Hilbertの第12問題

同義語:ヒルベルトの第12問題Hilbert's twelfth problem

概要

Hilbertの第12問題(Hilbert's twelfth problem)とは、Hilbert が 1900 年に挙げた問題の 1 つで、代数体 $K$ の Abel 拡大を、関数の特殊値などの明示的な数を $K$ に添加して作れという問題である。$\mathbb{Q}$ の Abel 拡大は指数関数 $e^{2\pi iz}$ の有理数点での値(1 の冪根)で作れ(Kronecker–Weber の定理)、虚 2 次体の Abel 拡大は虚数乗法をもつ楕円曲線の $j$ 不変量と等分点での Weber 関数の値で作れる。虚 2 次体では、Abel 拡大の Galois 群が位数 3 以上の元をもつ不分岐な拡大は 1 の冪根では作れない。総実体では $p$ 進的な構成が得られているが、一般の代数体では未解決である。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 類体論, Kronecker–Weberの定理, 虚数乗法, Hilbert類体

Hilbert の第 12 問題(Hilbert's twelfth problem)は、Hilbert が 1900 年の講演「数学の問題」で挙げた 23 の問題の 12 番目で、任意の代数体 $K$ の Abel 拡大を、具体的な関数の特殊値などの明示的な数を $K$ に添加して作れ、という問題である。有理数体 $\mathbb{Q}$ では、Abel 拡大はすべて 1 の冪根、すなわち指数関数 $e^{2\pi iz}$ の有理数点での値を添加した体(円分体)に含まれる(Kronecker–Weberの定理)。Hilbert はこれを任意の代数体に拡張することを求めた。
類体論 は $K$ の Abel 拡大全体を $K$ のイデアルの群(またはイデール類群)の商と対応させて記述するが、拡大を生成する数そのものは与えない。第 12 問題はその生成元を明示的に求める問題で、明示的類体論(explicit class field theory)とも呼ばれる。$\mathbb{Q}$ と虚 2 次体の場合は解決しており、CM 体や総実体の場合に大きな進展があるが、一般の代数体では未解決である。この記事では問題の内容と既知の場合をまとめ、虚 2 次体では 1 の冪根だけでは Abel 拡大を作れないことを証明する。

問題の内容

以下、代数体はすべて $\mathbb{C}$ の部分体とし、代数閉包 $\overline{\mathbb{Q}}\subset\mathbb{C}$ の中で考える。

最大 Abel 拡大

代数体 $K$ について、$\overline{\mathbb{Q}}$ の中の $K$ の有限次 Abel 拡大(Galois 拡大で Galois 群が可換なもの)すべての合成体を $K^{\mathrm{ab}}$ と書き、$K$ の 最大 Abel 拡大 という。

Kronecker–Weberの定理 の系「Qの最大Abel拡大」により $\mathbb{Q}^{\mathrm{ab}}=\bigcup_{n\ge1}\mathbb{Q}(\zeta_n)$、$\zeta_n=e^{2\pi i/n}$ である。しかも Galois 群の作用は特殊値の変数の上で読める。$\operatorname{Gal}(\mathbb{Q}(\zeta_n)/\mathbb{Q})\cong(\mathbb{Z}/n\mathbb{Z})^\times$ の元 $\sigma_a$ は $\sigma_a(\zeta_n)=\zeta_n^a$ で定まり(円分体)、$r=k/n$ について
$$ \sigma_a\bigl(e^{2\pi ir}\bigr)=e^{2\pi iar} $$
である。すなわち、有理数点での値を添加して最大 Abel 拡大が生成され、Galois 群は点 $r$ を $ar$ に動かす作用として見える。

Hilbert による問題の述べ方

Hilbert は講演で、すべての Abel 数体は有理数体から 1 の冪根の体を合成して得られるという定理を Kronecker に帰し、それが次の 2 つの主張を含むと述べた(Hil02 pp. 458–459)。

