否定

同義語:論理否定negation

概要

否定(negation)とは、命題 $P$ に対し、$P$ が偽のとき真、真のとき偽となる命題 $\lnot P$(「$P$ でない」)を作る論理結合子である。$\lnot P$ は、$P$ とどの場合もちょうど一方だけが真になる主張として論理的同値を除いてただ1つに決まり、両立しないだけの「反対」の主張とは異なる。量化を含む主張の否定は、$\forall$ と $\exists$、$\land$ と $\lor$ を入れ替え、含意 $\varphi\to\psi$ を $\varphi\land\lnot\psi$ に替えて否定を内側へ移せば得られ、量化の範囲の条件は変わらない。$\lnot(a\le b)$ を $b< a$ と書き換えてよいのは順序が全順序のときに限り、「十分先のすべての番号で成り立つ」の否定は「無限に多くの番号で成り立たない」である。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 論理と命題, 命題論理, 全称記号

命題 $P$ に対し、「$P$ でない」という命題を $P$ の 否定 といい、$\lnot P$ と書く。$P$ が真なら $\lnot P$ は偽、$P$ が偽なら $\lnot P$ は真である。定義はこれだけだが、数学で実際に否定を扱うときには、いくつかの点で注意が要る。「すべての $x$ で $P(x)$」の否定は「すべての $x$ で $P(x)$ でない」ではない。「$a\le b$」の否定は「$b< a$」とは限らない。「十分先のすべての $n$ で」の否定は「無限に多くの $n$ で〜でない」になる。この記事では、否定を「真偽がちょうど入れ替わる相手」として特徴付け(thm-neg-contradictory)、量化を含む命題の否定を機械的に作る規則を証明し(thm-neg-push)、順序関係の否定(thm-neg-order)と、番号についての主張の否定(prop-neg-eventually)を扱う。
結合子どうしの関係(De Morgan の法則、二重否定、含意の書き換え)は De Morganの法則、論理的同値、含意 の記事で、量化子 $\forall,\exists$ の否定の基本の規則は 全称記号 の記事で証明されている。ここではそれらを使う。

定義

否定

命題 $P$ に対し、$P$ が偽のとき真、$P$ が真のとき偽である命題を $P$ の 否定(negation)といい、$\lnot P$ と書いて「$P$ でない」と読む。

$P$$\lnot P$
$\mathrm{T}$$\mathrm{F}$
$\mathrm{F}$$\mathrm{T}$

命題論理 では、論理式 $\varphi$ から論理式 $\lnot\varphi$ を作る結合子として扱い、付値 $v$ のもとで $v(\lnot\varphi)=\mathrm{T}$ となるのは $v(\varphi)=\mathrm{F}$ のときに限ると定める。$x$ を含む条件 $P(x)$ についても、各 $x$ ごとに $\lnot P(x)$ を同じ表で定める。

記号は $\lnot P$ のほかに $\sim P$、$\overline{P}$ も使われる(Ham18 §2.2、p. 41 は $\sim P$)。関係を表す記号に斜線を引いた $a\ne b$、$a\notin A$、$a\nmid b$、$A\not\subset B$、$a\not\le b$ は、それぞれ $\lnot(a=b)$、$\lnot(a\in A)$、$\lnot(a\mid b)$、$\lnot(A\subset B)$、$\lnot(a\le b)$ の略記である。真理値は $\mathrm{T}$(真)と $\mathrm{F}$(偽)で書く。
表から、$\lnot\lnot P$ と $P$ はどの場合も同じ真偽をとる(二重否定)。また $P$ と $\lnot P$ のちょうど一方が真なので、$P\lor\lnot P$ はつねに真(排中律)、$P\land\lnot P$ はつねに偽(矛盾律)である。二重否定と排中律は 論理と命題 の記事の命題「基本的な恒真式」と定理「排中の法則」でも示されている。
命題の否定を求めることを、命題を 否定する という。否定した命題は、もとの命題が偽であることを主張する。もとの命題が偽であることを示したいときに否定を正しく書けることは、背理法 で仮定を立てるときや、反例を挙げるときの前提になる。

