障害理論(obstruction theory)とは、CW 複体の対 $(X,A)$ と写像 $A\to Y$ について、延長を骨格ごとに作るときの障害をコホモロジー類として取り出し、延長の存在を判定する方法である。$n$ 次元骨格まで延びた写像 $f$ について、各 $(n+1)$ 胞体の境界の球面の像が定める $\pi_n(Y)$ の元を並べたものが障害コチェイン $c(f)$ であり、$Y$ が $(n-1)$-連結($n\ge2$)ならこれはコサイクルで、$f$ を $(n-1)$ 次元骨格の上で固定したまま $(n+1)$ 次元骨格へ延ばせることは類 $[c(f)]\in H^{n+1}(X,A;\pi_n(Y))$ が $0$ であることと同値になる。球面への写像の延長、特性類、多様体上の構造の存在問題で使われる。
障害理論(obstruction theory)は、CW 複体の部分複体の上で与えられた写像を全体へ延ばせるかどうかを、コホモロジーの言葉で判定する方法である。延長を骨格ごとに 1 次元ずつ作っていくと、$n$ 次元骨格まで延びた写像を $n+1$ 次元の胞体へ延ばせるかどうかは、各胞体の境界の球面の像がホモトピー群 $\pi_n(Y)$ の中で消えるかどうかで決まる。この値を胞体ごとに並べたものが障害コサイクルであり、その延長を $n-1$ 次元骨格の上では変えずに取り替える自由度は、ちょうどコバウンダリの分だけある。こうして「延長できるかどうか」は、コホモロジー群 $H^{n+1}(X,A;\pi_n(Y))$ の一つの類が $0$ かどうか、という計算できる問題に置き換わる。
この記事では、値域 $Y$ が $(n-1)$-連結($n\ge2$)の場合に、障害コサイクルの定義、それがコサイクルであること、差のコチェインの公式を示し、主定理「$f|_{X_{n-1}}$ が $n+1$ 次元骨格へ延びることと、障害類が $0$ であることは同値」(thm-obs-main)を証明する。応用として、$\mathbb{CP}^2$ から $\mathbb{CP}^1$ へのレトラクションがないことから Hopf 写像の非自明性を導く。
以下、$(X,A)$ を CW複体 とその部分複体の対とし、$k\ge0$ について
$$
X_k:=X^k\cup A\qquad(X_{-1}:=A)
$$
とおく($X^k$ は $k$ 次元骨格)。$X\setminus A$ の $k$ 胞体 $e$ ごとに特性写像 $\Phi_e\colon D^k\to X_k$ を一つ固定し、接着写像を $\varphi_e:=\Phi_e|_{S^{k-1}}\colon S^{k-1}\to X_{k-1}$ と書く。$X_k$ は $X_{k-1}$ に $X\setminus A$ の $k$ 胞体を貼った空間であり、写像 $X_k\to Y$ が連続であることは、$X_{k-1}$ への制限と各 $\Phi_e$ との合成が連続であることと同値である(CW複体 の定理「胞体ごとの判定」)。
各 $k$ について $D^k$ の向きを固定し、その基本類 $[D^k]\in H_k(D^k,S^{k-1})$ の境界を $[S^{k-1}]$ とする。整数係数の特異ホモロジーで
$$
C_k(X,A):=H_k(X_k,X_{k-1}),\qquad d_k:=j_{k-1}\circ\partial_k\colon C_k(X,A)\to C_{k-1}(X,A)
$$
と定める。ここで $\partial_k\colon H_k(X_k,X_{k-1})\to H_{k-1}(X_{k-1})$ は対の完全列の連結準同型、$j_{k-1}\colon H_{k-1}(X_{k-1})\to H_{k-1}(X_{k-1},X_{k-2})$ は自然な写像である。$C_k(X,A)$ は $[e]:=(\Phi_e)_*[D^k]$($e$ は $X\setminus A$ の $k$ 胞体)を基底とする自由アーベル群である。アーベル群 $G$ に対し、$C^k(X,A;G):=\mathrm{Hom}(C_k(X,A),G)$ の元を $k$ 次元胞体コチェインといい、$\delta c:=c\circ d_{k+1}$ でコバウンダリを定める。$\delta c=0$ となる $c$ をコサイクル、$\delta b$ の形の元をコバウンダリといい、その商を $H^k_{\mathrm{CW}}(X,A;G)$ と書く。