  1. 与えられた次数・Abel 群・判別式をもつ方程式の個数と存在についての主張。
  2. そのような方程式の根が、指数関数の変数に有理数を代入して得られる数の体と一致するという主張。
    続けて、虚 2 次体の場合には特異モジュラスをもつ楕円関数の変換方程式が Abel 方程式を与えるという Kronecker の主張に触れ、その証明はまだないが、Weber の虚数乗法の理論と Hilbert 自身の類体の定理から得られるはずだと述べた(同 p. 459)。そして、基礎体を任意の代数体にした場合への Kronecker の定理の拡張を、数と関数の理論で最も深く広い問題の 1 つとした(同 p. 459)。算術的な部分の鍵として任意の代数体での一般の相互法則を、関数論的な部分の手がかりとして 1 変数の代数関数の理論と代数的数の理論の類似を挙げている(同 pp. 459–460)。

問題は定理の形には定式化されていない。現在は、「$K^{\mathrm{ab}}$ を生成する数の族を具体的に構成し、Galois 群の作用をその上で記述せよ」という問題として理解されている。何を「具体的」とみなすかは文献によって異なり、Hilbert は複素解析関数の特殊値を想定していた。

既知の場合

基礎体添加する数状況所在
$\mathbb{Q}$1 の冪根 $e^{2\pi ir}$($r\in\mathbb{Q}$)解決Kronecker–Weberの定理
虚 2 次体 $K$$j(E)$ と、$E$ の等分点での Weber 関数の値($\operatorname{End}(E)=\mathcal{O}_K$)解決thm-h12-imaginary-quadratic
CM 体 $E$(最大総実部分体 $F$)CM 型のアーベル多様体のモジュライ体と等分点、および $F^{\mathrm{ab}}$$E^{\mathrm{ab}}$ の、得られる体の上の Galois 群のどの元も位数が $2$ 以下rem-h12-cm-and-totally-real
総実体 $F$Brumer–Stark 単数と $F$ の元の平方根$p$ 進的な構成rem-h12-cm-and-totally-real
一般の代数体—未解決

虚 2 次体:Kronecker の青春の夢

虚 2 次体の Abel 拡大を楕円関数・モジュラー関数の特殊値で作るという Kronecker の構想は、彼自身の言葉から「Kronecker の青春の夢」(Kroneckers Jugendtraum)と呼ばれる(DK23 p. 8)。$\mathbb{C}$ 上の楕円曲線 $E$ の自己準同型環が虚 2 次体 $K$ の整数環 $\mathcal{O}_K$ と同型であるとき、$E$ は $\mathcal{O}_K$ による虚数乗法をもつという(虚数乗法)。$E$ の Weber 関数 $h_E\colon E\to\mathbb{P}^1$ は、$E/\operatorname{Aut}(E)\cong\mathbb{P}^1$ への商写像であり、Weierstrass 方程式 $y^2=4x^3-g_2x-g_3$(判別式 $\Delta=g_2^3-27g_3^2$)では、$j(E)\ne0,1728$ のとき $h_E(P)=(g_2g_3/\Delta)\,x(P)$ である(Sil09 Appendix C, §11, p. 428)。

虚 2 次体の最大 Abel 拡大

$K$ を虚 2 次体、$E$ を $\operatorname{End}(E)\cong\mathcal{O}_K$ となる $\mathbb{C}$ 上の楕円曲線とする。

  1. $K(j(E))$ は $K$ の Hilbert類体 である。
  2. $K^{\mathrm{ab}}$ は、$K$ に $j(E)$ と、$E$ の有限位数の点 $T$ すべてでの Weber 関数の値 $h_E(T)$ を添加した体である:
    $$ K^{\mathrm{ab}}=K\bigl(j(E),\ h_E(T)\ \big|\ T\in E_{\mathrm{tors}}\bigr). $$
定理の所在と歴史(この記事では証明しない)

thm-h12-imaginary-quadratic はこの記事では証明しない(Sil09 Appendix C, Theorem 11.5, p. 428。射類体の言葉では Neu99 Chapter VI, (6.10) Theorem と (6.11) Theorem, pp. 402–403)。1 は 虚数乗法 の記事の定理「Weber–Fueter の定理」でもある。Neukirch は、特殊値で Abel 拡大を作る問いに完全に満足できる答えが与えられているのは虚 2 次体の場合だけであると述べている(Neu99 Chapter VI, §6, p. 401。総実体の場合の後述の結果より前の記述である)。Hilbert の講演の時点ではこの定理は完全には証明されていなかった(Hil02 p. 459、DK23 p. 8)。高木貞治(Teiji Takagi)は 1903 年に東京帝国大学で学位を得た論文で、$K=\mathbb{Q}(i)$ の場合を扱った(Edw08)。高木はのちに 1920 年と 1922 年の論文で類体論を確立した(同)。

