一筆書きとグラフ(Euler trails and graphs)とは、図のすべての線を、同じ線を 2 度なぞらずに鉛筆を離さずかけるかという問題を、頂点と辺のつながり方だけを残したグラフの問題として扱うことである。頂点から出る辺の本数を次数といい、次数の和は辺の数の 2 倍に等しい(握手補題)ので、奇数次の頂点はいつも偶数個ある。Euler の定理により、連結で辺をもつグラフが一筆書きできるための必要十分条件は、奇数次の頂点が 0 個か 2 個であることで、0 個なら出発点に戻る一筆書きができ、2 個ならその 2 頂点を始点と終点とする一筆書きができる。奇数次の頂点が 4 個ある Königsberg の 7 本の橋は一筆書きできない。連結でないグラフでは、すべて偶数次でも一筆書きできないことがある。
紙から鉛筆を離さずに、同じ線を 2 度なぞらないで、図のすべての線をかくことを 一筆書き という。同じ点は何度通ってもよい。線を 2 度なぞってはいけないだけである。
図によって、一筆書きできるものとできないものがある。まず 3 つの例を見る。
正方形 $P_1P_2P_3P_4$ に 2 本の対角線をかき、その交点を $O$ とする。さらに上の辺 $P_4P_3$ の上に三角形の屋根 $P_4RP_3$ をのせる(図1 の左)。線は、正方形の 4 辺、対角線を $O$ で区切った 4 本($P_1O$、$OP_3$、$P_2O$、$OP_4$)、屋根の 2 本($P_4R$、$RP_3$)の、合わせて $10$ 本である。
$P_1$ から始めて、次の順にたどる。
$$
P_1\to P_2\to O\to P_1\to P_4\to O\to P_3\to P_4\to R\to P_3\to P_2
$$
通った線を順に書くと、$P_1P_2$、$P_2O$、$OP_1$、$P_1P_4$、$P_4O$、$OP_3$、$P_3P_4$、$P_4R$、$RP_3$、$P_3P_2$ の $10$ 本で、どれも 1 回ずつ現れ、$10$ 本すべてを通っている。よって家の形は一筆書きできる。始点は $P_1$、終点は $P_2$ で、出発点には戻っていない。
家の形から屋根の 2 本を取り除いた図(正方形と 2 本の対角線。図1 の右)を考える。線は $8$ 本である。いろいろな点から始めて試しても、どうしても線が残ってしまう。たとえば $P_1\to P_2\to O\to P_1\to P_4\to O\to P_3$ とたどると、$P_2P_3$ と $P_3P_4$ の 2 本が残る。$P_3$ から $P_4$ へ進んでも $P_2P_3$ が残り、$P_2$ へ進んでも $P_3P_4$ が残る。
試した順番がまずかっただけなのか、どうやっても無理なのかは、試すだけでは分からない。どうやっても無理であることは、後の ex-epg-envelope-proof で証明する。
家の形(左)と封筒の形(右)。点の横の括弧内の数は、その点から出ている線の本数(次数)である。赤は奇数、青は偶数で、家の形では奇数の点が 2 個、封筒の形では 4 個あることを見る図。
18 世紀のプロイセンの町 Königsberg(ケーニヒスベルク)には川が流れ、中の島 $A$、北岸 $B$、南岸 $C$、東の陸地 $D$ の 4 つの陸地が、7 本の橋で結ばれていた(図2 の左)。橋のつながり方は次のとおりである。
| 結ぶ陸地 | $A$–$B$ | $A$–$C$ | $A$–$D$ | $B$–$D$ | $C$–$D$ |
|---|---|---|---|---|---|
| 橋の本数 | $2$ | $2$ | $1$ | $1$ | $1$ |
「7 本の橋をちょうど 1 回ずつ渡って町を歩くことはできるか」という問いが知られていた。陸地を点、橋を線でかくと(図2 の右)、これはその図の一筆書きの問題になる。Euler はこの問いを考え、できないことを示した(Eul41)。KT17 §5.3(p. 75)は Euler がこの問題を 1736 年に解決したとする。論文はペテルブルク科学アカデミー紀要の 1736 年の巻に載ったが、その巻の刊行は 1741 年である。本記事では ex-epg-konigsberg-answer で答える。
