平方根(square root)とは、$x^2=a$ を満たす元 $x$、すなわち 2 乗すると $a$ になる元のことであり、非負の実数 $a$ の平方根のうち非負のものはただ一つで $\sqrt a$ と書く。この存在と一意性は実数の上限性質から証明され、有理数の範囲では成り立たない。$\sqrt{\phantom{a}}$ は $[0,\infty)$ 上の 2 乗の逆関数で、$\sqrt{ab}=\sqrt a\sqrt b$、$\sqrt{x^2}=|x|$、相加平均と相乗平均の不等式などを満たし、Heron の反復で効率よく近似できる。複素数では $0$ でない数に平方根がちょうど 2 つあるが原点を囲む円の上で連続に選べず、半正定値行列や $C^*$-環の正の元は正の平方根をただ一つもち、零因子のある環や非可換な環では平方根が 3 個以上ありうる。
平方根(square root)とは、2 乗すると与えられた元になる元のことである。$a$ の平方根は方程式 $x^2=a$ の解にほかならない。実数では、非負の数 $a$ の平方根のうち非負のものがただ一つあり、それを $\sqrt a$ と書く。この事実は当たり前に見えるが、有理数の範囲では $2$ の平方根が存在しないので、実数の完備性を使ってはじめて証明できる。
複素数では $0$ でない数はどれもちょうど 2 つの平方根をもつが、平面全体で連続に一方を選び続けることはできない。行列では平方根がまったくないことも、無限に多くあることもあり、半正定値という条件を課すとただ一つに決まる。零因子のある環や非可換な環では、平方根の個数は 2 を超えうる。この記事では、実数の平方根の存在と基本性質を証明してから、これらの場合を順に扱う。
「$4$ の平方根」は $2$ と $-2$ の 2 つであり、$\sqrt4$ はそのうち非負の $2$ だけを指す。平方根という語は方程式 $x^2=a$ の解すべてを指し、記号 $\sqrt a$ は一つの数を指す。この区別を守らないと、$\sqrt{x^2}=x$ のような誤り(正しくは $|x|$、prop-sqrt-real-basic の 4)が生じる。
$a\ge0$ を実数とする。$b^2=a$ を満たす実数 $b\ge0$ がただ一つ存在する。
存在:$S=\{x\in\mathbb{R}\mid x\ge0,\ x^2\le a\}$ とおく。$0\in S$ なので $S$ は空でない。$x>1+a$ ならば $x^2>x(1+a)\ge x>a$ なので $x\notin S$ であり、$S$ は $1+a$ を上界にもつ。実数の上限性質(実数の完備性)により $s=\sup S$ が存在し、$s\ge0$ である。$s^2=a$ を示す。
$s^2< a$ と仮定する。$0< h< 1$ かつ $h< (a-s^2)/(2s+1)$ となる $h$ をとると
$$
(s+h)^2=s^2+2sh+h^2< s^2+h(2s+1)< a
$$
であるから $s+h\in S$ となり、$s$ が上界であることに反する。
$s^2>a$ と仮定する。このとき $s>0$ である。$h=(s^2-a)/(2s)$ とおくと $0< h\le s/2$ であり、
$$
(s-h)^2=s^2-2sh+h^2>s^2-2sh=a
$$
である。$x\in S$ が $x>s-h$ を満たしたとすると、$x>s-h>0$ から $x^2>(s-h)^2>a$ となり $x\in S$ に反する。よって $s-h$ は $S$ の上界であり、$s-h< s$ は $s$ が最小の上界であることに反する。
以上から $s^2=a$ であり、$b=s$ が求めるものである。
一意性:$b,c\ge0$ が $b^2=c^2=a$ を満たすとすると $(b-c)(b+c)=b^2-c^2=0$ である。$b+c=0$ ならば $b,c\ge0$ より $b=c=0$ であり、$b+c\ne0$ ならば $b-c=0$ である。いずれにしても $b=c$ である。$\square$