$\mathbb{Q}$ の場合の $e^{2\pi iz}$ の役を、虚 2 次体では $j$ と Weber 関数が担う。代数的には、乗法群の等分点(1 の冪根)の役を楕円曲線 $E$ の等分点が担う(DK23 p. 7)。

CM 体と総実体

CM 体と総実体の場合(この記事では証明しない)

CM 体。 総実体 $F$ の総虚な 2 次拡大を CM 体という。CM 体 $E$ について、反射体が $E$ に含まれる CM 型の偏極アーベル多様体のモジュライ体とそれらの等分点を $E$ に添加した体を $M_E$ とすると、合成体 $M_EF^{\mathrm{ab}}$ は $E^{\mathrm{ab}}$ に含まれ、$\operatorname{Gal}(E^{\mathrm{ab}}/M_EF^{\mathrm{ab}})$ のどの元も位数が $2$ 以下である(DK23 Theorem 1.10, p. 9。Wei の結果をまとめたものとして引用されている)。CM 型アーベル多様体の虚数乗法の理論は、志村五郎(Goro Shimura)と谷山豊(Yutaka Taniyama)が体系化した(2 人の共著書は 1957 年に日本語で、改訂版が 1961 年に英語で出た。Mac-Shimura)。
総実体。 Dasgupta と Kakde は、次数 $n$ の総実体 $F$ について、$F$ の各狭義射類体の Brumer–Stark 単数($p$ 進解析的な公式で与えられる)とその共役、および $n-1$ 個の $F$ の元の平方根で $F^{\mathrm{ab}}$ が生成されることを示した(DK23 Theorem 1.9, p. 8)。この構成は無限個の素数 $p$ についての $p$ 進積分を使うもので、Hilbert が想定した複素解析関数の特殊値の形にはあてはまらないと、著者ら自身が述べている(同 pp. 8–9)。この方向の研究は、$L$ 関数の値から単数を作る Stark の予想とその第 12 問題への応用の考察に動機づけられている(同 p. 7)。

虚 2 次体では 1 の冪根だけでは足りない

$K$ が虚 2 次体のとき、$K$ に 1 の冪根を添加した体 $K(\zeta_n)$ は $K$ の Abel 拡大であり、$\mathbb{Q}^{\mathrm{ab}}=\bigcup_n\mathbb{Q}(\zeta_n)$ との合成体は $K\mathbb{Q}^{\mathrm{ab}}=\bigcup_nK(\zeta_n)$ である。もし $K^{\mathrm{ab}}=K\mathbb{Q}^{\mathrm{ab}}$ なら、虚 2 次体の Abel 拡大は指数関数だけで作れることになり、楕円関数は要らない。実際にはそうならないことを示す。以下、$K$ を 2 次体、$\sigma$ を $K$ の $\mathbb{Q}$ 上の自明でない自己同型とし(2次体)、$L/K$ を有限次 Abel 拡大で $K$ のどの素イデアルも $L$ で分岐しないものとする。$K$ の素イデアル $\mathfrak{p}$ について、$\mathfrak{p}$ の上の素イデアルの $L/K$ の Frobenius 元は上の素イデアルの選び方によらないので(Frobenius元 の記事の命題「Frobenius元の基本性質」の 2)、それを $\psi(\mathfrak{p})\in\operatorname{Gal}(L/K)$ と書き、分数イデアルの群 $I_K$ へ乗法的に延ばす(Artin写像とArtin相互法則 の定義「Artin写像」で $\mathfrak{m}=(1)$ としたもの)。

