Pettisの可測性定理

同義語:ペティスの可測性定理Pettis measurability theorem

概要

Pettisの可測性定理(Pettis measurability theorem)とは、測度空間上で Banach 空間 $E$ に値をとる関数 $f$ について、単関数の列で a.e. に各点近似できること(強可測性)と、すべての連続線形汎関数 $\ell$ について $\ell\circ f$ が a.e. 可測であり(弱可測性)かつ零集合を除いて $E$ の可分な閉部分空間に値をとることが同値である、という定理である。とくに $E$ が可分なら強可測性と弱可測性は一致し、強可測関数の a.e. 極限は測度空間の σ-有限性なしに強可測である。非可分な Hilbert 空間 $\ell^2([0,1])$ では、$t\mapsto e_t$ が弱可測だが強可測でない例になる。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: Bochner積分, 連続双対空間, 可分空間, Hahn–Banachの定理

Pettisの可測性定理(Pettis measurability theorem)は、Banach 空間に値をとる関数の 2 種類の可測性を結びつける定理である。一つは、単関数の列で各点ごとに近づけられること(強可測性)で、Bochner積分 はこの可測性の上に作られる。もう一つは、連続線形汎関数を合成した実数値関数がすべて可測であること(弱可測性)で、こちらのほうが確かめやすい。
有限次元の空間では 2 つは同じ条件である。しかし非可分な空間では、弱可測でも強可測でない関数がある。定理は、その差がちょうど「値の集合が可分かどうか」であることを述べる。

強可測 $\iff$ 弱可測 かつ 零集合を除いて可分な部分空間に値をとる
この記事では、まず可算個の汎関数でノルムを測れること(ノルム決定族)を示し、それを使って定理を証明する。そのうえで、可分な空間では 2 つの可測性が一致すること、強可測関数の a.e. 極限がまた強可測であることを導く。最後に、非可分な Hilbert 空間で弱可測だが強可測でない例を確かめる。

定義

以下、$(\Omega,\Sigma,\mu)$ は測度空間(σ-有限とは限らない)、$E$ は実 Banach 空間、$E^*$ はその連続双対空間とする。$\mu(N)=0$ となる $N\in\Sigma$ を零集合という。実数値関数が、ある零集合の外で $\Sigma$-可測関数と一致するとき、a.e. 可測 であるという。

強可測・弱可測・本質的に可分値

$f\colon\Omega\to E$ を関数とする。

  1. $f$ が 強可測 であるとは、単関数(有限個の値をとり、各値の逆像が $\Sigma$ に属する関数)の列 $(s_n)$ と零集合 $N$ があって、$\omega\notin N$ ならば $\|s_n(\omega)-f(\omega)\|\to0$ となることをいう。
  2. $f$ が 弱可測 であるとは、すべての $\ell\in E^*$ について $\ell\circ f$ が a.e. 可測であることをいう。
  3. $f$ が 本質的に可分値 であるとは、零集合 $N$ と $E$ の可分な閉部分空間 $F$ があって、$\omega\notin N$ ならば $f(\omega)\in F$ となることをいう。

1 は Bochner積分 の記事の定義「単関数・強可測関数・弱可測関数」と同じものである。そこでは測度空間を σ-有限としたが、この記事の議論は σ-有限性を使わない。

ノルム決定族

$F$ を $E$ の部分空間とする。$\Gamma\subset E^*$ が $F$ の ノルム決定族 であるとは、すべての $\ell\in\Gamma$ について $\|\ell\|\le1$ であり、すべての $v\in F$ について
$$ \|v\|=\sup_{\ell\in\Gamma}|\ell(v)| $$
となることをいう。

連続双対空間 の系「双対ノルムによる元のノルムの復元」により、$E^*$ の単位球全体は $E$ のノルム決定族である。要点は、可分な部分空間には 可算な ノルム決定族があることである。

可算なノルム決定族

$F$ を $E$ の可分な閉部分空間とする。このとき $F$ の可算なノルム決定族 $\Gamma\subset E^*$ がある。

稠密な点ごとにノルムを実現する汎関数を選ぶ

$F=\{0\}$ なら $\Gamma=\{0\}$ でよい。$F\ne\{0\}$ なら、$F$ の可算な稠密部分集合 $\{v_j\}$ をとり、$0$ を除いておく。連続双対空間 の定理「点でノルムを実現する汎関数」により、各 $j$ について $\|\ell_j\|=1$、$\ell_j(v_j)=\|v_j\|$ となる $\ell_j\in E^*$ がある。$\Gamma:=\{\ell_j\}$ とおく。
$v\in F$ を任意にとる。$\|\ell_j\|=1$ より $|\ell_j(v)|\le\|v\|$ である。逆に $v_j\to v$ となる部分列をとると、
$$ |\ell_j(v)|\ge\ell_j(v_j)-|\ell_j(v-v_j)|\ge\|v_j\|-\|v-v_j\|\ge\|v\|-2\|v-v_j\|\to\|v\| $$
なので、$\sup_j|\ell_j(v)|=\|v\|$ である。$\square$