矛盾・反対・小反対

論理式 $\varphi,\psi$ について、

  1. どの付値でも $\varphi,\psi$ のちょうど一方が真であるとき、$\varphi$ と $\psi$ は 矛盾の関係 にある(contradictory)という。
  2. どの付値でも $\varphi,\psi$ がともに真になることはないとき、反対の関係 にある(contrary)という。
  3. どの付値でも $\varphi,\psi$ がともに偽になることはないとき、小反対の関係 にある(subcontrary)という。
    量化を含む命題についても、範囲の集合 $X$ を固定し、付値の代わりに $X$ 上の条件 $P(x)$ を動かして、同じ言葉を使う(prop-neg-square)。

矛盾の関係は、反対の関係と小反対の関係を同時に満たすことと同じである。日常の言葉で「反対」というと、「暑い」と「寒い」のように両立しないものを指すことが多いが、これは反対の関係であって、否定(矛盾の関係)ではない。暑くも寒くもない日があるからである。

直感

否定は、主張が正しい場合と正しくない場合をちょうど入れ替える操作である。ベン図で考えると、$P(x)$ を満たす $x$ の集まりの補集合が、$\lnot P(x)$ を満たす $x$ の集まりである(補集合)。
命題を否定するとき間違えやすいのは、「反対のことを言う」と「否定する」を混同する場合である。「すべての学生が合格した」の否定は「ある学生は合格しなかった」であって、「すべての学生が不合格だった」ではない。後者は前者の反対(両方とも偽になりうる)にすぎない。全称の否定は存在になり、存在の否定は全称になる。ただし、量化の範囲(「学生」)は変わらない。「学生でない人が合格した」とはならない。否定は条件の部分にだけかかり、範囲の部分にはかからない。

例

単射でないこと

写像 $f\colon X\to Y$ が 単射 であるとは $\forall x\in X\ \forall x'\in X\ \bigl(f(x)=f(x')\to x=x'\bigr)$ であった。否定を外側から内側へ移すと
$$ \exists x\in X\ \exists x'\in X\ \bigl(f(x)=f(x')\land x\ne x'\bigr) $$
となる。すなわち、$f$ が単射でないとは、異なる 2 点で同じ値をとることである。含意 $A\to B$ の否定は $A\land\lnot B$ になる(論理的同値 の記事の例「基本的な論理的同値」の「含意の書き換え」)。たとえば $f(x)=x^2$($\mathbb{R}\to\mathbb{R}$)は $f(1)=f(-1)$、$1\ne-1$ なので単射でない。

一様連続でないこと

$f\colon\mathbb{R}\to\mathbb{R}$ が一様連続であるとは
$$ \forall\varepsilon>0\ \exists\delta>0\ \forall x\in\mathbb{R}\ \forall y\in\mathbb{R}\ \bigl(\lvert x-y\rvert< \delta\to\lvert f(x)-f(y)\rvert< \varepsilon\bigr) $$
であった。否定は
$$ \exists\varepsilon>0\ \forall\delta>0\ \exists x\in\mathbb{R}\ \exists y\in\mathbb{R}\ \bigl(\lvert x-y\rvert< \delta\land\lvert f(x)-f(y)\rvert\ge\varepsilon\bigr) $$
である。$\varepsilon>0$、$\delta>0$ という範囲はそのまま残り、量化子だけが入れ替わる。$f(x)=x^2$ では $\varepsilon=1$ とし、$\delta>0$ が与えられたら $x=1/\delta$、$y=1/\delta+\delta/2$ とおくと、$\lvert x-y\rvert=\delta/2< \delta$ で、$\lvert f(y)-f(x)\rvert=(y-x)(y+x)=\frac{\delta}{2}\bigl(\frac2\delta+\frac\delta2\bigr)=1+\frac{\delta^2}4\ge1$ なので、一様連続でない。

上に有界でないこと

実数の集合 $S$ が上に有界であるとは $\exists M\in\mathbb{R}\ \forall s\in S\ (s\le M)$ である。否定は $\forall M\in\mathbb{R}\ \exists s\in S\ (s>M)$ で、どんな数 $M$ をとっても、それを超える元が $S$ にあるということである。ここで $\lnot(s\le M)$ を $s>M$ と書き換えたのは、実数の大小が全順序だからである(thm-neg-order)。$S=\mathbb{N}$ は、$M$ に対して $M$ より大きい自然数がある(Archimedes の性質)ので上に有界でない。

数列が収束しないこと、関数が連続でないこと、ただ 1 つ存在するのでないことの書き下しは、それぞれ De Morganの法則 の記事の例「収束しないことの言い換え」、全称記号 の記事の例「不連続であることの書き下し」、一意存在記号 の記事の命題「一意存在の否定」にある。