共役と Artin 写像

上の状況で、さらに $L/\mathbb{Q}$ が Galois 拡大であるとし、$\tilde c\in\operatorname{Gal}(L/\mathbb{Q})$ を $K$ への制限が $\sigma$ である元とする。このとき $K$ のすべての素イデアル $\mathfrak{p}$ について
$$ \tilde c\,\psi(\mathfrak{p})\,\tilde c^{-1}=\psi(\sigma(\mathfrak{p})) $$
である。

$G:=\operatorname{Gal}(L/K)$ とおく。$K/\mathbb{Q}$ は Galois 拡大なので $G$ は $\operatorname{Gal}(L/\mathbb{Q})$ の正規部分群であり、$\tau:=\tilde c\,\psi(\mathfrak{p})\,\tilde c^{-1}\in G$ である。$\mathfrak{p}$ の上の $L$ の素イデアル $\mathfrak{P}$ をとり、$q:=\lvert\mathcal{O}_K/\mathfrak{p}\rvert$ とおく。$x\in\mathcal{O}_L$ について $y:=\tilde c^{-1}(x)\in\mathcal{O}_L$ とおくと、Frobenius 元の定義から $\psi(\mathfrak{p})(y)-y^q\in\mathfrak{P}$ である。これに $\tilde c$ を施すと
$$ \tau(x)-x^q\in\tilde c(\mathfrak{P}) $$
を得る。$\tilde c$ は $\mathcal{O}_L$ の環自己同型なので $\tilde c(\mathfrak{P})$ は $\mathcal{O}_L$ の素イデアルで、$\tilde c(\mathfrak{P})\cap\mathcal{O}_K=\sigma(\mathfrak{P}\cap\mathcal{O}_K)=\sigma(\mathfrak{p})$ である。$\sigma$ は $\mathcal{O}_K$ の環自己同型なので $\lvert\mathcal{O}_K/\sigma(\mathfrak{p})\rvert=q$ であり、仮定から $\sigma(\mathfrak{p})$ は $L$ で分岐しない。よって Frobenius元 の記事の命題「Frobenius元の特徴づけ」の 1 を $\sigma(\mathfrak{p})$ の上の素イデアル $\tilde c(\mathfrak{P})$ に当てはめて、$\tau=\operatorname{Frob}_{\tilde c(\mathfrak{P})}(L/K)=\psi(\sigma(\mathfrak{p}))$ を得る。$\square$

1 の冪根で作れない Abel 拡大

$K$ を虚 2 次体、$L/K$ を有限次 Abel 拡大で $K$ のどの素イデアルも $L$ で分岐しないものとする。$\operatorname{Gal}(L/K)$ が位数 $3$ 以上の元をもつなら、どの $n\ge1$ についても $L\not\subset K(\zeta_n)$ である。したがって $L\not\subset K\mathbb{Q}^{\mathrm{ab}}$ であり、$K^{\mathrm{ab}}\ne K\mathbb{Q}^{\mathrm{ab}}$ である。