可算なノルム決定族による判定

次の命題が定理の核心である。使う汎関数は可算個で足りる。

可算なノルム決定族による判定

$F$ を $E$ の可分な閉部分空間、$\Gamma\subset E^*$ を $F$ の可算なノルム決定族とする。$f\colon\Omega\to E$ が零集合の外で $F$ に値をとり、すべての $\ell\in\Gamma$ について $\ell\circ f$ が a.e. 可測ならば、$f$ は強可測である。さらに、近似する単関数は $F$ に値をとるようにとれる。

最も近い点を選ぶ単関数

零集合を可算個合わせて零集合 $N$ をとり、$\omega\notin N$ では $f(\omega)\in F$ であり、かつすべての $\ell\in\Gamma$ について $\ell\circ f$ が $\Omega\setminus N$ 上で $\Sigma$-可測関数と一致するようにする($\Gamma$ は可算なので、これは可能である)。
$F$ の可算な稠密部分集合を $\{u_1,u_2,\dots\}$ とし、$u_1=0$ とする。各 $k$ について
$$ d_k(\omega):=\|f(\omega)-u_k\|=\sup_{\ell\in\Gamma}|\ell(f(\omega))-\ell(u_k)|\qquad(\omega\notin N) $$
とおく。等号はノルム決定族の定義による。右辺は可測関数の可算個の上限なので、$d_k$ は $\Omega\setminus N$ 上で可測である。
$\omega\notin N$ について、$d_1(\omega),\dots,d_n(\omega)$ の最小値をとる添字のうち最小のものを $k_n(\omega)$ とし、$s_n(\omega):=u_{k_n(\omega)}$ とおく。$\omega\in N$ では $s_n(\omega):=0$ とおく。$\{k_n=k\}$ は可測関数 $d_1,\dots,d_n$ の大小関係で決まる集合なので $\Sigma$ に属し、$s_n$ は $F$ に値をとる単関数である。
$\omega\notin N$ では $f(\omega)\in F$ であり、$\{u_k\}$ は $F$ で稠密なので、
$$ \|s_n(\omega)-f(\omega)\|=\min_{k\le n}d_k(\omega)\to\inf_kd_k(\omega)=0\qquad(n\to\infty) $$
となる。よって $f$ は強可測である。$\square$

この証明は $E$ 全体の可分性を使わない。値をとる部分空間 $F$ が可分であれば、$E$ は非可分でもよい。

Pettisの可測性定理

Pettisの可測性定理

関数 $f\colon\Omega\to E$ について、次の 2 つは同値である。

  1. $f$ は強可測である。
  2. $f$ は弱可測であり、かつ本質的に可分値である。
可分な部分空間でノルム決定族を使う

1 ⇒ 2:$f$ を近似する単関数の列 $(s_n)$ と例外の零集合 $N$ をとる。$\ell\in E^*$ について、$\ell\circ s_n$ は実数値の単関数で、$N$ の外で $\ell\circ f$ に収束する。$N$ の外で $\limsup_n\ell\circ s_n$、$N$ の上で $0$ とおいた関数は $\Sigma$-可測で、$N$ の外で $\ell\circ f$ と一致する。よって $f$ は弱可測である。また、$s_n$($n=1,2,\dots$)がとる値は全部で可算個であり、それらの有理係数の有限一次結合の全体は可算である。その閉包 $F$ はそれらの値が張る閉部分空間であり、可分である。$N$ の外で $f(\omega)=\lim_ns_n(\omega)\in F$ なので、$f$ は本質的に可分値である。
2 ⇒ 1:$f$ が零集合の外で値をとる可分な閉部分空間を $F$ とする。lem-pettis-norming により $F$ の可算なノルム決定族 $\Gamma$ がある。$f$ は弱可測なので、とくに $\ell\in\Gamma$ について $\ell\circ f$ は a.e. 可測である。prop-pettis-countable により $f$ は強可測である。$\square$