存在の証明が使ったのは上限性質だけである。中間値の定理を使う別証明は 中間値の定理 の命題「正の数の冪根の存在」にあり、そこでは $n$ 乗根まで同時に扱っている。上限性質を欠く有理数の範囲では thm-sqrt-real は成り立たない。非負整数 $n$ について $\sqrt n$ が有理数であるのは $n$ が平方数のときに限ること(平方数 の命題「平方根の有理性」)から、たとえば $x^2=2$ は有理数の解をもたない(実数の完備性 の例「$\sqrt2$ のところの切断」も参照)。
$a,b\ge0$ を実数とする。
$f\colon[0,\infty)\to[0,\infty)$、$f(x)=x^2$ は全単射であり、その逆写像は $y\mapsto\sqrt y$ である。関数 $y\mapsto\sqrt y$ は $[0,\infty)$ 上で狭義単調増加かつ一様連続であり、$(0,\infty)$ の各点 $y_0$ で微分可能で
$$
\frac{d}{dy}\sqrt y\,\Big|_{y=y_0}=\frac{1}{2\sqrt{y_0}}
$$
を満たす。$y=0$ では右微分係数が存在しない。
thm-sqrt-real は、各 $y\ge0$ に対して $f(x)=y$ となる $x\ge0$ がちょうど一つ、すなわち $x=\sqrt y$ であることを述べている。よって $f$ は全単射で、逆写像は $\sqrt{\phantom{y}}$ である。狭義単調増加は prop-sqrt-real-basic の 3 による。
一様連続性:$\varepsilon>0$ に対し $\delta=\varepsilon^2$ とおくと、$|y-y'|< \delta$ ならば prop-sqrt-real-basic の 5 により $|\sqrt y-\sqrt{y'}|\le\sqrt{|y-y'|}< \varepsilon$ である。
微分:$y\ne y_0$ のとき、$y-y_0=(\sqrt y-\sqrt{y_0})(\sqrt y+\sqrt{y_0})$ であり $\sqrt y+\sqrt{y_0}\ge\sqrt{y_0}>0$ なので
$$
\frac{\sqrt y-\sqrt{y_0}}{y-y_0}=\frac{1}{\sqrt y+\sqrt{y_0}}
$$
である。連続性から $y\to y_0$ で右辺は $1/(2\sqrt{y_0})$ に収束する。$y_0=0$ では $y>0$ について $(\sqrt y-0)/(y-0)=1/\sqrt y$ であり、これは $y\to+0$ で上に有界でない。$\square$
定義域を $\mathbb{R}$ 全体にすると $x$ と $-x$ が同じ値に送られて単射でなくなるので、逆関数を考えるには定義域を半直線に制限する。
非負の平方根は、長さや大きさを測るときに現れる。内積 $\langle\cdot,\cdot\rangle$ の正定値性により $\langle x,x\rangle\ge0$ なので、thm-sqrt-real から $\|x\|=\sqrt{\langle x,x\rangle}$ が定まる。複素数 $z$ の絶対値 $|z|=\sqrt{z\bar z}$ や、平面の 2 点の距離 $\sqrt{(x_1-y_1)^2+(x_2-y_2)^2}$ も同じ形である。
$a,b\ge0$ ならば
$$
\sqrt{ab}\le\frac{a+b}{2}
$$
であり、等号は $a=b$ のときに限って成り立つ。
prop-sqrt-real-basic の 2 により $\sqrt{ab}=\sqrt a\sqrt b$ なので
$$
\frac{a+b}{2}-\sqrt{ab}=\frac{(\sqrt a)^2-2\sqrt a\sqrt b+(\sqrt b)^2}{2}=\frac{(\sqrt a-\sqrt b)^2}{2}\ge0
$$
である。等号は $\sqrt a=\sqrt b$ のとき、prop-sqrt-real-basic の 3 により $a=b$ のときに限る。$\square$
この不等式の使い方と $n$ 個の数への一般化は 相加平均と相乗平均 で扱う。
thm-sqrt-real は $\sqrt a$ の存在を示すが、値の求め方は与えない。次の反復は、相加平均と相乗平均の不等式から収束が読み取れる計算法である。これは $x^2-a=0$ に Newton法 を当てたものと一致する。
$a>0$、$x_0>0$ とし、
$$