Königsberg の 4 つの陸地と 7 本の橋の模式図(左)と、陸地を点、橋を線にかき直した図(右)。橋を渡る順番だけが問題なので、陸地の形や広さを捨てて点にしてよいことを見る図。右の図の括弧内は、その点から出ている線の本数である。
3 つの例から、次の問いが出てくる。
| 高校の図と操作 | この記事での言葉 | ボックス |
|---|---|---|
| 点と、点を結ぶ線 | グラフの頂点と辺 | def-epg-graph |
| 点から出ている線の本数 | 頂点の次数 | def-epg-graph |
| 線の本数を点ごとに数えて足す | 次数の和は辺の数の 2 倍 | thm-epg-degree-sum |
| 鉛筆を離さずになぞる | 辺を重複しない道筋 | def-epg-trail |
| 一筆書きできるかどうか | 奇数次の頂点が 0 個か 2 個か | thm-epg-euler |
一筆書きでは、線の長さや曲がり方、点の位置は関係がない。関係があるのは「どの点とどの点が、何本の線で結ばれているか」だけである。そこで、それだけを取り出す。
有限個の 頂点 と、有限本の 辺 からなる図を グラフ という。各辺は、異なる 2 つの頂点を結ぶ。辺 $e$ が頂点 $u$ と $v$ を結ぶとき、$u$、$v$ を $e$ の 端点 という。同じ 2 頂点を結ぶ辺が 2 本以上あってもよい。
頂点 $v$ を端点にもつ辺の本数を、$v$ の 次数 といい、$\deg v$ と書く。次数が偶数の頂点を 偶数次の頂点、奇数の頂点を 奇数次の頂点 という。
大学のグラフ理論(グラフ)では、同じ 2 頂点を結ぶ辺を 1 本までに限ることが多い。Königsberg の橋では $A$ と $B$ が 2 本の橋で結ばれているので、この記事では 2 本以上を許す(大学の言葉では 多重グラフ という)。一方、辺の両端が同じ頂点であるもの(ループ)は、この記事では考えない。ループについては rem-epg-loop で触れる。
次に、鉛筆でなぞる動きを言葉にする。
グラフの頂点 $v_0,v_1,\dots,v_k$ と辺 $e_1,e_2,\dots,e_k$ を
$$
v_0,\ e_1,\ v_1,\ e_2,\ v_2,\ \dots,\ e_k,\ v_k
$$
と交互に並べたもので、各 $i=1,\dots,k$ について辺 $e_i$ が $v_{i-1}$ と $v_i$ を結ぶものを、$v_0$ から $v_k$ への 道筋 という。$k$ を道筋の 長さ、$v_0$ を 始点、$v_k$ を 終点 という。同じ頂点が何度現れてもよい。
2 頂点を結ぶ辺が 1 本しかないときは、辺の名前を書かずに頂点だけを $v_0\to v_1\to\dots\to v_k$ と並べて道筋を表す。ex-epg-house の道順は、この書き方をした長さ $10$ の一筆書きである。Königsberg のように 2 本の辺があるときは、どちらの辺を通るかも区別する。
家の形(ex-epg-house)で考える。
ex-epg-degree の次数を足してみる。Königsberg では $5+3+3+3=14$ で、橋は $7$ 本である。家の形では $3+3+4+4+4+2=20$ で、辺は $10$ 本である。どちらも次数の和が辺の数のちょうど 2 倍になっている。これは偶然ではない。
グラフの頂点を $v_1,\dots,v_n$、辺の本数を $m$ とすると
$$
\deg v_1+\deg v_2+\dots+\deg v_n=2m
$$
が成り立つ。
方針:「頂点 $v$ と、$v$ を端点にもつ辺 $e$」の組 $(v,e)$ の個数 $N$ を、頂点ごとに数える方法と辺ごとに数える方法の 2 通りで数える。