帰結

可分な空間では強可測と弱可測が一致する

$E$ が可分なら、$f\colon\Omega\to E$ が強可測であることと弱可測であることは同値である。

$E$ が可分なら、$F=E$ とおけばすべての $f$ は本質的に可分値である。thm-pettis-main から従う。$\square$

強可測関数の a.e. 極限

強可測関数の列 $(f_n)$ が a.e. で $f\colon\Omega\to E$ に収束するなら、$f$ は強可測である。測度空間の σ-有限性は要らない。

thm-pettis-main により、各 $f_n$ は零集合 $N_n$ の外で可分な閉部分空間 $F_n$ に値をとる。各 $F_n$ の可算な稠密部分集合をすべて合わせた集合は可算であり、その有理係数の有限一次結合の全体は、$\bigcup_nF_n$ が張る閉部分空間 $F$ の中で稠密である。よって $F$ は可分である。$f_n\to f$ となる点の集合の補集合と $\bigcup_nN_n$ を合わせた零集合の外では、$f(\omega)=\lim f_n(\omega)$ は閉集合 $F$ に属する。また $\ell\in E^*$ について、$\ell\circ f$ は a.e. で a.e. 可測関数 $\ell\circ f_n$ の極限なので a.e. 可測である。thm-pettis-main から $f$ は強可測である。$\square$

Bochner積分 の記事の命題「強可測関数の基本性質」の 4 は、σ-有限な測度空間で同じことを単関数の選び直しによって示している。この系は、Pettis の定理を経由することで σ-有限性を外せることを示している。

双対空間に値をとる関数

$Y$ を Banach 空間とし、その双対空間 $Y^*$ が可分であるとする。$D$ を $Y$ の単位球の可算な稠密部分集合とする。$g\colon\Omega\to Y^*$ について、すべての $y\in D$ で $\omega\mapsto g(\omega)(y)$ が a.e. 可測ならば、$g$ は強可測である。

$Y^*$ が可分なら $Y$ も可分であり(Bre11 Theorem 3.26、p. 73)、$D$ がとれる。$y\in D$ を $Y^*$ 上の汎関数 $\varphi\mapsto\varphi(y)$ とみなすと、そのノルムは $\|y\|\le1$ である。双対ノルムの定義と $D$ の稠密性から $\|\varphi\|=\sup_{y\in D}|\varphi(y)|$ なので、$D$ は $Y^*$ の可算なノルム決定族である。$F=Y^*$ として prop-pettis-countable を当てればよい。$\square$

この系では、$Y^*$ のすべての汎関数($Y^{**}$ の元)ではなく、$Y$ の元による評価だけを確かめれば足りる。Radon–Nikodym性 の記事で、可分な双対空間に値をとる密度を作るときにこの形を使う。

弱可測だが強可測でない関数

非可分な空間では、本質的に可分値という条件は外せない。次の例は Hilbert 空間(とくに反射的な空間)でも起こることを示す。

非可算個の正規直交系をたどる関数

$I=[0,1]$ とし、$\ell^2(I)$ を、$I$ を添字とする実数の族 $x=(x_t)_{t\in I}$ で、有限部分集合 $J\subset I$ についての和 $\sum_{t\in J}x_t^2$ の上限 $\|x\|^2$ が有限なものの全体とする。これは Hilbert 空間であり、$t$ 成分だけが $1$ の元を $e_t$ とする。$[0,1]$ 上の Lebesgue 測度について、
$$ f\colon[0,1]\to\ell^2(I),\qquad f(t):=e_t $$
を考える。このとき $f$ は弱可測であり、$\|f(t)\|=1$ だが、強可測でない。

可分な部分空間は可算個の座標にしか載らない

可算な台。 $x\in\ell^2(I)$ について、$\{t:|x_t|\ge1/k\}$ の元の個数は $k^2\|x\|^2$ 以下なので有限である。$k$ について和をとると、$x$ の $0$ でない成分は可算個である。
弱可測性。 Rieszの表現定理 により、$\ell\in\ell^2(I)^*$ は $a\in\ell^2(I)$ を用いて $\ell(x)=\langle x,a\rangle=\sum_ta_tx_t$ と書ける。$\ell(f(t))=a_t$ は可算個の $t$ を除いて $0$ である。可算集合は Lebesgue 零集合なので、$\ell\circ f$ は a.e. で $0$ に等しく、a.e. 可測である。
本質的に可分値でない。 $F$ を可分な閉部分空間とし、可算な稠密部分集合 $\{x^{(j)}\}$ をとる。各 $x^{(j)}$ の $0$ でない成分の添字を全部集めた集合 $J_0$ は可算である。$F$ の元は $x^{(j)}$ たちの極限であり、各座標 $x\mapsto x_t$ は連続なので、$F$ の元の $0$ でない成分の添字は $J_0$ に入る。よって $f(t)=e_t\in F$ となるのは $t\in J_0$ のときだけで、$\{t:f(t)\in F\}$ は零集合である。どの零集合 $N$ をとっても $[0,1]\setminus N$ は零集合でないので、$f$ は本質的に可分値でない。thm-pettis-main により $f$ は強可測でない。$\square$