$C_k(X,A)$ が自由であることと $d_{k}\circ d_{k+1}=0$ は 胞体ホモロジー の記事が扱う($\partial_k\circ j_k=0$ が対の完全列の隣り合う 2 つの写像だからである)。$H^k_{\mathrm{CW}}(X,A;G)$ は特異コホモロジー $H^k(X,A;G)$ と同型である。$A=\emptyset$ の場合が Hat02 Theorem 3.5(p. 203)であり、一般の対は、$X/A$ の胞体が $X\setminus A$ の胞体と 1 つの $0$ 胞体からなることと、同型 $H^k(X,A;G)\cong\tilde H^k(X/A;G)$(同書 p. 202)から従う。以下の定理はすべて胞体コホモロジーで述べるので、この同型は使わない。
$n\ge2$ とし、$Y$ を単連結な空間とする。基点を気にしない写像 $S^n\to Y$ のホモトピー類の集合 $[S^n,Y]$ は、$\pi_1(Y)$ が自明なので $\pi_n(Y)$ と自然に一対一に対応する(Hat02 Proposition 4A.2、p. 422)。以下この対応で両者を同一視し、定値写像の類が $0$ である。
$n\ge2$、$Y$ を単連結な空間とし、連続写像 $f\colon X_n\to Y$ をとる。$X\setminus A$ の $(n+1)$ 胞体 $e$ について $f\circ\varphi_e\colon S^n\to Y$ の類を対応させて線形に延ばした
$$
c(f)\in C^{n+1}(X,A;\pi_n(Y)),\qquad c(f)([e]):=[f\circ\varphi_e]
$$
を $f$ の障害コチェインという。
特性写像 $\Phi_e$ を $\Phi_e\circ\theta$($\theta$ は $D^{n+1}$ の同相写像)に取り替えると、$[e]$ と $[f\circ\varphi_e]$ はどちらも $\theta|_{S^n}$ の写像度 $\pm1$ 倍になるので、$c(f)$ は変わらない。$Y$ が $(n-1)$-連結なら、$c(f)$ が特性写像の選び方によらないことは prop-obs-cocycle の 1 の式からもわかる。
骨格ごとに写像を延ばしていくと、$n+1$ 次元の胞体 $e$ へ延ばすには、境界の球面の像 $f\circ\varphi_e$ が $Y$ の中で縮むことが必要十分である。縮まない胞体の上には $\pi_n(Y)$ の「障害」が残る。障害コチェインはこの値の一覧であり、$c(f)=0$ ならそのまま延びる。
$c(f)\ne0$ でも、$f$ を $n$ 胞体の内部で動かせば障害を変えられる。$n$ 胞体 $e'$ の内部に $\pi_n(Y)$ の元 $\alpha$ を「つまみ込む」と、$e'$ を境界にもつ $(n+1)$ 胞体の障害は、接続数の分だけ $\pm\alpha$ ずつ変わる。この変化はちょうどコバウンダリ $\delta$ の形をしている。だから、$n$ 胞体の内部を取り替える自由度を割った量、つまり障害コサイクルのコホモロジー類だけが本質的な障害になる。
$f\colon X_n\to Y$ が $X_n\cup e$ へ延びることと $c(f)([e])=0$ は同値である。したがって $f$ が連続写像 $X_{n+1}\to Y$ に延びることと $c(f)=0$ は同値である。
要点:球面からの写像が円板へ延びることと、定値写像とホモトピックであることは同値である。