段 1(頂点ごとに数える)。頂点 $v_i$ を決めると、$v_i$ を端点にもつ辺は、次数の定義(def-epg-graph)により $\deg v_i$ 本ある。よって $v_i$ を含む組は $\deg v_i$ 個あり、$i=1,\dots,n$ について足すと $N=\deg v_1+\dots+\deg v_n$ である。
段 2(辺ごとに数える)。辺 $e$ を決めると、$e$ の端点は異なる 2 つの頂点である(def-epg-graph。ループは考えないので、端点はちょうど 2 つ)。よって $e$ を含む組はちょうど $2$ 個ある。辺は $m$ 本あるので、$N=2m$ である。
段 3。同じ $N$ を数えたので、段 1 と段 2 の結果は等しい。$\square$
この定理は、パーティーで何人かが握手をするとき、「各人が握手した回数の合計は、握手の回数の 2 倍」という形で知られ、握手補題 と呼ばれる。人を頂点、握手を辺と見ればよい(1 回の握手には 2 人が加わる)。このように同じものを 2 通りに数える方法は、場合の数の数え方の体系 でも使う。
どのグラフでも、奇数次の頂点の個数は偶数である。
方針:thm-epg-degree-sum から次数の和は偶数である。偶数次の頂点の分を引いて、奇数次の頂点の次数の和の偶奇を調べる。
段 1。奇数次の頂点の次数の和を $S_{\text{奇}}$、偶数次の頂点の次数の和を $S_{\text{偶}}$ とする。すべての頂点の次数の和は $S_{\text{奇}}+S_{\text{偶}}$ で、thm-epg-degree-sum によりこれは $2m$($m$ は辺の本数)、つまり偶数である。
段 2。$S_{\text{偶}}$ は偶数の和なので偶数である。段 1 から $S_{\text{奇}}=2m-S_{\text{偶}}$ は偶数から偶数を引いたもので、偶数である。
段 3。奇数次の頂点が $r$ 個あるとする。奇数を $r$ 個足すと、$r$ が偶数なら和は偶数、$r$ が奇数なら和は奇数になる(奇数を 2 個ずつ組にすると、1 組の和は偶数であり、$r$ が奇数なら 1 個余る)。段 2 から $S_{\text{奇}}$ は偶数なので、$r$ は偶数である。$\square$
一筆書きの可否を決めるのは、次の数え方である。鉛筆が途中である頂点を「通過する」とき、その頂点に入る辺と出る辺の 2 本を使う。始点では出るだけ、終点では入るだけなので 1 本ずつである。
$v_0$ から $v_k$ への辺を重複しない道筋(長さ $k\ge1$)を考える。頂点 $v$ について、道筋の辺のうち $v$ を端点にもつものの本数を $t(v)$ とする。
方針:道筋 $v_0,e_1,v_1,\dots,e_k,v_k$ の並びの中で、頂点 $v$ が現れる場所ごとに、その場所の両隣にある辺を数える。
段 1($t(v)$ を並びで数え直す)。辺 $e_i$($1\le i\le k$)が $v$ を端点にもつのは、$v_{i-1}=v$ か $v_i=v$ のときである。ループはないので $v_{i-1}\ne v_i$ であり、この 2 つが同時に起こることはない。そこで、各 $i$ について「$e_i$ の左隣の $v_{i-1}$ が $v$」または「$e_i$ の右隣の $v_i$ が $v$」となる場所を数えると、$v$ を端点にもつ道筋の辺 1 本につき、ちょうど 1 回数えることになる。辺はすべて異なるので、こうして数えた回数が $t(v)$ に等しい。
段 2(場所ごとの寄与)。並びの中で $v$ が現れる場所を 1 つ決め、それを $v_j$ とする。
ex-epg-house の一筆書き $P_1\to P_2\to O\to P_1\to P_4\to O\to P_3\to P_4\to R\to P_3\to P_2$ は、すべての辺を通るので、$t(v)=\deg v$ である。
一筆書きを見つけるには、「行けるところまで進む」ことを繰り返せばよい。すべての頂点が偶数次なら、進めなくなるのは出発点に戻ったときだけである。
