brylawski の結果により、$f_k(M)$ は別のマトロイドの(被約)特性多項式の係数の絶対値として表されるので、2 は 1 から従う(AHK18 Theorem 9.9 の証明、p. 60)。3 は上で述べたとおり 1 と thm-hrw-chromatic から従う。$\square$

段 4 から、実は被約特性多項式の係数 $(\mu_k)$ のほうが強い主張(対数凹性)をもっている。同じ Hodge–Riemann の関係の次数 1 の部分は、環を使わずに多項式の性質として公理化でき(Lorentz 多項式)、それを使うと独立集合の個数についてさらに強い不等式
$$ \frac{f_k^2}{\binom nk^2}\ge\frac{f_{k+1}}{\binom n{k+1}}\cdot\frac{f_{k-1}}{\binom n{k-1}}\qquad(n=|E|) $$
が得られる(BH20 要旨・導入 p. 3、Theorem 4.14、p. 50)。これは Mason が 1972 年に述べた 3 つの予想のうち最も強いものである(同 Conjecture 4.13、p. 49)。
Hodge–Riemann の関係と Hard Lefschetz 定理の組は、コンパクト Kähler 多様体のコホモロジー(Hard Lefschetz定理、Hodge–Riemann双線形関係)、単純凸多面体の McMullen の代数、Soergel 双加群、マトロイドの Chow 環などで成り立つことが知られている。異なる対象での証明には構造の似たところがあるが、一方から他方を導く方法は知られていない(Huh18 §1、pp. 1–2)。Adiprasito–Huh–Katz の証明は、単純多面体についての McMullen の帰納的な証明に着想を得たものである(AHK18 §1.2、p. 4)。

反例と注意

主定理の結論は、仮定や対象を替えると成り立たなくなる。特に、同じ形で予想された「フラットの個数」の対数凹性と単峰性には、2026 年に前刷りで反例が示された。

外す条件・替える条件反例成り立たなくなること
対数凹性を実根性に強める$U_{3,4}$:$\chi=(\lambda-1)(\lambda^2-3\lambda+3)$特性多項式は実根だけをもつとは限らず、係数は超対数凹とも限らない
係数(第一種 Whitney 数)をフラットの個数(第二種 Whitney 数)に替える道の長さ $26,26,26,1$ の一般化 theta グラフのグラフ的マトロイド対数凹性:$W_{74}^2< W_{73}W_{75}$
同上、単峰性Larson の例に Whittle の $q$-lift を当てたマトロイド単峰性(峰がいくつでもある例もある)
「和」で計算することに頼る$(4,1,0)+(0,1,4)=(4,2,4)$削除縮約の漸化式だけでは対数凹性が帰納法で保たれない
反例の確認

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1 行目:ex-hrw-examples の 1 により $\chi_{U_{3,4}}=\lambda^3-4\lambda^2+6\lambda-3=(\lambda-1)(\lambda^2-3\lambda+3)$ で、2 次式の判別式は $9-12< 0$ である。係数の絶対値 $(1,4,6,3)$ を $\binom3k$ で割ると $(1,\frac43,2,3)$ で、$(\frac43)^2=\frac{16}9< 2$ なので超対数凹でない。したがって、実根だけをもつ多項式の Newton の不等式(対数凹性 の定理「Newton の不等式」)を使ってこの予想を示すことはできない。対数凹性そのものは $16\ge6$、$36\ge12$ で成り立つ。

2 行目:2 つの頂点を、内部で交わらない 4 本の道(辺の数 $26,26,26,1$)で結んだグラフ $G$ を考える。頂点は 77 個、辺は 79 本、連結なので $M(G)$ の階数は 76 である。階数 $k$ のフラットの個数を $W_k$ とすると $W_{75}=18{,}551$、$W_{74}=983{,}775$、$W_{73}=52{,}954{,}525$ で、$W_{74}^2=967{,}813{,}250{,}625< 982{,}359{,}393{,}275=W_{73}W_{75}$ である(Lar26 Example 2.2・Theorem 2.3、pp. 5–6。数え方は双対マトロイドの閉路の和集合を数える方法による)。この数値は執筆時に計算機で独立に再計算して一致を確かめた。Mason はフラットの個数の対数凹性を予想していた(同 Conjecture 2.1、p. 5)。