$f$ が $X_n\cup e$ へ延びることは、$f\circ\varphi_e$ が $D^{n+1}$ への連続写像に延びることと同値である(貼り合わせの定義)。写像 $\psi\colon S^n\to Y$ が $\Psi\colon D^{n+1}\to Y$ に延びれば、$H(x,t):=\Psi((1-t)x)$ が $\psi$ から定値写像へのホモトピーである。逆にホモトピー $H\colon S^n\times I\to Y$ で $H_0=\psi$、$H_1$ が定値なら、$\Psi((1-t)x):=H(x,t)$($x\in S^n$)は $t=1$ の点でつぶれる商写像 $S^n\times I\to D^{n+1}$ を経由して連続写像を定め、$\psi$ の延長になる。よって延長の存在は $[\psi]=0$ と同値である。すべての $(n+1)$ 胞体へ延ばせれば、胞体ごとの判定により貼り合わせた写像 $X_{n+1}\to Y$ は連続である。$\square$
値域が $(n-1)$-連結なら、障害コチェインはホモロジーで書ける。ホモトピー群 の命題「Hurewicz準同型」により、$n\ge2$ で $Y$ が $(n-1)$-連結なら Hurewicz 準同型 $h\colon\pi_n(Y)\to H_n(Y)$、$h([\psi])=\psi_*[S^n]$ は同型である。$h(\psi)$ は基点を動かすホモトピーで変わらないので、基点を気にしない写像についても同じ式が使える。
$n\ge2$ とし、$Y$ を $(n-1)$-連結な空間、$f\colon X_n\to Y$ を連続写像とする。
1:$(n+1)$ 胞体 $e$ について、境界準同型の自然性から $\partial_{n+1}[e]=\partial(\Phi_e)_*[D^{n+1}]=(\varphi_e)_*[S^n]$ である。よって $f_*\partial_{n+1}[e]=(f\circ\varphi_e)_*[S^n]=h([f\circ\varphi_e])$ となり、両辺は基底の上で一致する。
2:$\delta c(f)=c(f)\circ d_{n+2}=h^{-1}\circ f_*\circ\partial_{n+1}\circ j_{n+1}\circ\partial_{n+2}$ である。$H_{n+1}(X_{n+1})\xrightarrow{j_{n+1}}H_{n+1}(X_{n+1},X_n)\xrightarrow{\partial_{n+1}}H_n(X_n)$ は対 $(X_{n+1},X_n)$ の完全列の隣り合う 2 つの写像なので $\partial_{n+1}\circ j_{n+1}=0$ であり、$\delta c(f)=0$ である。
3:ホモトピックな写像はホモロジーに同じ写像を誘導するので、1 の式から従う。$\square$
$X\times I$ には、$X$ の胞体 $e$ と $I$ の胞体 $\{0\},\{1\},(0,1)$ の積を胞体とする CW 構造を入れ、$A\times I$ を部分複体とする。$e$ が $k$ 胞体のとき、$e\times\{i\}$ の特性写像を $\Phi_e$ と包含 $x\mapsto(x,i)$ の合成、$e\times(0,1)$ の特性写像を $\Phi_e\times\mathrm{id}_I\colon D^k\times I\to X\times I$($D^k\times I\cong D^{k+1}$ は、$D^{k+1}$ の向きが $D^k$ の向きと $I$ の向きの積の向きに対応するようにとる)とし、生成元を $[e\times i]$、$[e\times I]$ と書く。$I$ の胞体鎖で $d[I]=[1]-[0]$ とすると、積の胞体鎖の境界は
$$
d[e\times I]=(d[e])\times I+(-1)^k\bigl([e\times1]-[e\times0]\bigr)
$$
を満たす(Hat02 Proposition 3B.1、p. 269。$(d[e])\times I$ は $d[e]=\sum_ia_i[e_i]$ に対する $\sum_ia_i[e_i\times I]$)。この式は上の向きの規約のもとで成り立ち、thm-obs-difference の 1 の符号もこの規約で決まる(同相 $D^k\times I\cong D^{k+1}$ の向きを逆にとると、$[e\times I]$ と $d(f,g)$ が $-1$ 倍になる)。