すべての頂点の次数が偶数のグラフで、次数が $1$ 以上の頂点 $u$ から出発し、まだ通っていない辺を 1 本選んで進むことを、進めなくなるまで繰り返す。このとき、手順は必ず終わり、終わったときにいる頂点は $u$ である。したがって、この手順で長さ $1$ 以上の辺を重複しない閉じた道筋が得られる。
方針:出発点以外の頂点 $w$ にいるときは、lem-epg-count により $w$ で使った辺が奇数本であり、次数が偶数なので、使っていない辺が必ず残っていることを示す。
段 1(手順は終わる)。1 回進むごとに、まだ通っていない辺を 1 本使う。辺は有限本なので、進む回数は辺の本数以下であり、手順は必ず終わる。また $\deg u\ge1$ なので、最初の 1 回は必ず進める。こうしてできる道筋を $u=v_0,e_1,v_1,\dots,e_k,v_k$($k\ge1$)とする。使った辺はすべて異なる。
段 2(出発点以外では進める)。ある時点で、$u$ から $w$ への辺を重複しない道筋ができていて、$w\ne u$ であるとする。lem-epg-count の 1 により、それまでに使った辺のうち $w$ を端点にもつものは奇数本である。$\deg w$ は偶数なので、$w$ を端点にもつ辺の本数から使った本数を引いた残りは「偶数 $-$ 奇数」で奇数、特に $1$ 以上である。よって $w$ からはまだ通っていない辺で進める。
段 3(まとめ)。段 2 から、手順が終わった(進めなくなった)ときにいる頂点 $v_k$ は $u$ 以外ではありえない。よって $v_k=u$ で、得られた道筋は閉じている。$\square$
連結なグラフで、辺が 1 本以上あるものについて、次が成り立つ。
方針:必要性(一筆書きができるなら次数の条件が成り立つ)は lem-epg-count から出る。十分性は、辺の本数が最も多い閉じた道筋を考え、それがすべての辺を通っていなければ、lem-epg-stuck で作った別の閉じた道筋をつなぎ合わせてもっと長くできることを示す(背理法)。2 の十分性は、2 つの奇数次の頂点を結ぶ辺を 1 本付け加えて 1 に帰着する。
段 1(1 の必要性)。閉じた一筆書きがあるとする。一筆書きはすべての辺をちょうど 1 回ずつ通るので、各頂点 $v$ で $t(v)=\deg v$ である($t(v)$ は lem-epg-count の記号)。lem-epg-count の 2 により $t(v)$ はすべて偶数なので、すべての次数が偶数である。
段 2(2 の必要性と、始点・終点)。始点 $s$ と終点 $s'$ が異なる一筆書きがあるとする。段 1 と同じく $t(v)=\deg v$ であり、lem-epg-count の 1 により、$\deg s$ と $\deg s'$ は奇数、ほかの頂点の次数は偶数である。よって奇数次の頂点はちょうど 2 個で、それが始点と終点である。
段 3(1 の十分性:最も長い閉じた道筋をとる)。すべての頂点の次数が偶数であるとする。辺が 1 本以上あるので、次数 $1$ 以上の頂点があり、lem-epg-stuck により長さ $1$ 以上の辺を重複しない閉じた道筋がある。辺を重複しない道筋の長さは辺の本数以下なので、辺を重複しない閉じた道筋の長さの最大値がある(有限個の整数の中の最大値。数学的帰納法と整列性 を参照)。その最大の長さをもつ辺を重複しない閉じた道筋を 1 つ選び、$C$ とする。$C$ がすべての辺を通ることを背理法で示す。$C$ が通らない辺があると仮定する。
段 4(残りのグラフも偶数次)。グラフから $C$ の通る辺だけを取り除いたグラフ(頂点はそのまま)を $H$ とする。$C$ は閉じた道筋なので、lem-epg-count の 2 により、各頂点 $v$ で $C$ が使う辺の本数は偶数である。よって $H$ での $v$ の次数は「偶数 $-$ 偶数」で偶数である。仮定から $H$ には辺がある。