x_{n+1}=\frac12\Bigl(x_n+\frac{a}{x_n}\Bigr)\qquad(n\ge0)
$$
で数列を定める。このとき次が成り立つ。
$x_n>0$ ならば $x_{n+1}>0$ なので、帰納法により $x_n>0$ である。3 の等式は
$$
x_{n+1}-\sqrt a=\frac{x_n^2-2\sqrt a\,x_n+a}{2x_n}=\frac{(x_n-\sqrt a)^2}{2x_n}
$$
による。右辺は非負なので $x_{n+1}\ge\sqrt a$ であり、1 が従う(これは prop-sqrt-am-gm を $x_n$ と $a/x_n$ に当てたものでもある)。$n\ge1$ では $x_n\ge\sqrt a$ より $x_n^2\ge a$ なので $x_n-x_{n+1}=(x_n^2-a)/(2x_n)\ge0$ となり、2 が従う。また $n\ge1$ では $0\le x_n-\sqrt a\le x_n$ なので
$$
x_{n+1}-\sqrt a=\frac{x_n-\sqrt a}{2x_n}\,(x_n-\sqrt a)\le\frac12(x_n-\sqrt a)
$$
である。帰納法により $0\le x_n-\sqrt a\le 2^{-(n-1)}(x_1-\sqrt a)$ となり、$x_n\to\sqrt a$ である。$\square$
3 の等式によれば、誤差は 1 回ごとにおよそ 2 乗される。$a=2$、$x_0=1$ とすると次のようになる。
| $n$ | $x_n$ | $x_n^2-2$ | $x_n-\sqrt2$(約) |
|---|---|---|---|
| $0$ | $1$ | $-1$ | $-4.1\times10^{-1}$ |
| $1$ | $3/2$ | $1/4$ | $8.6\times10^{-2}$ |
| $2$ | $17/12$ | $1/144$ | $2.5\times10^{-3}$ |
| $3$ | $577/408$ | $1/166464$ | $2.1\times10^{-6}$ |
筆算で 1 桁ずつ決めていく方法は 開平法:平方根の筆算 にある。
$0$ でない複素数はちょうど 2 つの平方根をもち、それらは互いに符号が逆である。$z=a+bi$ の平方根を実部と虚部で表す式とその証明は 複素数 の命題「複素数の平方根」にある。その式で $b\ge0$ のとき虚部の符号を正に、$b< 0$ のとき負にとったもの
$$
\sqrt z=\sqrt{\frac{|z|+a}{2}}+s\,i\sqrt{\frac{|z|-a}{2}},\qquad s=\begin{cases}1&(b\ge0)\\-1&(b< 0)\end{cases}
$$
を $z$ の平方根の主値という($\sqrt0=0$ とする)。右辺の 2 つの根号の中は $|z|\ge|a|$ により非負である。主値は「実部が正、または実部が $0$ で虚部が非負」となる方の平方根であり、$z$ が非負の実数のときは実数の $\sqrt z$ に一致する。
主値 $z\mapsto\sqrt z$ は $\mathbb{C}\setminus(-\infty,0)$ の各点で連続であり、$(-\infty,0)$ の各点で不連続である。さらに $\mathbb{C}\setminus(-\infty,0]$ 上で正則関数であり、
$$
\frac{d}{dz}\sqrt z=\frac{1}{2\sqrt z}
$$
を満たす。
$z=a+bi$ について $u(z)=\sqrt{(|z|+a)/2}$、$v(z)=\sqrt{(|z|-a)/2}$ とおくと、$u,v$ は連続関数の合成なので $\mathbb{C}$ 全体で連続であり、$\sqrt z=u(z)+s(z)\,i\,v(z)$ である。
連続性:$z_0=a_0+b_0i$ とする。$b_0\ne0$ ならば $z_0$ の近くで $b$ の符号は一定なので $s$ は定数であり、$\sqrt z$ は $z_0$ で連続である。$b_0=0$、$a_0>0$ ならば $v(z_0)=0$ であり、$|s(z)v(z)|=v(z)\to0$ なので虚部は $0=\operatorname{Im}\sqrt{z_0}$ に収束し、実部 $u$ も連続だから $\sqrt z$ は $z_0$ で連続である。$z_0=0$ では $|\sqrt z|=\sqrt{|z|}\to0$ である。