ある $n$ について $L\subset M:=K(\zeta_n)$ と仮定して矛盾を導く。
1. $L/\mathbb{Q}$ は Galois 拡大で、$\operatorname{Gal}(L/\mathbb{Q})$ は可換である。 $M$ は $K$ と $\mathbb{Q}(\zeta_n)$ の合成体で、どちらも $\mathbb{Q}$ 上 Galois 拡大で Galois 群は可換である($K$ は 2 次、$\mathbb{Q}(\zeta_n)$ は $(\mathbb{Z}/n\mathbb{Z})^\times$、円分体)。よって $M/\mathbb{Q}$ は Galois 拡大で、制限による写像 $\operatorname{Gal}(M/\mathbb{Q})\to\operatorname{Gal}(K/\mathbb{Q})\times\operatorname{Gal}(\mathbb{Q}(\zeta_n)/\mathbb{Q})$ は単射なので $\operatorname{Gal}(M/\mathbb{Q})$ は可換である。可換群の部分群は正規部分群なので、Galois理論 の基本定理により中間体 $L$ は $\mathbb{Q}$ 上 Galois 拡大で、$\operatorname{Gal}(L/\mathbb{Q})$ は $\operatorname{Gal}(M/\mathbb{Q})$ の商として可換である。
2. $\operatorname{Gal}(L/K)$ のすべての元 $g$ について $\tilde cg\tilde c^{-1}=g^{-1}$ である。 制限 $\operatorname{Gal}(L/\mathbb{Q})\to\operatorname{Gal}(K/\mathbb{Q})$ は全射なので、$K$ への制限が $\sigma$ である $\tilde c$ がある。$K$ の素イデアル $\mathfrak{p}$ が素数 $p$ の上にあるとすると、2次体 の定理「2 次体における素数の分解法則」により次の 3 通りである。$p$ が分解するなら $p\mathcal{O}_K=\mathfrak{p}\sigma(\mathfrak{p})$。$p$ が惰性するなら $\mathfrak{p}=p\mathcal{O}_K=\sigma(\mathfrak{p})$ で、$\mathfrak{p}\sigma(\mathfrak{p})=p^2\mathcal{O}_K$。$p$ が分岐するなら $p\mathcal{O}_K=\mathfrak{p}^2$ で、$\sigma(\mathfrak{p})$ も $p$ の上の素イデアルなので $\sigma(\mathfrak{p})=\mathfrak{p}$、$\mathfrak{p}\sigma(\mathfrak{p})=p\mathcal{O}_K$。いずれの場合も $\mathfrak{p}\sigma(\mathfrak{p})$ は単項イデアルである。$K$ は実素点をもたないので $L/K$ はすべての素点で不分岐であり、Hilbert類体 の定理「Hilbert類体の存在と Artin 写像」の 1 により $\psi$ は単項イデアルを $1$ に写し、$I_K$ から $\operatorname{Gal}(L/K)$ への全射準同型である。よって $\psi(\sigma(\mathfrak{p}))=\psi(\mathfrak{p})^{-1}$ であり、lem-h12-conjugation と合わせて $\tilde c\,\psi(\mathfrak{p})\,\tilde c^{-1}=\psi(\mathfrak{p})^{-1}$ を得る。$g\mapsto\tilde cg\tilde c^{-1}$ と $g\mapsto g^{-1}$ はどちらも可換群 $\operatorname{Gal}(L/K)$ の準同型で、$I_K$ は素イデアルで生成されるので、両者は $\psi$ の像、すなわち $\operatorname{Gal}(L/K)$ 全体で一致する。
3. 矛盾。 1 により $\operatorname{Gal}(L/\mathbb{Q})$ は可換なので $\tilde cg\tilde c^{-1}=g$ であり、2 と合わせて $g=g^{-1}$、すなわち $g^2=1$ がすべての $g\in\operatorname{Gal}(L/K)$ で成り立つ。これは位数 $3$ 以上の元があることに反する。
最後の主張:$L$ は有限次なので有限個の元で生成され、$L\subset K\mathbb{Q}^{\mathrm{ab}}=\bigcup_nK(\zeta_n)$ なら、それらの元を含む $K(\zeta_{n_1}),\dots,K(\zeta_{n_k})$ はすべて $K(\zeta_N)$($N=n_1\cdots n_k$)に含まれ、$L\subset K(\zeta_N)$ となって矛盾する。$L\subset K^{\mathrm{ab}}$ なので $K^{\mathrm{ab}}\ne K\mathbb{Q}^{\mathrm{ab}}$ である。$\square$

$\mathbb{Q}(\sqrt{-23})$ の Hilbert 類体

$K=\mathbb{Q}(\sqrt{-23})$ の Hilbert 類体 $H_K$ は $X^3-X-1$ の $\mathbb{Q}$ 上の最小分解体で、$[H_K:K]=3$、$K$ のどの素イデアルも $H_K$ で分岐しない(Hilbert類体 の記事の例「$\mathbb{Q}(\sqrt{-23})$ の Hilbert 類体」)。$\operatorname{Gal}(H_K/K)$ は位数 $3$ の巡回群なので、prop-h12-roots-insufficient により $H_K$ はどの $K(\zeta_n)$ にも含まれない。実際 $\operatorname{Gal}(H_K/\mathbb{Q})$ は 3 次対称群で可換でない。一方 thm-h12-imaginary-quadratic の 1 により $H_K=K(j(E))$($\operatorname{End}(E)\cong\mathcal{O}_K$)であり、$H_K$ は $j$ の特殊値で生成される。