段 5($C$ の上に、$H$ の辺をもつ頂点がある)。$C$ の上の頂点 $u_0$ を 1 つとり、$H$ の辺 $f$ を 1 本とり、その端点の 1 つを $x$ とする。グラフは連結なので、$u_0$ から $x$ への道筋がある。その道筋の最後に辺 $f$ を付け加えた並びを先頭から順に見ていき、$H$ に属する最初の辺を $g$ とする($f$ が $H$ の辺なので、$g$ は必ず見つかる)。$g$ より前の辺はすべて $C$ の辺である。$C$ の辺の端点は $C$ の上の頂点なので、$u_0$ から $C$ の辺だけをたどって着く頂点はすべて $C$ の上にある。よって $g$ の手前の端点 $u$ は $C$ の上にあり、$u$ は $H$ の辺 $g$ の端点である。
段 6(つなぎ合わせる)。段 4 から $H$ のすべての頂点は偶数次で、段 5 から $u$ の $H$ での次数は $1$ 以上である。lem-epg-stuck を $H$ と $u$ に使うと、$H$ の辺だけを使う、長さ $1$ 以上の辺を重複しない閉じた道筋 $D$($u$ から出て $u$ に戻る)が得られる。$C$ は $u$ を通るので、$C$ の始点を $u$ に取り替えて(閉じた道筋は、途中の頂点から出発するように並べ直せる)、$C$ を $u$ から出て $u$ に戻る形に書く。「$C$ をたどって $u$ に戻り、続けて $D$ をたどって $u$ に戻る」並びは閉じた道筋であり、$C$ の辺と $D$ の辺は($D$ の辺は $H$ の辺なので)重ならないから、辺を重複しない。その長さは $C$ の長さに $D$ の長さ($1$ 以上)を加えたもので、$C$ より長い。これは $C$ の長さが最大であることに反する。よって $C$ はすべての辺を通り、閉じた一筆書きである。
段 7(2 の十分性)。奇数次の頂点がちょうど 2 個あり、それを $s$、$s'$ とする。$s$ と $s'$ を結ぶ新しい辺 $f$ を 1 本付け加えたグラフを $G^+$ とする(すでに $s$ と $s'$ を結ぶ辺があっても、2 本目として付け加える。def-epg-graph では同じ 2 頂点を結ぶ辺が複数あってよい)。$G^+$ では $s$ と $s'$ の次数が 1 ずつ増えて偶数になり、ほかの次数は変わらないので、すべての頂点が偶数次である。$G^+$ も連結である。段 3〜6 により、$G^+$ には閉じた一筆書きがある。閉じた道筋は途中の頂点から出発するように並べ直せ、また全体を逆向きにたどっても閉じた道筋である。まず辺 $f$ が最後の辺になるように並べ直すと、$s,\dots,s',f,s$ か $s',\dots,s,f,s'$ の形になる。後者の形のとき、すなわち $f$ を $s$ から $s'$ への向きに通るときは、閉じた道筋全体を逆向きにたどると $f$ を $s'$ から $s$ への向きに通るようになるので、もう一度 $f$ が最後の辺になるように並べ直せば前者の形になる。このように、必要なら閉じた道筋全体を逆向きにたどってから並べ直して、$s'$ から $f$ を通って $s$ に戻る形 $s,\dots,s',f,s$ にする。この並びから最後の $f,s$ を除くと、$s$ から $s'$ への道筋で、元のグラフのすべての辺をちょうど 1 回ずつ通るもの、すなわち $s$ から $s'$ への一筆書きが得られる。向きを逆にたどれば $s'$ から $s$ への一筆書きになる。$\square$
証明の段 3〜6 は、そのまま一筆書きを見つける手順になる。「行けるところまで進み、通っていない辺が残っていたら、通った道の上の頂点から残りの辺で閉じた道筋を作ってつなぎ込む」を繰り返せばよい。この手順は Hierholzer(ヒールホルツァー)による(Hie73)。
正八面体の頂点を、上の頂点 $N$、下の頂点 $S$、まわりの 4 つの頂点 $a,b,c,d$(この順に輪になって隣り合う)とする(図3)。辺は $N$ と $a,b,c,d$ の 4 本、$S$ と $a,b,c,d$ の 4 本、輪の $ab$、$bc$、$cd$、$da$ の 4 本で、合わせて $12$ 本である。どの頂点も次数 $4$ で偶数である。