不連続性:$c>0$、$z_0=-c$ とし、$t>0$ について $z=-c+ti$ と $z'=-c-ti$ を考える。$t\to+0$ で $u\to0$、$v\to\sqrt c$ なので $\sqrt z\to i\sqrt c$、$\sqrt{z'}\to-i\sqrt c$ である。極限が異なるので不連続である。
正則性:$z_0\in\mathbb{C}\setminus(-\infty,0]$ とする。この範囲では $u(z)>0$、すなわち $\operatorname{Re}\sqrt z>0$ である($u(z)=0$ となるのは $|z|=-a$、すなわち $z\in(-\infty,0]$ のときに限る)。$z\ne z_0$ ならば $\sqrt z\ne\sqrt{z_0}$ であり、
$$
z-z_0=(\sqrt z-\sqrt{z_0})(\sqrt z+\sqrt{z_0}),\qquad \operatorname{Re}(\sqrt z+\sqrt{z_0})>0
$$
なので $\dfrac{\sqrt z-\sqrt{z_0}}{z-z_0}=\dfrac{1}{\sqrt z+\sqrt{z_0}}$ である。連続性から $z\to z_0$ で右辺は $1/(2\sqrt{z_0})$ に収束する。$\square$
この不連続は選び方を変えても避けられない。原点を囲む円の上では連続な平方根は作れない。
$\rho>0$ とし、$C_\rho=\{z\in\mathbb{C}\mid |z|=\rho\}$ とする。$C_\rho$ を含む集合 $X\subseteq\mathbb{C}$ の上で、連続関数 $f\colon X\to\mathbb{C}$ がすべての $z\in X$ で $f(z)^2=z$ を満たすことはない。とくに $\mathbb{C}\setminus\{0\}$ 上に連続な平方根の関数は存在しない。
そのような $f$ があったとし、$t\in[0,2\pi]$ について
$$
h(t)=\frac{f(\rho e^{it})}{\sqrt\rho\,e^{it/2}}
$$
とおく。$h$ は $[0,2\pi]$ 上の連続関数であり、$h(t)^2=\rho e^{it}/(\rho e^{it})=1$ なので、$h(t)\in\{1,-1\}$ である。とくに $h$ は実数値である。$h$ が $1$ と $-1$ の両方の値をとるとすると、中間値の定理 により $h(t)=0$ となる $t$ があり矛盾する。よって $h$ は定数である。
一方、$\rho e^{2\pi i}=\rho$ と $e^{i\pi}=-1$ から
$$
h(2\pi)=\frac{f(\rho)}{\sqrt\rho\,e^{i\pi}}=-\frac{f(\rho)}{\sqrt\rho}=-h(0)
$$
であり、$h(0)\ne0$ だから $h(2\pi)\ne h(0)$ である。これは $h$ が定数であることに反する。$\square$
$\sqrt z$ の 2 つの値を、平面を 2 枚重ねて負の実軸に沿って貼り替えた曲面の上の 1 つの関数とみると、連続かつ正則になる。この見方は Riemann面 で扱う。主値については $\sqrt{zw}=\sqrt z\sqrt w$ が一般には成り立たないことにも注意する(複素数 の例「反例:平方根の主値と積」)。
正方行列 $A$ の平方根とは $B^2=A$ を満たす正方行列 $B$ のことである。数の場合と違い、個数は 2 に限らない。
2 の確かめ:$B\in M_2(K)$ が $B^2=N$ を満たすとする。$N\ne O$ なので $B\ne O$ であり、$(\det B)^2=\det N=0$ なので $B$ は正則でない。したがって $B$ の像 $\ell=B(K^2)$ は 1 次元である。$B(\ell)\subseteq B(K^2)=\ell$ なので、$B$ は $\ell$ の上である数 $\lambda$ 倍として働く。$B^4=N^2=O$ を $\ell$ の $0$ でないベクトルに当てると $\lambda^4=0$、すなわち $\lambda=0$ であり、$B(\ell)=\{0\}$ となる。すると任意の $v$ について $B^2v=B(Bv)\in B(\ell)=\{0\}$ であり、$B^2=O\ne N$ となって矛盾する。