各 $\ell\circ f$ は a.e. で $0$ なので、汎関数を通して見る限り $f$ は $0$ と区別できない。それでも $\|f(t)\|=1$ である。$f$ は単関数の極限として近似できず、Bochner積分 の意味では積分できない。

条件を外した反例

thm-pettis-main の 2 の 2 条件と、1 ⇒ 2 の結論の「本質的に」を 1 つずつ外す。

外す条件反例成り立たなくなること
本質的に可分値ex-pettis-nonseparable の $f(t)=e_t$弱可測だが強可測でない
弱可測$\Omega=\{0,1\}$、$\Sigma=\{\emptyset,\Omega\}$、$\mu(\Omega)=1$、$E=\mathbb R$、$f=1_{\{0\}}$$\mathbb R$ に値をとるので可分値だが、強可測でない
「零集合を除いて」(すべての点で可分な部分空間に値をとることを求める)$C\subset[0,1]$ を Cantor 集合とし、$t\in C$ で $f(t)=e_t$、$t\notin C$ で $f(t)=0$($E=\ell^2(I)$)$f$ は強可測だが、$f([0,1])$ はどの可分な部分空間にも含まれない
反例:表の各行の確かめ

各行は左の列の条件だけを外している。

確かめを開く

1 行目:ex-pettis-nonseparable で、$f$ が弱可測であることと、本質的に可分値でないことを確かめた。

2 行目:零集合は $\emptyset$ だけなので、a.e. 可測とは $\Sigma$-可測のことである。$\{f=1\}=\{0\}\notin\Sigma$ なので、$f=\mathrm{id}_{\mathbb R}\circ f$ は可測でなく、$f$ は弱可測でない。$f$ は可分な空間 $\mathbb R$ に値をとる。単関数は $\Sigma$-可測なので定数関数であり、定数の列は $f$ に各点収束しない($f(0)=1$、$f(1)=0$)。よって $f$ は強可測でない。

3 行目:Cantor 集合 $C$ は Lebesgue 零集合で、非可算集合である。$f$ は $C$ の外で $0$ なので、定数の単関数 $0$ が零集合 $C$ の外で $f$ に一致し、$f$ は強可測である。一方、$f([0,1])$ を含む閉部分空間は非可算個の $e_t$($t\in C$)を含み、$\|e_t-e_s\|=\sqrt2$($t\ne s$)なので、半径 $\sqrt2/2$ の互いに交わらない開球を非可算個含む。そのような空間は可分でない。

補足

弱い意味の積分

弱可測な $f$ について、すべての $\ell\in E^*$ で $\ell\circ f$ が可積分であり、各 $A\in\Sigma$ に $\ell(v_A)=\int_A\ell\circ f\,d\mu$(すべての $\ell$)となる $v_A\in E$ があるとき、$f$ は Pettis 可積分 であるといい、$v_A$ を $f$ の $A$ 上の Pettis 積分という。ex-pettis-nonseparable の $f$ は、すべての $A$ について $v_A=0$ とすれば Pettis 可積分である。σ-有限な測度空間では、Bochner 可積分な関数は Pettis 可積分で、2 つの積分は一致する(Bochner積分 の記事の定理「Bochner積分の存在と基本性質」の 3)。

使いどころ

$\ell^p$($1\le p<\infty$)や $C([0,1])$ のように可分な空間(可分空間 の記事の例「有限個の成分を除いて $0$ である有理数列」「一様収束位相を入れた連続関数の空間」)に値をとる関数では、cor-pettis-separable により、座標や点での値などの汎関数ごとの可測性を確かめれば強可測性が分かる。また cor-pettis-limit により、ベクトル値の関数の a.e. 極限は、測度空間が σ-有限でなくても強可測である。Bochner積分 の記事の $L^p(\Omega;E)$ の完備性の証明でも、極限の強可測性は同じ形の主張から得ている。

関連項目

参考文献

[1]
Haim Brezis, Functional Analysis, Sobolev Spaces and Partial Differential Equations, Springer, 2011, Theorem 3.26(p. 73、双対空間が可分なら元の空間も可分)

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