段 1(行けるところまで進む)。$N$ から $N\to a\to b\to N\to c\to d\to N$ と進むと、$N$ の 4 本の辺をすべて使ってしまい、$N$ で進めなくなる。lem-epg-stuck のとおり、行き詰まったのは出発点 $N$ である。この閉じた道筋を $C$ とする(図3 の青)。
段 2(残りのグラフ)。$C$ が使わなかった辺は $Sa$、$Sb$、$Sc$、$Sd$、$bc$、$da$ の 6 本である。残りのグラフでの次数は $S$ が $4$、$a,b,c,d$ が $2$ で、すべて偶数である(prf-thm-epg-euler の段 4)。
段 3($C$ の上の頂点から、残りで閉じた道筋を作る)。$C$ の上の頂点 $a$ には残りの辺 $Sa$、$da$ がある。$a$ から $a\to S\to b\to c\to S\to d\to a$ と進むと、残りの 6 本をすべて使って $a$ に戻る。これを $D$ とする(図3 の赤)。
段 4(つなぐ)。$C$ の中の最初の $a$ に着いたところで $D$ を差し込むと
$$
N\to a\to S\to b\to c\to S\to d\to a\to b\to N\to c\to d\to N
$$
となる。12 本の辺をちょうど 1 回ずつ通る閉じた一筆書きである(図3 の数字の順)。
正八面体の頂点と辺のグラフ。青は $N$ から行けるところまで進んだ閉じた道筋、赤は $a$ から残りの辺で作った閉じた道筋で、丸の中の数字は 2 つをつなぎ合わせた一筆書きで辺を通る順番である。行き詰まっても、通った道の上から残りをつなぎ込めば全体が 1 本になることを見る図。
奇数次の頂点が 4 個以上あると一筆書きはできない。では、鉛筆を何回離せばかけるのか。答えは奇数次の頂点の個数の半分である。
連結なグラフに奇数次の頂点が $2k$ 個($k\ge1$)あるとする。このとき、グラフの辺を $k$ 本の辺を重複しない道筋に分けて、どの辺もちょうど 1 本の道筋に 1 回だけ現れるようにできる($k$ 筆でかける)。$k-1$ 本以下の道筋に分けることはできない。
方針:$k$ 筆でかけることは、prf-thm-epg-euler の段 7 と同じく、奇数次の頂点を 2 個ずつ組にして新しい辺で結び、閉じた一筆書きを作ってから新しい辺のところで切って示す。$k-1$ 筆以下で無理なことは、lem-epg-count で、1 本の道筋が奇数次の頂点を 2 個までしか「引き受けられない」ことから示す。
段 1(辺を足す)。奇数次の頂点を 2 個ずつ $k$ 組 $\{s_1,s_1'\},\dots,\{s_k,s_k'\}$ に分け(どの奇数次の頂点もちょうど 1 つの組に入る)、各組を結ぶ新しい辺 $f_1,\dots,f_k$ を付け加える。どの頂点も、新しい辺の端点になるのは高々 1 回なので、奇数次の頂点の次数は 1 増えて偶数になり、偶数次の頂点の次数は変わらない。付け加えたグラフは連結で、すべての頂点が偶数次なので、thm-epg-euler の 1 により閉じた一筆書き $W$ がある。
段 2(切る)。$W$ を輪のように見て、新しい辺 $f_1,\dots,f_k$ の $k$ か所で切ると、$k$ 個の部分に分かれる。各部分は、元のグラフの辺だけを通る、辺を重複しない道筋である。どの部分も長さ $1$ 以上である。実際、$W$ の中で 2 本の新しい辺が続けて現れたとすると、その間の頂点が 2 本の新しい辺の端点になるが、段 1 からそれは起こらない。$W$ は元のグラフの辺をちょうど 1 回ずつ通るので、$k$ 個の道筋は元のグラフの辺をちょうど 1 回ずつ分け合う。