性質

否定は真偽をちょうど入れ替える相手

論理式の間の 論理的帰結 $\psi\vDash\chi$($\psi$ を真にするどの付値でも $\chi$ が真)と 論理的同値 $\psi\equiv\chi$(どの付値でも同じ真理値)は、命題論理 の記事の定義「恒真式・充足可能性・論理的帰結」と 論理的同値 の記事のとおりに使う。

矛盾・反対・小反対の特徴付け

論理式 $\varphi,\psi$ について次が成り立つ。

  1. $\varphi$ と $\psi$ が矛盾の関係にあることと、$\psi\equiv\lnot\varphi$ は同値である。
  2. $\varphi$ と $\psi$ が反対の関係にあることと、$\psi\vDash\lnot\varphi$ は同値である。
  3. $\varphi$ と $\psi$ が小反対の関係にあることと、$\lnot\varphi\vDash\psi$ は同値である。
    したがって、$\varphi$ と反対の関係にある論理式はすべて $\lnot\varphi$ より強く($\lnot\varphi$ を帰結し)、小反対の関係にある論理式はすべて $\lnot\varphi$ より弱い($\lnot\varphi$ から帰結する)。$\varphi$ と反対かつ小反対の関係にある論理式は、論理的同値を除いて $\lnot\varphi$ だけである。

付値 $v$ を任意にとる。def-neg-main により $v(\lnot\varphi)=\mathrm{T}$ と $v(\varphi)=\mathrm{F}$ は同値である。
1:矛盾の関係にあるとは、どの $v$ でも「$v(\psi)=\mathrm{T}$ と $v(\varphi)=\mathrm{F}$ が同値」ということであり、これは「$v(\psi)=v(\lnot\varphi)$」と同じである。すべての $v$ でこれが成り立つことが $\psi\equiv\lnot\varphi$ である。
2:反対の関係にあるとは、どの $v$ でも「$v(\psi)=\mathrm{T}$ かつ $v(\varphi)=\mathrm{T}$」とならないこと、すなわち $v(\psi)=\mathrm{T}$ なら $v(\varphi)=\mathrm{F}$、つまり $v(\lnot\varphi)=\mathrm{T}$ となることである。これが $\psi\vDash\lnot\varphi$ である。
3:小反対の関係にあるとは、どの $v$ でも「$v(\psi)=\mathrm{F}$ かつ $v(\varphi)=\mathrm{F}$」とならないこと、すなわち $v(\lnot\varphi)=\mathrm{T}$($v(\varphi)=\mathrm{F}$)なら $v(\psi)=\mathrm{T}$ となることである。これが $\lnot\varphi\vDash\psi$ である。
最後の主張:反対かつ小反対なら、2 と 3 から $\psi\vDash\lnot\varphi$ と $\lnot\varphi\vDash\psi$ がともに成り立つ。両方向に帰結し合う 2 つの論理式は論理的に同値である(論理的同値 の記事の命題「論理的同値の言い換え」)ので、$\psi\equiv\lnot\varphi$ である。逆に $\lnot\varphi$ 自身は、1 により矛盾の関係、したがって反対かつ小反対の関係にある。$\square$

この定理は、否定が「もとの主張と両立せず、しかも両方が外れることもない」ただ 1 つの主張であることを述べている。主張を否定するつもりで反対の主張を書くと、1 の条件のうち「両方が外れることはない」が失われる。
量化を含む命題では、条件 $P$ を動かしたときの関係として、次のようになる。$X$ を集合とし、$X$ の各元 $x$ について真偽が定まる条件 $P(x)$ を考える。

量化された命題の対当関係
  1. どんな集合 $X$ と条件 $P$ についても、「$\forall x\in X\ P(x)$」と「$\exists x\in X\ \lnot P(x)$」の真偽はちょうど一方が真である。「$\exists x\in X\ P(x)$」と「$\forall x\in X\ \lnot P(x)$」も同様である。
  2. $X\ne\emptyset$ なら、どんな条件 $P$ についても、「$\forall x\in X\ P(x)$」と「$\forall x\in X\ \lnot P(x)$」がともに真になることはなく、「$\exists x\in X\ P(x)$」と「$\exists x\in X\ \lnot P(x)$」がともに偽になることはない。また「$\forall x\in X\ P(x)$」が真なら「$\exists x\in X\ P(x)$」も真である。
  3. $X$ が 2 個以上の元をもてば、「$\forall x\in X\ P(x)$」と「$\forall x\in X\ \lnot P(x)$」がともに偽になる条件 $P$ がある。$X=\emptyset$ なら、どんな $P$ についても「$\forall x\in X\ P(x)$」と「$\forall x\in X\ \lnot P(x)$」はともに真で、「$\exists x\in X\ P(x)$」と「$\exists x\in X\ \lnot P(x)$」はともに偽である。