$\mathbb{Q}(\sqrt{-5})$ の Hilbert 類体

$K=\mathbb{Q}(\sqrt{-5})$ の Hilbert 類体は $H_K=K(i)$ で、$[H_K:K]=2$ である(Hilbert類体 の記事の例「$\mathbb{Q}(\sqrt{-5})$ の Hilbert 類体」)。$i=\zeta_4$ なので $H_K=K(\zeta_4)$ であり、この $H_K$ は 1 の冪根で作れる。$\operatorname{Gal}(H_K/K)$ は位数 $2$ で、prop-h12-roots-insufficient の仮定を満たさない。

反例:条件を外すと成り立たない

外す条件反例成り立たなくなること
$\operatorname{Gal}(L/K)$ が位数 $3$ 以上の元をもつ(prop-h12-roots-insufficient)$K=\mathbb{Q}(\sqrt{-5})$、$L=K(i)$$L\not\subset K(\zeta_n)$。実際は $L=K(\zeta_4)$
$K$ のどの素イデアルも $L$ で分岐しない(prop-h12-roots-insufficient)$K=\mathbb{Q}(i)$、$L=K(\zeta_7)$$L\not\subset K(\zeta_n)$。実際は $n=7$ で含まれる
反例の確認
各反例の確認を開く
  1. ex-h12-minus5 のとおり $L/K$ は 2 次の Abel 拡大で、$K$ のどの素イデアルも分岐しない。$\operatorname{Gal}(L/K)$ の位数は $2$ なので位数 $3$ 以上の元はなく、$L=K(\zeta_4)$ である。
  2. $\mathbb{Q}(\zeta_7)$ のただ 1 つの 2 次部分体は $\mathbb{Q}(\sqrt{-7})$ なので(円分体 の系「円分体の2次部分体」)、$K\cap\mathbb{Q}(\zeta_7)=\mathbb{Q}$ であり、制限により $\operatorname{Gal}(K(\zeta_7)/K)\cong\operatorname{Gal}(\mathbb{Q}(\zeta_7)/\mathbb{Q})\cong(\mathbb{Z}/7\mathbb{Z})^\times$ は位数 $6$ の巡回群で、位数 $3$ と $6$ の元をもつ。$L/K$ は Abel 拡大で、$K$ の $7$ の上の素イデアルは $L$ で分岐する。実際、$L$ の $7$ の上の素イデアル $\mathfrak{Q}$ の $\mathbb{Q}$ 上の分岐指数は、$\mathbb{Q}(\zeta_7)$ を経由すると $7$ がそこで完全分岐する(分岐指数 $6$)ので $6$ の倍数であり(円分体 の定理「円分体における素数の分解」)、$K$ を経由すると $7$ は $K$ で分岐しない(2次体 の系「分岐する素数」)ので $L/K$ での分岐指数に等しい(代数体における素イデアルの分解 の命題「分岐指数と剰余次数の乗法性」)。よって $L/K$ での分岐指数は $6$ 以上で、$1$ でない。$L\subset K(\zeta_7)$ は定義から明らかである。

補足

問題の難しさ

prop-h12-roots-insufficient が示すように、基礎体を大きくすると、$\mathbb{Q}$ の Abel 拡大を合成するだけでは足りない Abel 拡大が現れ、それを作るには基礎体ごとに新しい数の族が要る。虚 2 次体ではそれが楕円曲線(1 次元の CM アーベル多様体)の $j$ 不変量と等分点であり、CM 体では高次元の CM アーベル多様体が同じ役を部分的に果たす。総実体は CM の構造をもたず、複素解析的な特殊値による構成は知られていない。DK23 の構成は $p$ 進解析を使って総実体の場合に答えたものである。

関連項目

参考文献

[1]
David Hilbert (translated by Mary Winston Newson), Mathematical Problems, Bull. Amer. Math. Soc., 1902, pp. 458–460(第 12 問題)
[3]
Jürgen Neukirch, Algebraic Number Theory, Grundlehren der mathematischen Wissenschaften 322, Springer, 1999, Chapter VI, §6:p. 401(Kronecker の青春の夢)、(6.10) Theorem と (6.11) Theorem(pp. 402–403)

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