段 3($k-1$ 筆以下では無理)。辺が $j$ 本の辺を重複しない道筋 $T_1,\dots,T_j$ に分けられたとする。頂点 $v$ で $T_i$ が使う辺の本数を $t_i(v)$ とすると、どの辺もちょうど 1 本の道筋に 1 回現れるので $\deg v=t_1(v)+\dots+t_j(v)$ である。$\deg v$ が奇数なら、奇数の $t_i(v)$ が少なくとも 1 つある(すべて偶数なら和も偶数である)。一方、lem-epg-count により、1 本の道筋 $T_i$ について $t_i(v)$ が奇数になる頂点は、始点と終点の高々 2 個である。よって、$2k$ 個の奇数次の頂点のそれぞれに「その頂点で $t_i(v)$ が奇数になる $i$」を 1 つ対応させると、同じ $i$ に対応する頂点は高々 2 個なので、$2k\le2j$、すなわち $j\ge k$ である。$\square$
封筒の形(ex-epg-envelope)は連結で、ex-epg-degree の 3 から奇数次の頂点が $P_1,P_2,P_3,P_4$ の 4 個ある。thm-epg-euler により一筆書きはできない。これで ex-epg-envelope で試しても線が残ったことが、順番のせいではないと分かった。
cor-epg-strokes で $k=2$ なので、2 筆でかける。たとえば
$$
P_1\to P_2\to O\to P_1\to P_4\to O\to P_3,\qquad P_2\to P_3\to P_4
$$
の 2 本で、1 本目は $P_1P_2$、$P_2O$、$OP_1$、$P_1P_4$、$P_4O$、$OP_3$ の 6 本、2 本目は $P_2P_3$、$P_3P_4$ の 2 本を通り、合わせて 8 本の辺をちょうど 1 回ずつ通る。1 本目は奇数次の頂点 $P_1$ から $P_3$ へ、2 本目は $P_2$ から $P_4$ へ進んでいる。
Königsberg の 7 本の橋も、奇数次の頂点が 4 個なので、ちょうど 2 回に分ければ渡りきれる。
thm-epg-euler の仮定や結論の言い回しを 1 つずつ変えると、主張が崩れる。
| 変えたところ | 崩れる主張 | ボックス |
|---|---|---|
| グラフが連結であること(仮定)を外す | すべて偶数次なら閉じた一筆書きができる | ex-epg-disconnected |
| 始点を奇数次の頂点以外にとる | 奇数次が 2 個なら、そこから一筆書きができる | ex-epg-wrong-start |
| 「すべての辺を 1 回ずつ」を「すべての頂点を 1 回ずつ」に替える | 次数だけで可否が決まる | ex-epg-vertex-once |
頂点 $1,2,3$ を結ぶ三角形と、頂点 $4,5,6$ を結ぶ三角形の、離れた 2 つからなるグラフを考える。辺は $12$、$23$、$31$、$45$、$56$、$64$ の 6 本で、どの頂点も次数 $2$(偶数)である。
しかし一筆書きはできない。道筋では、隣り合う 2 頂点は辺で結ばれている。$\{1,2,3\}$ の頂点と $\{4,5,6\}$ の頂点を結ぶ辺はないので、$\{1,2,3\}$ の頂点から出発した道筋は、ずっと $\{1,2,3\}$ の中にとどまり、辺 $45$ を通れない。$\{4,5,6\}$ から出発しても同じで、辺 $12$ を通れない。
満たす性質:すべての頂点が偶数次。満たさない性質:連結であること。破る主張:thm-epg-euler の 1 の「すべて偶数次なら閉じた一筆書きができる」。
家の形(ex-epg-house)では、奇数次の頂点は $P_1$、$P_2$ の 2 個なので一筆書きができる。しかし、偶数次の頂点 $O$ から始める一筆書きはない。
理由:$O$ から始まる一筆書きがあったとする。すべての辺を通るので $t(v)=\deg v$ である。終点が $O$ でなければ、lem-epg-count の 1 により $t(O)$ は奇数だが、$\deg O=4$ は偶数で矛盾する。終点が $O$ なら閉じた一筆書きになり、lem-epg-count の 2 により $t(P_1)=\deg P_1=3$ が偶数でなければならず、矛盾する。