1:全称記号 の記事の命題「量化された命題の否定」により、$\lnot\bigl(\forall x\in X\ P(x)\bigr)$ と $\exists x\in X\ \lnot P(x)$ は同値であり、$\lnot\bigl(\exists x\in X\ P(x)\bigr)$ と $\forall x\in X\ \lnot P(x)$ は同値である。命題とその否定はちょうど一方が真なので、主張が従う。
2:$x_0\in X$ をとる。「$\forall x\in X\ P(x)$」と「$\forall x\in X\ \lnot P(x)$」がともに真なら $P(x_0)$ と $\lnot P(x_0)$ がともに真となり、ありえない。「$\exists x\in X\ P(x)$」と「$\exists x\in X\ \lnot P(x)$」がともに偽なら、1 により「$\forall x\in X\ \lnot P(x)$」と「$\forall x\in X\ P(x)$」がともに真となり、いま示したことに反する。最後の主張は、$P(x_0)$ が真になることから従う(全称記号 の記事の命題「全称命題は存在命題を含意する」)。
3:$a\ne b$ を $X$ の元とし、$P(x)$ を「$x=a$」とする。$P(b)$ が偽なので「$\forall x\in X\ P(x)$」は偽、$P(a)$ が真なので「$\forall x\in X\ \lnot P(x)$」も偽である。$X=\emptyset$ のとき、$\forall x\in\emptyset$ で始まる命題は条件を満たさない元が 1 つもないので真であり、$\exists x\in\emptyset$ で始まる命題は条件を満たす元が 1 つもないので偽である(全称記号 の記事の注意「空集合上の量化」)。$\square$

4 つの命題「$\forall P$」「$\forall\lnot P$」「$\exists P$」「$\exists\lnot P$」($x\in X$ を略した)の関係をまとめると次のようになる。対角線の 2 組だけが矛盾の関係(否定どうし)である。

組関係($X\ne\emptyset$ のとき)$X=\emptyset$ のとき
$\forall P$ と $\exists\lnot P$矛盾矛盾($\mathrm{T}$ と $\mathrm{F}$)
$\exists P$ と $\forall\lnot P$矛盾矛盾($\mathrm{F}$ と $\mathrm{T}$)
$\forall P$ と $\forall\lnot P$反対ともに $\mathrm{T}$
$\exists P$ と $\exists\lnot P$小反対ともに $\mathrm{F}$
$\forall P$ から $\exists P$成り立つ成り立たない

量化を含む命題の否定の作り方

数学の主張は、基本の条件($x=y$、$x< y$、$x\in A$、$f(x)=0$ など)から、$\lnot,\land,\lor,\to$ と、範囲つきの量化
$$ \forall x\,[\theta]\ \varphi:=\forall x\,(\theta\to\varphi),\qquad \exists x\,[\theta]\ \varphi:=\exists x\,(\theta\land\varphi) $$
を使って組み立てられている。ここで $\theta$ は $x$ の動く範囲を表す条件で、「$\forall\varepsilon>0$」は $\forall\varepsilon\,[\varepsilon>0]$、「$\forall x\in A$」は $\forall x\,[x\in A]$ のことである。$\theta$ はほかの変数を含んでよい(「$\forall n\ge N$」の $\theta$ は $n\ge N$)。範囲の条件を何もつけない量化は、$\theta$ をつねに真な条件とした場合とみなす。
主張 $\varphi$ に対し、2 つの主張 $N(\varphi)$、$\overline{N}(\varphi)$ を、$\varphi$ の組み立てに沿って次のように定める。基本の条件 $\alpha$ については $N(\alpha):=\alpha$、$\overline{N}(\alpha):=\lnot\alpha$ とし、
$$ \begin{aligned} N(\lnot\varphi)&:=\overline{N}(\varphi), & \overline{N}(\lnot\varphi)&:=N(\varphi),\\ N(\varphi\land\psi)&:=N(\varphi)\land N(\psi), & \overline{N}(\varphi\land\psi)&:=\overline{N}(\varphi)\lor\overline{N}(\psi),\\ N(\varphi\lor\psi)&:=N(\varphi)\lor N(\psi), & \overline{N}(\varphi\lor\psi)&:=\overline{N}(\varphi)\land\overline{N}(\psi),\\ N(\varphi\to\psi)&:=\overline{N}(\varphi)\lor N(\psi), & \overline{N}(\varphi\to\psi)&:=N(\varphi)\land\overline{N}(\psi),\\ N(\forall x\,[\theta]\,\varphi)&:=\forall x\,[\theta]\,N(\varphi), & \overline{N}(\forall x\,[\theta]\,\varphi)&:=\exists x\,[\theta]\,\overline{N}(\varphi),\\ N(\exists x\,[\theta]\,\varphi)&:=\exists x\,[\theta]\,N(\varphi), & \overline{N}(\exists x\,[\theta]\,\varphi)&:=\forall x\,[\theta]\,\overline{N}(\varphi) \end{aligned} $$
とする。範囲の条件 $\theta$ には手を加えない。