$(X\times I,A\times I)$ の相対骨格は $(X\times I)_n=X_n\times\{0,1\}\cup X_{n-1}\times I\cup A\times I$ である。
$f,g\colon X_n\to Y$ が $X_{n-1}$ の上で一致するとする。$F\colon(X\times I)_n\to Y$ を
$$
F(x,0):=f(x),\qquad F(x,1):=g(x)\quad(x\in X_n),\qquad F(x,t):=f(x)=g(x)\quad(x\in X_{n-1})
$$
で定め(3 つの閉集合の上で一致するので連続)、
$$
d(f,g)\in C^n(X,A;\pi_n(Y)),\qquad d(f,g)([e]):=(-1)^n\,c(F)([e\times I])
$$
を $f$ と $g$ の差のコチェインという。
$c(F)([e\times I])$ は、$D^n\times I$ の境界の球面の下の面に $f\circ\Phi_e$、上の面に $g\circ\Phi_e$、側面に $f\circ\varphi_e$ を置いた写像の類である。側面をつぶして見れば、2 つの半球面に $f\circ\Phi_e$ と $g\circ\Phi_e$ を置いた球面の写像であり、$f$ と $g$ が胞体 $e$ の上でどれだけ食い違うかを測っている。
$n\ge2$ とし、$Y$ を $(n-1)$-連結な空間とする。
1:$e$ を $X\setminus A$ の $(n+1)$ 胞体とする。$F$ の定義から $c(F)([e\times0])=[f\circ\varphi_e]=c(f)([e])$、$c(F)([e\times1])=c(g)([e])$ である。$(X\times I,A\times I)$ に prop-obs-cocycle の 2 を使うと $c(F)\circ d=0$ なので、積の境界の公式から
$$
0=c(F)\bigl((d[e])\times I\bigr)+(-1)^{n+1}\bigl(c(g)([e])-c(f)([e])\bigr)
$$
となる。左辺第 1 項は $(-1)^n d(f,g)(d[e])=(-1)^n\,\delta d(f,g)([e])$ なので、$(-1)^n$ を掛けて $\delta d(f,g)([e])=c(g)([e])-c(f)([e])$ を得る。
2:要点:$n$ 胞体の内側の小さな円板に $\pi_n(Y)$ の元をつまみ込む。
$D^n$ 上の連続写像 $r\colon D^n\to D^n$ を、$|x|\ge\tfrac12$ で $r(x):=(2|x|-1)x/|x|$、$|x|\le\tfrac12$ で $r(x):=0$ と定める。$r$ は $S^{n-1}$ の上で恒等写像であり、$(x,t)\mapsto(1-t)x+tr(x)$ は $S^{n-1}$ を止めた恒等写像から $r$ へのホモトピーである。$X\setminus A$ の各 $n$ 胞体 $e$ について $y_e:=f(\Phi_e(0))$ とおき、写像 $a_e\colon(D^n,S^{n-1})\to(Y,y_e)$ を一つとる。$D^n/S^{n-1}\cong S^n$ により $a_e$ は $\pi_n(Y,y_e)\cong\pi_n(Y)$ の元 $[a_e]$ を定め、すべての元がこの形で現れる。
$G_e\colon D^n\to Y$ を、$|x|\ge\tfrac12$ で $G_e(x):=f(\Phi_e(r(x)))$、$|x|\le\tfrac12$ で $G_e(x):=a_e(2x)$ と定める($|x|=\tfrac12$ ではどちらも $y_e$)。$G_e$ は $S^{n-1}$ の上で $f\circ\varphi_e$ に等しいので、$X_{n-1}$ の上で $f$、各 $n$ 胞体の上で $g\circ\Phi_e:=G_e$ とおけば、胞体ごとの判定により連続写像 $g\colon X_n\to Y$ が定まる。