3 行目:Rota はフラットの個数の列が単峰であると予想していた。Divoux–Lowen–Wang は Larson の例に Whittle の $q$-lift を当てて単峰でない例を構成し(DLW26 Theorem 1.2、p. 2)、Divoux–Larson–Lowen–Wang は、各正整数 $m$ について峰がちょうど $m$ 個のマトロイドがあることを示した(DLLW26 Theorem 1.2、p. 2)。単峰でない例として彼らが構成した最小のものは台集合が 4957 元である(同 p. 2)。これらは 2026 年の前刷りである。

4 行目:対数凹性 の反例の表と同じ。$w_k(M)=w_k(M\setminus e)+w_{k-1}(M/e)$ の右辺の 2 つの列がそれぞれ対数凹でも、和が対数凹とは限らない。

注意を 3 つ挙げる。

  • フラットの個数について成り立つこと.フラットの個数には、対数凹性の代わりに「上が重い」という不等式が成り立つ。階数 $r$ のマトロイドで $k\le j\le r-k$ なら $W_k\le W_j$ である(Dowling–Wilson の予想。BHMPW Theorem 1.1、p. 2)。これもマトロイドの交叉コホモロジーについての Hard Lefschetz 定理と Hodge–Riemann の関係から導かれた(同 要旨)。
  • 重みの違い.第一種 Whitney 数 $w_k$ は、階数 $k$ のフラット $F$ を Möbius 関数の値 $|\mu(\emptyset,F)|$ で重みづけて数えたものであり、第二種 Whitney 数 $W_k$ は重みなしで数えたものである(Lar26 §2、p. 5)。前者は対数凹だが、後者は対数凹でも単峰でもない。
  • 表現可能性.Adiprasito–Huh–Katz の証明は、マトロイドが体の上で表現可能かどうかによらない。表現可能な場合は、超平面配置の補集合の「すばらしい」コンパクト化のコホモロジー環が Chow 環にあたる(AHK18 §1.1、p. 2)。

関連項目

参考文献

[1]
Karim Adiprasito, June Huh, Eric Katz, Hodge theory for combinatorial geometries, arXiv:1511.02888v2, arXiv:1511.02888v2(2018-05-01。Ann. of Math. 188 (2018))。§1(特性多項式の定義 p. 1、Conjecture 1.1・1.2 と予想の由来 pp. 1–2、Definition 1.3 p. 2、先行する表現可能な場合 p. 3、Theorem 1.4 と McMullen の帰納法への言及 p. 4)、Definition 5.7(p. 23)、Proposition 5.10(p. 24)、§9(Definition 9.1 と μ_k の性質 pp. 56–57、Proposition 9.5 p. 58、Lemma 9.6 pp. 58–59、Lemma 9.7 p. 59、Proposition 9.8 pp. 59–60、Theorem 9.9 とその証明 p. 60)
[2]
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[3]
Petter Brändén, June Huh, Lorentzian polynomials, arXiv:1902.03719v8, arXiv:1902.03719v8(2024-07-17。Ann. of Math. 192 (2020))。要旨・導入(p. 3)、Conjecture 4.13(p. 49)、Theorem 4.14(p. 50)
[4]
Tom Braden, June Huh, Jacob P. Matherne, Nicholas Proudfoot, Botong Wang, Singular Hodge theory for combinatorial geometries, arXiv:2010.06088v5, arXiv:2010.06088v5(2026-06-27)。要旨、Theorem 1.1(Dowling–Wilson の上が重い不等式、p. 2)
[5]
Matt Larson, Counterexamples to two conjectures about matroids, arXiv:2607.02208v1, arXiv:2607.02208v1(2026-07-02。前刷り)。§2:Conjecture 2.1 と第一種・第二種 Whitney 数の比較(p. 5)、Example 2.2・Theorem 2.3 とその証明(pp. 5–6)
[6]
Alexander Divoux, Chayim Lowen, Shouda Wang, Matroid flat counts are not unimodal, arXiv:2607.22515v1, arXiv:2607.22515v1(2026-07-24。前刷り)。Conjecture 1.1・Theorem 1.2(pp. 1–2)
[7]
Alexander Divoux, Matt Larson, Chayim Lowen, Shouda Wang, Matroid flat counts can have many peaks, arXiv:2608.07342v1, arXiv:2608.07342v1(2026-08-07。前刷り)。Theorem 1.2 と最小の例の大きさ(p. 2)

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