否定を内側へ移す規則

上のように組み立てた任意の主張 $\varphi$ と、変数の動く集合、基本の条件の意味、$\varphi$ に現れる自由な変数の値を 1 つ固定するごとに、

  1. $N(\varphi)$ と $\varphi$ の真偽は一致し、
  2. $\overline{N}(\varphi)$ と $\lnot\varphi$ の真偽は一致する。
    さらに、$N(\varphi)$ と $\overline{N}(\varphi)$ では、範囲の条件の外にある否定記号は、どれも基本の条件の直前にだけ現れる。

$\varphi$ の組み立てについての帰納法で、1 と 2 を同時に示す。最後の主張は、定義の各行の右辺で否定記号が基本の条件の直前にしか新たに現れないことから、同じ帰納法で従う。
基本の条件 $\alpha$ では、定義から明らかである。
$\varphi$ が $\lnot\varphi_1$、$\varphi_1\land\varphi_2$、$\varphi_1\lor\varphi_2$、$\varphi_1\to\varphi_2$ の形のとき:自由な変数の値を固定すると、各部分 $\varphi_i$ の真偽が決まり、帰納法の仮定により $N(\varphi_i)$ は $\varphi_i$ と、$\overline{N}(\varphi_i)$ は $\lnot\varphi_i$ と同じ真偽をもつ。あとは二重否定、De Morgan の法則、含意の書き換え(論理的同値 の記事の例「基本的な論理的同値」)を真偽の計算として使えばよい。これは 論理的同値 の記事の定理「否定標準形の存在」の証明と同じ計算である。
$\varphi=\forall x\,[\theta]\,\varphi_1$ のとき:$x$ 以外の自由な変数の値を固定し、$\theta$ が真になる $x$ の全体を $X$ とする。$\varphi$ が真であることは「すべての $x\in X$ について $\varphi_1$ が真」と同じである($\theta$ が偽の $x$ では $\theta\to\varphi_1$ は真なので、条件にならない)。帰納法の仮定を各 $x\in X$ に当てると、$\varphi_1$ と $N(\varphi_1)$ は各 $x$ で同じ真偽をもつので、$\forall x\,[\theta]\,N(\varphi_1)$ は $\varphi$ と同じ真偽をもつ。これが 1 である。2 については、全称記号 の記事の命題「量化された命題の否定」により
$$ \lnot\bigl(\forall x\in X\ \varphi_1\bigr)\iff\exists x\in X\ \lnot\varphi_1 $$
であり、帰納法の仮定から右辺の $\lnot\varphi_1$ を各 $x$ で $\overline{N}(\varphi_1)$ に置き換えてよい。$\exists x\in X\ \overline{N}(\varphi_1)$ は $\exists x\,(\theta\land\overline{N}(\varphi_1))=\exists x\,[\theta]\,\overline{N}(\varphi_1)$ と同じ真偽をもつので、2 が成り立つ。
$\varphi=\exists x\,[\theta]\,\varphi_1$ のときも、同じ $X$ をとれば $\varphi$ は「ある $x\in X$ について $\varphi_1$」と同じであり、同じ命題の 2 つ目の式 $\lnot(\exists x\in X\ \varphi_1)\iff\forall x\in X\ \lnot\varphi_1$ を使って同様に示される。$\square$