$d(f,g)([e])$ を計算する。$S:=\partial(D^n\times I)$ とし、$F\circ(\Phi_e\times\mathrm{id})|_S$ を $\Theta$ と書く。$a_e$ を定値写像 $y_e$ に取り替えた $G_e^0=f\circ\Phi_e\circ r$ に対する同じ写像 $\Theta^0$ は、$D^n\times I$ 上の写像 $(x,t)\mapsto f(\Phi_e((1-t)x+tr(x)))$ に延びるので $[\Theta^0]=0$ である。$\Theta$ と $\Theta^0$ は上の面の小円板 $B:=\{|x|\le\tfrac12\}\times\{1\}$ の外で一致し、$\Theta^0$ は $B$ の上で定値 $y_e$ である。$B$ の境界をつぶす写像 $S\to S\vee(B/\partial B)$ を合成すれば、$\Theta$ は $\Theta^0$ と $a_e(2\,\cdot)$ の和として $S\vee S^n$ を経由するので、$[\Theta]=[\Theta^0]+\varepsilon[a_e]=\varepsilon[a_e]$ となる。ここで $\varepsilon\in\{\pm1\}$ は、$B$ の向き($D^n$ の向き)と $S$ の向き($D^n\times I$ の向きの境界)の比較で決まる符号で、$n$ だけによる。したがって $d(f,g)([e])=(-1)^n\varepsilon[a_e]$ であり、$[a_e]:=(-1)^n\varepsilon\,b([e])$ となる $a_e$ を選べば $d(f,g)=b$ となる。$\square$
$n\ge2$ とし、$Y$ を $(n-1)$-連結な空間、$f\colon X_n\to Y$ を連続写像とする。次は同値である。
2 ⇒ 1:$c(f)=\delta b$ となる $b\in C^n(X,A;\pi_n(Y))$ をとる。thm-obs-difference の 2 により、$X_{n-1}$ の上で $f$ と一致する $g\colon X_n\to Y$ で $d(f,g)=-b$ となるものがある。同定理の 1 により $c(g)=c(f)+\delta d(f,g)=\delta b-\delta b=0$ なので、prop-obs-cellwise により $g$ は $X_{n+1}$ へ延びる。この延長は $X_{n-1}$ の上で $f$ に等しい。
1 ⇒ 2:$G\colon X_{n+1}\to Y$ が $f|_{X_{n-1}}$ の延長だとし、$g:=G|_{X_n}$ とおく。$g$ は $X_{n+1}$ へ延びるので prop-obs-cellwise により $c(g)=0$ であり、$g$ と $f$ は $X_{n-1}$ の上で一致するので、thm-obs-difference の 1 から $c(f)=c(g)-\delta d(f,g)=\delta\bigl(-d(f,g)\bigr)$ となる。$\square$
結論が $f$ 自身ではなく $f|_{X_{n-1}}$ の延長について述べていることに注意する。$f$ を $n$ 胞体の内部で取り替えることを許してはじめて、コチェインの条件 $c(f)=0$ がコホモロジー類の条件に弱まる(ex-obs-sphere-structure)。
値域が $(n-1)$-連結なら、$A$ 上の写像は $X_n$ まで必ず延び、最初の障害は延長の選び方によらない。
$n\ge2$ とし、$Y$ を $(n-1)$-連結な空間、$\phi\colon A\to Y$ を連続写像とする。
1:$X\setminus A$ の $k$ 胞体($k\le n$)の接着球面は $S^{k-1}$ で、$k-1\le n-1$ なので $\pi_{k-1}(Y)=0$ である。Eilenberg–MacLane空間 の補題「胞体ごとの延長」を CW 対 $(X_n,A)$ に使えばよい。