thm-epg-euler の 2 が「始点と終点はその 2 個の頂点」と言っているのは、この意味である。実際に一筆書きをかくときは、まず次数を数えて、奇数次の頂点から始めればよい。
すべての頂点をちょうど 1 回ずつ通って出発点に戻る閉じた道筋を Hamilton閉路 という。一筆書き(すべての辺をちょうど 1 回ずつ)と似ているが、次数では判定できない。
辺の両端が同じ頂点 $v$ であるもの(ループ)を許す場合は、ループ 1 本が $v$ の次数に $2$ を加えると数える。こう数えると、thm-epg-degree-sum はそのまま成り立つ(ループ 1 本は組 $(v,e)$ を 2 個と数える)。一筆書きでは、$v$ を通るときにその場でループを 1 周すればよいので、ループを除いたグラフが連結で辺をもつなら、thm-epg-euler もそのまま成り立つ。ループを許す場合の証明は Euler閉路 の記事で扱う。
問題の内容(本記事による要約):$m\times n$ のマス目の各マスを黒か白に塗る。どの黒マスについても、それと 1 辺を共有する黒マスの個数が奇数であるように塗られているとする。このとき、黒マスの総数は偶数であることを示せ。
— 2001 年日本数学オリンピック本選(2001 年 2 月 11 日)問題 1(Oly01)
小さな場合で確かめる。
方針:黒マスを頂点とするグラフを作り、cor-epg-odd-vertices を使う。
段 1(グラフを作る)。黒マスを頂点とし、1 辺を共有する 2 つの黒マスを辺で結んだグラフを考える。異なる 2 つのマスは高々 1 辺しか共有しないので、同じ 2 頂点を結ぶ辺は 1 本までで、ループもない。
段 2(次数)。黒マス $v$ の次数は、$v$ と 1 辺を共有する黒マスの個数である。条件から、すべての頂点の次数は奇数である。
段 3(結論)。cor-epg-odd-vertices により、奇数次の頂点の個数は偶数である。段 2 から、すべての頂点が奇数次なので、頂点の個数、すなわち黒マスの総数は偶数である。$\square$
証明ではマス目の形をまったく使っていない。示したのは「すべての頂点が奇数次のグラフでは、頂点の個数は偶数」という、どのグラフでも成り立つ事実であり、マス目は、その特別な場合にすぎない。グラフの言葉に翻訳すると、問題の見かけの複雑さ($m$、$n$、塗り方)が消える。
核心は 握手補題(thm-epg-degree-sum)を「2 で割った余り」で見ることである。$2$ を法とする合同式(合同式の計算規則)で書くと、奇数は $1$ と合同なので
$$
(\text{奇数次の頂点の個数})\equiv\sum_{v}\deg v=2m\equiv0\pmod 2
$$
となる。大学では、各辺と各頂点の「端点であるかどうか」を $0,1$ で並べた表(接続行列)を考え、その列ごとの和が $2$(2 で割った余りは $0$)であることとして、この計算を線形代数の言葉で扱う。lem-epg-count の偶奇の議論も同じ種類の数え方である。
条件の「奇数個」を「偶数個」に替えると、結論は崩れる。1 マスだけを黒く塗ると、その黒マスの隣の黒マスは $0$ 個(偶数)で条件を満たすが、黒マスの総数は $1$(奇数)だからである。
頂点と辺の図は、行列で表すこともできる。頂点 $i$ と $j$ を結ぶ辺の本数を $(i,j)$ 成分に並べた 隣接行列 を考えると、その $n$ 乗の成分が長さ $n$ の道筋の個数を数える。これは 行列の演算(高校数学) で行列の積を学んだあと、隣接行列と道の数 で扱う。格子の上の最短経路の個数(最短経路の数え上げと鏡像原理)も、道筋を数える問題の 1 つである。多面体の頂点・辺・面の数の関係は Eulerの多面体定理(高校数学) で扱う。
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