この定理の手順で否定を作ると、次の 3 つのことが同時に起こる:$\forall$ と $\exists$ が入れ替わる、$\land$ と $\lor$ が入れ替わる、$\varphi\to\psi$ が $\varphi\land\lnot\psi$ になる。そして 範囲の条件 $\theta$ は変わらない。「$\forall\varepsilon>0$」の否定は「$\exists\varepsilon>0$」で始まり、「$\exists\varepsilon\le0$」とはならない。Ham18 §2.10(pp. 59–62)も同じ手順を例で示している。

順序関係の否定

否定の作り方の最後の段では、$\lnot(\lvert a_n-a\rvert< \varepsilon)$ を $\lvert a_n-a\rvert\ge\varepsilon$ と書き換えることが多い。これは実数の大小が 全順序 だから許される書き換えで、一般の順序では成り立たない。

順序の否定と全順序

$(P,\le)$ を 半順序 集合とし、$a< b$ を「$a\le b$ かつ $a\ne b$」と定める。次の 3 条件は同値である。

  1. $\le$ は全順序である(どの $a,b\in P$ についても $a\le b$ または $b\le a$)。
  2. どの $a,b\in P$ についても、$\lnot(a\le b)$ と $b< a$ は同値である。
  3. どの $a,b\in P$ についても、$\lnot(a< b)$ と $b\le a$ は同値である。
    また、半順序集合ではいつでも、$b< a$ なら $\lnot(a\le b)$ が成り立つ。

最後の主張から示す。$b< a$ かつ $a\le b$ とすると、$b\le a$ と $a\le b$ から反対称律により $a=b$ となり、$b< a$ の $b\ne a$ に反する。
1 ⇒ 2:$b< a$ なら $\lnot(a\le b)$ は最後の主張である。逆に $\lnot(a\le b)$ とする。全順序なので $b\le a$ である。$b=a$ なら反射律から $a\le b$ となって仮定に反するので $b\ne a$、よって $b< a$ である。
2 ⇒ 3:2 を $a,b$ を入れ替えて使うと、$\lnot(b\le a)$ と $a< b$ が同値である。両辺を否定すると、二重否定により $b\le a$ と $\lnot(a< b)$ が同値になる。これが 3 である。
3 ⇒ 1:$a,b\in P$ をとる。$a< b$ なら $a\le b$ である。$\lnot(a< b)$ なら、3 により $b\le a$ である。どちらの場合も $a\le b$ または $b\le a$ が成り立つ。$\square$

一般の半順序集合では、$\lnot(a\le b)$ は「$b< a$ であるか、または $a$ と $b$ が比較できない」ことである。集合の包含では、$A\not\subset B$ は「$B\subsetneq A$」ではなく「$A$ に属し $B$ に属さない元がある」ことである。$\{1\}\not\subset\{2\}$ だが $\{2\}\subsetneq\{1\}$ でもない。正の整数の整除の順序でも、$2\nmid3$ だが $3\mid2$ でもない。

「十分先で」の否定

数列や番号についての主張では、「ある番号から先のすべての $n$ で」という形がよく現れる。その否定は「無限に多くの $n$ で〜でない」と言い換えられる。

十分先の否定と無限に多くの番号

$\mathbb{N}$ の各元 $n$ について真偽が定まる条件 $P(n)$ に対し、次の 3 つは同値である。

  1. $\lnot\bigl(\exists N\in\mathbb{N}\ \forall n\ge N\ P(n)\bigr)$。
  2. $\forall N\in\mathbb{N}\ \exists n\ge N\ \lnot P(n)$。
  3. $S:=\{n\in\mathbb{N}\mid\lnot P(n)\}$ は無限集合である。

1 ⇔ 2:thm-neg-push をそのまま当てると、1 の否定は外側から $\forall N\,\overline{N}(\forall n\ge N\ P(n))=\forall N\ \exists n\ge N\ \lnot P(n)$ となる。範囲の条件 $n\ge N$ は変わらない。
3 ⇒ 2:$S$ が無限集合で $N\in\mathbb{N}$ とする。$\{0,1,\dots,N-1\}$ は有限集合なので、$S$ はこれに含まれない。よって $n\ge N$ を満たす $n\in S$、すなわち $\lnot P(n)$ となる $n\ge N$ がある。
2 ⇒ 3:対偶を示す。$S$ が有限集合とする。$S=\emptyset$ なら $N=0$ とすれば、$n\ge N$ で $\lnot P(n)$ となる $n$ はない。$S\ne\emptyset$ なら、空でない有限集合 $S$ には最大元 $m$ があるので、$N:=m+1$ とすれば、$n\ge N$ となる $n$ は $S$ に属さない。どちらの場合も 2 が成り立たない。$\square$