2:$f,f'$ を 2 つの延長とする。CW 対 $(X_{n-1}\times I,\ X_{n-1}\times\{0,1\}\cup A\times I)$ の上の写像を、$X_{n-1}\times\{0\}$ で $f$、$X_{n-1}\times\{1\}$ で $f'$、$A\times I$ で $\phi(a)$ と定める。残りの胞体 $e\times(0,1)$ は次元 $k+1\le n$ なので、1 と同じ補題によりホモトピー $H\colon X_{n-1}\times I\to Y$ に延び、$H$ は $A$ の上で動かない。Whiteheadの定理 の命題「CW 対のホモトピー拡張性質」を対 $(X_n,X_{n-1})$、$G_0:=f'$、逆向きのホモトピー $H(x,1-t)$ に使うと、$f'$ とホモトピックで $X_{n-1}$ の上で $f$ と一致する $f''$ が得られる。prop-obs-cocycle の 3 により $c(f'')=c(f')$、thm-obs-difference の 1 により $c(f'')-c(f)=\delta d(f,f'')$ である。よって $[c(f')]=[c(f)]$ である。
3:$o(\phi)=0$ なら、thm-obs-main により $f|_{X_{n-1}}$ が $X_{n+1}$ へ延び、これは $\phi$ の延長である。逆に $\Phi\colon X_{n+1}\to Y$ が $\phi$ の延長なら、$f:=\Phi|_{X_n}$ は 1 の延長で、prop-obs-cellwise により $c(f)=0$、よって $o(\phi)=0$ である。
4:仮定から $X_{n+1}=X$ なので 3 から従う。$\square$
$n\ge2$、$X=D^{n+1}$、$A=S^n=\partial D^{n+1}$ とし、$X\setminus A$ を 1 つの $(n+1)$ 胞体とする。$Y=S^n$ は $(n-1)$-連結で、$\pi_n(S^n)\cong\mathbb{Z}$ は写像度で与えられる(ホモトピー群 の例「球面自身」)。写像度 $k$ の $\phi\colon S^n\to S^n$ について $X_n=A$、$c(\phi)([e])=k$ である。$X\setminus A$ に $n$ 胞体がないのでコバウンダリは $0$ だけであり、$o(\phi)=k\in H^{n+1}_{\mathrm{CW}}(D^{n+1},S^n;\mathbb{Z})\cong\mathbb{Z}$。thm-obs-primary の 4 により、$\phi$ が円板全体へ延びるのは $k=0$ のときに限る。$k=1$ の場合が「球面は円板のレトラクトでない」という主張である。
$n\ge2$ とし、$D^{n+1}$ に $0$ 胞体 $e^0$($S^n$ の 1 点)、$n$ 胞体 $e^n$($S^n$ の残り)、$(n+1)$ 胞体 $e^{n+1}$ からなる CW 構造を入れ、$A=e^0$ とする。恒等写像 $f\colon X_n=S^n\to S^n$ は $c(f)([e^{n+1}])=1\ne0$ なので円板へ延びない。一方、$d_{n+1}[e^{n+1}]=\pm[e^n]$ なので $\delta\colon C^n\to C^{n+1}$ は同型であり、$H^{n+1}_{\mathrm{CW}}=0$、とくに $[c(f)]=0$ である。thm-obs-main が保証するのは $f|_{X_{n-1}}$($1$ 点への定値写像)の延長であって、$f$ 自身の延長ではない。
$\mathbb{CP}^2$ は $\mathbb{CP}^1\cong S^2$ に 4 胞体を 1 つ貼った CW 複体で、接着写像は Hopf 写像 $\eta\colon S^3\to S^2$ である(Hopf写像 の命題「射影直線としての表示」、Hat02 Example 0.6、pp. 6–7)。$X=\mathbb{CP}^2$、$A=\mathbb{CP}^1$、$Y=S^2$、$\phi=\mathrm{id}$ とすると $X_3=A$ で、prop-obs-cellwise により、$\phi$ が延びる(すなわち $\mathbb{CP}^1$ が $\mathbb{CP}^2$ のレトラクトである)ことと $[\eta]=0\in\pi_3(S^2)$ は同値である。