平方根を一つに決めるには、数のときの「非負」に当たる条件が要る。それが半正定値性である。実対称行列または Hermite 行列 $A$ が半正定値ならば、$C^2=A$ を満たす半正定値行列 $C$ がただ一つ存在する。この定理と証明は 正定値行列 の定理「半正定値な平方根の存在と一意性」にある。ex-sqrt-matrix の 1 の $B_\theta$ は固有値 $1,-1$ をもつので半正定値でなく、$I_2$ の半正定値な平方根は $I_2$ だけである。
同じことは Hilbert 空間上の有界作用素など、$C^*$-環の元についても成り立つ。単位的 $C^*$-環 $\mathcal A$ の元 $a$ が正であるとは、$a$ が自己共役($a^*=a$)で、スペクトル $\sigma(a)$ が $[0,\infty)$ に含まれることをいう。用語と以下で使う定理は Banach環とC*-環のスペクトル理論 による。
$\mathcal A$ を単位的 $C^*$-環、$a\in\mathcal A$ を正の元とする。$b^2=a$ を満たす正の元 $b\in\mathcal A$ がただ一つ存在する。さらに $b$ は、$a$ と可換な $\mathcal A$ のすべての元と可換である。
要点:存在は連続汎関数計算で $b=\sqrt a$ を作り、$b$ が $a$ の多項式の極限であることから可換性が従う。一意性は、もう一つの正の平方根 $c$ と $b$ が生成する可換 $C^*$-環の各指標 $\chi$ で $\chi(b),\chi(c)\ge0$、$\chi(b)^2=\chi(c)^2$ となることによる。
存在:$a$ は自己共役なので正規元であり、連続汎関数計算(Banach環とC*-環のスペクトル理論 の定理「連続汎関数計算」)が使える。$\sigma(a)\subseteq[0,\infty)$ 上の連続関数 $f(t)=\sqrt t$ に対し $b=f(a)$ とおく。$f$ は実数値なので $\bar f=f$ であり、$*$-準同型であることから $b^*=\bar f(a)=b$ である。$f^2$ は $\sigma(a)$ 上の恒等関数なので $b^2=(f^2)(a)=a$ である。また $\sigma(b)=f(\sigma(a))\subseteq[0,\infty)$ である。よって $b$ は $b^2=a$ を満たす正の元である。
可換性:$\sigma(a)$ は $\mathbb{R}$ のコンパクト集合なので、Weierstrassの近似定理 により、実係数多項式の列 $p_n$ で $\sigma(a)$ 上 $f$ に一様収束するものがとれる。汎関数計算は多項式 $p_n$ を元 $p_n(a)$ へ送り、等長なので $\|p_n(a)-b\|=\sup_{t\in\sigma(a)}|p_n(t)-f(t)|\to0$ である。$x\in\mathcal A$ が $a$ と可換ならば $x$ は各 $p_n(a)$ と可換であり、乗法の連続性から $xb=bx$ である。
一意性:$c$ を $c^2=a$ を満たす正の元とする。$c$ は $a=c^2$ と可換なので、上で示したことから $b$ と可換である。$b,c$ は自己共役で互いに可換だから、$1,b,c$ の多項式全体は可換で対合で閉じた部分環であり、その閉包 $\mathcal B$ は単位的可換 $C^*$-環である($C^*$-環では $\|x^*\|=\|x\|$ なので対合は連続であり、可換性と対合で閉じることは閉包に受け継がれる)。$\mathcal B$ の指標 $\chi$ をとる。Gelfand 理論(同記事の定理「可換Banach環のGelfand理論」)により $\chi(c)\in\sigma_{\mathcal B}(c)$ であり、同記事の補題「$C^*$-部分環でのスペクトルの一致」により $\sigma_{\mathcal B}(c)=\sigma(c)\subseteq[0,\infty)$ である。同様に $\chi(b)\ge0$ である。そして $\chi(b)^2=\chi(b^2)=\chi(a)=\chi(c^2)=\chi(c)^2$ なので、thm-sqrt-real の一意性から $\chi(b)=\chi(c)$ である。$\chi$ は任意だったので $b$ と $c$ の Gelfand 変換は一致し、同記事の定理「可換Gelfand--Naimark定理」により Gelfand 変換は単射だから $b=c$ である。$\square$