たとえば「十分先のすべての $n$ で $a_n>0$」の否定は「$a_n\le0$ となる $n$ が無限に多くある」である。数列 $(a_n)$ が $a$ に収束しないことは(De Morganの法則 の記事の例「収束しないことの言い換え」)、この命題と合わせると「ある $\varepsilon>0$ について、$\lvert a_n-a\rvert\ge\varepsilon$ となる $n$ が無限に多くある」と言い換えられる。「無限に多くの $n$ で」と「十分先のすべての $n$ で」は否定で互いに移り合う。

古典論理以外での否定

ここまでの議論は、命題が真か偽のどちらか一方に決まるという古典論理の立場によっている。直観主義論理 では、$\lnot\varphi$ を「$\varphi$ を仮定すると矛盾が導ける」こと、すなわち $\varphi\to\bot$($\bot$ は矛盾を表す定数)として扱う。そこでも $\varphi\to\lnot\lnot\varphi$ と $\lnot\lnot\lnot\varphi\to\lnot\varphi$ は証明できるが(直観主義論理 の記事の命題「直観主義論理で証明できる式」)、二重否定の除去 $\lnot\lnot\varphi\to\varphi$ と排中律 $\varphi\lor\lnot\varphi$ は一般には証明できない(同じ記事の例「反例:3 元の鎖と排中律」)。真理値が $\mathrm{T},\mathrm{F}$ の 2 つだけであることを使う thm-neg-contradictory や thm-neg-push の証明は、直観主義論理にはそのままでは移せない。$\lnot P$ を示すために $P$ を仮定して矛盾を導くことはどちらの論理でも正しいが、$P$ を示すために $\lnot P$ を仮定して矛盾を導く 背理法 は、古典論理に特有の推論である(背理法 の記事の注意「直観主義論理では一般には使えない形」)。

条件を外した反例

外す条件反例成り立たなくなること
否定するとき $\forall$ を $\exists$ に替える$X=\mathbb{R}$、$P(x)$:$x^2>0$$\lnot\forall x\,P(x)$ と $\forall x\,\lnot P(x)$ が同値
範囲の条件 $\theta$ を変えない$\forall\varepsilon>0\ (\varepsilon>0)$否定を $\exists\varepsilon\le0\ \lnot(\varepsilon>0)$ と書いてよい
prop-neg-square の $X\ne\emptyset$$X=\emptyset$$\forall P$ と $\forall\lnot P$ が同時には真にならない
thm-neg-contradictory の矛盾の関係(反対だけにする)$X=\{1,2\}$、$P(x)$:$x=1$$\forall P$ が偽なら $\forall\lnot P$ が真
thm-neg-order の全順序$\{1,2\}$ の部分集合の包含$\lnot(A\subset B)$ と $B\subsetneq A$ が同値
古典論理3 元の鎖を真理値とする Heyting 代数$\lnot\lnot\varphi\equiv\varphi$
反例の確かめ

1 行目:$x=0$ で $x^2>0$ が偽なので $\lnot\forall x\,P(x)$ は真だが、$x=1$ で $P(1)$ が真なので $\forall x\,\lnot P(x)$ は偽である。2 行目:$\forall\varepsilon>0\ (\varepsilon>0)$ は真なので、その否定は偽である。正しい否定 $\exists\varepsilon>0\ \lnot(\varepsilon>0)$ は偽だが、範囲を補集合に替えた $\exists\varepsilon\le0\ \lnot(\varepsilon>0)$ は $\varepsilon=0$ で真になり、否定になっていない。3 行目:prf-neg-square の 3 で示した。4 行目:$P(2)$ が偽なので $\forall P$ は偽、$P(1)$ が真なので $\forall\lnot P$ も偽である。2 つの全称命題は反対の関係にあるが、矛盾の関係にはない。5 行目:$A=\{1\}$、$B=\{2\}$ では $A\not\subset B$ だが $B\subsetneq A$ でない。6 行目は 直観主義論理 の記事の例「反例:3 元の鎖と排中律」による。

関連項目

参考文献

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