ところがレトラクション $\rho\colon\mathbb{CP}^2\to\mathbb{CP}^1$ はない。$H^*(\mathbb{CP}^2;\mathbb{Z})\cong\mathbb{Z}[\alpha]/(\alpha^3)$($\deg\alpha=2$)であり(カップ積 の例「代表的なコホモロジー環」)、包含 $i$ は $H^2$ の同型を誘導する。$\rho\circ i=\mathrm{id}$ なら $\rho^*u$($u$ は $H^2(S^2)$ の生成元)は $i^*\rho^*u=u$ を満たすので $\pm\alpha$ であり、$\rho^*u\smile\rho^*u=\alpha^2\ne0$ となるが、左辺は $\rho^*(u\smile u)=\rho^*(0)=0$ である。よって $[\eta]\ne0$、すなわち Hopf 写像は定値写像とホモトピックでない。ここで $Y=S^2$ は $2$-連結でないので、thm-obs-main ではなく 1 胞体ずつの判定だけを使っている。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| $n\ge2$ | トーラス $T^2$、$A=S^1\vee S^1$(1 次元骨格)、$Y=S^1\vee S^1$、$\phi=\mathrm{id}$、$n=1$ | ホモロジーで書いた障害(prop-obs-cocycle の 1 の式)が $0$ なら延びる |
| $Y$ が $(n-1)$-連結 | $n=3$、$X=D^3$、$A=S^2$、$Y=S^2$、$\phi=\mathrm{id}$ | $\phi$ は $X_n$ に延びる(thm-obs-primary の 1) |
| 胞体の次元が $n+1$ 以下 | $n=2$、$X=D^4$、$A=S^3$、$Y=S^2$、$\phi=\eta$ | $o(\phi)=0$ なら $X$ 全体に延びる(thm-obs-primary の 4) |
どの行も、外す条件以外の仮定は満たされている。
1 行目:$T^2$ は $S^1\vee S^1$ に 2 胞体を語 $aba^{-1}b^{-1}$ に沿って貼ったもので、$Y=S^1\vee S^1$ は弧状連結である。$H_1(Y)\cong\mathbb{Z}^2$ への像は $a+b-a-b=0$ なので、prop-obs-cocycle の 1 の式で定めたコチェイン $f_*\circ\partial$ は $0$ である。しかし $\pi_1(S^1\vee S^1)$ は $a,b$ で生成される自由群で(Eilenberg–MacLane空間 の注意「引用する事実」の (b))、$aba^{-1}b^{-1}\ne1$ なので接着ループは縮まず、prop-obs-cellwise と同じ理由で $\phi$ は延びない。Hurewicz 準同型 $\pi_1\to H_1$ が単射でないことが原因である。
2 行目:$S^2$ は $1$-連結だが $2$-連結でない。$X_3=X=D^3$ で、恒等写像 $S^2\to S^2$ が $D^3$ へ延びないことは ex-obs-degree($n=2$、$k=1$)である。
3 行目:$S^2$ は $1$-連結で、$X\setminus A$ は 1 つの 4 胞体だけなので $X_2=X_3=A$、$C^3(X,A)=0$ より $o(\eta)=0$ である。一方、$\eta$ が $D^4$ へ延びることは $[\eta]=0$ と同値で(prop-obs-cellwise の証明)、ex-obs-cp2 により $[\eta]\ne0$ である。2 段目より上の障害(ここでは $\pi_3(S^2)$ に値をもつもの)が残っている。
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