$\mathcal A=M_n(\mathbb{C})$(作用素ノルムと共役転置による $C^*$-環)では、自己共役元は Hermite 行列で、スペクトルは固有値の全体である。したがって正の元は半正定値 Hermite 行列であり、thm-sqrt-cstar は上の行列の定理の Hermite 行列の場合を含む。
可換で零因子のない環では、平方根の個数は数の場合と同じく高々 2 である。
$R$ を整域、$a\in R$ とし、$b\in R$ を $a$ の平方根とする。このとき $a$ の平方根は $b$ と $-b$ だけである。とくに $a$ の平方根は高々 2 個であり、$a\ne0$ かつ $1+1\ne0$ ならばちょうど 2 個である。
$c^2=a$ とすると、$R$ が可換なので $(c-b)(c+b)=c^2-b^2=a-a=0$ であり、零因子がないので $c=b$ または $c=-b$ である。逆に $(-b)^2=b^2=a$ である。$a\ne0$ ならば $b\ne0$ であり、$1+1\ne0$ ならば $b-(-b)=(1+1)b\ne0$ なので $b\ne-b$ である。$\square$
$1+1=0$ の整域、たとえば 2 元体 $\mathbb{F}_2$ では $b=-b$ なので、平方根は高々 1 個である。可換性と零因子がないことのどちらを外しても、個数は 2 を超えうる。
整数を素数 $p$ で割った余りの世界 $\mathbb{F}_p=\mathbb{Z}/p\mathbb{Z}$ は体なので prop-sqrt-domain が当てはまる。$p$ が奇素数のとき、$0$ でない元のうち平方根をもつものはちょうど半分であり、それらを平方剰余という(平方剰余 の命題「平方剰余はちょうど半分」)。さらに $p$ 進整数の環 $\mathbb{Z}_p$ では、単元が平方根をもつかどうかは法 $p$ の様子だけで決まる(Henselの補題 の命題「奇素数での単元の平方根」)。体 $K$ の元 $d$ が $K$ に平方根をもたないとき、$x^2-d$ の根を添加して得られる体が 2次拡大 である。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| $a\ge0$(thm-sqrt-real) | $a=-1$ | 実数の平方根の存在 |
| 平方根が非負であること(thm-sqrt-real) | $a=4$ の平方根 $2,-2$ | 平方根の一意性 |
| 実数の完備性(thm-sqrt-real を有理数で考える) | $\mathbb{Q}$ での $a=2$ | 平方根の存在(平方数 の命題「平方根の有理性」) |
| $x\ge0$($\sqrt{x^2}=x$ を使う) | $x=-3$ | $\sqrt{(-3)^2}=3\ne-3$。正しくは $\sqrt{x^2}=\lvert x\rvert$ |
| 定義域が負の実軸を含まないこと(prop-sqrt-principal) | $\mathbb{C}\setminus\{0\}$ 上の連続な平方根 | 連続な平方根の存在(thm-sqrt-no-branch) |
| 半正定値であること(行列の平方根の一意性) | $I_2$ と $B_\theta$(ex-sqrt-matrix) | 平方根の一意性 |
| 零因子がないこと(prop-sqrt-domain) | $\mathbb{Z}/8\mathbb{Z}$ の $1$ | 平方根が高々 2 個であること |
| 可換性(prop-sqrt-domain) | $\mathbb{H}$ の $-1$ | 平方根が高々 2 個であること |
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